遣唐使

東野 治之
遣唐使 (岩波新書 新赤版 1104)
中国も清朝以前の歴史ものには大仰なものが多く、全く興味が沸かないのだが、ここまで古いと新書の一つくらい読んでやろうかとは思う。数年前に井真成なる者の墓誌が出たとかで、朝日が懸命にキャンペーンを張っていたことがあったのだが、著者にとっても、それは感動的なニュースだったとのこと。あの時は反日騒ぎの最中だったし、中国側の発掘者が、あの西北大学ということもあり、何か政治臭も感じたのだが、こうして整理してみると、たしかに大発見だった様だ。コキントウ来日も、「中国ゆかり」の寺巡りなんかをするみたいだが、国内的にも、無理してユニホーム姿になって福田とキャッチボールなんかするより、中国人にとっては納得がいくものとなるのだろう。著者は外交史の研究者に右よりの人が多かったから、古来から中国と日本はさも対等関係にあった様に伝えられ、中国史の研究者によって、その是正が図られたのが1980年代後半になってからなのだという。「中国」という国名は「中華人民共和国」や「中華民国」の略ではなく、古来から日本が使用している国名とも言うけど、さすがに遣唐使の時代は違うんではないか。とはいえ、漢字の発音やらキモノやら食い物やら、この時代に中国から伝わったものが、今もなお日本で息衝いていることはたしかな訳で、それは「右より」の人も認めるところであろう。もっとも、清末から大挙して来日した中国人留学生が、日本を通して西洋の学問を学んだ様に、遣唐使は中国を通してインドの仏教を学んだとも言える訳で、文化の伝達というのは、ただ一方から一方に流れる様なものではない。ともあれ、行ったら十年帰ってこれないとか、特別に選ばれたものしか行けなかった「留学」が、「自分探し」とか、「出稼ぎとか」の目的でも行ける様になったが、そうした流れの中から「文化」が生まれ、「革命」の萌芽が生ずるのは現在においても変わらないことなのではなかろうか。
★★
コオロギと革命の中国

竹内 実
コオロギと革命の中国 (PHP新書 502)
竹内好とは関係ない、もう一人の竹内である中国文学者の巨頭も85歳になるのか。口述でも再録でもないみたいだし、このトシで300ページ書き下ろしはスゴイ。最近も井岡山詣でに行ってきたみたいだし、「中国脅威論」が氾濫する中国本の世界に喝を入れてもらいたいものだとも思うのだが、忙しない現代中国にはあまり興味がないのか、闘コオロギに、阿Q、魯迅と秋瑾、そして山東での少年時代の話といったラインアップ。冒頭ちらっと「反日デモ」にも言及しているのだが、先生はあれに阿Qをみたのか。まあたしかに「精神勝利法」は今でも対日認識の基本ではある。秋瑾の全裸乗馬の話はなかったが、彼女が日本刀好きだったということは分かった。周兄弟も日本の切腹には感銘を受けたそうだが、死刑執行を見たことがあるという著者は、そちらの方が大きな衝撃であったようだ。死刑執行は見たのに、市中引き回しは見たことがないというのは私と逆なのだが、私も初めて市中引き回しを見たときの衝撃は今でも忘れない。さすがにオリンピック・イヤーともなると、もうそんなことはしていないだろうが、処刑ビデオが時々出てくるのをみると、田舎ではまだ「娯楽」として機能しているのだろうか。しかし、家のアマが血の染み込んだマントウを持ってきて妹に食べろと言ったという少年時代の話もコワイ。死刑囚の心臓やら肝臓は、「観衆」が奪い合って食べるという話は本当だったのか。さすがにコレは今ではないだろうが、南京モノとか、731モノでそういう描写が多いのは、自分たちがやっていることは、日本人もやっているはずだという「他者に対する想像力」なのかもしれない。「日本人と中国人はどっちが残酷か」なんていう疑問は、自分たちが残酷であるという意識がないと生じないものではあるな。「他者」を無垢なる存在とすることが、「他者に対する想像力」だと信じきるのも、「精神勝利法」みたいなものか。
★★
ロシア世界を読む

中津 孝司
ロシア世界を読む (創成社新書 10) (創成社新書 10)
一体幾つあるのか分からなくなってきた最近の新書界でも、たぶん一、二を争う地味な創成社新書だが、この「国際情勢シリーズ」は意外と早く完読できそうだ。「アメリカ世界を読む」はまだ見かけていないのだが、「中華世界を読む」はなんで出ないんだろう。どうも執筆者の駒と関係しているみたいだが、この「ロシア世界を読む」は「世界情勢を読む」と「アフリカ世界を読む」と同じ著者だった。なんでも20年前にコソボの大学に留学していたというレアな人らしい。最近のコソボ情勢は解説に引っ張りだこかどうか分からんが、講演料は25万円か。まあ30万の原田武夫よりは、面白そうだけど、相当クセがありそうな感じは写真を見なくても分かる。とにかく、オールラウンドに語らないと気がすまないらしく、専門らしいロシアのエネルギーの問題から、旧東側各国の話に飛び、それも広義の「ロシア世界」かと思いきや、インド、中国と話が広がって行き、北朝鮮など日本は相手にしなくてよし。なんて話に、いつの間にかなっていた。「世界情勢」の時も、そんな感じだったことを思い出したが、「ロシア世界」は「ユーラシア世界」と言うべきなのだろう。たしかに日本は地政学的には、いいポジションにあることは確かなのだけど。
★★
こわ~い中国スポーツ

