次のようなものである。
私はこれについて素朴な疑問がある。
三橋貴明、渡邉哲也「日本人はこうして豊かになればいい」(ビズ・ジャパン第1号(2014年11月号)、オークラ出版)9ページ
「渡邉 (中略)安倍政権の政策は様々な面でバランスが悪い。先ほど話しに出た外形標準課税なんか正にそうです。そして、法人税減税と言っても、黒字決算で法人税を支払っている企業は全体の約3割の儲かっている企業だけです。ですので、この税金をカットしても、実際に今苦労している企業には何の影響もありません。逆に今儲かっている企業をさらに儲けさせるだけという結果に終わりかねません。
三橋 グローバルな競争力をつける、人件費を下げて、法人税を減税し、株価を上昇させる。価値観としては分かりますが、単純に「それは間違っている」と私は思います。」
Biz JAPAN (ビズジャパン/It’s KOREAL 2014年11月号増刊)/オークラ出版
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「渡邉 (中略)安倍政権の政策は様々な面でバランスが悪い。先ほど話しに出た外形標準課税なんか正にそうです。そして、法人税減税と言っても、黒字決算で法人税を支払っている企業は全体の約3割の儲かっている企業だけです。ですので、この税金をカットしても、実際に今苦労している企業には何の影響もありません。逆に今儲かっている企業をさらに儲けさせるだけという結果に終わりかねません。
三橋 グローバルな競争力をつける、人件費を下げて、法人税を減税し、株価を上昇させる。価値観としては分かりますが、単純に「それは間違っている」と私は思います。」
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一見、もっともらしく思えるだろう。
他方、三橋貴明氏は過去にこういうことも言っている。
三橋貴明「増税のウソ」(青春出版社、2011年)31~33ページ
「日本国民は稼いだ貯蓄を政府に貸し付けている
マクロ経済的に、政府の税収は以下の数式で表現できる。
[税収=税率x名目GDPx税収弾性率]
税収弾性率とは、「名目GDPが一%増えた時に税収が何%増えるか」を示す値だ。現在の日本は、法人企業の七割が赤字で法人税をまともに払っていない。そのため、税収弾性率は以前より上昇しており、「三」前後ではないかと推測されている。これは名目GDPが一%成長すると、政府の税収は三%増えるということだ。
赤字法人がデフレ脱却や景気活性化の影響で黒字化すると、政府はその企業からの所得の分配(税収)を受けることができる。それまでその企業の法人税は「ゼロ」だったわけだから、税収弾性率は当然高くなる(現時点で赤字企業が多いためであり、あまりうれしい話ではないが)。
税率が同じである場合、名目GDPが増えれば税収も増える。逆に名目GDPが減ってしまうと、政府は減収にならざるをえない。別の言い方をすると、税率が同じだと仮定すると、名目GDPが成長すれば、政府の税収は勝手に増えていく。逆に名目GDPがマイナス成長になると、どうあがいても税収は減ってしまうのだ。
さて、図1-3からもわかるように、政府に徴税された残りのGDPは、国民が自由に使える所得、すなわち可処分所得となる。読者がサラリーマンだった場合、毎年年末に会社から源泉徴収票をもらう。源泉徴収票を見ると、「当初の所得」から所得税、社会保険料など政府に分配される所得が差し引かれ、最後に手取りが残る。この手取りこそが可処分所得というわけだ。
家計や企業は可処分所得から新たに消費や投資、あるいは貯蓄をする。貯蓄は銀行預金などの形で蓄積され、民間に融資されたり国債などにより政府に貸しつけられる。
特に経常収支黒字国である日本の場合、国債発行は過去に国民が稼いだGDPから貯蓄として蓄積されたお金を、政府が借り入れているにすぎない。逆に、経常収支が赤字のギリシャが国債発行で借りたお金の多くは、「外国の貯蓄」から借り入れている。つまり、ギリシャ政府は、外国の国民が過去に稼いだGDPから貯蓄に回ったお金を借り入れているのである。そしてギリシャ政府は、最終的には自国のGDPから徴収したお金で外国に返済しなければならないわけだ。」
増税のウソ (青春新書インテリジェンス)/青春出版社
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「日本国民は稼いだ貯蓄を政府に貸し付けている
マクロ経済的に、政府の税収は以下の数式で表現できる。
[税収=税率x名目GDPx税収弾性率]
