【三橋貴明】稚拙な法人税減税反対論【グランドデザイン】 | 独立直観 BJ24649のブログ

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 先月24日、三橋氏の法人税減税反対論を懐疑する記事を書いた(http://ameblo.jp/bj24649/entry-11993231733.html)。
 ここでは、法人税減税の恩恵を受けるのは「約3割」の企業だけ、という論法はおかしいのではないか、ということを述べた。
 しかし、これは法人税減税反対論の中で主たる理由付けではないかもしれない。
 主たる理由付けは以下のものだろう。


「稚拙な法人税議論」 三橋貴明ブログ2014年6月26日
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11884455970.html

「 ロイター通信が、法人税減税に関する興味深い記事を配信していました。

『コラム:法人減税、アベノミクスに「逆効果」
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0F00LO20140625?sp=true 
 安倍晋三首相は法人実効税率を現在の36%から引き下げることで、改革への信任を得たいと望んでいる。しかし計画は裏目に出る可能性があり、首相のデフレ脱却キャンペーンを損なう結果に終わりかねない。
日本政府は24日、法人実効税率を今後数年間で30%未満に引き下げる計画を発表した。最終的な税率や、減税財源をどう賄うかについてはまだ明示されていない。
計画の曖昧さにも当惑させられるが、計画の理論的根拠も疑わしい。日本の国内総生産(GDP)に対する税金全体の比率は先進国中で低い方だ。3分の1弱の企業はまったく税金を払っておらず、大手複合企業の実効税率はわずか13%。収益率の上昇に伴って税負担も増えるとはいえ、その増加率は大きくない。企業は過去の赤字を利用して何年間も納税額を低く抑えている。
ロイターが最近、企業幹部を対象に実施した調査によると、減税は国内設備投資の拡大に結び付く可能性がある。しかしその拡大も限定的だろう。同じ調査では減税分の使途として、企業が内部留保をかなり強く選好していることも示された。経済活動がほとんど、あるいはまったく上向かないとすれば、減税によってわずかに税収が減るだけでも政府債務は膨らむ恐れがある。日本の政府債務の対GDP比率は243%と、既に不安を抱かせるほど高い。
減税が財政的に無謀でないことを債券投資家に納得させるためには、安倍首相は代替財源を探し出す必要がある。人数が減って高齢化も進む労働者層に高い税率を課すという選択肢は無い。消費者の負担をさらに増やすのも厳しい。来年10%への引き上げが計画される消費税率をさらに上げれば消費を圧迫し、経済を再びデフレに陥らせかねない。(後略)』

 そもそも、自国通貨建ての国債のみを発行している独自通貨国が、「政府債務残高対GDP比率」に不安を抱く必要があるとは思いませんが、「法人税減税の効果」という点では、ロイターの指摘は正しいと思います。

 大手複合企業(コングロマリット)の実効税率は低く、さらに繰延損失の制度を利用して、法人税をほとんど支払っていない「大企業」もあります。
 要するに、法人税の実効税率は「国内の設備投資」の抑制要因になっているわけではないのです。この状況で法人税の実効税率を引き下げると、多くは内部留保に回ることになるでしょう。

 と言いますか、政府が企業に「国内への設備投資」を増やしてほしいならば、設備投資減税を拡大すれば済む話です。何故に、設備投資に「回らないかも知れない」形で法人税の実効税率を引き下げる必要があるのでしょうか。企業の「配当金」「自社株買い」の原資となる純利益を増やし、株式取引の主役である外国人投資家の歓心を買う以外に、何か目的があるというならば、是非とも教えて欲しいものです。
 あるいは、法人税減税法人税減税推進の理由として、
「法人税を引き下げることで、外国企業の投資を呼び込む」
という推進派もいます。世界最大の対外純資産国で、国内に資金も、企業も、技術もある先進国である我が国が、なぜ発展途上国のごとく「外国企業に投資して頂く」必要があるのか意味不明なのでございますが、とりあえずその話は置いておきます。

