【三橋貴明】法人税増税で投資拡大・経済成長?【高額セミナーの前に】 | 独立直観 BJ24649のブログ

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流行に浮かされずに独り立ち止まり、素朴に真っ直ぐに物事を観てみたい。
そういう想いのブログです。

 昨年11月、三橋貴明の経営者向けの高額セミナーを紹介した(https://ameblo.jp/bj24649/entry-12223078619.html)。

 今年も開講されるが、これとは別に、三橋は他にも高額セミナーを開講する。

 いやはや、大儲けである。

 

 

 

「【第7期】三橋貴明の経済動向塾」 日本経営合理化協会HP

http://jmcasemi.jp/seminar/seminar.php?CONTENT_ID=1295

 

「会期・会場 2018年3月~2019年1月【全6回】」

「定員 40名限定」

「ご参加費用 480,000円(税込)」

 

「《三橋塾長》と行く特別企画 インドネシア視察」 日本経営合理化協会HP

http://jmcasemi.jp/seminar/seminar.php?CONTENT_ID=1296

 

「会期・会場 2018年3月11日(日)~15日(木)【3泊5日間】」

「ご参加費用 【視察旅行代金/羽田発着】
         経済動向塾塾生:60万円
         一般:75万円

 

「三橋貴明 人手不足解消合宿」 「新」経世済民新聞

http://www.38news.jp/sp/mituhashisemi/2018_02.php#top

 

「会期    2018年2月19日~21日」

「定員 限定40名」

「ご参加費用 50万円(税別)」

 

 

 

 忙しい経営者の皆さんは、三橋がどういう経済論を唱えているかをご存じなのだろうか。

 とりあえず、下の三橋ブログ記事を読んでみてほしい。

 法人税に関する論説だ。経営者には関心事だろう。

 これだけの高額の出費だ。出費の前にこれくらいの手間はかけてもよいだろう。

 

 

 

「資本主義と税制~第四の役割について~」 三橋貴明ブログ2017年10月9日

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12317885757.html

 

「 改めて、税金の役割とは何でしょうか。
 わたくしは、税金の役割について、以下の三つで説明しています。

 

● 公共サービスの財源
● 所得再分配
● 景気の変動を抑制するビルトインスタビライザー(埋め込まれた安定化装置)

 

 無論、税金には公共インフラや社会保障、防衛、防災、防犯といった安全保障のための公共サービス支出のための「財源」という役割もあります。デフレ期には、政府は国債を発行し、公共サービスのために支出しても一向に構わないのですが、インフレ期に同じことをやると、さすがに「需要>供給能力」の環境下では、インフレ率が健全な範囲を超えて上昇します。


 所得再分配やビルトインスタビライザーの機能については、これはデフレ期だろうがインフレ期だろうが、極めて重要な税金の機能です。


 社会において所得格差が拡大する、あるいは極端な好景気、極端な不景気が国家のためによろしくないことは、誰にでも理解できます。所得再分配やビルトインスタビライザーとしての税金の機能が、公共サービスの財源という「以上に」重要であることは、否定しがたい事実です。


 そういう意味で、「消費税」という税金は、所得が高い層に軽く、低い層に重く、格差拡大をもたらす逆累進課税であり、かつビルトインスタビライザーの機能が働かない「欠陥がある税金」であることに間違いありません。

 

消費税率引き上げ 自民・公明は必要性強調 野党は凍結など主張
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171008/k10011171871000.html 
 NHKの番組「日曜討論」で、再来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げについて、自民・公明両党が社会保障制度の安定的な財源を確保するため必要だと強調したのに対し、野党側は消費税以外の財源を検討すべきだなどとして、凍結や中止を主張しました。(後略)』

 

 この期に及んで、↑こんな議論をしている与党、野党は、結局、税金について根本を理解していないと思わざるを得ません

 

 社会保障のための安定的な財源が欲しいならば、必要なのは経済成長です。常日頃は「経済成長、経済成長」と言っている与党が、こと消費税については経済成長を「無視」するわけですから、歪んでいるとしか表現のしようがありません。


