新・バスコの人生考察 -15ページ目

これは何なのか?の考察~ベスト版④~(パソコン読者用)

※過去の「ナンナン」の記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日、昭和の音楽を特集したテレビ番組がありました。


 番組をとおして、往年のヒット曲が紹介されます。思わず聞き入ってしまったのですが、とある男性歌手が、『もしもピアノが弾けたなら』という曲を、ピアノを弾きながら歌い始めました。「♪もしもピアノが弾けたなら 思いのすべてを 歌にして!」と、ピアノが弾けない人の思いを表現した曲なのに、ピアノを使っているのです。


 これ、おかしいですよね?言ってることとやってることが違いますよね!?


 「♪だけどー、僕にーはピアノがないー!」


 あるやろ、お前!あるし、弾いてるし!で、聴かされる客、引いてるし!


 なのに司会者はそのことに一切触れず、曲が終わってこう言いました。


 「いやー、歌詞がいいよね!」


 ツッコめよ、お前!ほめんでいいからまずツッコめよ、大ボケやろ!黒人が「こんにちわ!白人です!」って自己紹介するようなもんやろ!


 僕は、世の中の「これ、何なの?」と思わずにはいられない人・物・事を「ナンナン」と単位化しています。この「歌詞と演奏の矛盾」はナンナンにほかならず、まったく意味がわからないのです。


 そこで今回は、「これは何なのか?」の考察~ベスト版④~です。


 以下、僕が考えるナンナンの数々をご紹介させていただきます。


①立ち食いそば屋の天ぷらうどん 1ナンナン
 天ぷらうどん(そば)の天ぷらとは、エビに衣をつけて揚げた奴のことを言います。


 ですが、立ち食いの天ぷらうどんはエビではなく、妙な油のかたまり。サーフィンのボードみたいなかたまりを入れているくせに、天ぷらうどんを名乗ってやがるのです。


 これ、おかしいですよね?どう考えても、天ぷらうどんとは呼べないですよね?


 「一応はエビですよ!」とアピールするかのごとく、かたまりの中に小さいエビが入っています。「負け組のエビ」みたいな死体丸出しのチープなエビが入っており、その小賢しさに腹が立ってくるのです。


 お前、天ぷらうどんを名乗んなよ、そんなんで!「ほとんど天かすうどん」「微海老うどん」的な名前にせいや!


 立ち食いにはナンナンが多いです。特筆すべきは注文を出すスピードで、信じがたい速さで出してきます。麺をゆで置きしてあるため速く、「天ぷらうどんをくだ……」の「だ」で出される勢いなのです。


 速すぎんねん、お前!大正時代か!


 「お待ちどう!」


 待ってへんねんけど!?速すぎて待った感覚が一切ないねんけど!?


 立ち食いには、おにぎりも販売されています。ですが、立ち食いのおにぎりの多くは、具材が何かという説明なしに「おにぎり」です。客に種類を選ぶ権利はなく、有無を言わさず「おにぎり」なのです。


 選ばせろよ、客に!そりゃな、客全員が山下清やったらいいぞ!あいつは中身を問わず「おにぎり」やからそれでいいけど、俺らは絵は書かんねん!放浪もしてないし、服もそこそこコーディネートしとんねん!


 立ち食いそば屋は、「安いから何をしても許されるやろう!」と考えているところがあります。従業員が異様なまでに無愛想なのがその証拠で、もう存在自体がナンナンと言えるでしょう。


②電車の忘れ物 2ナンナン
 電車に忘れ物をする人がいます。先日、仕事の関係で詳しく調べたところ、傘や携帯電話といった王道以外に、あ
りえない忘れ物が存在していました。


 まず、カツラです。


 こんなもん、忘れます、普通?どう考えても、取れたら気づくでしょ?


 忘れ物センターに届けられても、取りに行くかどうかを躊躇します。


 「すいません、車内にカツラを忘れたんですけど届いてませんか?」


 こう口にするには勇気がいりますし、見つかったら見つかったで、「自分のものだと証明できるものはありますか?」と訊かれます。かぶって、「見てのとおり、よく似合ってるでしょ?」と言うわけにもいきませんからね。


 次に、クマの右手です。


 クマの右手ですよ、クマの右手?車内にクマの右手忘れてる奴がおるんですよ!?


 なんでそんなもん持ち歩いてんねん!もしかしてお前、「気の弱い痴漢」か何かか?「直接は無理やから」とかそういうことか!?


 車内に持ち込んだ理由がわからない忘れ物は多いです。ほかにも、「銛(モリ)の付いた水中銃」を忘れた奴がいるのです。


 KGBか、お前!新手のロシアンマフィアか!もしくはクマの手を使うさっきの痴漢の仲間か?お互い気の弱い痴漢で「クマ派、モリ派」とかそういうことか!?


 とはいえ、これらは、まだましです。なにしろ中には、義足を忘れた奴がいるのです。


 忘れようあるか、そんなもん!で、忘れたら忘れたで取りに行けよ!こんな濃いもん、いつまでも保管させんなよ


 ほかにも、骨壷、ダッチワイフ、血まみれのサッカーボール……。訳のわからないものばかりで、電車には「忘れ物ナンナン」がたくさん存在しています。


③給食の食べ合わせ 3ナンナン
 小学校の給食には、僕は苦い思い出があります。どうしても食べられないものがあり、たとえば、かす汁。


 酒かすが入ったスープで僕は食べられなかったのですが、そもそも子供に、お酒を使った食べ物を用意するのはおかしいです。僕は今でもお酒が飲めません。もともとアルコールを受けつけない体質なので、残して当たり前。なのに「食べ終わるまで帰さへんからな!」と言って無理矢理食べさせてきたのです。


 いじめやんけ、これ!お前も、自分の子供の哺乳瓶にベビーシッターがイカの塩辛入れてたらイヤやろ!


 しかも給食は、食べ合わせがむちゃくちゃです。和洋中を無視した献立てで、その最たるものが牛乳でしょう。


 給食には毎回、牛乳が出てきます。生ぬるい牛乳と白ご飯を一緒に食べるのが気持ち悪く、グリーンピースご飯と一緒だったら、オッサンの足を食べているような感覚に陥るのです。


 組み合わせ考えろよ、お前!お前それはババアがバッシュ履くようなもんやぞ!


 そのありえない食べ合わせは、現在でも同じです。詳しく調べたところ、謎の食べ合わせがたくさん存在していました。


 『大根サラダ カレーライス(麦ご飯)』


 なんでカレーに麦ご飯やねん!ガンジーでも抵抗してくるわ、こんな組み合わせ!


 『ナン カレーナン 五目スープ』


 何なん、これ!?このナンは何なんって、ややこしいわ!


 『パン ゴーヤチャンプルー 野菜スープ』


 少なっ!いそうろうか、生徒は!屋根裏で食わされるタイプの飯やんけ、これ!


 『麦ごはん 煮びたし さばのみそ煮 スープ煮』


 煮すぎやねん!年末年始のババアか!


 『豆ごはん けんちん汁 筑前煮 きんぴらごぼう』


 老いぼれの飯やんけ!お前これ、老いぼれが好んで食うもんばっかりやんけ!


 『ボルシチ ピロシキ インディアンヤキソバ』


 非国民か!日の丸をなめんな、お前!味に少しは大和をぶつけろ!


 『立田揚げ ぶっかけうどん パインパン』


 ごめん、全部微妙に下ネタやねんけど!?パインパンって、1つ間違ったらとんでもないことになるんやけど!?


 教育委員会も、そろそろ気づかないとダメですよ。食べ合わせが気持ち悪いせいで、僕のようにトラウマになる生徒がいてもおかしくないのですから。


④人格者を演じようとする坊主 4ナンナン
 寺の住職というのは、総じて人格者が多いです。自らを律し、世俗とかけ離れた生活を送っている結果なのでしょ
う。


 ですが、中には生臭坊主もいます。「坊主=聖職者」という世間のイメージを守るため、やけに人格者を演じようとする奴がいるのです。


 7年前のことです。仕事で、上司に「変わった坊主を探してこい!」と命令された僕は、人探しに追われました。


 ある日、大阪の○○寺に変わった坊主がいる、という情報を仕入れました。僕は取材を申し込み、先輩と2人して、その寺に向かいました。


 寺のドアを開けるやいなや、坊主は「堅苦しいあいさつはいいから、入れ入れ!」と言います。いかにも、という感じの話し方で、自分に酔いしれているタイプなのがわかりました。


 僕らは居間に通されました。そして、どんな坊主かを探るべく質問を始めたところ、坊主がその質問を遮り、僕にこう訊いてきました。


 「君、夢はあるかい?」


 僕はポカーンとしながらも、「僕は放送の仕事をしているので、将来、おもしろいテレビ番組が作れたらいいな、と思っています」と答えたところ、坊主が「聞こえねえ」と言うのです。


 僕の夢が小さいらしく、自分判断で小さい夢だと判断した場合は、「聞こえねえ」と言います。そこで、「コメディー映画を作りたいです」と、より大きな夢を口にしたのですが、それでも「聞こえねえ」と答え、僕をニラみつけてきたのです。


 頭にきた僕は、冗談半分にこう答えました。


 「アメリカの大統領になりたいです!」


 すると、坊主は黙りこくったのです。


 腕を組み、視線を時折下に落とし、思案顔を見せてきます。体中から、ものすごいオーラを放ってきたのです。


 やがて、坊主が口を開こうとしました。僕はてっきり、「そうだ!」と、ほめられると思っていたのですが、坊主が長い沈黙を破り、めちゃくちゃ低い声で「それは無理だ」って言ったんですよ。


 おちょくってんのか、お前!俺も無理なんはわかってるわ!ただ、お前は肯定せいよ!自分の熱さを最後まで貫徹せいよ!