 太平洋の向こう側に、アメリカという国があります。実は、アメリカの法人税の実効税率は、日本よりも高いのです。

 外国企業の自国への直接投資(工場建設や支店開設など。株式等への証券投資は含みません)を「対内直接投資」と呼びます。国際収支の「資本収支」の一部ですね。
 というわけで、日米両国の対内直接投資残高対GDP比率を比較してみましょう(最新データである2012年の数値を使います)。
 ◆日本:対内直接投資残高対GDP比率 3.5%
 ◆アメリカ:対内直接投資残高対GDP比率 32.2%
 日本よりも法人税が高いアメリカは、GDP比で日本の十倍近い直接投資を外国から受け入れているわけです。アメリカという事例がある以上、
「日本は法人税が高いため、外国企業が投資しない」
 という理屈は成り立ちません。
 というよりも、日本の対内直接投資残高対GDP比が低いのが問題だとして、理由は、
「長期のデフレで、企業が利益を上げにくい環境であるため」
 が主因に決まっています。

 利益とは、企業にとって「所得」そのものです。所得とは、何度も(何十回も)繰り返し書いていますが、企業が生産活動(サービス供給を含む)に従事し、生産されたモノ・サービスを誰かが消費、投資として購入してはじめて創出されることになります。
 長期のデフレに苦しめられた我が国では、物価の下落(生産されたモノ・サービスの価格下落)が所得拡大の抑制要因になりつづけました。我が国の企業が利益(=所得)を増やせなかったのは、完全にデフレが原因なのです。
 デフレで利益を上げられない我が国に、外国企業がこぞって投資をするなど、法人税率がどうであろうと「あり得ない」というのが世界だと思います。そもそも、利益を上げられない環境が続いていた以上、法人税の高低は対内直接投資残高とは無関係です(もしくは「無関係に近い」です)。
 逆に言えば、法人税が高くても、多額の「利益」を上げることが可能な国であれば、外国企業は喜んで投資をするでしょう。
 要するに、現在の法人税議論における「外国企業の投資を増やす」は、日本が「投資をすれば利益を上げられる」環境であることが前提になっているのでございます。すなわち、投資利益率が高いという話ですが、現実は異なります。
 国内企業すら「投資利益率が低い」という理由で、投資を増やさない(真っ当な判断です)日本国に、法人税を引き下げた程度で外国企業の投資が増えるでしょうか。ちなみに、わたくしは別に日本が対内直接投資を増やすべきだとは考えていないが、それにしても現在の法人税減税議論は稚拙極まりないのです。
 怖いのは、現在の法人税減税議論が「財源問題」に特化している点です。企業の法人税を減税し、財源として消費税を増税するならば、これはまさに、
「国民から広く浅く、消費税として税金を徴収し、一部の企業の純利益を増やす」
 という、所得のトリクルアップになってしまいます。
「いや、企業の純利益が増えれば、国内に設備投資が滴り落ち(トリクルダウン)、国民全体が潤う」
 などと、構造改革主義者は強弁するでしょうが、各報道機関の調査によると、企業は法人税減税で浮いたお金の「半分」は内部留保として貯蓄すると回答しているのです。すなわち、我々日本国民は消費税増税で所得の一部を巻き上げられ、企業の財産(内部留保)を増やしてあげる形になる可能性が濃厚なのでございます。
 いかも、ロイターの記事にある通り、消費税増税は我が国を再デフレ化する可能性があります。
 現在の政治家や官僚、「民間議員と自称する民間人」たちの法人税減税議論は、あまりにもナイーブ(幼稚)なのです。政治がその国の「国民のレベル」を意味するものであるとしたら、我が国は早急に「国民のレベルアップ」が必要という話になります。無論、政治家へのインプットも急いでおりますが、同時に「皆さんん周りの方々」への「稚拙な法人税議論」の周知拡散も、戦術的に有効になるのです。ご協力のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。」


