おわび
メンバー多忙につき、今月はセルフライナーノーツ、デモ音源公開は
お休みさせていただきます。
いつも読んでくださっている方、
楽しみにしてくださっている方、
ごめんなさい。
また次回の更新をお待ちください。
BAA BAA BLACKSHEEPS
メンバー一同
メンバー多忙につき、今月はセルフライナーノーツ、デモ音源公開は
お休みさせていただきます。
いつも読んでくださっている方、
楽しみにしてくださっている方、
ごめんなさい。
また次回の更新をお待ちください。
BAA BAA BLACKSHEEPS
メンバー一同
『リハビリテイション』制作以後の楽曲デモ音源公開シリーズ、その第二弾をお届けします。
第二弾は、BAA BAA BLACKSHEEPSの新境地を感じさせる屈指の名曲、『Forget me not』 です。
今回のデモ音源も同様、BAA BAA BLACKSHEEPSが、あくまで自分たちの確認用としてクリックも無しに生演奏の合奏で一発録りしたものです。
かつてライブを観に来てくれていた人も、CDや動画でしかぼくらの音楽に触れたことのない人も、誰も所持していない、素のままのBAA BAA BLACKSHEEPSの演奏音源ですから、きっと誰にとっても新鮮な気持ちで聴いてもらえることと思います。
なお、本日公開のデモ音源も録音状態が芳しくなく、スピーカー再生だとスカスカにしか聞こえないため、なるべくヘッドホンかイヤホンを着けた状態でのご視聴をおすすめします。
しかしそれでも、人によっては聴きづらく感じてしまうかもしれません。正規リリース音源を届けられないことがとても心苦しい限りですが、これまで音源で聴いてもらえる機会が全くなかった楽曲ですから、この歌と共に、あなたがわずかでも有意義な時間を過ごしてくれるよう願います。
また、 You Tubeチャンネル (文字クリックでジャンプ) ではなく、ブログから閲覧してくれている方のために、『Forget me not』動画内の説明文を以下に転載しておきました。セルフライナーノーツ記事のように、今回の楽曲についてもメンバーからのコメントを掲載したので、そちらも併せて読んでもらえるとうれしいです。
2015年11月8日、スタジオ246KYOTOにてライン接続によるファーストテイク録音。
アルバム『リハビリテイション』全国発売後、BAA BAA BLACKSHEEPSが新曲を制作していた際、メンバー間での確認のため、合奏で一発録りに臨んだデモ音源を特別公開。
全4音源の内、公開第2弾は春季に咲く花・ワスレナグサの英名でもあり、悲恋を象徴するメッセージでもある『Forget me not』。
室町時代の歌集『閑吟集』の一句と、明治後期の詩人 八木重吉の詩をヒントに書かれたこの楽曲の歌詞は、『おまじない』でも用いた敬体的表現や『Blacksheep』同様に英題・英詞を取り入れただけでなく、古語や掛詞をも散りばめるなど、実に修辞性と機知に富んだ意欲作となっている。
本音源は、『リハビリテイション』発売やライブツアーを経て成長を遂げ、新たな境地に至ったBAA BAA BLACKSHEEPSの、高められた演奏練度とグルーヴを存分に感じさせる秀逸なテイク。レゲエを思わせる裏拍子と休符を駆使しながら、全パートが複雑に絡み合いリズムとハーモニーを生み出していく楽曲と演奏は、フロアの観客ではなく、むしろ共演者たちに絶賛された。
公開を記念して、バンドメンバーより楽曲についてのコメントも掲載。
Vo.Gt.神部:
ぼくのソングライティングにおける集大成といえる曲であり、ぼくの音楽人生で過去最高傑作と誇るくらいには愛してやまない曲です。本来は春にこそ聴いてもらうべき内容ですが、あえて秋の気配に包まれながらこの音色を聴いて欲しいと思い、このタイミングを選びました。
誰もが一度は忘れられない出遇いを経験し、誰もが一度は忘れられない別れを経験します。しかし、移り気なぼくたちはやがては忘れていってしまう。そして忘れられる(可能・受身)からこそ、生きていけるのかもしれません。そうした記憶の曖昧さを薄情だと非難するのか、穏やかな気持ちで受け容れていくのか、聴いたあなたはどちらを思うのでしょう。
ちなみに、タイトルは「私を忘れないで」という意味の英文ですが、この歌に秘められたテーマは、決してタイトル通りのものではありません。これが分かったら、あなたはもう完璧にバーバーのメンバーです。
Gt.こにー:
バーバーでは全然やってこなかったアプローチの曲だけど、要所要所でメンバーのらしさが出ているのが面白い一曲。
大きな起伏がそこまでないのと、言葉の綺麗さから絵本を1ページずつめくっていくような感覚になる曲かな。
ギター的には柔らかい風が吹いて、花がふわりと揺れている感じが出せたらなあと思って音を作っています。
Ba.dino:
勿忘草の英名をタイトルに冠した(英語タイトルそもそも結構レア)、誰しもが心に持つであろう気持ちを美しい日本語で綴った一曲。まずは言葉と歌を堪能してほしいのと、BBBSとしてはかなり珍しいアレンジのアプローチをしているので、楽器隊としてはそのあたりも注目してくれると嬉しいかな。
ちょっとレゲエとかに近いアプローチなんだけど、なんやかんやUKリスペクトな一曲というのもなんとなく頭に入れて聞いてもらえると、より深く楽曲を楽しんでいただけると思います。
Dr.江口:
跳ねる曲調、裏拍の効いたアレンジともに、これまでにはない挑戦をした曲ですが、やはり根底にあるのはUKライクとロックだなと感じます。
歌詞に色々な解釈を加えたり、表現する音にストレートなものを使わないようにしていたりと、特徴の無い曲にならないよう色を付けるのはバンドとして当たり前のアプローチですが、この曲はそういう意味でバーバーの捻くれたい欲がふんだんに出ていると思います。
(動画背景画像・ブログ記事カバー画像はShutterstock.comのライセンスに基づいて使用しています - Artist : Zhanna Smolyar)
目次
― 【後半】 ―
3.音像にこめた意図
4.個人的に力説したいこと
5.歌詞について
6.メンバーランキング
7.おまけ
dino:
ベースの音像に関しては第一回目のブログを参照してもらうとして(毎回言ってんなこれ)、フレーズに関しては浮遊感のあるものを意識したと思います。
ほとんどの曲で決め打ちのベースライン持ってくることなかったんですが、この曲に関してだけはほぼほぼ決め打ちです。
楽曲のテーマに絡めていうと、音の配置的には明るいハマり方をしてるけど(ダークな部分はこにーちゃんが担ってくれた)、人間関係という概念そのものにおける浮遊感、バランスの悪さみたいなものは意識したのかもしれないなーと。
江口:
とにかく邪魔しないこと。拍子の頭以外の音が物理的に歌より前に出ないこと。
意識していたのはこのあたりです。でないと主役が分からなくなる曲だと思っていたので。
こにー:
先にも書いた通り、ハーモニクスが印象的なフレーズが多いんだけど、音像という事で言うと、ディレイとかリバースの音とかのほうが作るのに注意してたかな。
一人で頭の中で思い返しては、切なくなったり寂しくなったりする感情を出す為に、記憶の回路を辿っていくみたいな行為を音で表現した感じ。
神部:
ぼくはどの曲でも馬鹿の一つ覚えみたいにギターにオーヴァードライヴを乗せていましたが、『そうなんだ』だけは唯一、クリーントーンで全編弾き通しています。
何のエフェクターも加えなかったのは、シンプルな音色(おんしょく)にしたかったのはもちろん、嘘偽りなく飾らない素直な心情を吐露する曲でもあるためです。
結果的にそのおかげで、浮遊感あるこにーちゃんのギターが、ぼくとリズム隊に生まれた隙間を満たしてくれるような効果も生まれたので、ボーカルギターが主張し過ぎないという基本の大切さや、クリーントーンで弾くテレキャスターの粒立ちの美しさを再認識できました。
そんなぼくのギターですが、イントロで全員の音が鳴り始めてから3小節目4拍辺り (0分29秒~) のように、時々タイム感を少しずらして全弦をバラララッと弾いたり、細かなところでピッキングニュアンスを出しているところには着目(着耳?)して欲しいです。
このわずかな“ズレ”も、この曲に通底して漂う倦怠感や無気力感、苛立ちや憤りが胸の中で摩擦となって精神をすり減らしている様をイメージしています。
dino:
ある種何かを力説するところと対極にいる(諦観という意味で)と思うんで特に個人的に力説することは無いんですけど、聴いてくれる皆さんの人生における人間関係の煩雑なアレコレに思考を巡らせて聴いてくれたらいいかもなーとは思います。
江口:
この曲は気怠い感じを匂わせておきながら、後半で少し勢いづきます。
そこに「やっぱりこのバンドはそういう展開でくるよね」みたいな安心感が詰まっていて微笑ましいところです。
こにー:
間奏部分の感情の揺れ動きがどの様なものになっているか、言葉がないところだからこそ、たくさん想像して聞いてほしい曲。
それを意識するだけで、曲全体の聞こえ方が変わると思う。
神部:
『そうなんだ』はdinoが「バーバーのメンバーとして」、「ベーシストとして」、最も雄弁で饒舌になっている楽曲です。水を得た魚のように、とても活き活きと詩世界に内包された感情を弾き歌っています。それだけの思いがこめられていると、こんな風に音にも影響が出るのだということ、そして楽器が“歌う”という感覚を、聴き手のあなたにも感じ取ってもらえたらうれしいです。ちなみにぼくはイントロやアウトロのベースラインが口ずさめるほど好きです。
