Neil Young 『On the Beach』 | Music and others

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夏が来れば、自然と毎年のように繰り返して聴きなおすアルバムが幾つかあります。 毎年同じ趣向と言う訳ではありませんが・・・・・。
 
昨年はビーチ・ボーイズ三昧でしたが、その前の年はライ・クーダー祭り、更にその前はボブ・マーリーだったような。
 
こんな書き出しで始めて、エリック・クラプトン(Eric Clapton)が74年にリリースした劇的な復活作、『461 Ocean Boulvard』を取り上げました。 (そのブログはこちら↓↑
そして、もう1枚、ジャケットのイメージが夏を連想させるアルバムがあります。こちらは、次回に紹介してみます。
 
NY-On-the-Beach-00
 
 
 
 
そう述べたアルバムが、このニール・ヤング(Neil Young)の5枚目のスタジオ・アルバム、『On the Beach』です。
 
ニール本人が名付け親の、”Ditch Trilogy”(Ditch Quadrilogyどぶ板4部作?!)と呼ばれる
     Time Fades Away
     On the Beach 
     Tonight's the Night
     Zuma
の第2作目として、74年7月にリリースされました。 レコーディングの時期から言えば、本来は『Tonight's the Night』(邦題は、”今宵その夜”)が先なのですが、その内容にリプリーズ・レコーズが難色を示してしまいリリースを拒否したのです。 その結果、『On the Beach』が5枚目のアルバムとして先に世に出ることになりました。
 
また、このアルバムはCDリリースがなかなか行われず、2003年になってようやく登場しました。おそらく、ニール自身が気に入っていない作品ゆえに難色を示したのでしょうね。自らが制作しておいて、それはないですよね。
 
アルバム・タイトル、そしてジャケットのアート・ワークからすれば、夏にピッタリなサウンドが想像されます。 しかしながら、実際には、ジャケットに描かれた様な青い空とビーチが想像出来る内容では全くありません。 ”厭世的”であり、かなり”ペシミズム”(pessimism)に満ち溢れたサウンドと歌詞で、決して明るい気分にさせてくれる訳ではありません。
 
それでも、このアート・ワークが大好きで、LP時代には部屋にディスプレイしていました。
 
海辺に佇むニールのそばには、カラフルなパラソル、そして、アメ車のキャデラックを想起させる“テイルフィン”を持つ車が埋まっているのです。とても比喩的な情景が描かれています。 
 
これは、アルバム・タイトルと同名のSF小説、ネヴィル・シュート・ノーウェイ(Nevil Shute Norway)により57年に発表された、『On the Beach』をモティーフにした事は間違いないでしょう。第3次世界大戦による核攻撃で人類が滅亡して行く様子を淡々と描いていたと記憶しています。
 
 
□ Tracking List *****
1."Walk On"
"See the Sky About to Rain"
3."Revolution Blues"
4."For the Turnstiles"
5."Vampire Blues"
6."On the Beach"6:59
7."Motion Pictures"
8."Ambulance Blues"
 
All tracks written by Neil Young.
 
□ Personnel;
  Neil Young – vocals & guitars on #1, #3,  #5, #6, #7 & #8; harmonica on #2, #7 & #8; Wurlitzer electric piano on #2; banjo  on #4; electric tambourine on "#8
  Ben Keith – slide guitar,&vocal on #1, steel guitar on #2; Wurlitzer electric piano on #3; Dobro&vocal on #4; organ,vocal,& hair drum on #5; hand drums on #6; bass on #7 & #8
  Rusty Kershaw – slide guitar on #7; fiddle on #8
  David Crosby – rhythm guitar on #3
  George Whitsell – guitar on #5
  Graham Nash – Wurlitzer electric piano on #6
  Tim Drummond – bass on "#2, #5 & #6; percussion on #5
  Billy Talbot – bass on #1
  Rick Danko – bass on #3
  Ralph Molina – drums & vocal on #1; drums on #5 & d#6; hand drums on #7 & #8
  Levon Helm – drums on "#2 & #3
 
ダニー・ウィッテン(Danny Whitten)と、信頼の厚かったローディー、ブルース・ベリー(Bruce Berry)のヘロインのオーヴァードーズによる相次ぐ死と言う衝撃を引きずり、他方では、『Harvest』の大ヒットによりスターダムに登りつめて、自由気ままな生活からストレスだらけの毎日を送らざるを得なくなった自身の心情がストレートに表れていると思います。 
 