 「いくらなんでもそれは無理だよ!ハハハハハ!」


 チャラいな、お前!どこが人格者やねん!


 このように、人格者を演じようとする坊主がいるのです。


 自分に酔いしれてカッコをつけたがり、この坊主に至っては収録に遅刻するのはもちろん、打ち上げで肉食ってましたからね。「この牛肉をもう2人前ちょうだい!」って言ってましたから。


⑤ケンカの仲裁をしてくる赤の他人 5ナンナン
 ケンカをしていると、第三者が止めに入ってくることがあります。


 もちろん、知り合いや警察ならわかります。もしくは、傷害になりそうなほどエキサイトしていればわかるのですが、赤の他人なのにいざこざレベルで乱入し、強引に仲裁してくるのです。


 先日、スポーツジムにいたときのことです。


 お風呂から上がり、髪の毛を乾かしにラウンジに移動したところ、チンピラ風の茶髪の若者と、40代とおぼしき男性が口論をしています。チンピラが扇風機の首を振らずに独占していたらしく、注意した男性に悪態ついたようなのです。


 するとそこに、1人のオッサンが現われました。


 「ケンカすんな!」


 こう叫んで2人に割って入ったものの、風呂場を出た勢いのまま駆けつけたため全裸なのです。


 パンツ履いてから来いや、お前!お前が1番ややこしい奴に見えるやんけ!


 またこのオッサンが、ものすごい巨根なのです。「俺には仲裁する資格がある!」と語っているかのような巨根で、巨根を揺らしながらチンピラを羽交い絞めにしたのです。


 ホモの痴漢やんけ、これ!通報されるんはお前のほうやぞ!


 「大の大人がそんなことでケンカすんなよ!」


 お前も「大」の大人やんけ!ものすごい「大」やぞ、お前は!


 「みっともないぞ!」


 お前が1番みっともないねん!で、微妙に勃起してんねんけど!?2人の真ん中に移動したけど、でかすぎてチンピラの太ももに当たりかけてんねんけど!?


 チンピラはエキサイトしながらも、ちょいちょいオッサンのチンチンに目が行っています。「あんたがケンカ売ってきたんやろが!」と啖呵を切る一方で、「キレる⇒チンチン⇒キレる⇒チンチン」と目が泳ぎまくっているのです


 それでも、何とかケンカは収まりました。オッサンのチンチンも収まりました。2人は落ち着きを取り戻し始めたのですが、鏡越しにニラみつけるチンピラに、相手の男性が再びキレたのです。


 男性は、「何をニラんどんねん?」と文句をつけました。するとそれに気づいたオッサンが、「もう、終わった!」と叫び始めたのです。「もう、終わったこと!終わったことやから!」と男性に言って聞かそうとし、「終わったことやのになんであんたは蒸し返すねん!?」「関係ないやろ、あんた!」と今度はこの2人がケンカを始めたんですよ!


 どうなってんねん、お前ら!ていうかお前、また勃起してるやんけ!


 「せっかく収まったと思ったのに!」


 お前も収まってないやろ!お前もまた立ってるやろ!


 正直、笑いが止まらなかったですよ。鏡越しに見えるオッサンのチンチンに、僕はずっと肩を震わせていましたから。


⑥個人経営の弁当屋 6ナンナン
 家で仕事をすることが多い僕は、頻繁に弁当屋を利用します。個人経営の弁当屋が好きで、3軒使い分けているの
ですが、納得の行かないことが多いのです。


 たとえば、のり弁当。のり弁当は安くておいしく、僕もたまに食べます。


 ですが、なぜ、「のり弁当」と言うのかがわかりません。のり弁には、イワシフライやチクワ揚げが入っています。それらを差し置き、のりをピックアップしてネーミングする意味がわからないのです。


 なにしろ、イワシフライ弁当というのが別にあります。のり弁は、イワシフライが1枚です。イワシフライ弁当には2枚入っているもののご飯にのりを載せており、少し前から、のり弁にシャケを入れだしたのです。


 シャケ弁やろ、それ!何が何かはっきりせいや!


 なのにシャケ弁には、のりが載っています。のり弁デラックスに至ってはシャケを入れるのはもちろん、から揚げが2個も入っているのです。


 何弁やねん、それ!主役は誰やねん!『THE有頂天ホテル』か!


 僕の地元に、個人経営の小汚い弁当屋があります。ここのメニューがめちゃくちゃで、「玄米弁当」のご飯が玄米なのはわかるのですが、おかずが野菜炒め弁当とまったく同じなのです。


 野菜炒め弁当やろ、それ!野菜炒め弁当だけにして、『ご飯は+100円で玄米に変更できます』って貼り紙しとったらいいやんけ!


 しかも、メニューにやたらと「ザ」をつけています。「ザ・天丼」「ザ・ロースかつ弁当」 などと「ザ」をつけ、店内のメニュー表記に妙なコメントを添えています。『から揚げ弁当~やっぱりこれかな!~』『エビフライ弁当~子供さんに大人気!~』などと書き、しょうが焼き弁当に至っては、『しょうが焼き弁当~しょうがねえな、これにするか!~』なのです。


 ダジャレかい!ダジャレ弁当なんて食えるか、お前!


 『納豆マヨネーズ丼~奇跡の出会い!~』


 お前が強引に出会わせただけやろ!奇跡でもなんでもないわ、こんなもん!


 『スペシャル弁当~スペシャルだ!~』


 書くことなくなってるやんけ!ボキャブラリー尽きてるやんけ、完全に!


 『天かす丼』


 ……ないの!?書くことなくて開き直ったん!?ていうか、天かす丼ってなんやねん!消費者なめてんのか!


 ここの看板メニューは、「まっちゃん弁当」です。まっちゃんというのは亡くなったご主人のあだ名で、その日に作ったおかずを1品ずつ入れます。僕もまっちゃんを頻繁に頼むのですが、弁当箱を止める輪ゴムに一度、陰毛が挟まっていたのです。


 気づけよ、輪ゴムつけるときに!これこそ奇跡の出会いやんけ!


 「まっちゃん、お待ちの方?」


 まっちゃんの陰毛とかそういうこと?「陰毛をお待たせ!」とかそういうことか!?


 『まっちゃん弁当~主人が工夫に工夫を重ねました!~』


 それで陰毛なん!?工夫の末に辿り着いたんが陰毛のサービスやったんや!?


 常連客には、おまけをしてくれます。余ったおかずを入れてくれたり、ご飯を大盛りにしてくれるのですが、一度、「スリッパ、おまけしとくわ!」と言って、袋に百均で買ってきたスリッパをぶち込んできたのです。


 何のおまけやねん、これ!関係ないやろ、スリッパは!


 このように、個人経営の弁当屋は個性的です。メニューはもちろんのこと、店員にもキャラの濃い奴が多いので、みなさまもチェックしてみてください。



 そして、最後。これは、ナンナンどころの話ではありません。ナンナンなんて言い方では済まされず、「ジョウキヲイッシテイル」に認定したいと思います。


⑦ドヤ街 1ジョウキヲイッシテイル
 「ドヤ街」と呼ばれる地域があります。東京の山谷、大阪の釜ヶ崎……。簡易宿泊所が立ち並ぶ街のことで、ここ
の「濃さ」が尋常ではありません。ホームレスやヤ○ザなど、ややこしい奴がゴロゴロしているのです。


 大阪に、『今宮戎』という駅があります。この界隈はドヤ街です。風俗の広告看板を手にしているオッサンがたくさんおり、一度、白紙の看板を持っている奴がいました。夏場で汗だらだら流しながら、真っ白の看板を手に客引きしていたのです。


 何の宣伝やねん、それ!この猛暑にアホ丸出しやんけ!


 「今日の太陽、でかいねん!」


 太陽は毎日でかいわ!太陽はエブリデイ特大じゃ、ボケ!


 ほかにもその昔、道を歩いていると、「兄ちゃん、ヤ○ザにならへんか?」と、普通に訊かれました。「このティッシュもらってください」ぐらいのノリで軽く訊いてきたのです。


 誰がうんって言うねん、お前!どこのどいつが「わかりました!兄貴のもとで今日からお世話になります!」とか言うねん!


 「来週の火曜日からでいいから!来週の火曜日からでいいから!」


 意味わからん!俺に来週の月曜日までに済ませる用事なんてないよ!


 「勘弁してください!」


 「それやったらせめて、三村さんに会ったってや?」


 誰やねん、三村さんって!ていうか、めっちゃ怖そうやねんけど、三村って!?「沈めてもうたらわからへんから!」が口癖の人っぽい名前やねんけど!?


 僕は3ヶ月ほど前に、人生でも記憶がないほどの恐怖体験をしました。


 その日の夜の8時すぎ、仕事を終えた僕は、原付きに乗って帰っていました。途中で雨がパラついてきたので、雨宿りがてら、電車の高架下に移動しました。


 ここは釜ヶ崎です。近くには、たくさんのブルーシートがあります。ホームレスが段ボールにくるまり、死んだように眠っているのです。


 僕は原付きを停車し、寒かったので、近くの自動販売機でコーンポタージュを買いました。ただ、缶に口をつけて何気に横を見たところ、僕の顔の真横にキリンみたいなガリガリの犬がいるんですよ!僕の目と鼻の先で、骨と皮だけの犬が僕をじっと見つめているのです!


 「ウギャーーー!!!フグアギャギャギャーーー!!!」


 生まれて初めて腰抜かしたんですよ、僕!缶を投げ捨てて尻餅をつき、僕の声に驚いたホームレスが目を覚ましたのですが、僕と真横で目が合ったそいつの顔面が脂でギトギトで「おはぎ」みたいやったんですよ!