 さて、税金には公共サービスの財源、所得再分配、ビルトインスタビライザーに加えて、実は四つ目の機能があります。


 それは、経済成長に向けたモチベーション(動機づけ)です


 例えば、法人税や所得税が増税されたら、我々、経営者や日本国民はどう思うでしょうか。


 典型的な「誤ったレトリック」は、
所得税の累進課税のせいで、高所得者が働く気を失う
 あるいは、

「法人税が高いから、企業が投資をしなくなる」
法人税が高いから、企業が外国に出ていく
 といったものです。


 とんでもない。


 累進課税により、「働けば働くほど、税金が増える」状況に陥った国民が何を考えると思いますか。働いても税金で取られるので、働かない。と、思うと思いますか。


 違います。


税金をいっぱい支払わなければならないので、より多額の所得を稼ごう!」
 と、考えるのです。あるいは、企業にしても、法人税の増税で純利益を減らされた場合、
「内部留保としての現預金が貯まらないと不安だ。ならば、今以上に所得(利益)を稼がなければ」
 と、青くなります。

 

 また、ハジュン・チャン教授が明らかにした通り、企業は「ナショナル(国家」)から離れることはできません。法人税の高低に関わらず、企業は最終的には「ナショナル・カンパニー」として、国内で所得を稼ぐ(もちろん、輸出はありですが)しかありません。


 とはいえ、企業や人間一人が稼げる所得には限度があるわけです。生産性の向上が起きない場合は


 というわけで、支払う税金が増えていいく以上、企業は、
とにもかくにも、前年よりも所得(粗利益)を引き上げなければならない
 という、強迫観念の下で皆が仕事をすることになります。当然、生産性向上が可能な投資は惜しみません。


 そして、「需要が存在する」という前提で、生産性の向上を達成すれば、我々は「増え続ける税収」を上回る所得を稼ぐことができ、現預金としての内部留保が増え、同時に政府の財政も改善していくことになるのです。これが資本主義における「経済成長」です


 もちろん、支払わねばならない税金が毎年、増えていくというのはキツイです。何しろ、「安心」の源である預金がなかなか増えません。


 だからこそ、我々は自らの「富=ストック」を何とか蓄積するべく、生産性向上のために努力し、そのための投資を拡大していきます。そして、繰り返しになりますが、それこそが「経済成長」です。


 もちろん、生産性を高めようとしたとしても、十分な需要が存在しないのであれば、意味がありません。と言いますか、需要がない状況で、生産性向上の投資に踏み切る経営者はいません。


 さらに、
「何にもしなくても、法人税減税で純利益が増える」
 といった有様では、企業経営者は「税金が増えるから、売り上げや粗利益を拡大する生産性向上に踏み切らなければならない」といった強迫観念にはかられません。何しろ、何もしなくても純利益や現預金は増えるのです。


 というわけで、改めて安倍政権の財政政策の誤りは、二つ。


 一つ目は、生産性向上をもたらす需要拡大に踏み切らず、緊縮財政路線を採ったこと。特に、需要縮小をもたらす消費税増税に踏み切ったこと。


 二つ目は、企業経営者の投資へのモチベーションをむしろ引き下げる法人税減税を強行したこと。

 

 結果的に、日本国民の実質賃金は2012年から2016年にかけ、5%も下がってしまった。安倍政権の失政により、日本国民は実質値で5%も貧困化した。

 

 普通に働き、税金を支払っているならば、

「所得税を増税すると、働く気がなくなる」

「法人税を引き上げると、企業が外国に出ていく」

 といったレトリックが、単に所得税や法人税を引き下げるトリクルダウン政策であることが分かるはずです。

 

 そして、竹中平蔵氏が断言した通り、トリクルダウンなど起きません

 

 日本国民は、改めて「税金の意味」を考える必要があるのです。

 

「経済成長のための税制を!」に、ご賛同下さる方は、↓このリンクをクリックを!


 

 

 

 三橋がこの記事で述べている理論は、要するに、

法人税を増税すると「「とにもかくにも、前年よりも所得(粗利益)を引き上げなければならない」という、強迫観念」をもって企業は頑張る。

「法人税が高いから、企業が外国に出ていく」というのは「とんでもない」。

 ↓

「生産性向上のために努力し、そのための投資を拡大していきます。」

「それこそが「経済成長」です。」

というものだ。

 つづめれば、「法人税増税で企業をシバけば投資が増えて経済成長する」ということだ。

 経済成長の前提に「需要が存在する」ことを挙げているが、法人税増税に投資促進の効能があるとしているところに特色があるだろう。

 経営者から見てどうだろうか。

 