 ツっこみどころはいくつかあるのだが、大筋で見てどうだろうか。
 三橋氏の考え方は要するに、法人税減税は必要ないということである。
 しかし、必要ないにしても、した方がよいという考え方も成り立つ。
 三橋氏の立論は、法人税減税をしてはいけないという論理としては弱い。
 直接的にこの三橋ブログ記事を扱うものではないが、山本博一氏のブログ記事を読めば、この三橋ブログ記事の誤謬がわかる(http://ameblo.jp/hirohitorigoto/entry-11895884206.html)。
 これで終了、でいいのだが、もう少しツっこむ。

 三橋氏は、「法人税の実効税率を引き下げると、多くは内部留保に回ることになるでしょう。」「何故に、設備投資に「回らないかも知れない」形で法人税の実効税率を引き下げる必要があるのでしょうか。」と言って法人税減税を批判する。
 しかし、読み進めると、「各報道機関の調査によると、企業は法人税減税で浮いたお金の「半分」は内部留保として貯蓄すると回答しているのです。」とのことだ。
 とすれば、内部留保に回るのは半分なのだが、「多くは内部留保に回る」と言うことだろうか。
 半分が「多く」に当たるならば、もう半分は投資に回るわけで、「多くは投資に回る」とも言える。

 三橋氏がしているのは、法人税減税の一側面のみを言い、「黒字を出している大企業はとにかく内部留保を増やす。これは悪。法人税減税は悪。」というルサンチマンを煽った印象操作に過ぎない。アジ演説の域を出ない。
 これに対しては、法人税減税をして投資が増えるにしても、資本移動の自由が確立した環境下では投資余力を外国に振り向けてしまうという反論があり得る。三橋氏は従来からこういう主張していた(三橋貴明「2013年 大転換する世界 逆襲する日本」(徳間書店、2012年)64~66ページ)。

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 三橋氏は「各報道機関の調査によると」と書いているが、お気づきだろうか。
 いくつもの報道機関の調査結果が出ていると言いながら、ソースが全く示されていない。
 三橋氏はロイターの記事を引用しているが、ロイターは次の調査結果を報じている。


「〔ロイター6月企業調査〕法人税減税20%台なら半数の企業が国内設備投資増強」 ロイター2014年6月20日
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL4N0P012X20140619

「[東京 20日 ロイター] - 6月ロイター企業調査によると、政府が成長戦略に盛り込む法人税減税が実現した場合の資金使途について、5割以上の企業が国内設備投資に回すと回答。国内供給力回復につながる可能性が出てきた。消費増税後の反動減からはすでに4程度の企業が回復に転じたとしており、人手不足は非製造業の6割以上が当面続くとしており、外国人労働者受け入れへの要望は広がっている。値上げ圧力も強く、1年後の物価について4割の企業が2%と予測、物価見通しは急速に上昇している。

この調査はロイター短観と同じ対象企業400社に対し、同時に実施した。実施時期は6月2日─6月16日。回答企業は250社程度。」


 「5割以上の企業が国内設備投資に回す」とのことである。
 「国内」、である。
 三橋氏にとってこの記事は都合が悪い。
 だからソースを示さずに、残りの5割の内部留保に回す面だけを取り上げる。
 しかも、5割「以上」である。
 法人税減税で浮いたお金の「多く」は国内投資に回るのだ。

 法人税減税と消費税増税をセットにして「所得のトリクルアップになってしまいます」などと批判するからおかしな話になる。
 両者は個別に賛成・反対すればよく、法人税減税には賛成だけど消費税増税には反対だと言えば足りる話である。
 中野剛志氏は、「消費税増税にあわせて、法人税減税をやったら、もう最悪。」と言い、法人税減税と消費税増税をセットにして論じて安倍政権は新自由主義だと批判するhttp://www.mitsuhashitakaaki.net/2013/09/18/korekiyo-62/)。
 三橋氏も、同様の新自由主義批判が根底にあるのだろう。
 法人税減税と消費税増税をセットにして認識してしまうと、個別に切り離して賛否を考えにくくなる。
 法人税減税に無理矢理にでも反対論を立てる必要が出てくる。
 大体、政治過程から考えても、消費税増税は民主党政権下で決まり、また、三党合意をした当時の自民党総裁は谷垣禎一議員なのだから、消費税増税をもって安倍政権を新自由主義扱いするのはお門違いだ。

