SLN 第2回 『ヴァイタルサイン』前半 | BAA BAA BLACKSHEEPS

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京都発・新世代エモーショナルロックバンド 【 BAA BAA BLACKSHEEPS 】
オフィシャルブログ

 

2022年1月19日から始まった 『リハビリテイション』 セルフライナーノーツ。第2回は 『ヴァイタルサイン』 をお届けします。

 

 

第1回 『イーハトーヴ』 記事の更新後、Twitterにてアンケートにご回答くださった方々のご希望を受けて、なるべく読み手が読みやすく楽しめるようメンバーとの対談を多めに設けました。そのせいかは分かりませんが、今回の記事はブログの文字数限界をオーバーしてしまったため、前後半に分けての更新となります。

前半ではメンバーの一問一答と対談形式を織り交ぜて、後半ではVo.神部の一人語りを中心にしたためてゆきます。

 

 

あなたがその鼓膜と心で受け止めてきた 『ヴァイタルサイン』 と、ぼくらが歌い掻き鳴らしてきた 『ヴァイタルサイン』 の間には、どんな違いがあるでしょうか。あなたの思いとぼくらの思いを、ぜひ照らし合わせてみてください。

 

BAA BAA BLACKHEEPS 一同

 
 

 

 

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目次

 

― 【前半】 ―
1.自分にとってヴァイタルサインとは
  ▶ “オルタナティブ ” ロック
2.楽曲制作時のエピソード
  ▶イントロのギターリフ
  ▶アウトロの編曲
  ▶バーバーのベーシストとして
3.レコーディング時のエピソード
  ▶自己評価と作品発表のジレンマ
  ▶レコーディング合宿の洗礼
4.音像にこめた意図
  ▶ 歌を押し出す楽器隊
 
― 【後半】 ―
5.メンバーランキング
6.フリートーク
7.個人的に力説したいこと
8.神部の一人語り

  ▶ 楽曲制作に至った背景と当時の心境

  ▶ “OK” or “NO”

  ▶ 生命兆候

  ▶「何者かになる」 という呪い

  ▶ ふたつの孤独

  ▶ 歌詞に忍ばせた意図

9.次回予告

 
 
 
 
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1.自分にとってヴァイタルサインとは
 
 
dino:
歌われてる内容がひとつのバンドとしての姿というか、決意表明的なニュアンスが強い歌詞内容なので、実際演奏する時や、普通に聴いてる時でも気持ちがちょっと引き締まるような楽曲。そういう意味では、音楽が精神にもたらす効果みたいなのをわかりやすく感じる事ができるかな~と。
 
 
江口:
ロックテイストを BAA BAA っぽく解釈して分かりやすく表現しようと試みた曲。
当時は時代とか界隈的な流行りもあって
「これは “ロック” ではなく “オルタナティブロック” でなくてはならない」
と、自分たちや作る曲がオルタナティブであることに固執して、視聴する人からどう捉えられるかを意識していたと思う。
 
 
こにー:
BAA BAA のロックサウンドが形作られた曲の一つだし、ちゃんとらしさも表現できた一曲かなと思う。僕一人で始まる唯一の曲でもあるので、イントロは結構気合入る (そしてライブでは割と緊張する) 一曲。
 
 
神部:
BAA BAA BLACKSHEEPS として、バンドマンとして、創作家としての根源的な叫び。
どれだけ曲を書いても、どれだけライブを繰り返しても、先の見えない、出口のない迷路をさまよっているかのような漠然とした不安と焦燥感に囚われていたぼくにとって、悲鳴と言ってもいいぐらいの思いを文字通り 「削ぎ落とし」 て作り上げた歌です。この感覚は 『薄氷』 や 『耳鳴り』 、『ゲームオーバー』 にも相通じる形で描かれてゆくのだけれど、『ヴァイタルサイン』 に関してはそれらの3曲にはない、まだ光を見出そうとしている意思がこめられています。

「完全新作をアルバム形式で、なおかつ全国流通する」
という目標を前に、今一度自分たちの思いを客体化し、まだ見ぬリスナーの存在を乞い求めるべくして書いたこの歌は、声に出して歌っても、ただ聴いても、自分とバンドメンバーの活動根拠を何度となく再確認させ、また奮い立たせてくれる一曲。その力強さもあってぼくの中では “戦闘曲” だと思っていて、人混みを歩く時や出勤時、高速道路を走る時、定番のお供です。
これまですべての楽曲にメンバー全員から 「尺が長い」 と苦言を呈されてきた経緯もあって、短い分数で密度の高いロックナンバーを作り上げられたのは、自分自身とても満足のいく成果でした。
 