あとは、派手で目まぐるしいパフォーマンスに秀でたくみちゃん (※Dr.江口) が、この曲ではびっくりするぐらいリズムマシン然とした忍耐強いプレイをしているので、寡黙な職人じみたくみちゃん (※Dr.江口) の懐の深い一面を楽しんでください。
『そうなんだ』はぼくにとって、音楽を聴くことさえ疲れている時にも聴ける曲です。あなたにもそうであればいいなと願うし、夕暮れや夜、秋冬、静けさや寂しさを感じる時に聴いてみてください。そうすればきっと、ぼくがこの歌を描いた感覚を共有できることでしょう。
dino:
前回の更新で、この曲の成り立ちに関して結構慈雲が喋ってくれたけど、改めて聴き直すと、なんというかえらい自罰的な諦観という感じの歌詞に思ったりもするな。今はそれなりに歳もとって経験したことも増えたのでそう思えるんやろうけど、当時の自分たちは本当に自分の保護領域みたいなのから出るのが怖く、脆く傷つきやすい人間だったんだろうなと思います。
自分個人はそういうところから一歩くらいは抜け出しているんだろう (そうであってくれというのも含め) と思いますが、今現在、脆く傷つきやすい心を抱えた人たちに寄り添える、良い歌詞なんじゃないかと思います。
江口:
どんな曲でも沁みるかどうかはそのときの心境次第と思いますが、
個人的には許すとか許さないとか、近付くとか離れるとか、そういうことを一通り考え終わった後に聴いてみてほしいなと思います。
こにー:
歌詞についてというよりか、歌詞と共に歌い方含め、Aメロが非常に特徴的やと思っている。気怠く、淡々と始まるんだけど、低い帯域の慈雲の声って結構セクシーで好き。
神部:
『イーハトーヴ』回でも既に似たような話はしましたが、この楽曲は人を嫌ったり蔑んだり憎んだり拒んだりしておきながら、結局は自分自身を傷付けずにはいられなくなる心模様を歌っています。
しかし、誰かと笑い合える場処を求めたはずの『イーハトーヴ』と決定的に違うのは、「誰かと手を取り合うことを否定し、拒絶し、諦めていくしかない悲しみに自ら堕ちていくような、そんな不可抗力に絡め取られてしまう時がぼくらにはある」のだと歌っている点です。
あまり意識して聴いている人がいるとは思えませんが、この曲で一度だけ歌われるサビの、「それがそうなら きっとそうなんだ」という歌詞には、とても奥深い意味が込められています。ずいぶんと抽象的かつ象徴的な物言いではあるものの、この一節が持つ意味を聴き手のあなたにもぜひ一度考えてもらいたいと思います。
余談ですが、「ふさいでいった」と「アウトサイダー以下」で韻を踏んだぼくはすごいなあと今でも自惚れています。こんな韻を思いつく人間はおそらくどこにもいないのではないでしょうか。
それと、『そうなんだ』には実は隠し歌詞があって、ライブの時だけはいつも、楽曲の最後に
「そうなんだ 違う生き物だから おしまいさ」
と付け加えて歌っていました。これは「ライブに来てくれた人だけが聴けるアレンジ」というサービス精神的な意味のものでもあり、また同時に、この歌の結論がどこに落着するのかを端的に種明かししたものでもあるのでした。
『そうなんだ』 ランキング
dino: 1位
神部: 4位
こにー: 5位
江口: 10位
江口:
俺はメンバーの中ではメンタル強度が高い方なので、それが反映されてランキングが低いのかも(笑)。
こにー:
個人的には自分のプレイも結構好きやし、思い出なんかも結構あるけど、良い思い出ばかりではないというのが原因で半端になっている気がするな。
ほんと、自分のプレイはかなり好きなので、僕のギター聴いてください。
神部:
ぼくは思い入れ度で上位3つを選んだから、楽曲として単純に好きなのは『そうなんだ』が実質1位……みたいな感覚で4位になったけど、dinoは前半記事でああ言っていただけあって、堂々の1位だね(笑)。
dino:
そうやなあ、自分の場合は思い入れも楽曲としても堂々の1位なのでダブル受賞やな(笑)。
なんやろうなあ、楽曲としてもシンプルに好みなんやけど、20代前半の精神状態をかなりこの曲に支えられた部分も大きいから、そういう事も順位というか、楽曲への思い入れにはかなり影響してるかもなあ。
神部:
なるほど、どっちの意味でも1位か(笑)。
この曲に「えぐられた」ならまだ分かるけれど、「支えられた」って言ってくれるのはdinoぐらいだろうなあ。
ぼくはただdinoと自分自身のわだかまりをぺっと吐き出して見える形にしただけ。でも、言語化されていない葛藤や逡巡を表象化して認識し直すことで傷の正体に気付けるというか、それ自体が一種のセラピー的なプロセスになり得るのかもしれないね。
(※Listen in browserをクリックでこのまま再生できます)
神部:
今回は最後に、再生速度200%の『そうなんだ』の音源をお届けします。
ぼくの声がザ・フォーク・クルセイダーズかコロ助のようになってしまっているのはご愛敬というか、ご笑納(?)いただくとして、そもそもなぜこんなものをアップロードしたのかと言うと、再生速度を2倍速にしてピッチを上げるだけで、普段は意識して聴いていないベースの動きや、ギターの音色の美しさを感じやすくなるからです。
ぼくはリハビリテイションをリリースした当初からずっと、『そうなんだ』の2倍速バージョンをみんなに聴いて欲しい、と思っていました(ようやく念願が叶ったのです)。
これを聴けば、あなたはすぐに気が付くはずです。
『そうなんだ』という曲が、実はとてもきらびやかな旋律で、レトロゲームのBGMのような可愛らしささえ漂うオケなのだということを。
歌うようにのびのびと跳ねるdinoのベースラインも、音の粒が引き締まって、どんなプレイをしているかよく聴き取れることでしょうし、こにーちゃんの不可思議で幽玄なフレーズも、この速度でなら、よりはっきりと形と流れを捉えやすくなるはずです。
(ぼくの個人的なおすすめポイントは、33秒や54秒辺り、ぼくとこにーちゃんのギターが相互に響き合って、透明な音の風がきらめくように感じられる箇所です)
言うまでもなく、ぼくらはゆったりとしたテンポがベストだと思ってこの楽曲を制作した訳ですが、こんな風に少し突飛な方法を取ることで、逆に今までになかった発見や刺激を得られる場合もある……ということを知ってもらうのも、それはそれで音楽の楽しみ方の一つに数えてもいいのではないでしょうか。
あまり『そうなんだ』を聴いていない、好きではないという人にこそ、ぜひ聴いてもらいたいです。神部コロ助を笑いつつ、『そうなんだ』が持つ曲の構造の面白さや、音の響きのきれいさを楽しんでもらえたらうれしいです。
それでは、また次回お会いしましょう。
目次
― 【前半】 ―
1.自分にとっての『そうなんだ』
▶バーバー始まりの曲
2.楽曲制作時のエピソード
▶鶏が先か卵が先か
▶こにーは偉大
― 【後半】 ―
3.音像にこめた意図
4.個人的に力説したいこと
5.歌詞について
6.メンバーランキング
7.おまけ
神部:
「ぼくの、ぼくによる、dino (とぼく自身) のための歌」。それが『そうなんだ』です。
日常的に用いられる話し言葉をタイトルに選んでみたり、サウンドはマリン系 (※神部独自の定義) にもかかわらず歌詞と展開がダウナー極まりない気怠さだったり、それでいて最後はグランジ的に感情だけが爆発したり……という摩訶不思議な構造のこの楽曲は、案の定めでたく『薄氷』と並んで
「2大リハビリ不人気曲」
の称号を冠するに至りました (※自社調べ)。
けれど、ぼくはこの歌がとても好き、いや、好きとか云々といった次元を超えています。ぼくにとっては、dinoへの贈り物であると同時に、ぼくの半身のようなフィット感のある楽曲です。こにーちゃんが加入して、いちばん最初に合奏した曲でもあるので、そうした思い入れも強いかな。
リハビリ発売から8年が経過した今、ぼくがいちばん聴いているのはこの曲かもしれません。
dino:
「バーバーの楽曲で一番自分っぽい曲を選ぶなら?」
と聞かれたら間違いなくこの曲を秒で選びます。個人の趣味の範疇を出ないと言われたらそれまでですが、メロディー、コード感、アレンジ、歌詞、どれを取っても自分すぎて逆に笑けてくるくらい。墓まで持っていきます。
こにー:
結構思い出深い曲だなぁ。バーバーで初めてスタジオ入る前にハーモニクス使った面白いフレーズができて、個人的新境地やったし。細かくは語らないけど、ライブで泣きながら弾いた事もあったな。いろんな場面でいろんな感情を作ってきた曲。
江口:
ダウナーな箸休め、という感じ。曲の宛先が存在していて割り込む余地が無いからなのかは分かりませんが、不思議なもので、演奏するときは重力を感じながら、要所でディノさんを凝視しながら叩かないと迷子になってしまう奇妙な曲でした。
神部:
アルバムでは5曲目だけど、バーバー4人は『そうなんだ』から始まったんだよね。他者との関係性を諦めていく楽曲でスタートしたぼくらって、ある意味すごいバンド。
dino:
本人も言及してるけど、こにーちゃんが加入して最初のスタジオでやったんやっけな。曲自体は『トゥルーエンド』なんかと同じく3人時代に既に演奏してたけど。慈雲の言うように、心機一転のタイミングでこんな内容の曲いきなり持っていくのもある意味すごいね(笑)。
神部:
そもそもどうして『そうなんだ』から着手しようってなったんだっけね。スタジオ入りする前にいくつか送った音源の中から、こにーちゃん本人が先に考えてきたから……とかだったかな。
dino:
どうやっけね、もはやなんでかは覚えてないな……。結構アレンジとして固まってたからとか?
