『461 Ocean Boulevard』 | Music and others

Music and others

偏愛する音楽、Fashion、Macintoshと日々の雑感

夏が来れば、自然と毎年のように繰り返して聴きなおすアルバムが幾つかあります。 毎年同じ趣向と言う訳ではありませんが・・・・・。
 
 
 
461OceanV-01
 
 
昨年はビーチ・ボーイズ三昧でしたが、その前の年はライ・クーダー祭り、更にその前はボブ・マーリーだったような。 決して、サザン・オールスターズとか、チューブなんてことはありませんが。
 
今年は、エリック・クラプトンEric Clapton)がヘロインの深い闇の中から舞い戻ってきて、マイアミに渡り制作した劇的な復活作、『461 Ocean Boulvard』です。 翌75年にも続けてリリースされた次作品、『There's One in Every Crowd』(邦題;安息の地を求めて)と併せて、ほぼ毎日のように聴いています。
 
そして、もう1枚、ジャケットのイメージが夏を連想させるアルバムがあります。こちらは、次回に紹介してみます。
 
さて、このアルバム・タイトル、『461 Ocean Boulvard』ですが、周知のようにレコーディング中に滞在したコテージがあった住所をそのまま借用したものです。(現在は、建物もなくなり、住所表記も変わってしまっているそうです。)
 
461OceanV-02
 
 
エリック・クラプトンは、過大な期待を背負って誕生した、スーパーグループ、ブラインド・フェイス(Blind Faith)のあっけない空中分解の後、気ままなサイドメンとしての活動を楽しんでいました。 それから、ザ・バンド(The Band)の1stアルバム、『Music From Big Pink』に触発されて、よりダウン・トゥ・アースなスワンプ・サウンドを具現化するために、初のソロ・アルバム、『Eric Clapton』をリリースしたのが70年8月でした。
 
その後に参加した、憧れのDelaney & Bonnie and Friendsで親しくなったボビー・ウィットロックBobby Whitlock)にカール・ラドルCarl Radle)、ジム・ゴードンJim Gordon)が加わり、ある種のマジックが産まれたのです。 更に、壁に突き当たってからは、魂の兄弟ともいえるデュエイン・オールマンDuane Allman)の参加により、一瞬にして化学反応が起きたのです。 デレク・アンド・ザ・ドミノスDerek and the Dominos)の誕生です。
 
素晴らしい内容のアルバムにも拘らず、当時のマーケットやファンからの冷淡な反応、評価に失意の日々を送ることになりました。
 
結果的には、70年6月に結成されたものの71年5月に空中分解してしまい、エリックは長い隠遁生活に入ります。 知られているように、以前より常用していたヘロインの闇の虜になり、周囲からの救いの手により治療施設に入り何とか死の淵から戻ってくるのです。 
 
所属レーベルであったRSОの社長、ロバート・スティッグウッド(Robert Stigwood)やマネージャーのサポートにより、再起を期すためのレコーディングのお膳立てが用意されます。 それが、『Layla and The Other Assorted Love Songs』をレコーディングしたマイアミのクライテリア・スタジオ(Criteria Studios)であり、プロデューサーとしてトム・ダウドTom Dowd)を召喚したのです。
 
1974年4月、クライテリア・スタジオのハウスバンドとのジャム・セッションからスタートしますが、どうもしっくり来るもがなくて、何もケミストリーが産まれませんでした。 そこで、エリックとトム・ダウドは、未完成のままお蔵入りしていた、デレク&ザ・ドミノスの2ndアルバムのセッション音源を聴いて、何かインスピレーションとなるものがないか?模索しますが、期待したものは得られませんでした。 
 
次に、エリックはドミノスでの盟友、カール・ラドル(Carl Radle)が送ってきていたデモ・テープのことを想い出し、聴き直すのです。 その中にあった心地よいグルーヴと柔らかなサウンドに魅かれ、彼らをマイアミに呼び寄せたのです。
 
それから、数週間に亘るジャム・セッションを経て、楽曲としての形を成すものが次々と産まれて行ったのです。
 
461-QUAD-01
 
リリースされてから40数年の時を経て、聴き直してあらためて受ける印象は、リズム・アレンジの妙とドブロがこのアルバムの重要なファクターではないかと言うことです。 そして、カヴァーしている選曲の妙が際立っています。
 
当時は、レイドバックLaid back)と云うワードで括られてしまい、”急がずくつろいで、リラックスして。”と言う辞書的な意味合いから、凄くダルでルーズなサウンドをイメージさせられました。
 