 

 

 三橋は、ひょっとするとジョセフ・E・スティグリッツ氏あたりを参照しているのかもしれない。

 スティグリッツ氏は「法人税減税は投資拡大には寄与しない。」「減税はネットの資本コストを上昇させ、投資意欲を減退させる!」と法人税減税に懐疑を述べ、そして、「国内での投資や雇用創出に積極的でない企業に対して、法人税を引き上げる方が、投資拡大を促す。」と述べている。(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusaikinyu/dai1/siryou2.pdf[21ページ] 血祭謙之介さん情報https://plus.google.com/u/0/+BJ24649/posts/9fWP5rEgSpa)。

 法人税減税反対の部分については、スティグリッツ氏も三橋も似ているかもしれない。

 しかし、スティグリッツ説では法人税増税の対象が「国内での投資や雇用創出に積極的でない企業」となっている。国内投資・雇用に積極的な企業は増税されないものと解される。他方、三橋説にはそういう区別はなく、国内投資・雇用に積極的な企業であっても増税されるものと解され、両説は異なるものと思われるが、どうだろうか。

 政府は、投資・賃上げに積極的な企業の法人税負担を引き下げる方針だ(下記日経新聞)。どちらかといえばスティグリッツ氏に近いのではないだろうか。投資を促進する減税と言えよう。

 なお、産経新聞は、スティグリッツ氏の提言について、「(法人税)減税で企業に利益はたまりやすくなるが、仕事が増えるわけではないので、経済情勢が先細りであるなら投資や賃上げには二の足を踏みがちになる」と伝えている(http://www.sankei.com/economy/news/160406/ecn1604060002-n2.html)。「経済情勢が先細り」でないなら法人税減税には投資促進効果が期待できるとも考えられそうだが、どうだろうか(投資促進が期待できない場合でも財政上問題ないなら減税した方がよいのではないかとは思う。「必要以上の税を集める事は合法的強盗である」byカルビン・クーリッジ。https://ameblo.jp/khensuke/entry-12178651106.html)。

 ちなみに、法人税を増税すると賃金・雇用の悪化を招くおそれがあることを付け足しておく(下記「マンキュー」)。この認識の有無が、上のスティグリッツ説・三橋説の差に繋がってくるのではないか。三橋は「国民が豊かになる経済」を目指すとし、実質賃金の低下を批判するが、法人税の増税は「貧困化」の方向性を有するということには留意した方がよいであろう(https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12245412036.html。実質賃金と雇用の関係につき下記「ゼロからわかる経済政策」。)。

 

 

 

「賃上げ+革新投資なら 法人税、実質負担20%に下げ 米仏の減税にらみ、日本の立地競争力高める」 日本経済新聞2017年12月4日

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24207240T01C17A2MM8000/

 

「 政府は積極的な賃上げなどに加え、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」など革新的な技術に投資した企業の法人税負担を実質20%程度に引き下げる方針だ。日本の立地競争力を高めつつ、企業がため込むお金の活用を促す。政府は賃上げや投資に前向きな企業の税負担を25%程度に下げる検討をしていたが、米仏などの減税の動きをにらみ軽減幅を広げる。」

 

N・グレゴリー・マンキュー 「マンキュー入門経済学 第2版」 (東洋経済新報社、2014年) 226ページ

 

(ケース・スタディ) 法人税を支払うのは誰か

 

 法人税は、租税政策における税の帰着の重要性を示すよい例である。法人税は有権者には好評である。結局のところ、法人は人間ではない。有権者は自分の税を減らしてもらい、人間ではない法人に勘定を支払ってもらうことに熱心である。

 しかし、法人税は政府が収入を得るよい方法であると決める前に、誰が法人税を負担するのかを考えるべきである。これは難しい問題で経済学者の意見が一致しないところであるが、一つのことだけは確かである。それは、すべての税を支払うのは人間である、ということである。政府が法人に課税するとき、法人は納税者というよりも徴税人になる。税の負担は究極的にはその法人の所有者、顧客、労働者といった人々にかかるのである。