 「フグアギャギャギャーーー!!!」


 こんなもん、誰だって腰抜かしますよ!だってガリガリの犬と目が合った2秒後に、目の前におはぎがあったんですよ!?


 ここ、どうなってんねん、おい!同じ青い星とは思えんぞ!


 とにかく、ドヤ街だけは信じられません。みなさまも、だまされたと思って一度、足を運んでみてください。違う意味で人生観が変わりますから。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみにドヤ街ではないものの、僕の地元である尼崎市も、おかしな奴が多いです。先日、地元の商店街を歩いていると、見知らぬオッサンが僕に話しかけてきました。


 「兄ちゃん、ここらへんに、安い産婦人科はないか?」


 あるか、そんなもん!!!


これは何なのか?の考察~ベスト版④~(携帯読者用)

※過去の「ナンナン」の記事をごちゃ混ぜにして再編集

 先日、昭和の音楽を特集したテレビ番組がありました。

 番組をとおして、往年のヒット曲が紹介されます。思わず聞き入ってしまったのですが、とある男性歌手が、『もしもピアノが弾けたなら』という曲を、ピアノを弾きながら歌い始めました。「♪もしもピアノが弾けたなら 思いのすべてを 歌にして!」と、ピアノが弾けない人の思いを表現した曲なのに、ピアノを使っているのです。

 これ、おかしいですよね?言ってることとやってることが違いますよね!?

 「♪だけどー、僕にーはピアノがないー!」

 あるやろ、お前!あるし、弾いてるし!で、聴かされる客、引いてるし!

 なのに司会者はそのことに一切触れず、曲が終わってこう言いました。

 「いやー、歌詞がいいよね!」

 ツッコめよ、お前!ほめんでいいからまずツッコめよ、大ボケやろ!黒人が「こんにちわ!白人です!」って自己紹介するようなもんやろ!

 僕は、世の中の「これ、何なの?」と思わずにはいられない人・物・事を「ナンナン」と単位化しています。この「歌詞と演奏の矛盾」はナンナンにほかならず、まったく意味がわからないのです。

 そこで今回は、「これは何なのか?」の考察~ベスト版④~です。

 以下、僕が考えるナンナンの数々をご紹介させていただきます。

①立ち食いそば屋の天ぷらうどん 1ナンナン
 天ぷらうどん(そば)の天ぷらとは、エビに衣をつけて揚げた奴のことを言います。

 ですが、立ち食いの天ぷらうどんはエビではなく、妙な油のかたまり。サーフィンのボードみたいなかたまりを入れているくせに、天ぷらうどんを名乗ってやがるのです。

 これ、おかしいですよね?どう考えても、天ぷらうどんとは呼べないですよね?

 「一応はエビですよ!」とアピールするかのごとく、かたまりの中に小さいエビが入っています。「負け組のエビ」みたいな死体丸出しのチープなエビが入っており、その小賢しさに腹が立ってくるのです。

 お前、天ぷらうどんを名乗んなよ、そんなんで!「ほとんど天かすうどん」「微海老うどん」的な名前にせいや!

 立ち食いにはナンナンが多いです。特筆すべきは注文を出すスピードで、信じがたい速さで出してきます。麺をゆで置きしてあるため速く、「天ぷらうどんをくだ……」の「だ」で出される勢いなのです。

 速すぎんねん、お前!大正時代か!

 「お待ちどう!」

 待ってへんねんけど!?速すぎて待った感覚が一切ないねんけど!?

 立ち食いには、おにぎりも販売されています。ですが、立ち食いのおにぎりの多くは、具材が何かという説明なしに「おにぎり」です。客に種類を選ぶ権利はなく、有無を言わさず「おにぎり」なのです。

 選ばせろよ、客に!そりゃな、客全員が山下清やったらいいぞ!あいつは中身を問わず「おにぎり」やからそれでいいけど、俺らは絵は書かんねん!放浪もしてないし、服もそこそこコーディネートしとんねん!

 立ち食いそば屋は、「安いから何をしても許されるやろう!」と考えているところがあります。従業員が異様なまでに無愛想なのがその証拠で、もう存在自体がナンナンと言えるでしょう。

②電車の忘れ物 2ナンナン
 電車に忘れ物をする人がいます。先日、仕事の関係で詳しく調べたところ、傘や携帯電話といった王道以外に、ありえない忘れ物が存在していました。

 まず、カツラです。

 こんなもん、忘れます、普通?どう考えても、取れたら気づくでしょ?

 忘れ物センターに届けられても、取りに行くかどうかを躊躇します。

 「すいません、車内にカツラを忘れたんですけど届いてませんか?」

 こう口にするには勇気がいりますし、見つかったら見つかったで、「自分のものだと証明できるものはありますか?」と訊かれます。かぶって、「見てのとおり、よく似合ってるでしょ?」と言うわけにもいきませんからね。

 次に、クマの右手です。

 クマの右手ですよ、クマの右手?車内にクマの右手忘れてる奴がおるんですよ!?

 なんでそんなもん持ち歩いてんねん!もしかしてお前、「気の弱い痴漢」か何かか?「直接は無理やから」とかそういうことか!?

 車内に持ち込んだ理由がわからない忘れ物は多いです。ほかにも、「銛(モリ)の付いた水中銃」を忘れた奴がいるのです。

 KGBか、お前!新手のロシアンマフィアか!もしくはクマの手を使うさっきの痴漢の仲間か?お互い気の弱い痴漢で「クマ派、モリ派」とかそういうことか!?

 とはいえ、これらは、まだましです。なにしろ中には、義足を忘れた奴がいるのです。

 忘れようあるか、そんなもん!で、忘れたら忘れたで取りに行けよ!こんな濃いもん、いつまでも保管させんなよ!

 ほかにも、骨壷、ダッチワイフ、血まみれのサッカーボール……。訳のわからないものばかりで、電車には「忘れ物ナンナン」がたくさん存在しています。

③給食の食べ合わせ 3ナンナン
 小学校の給食には、僕は苦い思い出があります。どうしても食べられないものがあり、たとえば、かす汁。

 酒かすが入ったスープで僕は食べられなかったのですが、そもそも子供に、お酒を使った食べ物を用意するのはおかしいです。僕は今でもお酒が飲めません。もともとアルコールを受けつけない体質なので、残して当たり前。なのに「食べ終わるまで帰さへんからな!」と言って無理矢理食べさせてきたのです。

 いじめやんけ、これ!お前も、自分の子供の哺乳瓶にベビーシッターがイカの塩辛入れてたらイヤやろ!

 しかも給食は、食べ合わせがむちゃくちゃです。和洋中を無視した献立てで、その最たるものが牛乳でしょう。

 給食には毎回、牛乳が出てきます。生ぬるい牛乳と白ご飯を一緒に食べるのが気持ち悪く、グリーンピースご飯と一緒だったら、オッサンの足を食べているような感覚に陥るのです。

 組み合わせ考えろよ、お前!お前それはババアがバッシュ履くようなもんやぞ!

 そのありえない食べ合わせは、現在でも同じです。詳しく調べたところ、謎の食べ合わせがたくさん存在していました。

 『大根サラダ カレーライス(麦ご飯)』

 なんでカレーに麦ご飯やねん!ガンジーでも抵抗してくるわ、こんな組み合わせ!

 『ナン カレーナン 五目スープ』

 何なん、これ!?このナンは何なんって、ややこしいわ!

 『パン ゴーヤチャンプルー 野菜スープ』

 少なっ!いそうろうか、生徒は!屋根裏で食わされるタイプの飯やんけ、これ!

 『麦ごはん 煮びたし さばのみそ煮 スープ煮』

 煮すぎやねん!年末年始のババアか!

 『豆ごはん けんちん汁 筑前煮 きんぴらごぼう』

 老いぼれの飯やんけ!お前これ、老いぼれが好んで食うもんばっかりやんけ!

 『ボルシチ ピロシキ インディアンヤキソバ』

 非国民か!日の丸をなめんな、お前!味に少しは大和をぶつけろ!

 『立田揚げ ぶっかけうどん パインパン』

 ごめん、全部微妙に下ネタやねんけど!?パインパンって、1つ間違ったらとんでもないことになるんやけど!?

 教育委員会も、そろそろ気づかないとダメですよ。食べ合わせが気持ち悪いせいで、僕のようにトラウマになる生徒がいてもおかしくないのですから。

④人格者を演じようとする坊主 4ナンナン
 寺の住職というのは、総じて人格者が多いです。自らを律し、世俗とかけ離れた生活を送っている結果なのでしょう。

 ですが、中には生臭坊主もいます。「坊主=聖職者」という世間のイメージを守るため、やけに人格者を演じようとする奴がいるのです。

 7年前のことです。仕事で、上司に「変わった坊主を探してこい!」と命令された僕は、人探しに追われました。

 ある日、大阪の○○寺に変わった坊主がいる、という情報を仕入れました。僕は取材を申し込み、先輩と2人して、その寺に向かいました。

 寺のドアを開けるやいなや、坊主は「堅苦しいあいさつはいいから、入れ入れ!」と言います。いかにも、という感じの話し方で、自分に酔いしれているタイプなのがわかりました。

 僕らは居間に通されました。そして、どんな坊主かを探るべく質問を始めたところ、坊主がその質問を遮り、僕にこう訊いてきました。

 「君、夢はあるかい?」

 僕はポカーンとしながらも、「僕は放送の仕事をしているので、将来、おもしろいテレビ番組が作れたらいいな、と思っています」と答えたところ、坊主が「聞こえねえ」と言うのです。

 僕の夢が小さいらしく、自分判断で小さい夢だと判断した場合は、「聞こえねえ」と言います。そこで、「コメディー映画を作りたいです」と、より大きな夢を口にしたのですが、それでも「聞こえねえ」と答え、僕をニラみつけてきたのです。

 頭にきた僕は、冗談半分にこう答えました。

 「アメリカの大統領になりたいです!」

 すると、坊主は黙りこくったのです。

 腕を組み、視線を時折下に落とし、思案顔を見せてきます。体中から、ものすごいオーラを放ってきたのです。

 やがて、坊主が口を開こうとしました。僕はてっきり、「そうだ!」と、ほめられると思っていたのですが、坊主が長い沈黙を破り、めちゃくちゃ低い声で「それは無理だ」って言ったんですよ。

 おちょくってんのか、お前!俺も無理なんはわかってるわ!ただ、お前は肯定せいよ!自分の熱さを最後まで貫徹せいよ!