 三橋氏はトリクルダウンは起きないと言う。
 法人税減税で浮いたお金の半分が投資に回るのならトリクルダウンは起きるような気がするし、半分と言わず1割だろうが2割だろうが、はたまた投資が減りそうなところを防ぐことができるのなら0割でも、法人税減税をする意味はある。

 三橋氏が政府による公共投資の拡大を主張するのは周知の通りだ。
 公共投資によって確実に投資が増え、名目GDPに計上されることになるという理屈だ。
 とりわけ、国土強靱化をはじめとする公共事業を提唱している。

 さて、なぜ今ごろこんな話を蒸し返すのか。
 私が三橋氏を知ったのは東日本大震災の後で、その前の三橋氏をよく知らなかった。
 先日、古本屋で三橋氏の東日本大震災前の著書が100円で売られているのを見つけたので買ってみたら、意外なことが書いてあった。
 おそらく三橋氏の代表作の1つだろう。


三橋貴明「日本のグランドデザイン」(講談社、2010年)131~135ページ

GDPが急拡大し政府の負債は増えない財政出動

 ところで、国家のグランドデザインを語る際に、最も相応しい指標の定義、および数値目標は何だろうか。もちろん、国家経済のフローであるGDP、特に名目GDPであろう。日本で「国の借金」が問題になっている以上、なおさらだ。
 現状の日本が名目GDPを成長させるには、公共投資などの政府支出を拡大することが最も手っ取り早い。とはいえ、政府支出には「原資」が必要なのである。日銀による国債の直接買い取りや、政府紙幣発行などの、やや「ラディカル」な手段に頼らない限り、政府の資金調達は国債発行により賄われる。
 国債発行とは、すなわち政府の負債増加である。政府が国債発行で資金調達し、たとえば公共事業を増やした場合、少なくともその金額分は、GDPが拡大する(GDP内の政府支出項目が増えるため)。
 ちなみに、土地の購入を伴う公共事業の場合は、効果がやや小さくなる。なぜならば、土地購入とは、政府から地主への所得移転になってしまうためだ。土地売却という形で所得を移転された地主が支出(消費や投資)に費やしてくれた場合のみ、土地購入代金がフロー(GDP)に回ることになる。
 所得移転以外の景気対策は、通常は乗数効果が「1以上」になる。
 たとえば、政府が1000億円の(土地購入を伴わない)公共投資を打ったとする。この瞬間に、GDPは1000億円増えるわけだ、このときに支払われたお金は、国内の企業の売り上げになる。総計で1000億円を売り上げた企業は、そのお金を設備投資に使うかもしれない。あるいは、従業員へのボーナスとして支給され、そのお金が従業員によって「個人消費」として使われるかもしれない
 いずれにせよ、最初に政府が投入した1000億円は、プラスアルファ分の支出の呼び水となるわけだ。この「最初に投入した以上に、支出(需要)拡大効果がある」現象を、乗数効果と呼ぶ。
 とはいえ、公共投資は確かに乗数効果が比較的大きいものの、財政出動の効果が政府から直接的な支出を受けた企業、産業に留まりやすいという欠点がある。そのため、「石油文明から電力文明へ」というビジョンに関連する産業分野への投資を促すための大規模な投資減税を実施するなど、公共投資と法人税減税を組み合わせることが必要になる。
 政府が公共投資として「戦略分野」に支出し、車輪の1回転目を回す。政府が戦略を明確化しさえすれば、企業も設備投資を拡大しやすくなる。さらに「戦略分野」に投資をすることで法人税減税のメリットを受けられるのであれば、日本の経済成長の「4番バッター」ともいえる民間企業設備が、一気に回復するだろう。
 具体的には、50兆円規模の公共投資、および法人税減税を5年間は実施する必要がある。
なぜ5年間なのかといえば、そうすることで政府の負債対GDP比率を改善する、すなわち財政再建を達成することが可能になるためである。
 公共投資の拡大に、法人税減税などを組み合わせた財政出動を実施すると、乗数効果が最も効果的に働き、財政は逆に健全化する。参考までに、日本経済復活の会の会長、小野盛司氏が計算したシミュレーションを、氏のご許可をいただき紹介しよう。
 図表2-12の通り、たとえば日本が今後5年間、毎年50兆円の財政出動(公共投資と法人税減税の組み合わせ)を実施した場合、名目GDPは1.3倍に増加する。現状が500兆円の場合は、650兆円まで拡大するわけだ。問題のデフレは、3年後に脱却することが可能である。
 さらに、こちらの方が重要なのだが、図表2-13の通り、このモデルに沿った財政出動を実施した場合、GDPが急拡大する割に、政府の負債は増えない。結果として、政府負債対GDP比率は改善し、いわゆる「財政再建」が達成されることになる。」

