ビフリュオレ通信<BIFLUORESQUEMENT VOTRE> -78ページ目

第50回記念&歳末特集☆笑う門には福来る [第68号 05.12.15]

 年4回貴重な1ページに好き勝手なことを書かせていただき、今回が何と50回目。感謝の意を込めて…否、わがままついでに、愛するシャンソン・プリュス・ビフリュオレの新譜、前々号でリリースをお知らせしたPeinture à carreaux をまるごとご紹介、すみませんがお付き合い下さい。今作は殆どがオリジナル曲で、「笑い」だけでなく、このグループのもうひとつの持ち味「詩情」が程よく配合されている。これと前作の2枚組アルバム、カヴァー曲集とパロディー集からなるPour de vrai pour de rire とを合わせて聴けばChanson Plus Bifluoréeの全体像が掴めることになる。
<コミック路線>
まずはこのアルバム唯一のパロディー曲L'informatique   。元歌は映画『恋するシャンソン On connaît la chanson』でお馴染み「おいらは体が弱い Je ne suis pas bien portant」。語呂合わせで並べ立てる体の不調をコンピュータートラブルに置き換えて、これでもかというほど列挙。パソコンに入れておけば厄除けになりそうだ。同じ列挙の手法を使ったL'argent、こちらはマネー関連の(筆者には無縁の)単語を外国語、隠語、古語、専門用語と総動員、こんなカネが全ての世の中で職安をリストラされ、自殺しようにもガスさえ止められ、笑っている場合なのか笑うしかないのか、哀れな男のぼやきが曲の最後ではシュプレヒコールに変わり、やっぱりこんな世の中おかしい!と真面目に怒りがわいてくる。この歌はホリエモンに捧げることにして、Champignon de Parisはキノコマニアの筆者がいただき!山採りキノコは美味しいけど苦労も多い、「スーパーMonoprixに生える」マッシュルームも結構あなどれないよ、と歌う。同じく美味礼賛ものがもう1曲、Sommes-nous des grenouilles。健康に配慮して飲むのは水にしなさいなんて、俺たちは蛙じゃない。こちらは我らがソムリエH氏と、ワインも蛙も大好きなM嬢に。トラッド曲だが、蛙の合唱みたいなヴォーカルアレンジが楽しい。Notre petit appartementPetit déjeuner au litの2曲はドタバタ喜劇。前者はやっとみつけた二人の小さなアパルトマンが驚異的に狭くて、何をするにもアクロバット!後者は憧れのベッドで朝食を実際にやってみると、パン屑は散らかる、ジャムは垂れる、コーヒーはこぼれて染みになる…。これらは身に覚えのある方に捧げます。
<ポエティック路線>
OuiかNonか?!反対派はぶっ潰す!!とわめくしか能のない奴らに聴かせたいのがNi oui ni nonOuiでもNonでもないんだよと言ってあげなきゃ、と歌いかける。奴らに聞く耳があればいいんだけど。思いを上手くキミに伝えることができないもどかしさを歌ったTe dire雨傘の女たちを讃えたFemmes au parapluieも美しい。そして何といってもタイトル曲のPeinture à carreaux、意味? 意味は…peinture=絵、絵画/塗装、ペンキ;à carreaux=碁盤、格子模様の…?? フランス人に訊いても「さあ???」インタビューで訊かれた彼らの答えは《Comprend qui peut.》ご想像にお任せします、だって。単調な毎日の生活をイマジネーションで塗り替えてみようよ、という歌です、多分。ユーモラスでちょっとシュールなM-Fl. GrosのテクストにSylvainの繊細なメロディー、そして3人のハーモニー!!! 本当にきれいです。Amazon.fr等でぜひとも試聴を!

Pourquoi les girafes ? [1992]

Pourquoi les girafes ? [1992, Fnac Music Prod./WMD 592091]



アルバムタイトルは『何でキリン?』。グループ初のスタジオ録音アルバム。
[注:曲名の和訳は、内容が分かりやすいように少し意訳している場合があります]
01 Nuit à Ponapi ポナピの夜<試聴>
 「イポイタイタイイェ~」変奏曲、カリビアン?風
02 Fou de danse ダンス狂
 ディスコ・アイドルのパスティーシュ
03 Ah ! le tangp corse コルシカのタンゴ
 コルシカは南仏出身の彼等にとって特別に愛着があるみたい。
04 L'enterrement de belle maman 義母の葬式
 19世紀末モンマルトルで名を馳せたアリスティッド・ブリュアン(ロ

