泣き続けた日々。
彼と別れて部屋に戻ったものの
一人で居るのが辛すぎて
友達の所へ行った。
事情は言わずに、皆で飲んだ。
さっきの事なんて忘れたくて
思い出したくなくて
考えたくなくて
あたしはひたすら飲んだ。
馬鹿な事を言って笑って
頭を麻痺させた。
其の晩は只それだけで良かった。
朝になって自分の部屋に戻った。
寝ようとベッドに入った瞬間。
彼の事を思い出した。
昨日の事全部。
思い出さないでいようと思えば思う程
記憶が鮮やかに蘇る。
眠ろうと目を閉じれば閉じる程
彼の仕草、表情、そして最後のキス。
瞼に焼き付いて離れない。
気付けば、あたしは泣いていた。
ベッドに横になりながら
涙はあたしの顔を遠慮なく横切る。
其の内、あたしは布団に包まって
声を出して泣いた。
いつまでも止め処無く流れる涙を
放ったらかしにして泣き続けた。
気付けば、彼に別れを告げられてから
初めての涙だった。
あたしは眠るのも忘れてひたすら泣いた。
胸につっかえる物を全て吐き出す様に泣いた。
それから泣き疲れて眠りに堕ちたのは
太陽が高く上に昇った頃だった。
最後のキス。
しばらく彼の部屋に居た後
あたしは自分の部屋に戻る事に決めた。
「あたし、帰るね。」
「ぁ、じゃあ送るよ。」
そう言ってさっきのバス停に戻ってきた。
ベンチに揃って腰をかける。
二人とも言葉を発さない。
あたしはさっきの写真を思い出してまた後悔していた。
あのまま部屋に行くなんて言わずに
戻れば良かった。
誘われなければ。
応えなければ。
でも今更言っても、もう遅い。
あたしは写真を見たし
部屋に行った事を後悔した。
これほどは無いくらいのショックを受けた。
顔には出さなかったけど雰囲気は出してた。
今にも泣きそうな心を
乾いた上っ面で隠してた。
しばらく待って、すぐにバスが見えた。
立ち上がろうとした瞬間、彼はあたしの腕を掴んだ。
座ってる彼の腕に引っ張られて
あたしの身体は彼の方に傾く。
彼はあたしの頬に軽くキスをした。
あたしが何か言おうとしたのを遮り
彼は言った。
「これが、最後のキスだから。」
あたしは力無く笑うと、何も言わずに
目の前に止まったバスに乗り込んだ。
結局、あたしも彼も弱いし甘いのだ。
彼は自分に甘い。
別れるって決めたはずのあたしを
諦めきれずに、もしくは同情からか
気持ちが止められない。
あたしは彼に甘い。
そうやって彼の気まぐれでも
あたしはそれを心の底で喜んでいて
彼を許しているんだ。
だけど、彼とは終わり。
本当に、終わり。
突きつけられた事実。
彼の部屋に到着した。
彼は友達と二人でルームシェアしてる。
間に仕切りも無くて
プライバシーのカケラも無い。
それでもやっていけるのはきっと
男ならではの変な友情とかのせいだろうか。
部屋に入ったとき、友達はいなかった。
彼は机の上をごちゃごちゃかき回して
ポットと紅茶を用意した。
そして、水を取って来ると言って
部屋を出ていった。
部屋に一人残されたあたしは
しばらく部屋を見渡していた。
見慣れた部屋。
壁にはポスター。
少し乱れたベッド。
そして散らかった机。
机の上には本が載せれるように
棚が置いてあった。
そこには前には彼自信の小さい頃の写真や
弟の写真、家族の写真が貼ってあった。
それが。
あたしは此処まで来てようやく
事実を叩きつけられた。
やっぱり言葉で「別れよう」だけじゃ
あたしは納得してなかったんだ。
目の前にあったのは彼と元彼女が
仲良さそうに写った写真。
それも最近のじゃない。
彼が数年若い。
きっと以前つきあってた頃の写真だ。
あたしは激しく後悔した。
何でこんな所にのこのこと来てしまったんだろう。
何故最後に彼の部屋を見たいと望んでしまったんだろう。
もう彼はあたしの事を好きでも何でも無いのに。
後悔と同時にそれと同じくらいの苛立ちを感じた。
「こうやって見せ付けるために呼んだの?」
「此処までする必要無いじゃない。」
「あたしはしつこい女じゃ無いもの。
別れるって言えば別れるわよ。」
「どうしてこんな仕打ちをするわけ?」
押さえられない苛立ちと疑問。
涙は流さなかった。
悔しかったけど、泣けば負けだと思った。
「ただいまー。」
水をポットに汲んで来た彼は