 多くの経済学者は、法人税の大部分は労働者と顧客が負担すると考えている。その理由をみるために、一つの例を考えてみよう。アメリカ政府が自動車会社の所得への課税を引き上げることにしたとしよう。最初に、この税は自動車会社の所有者の受け取る利潤を減少させる。しかし、時間が経つにつれて、所有者はこの税に対応するだろう。自動車の生産の収益性が代わりに、彼らは新しい自動車工場の建設にあまり投資しなくなる。その代わりに、たとえばより大きな住宅を購入したり、他の産業や他の国々で工場を建設するというように、資産を他の用途に投資するようになる。自動車工場が少なくなると車の供給は減少し、自動車産業の労働者への需要も減少する。このように、自動車を生産する法人に課税すると、自動車の価格は上昇し、自動車産業の労働者の賃金は下落する。

 法人税は、税の帰着の蠅取り紙理論がどれほど危険であるかを示している。法人税の評判がよいのは、豊かな法人によって支払われるという理由も一部にはある。しかし、顧客や労働者といった究極的に税を負担する人々は、豊かではないことが多い。もし法人税の真の帰着がもっと人々に知られていれば、この税が有権者の間でこれほど人気を得ることはなくなるだろう。」

 

 

 

 

 

 ところで、民主党政権時代に、三橋が法人税減税論者だったことをご存じだろうか。

 「公共投資と法人税減税はデフレ脱却に向けた車の両輪」という論調だったのだ。

 参院選立候補に際して出した「日本のグランドデザイン」(講談社、2010年)には、

「公共投資は確かに乗数効果が比較的大きいものの、財政出動の効果が政府から直接的な支出を受けた企業、産業に留まりやすいという欠点がある。そのため、「石油文明から電力文明へ」というビジョンに関連する産業分野への投資を促すための大規模な投資減税を実施するなど、公共投資と法人税減税を組み合わせることが必要になる。
 政府が公共投資として「戦略分野」に支出し、車輪の1回転目を回す。政府が戦略を明確化しさえすれば、企業も設備投資を拡大しやすくなる。さらに「戦略分野」に投資をすることで法人税減税のメリットを受けられるのであれば、日本の経済成長の「4番バッター」ともいえる民間企業設備が、一気に回復するだろう。
 具体的には、50兆円規模の公共投資、および法人税減税を5年間は実施する必要がある。なぜ5年間なのかといえば、そうすることで政府の負債対GDP比率を改善する、すなわち財政再建を達成することが可能になるためである。
 公共投資の拡大に、法人税減税などを組み合わせた財政出動を実施すると、乗数効果が最も効果的に働き、財政は逆に健全化する。参考までに、日本経済復活の会の会長、小野盛司氏が計算したシミュレーションを、氏のご許可をいただき紹介しよう。
 図表2-12の通り、たとえば日本が今後5年間、毎年50兆円の財政出動(公共投資と法人税減税の組み合わせ)を実施した場合、名目GDPは1.3倍に増加する。現状が500兆円の場合は、650兆円まで拡大するわけだ。問題のデフレは、3年後に脱却することが可能である。
 さらに、こちらの方が重要なのだが、図表2-13の通り、このモデルに沿った財政出動を実施した場合、GDPが急拡大する割に、政府の負債は増えない。結果として、政府負債対GDP比率は改善し、いわゆる「財政再建」が達成されることになる。」

と書かれている(131~135ページ。https://ameblo.jp/bj24649/entry-11996166339.htmlにて引用。発売日が平成22(2010)年6月7日、参院選が同年7月11日)。

 今の三橋は、公共投資の主張はそのままに、法人税については増税に転じている。

 いわば「公共投資拡大・法人税”減”税で投資促進・経済成長」から「公共投資拡大・法人税”増”税で投資促進・経済成長」へと変わったということになる。

 説を改めること自体は構わないが、なぜ改めたのだろうか。旧説のどこかに間違いでも見つかったのだろうか。その説明を果たして三橋はしているのだろうか。

 

 

 

 

 三橋経済論は財政政策に偏っている。

 三橋は、金融緩和では需要は創出されず、財政出動で需要を創出せねばデフレを脱却することはできないとする(https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12233222517.html。なお、三橋はこの記事でデフレを「総需要の不足」と定義しているが、かかる定義は一般的ではない。「物価下落」の要素が入るのが一般的。http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/pdf/p01021_2.pdfなど)。

