とにかく、錆びることなどとは無縁のニール・ヤング(Neil Young)の発掘音源シリーズ(The Neil Young Archives)の一つ、未発表ライヴ音源シリーズ(the Archives Performance Series)の第4番目のリリース、『Tuscaloosa』を聴いています。
このシリーズでは、1968年から92年までの間のライヴ音源が合計14作品に分けてリリースされる予定ですが、シーケンシャルにはリリースされておりません。 そのため、この作品はVolume.04としてリストアップされてはいましたが、時系列的には、Volume.07 の『Songs for Judy 』(関連するブログはこちら↑↓)に続く10作目として、この6月7日(日本国内は6月26日)に発売されました。
そして、この6月21日には生涯を通じての最大の理解者であった、マネージャーのエリオット・ロバーツ(Elliot Roberts)が76歳で亡くなりました。 50年来の友人でもあったエリオットの訃報を受けて、自身のウェブサイト(この辺です!!)でコメントを載せています。
また、以前購読した回顧録『Waging Heavy Peace』の中では、41章「Friends for Life」を設けて、エリオットのことについて4ページ程を割いて言及しています。
”Elliot Roberts, play such a large part in everything I am doing that it makes more sense to say what we are doing! (中略) That is why I consult with my Wise Counselor on every thing. We fight. We argue. We laugh. We cry.”と綴っています。
1972年2月にリリースされてヒットチャートを席巻した、モンスター・ヒット・アルバム『Harvest』を引っさげての全米ツアー、”TIME FADES AWAY”ツアーの一夜のライヴを捉えた内容になります。 この時期は、ニールにとっては”暗黒の時代”と言われています。
人生で最も不幸な時とは本人の弁ですが、良き相棒であったクレイジー・ホース(Crazy Horse)のダニー・ウィットン(Danny Whitten)をドラッグ禍で亡くし、また、決して望んではいなかったトップ・アーティストの仲間入りを果たして、制約の多い自由度のない毎日を送ることになり、ストレスとフラストレーションは溜まる一方となっていました。 更には、愛用していたギター、Old Black (1953 Gibson Les Paul Goldtop)が壊れてしまい、代わりに引っ張り出してきたギブソン・フライングV(Gibson Flying V)がチューニングが安定せず、イラついていたそうです。
バックバンドのメンバーはと言えば、『Harvest』のレコーディングで集められたストレイ・ゲイターズ(The Stray Gators)の面々であり、セッション・ワークをこなしてきた凄腕のメンバーと云うことで、スキル面では何の問題もないはずであった。 ところが、ナッシュビルで活躍していたセッション・ドラマーであったケニー・バットリー(Kenny Buttrey)から、ツアー・リハーサルに拘束されることにより発生する補償として10万ドル(現在の物価に換算すると57万ドル)を請求され、その話が他のメンバーにも波及して険悪な雰囲気が蔓延したツアーとなったようである。
サウンド・チェックでとうとうブチ切れたニールがケニー・バットリーを解雇して、後釜にジョニー・バルバータ(Johnny Barbata)を呼び寄せて、その後もツアーは継続して行った。
ニール・ヤング本人の弁を借りると、”キャリア最悪のツアー”と呼んでいるそうである。
この音源の貴重さは、全て未発表曲で占められていた73年リリースの『Time Fades Away』と同時期のライヴ・ツアーの全容を明らかにするものであり、客観的に再評価できる貴重な材料となっている。1973年2月5日、アラバマ州タスカルーサのアラバマ大学での公演の模様である。 勿論、ライヴ・ステージを完全にパッケージ化したものではなく、大体20曲程度演奏していた中から11曲がセレクトされている。
ミキシング担当のジョン・ハンロン(John Hanlon)に拠れば、このテープ自体がショーの全容を完全には録音できておらず、且つ、演奏自体に問題の多い曲(このライヴでは、”The Loner”)や、他の音源と重複するような曲(”On The Way Home”)を落とした結果として11曲になったと言うことである。
この『Tuscaloosa』は、あまりにも低い評価のまま隅に追いやられている『Time Fades Away』の続編と言う捉え方も出来ますが、アイデア倒れに終わってしまった唐突な存在のアルバムの謎が解けるような気がするのは私だけでしょうか??
1973年と云う時代に、全曲未発表曲のライヴ盤を発表すると言う”前代未聞”の挙に出るのはやはり”行き過ぎ”(斬新)だったのでしょうね?!
