デズモンド・モリス「マンウォッチング」 小学館 1980 | 日々是本日

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 ここのところ、若い頃に集めた資料の整理を進めている。

 

 前回の記事ではデズモンド・モリスの「アニマルウォッチング」を取り上げた。

 

 デズモンド・モリスさんはイギリスの動物学の大家で、日本では「裸のサル」(原著1967年、邦訳1969年)の著者としてご存知の方も多いことだろう。

 その後、1980年に出版されたこの「マン・ウォッチング」も人気を博したようである。

 

マンウォッチング―人間の行動学

 

 

 1991年に新書版の小学館ライブラリーで上下巻が出版されている。
 

 

 

 2007年には文庫版も出版された。

 

 

 小学館ライブラリー版の目次は以下の通りで、これはモリスが考えるところの、注目すべき人間行動のリストであると見ることができよう。

 

【目次】 ※小学館ライブラリー版より

 

<上巻>
・動作
・ジェスチャー
・ジェスチャー変異-基本ジェスチャーの個人的、地方的変異
・多義ジェスチャー-文脈によって異なる多くの意味を持ったジェスチャー
・名残ジェスチャー-発生したときの状況がすでになくなったジェスチャー
・方言信号-限られた地理的範囲でしか通じない信号
・バトン信号-ことばのリズムを強調する動作
・肯定・否定の信号-肯定・受諾、否定・拒絶を示す方法
・凝視行動-じっと見る目、ちらりと見る目
・挨拶ディスプレイ-歓迎と送別
・姿勢反響-友人は無意識に同じ動作をする
・結合サイン-個人的関係を示すあらゆる動作
・身体接触接合サイン-2人が人前で接触し合う仕方
・自己接触行動-自分を慰める動作
・非言語的漏洩-思わず内心を漏らす手がかり
・矛盾信号-相反する2つの信号
・不足信号-ふつうの強さのレベルに達しない信号
・過剰信号-反応しすぎる時
・地位ディスプレイ-社会的序列を示す方法
・なわばり行動-限られた領域の防衛
・障壁信号-社会から身を守る動作
・防御行動-危険に対する反応

<下巻>
・服従行動-攻撃者をなだめる方法
・宗教的ディスプレイ-想像上の神を慰める動作
・利他的行動-自己犠牲で他人を助ける方法
・闘争行動-人間の戦いの生物学
・勝利のディスプレイ-勝者の祝いと敗者の反応
・瞳孔信号-瞳孔の大きさは気分の変化を表す
・意図運動-意図を知らせる信号
・軽蔑信号-不敬と侮りを表す方法
・威嚇信号-なぐらずに脅す試み
・わいせつ信号-性的軽蔑のシンボル
・タブー・ゾーン-触れてはならない身体部位
・過剰露出信号-エチケットという障壁を突き破ること
・着衣信号-保護、慎み深さ、ディスプレイとしての着衣
・身体装飾-社会的な装飾
・性別信号-男らしさ、女らしさの信号
・身体的自己擬態-身体の一部の他の部位へのコピー
・性信号-人の求愛行動
・親信号-父母の愛情のメッセージ
・幼児信号-親をひきつけ世話と保護を引き起こすような信号
・メタ信号-信号の解釈を方向づける信号
・超正常刺激-自然の機能やディスプレイや特徴の人為的増幅の結果
・スポーツ行動-現代の狩猟様式

 

 「アニマルウォッチング」の目次と見比べてみる。

 

【目次】
はじめに●動物を観察する楽しみ
1 シマウマにはなぜ稿があるか●動物に関する「なぜ」の意味
2 群れる●動物の社会的組織
3 逃げる●捕食者から逃れるテクニック
4 防御の鎧●何を身にまとうか
5 カムフラージュ●存在をいかにして隠すか
6 警告の信号●この恐ろしいおれにさわるな
7 化学兵器●毒を使って身を守る
8 はぐらかし●偽の目玉で敵をあざむく
9 驚かす●こけおどしの効用
10 死に真似●死んだふりして死を免れる
11 捨て身の防衛●小を捨てて大をとれ
12 おとり行動●子を守る親の危険な賭け
13 モッピング●動物の世界のギャングたち-
14 食物発見法●何をどう食べるか
15 おびき寄せ ●甘い餌で獲物を釣る
16 料理行動●動物たちの食物調理法-
17 食物の貯蔵●どのように隠し、貯えるか
18 助け合い●もちつもたれつ
19 水を飲む●水を手に入れる努力
20 共食い●なぜ仲間を食べるのか
21 道具を使う●道具を使うのは人間だけではない
22 葛藤行動●行動に表れる動物たちの悩み
23 行動の「典型的強度」●動物の行動のデジタル性
24 表情●表情の行動学
25 闘争●何を守るための争いか
26 降参●服従となだめの効果
27 求愛●口説くとはどういうことか
28 レックとアリーナ●集団求婚の冷たい掟
29 受精と配偶●体外受精から交尾まで
30 巣作り●家作りの技術。
31 子育て●育児法さまざま、
32 遊び●その重要な役割
33 身づくろい●お化粧でもエチケットでもなく
34 眠る●もっとも神秘的な動物行動

 

 「アニマルウォッチング」のトピックが個体の生存と子孫を残すことに寄与する行動が大半を占めているのに対して、「マンウォッチング」では社会的な行動と様式化された行動が大半を占めている。

 

 この社会的な行動と様式化された行動こそ、ヒトを人間たらしめている特徴ではないかと思われる。

 

 我々が我々自身の行動の意味を知るための良書である。

 

 さて、私の専門は心理学であるので、今回も心理学の観点で一歩踏み込んで、「闘争行動-人間の戦いの生物学」の章からの引用で記事を終わりたいと思う。

 

「爆弾の破壊力は、世界を事実上縮小させ、国家間の争いを白兵戦のレベルにまで低下させるほど強大である。こうして再び、攻撃衝動は、武器を使用しない戦争の場合と同じように、ただちに攻撃者に大きな恐れを喚起させることになる。しかし、悲しいかな、人間の闘争史におけるこの新たな転換は、核戦争の可能性を完全に無くしたのではなく、単にその確率を低めたにすぎない。」(小学館ライブラリー版 下P52-53)

「闘争という問題を、その本来の姿である個人的ないさかいの手段の極端な形として考え直すことによってのみ、われわれは、戦場における人間の無統制な野蛮さが、動物に見られる節度ある戦闘へと変わる希望をもてるのである。」(小学館ライブラリー版 下P55)

 

 

※デズモンド・モリスの書誌情報のサイトとしては下記が充実していたので、こちらも参照されたい。