 
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 ▶ “オルタナティブ”ロック ◀
 
dino:
あくまで “俺たち” の “オルタナティブ” って事やとは思うわ、結果論やけど。楽曲としてはどっちかというと姿としてはギターロックという枠組みの中での抗いやとは思うんやけど、当時比較的ポップな楽曲が多かった自分らの中で、これだけ音像がシャープで (ある意味) 攻撃的な楽曲は自分達の中で、文字通り対極、オルタナティブな楽曲として提示する事で、バンドとしての幅を出せた楽曲かもね。
 
江口:
確かに 「尺が長いから短く」 、「幅を出す」 とか、これまでとは毛色の違うものを作りたくて試行錯誤してたな。
尺が短いとライブで使いやすくなる (尺が長い曲が続くと聴き手が疲れたりとか考慮しないといけなかったり) という事情もあったけど (笑)。
 
神部:
当時のバンドシーンって、情緒的でフォーキーな音楽がもてはやされる京都とは違って、大阪や兵庫はアングラで攻撃的なロックサウンドが多かったと思うんだけど、『ヴァイタルサイン』 はぼくらにしては珍しく後者に近い音像で作った曲じゃない?
 
dino:
これも俺たちが身を置いてたシーンがって事な気がする。京都でもネガポジとかはかなりアングラだと思うし、大阪も2nd lineやknaveとかは結構ポップ~ロックな界隈かなと当時の印象では思ったな。ただ結構俺たちが他府県で出入りしてたのが割と濃いめの界隈だったから、慈雲の言う 「後者に近い音像」 に影響を与えてるんかもしれん (笑)。
 
神部:
言われてみれば、いかにも京都っぽいのに大阪拠点のバンドとかもいたし、ぼくの印象は何由来なんだろう、分からなくなってきた (笑)。
くみちゃんの話にもつながるけど、歌心とか詩心に頼らず、単純にバンドサウンド単体で聴いてもらえるような方向性も打ち出せるようになろうとしていた結果の曲だったのかもしれないね。
 
dino:
まあ慈雲の回答にあったように、『薄氷』 なんかに通じるアプローチにも繋がっていくしね。
 
神部:
うん。それまでずっとぼくの書いてきたコード進行と歌メロに合わせてオケを後付けするような形式だったのが、初めてアンサンブルから作ったのが 『薄氷』 だったもんね。リハビリは本当、自分たちにとって未知のことに挑戦しながら頭数揃えていったようなところがあるよね。
 
AIこにー:
ボクモソウオモウ。
 
 
 
 
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2.楽曲制作時のエピソード
 
 
dino:
曲の原型自体は前身バンド時代からあって、当時よくVOX Hallの転換時に (ホール内のスクリーンで) かかってた関東のバンドの曲の質感がかっこよくて、こういうの自分らも作りたいよね~みたいなところからスタートしてた記憶がある。
 
 
江口:
THE VESPERS 時代から存在していた8分の6拍子のギターフレーズがあって、最初はそれをもとに作ったような。
コニーちゃんが参加して曲が形になる頃には、結局そのフレーズは影も残っていなかったけど。
 
 

(※Listen in browserをクリックでこのまま再生できます)

 

神部:
リズム隊の2人の言うように、もともと 『ヴァイタルサイン』 は前身バンド THE VESPERS の頃に 『残像』 という仮タイトルで書こうとしていた曲を一から作り直したものです。
ぼくはリハビリのレコーディングまで長年フェンダーメキシコのテレキャスターを使用しており、トレブル域のジャキッとしたテレキャスター特有の金属音を活かして、直球なロックサウンドの曲を作りたいとかねてより考えていました。
「ヘッドホンの向こう側にいる相手を思い描いて作る」
という課題を自分に課してアルバムに向けた曲作りに臨もうとした当時のぼくは、従来のような人を選ぶ癖の強さを減らして、もっと万人受けしやすいサウンドとテンションで歌いたいと思いました。そんな時、かつてボツにした 『残像』 のテイストを活かすアイディアが浮かんだのでした。
ロックに向かない自分の丸みを帯びた歌声や少しひねくれた詩情はなかなか変えようもなかったので、工夫を凝らせられるのはサウンド面です。いつも通り簡単なコードバッキングだけで済ませてフレージングをこにーちゃんに甘えたままなのは嫌だな、という思いもあり、ぼくはぼくで “聴かせるギター” をどこかに織り込めるよう苦心しました。
その結果、ぼくのギターパートは展開上のアクセントにも効果を生み、過去の楽曲よりもほんの少し成長を感じられるものになったと思います。
 