松瀬 学
こわ~い中国スポーツ (ベースボール・マガジン社新書 7)
あれま。ベースボールマガジン社新書なんてのも出来たのか。これで、もう第7冊みたいだが、前後が「横綱の品格」と「東京マラソン」。やっぱベースボールマガジン的にも中国はトレンドなんだなあ。元ネタはスポニチ(大阪)連載していたものらしい。スポニチというと毎日傘下で、だからという訳ではなかろうが、タイトルとは裏腹に「中国脅威論」的記事は特になし。著者は共同出身で、独立した人みたいだが、あとがきで「じつは中国は嫌いである」などとも書いている。まあ、日本人ならずとも、中国のスポーツ取材をした人は大抵そうなるかと思うのだが、サッカーは専門ではないらしく、例の反日アジア・カップの話などはない。それにしても重慶の連中は懲りないねえ。中国人の「気概」というものを今日も見せてもらいましたよ。まあ、そんなことはベースボールマガジンやスポニチ的にとっては、どうでもいいことなのか、追っかけるのは謎の中国棒球リーグ。Cリーグが始った時も、選手の月給が千元くらいで、四人部屋とかに住んでるなんてことをテレビで視た記憶があるから、今の中国プロ野球の選手が月給二千元なんてのは妥当なところなのだろう。しかし、オールスター戦が観客ゼロっていうのもスゴイな。欽ちゃん球団でも遠征してやれば良いのに。著者は文春から中国ドーピング問題の本を出して、賞を獲ったことがあるらしいが、その辺の「こわ~い」話はナシ。馬家軍だっけ?あの娘たちは今、マトモな社会生活を送れているのだろうか。
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世界最大デジタル映像アーカイブINA

エマニュエル・オーグ, 西 兼志
INA―世界最大デジタル映像アーカイブ (文庫クセジュ 919)
文庫クセジュらしいというか、何と言うかタイトルまんまの広報本みたいなもんだった。全く知らなかったのだが、このINAという組織はBBCの2倍以上のアーカイブを誇るそうで、ネットでも閲覧可能とのこと。どうもフランスでは、国会図書館みたいに製作者が納めるシステムになっている様で、それを商業利用することより、運営費も捻出しているらしい。日本でも川口とか川崎にその手のものがあることはあるのだが、僻地だから、あまり行けないし、そもそも公開している作品が少ないんだから、全編ネットで見れるようにしてくれないもんかなあ。「昭和」の番組をCRTで何時間もヘッドホンで見るのは結構辛い。しかし、あのNHKアーカイブスの番組が好きという外国人が多いのも納得できる気がする。中国とかじゃ、宣伝フィルム以外に、昔の自分たちを追体験できる番組なんて、ほとんどなさそうだし。
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中国雑話 中国的思想

酒見 賢一
中国雑話中国的思想 (文春新書 596)
この酒見賢一という著者はよく知らんのだが、新田次郎文学賞とか中島敦記念賞とか日本ファンタジーノベル大賞とか、スゴイんだか何だかよく分からない賞をたくさん獲ってる小説家さんだそうだ。愛知大学卒ということが関係しているのかどうか分からないが、中国古典ものを得意としているらしく『墨攻』というのは何か聞いたことがある。ああアンディ・ラウが主演した映画か。なるほど、日本人が原作の中国古代を舞台にした作品が中国人によって映画化されるというのは、たしかに「事件」なのだろう。著者は「結局、日本人は中国のことを分かっていない」と中国人に言われることが一番辛いそうだが、そういうことを言う中国人が中国のことを分かっているかというと、そんな訳でもない。日本の「中国通」は現代中国に関心ある者と、古代中国にしか関心がない者と2種類いるのだが、後者の人たちは結構、中国人と共通認識がとれているのではないかとも思う。漢文の時代とは比べ物にならないが、『三国志』とか『西遊記』とかの話をしている限り安全圏であろう。中国人が日劇とかこっちが知らん話をしたがるのも、そうした共通認識を求めてのことなのかもしれない。これがNHKのテキストに採用されたのも、そうした事情も関係しているかとも思うのだが、劉備とか孫子、太極拳の話は中国と「歴史認識」を共有するつもりのない派の人間には、あまり興味が持てんな。最後の格闘技他流試合みたいな話だけは面白かったけど、キン肉マンってまさか、これがモデル?
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