あたしの心などわかりもしないで
部屋に戻ってきた。
あたしが写真を見たのは
気付いてるんだろうか。
何処まで馬鹿なんだろう。
彼もあたしも。
そのまま紅茶が出来るのを待ってる間に
友達が帰ってきた。
「お帰りー。」
彼もあたしも平静を装って出迎えた。
あたしは友達とも仲が良い。
友達には長く付き合ってる彼女がいて
モデルをやってて、でも気が強くて
今は遠距離だけど愛してるって前に言ってた。
そんな彼らを見て、すっごく暖かい気持ちになった。
「何してるの?」
「紅茶作ってもらってるの。」
「いいなー。俺も欲しいー。」
そう言いながら友達は彼と話し始めた。
二人は驚くくらい仲が良い。
いっつも一緒につるんで遊んでる。
その二人にあたしも良く混ざって
ご飯行ったりしてたなぁ。
なんてすでに過去形で思い出してる自分に気付く。
「はい。」
目の前に出された紅茶は
あたしの好みをとても良くわかってる味だった。
あたしが紅茶を静かに飲んでる間も
彼は友達とじゃれていた。
その二人の様子を見ながら
時々、写真を横目で見たりした。
彼に気付かれないように。
それはひきずってるとか、そんなんじゃなくて
ただその写真が見れなければあたしは
「別れた」を認められていないんだと思ったから。
だから自分に言い聞かすように
何でも無い事だと騙すように
あたしは写真を何度も見た。
何がしたいの、あたし。
「友達でいてあげる」
そう許してあげた後の彼は
本当に嬉しそうに、だけど
何処か悲しそうに笑った。
あたしも其れを見て笑ったけど
とってもとっても辛かった。
あたしにとって初めての彼氏。
何もかもが初めてだった人。
ついに別れたんだ。
本当はすぐにでも部屋に戻って
泣きたかった。
だけど、きっと今離れてしまえば
ずっと会えなくなってしまう。
何故かふとそう思った。
だから、あたしはなるべく明るい声を出して
彼に呼びかけた。
「ねぇ、お腹空いちゃった。
どっか食べに行こ。」
とりあえず此の場から離れたかった。
だけど彼とは離れたくなかった。
もう彼氏では無くてもやっぱり
好きだったから。
近くのお店まで歩いて行ったけど
すでに時間が遅くて閉まってた。
彼は他のお店も探そうと誘ってくれたけど
あたしはそれを頑なに拒否した。
なんだか、自分でも何がしたいのかわからない。
そして
「やっぱり帰る」
そう口にした。
彼は少しだけ淋しい顔をして見せたけど
そのまま一緒にバス停で待ってくれていた。
中々来ないバスを待つのは
1月の夜にはとても寒かった。
「俺の部屋、寄って行く?」
ふとそう提案されたけど、あたしは首を振った。
だって絶対に辛いに決まってる。
だけどしばらくしてあたしは
「ねぇ、紅茶が飲みたい。」
と言っていた。
彼は実家で作る紅茶を大事にしていて
それをいつも部屋に遊びに行く度に
よく出してくれたものだった。
つまりあたしは彼に
「部屋に行きたい」
と伝えていたのだった。
本当に最後の最後まで自分が馬鹿みたいで
何がしたいのかわからなかった。
「わかった。」
そう言ってあたしと彼は彼の部屋に向かった。
今までと違ったのは
手を繋がずに微妙な距離を保って
歩いていたことだけ。
別れた後。
「そっか」
そう口にした後はしばらく
重い沈黙が流れた。
彼もしばらく黙ってたけど
また口を開いた。
「俺、すっごく悩んで母さんにも
相談したんだ。
そしたら、はっきり伝えた上で
彼女(あたしの事)が俺を許してくれるのなら
彼女は素敵な人間だって言われてさ。」
何それ。
今、別れを伝えたばっかりの人間に
それは言わなきゃ駄目な事??
それじゃ、もしあたしが許さないなんて言えば
どうするつもりなの??
卑怯だよ。
先にそんな風に言うなんて。
まだ貴方の事好きなあたしが
そんな事を言われて、「許さない」なんて
言えるわけないじゃん。
ずるいよ。
汚いよ。
あたし、「許す」しか言えないじゃん。
黙ってるあたしに更に彼は付け加えた。
「俺、彼氏にはなれないけど
君の友達ではいたいんだ。
・・・駄目かな?」
今、別れたばっかりの元彼女と友達?
ふざけないでよ。
でも、あたしは彼の思惑通りに答えた。
「うん。仕方無いものね。
いいよ。
友達でいてあげる。」
あたしってば何処まで彼に甘いんだろう。