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 タイピングしていて、本当に同じ人が書いた文章なのだろうかとさえ思った。
 公共投資と法人税減税は車の両輪だと言わんばかりである。
 ていうか、公共投資の規模がどうなっているのかはわからないが、今の安倍政権は三橋氏の「グランドデザイン」に近いことをしているのではないか。
 三橋氏は、4,5年前に見通していたと、誇っていいだろう。
 にもかかわらず、現在の三橋氏は難癖を付けて法人税減税に反対している。
 国土強靱化にしても、はたまた三橋氏が昨年の東京都知事選挙で田母神俊雄候補の政策として立案した東京強靱化にしても、土地の購入によってかなりの額が所得移転に費消されてしまい、景気対策効果は低いのではないか。

 しかも、論じ方にしても、過去の三橋氏は、公共投資をすると企業はお金を設備投資に使うかもしれない、「呼び水」になる、と言ってこれを肯定する。
 ところが、現在の三橋氏は、法人税減税をすると企業はお金を設備投資に使うかもしれないが、「かもしれない」ではダメだ、と言ってこれを否定する。
 正反対の態度だ。

 「土地の購入を伴う公共事業の場合は、効果がやや小さくなる。なぜならば、土地購入とは、政府から地主への所得移転になってしまうためだ。」というのは、GDPの定義上そうなる。
 GDPの定義は、「ある年に一国全体で生み出される付加価値の合計金額」である(飯田泰之「世界一わかりやすい経済の教室」(中経出版、2013年)103ページ)。
 そして、土地はその年に生み出されるものではないので、その取引をしても、手数料のみがGDPに計上されることになる(同105ページ)。
 そして、ここが我が国の財政政策の難点である。


飯田泰之「図解 ゼロからわかる経済政策」(角川書店、2014年)143,144ページ

「減税と政府支出の違いはどこにあるのでしょう。減税は安定化の効果だけしか持っていないのに対して、政府支出による公共事業は、産業レベルでの資本や技術の育成に寄与したり、経済以外の面で何か役に立つものが生まれるかもしれない可能性があるのです。つまり、「役に立つならば公共事業のほうがマシ」というわけです。
 さらに、公共事業の本当の効果を測定する場合、総事業費における「真水(GDPの向上に寄与する支出分)」がどれだけあるかを考慮しなければなりません。例えば、1兆円規模の事業で道路を敷設するとします。道路の敷設のためにはそのための土地を買わなければいけません。土地の売買は単なる地権の地主から政府への移転であって付加価値(新たに付け加えられる価値)は生じません。つまり、仮に土地収用費に5000億円かかってしまった道路建設は、5000億円分の真水効果しか持っていないわけです。
 実はここには、日本の財政政策の安定化機能が抱える大きなジレンマが潜んでいます。作ったものが役に立つからこそ財政出動が減税よりも望ましいのだとすれば、現在の日本で役に立つ施設を作ろうとすると、どうしても都市部への公共財供給が中心になってしまうでしょう。都市部の公共事業には莫大な土地収用費が必要になるので、真水部分が小さくならざるを得ません。逆に土地収用費が全然かからない、クマとシカしかいないような場所に道路を作るとなれば、真水は大きくなる代わりに、なんら役に立つものにはならないため減税と実際の経済効果は同じということになります。
 フィスカル・ポリシー(※)が効果を持つためには乗数効果のプロセスが働く必要があり、さらには土地や資材費用が少なく、役に立つ公共事業である必要があるのです。これはかなり厳しい状況と言ってよいでしょう。