 
こにー:
イントロがなかなか決まらなくて悩みまくっていた時に、夢に出てきてそこで出来たフレーズが良かったので、飛び起きてすぐに弾いて出来上がった。
ビートルズかよ、と当時は思ったけど、夢でまで考えてたのはよっぽど余裕なかったんかなと思う。
 
 
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▶イントロのギターリフ◀
 
神部:
いざヴァイタル作るよって日にスタジオ入りした時、こにーちゃんが
「夢で考えてきたから聴いて!」
ってすごい興奮気味に言ってきたよね (笑)。
 
dino:
よく覚えてるな (笑)。
当時のこにーちゃんと言えば 「スライドする電車」 みたいな抽象的なフレーズからギターリフを生み出そうとしてたことを覚えてるけど、そういった試行錯誤の果てのリフなんかなと思うと改めて感慨深いものがあるな。
 
神部:
逆にぼくは 「スライドする電車」 が分からない (笑)。
「思い出がリフレインして……」 とかは言ってたような。
こにーちゃんっていつも浮かんだ情景とかそういうキーワードからギターリフ作ってたよね。よく考えるととんでもない才能な気がする (笑)。
ぼくたち3人から 「キャッチーなリフ考えてきてね」 って言われたのがよっぽどプレッシャーだったのか、夢で思い付くとはよもやよもやだ。でもその分最高のイントロになったと思うけれどね。
 
 
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▶アウトロの編曲◀
 
神部:
そういえばアウトロでいったんブレイクして、こにーちゃんがメインフレーズを弾き始めた直後に裏拍でオールインする (2分56秒) のって、確かくみちゃん (※Dr.江口) のアイディアだったよね? まどマギか何かの主題歌を例に挙げて、
「最近は裏拍でインするのが主流になってきてるからな」
とか言ってた気がする。あそこは実際テンション上がるよね。
 
dino:
アウトロのブレイクは確かに江口の案やった気がする。まどマギってところに時間の流れの速さを感じるな……。
実際そのテクニックを上手いこと自分達の曲の中に組み込めたと思うわ。
 
江口:
アウトロのブレイクは言い出したの俺やったかな?
曲終わりの締めは言い出した記憶あるけど……。
あとこにーちゃんのは
「リフレインする電車が……な?」(まあ今ので分かったやろ?っていう顔)
やで (笑)。
 
神部:
リフレインする電車だった (笑)。
それってもしかして 『耳鳴り』 じゃなかった?
「カメラワークを再現するようなギターフレーズ作る」 ギタリストなんて世界中探してもそうそういないと思うよ。
 
こにー:
いや、『耳鳴り』 ではないな、もうちょいポップな感じのやつのはず。ボツになったんかな、多分。
 
江口:
「リフレインする電車」 は 『おまじない』 やで。
 
こにー:
めっちゃ覚えてるやん。
 
江口:
まだカンベさんのバッキングとサビのメロディしかないとき、間奏を作りたくて悩んでたときかな?
 
神部:
よく覚えてるなあ (笑)。
確かに 『おまじない』 は間奏だけこにーちゃんに丸投げした記憶があるから、たぶんそうだね。
 
 
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▶バーバーのベーシストとして◀
 
dino:
楽曲制作時のエピソードほとんど記憶ない……。
 
神部:
こうして思い返していると、どんな曲作りの時でも、dinoが自分のパートでフレーズをどう作るか悩んだり相談してたりって記憶が全然蘇ってこないんだけど……もしかしてdinoって、大体ぼくの持ってきた曲に即ベース当ててくれてたんじゃない?
 
dino:
基本的にバーバーは歌が最優先やから、ギターのコード進行ありきでメロディーが来ると、ベースラインは大抵ルートをなぞる、ちょっと遊んでもオンコードっぽくバッキングギターと分業する + 良いところで裏メロっぽいの入れられそうなら入れる (これは 『イーハトーヴ』 の最後の方とか) って感じでアプローチが限られてるんよなあ……。
もちろん技術的な部分も大きいとは思うけど、ベースでイキってもしゃーないバンドだわな (笑)。
 
