コンラート・ローレンツ「ソロモンの指輪」 早川書房 1987 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 ここのところ若い頃に集めた資料の整理をしているので、前回前々回はデズモンド・モリスの本を紹介しだ。

 

 動物行動関連ファイルの整理がやっと終わったので、最後はコンラート・ローレンツの「ソロモンの指輪」を取り上げねばなるまい。

 

   ▼早川書房1987版

ソロモンの指環―動物行動学入門

 

 コンラート・ローレンツは鳥類の「刷り込み」(孵化直後に見た動くものを親と認識する本能行動)の発見でノーベル賞を受賞した動物行動学者である。

 

 ローレンツは自身でも多数の動物を飼いながら生活していて、その体験を交えて語られる話はどれも実に楽しく読める名著である。

 

 まず、この1947年に書かれた原著の前書きを読むだけでも、科学者の目線の背後に据えられた愛のある眼差しが真っ直ぐに伝わってくる。

 

 動物の話を書くときにも、厳密な科学論文の場合と同様に、ひたすら事実に忠実であるほうが、適切でさえあると思う。なぜなら、生ある自然の真実はつねに愛すべき、畏敬に満ちた美しさをもっており、人がその個個の具体的なものを奥深くきわめればきわめるほど、その美はますます深まってゆくものだからだ。(中略) 行動の研究には、生きている動物と直接に親しむことが要求されるとともに、人なみはずれた観察の苦労が要求される。動物にたいする理論的興味だけでは、この苦労にはとうていうち勝てない。もし愛がなかったら、人間と動物の行動になにか共通のものがあると感じるだけにとどまり、それを明確につかみとることはできないのだ。

(早川書房1987版 p5-6 より引用)

 

 若い人にもお勧めしたい一冊である。

 

 さて、この本の最後の章は「モラルと武器」というタイトルで同じ種での争いについて書かれている。

 

 そして、最後に語られるのはヒトである。

 

 動物行動学の名著はやはり人間の闘争行動に触れずには終わらないのであり、私の専門は心理学であるのでやはりこの箇所を引用して終わるのである。

 

 ある種の動物がその進化の歩みのうちに、一撃で仲間を殺せるほどの武器を発達させたとする。そうなったときの動物は、武器の進化と平行して、種の存続をおびやかしかねないその武器の使用を妨げるような社会的抑制をも発達させばならなかった。(中略)ある社会的動物がもつその種特有の遺伝的な衝動・抑制の体系と武器の体系とは、自然からひとまとめにして与えられたものであって、慎重に選ばれた自律的な完全さをそなえている。 すべての動物を武装してきた進化的な過程は同時にまたその衝動と抑制をも発達ざてきた。なぜならば、ある動物の体の構造ブランと、種に特有な行動様式の遂行プランとは、一つのものであるからだ。
 自分の体とは無関係に発達した武器をもつ動物がたった一ついる。したがってこの動物が生まれつきもっている種特有の行動様式はこの武器の使いかたをまるで知らない。武器相応に強力な抑制は用意されていないのだ。この動物は人間である。彼の武器の威力はとどまるところなく増大していく。十年とたたぬうちに、その威力は何倍にもなる。だが生まれつきの衝動と抑制が生ずるには、ある器官が発達するのと同じだけの時間がいる。それは地質学者や天文学者が常用する膨大な桁の時間であって、歴史学者の時間ではない。われわれの武器は自然から与えられたものではない。われわれがみずからの手で創りだしたのだ。武器を創りだすことと、責任感、つまり人類をわれわれの創造物で滅亡させぬための抑制を創りだすことと、どちらがより容易なことだろうか? われわれはこの抑制もみずからの手で創りださねばならないのだ。なぜならわれわれの本能にはとうてい信頼しきれないからである。

(早川書房1987版 P233-234  より引用)

 

 

▼早川書房1975版

 

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