□ Track-listing *****;
1."Here We Are In the Years" 3:56
2."After the Gold Rush" 4:42
3."Out On the Weekend" 5:29
4."Harvest" 4:14
5."Old Man" 4:17
6."Heart of Gold" 3:48
7."Time Fades Away" 6:10
8."Lookout Joe" 4:59
9."New Mama" 3:01
10."Alabama" 3:50
11."Don't Be Denied" 8:09
□ Personnel;
Neil Young – vocals, guitar, piano, harmonica
The Stray Gators
Ben Keith – pedal steel, slide guitar, vocals
Jack Nitzsche – piano, vocals
Tim Drummond – bass
Kenny Buttrey – drums
Engineering and production
Neil Young, Elliot Mazer – production
John Hanlon – mixing
Chris Bellman – mastering
Joel Bernstein – photos
冒頭の2曲は、ギターの弾き語りで”Here We Are In the Years”(1stソロアルバム『Neil Young』収録)、そして、ピアノに移り”After the Gold Rush”を演奏して、ストレイ・ゲイターズ(The Stray Gators)がステージに登場します。 70年リリースですが良い曲ですね、あらためて。
そこから、モンスター・ヒット・アルバム『Harvest』の楽曲を5曲立て続けに演奏して行きます。
”Out On the Weekend”の出だしのトーンと言うか、アコギのイントロからスタートするグルーヴで、このアルバムの空気感があっという間に場内を支配して行くように感じます、最高です!!(何かこの場所にいるような感覚になりました・・・・。)
そして、ドラマーの叩き出すスネアの音一発で曲のトーンが決まる、そんな瞬間ですねー。
□ ”Out On the Weekend” by Neil Young and The Stray Gators;
次の曲に行く前に、バンド・メンバーの紹介になります。ティム・ドラモンド、問題児のケニー・バトラー、ジャック・ニッチ(ニッチェとは発音してませんネ!)、ベン・キースの順です。
□ “Harvest” by Neil Young and The Stray Gators;
そして、“Harvest”が始まります。 ゆったりとしたグルーヴ感はそのままに、アコースティックなナンバーが続きます。
“Old Man”、そして、お待ちかねの“Heart of Gold”(孤独の旅路)が演奏されて行きます。
□ “Old Man” by Neil Young and The Stray Gators;
演奏もヴォーカルも素晴らしくて、”キャリア最悪のツアー”とはとても思えない出来です。
□ “Heart of Gold” by Neil Young and The Stray Gators;
この後には、当時は未発表曲であった“Time Fades Away”や、次作に当たる75年リリースの『 Tonight's theNight 』に収録される“Lookout Joe”や“New Mama”が続きます。この2曲は本ツアー終了後にレコーディングされています。ここでは、ベン・キースがスライド弾いています。
□ “New Mama” by Neil Young and The Stray Gators;
そして、何というかこの地で歌詞が際ど過ぎる“Alabama”を演ると言うニールの心意気、敢えてなのか、自然体なのか、少し冷汗が出て来そうです。
□ “Alabama” by Neil Young and The Stray Gators;
『After the Gold Rush』に収録されていた“Southern Man”の続編とも言える楽曲で、アメリカ南部での人種差別を歯に衣着せぬ言葉で非難しています。白いガウン(See the old folks tied in white robes)という言葉は、スリーK(Ku Klux Klan)を指している訳です。 この一律的な、アメリカ南部に住む全ての人達を人種差別者と決めつけた表現が、多くの憤りを産んだのです。
ここ何年間か『ハーヴェスト』関係の記録映像が表に出てきている。直近で公開されものは、ヤングが8月に自分のアーカイヴ・ウェブサイトに投稿した動画で、アルバム制作とストレイ・ゲイターズのメンバー全員が既に他界している悲しい事実を記したエッセイも一緒に公開した。彼は「かつての友人たちが懐かしい。彼ら全員が亡くなってしまったが、彼らがまだこの地球上にいたときに、私と共に作った美しい音楽だけは残っている。彼らと知り合えたこと、そして彼らと一緒に音楽を作れた私は本当に幸運だった」とエッセイに書いている。
この内容をニール本人が気に入らなかったという事ですが、演奏自体はとても素晴らしく、お蔵入りさせ理由が分かりません。 当時の自身を取り巻く状況がそうさせただけでしょうね、多分?!
そして、最近ニールが投稿したエッセイには、このストレイ・ゲイターズのメンバー全員が既に鬼籍に入ってしまったことに触れています。 当時は色々と軋轢があった訳ですが・・・・・、
「かつての友人たちが懐かしい。彼ら全員が亡くなってしまったが、彼らがまだこの地球上にいた時に、私と共に作った美しい音楽だけはずっと残っている。 彼らと知り合えたこと、そして、彼らと一緒に音楽を創れた私は本当に幸運だった!! 」と・・・・・。
ホント発掘されて良かったとしか言えません。
□ “Don't Be Denied" by Neil Young and The Stray Gators;
この『Tuscaloosa』が先にリリースされることになったので、日本のファン待望の76年3月に行われた初来日ライヴである、クレージー・ホース(Neil Young & Crazy Horse)を引き連れた 『Odeon-Budokan March 1976』の発売が延期されてしまいました。 ただただ、待つしかありません・・・・・。
私自身は熱狂的なニールのファンではありませんが、自伝である『Waging Heavy Peace』を読んでから妙に彼に惹かれる面があるのです。 だからか、このブログでも付かず離れず取り上げて来ました。