 「いくらなんでもそれは無理だよ!ハハハハハ!」

 チャラいな、お前!どこが人格者やねん!

 このように、人格者を演じようとする坊主がいるのです。

 自分に酔いしれてカッコをつけたがり、この坊主に至っては収録に遅刻するのはもちろん、打ち上げで肉食ってましたからね。「この牛肉をもう2人前ちょうだい!」って言ってましたから。

⑤ケンカの仲裁をしてくる赤の他人 5ナンナン
 ケンカをしていると、第三者が止めに入ってくることがあります。

 もちろん、知り合いや警察ならわかります。もしくは、傷害になりそうなほどエキサイトしていればわかるのですが、赤の他人なのにいざこざレベルで乱入し、強引に仲裁してくるのです。

 先日、スポーツジムにいたときのことです。

 お風呂から上がり、髪の毛を乾かしにラウンジに移動したところ、チンピラ風の茶髪の若者と、40代とおぼしき男性が口論をしています。チンピラが扇風機の首を振らずに独占していたらしく、注意した男性に悪態ついたようなのです。

 するとそこに、1人のオッサンが現われました。

 「ケンカすんな!」

 こう叫んで2人に割って入ったものの、風呂場を出た勢いのまま駆けつけたため全裸なのです。

 パンツ履いてから来いや、お前!お前が1番ややこしい奴に見えるやんけ!

 またこのオッサンが、ものすごい巨根なのです。「俺には仲裁する資格がある!」と語っているかのような巨根で、巨根を揺らしながらチンピラを羽交い絞めにしたのです。

 ホモの痴漢やんけ、これ!通報されるんはお前のほうやぞ!

 「大の大人がそんなことでケンカすんなよ!」

 お前も「大」の大人やんけ!ものすごい「大」やぞ、お前は!

 「みっともないぞ!」

 お前が1番みっともないねん!で、微妙に勃起してんねんけど!?2人の真ん中に移動したけど、でかすぎてチンピラの太ももに当たりかけてんねんけど!?

 チンピラはエキサイトしながらも、ちょいちょいオッサンのチンチンに目が行っています。「あんたがケンカ売ってきたんやろが!」と啖呵を切る一方で、「キレる⇒チンチン⇒キレる⇒チンチン」と目が泳ぎまくっているのです。

 それでも、何とかケンカは収まりました。オッサンのチンチンも収まりました。2人は落ち着きを取り戻し始めたのですが、鏡越しにニラみつけるチンピラに、相手の男性が再びキレたのです。

 男性は、「何をニラんどんねん?」と文句をつけました。するとそれに気づいたオッサンが、「もう、終わった!」と叫び始めたのです。「もう、終わったこと!終わったことやから!」と男性に言って聞かそうとし、「終わったことやのになんであんたは蒸し返すねん!?」「関係ないやろ、あんた!」と今度はこの2人がケンカを始めたんですよ!

 どうなってんねん、お前ら!ていうかお前、また勃起してるやんけ!

 「せっかく収まったと思ったのに!」

 お前も収まってないやろ!お前もまた立ってるやろ!

 正直、笑いが止まらなかったですよ。鏡越しに見えるオッサンのチンチンに、僕はずっと肩を震わせていましたから。

⑥個人経営の弁当屋 6ナンナン
 家で仕事をすることが多い僕は、頻繁に弁当屋を利用します。個人経営の弁当屋が好きで、3軒使い分けているのですが、納得の行かないことが多いのです。

 たとえば、のり弁当。のり弁当は安くておいしく、僕もたまに食べます。

 ですが、なぜ、「のり弁当」と言うのかがわかりません。のり弁には、イワシフライやチクワ揚げが入っています。それらを差し置き、のりをピックアップしてネーミングする意味がわからないのです。

 なにしろ、イワシフライ弁当というのが別にあります。のり弁は、イワシフライが1枚です。イワシフライ弁当には2枚入っているもののご飯にのりを載せており、少し前から、のり弁にシャケを入れだしたのです。

 シャケ弁やろ、それ!何が何かはっきりせいや!

 なのにシャケ弁には、のりが載っています。のり弁デラックスに至ってはシャケを入れるのはもちろん、から揚げが2個も入っているのです。

 何弁やねん、それ!主役は誰やねん!『THE有頂天ホテル』か!

 僕の地元に、個人経営の小汚い弁当屋があります。ここのメニューがめちゃくちゃで、「玄米弁当」のご飯が玄米なのはわかるのですが、おかずが野菜炒め弁当とまったく同じなのです。

 野菜炒め弁当やろ、それ!野菜炒め弁当だけにして、『ご飯は+100円で玄米に変更できます』って貼り紙しとったらいいやんけ!

 しかも、メニューにやたらと「ザ」をつけています。「ザ・天丼」「ザ・ロースかつ弁当」 などと「ザ」をつけ、店内のメニュー表記に妙なコメントを添えています。『から揚げ弁当~やっぱりこれかな!~』『エビフライ弁当~子供さんに大人気!~』などと書き、しょうが焼き弁当に至っては、『しょうが焼き弁当~しょうがねえな、これにするか!~』なのです。

 ダジャレかい!ダジャレ弁当なんて食えるか、お前!

 『納豆マヨネーズ丼~奇跡の出会い!~』

 お前が強引に出会わせただけやろ!奇跡でもなんでもないわ、こんなもん!

 『スペシャル弁当~スペシャルだ!~』

 書くことなくなってるやんけ!ボキャブラリー尽きてるやんけ、完全に!

 『天かす丼』

 ……ないの!?書くことなくて開き直ったん!?ていうか、天かす丼ってなんやねん!消費者なめてんのか!

 ここの看板メニューは、「まっちゃん弁当」です。まっちゃんというのは亡くなったご主人のあだ名で、その日に作ったおかずを1品ずつ入れます。僕もまっちゃんを頻繁に頼むのですが、弁当箱を止める輪ゴムに一度、陰毛が挟まっていたのです。

 気づけよ、輪ゴムつけるときに!これこそ奇跡の出会いやんけ!

 「まっちゃん、お待ちの方?」

 まっちゃんの陰毛とかそういうこと?「陰毛をお待たせ!」とかそういうことか!?

 『まっちゃん弁当~主人が工夫に工夫を重ねました!~』

 それで陰毛なん!?工夫の末に辿り着いたんが陰毛のサービスやったんや!?

 常連客には、おまけをしてくれます。余ったおかずを入れてくれたり、ご飯を大盛りにしてくれるのですが、一度、「スリッパ、おまけしとくわ!」と言って、袋に百均で買ってきたスリッパをぶち込んできたのです。

 何のおまけやねん、これ!関係ないやろ、スリッパは!

 このように、個人経営の弁当屋は個性的です。メニューはもちろんのこと、店員にもキャラの濃い奴が多いので、みなさまもチェックしてみてください。


 そして、最後。これは、ナンナンどころの話ではありません。ナンナンなんて言い方では済まされず、「ジョウキヲイッシテイル」に認定したいと思います。

⑦ドヤ街 1ジョウキヲイッシテイル
 「ドヤ街」と呼ばれる地域があります。東京の山谷、大阪の釜ヶ崎……。簡易宿泊所が立ち並ぶ街のことで、ここの「濃さ」が尋常ではありません。ホームレスやヤ○ザなど、ややこしい奴がゴロゴロしているのです。

 大阪に、『今宮戎』という駅があります。この界隈はドヤ街です。風俗の広告看板を手にしているオッサンがたくさんおり、一度、白紙の看板を持っている奴がいました。夏場で汗だらだら流しながら、真っ白の看板を手に客引きしていたのです。

 何の宣伝やねん、それ!この猛暑にアホ丸出しやんけ!

 「今日の太陽、でかいねん!」

 太陽は毎日でかいわ!太陽はエブリデイ特大じゃ、ボケ!

 ほかにもその昔、道を歩いていると、「兄ちゃん、ヤ○ザにならへんか?」と、普通に訊かれました。「このティッシュもらってください」ぐらいのノリで軽く訊いてきたのです。

 誰がうんって言うねん、お前!どこのどいつが「わかりました!兄貴のもとで今日からお世話になります!」とか言うねん!

 「来週の火曜日からでいいから!来週の火曜日からでいいから!」

 意味わからん!俺に来週の月曜日までに済ませる用事なんてないよ!

 「勘弁してください!」

 「それやったらせめて、三村さんに会ったってや?」

 誰やねん、三村さんって!ていうか、めっちゃ怖そうやねんけど、三村って!?「沈めてもうたらわからへんから!」が口癖の人っぽい名前やねんけど!?

