できれば本に埋もれて眠りたい -27ページ目

相変わらすだけど期待のもてる絲山 秋子

海の仙人
絲山 秋子
海の仙人
1億円が当たった主人公はアパートを買い福井の海辺で過ごしています。
そこに突然神様らしきモノが現れ、奇妙な同居生活が始まり
偶然の出会いや旧友との再会など、物語が動き出します。

独特の登場人物の内面から少し距離をおいた筆致
男と女の恋愛感情になりきらない関係
役立たずだけど愛らしい神様という「ファンタジー」な設定

人の心など他人には窺い知れず、求めても手に入れないもの、
というところから人の内面にはあえて踏み込まない
、など絲山 秋子らしさが随所にあり、独特の静けさが印象的ですが、淡々とした文章の割にはイベントを盛り込みすぎでしょうか。ちょっと書きたいこととストーリーのバランスが取れていません。

海の仙人」を読むと「沖で待つ 」がうまくかけているのが分かります。


しかし絲山 秋子徳大寺さんと対談するぐらいの車好きとは知りませんでした。

絲山 秋子
スモールトーク

この本のなかで営業車に対するエッセイが、車好きっぽく興味がもてました。
自分好みに新車の営業車を仕立てる話しなぞは、車への愛にあふれています。

海の仙人」でも妙に車が浮いていましたが、なんだか納得できました。
海の仙人」だけではしっくりきませんが、絲山 秋子の成長の過程が感じられただけでもよかったです。
ニート」、機会があれば読もうと思います。

と書いたあといろいろ調べていたら、絲山 秋子HP を発見しました。

うーん、こういうのを読むとついつい応援したくなってしまいます。
頑張って時代小説書いてみてください。

目次まとめ

SPA!で文芸対談はどうなの?

暴論 これでいいのだ!

坪内 祐三, 福田 和也
暴論・これでいいのだ!
SPA!誌上での福田和也と坪内祐三との2002.06~2004.09の対談、というより放談をまとめたもの。
話題は政治経済芸能となんでもありですが、基本は文芸。
二人とも文芸評論家だけあって最後は文芸系でまとめるのですが、SPA!読者にどれだけウケているかはどうなのでしょうか。
まぁ、主戦場以外でもウケてこそ一人前、ということなのでしょうか、なかなか頑張っています。

毎回対談場所をかえて対談しているので色々勉強になるのですが、行ってみたいなと思ったのが、御茶ノ水の山の上ホテルのビアガーデン。ビアガーデンがあるなんて知りませんでした。

読みどころは、第129回芥川賞予想とその結果、それと文学フリマのあたりでしょうか。
芥川賞は「作家の力量で取れると思っているのか」「興行的に甘い」的な発言もあり大森・豊崎組より言いたい放題です。

なんといっても本の話も多く出るので、勝手な暴論を笑える余裕があれば、本探しのためにも一見の価値ありです。

私はこれを読んで本田宗一郎の自伝を読みました。

育児書エトセトラ、まあこれも泥縄ですかね

怒濤の泥縄サッカー本も終わり、次のシリーズは『育児書』です。
世には育児書が溢れていますが、なかなかこの1冊、というものも見つかりません。
成長年代別に現在の体と心の状態がどうで何を必要としているか最新の医療情報と現場から知恵を紹介、みたいな本があればいいのですがもちろんそんな本は見つかりません。しょうがないので色々興味本位で手当りしだい眺めているのでそのうちいくつかを紹介します。


●はじめて出会う 育児の百科
汐見 稔幸, 榊原 洋一, 中川 信子
はじめて出会う育児の百科 0~6歳

こういう辞書みたいな本は1冊は欲しいですね。
年代別に体や心のアウトラインが説明してあり、両親へのアドバイスものっています。
絵もかわいいので女性も読む気になりそうです。
それに赤ちゃんが自分の言葉で現状報告もあります。
「ぼくはまだ目が良く見えないんだよ。でもお母さんの声は分かるの。だから優しく話しかけてね」的な感じです。まあ、この部分は好き好きですが。
巻末には病気の紹介もあるのでいざというときのためになります。
辞典的なものの類似書は多くあるので自分にあったものを選べばいいかな。


●子育てハッピーアドバイス
明橋大二
明橋 大二, 太田 知子
子育てハッピーアドバイス

書店でもみかけるのでよく売れているようです。
まんが風に書かれているので非常に読みやすく
「あかちゃんにはできるだけやさしくしてください」
というのが基本方針で、精神科の先生らしく話し方接し方の知恵も多く書かれています。
子供の接し方により、子供の心の成長が大きくかわるのは、当たり前といえば当たり前で、その基本方針や最低限の注意などを教えてくれるのはなかなか有り難いです。

