コオロギと革命の中国

竹内 実
コオロギと革命の中国 (PHP新書 502)
竹内好とは関係ない、もう一人の竹内である中国文学者の巨頭も85歳になるのか。口述でも再録でもないみたいだし、このトシで300ページ書き下ろしはスゴイ。最近も井岡山詣でに行ってきたみたいだし、「中国脅威論」が氾濫する中国本の世界に喝を入れてもらいたいものだとも思うのだが、忙しない現代中国にはあまり興味がないのか、闘コオロギに、阿Q、魯迅と秋瑾、そして山東での少年時代の話といったラインアップ。冒頭ちらっと「反日デモ」にも言及しているのだが、先生はあれに阿Qをみたのか。まあたしかに「精神勝利法」は今でも対日認識の基本ではある。秋瑾の全裸乗馬の話はなかったが、彼女が日本刀好きだったということは分かった。周兄弟も日本の切腹には感銘を受けたそうだが、死刑執行を見たことがあるという著者は、そちらの方が大きな衝撃であったようだ。死刑執行は見たのに、市中引き回しは見たことがないというのは私と逆なのだが、私も初めて市中引き回しを見たときの衝撃は今でも忘れない。さすがにオリンピック・イヤーともなると、もうそんなことはしていないだろうが、処刑ビデオが時々出てくるのをみると、田舎ではまだ「娯楽」として機能しているのだろうか。しかし、家のアマが血の染み込んだマントウを持ってきて妹に食べろと言ったという少年時代の話もコワイ。死刑囚の心臓やら肝臓は、「観衆」が奪い合って食べるという話は本当だったのか。さすがにコレは今ではないだろうが、南京モノとか、731モノでそういう描写が多いのは、自分たちがやっていることは、日本人もやっているはずだという「他者に対する想像力」なのかもしれない。「日本人と中国人はどっちが残酷か」なんていう疑問は、自分たちが残酷であるという意識がないと生じないものではあるな。「他者」を無垢なる存在とすることが、「他者に対する想像力」だと信じきるのも、「精神勝利法」みたいなものか。
★★