 投資は、「強迫観念」とまでいかなくとも、インセンティブがあれば生じる。

 金融緩和によって貨幣価値を低下させる、すなわちインフレ傾向にすれば、投資は促進される(下記「ゼロからわかる経済政策」)。

 民主党政権まで金融政策は引き締めであり、デフレだったが、安倍政権になって緩和に転じ、そして、消費税増税という重大な障害がありつつも、「デフレではない状況」にまではなった(消費税増税の悪影響につきhttps://ameblo.jp/khensuke/entry-12175673093.htmlhttps://ameblo.jp/khensuke/entry-12286687112.htmlなど。「デフレではない状況」につきhttps://www.nikkei.com/article/DGXLASDF14H07_U5A810C1000000/https://www.nikkei.com/article/DGXLASFK26H0I_W6A221C1000000/)。

 民主党政権時代には70兆円を下回ることもあった民間設備投資は、安倍政権になり、この2年間、80兆円を超えているとのことだ(http://www.nippon-num.com/gdp/investment.html)。

 三橋的には安倍政権は緊縮財政だが、デフレは改善しているし、投資も増えているのである。雇用も改善しているのは報道でよく聞くところであろう。金融緩和は投資・雇用に影響するのである。

 

 

 

飯田泰之 「図解 ゼロからわかる経済政策 「今の日本」「これからの日本」が読める本」 (角川書店、2014年) 152~160ページ

 

3 金融政策

 

  ●インフレの仕組み、デフレの仕組み

 

 財政政策にならぶもう一つの安定化政策の手段が、金融政策です。しかし金融政策と聞いてすぐにその内容をイメージできる人は少ないでしょう。

 金融政策そのものの説明の前に、物価がどのように決まるのかを確認します。経済政策の指標に用いられる物価の指標は、特定の財の価格のことではなく、GDPデフレーター消費者物価指数といった「指数」です。このうち、毎月算出されて速報性があるという理由から、細かな政策判断については消費者物価指数が、やや長いスパンでの経済政策の指標にするには労働や生産設備といった所得に関係するGDPデフレーターが主に用いられています。

 まずは「物価指数」を理解するために消費者物価指数についての説明からはじめましょう。消費者物価指数は、総務省統計局が行う「家計調査」と「小売物価統計」を基本にして算出されます。例えば、2005年の平均的な日本人の生活に必要なお金が300万円だったとします。それに対して、2010年の時点で、2005年とまったく同じものを買った場合に270万円で済んだとしましょう。この場合、「物価が10%下落した」と表現します。「物価指数は様々な財の平均価格です」といった説明が行われることがおおいのですが、これはあまり正確ではありません。あくまで「ある水準の生活(先の例では2005年の平均的な生活)」を送るために必要な金額の変化が消費者物価指数の推移なのです。「物価とはある水準の生活・経済活動を送るのにかかる費用である」という点に注目すると、物価と貨幣、ひいては金融政策との関係が見えてきます。

 物価の変化を貨幣の価値に変換してみましょう。2005年の平均的な日本人の暮らしに年300万円かかるということは、1万円の価値は「(2005年の)平均的生活の300分の1」ということになります。すると、そのコストが300万円から270万円に低下したということは一万円の価値が、日本人の平均的な暮らしの300分の1から270分の1に上昇しているということだとわかるのです。したがって、物価の下落=デフレとは1万円の価値の上昇であり、物価の上昇=インフレとは1万円の価値の下落と整理されます。物価とは、貨幣価値の逆数なのだという点に十分な注意を払わなければなりません。

 物価の逆数である貨幣価値は、何によって決まるのでしょうか。貨幣もまた、市場に流通するさまざまなモノと同様、手に入りやすさによって価値が上下します。現在たくさん出回りすぎている、または将来たくさん得られるという見込みがあるならば価値は下がります(その逆数である物価は上がります)。反対に将来足りなくなりそうなら高くなります(物価は低くなります)。つまり、世の中に出回る貨幣の量が、現在から将来にかけて多いか少ないかによって、インフレになるかデフレになるかが決まるわけです。

 では、貨幣の供給量は誰がどのように決めているのでしょうか。かつての金本位制の時代は、貨幣の量は国家が保有する金の量に縛られていました。また、固定相場制の時代ならば、決められた為替レート(例えば1ドル=360円)から実際の為替レートが大きくずれないように貨幣の総量を調整する必要がありました。しかし、現在の日本円は金本位制でもなければ、特定通貨との固定相場制でもありません。その意味で、日本は自身の判断で貨幣政策を行うことができるのです。