しかし育児方法はよく変わっているようです。
一昔前は、「抱き癖がつく」といって泣いてもあまり抱かない育児法が主流でしたが、今は「だっこされると「自分は大切にされている」と感じます」ということで、いくらでもだっこしてよいとのことです。
まあ、そうかなと思いますが、ずーと泣いているときはずーと抱いていなければいけないのかと、そこら辺は書かれてはいませんでした。
「抱き癖がつく」という言い訳をつけ赤ちゃんを抱かないでいる昔のお母さんの気持ちもなんだかよく分かります。

●お父さんの子育て日記
ジョー・キタ
ジョー キタ, Joe Kita, 高木 圭
お父さんの子育て日記―子どもはお父さんが大好き

アメリカの人気雑誌「メンズヘルス」の人気ライター、ジョーの子育て本です。
いろいろアドバイスというか教訓がかかれているのですが、良きアメリカ人はやっぱりなかなか大変そうです。
もちろんいい話も色々あります。たとえば子供への性の教え方やタイミングに悩んだり(ある本を読ませることで対応していました)、なにかをやめることのアドバイスで悩んだり(子供が習っているスポーツをやめたいといいだしたとき)、子供とのお休みの秘密の握手を共有したりと、内容もオープンで他の育児書にはない話が多く出ています。
このあたりはなかなか面白いのですが、「宗教を離れてみれば神はとても面白い」「やはり、神は存在する」と宗教の話を入れなければいけないのはやはりアメリカ(というより日本以外全部?)ならではでしょう。
それ以外にも、筆者は子供の誕生を心から喜ばなかったという罪悪感にも悩まされています(家族至上主義の影響でしょうか。あまりこのことについて悩む人を日本人ではしりません)。


●子育て40の対話
河合隼雄
河合 隼雄
Q&A こころの子育て―誕生から思春期までの48章

箱庭治療で世界的な権威で、一般にも人気のある心理学者、河合隼雄の子育て相談本です。
さすが百戦錬磨の心理学者です。
質問への明言は避け、自分のフィールドにもっていって答えています。
それはずるいと思いながらも感心したのは、どんな回答にも使えるのですが、
「親のカンを磨かなきゃ」といっていることです。
同じことやっても叱るのか、なにも言わないのか、状況によって変わってきます。
そこを親がちゃんと見極めなければいけない、ということでした。
うーんやっぱり親って難しい。気を引き締めなければ。


●はじめて赤ちゃんにふれるママへ
監修 四宮敬介
造事務所
はじめて赤ちゃんにふれるママへ―赤ちゃん取り扱い説明書
10年も前の本で、よくある育児書なのですが、たぶん監修の方がいいのでしょう。
細かい部分のフックがきいています。

「パパに読んでもらいたいこと」で
1、家の中をきちんとすること
2、サービス精神を発揮すること(ポイントは頼まれなくてもすること)
とありました。

育児書でお父さんへのお願い、とういのはよくあるのですが、一番目に具体的な家の掃除をもってきて、2番目に「頼まれなくてもサービスすること」を持ってくるあたり、なかなか慧眼です。

副題に「取扱説明書」とありますが、たぶん編集者がコンセプトとしてうちだしたのでしょうが、そんなコンセプトなんてどうでもいいぐらいに、より現場に近い小技のきいた面白い本になっています。

いかがだったでしょうか。
まずはこんな感じで、また面白い本が出てきたらご紹介してみます。

おたくの純愛、ではなく友情の 電車男

中野 独人
電車男

いまごろ読んでしまいました、電車男。
いや、でも面白かったです。

話はみなさんもよくご存知でしょう。
秋葉系で彼女いない歴=年令、の「電車男」が、あるとき電車のなかでからまれている女性を助けます。その女性からお礼の品を貰ってから、慌てふためいた電車男が、独身男があつまる2chの掲示板に助けを求めることから始まる恋物語です。

話は単純なのですが、底知れぬ毒舌をもつ2chの住人が、こんな良心を持っているのかと、現代ウェブ風俗が感じられ、下手な文学作品よりも現代を感じさせる作品です。

今までなら作品にならなかったような普通の人の普通の物語も、主役の電車男とエルメスの本当にいい人キャラ、実話なのに適度にきいている小道具、臨場感溢れるテンポのいい2ch風盛り上げ、そして2chの市井に生きる人の曲がってはいるけど気持ちのいい良心を感じることができる、いい作品です。