 僕は3ヶ月ほど前に、人生でも記憶がないほどの恐怖体験をしました。

 その日の夜の8時すぎ、仕事を終えた僕は、原付きに乗って帰っていました。途中で雨がパラついてきたので、雨宿りがてら、電車の高架下に移動しました。

 ここは釜ヶ崎です。近くには、たくさんのブルーシートがあります。ホームレスが段ボールにくるまり、死んだように眠っているのです。

 僕は原付きを停車し、寒かったので、近くの自動販売機でコーンポタージュを買いました。ただ、缶に口をつけて何気に横を見たところ、僕の顔の真横にキリンみたいなガリガリの犬がいるんですよ!僕の目と鼻の先で、骨と皮だけの犬が僕をじっと見つめているのです!

 「ウギャーーー!!!フグアギャギャギャーーー!!!」

 生まれて初めて腰抜かしたんですよ、僕!缶を投げ捨てて尻餅をつき、僕の声に驚いたホームレスが目を覚ましたのですが、僕と真横で目が合ったそいつの顔面が脂でギトギトで「おはぎ」みたいやったんですよ!

 「フグアギャギャギャーーー!!!」

 こんなもん、誰だって腰抜かしますよ!だってガリガリの犬と目が合った2秒後に、目の前におはぎがあったんですよ!?

 ここ、どうなってんねん、おい!同じ青い星とは思えんぞ!

 とにかく、ドヤ街だけは信じられません。みなさまも、だまされたと思って一度、足を運んでみてください。違う意味で人生観が変わりますから。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみにドヤ街ではないものの、僕の地元である尼崎市も、おかしな奴が多いです。先日、地元の商店街を歩いていると、見知らぬオッサンが僕に話しかけてきました。

 「兄ちゃん、ここらへんに、安い産婦人科はないか?」

 あるか、そんなもん!!!

木下さんは何者か?の考察~ベスト版③~(パソコン読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日、僕の家に姪っ子が遊びにきました。


 愛子という名の4歳の女の子で、「外に出たい!」と言って聞きません。僕の母親が忙しそうだったことから、僕が連れ立って、近所の公園に行くことにしました。


 公園に向かう道すがら、商店街のはずれにある自転車屋の前を通りがかりました。


 この店のおじさんとは知り合いです。あいさつがてら、立ち寄ることにしました。


 店に入ると、おじさんは自転車の修理で忙しい様子。邪魔をしてはいけないので、すぐに立ち去ろうとしたのですが、店の前を暴走族らしき2台のバイクが走り去ったのです。


 このおじさんは、暴走族に怒鳴りつけました。


 「うるさいねん!何時やと思ってんねん!」


 ですが、たいしてうるさくはありません。少しエンジンを吹かしただけなので、イチャモンもいいところ。そもそも「何時やと思ってんねん!」と言われても、昼間なのでそんなに迷惑ではないのです。


 このおじさんは、愛子にカッコイイところを見せたいのでしょう。それを証拠に、「おっちゃんは強いで!」とばかりに、叫び終わると、愛子のほうを得意げに見たのです。


 ところが、この声が暴走族の耳に届きました。


 道路の端にバイクを停めて、自転車屋のほうに向かってきます。見るからに怖そうな2人で、すごい剣幕で近づいてきたのです。


 それでも、怒鳴ったのは僕ではありません。「このおじさんがなんとかしてくれるやろう」と安心していたのですが、暴走族がきて「今、うるさいって言ったん誰や?」と訊いた瞬間、このおじさんが愛子のほうを見たんですよ!


 最低か、お前!子供のせいにすんなよ!そもそも子供がそんなドギツイこと言うわけないやろ!


 100歩譲って、僕を見るなら、まだわかりますよ。ただ、4歳やそこらの子に責任を押しつけようとします、普通!?


 「ごめんごめん、許して!悪気はないから!」


 結局、僕が2人に頭を下げました。2人とも許してくれたのですが、このおじさんは謝る僕を尻目に後ろに下がり、自転車の修理をしていました。僕がなんとかしてくれる、と思ったのか、他人ごとみたいな顔をしていたのです。


 もう何なんですか、このオッサン!最低としか言いようがないでしょ!?


 そのくせ暴走族がいなくなると、「愛ちゃん、大丈夫か?もう心配いらんからな!」と、おいしいところを全部持っていきやがったのです。


 このおじさんの名前は、木下さん。


 僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 写メールはカメラ屋で現像するものだと勘違いしていたり、こないだなんて店の入り口に、『スケボーとかもなおせます!』という貼り紙をしたのです。


 誰がスケボーすんねん、今日日!で、「とか」ってなんやねん!ローラースケートはもっと需要ないぞ!


 とにかく、おかしいのです。「日本一頭がおかしい」と言っても過言ではない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版③~です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。


検証エピソード①『出前』
 これは、つい先日のお話です。


 その日の昼すぎに、部屋で仕事をしていた僕は、母親に素麺を作ってもらおうと階段を下りました。


 ですが、僕の母親は近所の人と、玄関で話し込んでいます。仕方なく、自分で作ろうと台所に向かったところ、木下さんと愛子がいました。


 「よかったら、2人の分も作ろうか?」


 僕が訊いたところ、愛子は「毎日、素麺やからイヤやわ!」と言います。僕が「我慢しなさい!」と注意しても、首を縦に振りません。


 すると、愛子のわがままを見かねた木下さんが、「中華を出前しないか?」と提案したのです。


 なんでもこの近所に、新しい中華料理屋ができたそうです。天津飯が絶品らしく、偶然にも家の電話の横にその店のメニューが置いてあったことから、母親の了承を得て、出前を取ることになりました。


 注文は、僕が天津飯の大盛り、僕の母親が天津飯、愛子が唐揚げ、木下さんが味噌ラーメン、そして全員分の餃子4人前です。天津飯を勧めてきた本人が、味噌ラーメンを注文してる時点ですでに普通ではないのですが、空腹の僕は気にせず、電話することにしました。


 ただ、木下さんが「自分で電話をする」と言います。店主と仲よくなったらしく、「うまいこと言ってサービスしてもらう!」と意気揚々です。そこで家の住所を書いて渡し、木下さんに電話してもらうことにしたのですが、電話口でこう言いやがったのです。


 「えーと、天津飯と、天津飯と、大盛りと、唐揚げ味噌ラーメン」


 まずこれ普通、「天津飯2つで、1つは大盛り」って言いません?子供やないんですから、「天津飯と天津飯と」なんて言い方はしないでしょ?


 案の定、受話器の向こうが混乱しているのがわかりました。慌てた僕は、「おっちゃん、俺のは天津飯大盛りやで?」と伝えたところ、「たけちゃんの大盛りやで?」と、また意味のわからないことを言いやがったのです。


 お前、向こうはたけちゃんが誰かわからんやろ!そんなこと言われてどれを大盛りにしたらいいねん!


 「たけちゃんのラーメンは大盛りやで?」


 違う違う違う!ラーメンはお前のやし、ラーメンは大盛りじゃないねん!


 僕は、注文を紙にきちんと書いて渡しました。間違わないように、僕の家の住所とともにちゃんと書いて渡したのに、その紙を見ながら平気な顔でこんな間違いをするのです。


 次に、唐揚げ味噌ラーメンです。


 「唐揚げ味噌ラーメン」なんて言い方をしたら、「そんなもんはうちには置いてません!」と断られかねません。僕が「おっちゃん、唐揚げと味噌ラーメンやで?」と言い直して難は逃れたものの、木下さんなら「ここ、唐揚げ味噌ラーメンはないらしいわ!」と言いかねないんですね。


 しかも、僕が「おっちゃん、あと餃子4つな!」と伝えたところ、「アチョ、ヨーザ、ギョッツ!」と信じがたい噛み方をしやがったのです。


 口どうなってんねん、お前!何がどうなったらそんな噛み方すんの!?


 「じゃあ住所を言うで。兵庫県尼崎市~3丁目7の……」


 お前の家の住所やんけ、それ!で、兵庫県とかいらんねん!他府県から出前取るか、ボケ!


 「あと何分で着きそう?」


 まだ出てないねんけど!?出てもいないし作ってもいないし、どんな注文かも相手はまだ把握してないねんけど!?


 結局、慌てた僕が受話器を奪い、最初から言い直しました。ただ、届いた天津飯がまた、死ぬほどまずいんですよ!水みたいな薄いあんかけで、今まで食べた中で1番まずいのです!


 お前、口全般どうなってんねん!日本語といい味覚といい、口全般どうなってんねん!で、サービスはどうなったサービスは!?サービスどころか迷惑をもらったぞ俺らは!


 「このあんかけ、絶品やろ?」


 舌、ある!?ここまで口がおかしかったらもう舌の有無を疑うぞ、俺は!


 もう、あきれて声が出なかったですよ。


検証エピソード②『ちくわ』
 これは、僕が小学生のときのお話です。


 ある日、近所に、原健三郎という国会議員がやってきました。「ハラケン」の愛称で知られ、90歳をすぎて現役であったことからも、ご存知の方は多いはずです。


 ハラケンさんは、数年前に亡くなられました。ですが、当時はまだ70代。足腰もしっかりしており、同じ兵庫県の選挙区である僕の地域を、歩いて視察されたのです。


 ハラケンさんの周囲には、屈強なSPがまとわりついています。握手をしてもらいたくても、うかつに近づけません。僕の家の前にきたときもタイミングを逸してしまい、気がつくと、僕は父親に連れられて近所の商店街にきていました。


 ハラケンさんは、各店舗を視察しています。そして、木下さんのいる自転車屋の前を通り掛かった際、木下さんが「先生、うちの店をなんとかしてください!」と言って、猛スピードで駆け寄ったのです。


 不審者と勘違いしたSPが、木下さんを止めました。ただ、ハラケンさんはSPを遮り、木下さんの話を聞いてくださったのです。


 木下さんは、ここぞとばかりに陳情をしています。


 「うちの店が儲かるように、自転車のタイヤの値段を上げてください!」


 「儲かってない自転車屋は国が面倒みるようにしてください!」


 こんなふうにムチャクチャな陳情をし、しまいには「小遣いが少ないので嫁に文句を言ってください!」とお願いしたのです。


 知るかいや、そんなこと!そんなド民事、介入できるか!