こにー:
そうやった気がする。他のは基本的にスタジオで合わせて作るって言ってたんやけど、これはほとんど出来てたから。
神部:
そっか、やっぱりそうだよね。
実を言うと、初合わせの日にこにーちゃんが鳴らした『そうなんだ』のフレーズを聴いた時、初めはまったく理解できなくて、
「ん? こにーちゃん、本当にギター弾いてる?」
って思っていたのはないしょ(笑)。
リードギターはキャッチーなメロディやリフを弾くだけではなくて、空気感そのものを作り出したり奥行きや深みをもたらす役割もあるんだって肌身で実感したのはこの曲のおかげだったかな。『そうなんだ』のギターはスルメだと思う。
江口:
こにーちゃんはリードギターであり空間デザイナーなんやと思うわ。縁の下から持ち上げるタイプの。
神部:
いいたとえだね、分かりやすい。
リードギターは目立つ要素が強く出てしまうと思われがちだけど、『そうなんだ』ではこにーちゃんの空間を彩る技能がよく表れていてると思う。
THE VESPERSから3人でのBAA BAA BLACKSHEEPSに変わっていこうとした中で『トワイライト』・『トゥルーエンド』・『夢の出口』・『そうなんだ』が生まれたんだと思うと、当時のぼく(ら)が精神的に相当参っていたのが分かるし、その懊悩に呼応するようにこの時期からぼくのソングライティング術も開花していった気がする。
(※Listen in browserをクリックでこのまま再生できます)
ただ、曲だけは増えていっても、伴奏面での拙さや音楽的な豊かさに欠けたりと行き詰まりを感じて窒息しかけていたから、こにーちゃんが加わって音像に深みと説得力が増した時のよろこびと安堵は、計り知れなかったね。
神部:
『そうなんだ』は、こにーちゃん加入前の3ピース期に創った曲です。
THE VESPERSとして活動を続けられなくなった後、3ピース編成での活動を見切り発車してしまい、今後の展望も分からぬまま途方に暮れていた時のこと。ある日、ぼくとdinoはJR京都駅で落ち合い、喫茶店で語り合っていました。
その頃のdinoは対人関係でいろいろと思い悩んでいて、ぼくに胸の内を明かしてくれました。ぼく自身も当時、鬱病を抱えながら過ごしていたので、dinoの語る思いに同調ないし共感するところが多々ありました。今でこそ細かな内容は薄れてしまったけれど、二人とも人との関わりに疲れ切っている状態だったということははっきり覚えています。
後日、ひとりギターを爪弾いていたら、適当に鳴らした音が妙に気になり、いつしか繰り返し繰り返し同じ音を弾くぼくがいました (それがイントロのアルペジオ)。
それまで一度も鳴らしたことのなかった音色に訳もなく惹かれ、気が付いた時には出だしの歌詞とメロディが一緒に降って湧いてきたように自ずと口から発せられました。「大体」、という言葉から即座に繋がったのは、映画『マルホランド・ドライブ』の台詞に似た一言。
ぼくは自分自身の中に長年積もり積もったわだかまりを一つ一つ言葉に変えながら、それらが同時にdinoの打ち明けてくれた思いにも相通じるものであるのではと考え始めていました。
この曲は、ぼくとdinoとの心を合わせて出来上がっていったんだなと思います。
ちなみに映画中の台詞は
“A man's attitude goes some ways, the way his life will be.”
(意訳:人は自分自身の行いによって相応の報いを受ける)
というものです。
こにー:
楽曲制作時というかサビのフレーズ制作時の話。
元々前身バンドや慈雲のソロとかも聴く機会は結構あって、その中でも慈雲ソロ時代の『ガラークチカ』のイントロがハーモニクスで始まってるのが印象的だったのを思い出して、加入したらハーモニクスと実音を混ぜながら何か出来ないかなーと思ってたのね。
今でも思いついた瞬間の光景は鮮明に覚えてるんだけど、当時住んでたマンションで畳の部屋に寝っ転がりながら、窓から柔らかい光と風が入ってくる状況で、音源聴きながら手を動かしてたらほぼ一発で出てきた。
一聴すると気味の悪いフレーズだけど、アンサンブルで聴くと
「あれ、なんか変だけどハマる」
みたいなのが狙い通りにできたと思う。
このフレーズがサッと出来た時に、多分バーバーでギター弾いていけそうやなという、感覚があった。
これはかなり面白いと思って、メンバーに早く聞いてほしかったんやけど、スタジオで合わせたら意外と反応が薄くて焦った(笑)。
江口:
曲中盤の一番盛り上がる部分は制作時、ライブで演奏する度に温度感が上がっていって現在のようになったはずです。
当時のカンベさんとディノさんは精神的なベクトルが同じ方向にあることが多かったので、作曲時の感覚が共有しやすいのと同時に、ライブでの力の入り方も似ていたのかなと思います。
dino:
他の曲たちもだんだん記憶が薄れていってるけど、『そうなんだ』はマジで印象薄いかもしれん……。
一応目標とする音像みたいなのはなんとなーく3人の時からあって、わりとその目標に関しては達成出来てると思うんやけど、何故そういう音像にしようみたいになったのかが全然思い出せん……。
この曲って歌詞が先に出来上がってたんやっけ?
神部:
dinoくんの疑問にお答えしたいところだけれど、ぼくも覚えてないなあ。曲を作る時は、歌詞を先に書いた場合もあれば、浮かんだメロディに言葉を当てはめていく場合もあったし、全部同時に“降りてくる”場合もあって、記録自体を残してないからどの曲がどうだったかってことは分からないんだ。
2012年4月25日に名古屋club rock'n'rollで演ったライブ音源を聴いたら、3ピース期の『そうなんだ』はこにーちゃんのギターが存在しないだけあって、やっぱり面白味に欠けてた。ただ、この時から既にdinoとくみちゃん (※Dr.江口) の伴奏がほぼ完成していたり、ぼくもコーラスエフェクターで弾いているところからすると、割と早い段階からイメージは固まっていたんだなと思うよ。
(※Listen in browserをクリックでこのまま再生できます)
dino:
確かに、こにーちゃんが加入した後でも、間奏部分のコードとか尺の見直しはあったけど、土台のアレンジを大きく変えたって事は無かったかな。
今思えば、ある程度アレンジの固まった楽曲に上手いことギター乗っけてくれたんやなあと。上手い事乗りすぎて前項の
「あれ? こにーちゃん本当にギター弾いてる?」
に繋がってくるんやけど(笑)。
神部:
うん、せいぜい2番Aメロの出だしや、その後の間奏ぐらいだよね、変わったのって。
そうそう、本当にこにーちゃんのギターは違和感なく溶け込んでるよね。まるで元からそういうオケだったんじゃないかってぐらい。本人にも言われちゃったけれど、当時のぼくらは全然ピンと来てなかったのが悔やまれるね(笑)。
dino:
まあその辺のズレを埋めるためにも、しばらく修行期間も取ったりしたね……(笑)。
神部:
そっか、そういうこともあっての修行期間だったっけ(笑)。
神部:
それにしてもこにーちゃんのギターフレーズが『ガラークチカ』きっかけとは知らなかったからびっくりだったな。
dino:
そうやなあ、『ガラークチカ』も確かにハーモニクスが印象的な楽曲やけど、『そうなんだ』のこにーちゃんのフレーズとはまた種類が違うからなあ。元々アイデアの出所は慈雲の曲なんやろうけど、それをこにーちゃんが飲み込んで生産したものがそうなんだになってると思うと、メンバーが増えることによるマジックありがてえなと低音しか出せない人間は思うわけです(笑)。
神部:
そうだね、むしろ『ガラークチカ』のハーモニクスは『おまじない』に転用した通りシンプルなものだったのに対して、こにーちゃんのフレーズは色とりどりの光が次々に瞬くような複雑さだもんね。
低音だけじゃないよ、当時はよく『そうなんだ』のコーラスもしてたじゃない(笑)。
dino:
当時は……ウッ頭痛が……。
神部:
あれっ、触れてはいけなかった……!?
dino:
いや、大丈夫や(笑)。
神部:
焦った……(笑)。
江口:
(カンベとディノの会話に補完する内容が無いと判断した江口は、満足気に微笑むと静かに目を閉じた。どうやらコスモを感じているようだ……)
こにー:
割と自分的にはクリティカルなフレーズやったけど、あまり誰からも褒められなかったなぁ。
もうちょっと弾いてる時にドヤ感出しとけば良かったかな。
dino:
当時は直接的なもの以外はあんまわからんかったんやろなあ……。
今でもわかってるかと言われたら微妙なとこやが。
神部:
今聞くとすごいなーって思うんだけどね。ああいうフレーズを自分の曲に当ててもらうって頭がまるでなくて、おおかた「リードギターはキャッチーなもの」って固定観念にとらわれてたんだろうなと。当時はちゃんと分かってあげられなくてごめんね(笑)。
江口:
みんなよく覚えてるな。
3人体制になった直後は明暗が極端な曲の原型がたくさんできていたので、その中でどちらにもそこまで寄りすぎてない『そうなんだ』は進めやすいっていうのもあったのかな?
dino:
確かに耳鳴りとかも昔はより静と動がパッキリ分かれてるアレンジやったしなあ。そういう意味ではずっと平熱みたいなテンションのこの曲は進めやすかったんかもね。
神部:
後にも先にも、あそこまでメロウでローテンションな曲って『そうなんだ』が唯一だし、ぼくらにとっては初めての試みだったはずなんだけれどね。たぶん楽曲への惚れこみようがすごかったdinoが決め打ちのベースラインを作ってきたこともあったりして、くみちゃん (※Dr.江口) もビートの構築が早かったんじゃないかな。
江口:
曲ができるときの経緯を少なからず横で見ていたこともあって、いつもはカンベさんを頂点にした三角形とすると、『そうなんだ』はスリーピース編成の配置通りで、ディノさんも前に出た逆三角形という感じ。
これが尖った三角形だったから、コニーちゃんが入って上手くバランスを整えてくれたのかな(笑)。
こにー:
いやん、照れちゃう!