こんな作品こそ、賞でもあげて後世に2ch風俗書として残すのが、いいのではないでしょうか。

2chはちょっと、という方にこそオススメです。
私がそうだったので。

よく似た二人のはじめての対談

関野 吉晴, 長倉 洋海
幸福論

関野吉晴氏は「対談のタイトルが『幸福論』ときいて逃げ出したくなった」といっていましたが、まあ確かにそうですね。

南米からアフリカまで人類の拡散した道のりを逆に人力で旅する「グレートジャーニー」で有名な関野吉晴氏と
戦場カメラマンで有名なりその後も興味深い写真を発表している長倉洋海氏の対談集。

長倉洋海氏に興味があり読み始めたのですが、多分この人の有名な写真はアフガニスタンにおける若き主導者マスードの密着ルポではないでしょうか。ほかには各地の子供を撮った写真集もあります。

世界中のローカルな社会を知るこの二人の対談は、興味深くもあり、また逆にそれぞれの多くの地方を知りすぎているので一般化も難しく、『幸福論』のうまい着地地点は見つからないようです。

それでも医師関野がものを貯めない社会であるエチオペアのコエグにいった時、医療活動をしてもまったく感謝されず、それはできるひとがやることがその社会では当たり前だからだそうで、なかなか興味深い話だと思いました。もちろん、村に入ってすぐに蜂蜜のたっぷり入った瓢箪をもらっているのですが。

やっぱり対談は、しっかりと言いたいこと伝えるのは難しいですね。
この二人についてもう少し他のものも読んでみたいと思います。

なんて贅沢な作品なんでしょう

世界の川を旅する
野田知佑
野田 知佑, 藤門 弘
世界の川を旅する

カヌーエッセイストの野田さんの初期傑作「日本の川を旅する 」から数十年、年を経て「世界」に漕ぎ出た作品です。

得意の北米から、歴史溢れるヨーロッパのアイルランド/アイスランド/イタリア、熱帯のタイ/フィジー/コスタリカ、アウトドア先進国のニュージーランド、オーストラリア、辺境モンゴル/パタゴニア、と世界中を漕ぎ下っています。

前にも書きましたが、1か所に付き大判の本で16pと実にふんだんに素材を使っています(普通の旅行作家なら、1国1冊は書ける内容)。

そして写真に添えられた短文もいい。
本文も良い。
そのなかで気に入った一文。

「ここには文明の便利さや快適さ、肉体的安楽は皆無だが、自由はふんだんにある。それは山の中でのたれ死に、雪の中で凍え死ぬ自由でもある。手で触れるとヒリヒリとするような自由だ」

全部面白そうな場所でしたが、特に面白そうだったのをいくつか。

●アイルランド。
いまでも土と神話の匂いがするこの国は人々も血が通っていて面白く、高低差のないゆったりとした川を下りパブに入り、村の人々に話をきくと日に1ー2度はパブにくるとのこと。そこに老酔漢がやってきて「日本人だって?よくぞイギリスをやっつけてくれたな。日本軍がプリンスオブウエルーズを撃沈したときは思わず乾杯したぜ」だって。
ほかにも雨の中川岸で釣りをしている老人に「雨の日も釣りですか」話し掛けると「ここの雨はすぐやむ。寒くなったらウィスキーを飲めばいい」とのこと。
英語を勉強して(なまりはきついらしい)遊びに行きたくなりました。

●ニュージーランド。
自分の土地にカヌーでしかいけない絶壁の川をみつけ、宿を経営するようになった話がありました。どれだけ土地があまっている国なんでしょう。

●オーストラリア。
灼熱のLand of Never-Neverという灼熱地帯の川を下る。水浴びをしながらの旅。川には普通にワニがいて、あるところでガイドが「漕げ、急げ」と怒鳴る。しばらくしてガイドにきくと「目に見えた訳じゃないが、感じだ。あの崖の下の所で何かとても無気味な感じがした。俺はああいう感覚は発達しているんだ。あそこには絶対大きなワニがいたな」
なるほど、そういう部分が必要とされる職もあるんですね。

どの国も魅力的なのですがこのぐらいで。
写真付き旅行本はやっぱり大判がいいですね。中古でもいいから手に入れたい本の一つになりました。

人をねっとりと賞味する


山田 詠美
風味絶佳

山田詠美は完全に食わず嫌いで1冊も読んでいませんでしたが(アクが強くて恋愛至上主義との思い込み)、各所で「質が高い」と話題なので、読み始めました。

久しぶりに異質な小説でした。

「肉体の技術をなりわいとする人々」を描いてみたい、とのことで、普段自分の世界にいない人々を描くために、登場人物をとことん好きになって好きになって、そして嫌いになって好きになって、「好き、嫌い、という言葉が、登場人物の風味を咀嚼する音に変わったのだった。思う存分味わった。そして、後味に残ったのは、彼らの人生の余韻。」そんなことが後書きに書いてありました。