 
Tonight's the Night』の収録曲を全曲演奏すると云う驚愕のツアーをスタートさせ、その終盤に、ツアー・メンバーであるサンタ・モニカ・フライヤーズ(The Santa Monica Flyers)と共にスタジオに入ります。 この当時のライヴは、2018年4月にアーカイヴ・シリーズの一環としてリリースされました。タイトルは、『Roxy: Tonight's the Night Live』ですが、この『On the Beach』の中の楽曲も演奏されています。
 
NY-Tonight's-the-Night-10
 
 
楽曲ごとに様々なミュージシャンが参加しており、アレンジの骨格だけ決めてレコーディングに入りラフなまま仕上げたと云う感じで、念入りなオーヴァーダブは加えられていません。意図的にそうしたと言うよりも、当時の気分がそのまま反映された産物だと思います。
 
 
アルバム出だしの”Walk On”は、ありがちなガレージ・ロックです。一見ポジティヴで吹っ切れたようなビートに乗せて歌われます。 でも、歌詞の内容は、おそらく音楽業界の人達に対する皮肉に満ちており、自身を納得させるかのように、”Walk on ”(歩き続けるんだ!)と繰り返しています。 自身の心情を思い切り吐露するようなこの歌詞、ストレートで分かり易いですね。
 
□   " Walk On"  by Neil Young

 

 

 
 
     I hear some people been talkin' me down,
     Bring up my name, pass it 'round.
     They don't mention happy times
 
     They do their thing, I'll do mine.
     Ooh baby, that's hard to change
 
     I can't tell them how to feel.
     Some get stoned, some get strange,
     But sooner or later
     it all gets real.
 
     Walk on, Walk on, Walk on, Walk on,
 
 
     自分がどんな気分なのかを連中に伝えることが出来ない
     ある者は薬でぶっ飛んでいるし、ある者はおかしくなっている
     でも、遅かれ早かれ、全てが現実となるんだから
 
     歩き続けるんだ、前を向いて歩き続けるんだ、歩き続けるんだ、前を向いて歩き続けるんだ
 
 
 
 
2曲目の”See The Sky About To Rain”は、個人的には非常の好きな楽曲の一つですね、”Cowgirl in the Sand”と同じ位に。 2曲共に、再結成したバーズ(The Byrds)による最期のアルバム、73年3月リリースの『Byrds』で先行してカヴァーされています、ニールのことをとても評価していたジーン・クラーク(Gene Clark)がヴォーカルを取っています。
 
     Some are bound for happiness,
     Some are bound to glory
     Some are bound to live with less,
     Who can tell your story?
 
ウーリッツァのエレピが導く旋律に乗せて、美しく切ないメロディーが響き渡ります。雨が降り出しそうな空模様、平原の中をひた走る列車、行く先に待っているのは幸福、栄光、なけなしの生活、虚脱感しかないような暗い詩ですね。
 
□   " See The Sky About To Rain"  by Neil Young

 

 

 
 
 
□   " See The Sky About To Rain"  by The Byrds

 

 

 
 
Revolution Blues”は、”Blues”と云うタイトルが付く3曲の中の1曲です。 ザ・バンド(The Band)のリズム隊の前のめりなバッキングを受けて、ニールの泣きのギターが炸裂しています。 ギターリフまで、ロビー・ロバートソン(Robbie Robertson)の様な雰囲気が漂い、過激な歌詞の内容を反映したサウンドになっています。
 
□   " Revolution Blues"  by Neil Young

 

 

 
 
 
自身が住んでいたトパンガ・キャニオン(Topanga Canyon)で実際に出会ったチャールズ・マンソン(Charles Manson)が起こした猟奇的事件に触発されて、作られた楽曲です。 タイトルとは裏腹に、ライフル銃やカービン銃と言う単語と共に、ローレルキャニオンに住むきらびやかなスター達を忌み嫌い卑下する表現があります。
 
 
 
 
過激な楽曲の後に続くのは、ニールの弾くバンジョーとベン・キースによるドブロギターとのデュオと言うシンプルなサウンドです。 この”For The Turnstilles”は、カントリー・ブルースの形式を録っています。歌詞がかなり比喩的に表現されており、何が言いたいのか一筋縄では行きません。 レコード・レーベルに対する批判、嫌悪感を込めているように聴こえます。
 