 ートレックの絵でお馴染み)のナンバー。いろんな音楽スタイルの
 パッチワーク風アレンジが楽しい。
05 Le concert n'a pas été réussi コンサートは失敗だった
 ジャック・プレヴェールの詩にシルヴァンが作曲。実はこの詩には「枯
 葉」の作曲者コスマが先に曲をつけているが、その際テクストの一部を
 改変している。シルヴァンはテクストはそのままで新たに曲をつけた。
06 Toro piscine (スケッチ) 「今夜8時半より...」
 アナウンサーもトチるけったいなグループ名を自分たち自身でギャグに
 してしまっている。
07 L'intermittente 興行フリーランスの労働歌<試聴>
 元歌は「インターナショナル」と並ぶデモの定番ソング「ワルシャワ労
 働歌」。行進が段々近づいてくるように聞こえたり、ハンドスピーカー
 のハウリング音が入っていたりと、芸が細かい。
08 Tonton Thomas トマおじさん
 スキャット風言葉遊びのジャジーなナンバー。
09 Amour, choucroute et ravioli 愛とシュークルートとラヴィオリ
 オペレッタ風コミックソング。女声パートを歌うのはミシェル!
10 Corbeau 烏<試聴>
 コーラスが美しいオリジナル曲
11 31 décembre 12月31日<試聴>
 短いアカペラコーラス
12 Comité des fêtes (スケッチ) 祭運営委員会
 次のトラックへのつなぎ
13 Le crédo du paysan 百姓の信仰宣言
 替え歌だが、バックコーラスをよく聞いてみると自然賛美の歌詞にあわ
 せて「ヨーグルト~」「ブルガリアの味~」「粉ミルク~」とか言って
 いる。
14 Plus médieval tu meurs 死ぬほど中世
 「イポイタイタイイェ~」変奏曲、古楽風
15 Chanson de la Seine セーヌの歌<試聴>
 これもコスマによる先行曲のあるプレヴェールの詩に、シルヴァンが新
 たに作曲。ハーモニーが美しい。
16 Le moteur à explosion 内燃機関
 アンリ・サルヴァドールの童謡風シャンソン「狼と子鹿と騎士」を、エ
 ンジンの仕組みを解説する歌にすり替え。
17 Signor abate「修道院長殿」
 ベートーベン作曲カノンをシャンソン・プリュス風に料理。
18 Zappeur Premier ザッパー1世
 リモコンを手放せないザッピング中毒をポップに歌うオリジナル曲。
19 La mer ラ・メール<試聴>
 シャルル・トレネによるシャンソンのスタンダード・ナンバー。オリジ
 ナルそっくりに始まって途中で転調、最後はルノーの物まねでヴェルラ
 ン(逆さことば)によるフルコーラス。
20 Les comiques 俺達コミック
 トラッド曲に作詞。アカペラで歌う。

 

ロベール・フルカド(ブブ)元シャンソン・プリュス・ビフリュオレ… [66号 05.6.15]

…その日はつい空ばかり見上げてた。だって「天に」旅立つ、って言うものだから。白い雲を浮かべた5月の空は穏やかに笑っているかのよう。あの時のあなたのように。
 1996年3月23日、ランブイエ文化センター「ニケロデオン」ホール。見終わったばかりのライヴの興奮と、憧れのアーティストをテーブルひとつ隔てて目の前にした緊張感で、顔を引きつらせながら黙って差し出すしかなかったチケットにペンを走らせた後、あなたはそれを返しながら、まっすぐ目を見てにっと笑ってくれたのだった。何も言わずに、でも何という素敵な微笑み!Merciしか言えなかったけど、きっと気持ちは通じた、そう信じさせてくれるような微笑み。"Amitiés(友情), Boubou" と書いてくれた青い小さな紙片は、もちろん宝物中の宝として大切にしまってあります。そしてあの微笑みも心の中に。あのチケット共々、あれから何度取り出して眺めたことか。
 あなたがシャンソン・プリュス・ビフリュオレを去ると知った時はパニックでした。あなたの低音とブラッサンスマニアぶり、のっぽで縮れっ毛のシルエットなしのシャンソン・プリュスなんて想像できなかった。あの頃のラジオ番組の録音が手元にあります。メンバー脱退という事態にあるのに、このひとたちときたら何て陽気なんだ!冗談まじりの話題がたまたまエリック・カントナ(有名なサッカー選手で俳優)に及んだ時、他のメンバーとアナウンサーが盛り上がっている背後であなたは不意にジャック・ブレルの有名な歌の一節を… "Quand on n'a(カントナ)que l'amour" …思わず吹き出すアナウンサー。トリオとなったシャンソン・プリュスが今やっているギャグ Dis donc toi はきっとこの時生まれたんでしょう?("やあジャック・ブレル、好きなサッカー選手は?" "♪カントナ…") あなたは多分そうやって、いつも少し離れたところから他の3人をじっと見ていて、肝心のところで一言口を開いていたんだろうなあ。
 幸いシャンソン・プリュスはトリオとしての再出発に成功し、私は相変わらず追っかけをしています。一方ソロとして色々な仲間と出会い、毎回違ったことをやりたいと言っていたあなたのニュースは、殆ど入ってこなかった。けどいつかまたあなたの舞台をみる機会があるに違いないと、そしてもしかしたら元の仲間のステージでスペシャルゲストとして、一緒に何か面白いことをやってくれるんじゃないかと、そう信じてた。
 それが叶わなくなったのですね。
 でもまだ実感できない。あまりにも突然で、あなたの年齢からいっても、そんなことは全く予期していなかった。あの日、いつもどおり訪れたシャンソン・プリュスのサイトに、何故か現れたあなたの写真をクリックした時も、あなたの活動について何か伝えてくれるものとばかり思ったのに。
 ブブ、あなたのソロをみに行けなかった。ごめんなさい。でもあの日私にくれた笑顔と、シャンソン・プリュス・ビフリュオレでのあなたのこと、決して忘れない。
                          Amitiés, R***