税収弾性率とは、「名目GDPが一%増えた時に税収が何%増えるか」を示す値だ。現在の日本は、法人企業の七割が赤字で法人税をまともに払っていない。そのため、税収弾性率は以前より上昇しており、「三」前後ではないかと推測されている。これは名目GDPが一%成長すると、政府の税収は三%増えるということだ。
赤字法人がデフレ脱却や景気活性化の影響で黒字化すると、政府はその企業からの所得の分配(税収)を受けることができる。それまでその企業の法人税は「ゼロ」だったわけだから、税収弾性率は当然高くなる(現時点で赤字企業が多いためであり、あまりうれしい話ではないが)。
税率が同じである場合、名目GDPが増えれば税収も増える。逆に名目GDPが減ってしまうと、政府は減収にならざるをえない。別の言い方をすると、税率が同じだと仮定すると、名目GDPが成長すれば、政府の税収は勝手に増えていく。逆に名目GDPがマイナス成長になると、どうあがいても税収は減ってしまうのだ。
さて、図1-3からもわかるように、政府に徴税された残りのGDPは、国民が自由に使える所得、すなわち可処分所得となる。読者がサラリーマンだった場合、毎年年末に会社から源泉徴収票をもらう。源泉徴収票を見ると、「当初の所得」から所得税、社会保険料など政府に分配される所得が差し引かれ、最後に手取りが残る。この手取りこそが可処分所得というわけだ。
家計や企業は可処分所得から新たに消費や投資、あるいは貯蓄をする。貯蓄は銀行預金などの形で蓄積され、民間に融資されたり国債などにより政府に貸しつけられる。
特に経常収支黒字国である日本の場合、国債発行は過去に国民が稼いだGDPから貯蓄として蓄積されたお金を、政府が借り入れているにすぎない。逆に、経常収支が赤字のギリシャが国債発行で借りたお金の多くは、「外国の貯蓄」から借り入れている。つまり、ギリシャ政府は、外国の国民が過去に稼いだGDPから貯蓄に回ったお金を借り入れているのである。そしてギリシャ政府は、最終的には自国のGDPから徴収したお金で外国に返済しなければならないわけだ。」
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これももっともだと思うだろう。
しかし、両者は整合していないのではないか。
「ビズ・ジャパン」対談では、法人税減税の恩恵を受けるのは黒字を出している約3割の企業だけだ、残りの約7割には関係ない、という話である。
ところが「増税のウソ」では、「赤字法人がデフレ脱却や景気活性化の影響で黒字化する」と言っているのである。
つまり、現在は赤字の企業でも、今後、黒字に転ずれば、法人税減税の恩恵を受けることになる。
法人税減税の恩恵を受けるのは、「約3割」だけではない。
「約3割」が「4割」にも「5割」にもなり、残りの「約7割」にも、将来的に恩恵を受ける可能性がある。
片や「約3割の企業だけが黒字(約3割から増えない)」という話で、片や「黒字企業は増える(約3割から増える)」という話で、矛盾があると思う。
そもそも、考えようによっては、赤字企業は法人税を納めなくてよいというこの上ない優遇を受けているのであって、既に黒字企業よりも優遇されている。
法人税を減税したところで、黒字企業は法人税を納める必要があり、やはり赤字企業の方が優遇されている。
法人税減税によって赤字企業の方が不利に取り扱われるものではない。
にもかかわらず、三橋氏や渡邉氏は、法人税減税は黒字の「約3割」を優遇するものであってけしからん、という論調である。
ミスリードではないか。
「ビズ・ジャパン」の上記対談を読み進めると、こういうやり取りが出てくる。
12ページ
「三橋 (中略)皆が変なルサンチマンに囚われていて、「あいつらだけ何で儲けてるんだ」なんて、他人が儲かることを批判しては駄目ですよ。「なんであいつらだけ」じゃなくて、「あいつらと同じように自分も」豊かになろうと考えないと。
渡邉 要は国民がデフレ思考になっちゃっているんですよね。(中略)
三橋 本当にその通り。」
「三橋 (中略)皆が変なルサンチマンに囚われていて、「あいつらだけ何で儲けてるんだ」なんて、他人が儲かることを批判しては駄目ですよ。「なんであいつらだけ」じゃなくて、「あいつらと同じように自分も」豊かになろうと考えないと。
渡邉 要は国民がデフレ思考になっちゃっているんですよね。(中略)
三橋 本当にその通り。」
法人税減税の恩恵を受けるのは「約3割」だけだというのは、黒字企業が増えることは期待できないという、デフレ思考そのものではないか。
そして、「約3割だけが儲かる」と批判してルサンチマンを煽っているのは、三橋氏・渡邉氏自身ではないか。