実際には、ドラムやベースなどのリズム楽器がきっちりタイトにリズムを刻み、その上で、リード・メロディ(ヴォーカルやリード楽器)が小節をいっぱいに使ってゆったりと大きくのるサウンドをイメージしています。
 
Give Me Strength The ’74/’75 Recordings』(ブログはこちらになります ↓↑
 
  
 
 
幕開けの“Motherless Children”がアルバムの印象を決定づけています。ブラインド・ウィリー・ジョンソン(Blind Willie Johnson)の物悲しいブルーズが、アップ・ビートで、弾むようなシンコペーションの効いたスライド・ギター・チューンに生まれ変わっています。
 
□   Motherless Children"  by Eric Clapton & His Band

 

 

 
 
□   Mother's Children Have a Hard Time"  by Blind Willie Johnson

 

 

 
 
 
このアレンジは、今は亡きカール・ラドル(Carl Radle)が中心になり考え出したようで、タルサ・トップスによりほぼ原型は出来上がっていたそうです。
 
カール・ラドルに関するブログはこちらです!;カール・レイドルと言うベーシスト(↓↑
 
 
そして、私にとって個人的なセンティメンタリズムとリンクする楽曲、2曲目、“Give Me Strength”ですね。
 
 
□   Give Me Strength"  by Eric Clapton & His Band

 

 

 
 
 この曲もクレジットが二転三転しています。当初はエリックのオリジナルとなっていましたが、後にゴスペル・シンガー兼コンポーザーだったルイーズ・マシューズ(Louise King Mathews)の家族より訴えを起こされてからは、一旦変更されました。1939年に作曲されたその楽曲を聴いたことがないため、何とも言えませんが・・・・・。 ただ、2013年にリリースされた箱、『Give Me Strength: The ‘74/’75 Studio Recordings』でのクレジットは元通り、エリック・クラプトン作となっていますけどね。
 
以前この箱について取り上げたブログです。
『Give Me Strength: The ‘74/’75 Studio Recordings』(↓↑
 
461-QUAD-03
 
 
当時は、ストーンズ(The Rolling Stones)もゼップ(Led Zeppelin)もロッド・スチュワート(Rod Stewart)も同じように楽曲のクレジットを巡って色々と揶揄された時期ではあります。
 
当初は、エリックが60年代に書きかけてそのまま放置していた楽曲を完成させたと説明していましたが・・・・。
 
個人的には、当時付き合っていたガール・フレンドとの遠距離恋愛のやり切れない想いが重なる楽曲です。 情けないことに、?十年経つのに未だに当時のことを思い出します。
 
この曲のバックでドラムスを叩いている人こそ、エリックが長く憧れ続けていたブッカーTとMGs(Booker T. & the M.G.'s)の名手と謳われた、アル・ジャクスンAl Jackson Jr.)その人です。”The Human Timekeeper”とも呼ばれている通り、シンプルではありますが、そのタメのきいたスネア・サウンドは特徴的であり、簡単に真似できるものではありません。 ただ、性格的な部分ではファミリアーな人ではなくてとっつきにくい難しいタイプの人で、エリックも親しげに会話を交わすことは叶わなかったそうです。 39歳の若さで、強盗に銃撃されて命を落としてしまいました(残念です)。
 
 
そして、続く3曲目の”Willie and the Hand Jive”は、オリジナルのボ・ディドリー・ビート(Bo Diddley Beat)を活かし、そこにレゲエ(Reggae)と言うよりはスカ(Ska)風味を混ぜた軽やかなカリビアン風の軽妙な楽曲に仕上げています。
 
 
□   Willie and the Hand Jive"  by Eric Clapton & His Band

 

 

 
 
 
 
□   Willie and the Hand Jive"  by Johnny Otis

 

 

 
 
 
 
更には、そのシンコペートされたリズムをそのまま取り込んだような、よりR&Bっぽい”Get Ready”が続きます。 このアルバム制作時には、バッキング・コーラスは東洋系の血を引くエキゾティックな容貌のイヴォンヌ・エリマンYvonne Elliman)一人でした。 この後のツアー途中で、タルサ・トップスとおなじオクラホマ州出身のマーシー・レヴィ―(Marcy Levy)が参加します。 個人的には、直線的な剛とも言えるハイトーン・ヴォイスが売り物のマーシーよりも、柔らかさとR&Bの匂いがあるイヴォンヌのヴォーカルの方が好みです。
 