 ハラケンさんは、「ハハハハハ!それは私に言われても!」と適当にあしらいました。すると言われた木下さんが、「このちくわをあげるのでお願いします!」と言って、ハラケンさんに3本入りのちくわを渡そうとしたのです。


 木下さんは、ちくわが大好きです。参観日に後ろでかじっていたという息子談もあるぐらいで、木下さんからしたら、「自分の大切なものをあげた=陳情を聞いてもらえる」というアホ特有の思考で、自分の宝物を渡したのでしょう。


 とはいえ、有権者からモノを献上されるのは禁止されています。断って当然なのですが、そこはユーモアあふれるハラケンさん。


 「帰りの新幹線で食べさせていただきます!」


 こう言って、木下さんのちくわを受け取りました。しかも近くにいた僕と僕の父親に近づき、「どうも!」と言って、自ら握手をしにきてくれたのです。


 僕は感激しました。僕の父親と2人で喜んでいたのですが、隣にいる木下さんの様子がおかしいです。はしゃぐ僕らを尻目に、立ち去ったハラケンさんを遠目に見ながら、顔を紅潮させています。そしてそれから数十秒後、事件は起こったのです。


 なんと木下さん、「先生、やっぱり、ちくわは1本だけにしてください!」と叫びながらハラケンさんに走り寄ったんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!相手は国会議員やぞ!?天下の原健三郎やぞ!?


 「1本だけに!1本だけに!」


 1本だけにやあるか、お前!ちくわぐらい、子供の俺でも買ったるわ!


 その結果、先ほどの不審者が再びやってきたことに気づいたSPが、木下さんに猛烈なタックルを決めたんですよ!下はコンクリートなのに、アメフトなみのタックルを木下さんに浴びせたのです!


 「痛い!」


 痛いと違うわ、お前!俺らの心はもっと痛いねん!


 しかもこれ、地元のケーブルテレビのカメラが回ってるんですよ!特ダネとばかりにカメラマンが慌ててカメラを向けたものの、カメラの先にはオッサンの悶絶する姿があるのです!


 放送できるか、こんなもん!で、見てるお前の息子はトラウマなるわ!父親のこんな姿を見て明日から学校行けんようになるわ!


 このあと、木下さんは奥さんに怒られました。


 「あんた、いい加減にしいや!」


 こう怒鳴られながら、コンクリートに打ちつけた頭を、さらにガンガンにしばかれたのです……。


検証エピソード③『豚の角煮』
 2ヶ月ほど前、僕の近所に、立花さんという女性が引っ越してきました。大阪のレストランでシェフをしていたらし
く、頻繁に料理をおすそ分けしてくれます。


 料理は創作料理が多いです。カレーを詰めた春巻き、トマトの茶碗蒸し……。珍しいものばかりで、僕ら家族は毎回、楽しみなのです。


 先日のことです。


 その日のお昼に、立花さんが、チーズをまぶした豚の角煮を届けてくれました。僕は豚の角煮が大好きです。母親にお願いしてご飯を炊いてもらい、部屋で仕事をしながらお昼を待っていました。


 時刻は1時すぎ。仕事がひと段落した僕は、胸を躍らせて台所に行きました。僕の母親は外出しており、台所には木下さんが遊びにきていました。


 ただ、食べようと豚の角煮を見たところ、数が減っています。先ほど、卑しくもチーズ越しに数えたのですが、そのときは6切れあったのに、どう見ても4切れしかないのです。


 うちの母親は脂っこいものが苦手なので、豚の角煮など食べません。木下さんが食べた可能性が高く、木下さんを問い詰めることにしました。


 「おっちゃん、これ、食べた?」


 訊かれた木下さんは、「食べてない」と言います。


 「いや、食べたやろ?減ってるがな?」


 強目に訊いたところ、「食べてへんわ!俺はそんな卑しいことはせえへん!」と声を荒げたのですが、木下さんの唇が脂でテカテカなのです。


 木下さんの家は貧乏です。もの珍しい豚の角煮に興味が湧き、魔が差して盗み食いしたのでしょう。僕は我慢して、4切れでご飯を食べることにしました。


 ですが、何ごともなかったかのように、僕の隣でテレビを観ている木下さんを見ていると、段々と腹が立ってきました。


 「おっちゃん、豚の角煮が好きなん?」


 僕が再び問い詰めたところ、「嫌いや、あんなもん!」と否定します。「なんで嫌いなん?」と続けたところ、木下さんがこう答えたのです。


 「あれ、脂っこいやろ?俺、脂っこいの苦手やねん。だいたい、チーズが苦手やから」


 食ってるやんけ!チーズが入った豚の角煮なんてこれしかないわ!そもそもお前、チーズ好きやろ!マクドでダブルチーズバーガー頼んでるやろ!


 木下さんは豚の角煮を食べたことがなく、チーズが入っている料理だと勘違いしたのです。


 ですが、そのことを指摘してもまだ、「食べてない!」と言い張ります。腹が立った僕は、体を斜めに向けてスポーツ新聞を読み始めました。


 するとこのスポーツ新聞に、角煮のタレが付着していたのです。角煮を食べながら読んだためにこぼしたのでしょうが、これは決定的な証拠ですよ。


 「おっちゃん、新聞のこのタレ、何なん?」


 僕は、得意げに訊いてやりました。


 ですが、この期に及んで「これは血や!」と、ムチャクチャなことを言います。「どこが血やねん!どう見ても角煮のタレやろ!」とすごんでも、「違う!血や!」と子供みたいな言い訳をします。そして、「今、唇にデキモノができてるから、その血や!」と言って下唇を指で開いて見せてきたのですが、下の前歯におもくそ豚肉挟まってたんですよ!


 食ってるやんけ!食ってるやろ、それが証拠や!


 「食ってない、食ってない!」


 食ってるやろ、どう考えても!否定してるつもりやろうけど、お前は今、自分で証拠見せてん!「人類史上1番頭の悪い犯罪者」やねん、お前は!


 理詰めで追い詰めた結果、木下さんは観念しました。やっと自分の罪を認めたのですが、あまりの頭の悪さに、僕は笑いましたよ。あきれすぎて、もう笑うしかなかったですから。


検証エピソード④『チキショウ!』
 6年ほど前に、僕のおじいちゃんが病気で倒れました。


 僕ら家族は付きっきりで看病したものの、亡くなりました。90歳という大往生とはいえ、僕は泣きじゃくりました


 家に帰ってお葬式の手配をし、亡骸を引き取るために再度、病院に向かったときのことです。


 木下さんの自転車屋の前を、車で通りがかりました。車は僕の母親が運転し、後ろに僕が座っています。涙で腫れた僕の母親の顔を見つけた木下さんが、仕事の手を止めて、僕らの車に走ってきたのです。


 「おじいちゃん、どう?大丈夫?」


 亡くなったと薄々気づきながらも、木下さんは訊きました。僕の母親が「木下君、おじいちゃん、亡くなったわ!」と報告したところ、木下さんが急に泣き始めたのです。


 僕のおじいちゃんは、地域の民生委員をやっていました。貧しい木下さんの家をいろいろと世話してあげており、その恩もあってか、木下さんが引くぐらい泣き始めました。呼吸を荒らし、鼻水を垂らし、そばの人に「あいつ、何なん?」と言われそうなほど、泣きじゃくったのです。


 ただ、天に向かって「チキショー!」と叫ぼうとした際、号泣したために呼吸がおかしくなり、「チキ、チキ、チキ」と、その後のショーの言葉が出てきません。「チキ、チキ、チキ……」と7、8回はチキチキ言っていたのですが、

言葉が出てこないことに気づいた木下さんが、「チキ、チキ、チキ……、何かあったら言ってな!」と言葉をあきらめやがったのです。


 僕は笑ってしまいました。この段階では気持ちも落ち着いていたので、思わず顔を横に向けて肩を揺らしてしまったのです。


 「木下君、じゃあ、また!」


 おじいちゃんの亡骸を引き取りに行かなければならないため、僕の母親がこう言って、車を発進させました。


 すると、「何かあったら言ってよ!何かあったら言ってよ!」と叫びながら、木下さんが走って車についてきました。「何かあったら言ってよ!俺、何でもするからさ!」と、泣きながら追いかけてきたのです。


 僕は、笑ったことを後悔しました。


 本当にいい人なんですよ、木下さん。情に厚い、優しい人なのです。


 ところがです。


 木下さんが車の進行を妨げていたため、後ろの車が木下さんにクラクションを鳴らしたのですが、その車に向かって「やかましいわ!」と叫ぶはずのところを、「チキショー!」って叫んだんですよ!


 いやいや、意味わからん!クラクション鳴らした車に「チキショー!」って意味わからん!


 「チキチョーーー!!!」


 噛んでんねんけど!?手のつけようがないぐらい頭おかしい奴やねんけど!?


 そりゃね、クラクションを鳴らす人は、ある意味「畜生」ですよ。ただ、そんな深い解釈ができるわけもなく、言われたほうは何のこっちゃわからないんですね。


 しかも鼻水を垂らし、自転車の修理工具を手にしたまま叫んでいます。周囲の人は、「武器片手に謎の言葉を叫ぶ変質者」に見えているのです。


 勘弁してくれよ、おい!「何でもするからさ!」って、じゃあ死んでくれ!長い目で見たらそれが1番助かるわ!