 直接・関節に貨幣の量を調整することで物価をコントロールし、それによって実体経済に影響を与えることが金融政策の仕事です。また、将来の貨幣の量を増加させることで貨幣価値を低下させる(=物価を上昇させる、インフレをおこす)金融政策を金融緩和、その逆を金融引き締めと呼んでいます。

 

 まずは物価が実体経済に影響を与える経路から考えていきましょう。主要な影響経路は三つ。第一が労働市場、第二が金融市場、第三が資産市場です。

 では、労働市場から考えてみましょう。

 労働市場における賃金の価格とは、雇う側からみれば、その労働者を雇えばどのくらい生産できるか、逆に働く側kらみれば、その給料でどのくらいの生活ができるかを意味します。ここで、支払われる賃金の額がどれだけのモノやサービスに相当するかを示す指標として、賃金Wを物価Pで割った実質賃金W/Pが重要です。受け取る賃金の額ではなく、働く側にとっては生活物資をどれだけ買えるかを決める、雇う側にとってはその労働者を雇って作ったものがいくらで売れるかを表す物価との比が重要というわけです。

 ただし、額面の賃金(W)は、契約期間の問題や労働組合の存在、労働法による保護等によって、そう自由には動きません。つまり、Pは動くのにWが動かないのです。その結果、物価が変化すると労働市場での価格である実質賃金が動くことになります。貨幣価値が下がると、Pが大きくなるので実質賃金は上がりますが、貨幣価値が上がると、Pが小さくなるので実質賃金は下がります。

 ここで、実質賃金が下がり、労働が安くなるとどうなるか。会社側はたくさん雇えるようになるので、失業率は低下します。失業率が低下し、安心できる雇用が提供されると、人々は消費活動を活発化させます。これが第二章で紹介した価格調整メカニズムの不全による失業率の変化です。こうして有効需要のうちの消費が増えて、現実のGDPの増加につながる。これが労働市場の機能を経由した影響です。

 次に、金融市場を経由した影響を考えてみましょう。

 企業は、典型的には銀行から資金を借りて、例えば工場を建てたり、研究開発を行ったりといった投資活動を行います。このとき、金利を超える収益が得られないと、近業はやがて倒産してしまいます。借りたお金を増やして返すためには、提供する商品をたくさん売って増やすなり、販売価格を上げるなりする必要があるのです。ですから、例えば、金利3%でお金を借りて石油を買った1年後、石油価格が10%上がっていたら、それだけで金利を支払ってもなお7%分その企業は儲かります。

 よって金利は低ければ低いほど、そしてインフレ(物価上昇)率は高ければ高いほど投資は楽になります。すると、金融政策によって金利を下げ、インフレ率を上げることで、企業のお金の借りやすさに影響が及ぶことになる。お金の借りやすさから、投資を増やすというルートによっても金融政策はGDPを引き上げる効果が生まれるのです。

 最後は、資産市場を介した影響です。

 情報の非対称性の下では、銀行はなんらかの担保がないとお金を貸してくれません。融資を希望する企業が本当に返済の能力があるのか、または本気で返済をするのかがわからない場合に、返済能力があり、融資後に無謀な経営を行わないという一種の証拠として担保を差し出すわけです。

 企業のバランスシートでは、資産は負債と自己資本(純資産)に分けて記載されています。例えば資産が100万円あったとして、うち借金が80万円、自己資本が20万円だったとすると、この20万円分の資産が新しく借金をするとき差し出せる担保の大きさを示しているということになります。

 物価が上がるときには土地や不動産、そしてその企業の商品在庫といった資産価格も上がりますが、すでに「借りてしまっている」借金の額は増えません。資産総額は増えるのに、借金は増えない。その結果「資産-負債」の額が大きくなるのです。

 物価・資産価格が下がった場合には逆のことが起きます。資産が減る一方で借金の残高は変わらないのです。例えば、100億借金しているけれど、資産がもう100億しかないということになると、銀行は「もうこれ以上は貸せない」と判断します。そうなると、つなぎ資金が得られない企業は活動を縮小せざるを得ないため、投資が減少して景気が悪くなっていきます。借金のほうが資産より多くなってしまい、追加融資も受けられないとなるとやがて倒産に至ります。倒産する企業が増えれば景気はさらに悪くなります。