もっと褒めてぇぇぇぇ!
dino:
今回こにーちゃんアゲ回やな(笑)。
神部:
こにーちゃんのテンション(笑)。
後半へつづく
(次回更新は10月25日)
告知から早くも8ヶ月、長らくお待たせしました。
去る 2021年11月のお知らせの記事 (文字クリックでジャンプ) より、かねてから告知していた 『リハビリテイション』制作以後の楽曲デモ音源公開 について、ようやくその第一弾をお届けします。
第一弾はBAA BAA BLACKSHEEPSの聴き手すべてに耳を傾けて欲しい、バンドと聴き手双方にとってのテーマソングになるべくして書かれた 『Blacksheep』 です。
これらのデモ音源はすべて、BAA BAA BLACKSHEEPSが、あくまで自分たちの確認用としてクリックも無しに生演奏の合奏で一発録りしたものです。
かつてライブを観に来てくれていた人も、CDや動画でしかぼくらの音楽に触れたことのない人も、誰も所持していない、素のままのBAA BAA BLACKSHEEPSの演奏音源ですから、きっと誰にとっても新鮮な気持ちで聴いてもらえることと思います。
これまでも既に『明るい曲』、『ヴァイタルサイン』、『春とモノクローム(弾き語り)』の3曲は動画でアップロードしてきました。今回の動画からは試験的に歌詞字幕も加えたので、より一層BAA BAA BLACKSHEEPSの詩世界に浸ってもらえるのではないでしょうか。
なお、本日より順次公開していく一連のデモ音源は、いずれも録音状態が芳しくなく、スピーカー再生だとスカスカにしか聞こえないため、なるべくヘッドホンかイヤホンを着けた状態でのご視聴をおすすめします。
しかしそれでも、人によっては聴きづらく感じてしまうかもしれません。正規リリース音源を届けられないことがとても心苦しい限りですが、これまで音源で聴いてもらえる機会が全くなかった楽曲ですから、この歌と共に、あなたがわずかでも有意義な時間を過ごしてくれるよう願います。
また、 You Tubeチャンネル (文字クリックでジャンプ) ではなく、ブログから閲覧してくれている方のために、『Blacksheep』動画内の説明文を以下に転載しておきました。セルフライナーノーツ記事のように、今回の楽曲についてもメンバーからのコメントを掲載したので、そちらも併せて読んでもらえるとうれしいです。
2015年11月8日、スタジオ246KYOTOにてライン接続によるファーストテイク録音。
アルバム『リハビリテイション』全国発売後、BAA BAA BLACKSHEEPSが新曲を制作していた際、メンバー間での確認のため、合奏で一発録りに臨んだデモ音源を特別公開。
全4音源の内、公開第一弾はバンド名の由来となった社会心理学用語、「黒い羊」の意である『Blacksheep』。
本レコーディングは未だ実現していないものの、ボロフェスタ2014をはじめ様々なステージにおいて、バンドそのものを象徴する楽曲として高らかに演奏され、その力強いメッセージ性とドラマチックな展開から数々の称賛を浴びた。
公開を記念して、バンドメンバーより楽曲についてのコメントも掲載。
Vo.Gt.神部:
ぼくら4人がBAA BAA BLACKSHEEPSとしてステージに立ち、音を鳴らし声を響かせる、その道程と地平の遠く向こう、いつも思い描いていた光に名前を与えた、紛うことなきぼくらの“アンセム”。
「仲間外れにされたり、アイデンティティに悩み苦しんだり、出口のない毎日に閉じ込められた片隅の“黒い羊”にとって、すぐそばにあって勇気づけられるような、その人自身の“テーマソング”として共に歩めるような歌であって欲しい」。
そんな特別な祈りを込めて書いた歌です。
バーバー初の英題・英詞、そしてサウンドから、90年代のブリットポップやJ-ROCKが醸し出していたあの空気感を、少しでも感じてもらえたら。
Gt.こにー:
僕らの曲の中ではシングアロングしやすい、サビの頭で歌詞がリピートするという珍しい楽曲。サビの部分でステージの上から、フロアを見るのが好きでした。
僕らのバンドはあまりシングアロングは似合わないかもしれないけど、この曲に関しては、群れの中で傷ついた人たちが、ライブハウスに集まって声を上げられる優しい曲だなと思う。
Ba.dino:
ひとつのバンドが、そのバンド名 (の一部) を冠した曲を作るってことは、ある意味ではそのバンドの真の姿に近い楽曲だと言えるかもしれません。楽曲に優劣があるとは思わないけど、我々の歴史の中ではちょっとリボンをつけたくなるような、我々そのものに少し近い、そういう曲かもしれませんね。
Dr.江口:
色んなライブの〆でやってた曲で、それぞれ思うところあるから一言にまとめるのは難しいけど。
ちょっと喧嘩して雰囲気悪い中ステージに立ったりとか、練習時間を取れてなくて調整に不安が残ってたりとか、それでも演奏し始めれば皆と曲の中で手を繋いで歩いていけます。
次回第二弾のデモ音源公開日は未定ですが、できるだけ今後のセルフライナーノーツ記事更新と同時進行で公開していきたいと考えています。
次回公開の際には、またこのようにブログ記事内でも告知しますから、時々チェックしてみてください。
それでは、また次回お会いしましょう。
SLN 第5回 『そうなんだ』へつづく
(次回更新は8月19日予定)
(動画背景画像・ブログ記事カバー画像はShutterstock.comのライセンスに基づいて使用しています - Artist : fotografaw)
▶ 身近な人間からの重圧 ◀
💾くずきり。🎀@mamoruneko
え?!薄氷不人気なの?!うそでしょリハビリテイションで1.2を争う大好きな曲です。
2018年06月17日 17:03
💾くずきり。🎀@mamoruneko
BBBSの薄氷って曲のさ、 「さあ 幸福な人生をおくりましょう 成功者だけ」がガッツリ刺さるわけですよ。
2018年06月17日 16:53
💾くずきり。🎀@mamoruneko
未だにずーーーっと薄氷聴いとるし薄氷が不人気って信じてない
2021年11月13日 21:20
💾くずきり。🎀@mamoruneko
薄氷が不人気なのやっぱり腑に落ちひんよ⁉️⁉️⁉️⁉️⁉️ まあ一番好きなのはヴァイタルサインか夢の出口か迷うところだけど、薄氷めちめち好きなんだけども⁉️⁉️⁉️⁉️⁉️⁉️
2021年03月12日 20:10
💾くずきり。🎀@mamoruneko
BBBSまじで薄氷が不人気なのわからん!!! ヴァイタルサインの次くらい好き
2020年12月10日 11:46
💾くずきり。🎀@mamoruneko
夢の出口から入った者ですが、薄氷とヴァイタルサインが個人的最強曲ですナ👊
2020年05月21日 22:23
💾くずきり。🎀@mamoruneko
音楽全然わからんからこれが何の音とかは言えんけど、薄氷のイントロ?のテケテケしてるギター的なやつとか、「思っている」のときに入る叫びみたいな氷が割れるみたいな音とか、耳鳴りのまじで耳鳴りみたいな音とか、そういう、楽器なのに楽器じゃないなにかに聞こえる音があるのがめちゃくちゃ好きで
2022年05月19日 23:16
💾くずきり。🎀@mamoruneko
個人的にわかりやすく激しい!早口!気持ちいい!みたいな曲が好きなのに、BBBSさんてそういう類ではないのに一番好きな音楽だからなんか ウオー
2022年05月19日 23:18
メンバー全員でうれしいね、ありがたいねと話しながら拝読しました。そんなくずきり。さん、今回のセルフライナーノーツ記事の更新も楽しみにしていてくださったようです。
💾くずきり。🎀@mamoruneko
薄氷楽しみにしています!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2022年05月19日 22:52
💾くずきり。🎀@mamoruneko
ばり読んどるから私のために書いて(なんてわがまま……)
2022年05月19日 22:52
かつてたくさんの人がぼくらの音楽について思いをしたためてくれていたとは言え、まさか今でも楽曲に対する思いを語ってくれる人の存在があるだなんて、うれしさはもちろんですが、同時に驚きも隠せません。
作品を生み出し、ひとたび世に出してしまえば、後のことは聴き手に委ねるしかない。今回のSLNではまさにそんなことも話題に上りました。
しかしこうして、自分たちさえ不憫に思った曲でも、確かに受け止め、味わい、好きだと感じ、その思いを表してくれる人がいるんだという事実を、今でも実感させてもらえるBAA BAA BLACKSHEEPSは幸せ者です。
思わず笑みのこぼれるような元気いっぱいの「好き」を表現してくださった、また一連のツイートの掲載許可もくださったくずきり。さん、ありがとうございました。
本編で語り忘れていました。
2018年にVo.神部がツイートしたBAA BAA裏話で、『薄氷』のアイディアの元になったのは一枚の絵だったというお話です。
Radioheadは世界中のミュージシャンに影響を与えた偉大なバンド。ぼくらもしっかり影響を受けていました。
Radiohead『OK Computer』のアートワークとしてスタンリードンウッドが描いた一枚のイラスト。それをヒントにして生まれたのが『薄氷』。Thin Iceで薄い氷。
— 神部慈雲 (@Kanbe_Jiun) May 16, 2018
BAA BAAの全楽曲の中で最も評価されなかった曲ではあるものの、メンバーは割とお気に入り。もうライブで演ることはないと思う。#BAABAA裏話 pic.twitter.com/5DEjDIAAQj
(文字クリックでジャンプ)
目次
― 【前半】 ―
1.自分にとって薄氷とは
▶ 蔑ろにされた『薄氷』
▶ 身近な人間からの重圧
(文字クリックでジャンプ)
――――――――――――――――――――――――――――
目次
― 【対談編 後半】 ―
4.音像にこめた意図
▶ テンポ感の難しさ
▶ ジャケットの親和性
5.個人的に力説したいこと
▶ 歌詞の視点
6.歌詞について
7.メンバーランキング
― 【真相編】 ―
8.神部の一人語り
――――――――――――――――――――――――――――
4.音像にこめた意図
神部:
音像、というよりもぼくの場合は詩情について。
この曲に込めたかった最大の感情は “切なさ” です。歌われている言葉の一つ一つやぼくの声色から、聴く人が少しでもセンチメンタルな痛みを覚えてくれたらいいなと思っていました。
(実際に聴き手から得た反応として、死別の経験、忘れ難い人との望まぬ別れ、それらがもたらした悲しみや未練を想起させられたという声もありました)
音像については、曲全体を通して 「走馬灯」 のような、過去の記憶と現在の思念が頭の中で何度も交錯する目まぐるしさを感じさせられるものにしたいと望んでいました。
「あの人に会いたい」 、けれど 「もう会えない」 、そんな空虚さや惨めな現実から逃避しようとする焦燥感にも似た渇望、それらを曲調からも感じ取れるようにと、旧版よりBPMを上げた訳です。おかげでメンバーはレコーディングもライブも大変だっただろうけれど(笑)。
ぼくはちょっと頭の作りが普通と違うので、思わず身体が揺れ動くような疾走感のある曲調でも、進行と歌詞次第で勝手に切なくなったり涙してしまえる人種なのですが、聴き手の方はどうだったでしょうか。
ちなみに2番Aメロ後半 (1分34秒~) 、