神部:
あー……。ずっとdinoには常に足かせをはめてきたんだなあと申し訳なくなってくるな。
そう思うと、そんなdinoがのびのびと歌ってるあの曲とかは貴重だよね。
 
dino:
いやあ、それはそういうバンドってだけやし、必ずしもベースラインがうねうね動いてるだけが凄いのかっていうとそうでもないしね(笑)。
TPOですわ。
 
神部:
そうだね。堅実にひたすらルートを刻んでいくベースが動き回るベースより劣っているなんてことはないもんね。
歳を重ねれば重ねるほどベースの大切さがよく分かるようになったし、「縁の下の力持ち」 とはよく言ったもんだよ。
 
AIこにー:
ディノチカラモチ。
 
 
 
 
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3.レコーディング時のエピソード
 
 
dino:
自分で考えたフレーズやのにレコーディングの時に何故か指弾きで全然上手いこと録音できずNGを連発した苦い記憶。最終的には何故か試しにピックで弾いてすんなりOKになるという……。
 
 
江口:
レコーディングではたしか2~3曲目に録ったかな?
自分が出した想定の音とエンジニアルームで聴く音の差が凄くて、良い機材は奏者の実力が浮き彫りになることを改めて痛感した記憶。
 
 
こにー:
奈良のレコーディングスタジオ MORG で押しに押しまくった結果、ギター録りができなくなってしまったんやけど、どうしてもそこで録りたくて、30分でヴァイタルサインだけ何とか録り切ったので、良い感じに焦燥感が出ていると思う (笑)。
 
 
神部: 
1分31秒でブレイクと共にぼくがソロでバッキングを掻き鳴らす箇所、そこだけ使用ギターが変わります。スネアを含めて7拍子で次の間奏に移行するトリッキーな編曲なので、構成だけでなく音でも聴き手の意識をハッとさせる瞬間になるよう、ギターの音色も何かしら特徴づけたいと考えていました。
そしてそのことをエンジニアである和田直樹さん (空中ループ Gt.) に相談すると、なんと和田さんの部屋に転がっていたフォトジェニック?か何かの激安ボロボロギターを使ってみようという話になり、半信半疑で試してみたところ……これがまた予想に反して、実にちょうどいいアクセントになったのでした。
リハビリのレコーディング中にはエフェクターに激安代名詞のベリンガーをあえて使用した箇所もあり、安い機材にも使い道や面白さはあるんだなと分かったいい経験でした。
 
『ヴァイタルサイン』 はラストサビで、ぼくがそれまで一度も地声で発声したことのなかった高音域のシャウトがあります。当然発声は困難を極め、やむなくレコーディングに向けて毎日腹筋をしていました。そして歌録りの日にはくみちゃん (※Dr.江口) の補助のもとその場で腹筋をし、直後に一発テイクでシャウトをユニゾン分の2回無事成功させたという思い出があります。
残念ながら今となってはもうあのシャウトは出せそうにありません。それほどぼくには至難の業でしたが、盤に収めることができて心底よかったと感じています。
 
 
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▶自己評価と作品発表のジレンマ◀
 
神部:
ぼくはくみちゃん (※Dr.江口) が MORG の質のいいドラムセットで叩いた瞬間に出音の粒立ちにキレがあり過ぎて感動したんだけどなあ。他の人がそう思わなくても、本人は悔いが残るってケースもあるよね。
 
dino:
これって結構真理というか、ちょっと話はズレるんやけど、作った本人が気に入ってなくてもどこかの誰からはめっちゃ好きになるって事はそれなりにあると思うのよね。なので作った後納得いかんくても世に出すことってのは意味あることやなあと思うわ。もちろん世に出す出さないのジャッジも含めて作り手の力量だとは思うけど。関係ない話スマン。
 
神部:
いやいや、本当にその通りだと思うよ。ぼくもこれまでずっと、自分の創作物に関しては
「中途半端なものは人に見聞きさせられない」
って考え方でいたけれど、世に出さない限りそのアイディアは存在しないのと同じで、とどのつまりは
「それを愛してくれるかもしれない人を初めから失っている」
ってことなんだなって最近では思うもの。
以前WEBで見かけた漫画で、ぼくがとても好きな絵と物語を描く人が、コメント欄では 「絵が下手」 とか好き放題に叩かれたりしているのを見たんだけど、少なくともその人が作品を投稿しなければ “ぼく” という人間の心にまで届くこともなかったんだなって思うんだ。もちろん世に出す以上は批評や批判や好き嫌いと選り好みに曝されてしまうリスクも負わなければならないんだけど、2の嘲笑と7の無関心に甘んじても、1の感動を見つけられたら、ぼくはそれで報われる気がするんだよね。
みんなに過去のデモ音源とかの公開を提案したのもそういう価値観の変化もあったからなんだ。今さら聞き手を選ぶようなところにはいないだろうって。
 
dino:
そもそもこれだけコンテンツが溢れてる世の中で誰かに発掘される確率もかなり低いもんね。俺も絵描きさんの下絵とかスケッチみるの好きやから、デモとかでも全然出す価値はあると思いますよ。なんかめちゃ話逸れちゃった (笑)。
 