 以上のように、金融政策は労働市場、金融市場、資産市場の三つを経由して、消費と投資といった需要項目を動かし、それによって景気を左右することで、安定化政策ツールとしての役割を果たすのです。

 

 

 

<追記>

 

 

「GDP上方修正 年率2.5%増」 NHKニュースウェブ2017年12月8日

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171208/k10011250771000.html

 

ことし7月から9月までのGDP=国内総生産の改定値は、新たなデータを反映した結果、企業の設備投資が伸びたことから年率に換算した伸び率が実質でプラス2.5%となり、先月発表された速報値の段階のプラス1.4%から上方修正されました。


内閣府が発表したことし7月から9月までのGDP=国内総生産の改定値は、物価の変動を除いた実質の伸び率が前の3か月と比べてプラス0.6%となりました。

これを年率に換算しますとプラス2.5%となり、先月発表された速報値の段階のプラス1.4%から上方修正されました。
これは新たに発表された統計データを反映した結果、「企業の設備投資」が速報値の段階のプラス0.2%からプラス1.1%に伸びたことが主な要因です。

ただGDPの半分以上を占める「個人消費」は速報値と変わらずマイナス0.5%にとどまりました。

GDPがプラスとなるのは7期、1年9か月連続で、内閣府が今回、過去のGDPについて最新のデータを反映させて計算し直した結果、7期連続のプラス成長は現在の形で統計を算出しだした平成6年以降初めてとなりました。

 

 

 

 三橋は「安倍政権の財政政策の誤り」として「企業経営者の投資へのモチベーションをむしろ引き下げる法人税減税を強行したこと」と言う。

 しかし、設備投資は増えている。

 また、三橋は、経済成長の必要性を言い、「経済成長とは、GDPを成長させること」と定義する(https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11168190575.html)。

 GDPは記録的な伸びとなっており、安倍政権は経済成長を実現している(上記NHK記事は実質値のみを報じているが、名目値も伸びている。https://jp.reuters.com/article/gdp-revised-idJPKBN1E200A)。

 

<追記ここまで>

 

 

 

 私には、三橋経済論は、「気合いがあれば何でもできる」「外国に逃げた奴は非国民」という精神論くらいにしか思えない。金融緩和に消極的で、法人税増税に積極的というのは、産業空洞化をもたらすものではないか。

 三橋は安全保障を売りにしているが、三橋経済論は安全保障にも逆行しているのではないか(下記ツイート参照)。

 私の素人的な批判・疑問が当たっているかどうかはさておき、高額の投資をするに値するかどうか、三橋の上記セミナーの受講を検討するにあたっては、自分の頭でよく考え、納得してから決めるのがよいと思う。

 私としては、「デフレ脱却前に投資をしたら経営者失格!」「実質賃金ガー!」という三橋経済論を信じていた者が、人材確保に出遅れて、今、三橋の「人手不足解消合宿」を検討する羽目になっている気がするが…(https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12195988783.htmlhttps://ameblo.jp/bj24649/entry-12209402782.htmlhttps://ameblo.jp/bj24649/entry-12172456468.html)。

 

 

 

 

高橋洋一 「「日本」の解き方 法人税改革議論で欠けている二重課税を排除する観点」 zakzak2014年4月22日

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140422/dms1404220830002-n1.htm

 

「 筆者は、法人税減税と消費税増税のセットというのは税理論からは間違いだと思う。各国で法人税を減税するロジックは、二重課税の排除である。つまり、個人段階で所得税などの捕捉が十分であれば法人税は不要というものだ。

 一方、日本では、納税者番号制度の導入はやっと取りかかったばかり、歳入庁設置は手つかずで、個人の所得捕捉ができていない。これらを先進国並みに整備するのが先決だ。その上で、二重課税排除から法人税減税すべきだ。

 今の政府税調や自民税調では、歳入庁に反対する財務省の影響力が強いので、二重課税を排除するという観点からの法人税改革の議論ができていない。これは日本の国際競争にとっても大きな問題である。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)」

 

※ 三橋は財務省批判としてかつては歳入庁設置を主張していたが、今ではどうやらこの主張は取り下げている模様(https://goo.gl/J3aXiW)。

 

<13日追記>

 

 

<追記ここまで>

 

<21日追記>

 

「法人税増税で内部留保を吐き出させる?」 山本博一ブログ2017年12月20日

https://goo.gl/a7bW7p