 
そういった気持ちに”とどめ”をさすのが、2曲目になるブルーズ、”Vampire Blues”(吸血鬼ブルーズ)です。自身のことを、比喩的に“吸血鬼”と”黒い吸血こうもり”だと歌っています。これは、ニール自身が継続的に取り組んできた、環境汚染の元凶とも言える石油産業を痛烈に皮肉っているものだと思います。
 
□   " Vampire Blues"  by Neil Young

 

 

 
 
タイトル曲の”On The Beach”は、形式を変えた重苦しいブルーズと言えます。延々と厭世的な気分が歌われている憂鬱な曲です。“on the beach”というワードは、歌詞の後半に一度だけ出て来ますが、大した意味は持ちません。 
 
アートワークと同じようにシュールな歌詞が続きます・・・・・。
 
     I went to the radio interview,
     but I ended up alone at the microphone,
     I went to the radio interview,
     but I ended up alone at the microphone.
 
     ラジオ局のインターヴューに呼ばれて出かけたけれど、
     マイクロフォンの前に一人きりで待たされたままだ
 
Now I'm livin' out here on the beach,
but those seagulls are still out of reach.
I went to the radio interview,
but I ended up alone at the microphone.
 
この海辺に生き延びて来たけれど、かもめには手が届かない
 
     Get out of town, think I'll get out of town,
     Get out of town, think I'll get out of town.
     街を出るんだ、そう街から出て行くんだ
 
I head for the sticks with my bus and friends,
自分のバスに友人達を乗せて、何もない片田舎に行こう
 
     I follow the road, though I don't know where it ends.
     Get out of town, get out of town, think I'll get out of town.
     道をひたすら進むけれど、一体何処に続くのかわからない
     街を出るんだ、そう街から出て行くんだ
 
'Cause the world is turnin', I don't want to see it turn away.
世界は変わっている、そんな変わり果てた姿を見たくない
 
この時期に行われたCSN&Y(Crosby, Stills, Nash & Young)の再結成ツアーの最中には、この曲は頻繁に演奏されましたが、75年以降は殆どセットリストに挙がることがなくなりました。 ライヴでの演奏が聴いてみたいですね。
□   " On The Beach"  by Neil Young

 

 

 
 
なお、先日アップしたブログ、ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)のルーツ探訪3部作の最終章となるアルバム、その名もズバリの『Out Of the Blues』(こちら↑↓)に、この曲の秀逸なカヴァーが収められています。 後は、ニールヤング好きのラディオヘッド(Radiohead)のトム・ヨーク(Thom Yorke)が2003年12月のBBCライヴでカヴァーしています。
 
 
 
 
"Motion Pictures"は、70年頃から5年間に亘り、伴侶として生活を共にし長男ジーク(Zeke)を設けた女優のカリー・スノッグレス(Carrie Snodgress)のことを取り上げた楽曲です。
 
 
 
 
最後を飾る曲、”Ambulance Blues”は、9分にも及ぶ長尺の曲です。取り留めのない歌詞が次々と吐き出されています。 60年後期に音楽活動を続けていた、カナダはトロントのヨークヴィル(Yorkville)の実在したコーヒーハウス、リヴァーボート(the Riverboat)に想いを馳せ、時代の移り変わりを感じています。 様々なミュージシャンが出演し、そこだけ魔法のような空間になって行った頃を懐かしんでいるようですね。 
 
 
そうかと思えば、37代大統領のリチャード・ニクソン(Richard Nixon)を切り捨てています。
     I never knew a man could tell so many lies
     He had a different story for every set of eyes.
 
また、再結成したCSN&Y(Crosby, Stills, Nash & Young)の全く酷いライヴ・ステージの模様を皮肉ってみたりと、非常に”あからさま”に心情を吐露しています。
     And there ain't nothin' like a friend
     Who can tell you
     you're just pissin' in the wind.
 
但し、この曲のメロディーは、無意識の内に大好きだったバート・ヤンシュ(Bert Jansch)の初期の名曲、”Needle Of Death”を引用していたことを後日認めています。
 
□   " Ambulance Blues"  by Neil Young

 

 

 

枯れること、錆びることとは無縁なニール・ヤング、72歳にして何処へ行くのだろうか?

 

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