 
□ Tracking List *****
1."Motherless Children"     Traditional (Arrangement by Eric Clapton · Carl Radle)
2."Give Me Strength"     Eric Clapton(Louise King Mathews)
3."Willie and the Hand Jive"     Johnny Otis
4."Get Ready"     Eric Clapton · Yvonne Elliman
5."I Shot the Sheriff"     Bob Marley
 
6."I Can't Hold Out"     Elmore James
7."Please Be With Me"     Charles Scott Boyer
8."Let It Grow"     Eric Clapton
9."Steady Rollin' Man"     Robert Johnson
10."Mainline Florida"     George Terry
 
□ Personnel;
  Eric Clapton - Vocals, Guitars, Dobro
  Carl Radle - Bass guitar
  Dick Sims - Keyboards
  George Terry - Guitar, Backing vocals
  Jamie Oldaker - Drums, Percussion
  Yvonne Elliman - Vocals, Guitar
  
  Al Jackson Jr. - Drums on "Give Me Strength"
  Jim Fox - Drums
  Albhy Galuten - Synthesizer, Piano, ARP, Clavichord
  Tom Bernfield – Background vocals
  
  Tom Dowd - Producer
 
 
そして、何と言っても一大シングルヒットとなった、"I Shot the Sheriff"でしょうか? レコーディン途中でサポート・ギタリストとして参加したジョージ・テリー(George Terry)がボブ・マーリーBob Marley and the Wailers)のアルバム、『Burnin'』を持ち込んでいなかったら、このカヴァーは生まれなかったでしょうね。 ルーツ・レゲエに当時拒否反応を示していたエリックの意見が通っていたら、全米No.1のヒットは幻に終わっていた筈です。 後日、このカヴァーを聴いたボブ・マーレ―は非常に気に入っていたそうです。
 
 
 
461-QUAD-02
 
 
そして、B面に移ってからも、非常に統一感のあるサウンドで意匠を凝らしたリズミックな楽曲が続いて行きます。 
 
豪快なスライド・ギターで信奉者の多い、エルモア・ジェイムス(Elmore Jamesの”I Can't Hold Outです。 楽曲自体はオリジナルに忠実なカヴァーと言えます。
 
そして、サザーン・ロック・コンボのカウボーイ(The Cowboy)のオリジナル、とても落ち着きのある”Please Be With Me”が続きます。 71年リリースのオリジナルでは、エリックが魂の兄弟だと称えた亡きデュエイン・オールマン(Duane Allman)がバックで響くドブロ・ギターを担当しています。 その原曲を良さを活かしながら、単なるコピーに終わらないように、そして、エリックは同じようにドブロを弾いています。
 
そして、柔らかなビートで徐々に感情が昂るバラッド、”Let It Grow”です。 この曲、当時はゼップの代表曲で、70年代のアンセムと言われている、あの“Stairway to Heaven”に酷似していると揶揄されました。エリック本人も、いたるところで頻繁に流れていた楽曲ゆえに、知らない内に頭の何処かにメモライズされて、無意識に曲作りに反映したかもしれないと認めています。
 
□   " Let It Grow"  by Eric Clapton & His Band;

 

 
 
 
そして、初めて聴けば、とてもロバート・ジョンスン(Robert Johnson)のブルーズ・ナンバーとは想像つかないであろう曲、”Steady Rollin' Man”に繋がります。 ピアノのイントロから導かれて、シンコペートしたリズムが特徴的なアレンジに生まれ変わっており、学生時代には実際にコピーして何度も演奏しました。 
 
□   Steady Rollin' Man"  by Eric Clapton & His Band

 

 

 

 
□   Steady Rollin' Man"  by Robert Johnson

 

 

 

 

 
この頃、エリック御大は、エフェクターとして盛んにフェイズシフターを使用しており、クライベイビーに替わって多用しています。 意外と新しもの好きな面が見えたりしています。 最後の曲”Mainline Florida”でも、トーキング・モジュレーター(Talking Modulator)に挑戦していますからね。
 
それにしても、エリック・クラプトンがクリスマス・ソングのアルバムをリリースする時代が来るとは、生粋のファンとしては「なんで!? ラスヴェガスでゴージャスなディナー・

 

 

ショーやっているシンガーだった?」と溜息をつくしかありません。 10月12日リリースの『Happy Xmas』ですが、ブルージーなクリスマス・ソングってイヤーな予感がします。
 
※)Eric Clapton Celebrates Christmas With First Full-Length Holiday Album(↓↑