「鏡の向こうに嫌気が差す夜更けには 届かない手紙をしたため続けているよ」
という歌詞のバックでぼくが弾いているきらびやかなフレーズは、おそらく歌やこにーちゃんのギターに隠れて、ほとんどの人が聴き取れていないんじゃないかなと思っています。ぼくの感覚では、透明感とか光を表したい場合に高音を用いるのが主ですが、 『トゥルーエンド』 では違う意味を与えました。
どこにも届けられない思いを胸の中で言葉に変えては、それらを幾重にも募らせていく内に、やがて目元から溢れ出していった一滴一滴。鈴のように針のように高く鋭く鳴らした音は、胸の痛みとその表出 = 涙 を意図しています。
こにー:
『ヴァイタルサイン』 と似て非なる感じの音像にしていて、さらにそこから2本のギターが絡む分、ちょっと艶っぽい感じにしている。
間奏から (2分28秒~) の奇妙な音は、理想と現実とか絶望と希望みたいなものを色に置き換えて、最初はまだらになった奇妙な色が混ざることで一色になっていくイメージで、最後のサビ (一色) がよりクリアに聞こえるように、敢えてすごく奇妙な音に作り込んでる。
dino:
音像に関しては正直前回の 『ヴァイタルサイン』 の時にも触れたけど、アルバムを通して比較的プレーンな音像になってます。フレーズ的には、イントロやAメロ部分はちょっと翳りのある雰囲気に合わせてベトッとしたベースラインを意識したのと、サビ部分はドラムフレーズの手数の細かさを借りて、気持ちのびやかなフレーズをあてることでなんとなく都会の夜みたいな雰囲気を演出しようとはしているかなあ。
江口:
流れるように聴いてほしいところと、流れを止めて詰まったようにしているところの落差を意識しています。
これらが切り替わるタイミングでは強く意識しないと、テンポとか意図しない部分に違和感が出たり、逆に意図したような違和感が出せなかったりするというのも。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ テンポ感の難しさ ◀
こにー:
江口もリズムについて言ってるけど、この曲は結構リズム意識して練習してた気がするよね。
神部:
確かにこの曲はスタジオ練習でも全員でクリック聴きながら合わせたりしてたね。
イントロがハーフテンポ、2番サビ終わりからまたハーフテンポで、間奏はいったんリズム隊が消えて、大サビで盛り上がった後、またアウトロでハーフテンポになったり……と大忙しな分、全員のテンポ感の統一とキープにとにかく苦戦した思い出があるね。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ ジャケットの親和性 ◀
神部:
あとdinoの話だけど、イントロ~Aメロの 「翳りのある雰囲気でベトッとしたベーライン」 とか、サビは 「伸びやかなフレーズで都会の夜みたいな雰囲気」 っていうところがぼくのイメージしてる通り過ぎて改めてびっくりした。
『トゥルーエンド』 は人工的な光に囲まれた夜の片隅で木漏れ日に焦がれているような詩世界の曲だから、dinoのこういうねらいでもアーバンな空気を醸し出せていたらいいよね。
(どうでもいい話だけど、『トゥルーエンド』 はぼくの音楽の中では 『夜間飛行』 と並んで2大 「夜の高速道路で聴いて欲しい曲」)
dino:
そう言っていただけるとありがたい(笑)。
ちょっとズレるけど、『リハビリテイション』 のジャケットの色味に一番近いのが 『トゥルーエンド』 やと自分の中で勝手に思ってるわ。
背景に都会の灯りがあって、歩道橋に佇む少女が飛んでいったマフラーを見つめて (?) いるという構図やと思うけど、結構 『トゥルーエンド』 の世界観と個人的にはマッチするなーと思ってる……という余談でした。
神部:
分かる。とっても分かる。
どちらかと言うと怖さや寂しさを感じてしまうような都会の夜の中で、おぼろげな街灯に照らし出された少女の孤独感がよく表れた作品だよね。真っ黒と見せかけて黄色が混ざったダークグリーン調だったり、色味や明暗のバランスは 『トゥルーエンド』 の持つ印象にぴったりだと思う。
リハビリの時は麺類子さんにはあえて何も指定せずにご本人にお任せして描いてもらって、『昨日のおとしもの』 の時と同じ夜の絵になったのがうれしかったな。分かってくれてるなあ、って感動してた。
きちんとぼくらの曲の詞や音像から着想を得て描いてくれたのが伝わってきたし、ジャケットはぼくの予想を上回る形で 「リハビリテイション」 というテーマを表現してくれたと思う。麺類子さん、お元気にしてるかな。
dino:
そういや特にお題というか縛りとか無しで描いてくれたんやったっけ。
本当に聴き込んで、理解して描いてくれたんやろうなというのがどちらの作品からも伝わるよね。 『リハビリテイション』 は特に、このジャケじゃないとって感じがするわ。
黄色ってバンドのイメージ的には (こにーちゃんのタイパンツ以外) あんまり持ってなかったんやけど、初めてジャケットのアガリ見た時、これやなあってなった記憶ある。
こにー:
ジャケットのこれやな感は確かにそうね。個人的には 『トゥルーエンド』 ももちろんだけど、このアルバムを通して聴きながらジャケットを見てると、曲ごとにジャケットの印象が変わる気がしててすごく不思議な感じ。
それはとても素敵な事だし、このアルバムを好きでいてくれる人たちも同じなんじゃないかなーと思ってる。
神部:
そうそう。 『昨日のおとしもの』 の時の感動を信じて、麺類子さんにあえてお任せしたよ。
実はぼくも 『リハビリテイション』 が黄色を基調とした画で上がってくるとは思ってなかったんだよね。それでも後から後から 「これしかなかったな」 って実感が湧いていったんだから不思議。
振り返ってみると、リハビリって自分が思っていた以上に暗くて悲しいアルバムで、優しさとか透明感みたいな色調とはかけ離れていたんだなって気が付いて。そう思うと、麺類子さんはもしかしたらぼくら以上にこのアルバムの持つ表情を読み取ってくれていたのかもしれないよね。
こにーちゃんの話もそう。曲が絵の印象を変えるのか、絵が曲の印象に寄り添ってくれるのか、聴く人と見る人の心を映す鏡のような面白さがあるよね。
単一のアルバムのジャケットとしても見れるし、各曲ごとのビジュアルとしても見れる、そんな魅力のある絵だと思う。
江口:
そういえば 「夜の高速道路で聴いてほしい」 ってずっと言ってたな(笑)。
神部:
9年経っても言い続けていくよ(笑)。
その2大ソングについては、そもそも自分が高速道路で聴きたくて創ったところもあるからね。
――――――――――――――――――――――――――――
5.個人的に力説したいこと
神部:
全楽器隊が、バーバーの楽曲中トップクラスの難度とBPMで演奏するこの曲は、どのパートも隅々まで味わい尽くして欲しいと思うほど緻密で凝った作りになっています。
跳ねるような疾走感あるビートを盤石に固めてくれたリズム隊。
dinoの粘り気のあるベース音は休符の取り方が粋だし、1番Aメロと2番Aメロの譜割りの変化の面白さ、サビやアウトロなど聴かせどころでの躍動感は文句なしです。
くみちゃん (※Dr.江口) は一曲の中で見本市のように様々なビートを刻んでいる点や、これでもかと言わんばかりにねじ込んでくる精緻かつ圧倒的なフィルに注目 (注耳?) してください。特にラストサビ終わり、「あなたに会いに行くよ」 からの怒涛のフィルインは神がかり的です。
ぼくもこの曲では珍しくギタリスト然とした演奏をしているので、アルペジオのピッキングニュアンスを感じてもらえればと思いますし、2番目Aメロ後半の美しさにも気付いてもらえたらうれしいです。
こにーちゃんはもはや言わずもがな、『トゥルーエンド』 においてもう一つの “歌” として詩世界を彩ってくれた手腕をつくづく讃えたいです。こにーちゃんのリフがなければ、この曲をここまで昇華することはできなかったでしょう。
こにー:
上でも書いてしまったけど、自分の中でのリードっぽいイメージを結構入れ込んだ曲なので、1番と2番のアプローチの違いとか、サビでの動き方など、リードギターに耳を向けて一曲通して聴いてみるとまた違ったストーリーが見えて来そうな感じなので、そういう聴き方を一度してみてもらいたいです。
dino:
意外に思われるかもしれませんが、バーバーの中では数少ない
「男女の関係性 (の成り行き)」
みたいなものにスポットをあてた珍しい曲。もちろん他にも 「君と僕」 みたいなモチーフの曲はあるんやけど、他の楽曲が生活の延長みたいな感じやとしたら、『トゥルーエンド』 は少しスパイスが効いてて刺激的な曲だなあと思ってます。
あと、「1.自分にとってトゥルーエンドとは」 で触れたような理由で録音版とライブ演奏版のベースのフレーズが一番違う曲というのも個人的にはあります、それが良いのか悪いのかは別として(笑)。
江口:
マルチエンディングが用意されているストーリーの中でのトゥルーエンドは通常、一度の試行では掴みとれないルートになっていると思います。
これは比較対象がない初回で確認されては困るという制作サイドの都合もあると思いますが、
「真実に到達するのは容易ではなく、また苦難の道を乗り越えたからといって必ず大団円が待っているわけでもない。けど進めるの?」
と覚悟を求められているようなメッセージにも見えますね。
個人的な言葉への見解ですみません、詳しくは当時そのあたりを力説していたカンベさんに委ねます(笑)。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ 歌詞の視点 ◀
神部:
dinoの言う通り 『トゥルーエンド』 はああいう視点で描いたからか、リスナーにも恋愛色が強めの歌として捉えられてる節があるよね。もちろんあらかじめそう受け取ってもらってもいいように書いたつもりだし、その点では想定内の反応だったな。
似たようなポジションに 『耳鳴り』 や 『明るい曲』 があるけれど、あの辺とはまた一線を画す位置にあって、確かにほどよいアクセントになってくれたのかもしれないね。
dino:
『耳鳴り』 とか 『明るい曲』 も似たようなポジションではあるんやけど、なんというかこの2曲は日常生活の中の苦悩とか葛藤みたいな気がするんよね。そういう意味では 『トゥルーエンド』 はもう少し違うレイヤーに居るというか。
何というか上記の2曲より 「関わり合い」 そのもの に重きが置かれてる気がするな、と。
神部:
そうだね。この歌詞を読んだだけでは 「僕」 と 「君」 がどんな関係性なのか具体的には分からなくて、せいぜい読み取れるのは
「再会を誓った後に引き裂かれ、そのまま離れ離れになった二人」
ってことぐらい。だからこそ聴き手がそれぞれの別離や未練、つまりは “自分だけの物語” を重ね合わせる余地が生まれると思ってぼくもああいう風に書いていて。
多種多様な他者との関わり合いの中で、心に深く刻まれた出会いと別れ、ただその一つを思い描ける一曲になればと考えていたから、dinoの印象は的を射ていると思うよ。
――――――――――――――――――――――――――――
6.歌詞について
神部:
ちょうど歌詞の話になったし、『イーハトーヴ』 や 『ヴァイタルサイン』 の時にはあまり触れられなかったから聞いてみたいんだけど、みんなは 『トゥルーエンド』 の歌詞について何かある?