神部:
うん。創作家と創作物が可視化されやすくなって星の数ほどのコンテンツが溢れてるこの時代、ものと人がめぐり合うのは途方も無い話だね。
やっぱり本音としてはきれいな音、正しい歌詞、整った演奏で聴いてほしいところだけれど、自分たちの悔しさや恥ずかしさ以上に、求めてくれる人たちの存在を信じなきゃって思うね。
 
AIこにー:
ソレテモイイジャナイ、ニンゲンダモノ。
 
神部:
しかしdinoもぼくも自分で考えたのに実際の演奏と歌唱で苦戦してたりして、『ヴァイタルサイン』 は自分たちの限界突破的な曲だったのかもね。
 
dino:
俺らは自縄自縛的な感じやし、江口もこにーちゃんもそれぞれ大変な部分ありつつで、レコーディングの中では割とハード目な曲やったかもね (笑)。
 
神部:
いやほんとに。正直あんな感じのレコーディングはもうしたくないね。次にする時は予定調和みたいにしゃくしゃく余裕で録りたい (笑)。
 
江口:
カンベさんが良い音!って言ってたのは Pearl の Retro Spec ってドラムかな、確か。
MORG の機材は本当に良い音がして気持ちよかった反面、もっともっと鳴るポテンシャルを感じて適切なチューニングと相応の実力の大切さを教えてもらったなと思う。
 
神部:
すごいなあ、機材の名前まで覚えてたのか。
くみちゃん (※Dr.江口) ってサポートから入ってもらって一緒にやり始めた時がまだ19歳で、リハビリ録ってた時は21歳だったのに、あんなドラム叩けたんだから本当にすごいと思うよ。
それでも、いい機材に触れたことで自分の限界を痛感して謙虚でいるんだからさすがだよね。
 
 
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▶レコーディング合宿の洗礼◀
 
神部:
何日間か奈良の MORG でレコーディングした時、スタッフさんに連れられて 「まりお流」? ってラーメン屋さんに背脂がえげつないラーメン食べに行った記憶があるんだけど、あれは何だったんだろう。
 
dino:
行ったなまりお流……。
小カレー大 ってなんやったんやろな。
 
神部:
その辺の記憶も曖昧なんだけど、誰か写真とか撮ってなかった?
小カレー大って何 (笑)。
 
江口:
そりゃあ小盛カレーの大盛りですよ。
 
神部:
誰か日本語に翻訳してくれる?
 
dino:
どっかにこにーちゃんが完食した小カレー大の皿こっちに向けてる写真あってんけどなあ……。
 
 
(~数分後~)
 
 

dino:

俺のサルベージ力を誉めてほしい。

 
神部:
ナイスサルベージ (笑)。
 
dino:
ちなみにこれはラーメンとセットでないと頼めないという代物で、胃袋の小さき者にとっては地獄よりも辛い責め苦なのであった……。
 
こにー:
若いし痩せてるな。この頃に戻りたい。
正式名称 ミニカレー大 じゃなかったっけ。
まりお流の外の自販機に黒烏龍茶大量にあったの思い出したわ。店主も体に悪いの分かってるんやな。
 
神部:
自販機の中身が全部黒烏龍茶でみんなで爆笑してたねえ。
どうしてMORGの人たちはミュージシャンを必ずまりお流に連れて行くんだろう……。
 
AIこにー:
ナゾヤナ。
 
 
 
 
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4.歌・音像にこめた意図
 
 
dino:
ベースだけに関して言うと、フレージングは良くも悪くも自分の手癖の集大成みたいな感覚があるかも。音色に関しては、実際にライブで演奏するよりもかなりマイルドな味付けで、他パート (特にボーカル) を邪魔しないようになってるかなと思います。
 