 「チキチョー!」と聞こえたとき、気丈に振る舞う僕の母親も、微妙に笑ってましたからね。「知り合いと思われたくない」と思ったのか、急に車のスピードを速めましたから。


検証エピソード⑤『障害物競走』
 これは、3年前のお話です。


 僕の家の前に当時、ある夫婦が住んでいました。2人は共働きで、「子供(裕康君)の運動会を観に行ってやれない」という話を耳にしたのです。


 そこで、僕が裕康君の保護者として、運動会を観に行ってあげることにしました。


 僕は、裕康君の徒競走とダンスを見守りました。午前の部が終わり、2人でお弁当を食べていたところ、木下さんがやってきました。僕の母親に僕がここにいることを聞いたらしく、裕康君と顔見知りなことからも、3人で昼休みをすごしました。


 午後の最初のプログラムは、保護者参加の障害物競走です。僕もエントリーしており、木下さんも急遽、「出たい」と言い出したのです。


 そこで無理言って競技直前にエントリーしてもらい、僕と木下さんは、障害物競争に参加することになりました。


 この障害物競走には、1レース、7、8人が参加します。僕は2番目の組、木下さんは5番目の組です。1つ目は跳び箱、2つ目は炭酸一気飲み、3つ目がぐるぐるバットで、最後が飴食いです。


 僕は、「やるからには勝ちたい!」と気合いが入っていました。ですが、3つ目のぐるぐるバットまでは先頭で走り抜けたものの、最後の飴食いに苦戦して、最下位でゴールしたのです。


 「おっちゃん、俺のかたきを取ってくれ!」


 順番を待つ木下さんに、僕は声をかけました。木下さんも、「任しとけ!1位でゴールするから、その瞬間を写真に撮ってくれ!」と鼻息が荒いです。


 3組目、4組目が終わり、木下さんの組がやってきました。僕はギャラリーが見守るロープの外側に陣取り、木下さんの写真を撮るため、同じ進行方向に走ることにしました。


 「位置について。よーい、バン!」


 スタートの火蓋が切られました。


 ですが、やはり木下さんは木下さんですよ。「天才的な千両役者」ですよ。


 木下さんは、ジャンプ台を跳ぶタイミングを間違えて、跳び箱に顔面から突っ込んでいきました。後ろに戻って跳び直そうとするものの、顔面を殴打した恐怖心から、跳ぶ直前で何度も止まってしまうのです。


 「おっちゃん、その板はもういいから、普通に跳び箱をまたげ!」


 近くにいた僕は、声を張り上げました。


 するとジャンプ台を使わず、跳び箱にお尻をつけてクリアしました。炭酸一気飲みも、みんなが苦戦しているのを尻目に、ものすごいスピードで飲み切りました。気がつくと、先頭をうかがおうかというところまでポジションを上げていたのですが、3つ目のぐるぐるバットで、ぐるぐる回るのに合わせるかのように鼻血を出して周囲に撒き散らし始めたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!ドン引きやんけ、ほかの参加者!


 その結果、赤の絵の具で円を描いたような模様ができたんですよ!顔はおろか服まで真っ赤に染まり、観てる人たちが「なんやねん、あのオッサン!」と、ざわつき始めたのです!


 ただ、当の木下さんは、おかまいなしです。先に飴食いをしていた男性が「うおー!後ろからすごいのがきた!」と驚くのを尻目に、ケースに顔面を突っ込むやいなや、すさまじい白煙を撒き散らして飴を探し始めました。お遊び色など皆無、四角のケースにおもいっきり顔面をつけて、片っ端から顔面を移動させ始めたのです。


 そして、ものの10秒で飴を探し当ててゴール目がけて走り始めたのですが、ぐるぐるバットをしたことでここにきて方向感覚がおかしくなり、ロープの外のギャラリーに頭から突っ込んでいったんですよ!


 「ギャーーーーー!!!」


 こんなもん、大声の1つも出ますよ!なにしろこのオッサン、顔は真っ白で口周囲や衣服は血だらけなんですよ!「色白のゾンビが人を食った!」なみのありえない顔面なのです!


 ええ加減にせいよ、お前!せっかくの運動会が台なしやんけ!


 結局、木下さんは2位でゴールしました。


 ですが、僕は逃げましたからね。


 木下さんは、白い粉と血のせいで、視界が悪いです。


 「たけちゃん、どこ?たけちゃん、どこ?」


 こう言いながら僕を探していたものの、僕だけではなく、その場の全員がモーゼのように道を空けていましたから……。



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 ちなみにそんな木下さん。


 現在は64歳ですが、人生で1番遠出した場所は奈良です……。



木下さんは何者か?の考察~ベスト版③~(携帯読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集

 先日、僕の家に姪っ子が遊びにきました。

 愛子という名の4歳の女の子で、「外に出たい!」と言って聞きません。僕の母親が忙しそうだったことから、僕が連れ立って、近所の公園に行くことにしました。

 公園に向かう道すがら、商店街のはずれにある自転車屋の前を通りがかりました。

 この店のおじさんとは知り合いです。あいさつがてら、立ち寄ることにしました。

 店に入ると、おじさんは自転車の修理で忙しい様子。邪魔をしてはいけないので、すぐに立ち去ろうとしたのですが、店の前を暴走族らしき2台のバイクが走り去ったのです。

 このおじさんは、暴走族に怒鳴りつけました。

 「うるさいねん!何時やと思ってんねん!」

 ですが、たいしてうるさくはありません。少しエンジンを吹かしただけなので、イチャモンもいいところ。そもそも「何時やと思ってんねん!」と言われても、昼間なのでそんなに迷惑ではないのです。

 このおじさんは、愛子にカッコイイところを見せたいのでしょう。それを証拠に、「おっちゃんは強いで!」とばかりに、叫び終わると、愛子のほうを得意げに見たのです。

 ところが、この声が暴走族の耳に届きました。

 道路の端にバイクを停めて、自転車屋のほうに向かってきます。見るからに怖そうな2人で、すごい剣幕で近づいてきたのです。

 それでも、怒鳴ったのは僕ではありません。「このおじさんがなんとかしてくれるやろう」と安心していたのですが、暴走族がきて「今、うるさいって言ったん誰や?」と訊いた瞬間、このおじさんが愛子のほうを見たんですよ!

 最低か、お前!子供のせいにすんなよ!そもそも子供がそんなドギツイこと言うわけないやろ!

 100歩譲って、僕を見るなら、まだわかりますよ。ただ、4歳やそこらの子に責任を押しつけようとします、普通!?

 「ごめんごめん、許して!悪気はないから!」

 結局、僕が2人に頭を下げました。2人とも許してくれたのですが、このおじさんは謝る僕を尻目に後ろに下がり、自転車の修理をしていました。僕がなんとかしてくれる、と思ったのか、他人ごとみたいな顔をしていたのです。

 もう何なんですか、このオッサン!最低としか言いようがないでしょ!?

 そのくせ暴走族がいなくなると、「愛ちゃん、大丈夫か?もう心配いらんからな!」と、おいしいところを全部持っていきやがったのです。

 このおじさんの名前は、木下さん。

 僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。

 写メールはカメラ屋で現像するものだと勘違いしていたり、こないだなんて店の入り口に、『スケボーとかもなおせます!』という貼り紙をしたのです。

 誰がスケボーすんねん、今日日!で、「とか」ってなんやねん!ローラースケートはもっと需要ないぞ!

 とにかく、おかしいのです。「日本一頭がおかしい」と言っても過言ではない、奇人中の奇人なのです。

 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版③~です。

 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。

 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。

検証エピソード①『出前』
 これは、つい先日のお話です。

 その日の昼すぎに、部屋で仕事をしていた僕は、母親に素麺を作ってもらおうと階段を下りました。

 ですが、僕の母親は近所の人と、玄関で話し込んでいます。仕方なく、自分で作ろうと台所に向かったところ、木下さんと愛子がいました。

 「よかったら、2人の分も作ろうか?」

 僕が訊いたところ、愛子は「毎日、素麺やからイヤやわ!」と言います。僕が「我慢しなさい!」と注意しても、首を縦に振りません。

 すると、愛子のわがままを見かねた木下さんが、「中華を出前しないか?」と提案したのです。

 なんでもこの近所に、新しい中華料理屋ができたそうです。天津飯が絶品らしく、偶然にも家の電話の横にその店のメニューが置いてあったことから、母親の了承を得て、出前を取ることになりました。

 注文は、僕が天津飯の大盛り、僕の母親が天津飯、愛子が唐揚げ、木下さんが味噌ラーメン、そして全員分の餃子4人前です。天津飯を勧めてきた本人が、味噌ラーメンを注文してる時点ですでに普通ではないのですが、空腹の僕は気にせず、電話することにしました。

 ただ、木下さんが「自分で電話をする」と言います。店主と仲よくなったらしく、「うまいこと言ってサービスしてもらう!」と意気揚々です。そこで家の住所を書いて渡し、木下さんに電話してもらうことにしたのですが、電話口でこう言いやがったのです。

 「えーと、天津飯と、天津飯と、大盛りと、唐揚げ味噌ラーメン」

 まずこれ普通、「天津飯2つで、1つは大盛り」って言いません?子供やないんですから、「天津飯と天津飯と」なんて言い方はしないでしょ?

 案の定、受話器の向こうが混乱しているのがわかりました。慌てた僕は、「おっちゃん、俺のは天津飯大盛りやで?」と伝えたところ、「たけちゃんの大盛りやで?」と、また意味のわからないことを言いやがったのです。

 お前、向こうはたけちゃんが誰かわからんやろ!そんなこと言われてどれを大盛りにしたらいいねん!

 「たけちゃんのラーメンは大盛りやで?」

 違う違う違う!ラーメンはお前のやし、ラーメンは大盛りじゃないねん!