江口:
ずっと思ってたんやけど、「湿気った風」 が吹いてる 「地下鉄」 って烏丸のこと?
神部:
そう。ぼくの中では京都市営地下鉄線と阪急線が交差する四条烏丸駅のことだね。市営地下鉄線も大概なんだけれど、特に阪急烏丸駅は年中電車が来るたびに埃っぽくて気持ち悪い風が吹いて、いつも気が滅入ってたんだ。そして京都市営地下鉄線も阪急線も、ぼくが本当に行きたい場所には絶対に辿り着かない路線でしかないって思いもあった。
『耳鳴り』 でも電車の描写が出てくるように、ぼくにとって近畿圏の公共交通機関は、
「望んでなんかいなかったはずの場所に来てしまった」
って感覚をもたらすものとして描かれるパターンが大半だね。
江口:
確かに!!
「猛スピードで走る特急」 = 止まらない = 烏丸 か!
めっちゃすっきりした(笑)。
神部:
あれ、烏丸は特急も止まらなかったっけ?
一応 『耳鳴り』 は竹田駅なんだけどね(笑)。でも西院とか大宮駅なら特急は止まらなかったから、よく過ごしてたあの辺も印象付いてる一部なんだとは思う。
dino:
『耳鳴り』 って勝手に京阪とか近鉄の丹波橋くらいやと思ってた(笑)。良くも悪くも俺と慈雲は学生時代にあの辺りに思い出あるしね……(笑)。
『トゥルーエンド』 に関してはこっちも勝手に京都じゃなくて東京とか首都圏かなーと思ってたわ。曲の雰囲気からかな? なんでかはわからんが……。
神部:
それだと完全にぼくとdinoの学生時代になるね(笑)。竹田駅も含めて、近鉄線にはろくな思い出がないなあ……(笑)。
あくまでぼくの中ではの話だし、曲を創る上では田舎から東京に上京した人をイメージして書いていたから、むしろ同じ近畿圏にいたdinoがそう感じてくれたならうれしいね。
――――――――――――――――――――――――――――
7.メンバーランキング
『トゥルーエンド』 ランキング
神部: 1位
こにー: 9位
dino: 10位
江口: 2位
神部:
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2022年1月19日から始まった 『リハビリテイション』 セルフライナーノーツ。更新が2ヶ月ぶりとなってしまいましたが、第3回は 『トゥルーエンド』 を語ってゆきます。
『ヴァイタルサイン』 回同様、今回もブログの文字数限界をオーバーしてしまったため、前後編+特別編に分けての投稿です。
前後半ではメンバーの一問一答と対談形式を織り交ぜた「対談編」を、また後日にはVo.神部が 『トゥルーエンド』 に隠された物語を語り尽くす「真相編」をお届けします。
――――――――――――――――――――――――――――
目次
― 【対談編 前半】 ―
1.自分にとってトゥルーエンドとは
▶ “ギタリスト”こにー
▶ セットリスト採用率の高さ
2.楽曲制作時のエピソード
▶ レコーディング観の変化
▶ メンバー間での指摘と提案
3.レコーディング時のエピソード
▶ “総監督”神部慈雲
― 【対談編 後半】 ―
4.音像にこめた意図
▶ テンポ感の難しさ
▶ ジャケットの親和性
5.個人的に力説したいこと
▶ 歌詞の視点
6.歌詞について
7.メンバーランキング
― 【真相編】 ―
8.神部の一人語り
――――――――――――――――――――――――――――
1.自分にとってトゥルーエンドとは
神部:
ぼくが詞を書き、メロディを乗せ、歌い、演奏する、それらの行為すべての動機を形にしたもの。たとえ誰になんと思われようと、この曲は
「ぼくが創らなければならなかった歌」
だと受け止めています (理由は真相編で後述)。
ぼくが生み出した楽曲の中で、これほど特別な思い入れのあるものはそうそうありません。歌詞に描かれている思いや状況からは様々な変化を経た今も、変わらず心のすぐそばに置いてある大切な一曲です。
この曲を聴きさえすれば過去の記憶や心象風景が色鮮やかに蘇るのも、ぼくの言葉と声に対し、それだけの音を飾り付けてくれたメンバーのおかげだと感じています。
こにー:
3人でのデモ音源があったので、そこからリードギターというものを音でも役割でも作る様にチャレンジした曲だった。元々リードギターというようなギターを弾くタイプのプレーヤーではないので。
dino:
バンド再編時からバンドの実態が流動 / 変化していくのに合わせて一緒に変化してきた楽曲。録音も2バージョンあるので、その時々の自分の中のモードがそれぞれのバージョンからわかるので、ある意味自分の合わせ鏡みたいな曲。
それゆえに曲と対峙する瞬間 (録音とかライブとか) 毎にその瞬間の自分がモロに出るので、手放しで「大好きです!」 とは言えない複雑な関係性の楽曲。
江口:
そう長くなかった3ピース期間にも録っている曲で、『夢の出口』 と並んで計り知れない苦悩が詰まった思い出深い曲。
ライブでは使い勝手の良い曲調だったのと初めて聴く人に受けが良い傾向だったというのもあって、打算の部分で頻出させているところもあったと思います。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ “ギタリスト”こにー ◀
神部:
ぼくらの音楽を長年聴いてくれていた人からしても、こにーちゃんが 「THE・リードギター」 的なタイプのプレイヤーではないってところは驚かれるかもね。でも 『トゥルーエンド』 に着手した辺りから既にその才覚と適性は十二分に見て取れたし、事実この曲でのこにーちゃんの果たした役割はとても大きいと思う。
dino:
こにーちゃんの真の姿というか、ソロ活動や前バンド時代を知ってる人からしたらバーバーでのこにーちゃんは “ギタリスト” 的な色がかなり前面に出てきてるプレイヤーに見えるかもね。そういう意味ではこにーちゃんのセンスと器用でなんでもこなせる所がかなり良く反映された曲のうちのひとつかも。
神部:
そうそう、正にその通り。
ぼくは今でも忘れないんだけど、こにーちゃんに
「こういう “ギタリスト” みたいな弾き方ばかりさせてしまっていいの?」
って聞いたら、それに対してこにーちゃんが
「慈雲の曲という制限のある中で、どういう音作りをして弾くかとか、こだわれるところや遊べるところはたくさんあるからな。僕はそういうのも楽しいで」
って返してきて、
「わあ……この人すごーい……」
って感動したよ(笑)。
こにー:
リードギターっていう感じのは今でも得意ではないけど、幅は広がったかなとは思うね。
それにしても慈雲よく覚えてるな(笑)。
そのやりとり全く覚えてないわ。
神部:
ほら、そういうところ(笑)。これだけリードギター然とした演奏とリフなのに自分の本領発揮ではないってすごすぎるし、マルチな才能だよ。
言葉選びはもう少し違ったかも知れないけれど、ぼくにとっては負担を掛けたり抑圧してしまうかなと心配したことを、好意的な挑戦として受け止めてもらえたのは衝撃的だったね。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ セットリスト採用率の高さ ◀
神部:
あと 『トゥルーエンド』 はライブで、曲間を繋ぎつつフロアに熱を与えていく使い勝手のいい曲だったから、相当重宝したね。
dino:
確かに、ライブでの演奏回数は新曲が出来て他の曲がレギュラー落ち(笑)していく中で 『夜間飛行』 や 『耳鳴り』 と競るくらい 『トゥルーエンド』 は頭抜けてる気はするな。
神部:
使い勝手のよさの代償として、ぼくらがチューニングや水分補給をしている間、くみちゃん (※Dr.江口) は延々とリムショットさせられるという拷問を受けていたけれど(笑)。
江口:
テンションが高まってる中で、カンベさんの言うような曲間の繋ぎがMCの兼ね合いとかで長くなってしまった時、たまに
「おい……急に関係ないフレーズ叩いてむちゃくちゃしてやろうぜ……」
って囁いてくる悪魔がいたんやけど、これはあるあるなのかな(笑)。
神部・dino・こにー:
(笑)
――――――――――――――――――――――――――――
2.楽曲制作時のエピソード
神部:
『トゥルーエンド』 はこにーちゃんが加入する前、まだ BAA BAA BLACKSHEEPS がぼくとdinoとくみちゃん (※Dr.江口) の3人だった最初期に制作した楽曲 (旧版) です。
前身バンド THE VESPERS から BAA BAA BLACKSHEEPS に名を変えて再出発した際、リードギター不在の状態ではそれまでの楽曲が演奏できなくなったという編成上の問題と、新バンドとして新たな曲作り・レコーディングに早く挑まなければならないという活動上の課題が生まれました。そうしてこの時期に作られたのが 『トゥルーエンド』 、『夢の出口』 、『そうなんだ』 などです (未レコーディングの 『トワイライト』 も同時期)。