 
江口:
カンベさんからこの曲は歌の音程やリズムを攻めているとの話を聞いていたので、少しでも気持ちよく歌録りに臨めるようにとベーシックの時点から声を意識したかな。カンベさんの場合は、
 ロックな曲ほど繊細に
 繊細な曲ほど大胆に
というイメージでドラムを叩くと収まりが良くなる印象。
 
 
こにー:
個人的に BAA BAA っぽいロックには不安定な要素を散りばめるようにしていて、イントロ部分でもそれを助長するような弾き方をしている。
一方で間奏部分は真っ直ぐ目に弾くようにしていて、ここでは結構立ち位置的に少し後ろから全体を包むようにしているんだけど、こういう立ち位置の変化が曲全体として分かりやすくなる様に
・フレーズ
・音色
・弾き方
もパートごとに変えているので、弾き分けを聞いてほしいかな。
 
 
神部:
 1番サビが終わって間奏とブレイクの後、1分33秒辺りの間奏からぼくのオクターブ上下のバックコーラスが入ります。あの 「アーーアアーー」 という歌詞なき声こそが、ラストサビで歌われる 
「小さな祈り」
です。
ぼくは幼少期から仏教徒として、老若男女が高低入り混じった声で共に勤行 (ごんぎょう) を営む声明 (しょうみょう) を日常茶飯事として経験してきました。勤行は決して祈りや願いのためになされるものではありませんが、その厳粛で荘厳な空気感を楽曲のテーマに重ねて取り入れたかった思いがありました。
『薄氷』 では不気味さを醸し出すためにオクターブ下のバックコーラスを加えましたが、『ヴァイタルサイン』 ではそうした寺院の男女混声の声明をイメージしてあの形に収まっています。
 
 
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▶ 歌を押し出す楽器隊 ◀
 
神部:
みんなの回答を読んで感動したのは、バーバーは本当にぼくの歌を第一に考えてくれているんだよなあってこと。ライブ現役だった頃からみんながそういう意識を持ってくれていたのは分かっていたけれど、改めて言語化してもらうとつくづく幸せ者だったなと思うね。
特に面白いのはくみちゃん (※Dr.江口) の話。言われてみるとなるほどというか、ぼくの曲って激しい歌の時ほど脆い感情を、弱々しい歌の時ほど爆発しそうな感情を込めてきた節があるから、なおさらすんなりと納得できたというか。
 
こにー:
まぁ、歌もののバンドやし、みんなその辺りは大分考えるようにはしてたよね。
今新しく作るってなったら、もしかするともう少し別のアプローチとかはチャレンジしても良いかなとかは思うけど。
さっきの話じゃないけど、前はしっかりターゲットとか考えて曲を作ってた部分もあるし、そうなるとパッケージ的には歌ものになるからね。
今はもっと自由にやっていいし、そうあった方が良さそうな気がする。
 
dino:
言いたいこと全部言うてあった……(笑)。
 
神部:
ん……? ということは、次に曲作る時にはぼくの歌を無視して
こにーちゃんが爆音のギター鳴らしたり
dinoくんがファズかましたり
くみちゃん (※Dr.江口) がサンバ叩いたり
する……ってコト!?
 
dino:
一個だけ事実が混じってるんだが?
 
神部:
ファズはむしろよくある話だった。
 
dino:
_人人人人人人人人_
> B I G M U F F <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
 
 
解説こにー:
※BIG MUFFとは、ELECTRO-HARMONIX社が発売しているギター用ファズ/ディストーションエフェクターのことで、dinoくんは過去に何度もこのエフェクターをベースに繋いで演奏してきた過去があります。

 

 

神部:
あとくみちゃん (※Dr.江口) よくスタジオでサンバ叩いてたね。
 
dino:
サンバ叩くのムズイらしいから鍛錬の一環やろな。
 
神部:
なるほど、それでだったのか……。
 
江口:
× サンバ叩いてた
○ できないから雰囲気だけ味わってた
 
神部:
くみちゃん (※Dr.江口) の自己評価の厳しさ……。
もっと自分の腕とセンスを誇っていいと思うよ!
 
 
AIこにー:
エグチスゴイ。
 
 
 
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メンバー同士で自身の楽曲を語り合う機会が初めてだったこともあり、当時の思い出話も相まって楽しく対談しているバーバー4人。
 
後半ではメンバーのイチオシポイントやランキングコーナーなどの後、Vo.神部が 『ヴァイタルサイン』 を余すことなく語り尽くします。どうぞ後半も併せてお読みください。
 
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