※ フィスカル・ポリシー:政策担当者の人為的な景気判断によって政策を投入していく方法(137ページ)

図解 ゼロからわかる経済政策 「今の日本」「これからの日本」が読める本 (ノンフィクション単行本)/KADOKAWA/角川書店
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 「日本のグランドデザイン」で三橋氏は、土地購入を伴う公共事業の景気対策効果が小さくなることを理解し、また、これを伴わない公共投資であっても乗数効果が働きにくいと考え、法人税減税(投資減税を含む)を提案する。
 公共事業万能論ともいうべき経済論に陥り、法人税減税に反対する現在の三橋氏とは真逆とさえ言える。
 そして、説得力を欠くのは現在の三橋氏の方だ。

 なぜ三橋氏はこんなに変わってしまったのだろうか。
 何度か述べてきたが、私としては、中野剛志氏の悪影響を感じる(http://ameblo.jp/bj24649/entry-11892907483.html)。
 三橋氏は、中野氏の新自由主義批判にノせられ、気がついたら「赤い拘束衣」を着ていたのではないか(http://ameblo.jp/typexr/entry-11985306873.html)。

 「企業の「配当金」「自社株買い」の原資となる純利益を増やし、株式取引の主役である外国人投資家の歓心を買う以外に、(法人税減税に)何か目的があるというならば、是非とも教えて欲しいものです」。
 三橋氏の「グランドデザイン」は変わってしまったようだ。



◆ 3月3日追記 ◆






「海外子会社の配当課税」 三橋貴明ブログ2008年11月23日
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-10229909654.html

「 これまで日本の企業が過去に莫大な海外直接投資を行い、現地の子会社が利益を上げ、配当が日本に流れ込むことで(経常収支の中の)所得収支が大きく黒字化していることは、皆さんご存知のところです。ところが、あの所得収支の黒字でさえ、実は日本企業の現地法人の利益の一部分に過ぎないのです。
 なぜ日本企業は海外子会社の利益を、日本国内に還流させないのか。その理由は、税制にあります。
 日本の法人税は40%位ですが、日本より法人税が安い国(つまり世界のほとんどの国)で稼いだ利益を日本に還流させようとすると、税率の差額が追加で課税されてしまうという問題があるのです。例えば法人税20%の国で稼いだ利益を日本に戻すと、差額の20%が追加で課税されてしまいます。そのため、日本企業は海外子会社で稼いだ利益を日本に還元せず、現地で再投資するか、或いは現地所法人の内部留保として積み上げておく(要は遊ばせる)傾向が強くなっているのです。
 ロイターでは05年末の海外現地法人の内部留保残高が12兆円強となっていますが、06年末には17兆円にまで膨らみました。海外で稼ぎまくっている日本企業にとって、現地の利益をどのように日本に還元するかが、大きな悩みになっていたのです。
 海外現地法人の利益を日本に還流させられないため、その分の日本国内への設備投資や研究開発投資が薄くなるわけで、これは非常に勿体無い話です。
 海外現地法人の内部留保残高は、05年から06年に掛けて5兆円も増加しました。裏を返せば、この追加課税の問題が解消すれば、最大で5兆円の資金が日本に還流した可能性があるのです。もしも全額が日本国内の設備投資に使われたと仮定すると(もちろん、実際にはそんなことは有り得ませんが)、日本のGDPを約1%押し上げる計算になります。
 この海外利益の還流策としての税制改正については、麻生首相も衆院本会議で検討している旨を発言していました。是非実現して欲しいものです。


 現在の三橋氏は、「法人税減税をしても外国人投資家が儲かるだけ」という口ぶりだが、過去の三橋氏は、「法人税減税をしないから外国から設備投資の原資が還流しない」という口ぶりだったのか。
 真逆だ。
 中野剛志氏の新自由主義批判やグローバリズム批判に感化されたあたりから変わってきたのかなぁ。