『トゥルーエンド』 は1st demo の旧版レコーディングの歌録り直前まで歌詞がまったく書けず、エンジニアの和田さんをお待たせして寒空の下書き上げ、完成した歌詞を目視しながら歌録りしたという経緯があります。推敲を重ねることなくその場の勢いで書いたにもかかわらず、今でもこれ以上手を加える必要はないと思える詞になってくれたのは僥倖でした。
旧版制作から1年後、こにーちゃん加入後に編曲を一から見直してリハビリに収録することとなり、ぼくのたっての希望で旧版よりBPMを少し上げて、みんなでアンサンブルを見直し、この形になりました。4人編成での再編曲として試行錯誤した分、それぞれのパートに魅力のある、納得の仕上がりになったと思います。
こにー:
イントロの2本のギターが絡む部分は、スタジオでみんなに一服しておいてもらっている間に一人でループマシンを使って重ねて考えたのをよく覚えてるな。
dino:
前身バンドからバーバーに名義が変わった直後くらいに出来た曲なので、当時こにーちゃんがまだ加入する前のスリーピースの状態で、どのように曲を構築していくかを模索した気がする。
この曲と 『夢の出口』 は 1st demo に録音されてるんやけど、当時のバージョンの 『トゥルーエンド』 は曲の終わりがフェードアウトだったりとなかなか (今思うと) 苦肉の策をもって録音されてるなーとちょっと当時を思い出してほっこりした。
(ちなみに余談ですが、旧版のレコーディングはたまたまその場に居合わせた空中ループのBa.森勇太さんのベースをお借りして録音したのでなんかかなり良い感じの録り音になってる)
江口:
この頃 (3ピースの時) からカンベさんのバッキングとかディノさんの音作りとかに意見することが増えてきていたなと。
やっぱりそれぞれがこだわりを持って制作しているし、口出しされるのは鬱陶しい部分もあるはずなのに、2人とも嫌な顔せずに聞き入れてくれて。
4人で制作しているときはギターの音が増えて+1されたことはもちろん、一緒に考えて構想してくれる人数も+1で二度美味しいなあとか感じていました。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ レコーディング観の変化 ◀
神部:
旧版の 『トゥルーエンド』 がフェードアウトで終わってるのは、単純にぼくが 「こういうのがいい」 って希望したからだよ。
最近あまり聞かなくなったよね、フェードアウトで終わる曲。一昔前は邦楽洋楽問わず定番の手法だったけれど、世界的な潮流としてトレンドから外れていったんだろうね。
ぼくは 『トゥルーエンド』 を、何かの映画とかゲームのエンディング曲に感じられるような曲にしたかったっていうのもあるし、生演奏では物理的に不可能な演出としてフェードアウトで終わっていくのはありだと思ってた。
リハビリ収録曲のどれもがしっかり演奏しきって終わっているのは、ぼくらがライブバンド的な自覚と自負が根差していった影響が色濃く出たんじゃないかな。結果論的な見方かもしれないけれどね。
dino:
そうやったっけ……なんか旧版の終わり方に関しては割と話し合った結果ああなった記憶があった気がしたけど、なんせだいぶ前やし記憶が不確かやわ……(笑)。
ライブバンド的な自覚と自負に関しては結果的にそうかもな。フェードアウトって録音技術の上でしか再現できないし、それを使わないというのはひとつそういう自信みたいなのがついたからかもしれんね。
神部:
そう言われたら急に自信なくなってきちゃった(笑)。
ぼくは大学時代にTRICERATOPS の 『Jewel』 をよく聴いていてさ、あれもフェードアウトで終わるし、今思うと曲調も相当影響を受けてる気がするんだよね。
そうそう。自分たちの音楽が
「CD収録した音を基準に演奏するもの」
ではなく、
「ステージで演奏している音を基準に収録するもの」
に変わっていったようなところはあったと思うんだ。
dino:
今思えばなんやけど、別にステージで演奏するものを基準にする必要は必ずしもなかったんやろうけど (録音物でしか表現できない世界もあるし) 、当時初めて出すフルアルバムって事でなるべく身の丈に合った物を録音しようとしたんかもしれんね。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▶ メンバー間での指摘と提案 ◀
dino:
身の丈に合った物を録るとか作るとかいう話では、結構江口のアドバイスはタメになったかも。江口自身は口出ししてたって思ってたかもやけど、技術的な向上心に関して江口はバンド内でおそらく他3人よりもよりストイックやったから (というと角が立つかもやけど笑) 、信頼して江口の言うこと試してみようと思った事がそれなりの回数あった気がするな。
神部:
うん。曲を創るのがぼくである以上、どうしても否応無しにぼくの発言権の強さみたいなものを感じさせてしまう部分もあるんじゃないかって思ってたから、くみちゃん (※Dr.江口) やみんなから自発的に指摘や提案をしてもらえるのはうれしかったな。ぼくがただ書いたに過ぎない歌を、よりよいものにしようとして言ってくれてることだからね。
江口:
自分達が演奏して気持ち良くなるほど聴いてる側も移入しやすくなって相乗効果が発生するはず……みたいな思いがみんなの中に共通であったと思うし、だからその一端になる編曲とかアレンジにも気合い入っていくのかなあと。
神部:
「自分たちがまず誰よりも先に熱狂・感動できなきゃ始まらない」
って意識がみんな共通の観念としてあったよね。
後から粗探しをするのは簡単だけれど、出来上がったものを耳にすれば、編曲やアレンジを当時みんなで悩み抜いただけはあったと思う。
dino:
そういう意味では難所を抜けてきた曲たちが並んでるアルバムやし、当時の自分達のモードをなるべく最善の形でパッキング出来たんではなかろうかと思うね。
神部:
うん。ぼくもまったく同じ気持ち。
大体曲作りの時はいつもどこかで難航してストップして考え込んだり唸ったり、ああでもないこうでもないって話し合ってたもんね。
dino:
確かに、いずれの曲も必ず何かしらの難所があって、その難所を越えられずに眠ってる曲たちも多々あるな……(遠い目)。
神部:
最後まで紡げなかった音と言葉がどれだけあったことか……(ため息)。
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3.レコーディング時のエピソード
神部:
歌録りにほんの少し悔いが残っている以外には、あまりレコーディング時の記憶がありません。唯一思い出せるのは、こにーちゃんの考えたイントロのリフを、1番Aメロ後半でミュートピッキングから少しずつ開放にして弾く箇所が、自分でも思っていた以上に綺麗な収録になった感動です (ここはライブでも特に意識して弾いていましたが、我ながらよくあれを弾きながら歌っていたなと思います)。
こにーちゃんのギターリフを筆頭として、 『トゥルーエンド』 は歌なしの空オケ音源を聴いて欲しいと思う程度には、楽器隊が本当にいい仕事をしてくれています。その分スムーズに歌に入り込めたからこその記憶の乏しさなんだろう、というのがぼくの所感です。
こにー:
サビの部分でもよく動く曲なんやけど、多分メンバーも気づいてない位の動きをしてたので、レコーディングの時に
「こんな事になってたんや」
と言われたのが印象的。同じようなフレーズでも微妙に違ってたりするし、アルペジオっぽいリフやカウンターメロディっぽい部分があったり、今では作らなさそうなフレーズが結構ある。
dino:
『イーハトーヴ』 以外は当時持ってたジャズベースで録音したんやけど、1st demo 録音時に森勇太さん (空中ループ Ba.) からお借りしたベースにバルトリーニのピックアップが載ってて、それを意識して自分もバルトリーニのピックアップに載せ替えたのがデモの録音から紐づいて、ある意味エピソードといえばエピソードかも (笑)。
個人的にはレコーディング時にテンポキープにめちゃ苦心した印象がある……。
江口:
3人のトラックは夜中にVOXhallスタジオで、4人のトラックは昼に奈良のスタジオで。
実は1番のAメロがとても苦手で。ライブでも毎回冷や汗をかきながら演奏してたけど、REC時はどちらも思ったよりすんなり録れて内心胸を撫でおろしまくっていました (笑)。
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▶ “総監督”神部慈雲 ◀
dino:
当たり前やけどみんな自分のパートについて回答してくれてるから、こんなこと考えてたんや、と何故か感心してる自分がいる……(笑)。
多分 『トゥルーエンド』 以降の曲は、リズムトラックは奈良、ウワモノは京都で録音したんやんね?