小説自体は、葬儀関係、ゴミ清掃、汚水槽清掃、引っ越し、ガソリンスタンドなどに関わる人々の短編集です。

職自体は物語の背景で、その周囲の小世界について丁寧に描かれています。

どこにも辿り着かないような濃密な小世界で、成長したり成長しなかったり、袋小路の希望を持ったり救いのある絶望に直面したり、趣向にとんだ小さな物語繰り広げられます。そんな風景を味わう小説です。

山田詠美にとっては変化球の作品かもしれませんが、ベテランの技が冴える(平均点が高く、得意技(偏向した恋愛の濃密な描写)をもっている)作品でした。

ちなみにたいとるは「ふうみぜっか」でグリコのキャラメルからきています。

シリーズものは作家のために

金城 一紀
SPEED
表紙に小さくThe Zombies Seriesと銘打ってあるように、『レヴォリューションNo.3 』『フライ、ダディ、フライ 』に続く、作戦隊長の南方や特攻隊長の朴などの高校生集団ゾンビーズが繰り広げる、気持ちのいい冒険物語です。

今回は女の子が主人公。
尊敬する家庭教師が大学で謎の自殺。
家庭教師の友人に会いにいき、「私、なんで自殺したかしっているんです」といった帰り道、暴漢に襲われます。そこに偶然助けに入ったのがゾンビーズ、ということでいつもの調子で、小気味良く話が進んでいきます。

1作目『レヴォリューションNo.3 』は、駄目駄目3流高校生がいかにして有名女子高の学園祭に突入するかという青春物語で、その中で「殺しても死なない奴」ということでゾンビーズを名乗ります。

2作目『フライ、ダディ、フライ 』は娘が高校生に襲われ、その高校生に正々堂々と復讐を遂げる中年のおっさんをサポートする「ダディ,フライ,ダディ」。

そして3作目という訳ですが、この本だけ読んでも楽しめるようになっていますし、要所要所で前作を読んでいる人はニヤリとさせられる場面も盛り込まれています。

南方は作戦立案と渉外、朴は武闘教育、絶世の美男子アギーも登場しますし、山下にはいつもの用にわけもなく災難が降り注ぎます。

しかし、これだけのキャラのたった物語の金脈を彫り掘り当てたのに、金城一紀は、随分と簡単なミステリーにしあげてしまいました。ゾンビーズシリーズは、抑制の効いたかっこつけかたやそこはかとなくにおう文学の香りなど全体的なトーン、個性的な登場人物などとても好きなのですが、この話ではちょっと、という人も多いのではないでしょうか。

3作めといえば基礎固めに大作を持ってきて完全シリーズ化して、その他に作者が書きたいものをかけるような体制を整えた方がよかったのでは、と考えてしまいます。

次作を期待、しかし要注意、というリストにいれようかと思います。

金城 一紀
レヴォリューションNo.3
金城 一紀
フライ、ダディ、フライ
金城 一紀
レヴォリューション No.3
金城 一紀
フライ,ダディ,フライ

職人村上龍

村上 龍
半島を出よ (上)
村上 龍
半島を出よ (下)

最近サッカー本ばかり読んでいる中で、村上龍もしっかり書いているなぁ、と思い、ならば話題作を、ということで手にした本。


あらすじは、北朝鮮の部隊が日本に上陸して福岡ドームを占拠。その後日本に12万人の北朝鮮の部隊が来ることになるが、日本政府は事態を打開できず、周辺国も経済力の弱った日本に協力せず。

そこで、偶然福岡にいた社会と上手く関われない危険な若者が集う場所があり、それぞれの毒生物・ビル構造・戦争戦略武器・爆破などの専門性を利用して、北朝鮮に立ち向かう。


結局村上龍のいいたいことは「日本には危機感が足りない」ということです。


それだけの内容のためにこれだけ多くの情報を小説の形にして(韓国で脱北者のインタビューもしている)、最後まで一気に読ませる面白いストーリーにするのは、本当に偉い。


龍さん、あんたのいいたいことはもう、よく分かっているから」といってしまうのは簡単ですが、めまいがするほどの細部の積み上げをここまできっちりできるのは作家は稀有なのではないでしょうか。


実際、ふと「今北朝鮮軍が日本に侵攻したらどうなるんだ」と電車の隣に立っている人の顔を覗き込むようなリアリティを感じました。実際日本海の小島を占拠されたら日本は何もできない、と書いてあるのも肯けるような気がしますし。


ワンアイディアと多くの情報を読ませる小説に仕上げる職人、なんだかバブリーなイメージが付きまとう村上龍ですが、今後は職人として認識するようにします。


一歩間違えると、できのいいゴルゴ13になってしまいそうな気もしますが。