やしリズム隊とウワモノが触れ合う機会が 『ヴァイタルサイン』 とかよりも少ない気がして、改めてこうやって読むと新鮮やなーと。
神部:
やっぱりメンバーごとに当時考えていたことを聞けるのは純粋に楽しいし、うれしいよね。
そうだね、リズム隊を奈良、ボーカルとギターを京都って録り分けたはず。しかも当時はみんな仕事休みが限られていたから、立ち会ってない収録もあったよね。
すべてのレコーディング現場に居合わせたのは最終的にぼくだけだったんじゃなかったかな。ぼくも大変だったよ、歌とギターだけじゃなくて監督もしなきゃいけなかったから本当つらかった(笑)。
dino:
そうやね、レコーディングが進むにつれ慈雲以外の3人のうち誰かが欠けてる現場ってのもチラホラあったね。
確かに慈雲は歌 (バッキングボーカル含む) 、ギター、監督と、レコーディング中は仕事量多かったな(笑)。
神部:
ぼく自身 「ぼくが立ち会わずしてどうする」 って思いは当然あったけれど、みんなも 「やっぱり慈雲がおらへんと」 って思っていてくれたようだったのがうれしかったな。ぼくは決してエンジニアでもプロデューサーでもないのに、自分たちの音楽の最終形を判断するって責任の伴うところで、みんなに信頼してもらえていたのかなって。ぼく一人のうぬぼれだったら恥ずかしいけれど。
dino:
まあ実際俺たちの音楽って、
「神部慈雲という人間から出た物を3人で編集もとい編曲 (慈雲自身も編集するから結局4人で、かな) → 監督 (慈雲) のゴーが出る → 世に出る」
ってプロセスやと解釈してるから、少なくとも俺も慈雲が立ち会わんとそもそも話にならんとは思ってたし、今でもそれはそうやと思う。
仮に他のメンバーが作詞作曲したらその曲においてはそのメンバーが監督になるとは思うけど、それを盤にまとめる場合の最終チェックは慈雲やろなあと思ってるよ。
『リハビリテイション』 を経て、セッション的な曲作りで生まれたフレーズ (すでにパーツだけなら割とあるよね) を使った曲が完成したとしたら、その辺はまた役割変わるかもしれんけど、それでも最終的なゴーは慈雲やと思うなあ。
こにー:
それofそれ。
細かいところではそれぞれが意見してくれたりはあるけど、慈雲がやらなあかんよね、それは。
他のメンバーがやってたら全然違うアルバムになってると思うし。
神部:
ふたりともありがとう。なんて言えばいいのかな、みんなにとってはそれが前提意識になってること自体というか、当たり前にそう思ってくれてることがすごいと思ったんだよね。
だってもしかしたら、「神部慈雲が作った曲だろうが知らん、俺はこういう音作りと完成形がいいんだ」 って人だっているかもしれないじゃない?
ぼくの中にある 「これは美しい」 、「これは美しくない」 、「これは仕方ない」 って価値観はあくまでぼくのものでしかない。人によって千差万別の価値基準をぼくのそれに一任してもらえる誇らしさと重さとを感じていたよ。
リハビリはエンジニアの和田直樹さん (空中ループ Gt.) のミキシング・マスタリング技術によってぼくらのポテンシャル以上に相当磨きをかけてもらったから、ぼく本人の手柄ではないのは言うまでもないけれど。ぼくの取捨選択の一つ一つを確かめていった成果として、あの盤はできたんだろうなとは思って……いいよね?(笑)
dino:
神部慈雲の曲だろうが知らん、っていってこうしたいんだけどって相談じゃなくて無理くりその方向に持っていくやつは多分一緒にバンドできんと思うよ(笑)。
レコーディングのとき結構細かい表現とかタイミングまでちゃんと細かくチェックしてたから、その成果で間違いないと思うよ。
神部:
それもそうか(笑)。
いずれにしても、わがまま太郎なぼくにも合わせてくれたり、大事な時にはしっかり意見をくれたり、みんな大人なメンバーだと思うよ。
そう言ってもらえてよかった、ありがとう。
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(文字クリックでジャンプ)
【訂正】 2022.03.20 追記
先日2月20日に投稿した本記事において、Vo.神部による一部の文章中、読み手の方に対し、神部本人の意図や願いとは異なる心証を与えかねない箇所が見受けられたので、加筆修正の上、記事を再投稿しました。
既に本記事を読まれた方にはお手数ですが、今一度ご一読いただければ幸いです。
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目次
― 【後半】 ―
5.メンバーランキング
6.フリートーク
7.個人的に力説したいこと
8.神部の一人語り
▶ 楽曲制作に至った背景と当時の心境 ※追記
▶ “OK” or “NO”
▶ 生命兆候
▶「何者かになる」 という呪い ※追記
▶ ふたつの孤独 ※追記
▶ 歌詞に忍ばせた意図
9.次回予告
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6.フリートーク
7.個人的に力説したいこと
dino:
とにかく普段の慈雲からは想像出来ない、曲の一番最後のシャウトがかっこよくてかなり好きなので、これだけでも個人的には聴く価値あると思う。
江口:
曲終盤のカンベシャウトと、サビで鳴ってるコニーちゃんのギターリフの2回し目の2点かな。
カンベシャウトの方はディノさんも述べている通りという感じやけど、ギターリフ……文章で説明するのが難しすぎる……。
「曲始まりと同じ内容かと思いきやアレンジされたものがサビで鳴る」
という手法に俺が弱くて、かつ、いつものコニーちゃんよりちょっとロジカルな動き方してそう (多分) な感じが良い。
こにー:
間奏の手前に一回だけ7拍のところが出てくるんだけど (1分31秒) 、7拍が変に聞こえないようになってるのは割と好きなポイントで、気付いてない人もいる気がする。
あとシャウトもやけど、その後のスネア連打から一気に加速してく部分がバンド的には一番テンション上がってると思ってる。
神部:
ぼく自身もラストサビのシャウトは気に入っているし、自分史上最高音を出せたという思い入れも強いから、みんなもそう言ってくれてうれしい(笑)。
こにーちゃんの言う通り、アウトロのスネア連打からの展開はぼくも大好きなんだよね。自画自賛になってしまうけれど、アウトロの締めくくりはぼくが考えたバッキングの中でも群を抜いて冴えていると思っているので、最後まで気を抜かずに聴いて欲しいです。
この曲はAメロのdinoのベースラインや、くみちゃんのタム回しとか全体的なフィル、こにーちゃんがサビのバックで一緒に歌うリフとか、一言には書ききれないぐらい楽器隊がいい仕事をしているから、聴き手にもメンバーみんなのこの気迫を、何かに臨む時の勇気に変えてもらえたりしたらうれしいです。
自分たちの存在証明を懸けて叫ぶ、『ヴァイタルサイン』 という弱々しくも猛々しい羊たちの啼声を、五感を澄ませて全身で受け止めてください。
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会話の途中、ゆーきゃんさんがぼくに対して、
に対する自分なりの応答なのではないかと考えています。
体温・脈拍・呼吸・血圧が正常かどうかを確かめるということは、単純に言えば 「身体が (正常に) 生きているかどうか」 を確かめるということ。そして、この歌においてはそうした身体的な生命活動だけを指すのではなく、
「心が (正常に) 生きているかどうか」
を何よりも問うているのです。この視座は 『夢の出口』 の歌詞にも通じる話ですが、
「ただ身体的な生命活動が正常なだけで、本当に “生きている” と言えるのか?」
という問いを、ぼくは自分自身に対して、ただひたすらに抱き続けてきました。
この問いを解く手掛かりとして、
「明日を待つための理由」 と
「昨日を捨てるための理由」 をもたらしてくれる人、つまり
「僕の生命兆候を 君が定義してくれ」 る出遇い
が必要なのだと、『ヴァイタルサイン』 では歌っています。
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マイクとスピーカー、音と鼓膜、スポットライトの光とフロアの影、その境界線でふたつの孤独が重なり合う瞬間、とどのつまりは
「▶で始まる時間の中で」、
よく聞くと1番サビでも 「ここにいるよ」 の箇所で 「こにー」 と歌っているのがお分かりだと思います。もちろんそれが誰から見聞きしても分かるものになっては元も子もないので、あくまで譜割上の聞こえ方に感じられるように意識して歌っています。
BAA BAA BLACKSHEEPS にまだこにーちゃんも加入していなかった3ピース時代、ぼくの幼稚な態度でdinoやくみちゃんを振り回し、困らせてばかりいた時、くみちゃんの放った一言で、ぼくは自分の心を入れ替えたいと願いました。こにーちゃんが加入してからも結局はメンバーの気持ちを害してばかりのぼくでしたが、あの出来事を経て 『ヴァイタルサイン』 を作り始めた時、
「ぼくは一体、誰のおかげで今ここで歌えているのか」
という自戒めいた問いを、何かしらの形にして残したかったのです。
ぼくがバンドを続ける希望と熱意を与えてくれて、いつも誰よりもぼくに寄り添い続けてくれた dino 、バンドにもしかしたら永遠に欠けたままかもしれないと思っていたドラマーを正式加入で担当してくれて、ここぞという時には大事な一言で目を覚まさせてくれたくみちゃん (※Dr.江口) 、そして他バンドからの加入を経て、バンドがより上を目指すため、楽曲をよりよい形にするための力を態度でも音でも分け与えてくれたこにーちゃん。彼ら3人がいなければ、ぼくは自分自身の能力の欠如と他者とのくだらない諍いの中で、ただ無力に何もできないまま気が狂いそうな日常に埋没していただろうと思います。
何度も間違えてしまったし、今でもそうなのかもしれないけれど、一度崩れてしまったものも、また何度でも組み立てて、みんなと一緒にこの先を見に行きたい。そういう思いをこめて、あの歌詞は生まれました。
そうした意味では、この 『ヴァイタルサイン』 の中にさえ、既に 「リハビリテイション」 へと向かおうとしている心が表れていたのではないかと、自分では考えています。