 僕は、注文を紙にきちんと書いて渡しました。間違わないように、僕の家の住所とともにちゃんと書いて渡したのに、その紙を見ながら平気な顔でこんな間違いをするのです。

 次に、唐揚げ味噌ラーメンです。

 「唐揚げ味噌ラーメン」なんて言い方をしたら、「そんなもんはうちには置いてません!」と断られかねません。僕が「おっちゃん、唐揚げと味噌ラーメンやで?」と言い直して難は逃れたものの、木下さんなら「ここ、唐揚げ味噌ラーメンはないらしいわ!」と言いかねないんですね。

 しかも、僕が「おっちゃん、あと餃子4つな!」と伝えたところ、「アチョ、ヨーザ、ギョッツ!」と信じがたい噛み方をしやがったのです。

 口どうなってんねん、お前!何がどうなったらそんな噛み方すんの!?

 「じゃあ住所を言うで。兵庫県尼崎市~3丁目7の……」

 お前の家の住所やんけ、それ!で、兵庫県とかいらんねん!他府県から出前取るか、ボケ!

 「あと何分で着きそう?」

 まだ出てないねんけど!?出てもいないし作ってもいないし、どんな注文かも相手はまだ把握してないねんけど!?

 結局、慌てた僕が受話器を奪い、最初から言い直しました。ただ、届いた天津飯がまた、死ぬほどまずいんですよ!水みたいな薄いあんかけで、今まで食べた中で1番まずいのです!

 お前、口全般どうなってんねん!日本語といい味覚といい、口全般どうなってんねん!で、サービスはどうなったサービスは!?サービスどころか迷惑をもらったぞ俺らは!

 「このあんかけ、絶品やろ?」

 舌、ある!?ここまで口がおかしかったらもう舌の有無を疑うぞ、俺は!

 もう、あきれて声が出なかったですよ。

検証エピソード②『ちくわ』
 これは、僕が小学生のときのお話です。

 ある日、近所に、原健三郎という国会議員がやってきました。「ハラケン」の愛称で知られ、90歳をすぎて現役であったことからも、ご存知の方は多いはずです。

 ハラケンさんは、数年前に亡くなられました。ですが、当時はまだ70代。足腰もしっかりしており、同じ兵庫県の選挙区である僕の地域を、歩いて視察されたのです。

 ハラケンさんの周囲には、屈強なSPがまとわりついています。握手をしてもらいたくても、うかつに近づけません。僕の家の前にきたときもタイミングを逸してしまい、気がつくと、僕は父親に連れられて近所の商店街にきていました。

 ハラケンさんは、各店舗を視察しています。そして、木下さんのいる自転車屋の前を通り掛かった際、木下さんが「先生、うちの店をなんとかしてください!」と言って、猛スピードで駆け寄ったのです。

 不審者と勘違いしたSPが、木下さんを止めました。ただ、ハラケンさんはSPを遮り、木下さんの話を聞いてくださったのです。

 木下さんは、ここぞとばかりに陳情をしています。

 「うちの店が儲かるように、自転車のタイヤの値段を上げてください!」

 「儲かってない自転車屋は国が面倒みるようにしてください!」

 こんなふうにムチャクチャな陳情をし、しまいには「小遣いが少ないので嫁に文句を言ってください!」とお願いしたのです。

 知るかいや、そんなこと!そんなド民事、介入できるか!

 ハラケンさんは、「ハハハハハ!それは私に言われても!」と適当にあしらいました。すると言われた木下さんが、「このちくわをあげるのでお願いします!」と言って、ハラケンさんに3本入りのちくわを渡そうとしたのです。

 木下さんは、ちくわが大好きです。参観日に後ろでかじっていたという息子談もあるぐらいで、木下さんからしたら、「自分の大切なものをあげた=陳情を聞いてもらえる」というアホ特有の思考で、自分の宝物を渡したのでしょう。

 とはいえ、有権者からモノを献上されるのは禁止されています。断って当然なのですが、そこはユーモアあふれるハラケンさん。

 「帰りの新幹線で食べさせていただきます!」

 こう言って、木下さんのちくわを受け取りました。しかも近くにいた僕と僕の父親に近づき、「どうも!」と言って、自ら握手をしにきてくれたのです。

 僕は感激しました。僕の父親と2人で喜んでいたのですが、隣にいる木下さんの様子がおかしいです。はしゃぐ僕らを尻目に、立ち去ったハラケンさんを遠目に見ながら、顔を紅潮させています。そしてそれから数十秒後、事件は起こったのです。

 なんと木下さん、「先生、やっぱり、ちくわは1本だけにしてください!」と叫びながらハラケンさんに走り寄ったんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!相手は国会議員やぞ!?天下の原健三郎やぞ!?

 「1本だけに!1本だけに!」

 1本だけにやあるか、お前!ちくわぐらい、子供の俺でも買ったるわ!

 その結果、先ほどの不審者が再びやってきたことに気づいたSPが、木下さんに猛烈なタックルを決めたんですよ!下はコンクリートなのに、アメフトなみのタックルを木下さんに浴びせたのです!

 「痛い!」

 痛いと違うわ、お前!俺らの心はもっと痛いねん!

 しかもこれ、地元のケーブルテレビのカメラが回ってるんですよ!特ダネとばかりにカメラマンが慌ててカメラを向けたものの、カメラの先にはオッサンの悶絶する姿があるのです!

 放送できるか、こんなもん!で、見てるお前の息子はトラウマなるわ!父親のこんな姿を見て明日から学校行けんようになるわ!

 このあと、木下さんは奥さんに怒られました。

 「あんた、いい加減にしいや!」

 こう怒鳴られながら、コンクリートに打ちつけた頭を、さらにガンガンにしばかれたのです……。

検証エピソード③『豚の角煮』
 2ヶ月ほど前、僕の近所に、立花さんという女性が引っ越してきました。大阪のレストランでシェフをしていたらしく、頻繁に料理をおすそ分けしてくれます。

 料理は創作料理が多いです。カレーを詰めた春巻き、トマトの茶碗蒸し……。珍しいものばかりで、僕ら家族は毎回、楽しみなのです。

 先日のことです。

 その日のお昼に、立花さんが、チーズをまぶした豚の角煮を届けてくれました。僕は豚の角煮が大好きです。母親にお願いしてご飯を炊いてもらい、部屋で仕事をしながらお昼を待っていました。

 時刻は1時すぎ。仕事がひと段落した僕は、胸を躍らせて台所に行きました。僕の母親は外出しており、台所には木下さんが遊びにきていました。

 ただ、食べようと豚の角煮を見たところ、数が減っています。先ほど、卑しくもチーズ越しに数えたのですが、そのときは6切れあったのに、どう見ても4切れしかないのです。

 うちの母親は脂っこいものが苦手なので、豚の角煮など食べません。木下さんが食べた可能性が高く、木下さんを問い詰めることにしました。

 「おっちゃん、これ、食べた?」

 訊かれた木下さんは、「食べてない」と言います。

 「いや、食べたやろ?減ってるがな?」

 強目に訊いたところ、「食べてへんわ!俺はそんな卑しいことはせえへん!」と声を荒げたのですが、木下さんの唇が脂でテカテカなのです。

 木下さんの家は貧乏です。もの珍しい豚の角煮に興味が湧き、魔が差して盗み食いしたのでしょう。僕は我慢して、4切れでご飯を食べることにしました。

 ですが、何ごともなかったかのように、僕の隣でテレビを観ている木下さんを見ていると、段々と腹が立ってきました。

 「おっちゃん、豚の角煮が好きなん?」

 僕が再び問い詰めたところ、「嫌いや、あんなもん!」と否定します。「なんで嫌いなん?」と続けたところ、木下さんがこう答えたのです。

 「あれ、脂っこいやろ?俺、脂っこいの苦手やねん。だいたい、チーズが苦手やから」

 食ってるやんけ!チーズが入った豚の角煮なんてこれしかないわ!そもそもお前、チーズ好きやろ!マクドでダブルチーズバーガー頼んでるやろ!

 木下さんは豚の角煮を食べたことがなく、チーズが入っている料理だと勘違いしたのです。

 ですが、そのことを指摘してもまだ、「食べてない!」と言い張ります。腹が立った僕は、体を斜めに向けてスポーツ新聞を読み始めました。

 するとこのスポーツ新聞に、角煮のタレが付着していたのです。角煮を食べながら読んだためにこぼしたのでしょうが、これは決定的な証拠ですよ。

 「おっちゃん、新聞のこのタレ、何なん?」

 僕は、得意げに訊いてやりました。

 ですが、この期に及んで「これは血や!」と、ムチャクチャなことを言います。「どこが血やねん!どう見ても角煮のタレやろ!」とすごんでも、「違う!血や!」と子供みたいな言い訳をします。そして、「今、唇にデキモノができてるから、その血や!」と言って下唇を指で開いて見せてきたのですが、下の前歯におもくそ豚肉挟まってたんですよ!

 食ってるやんけ!食ってるやろ、それが証拠や!

 「食ってない、食ってない!」

 食ってるやろ、どう考えても!否定してるつもりやろうけど、お前は今、自分で証拠見せてん!「人類史上1番頭の悪い犯罪者」やねん、お前は!

 理詰めで追い詰めた結果、木下さんは観念しました。やっと自分の罪を認めたのですが、あまりの頭の悪さに、僕は笑いましたよ。あきれすぎて、もう笑うしかなかったですから。

検証エピソード④『チキショウ!』
 6年ほど前に、僕のおじいちゃんが病気で倒れました。

 僕ら家族は付きっきりで看病したものの、亡くなりました。90歳という大往生とはいえ、僕は泣きじゃくりました。

 家に帰ってお葬式の手配をし、亡骸を引き取るために再度、病院に向かったときのことです。

 木下さんの自転車屋の前を、車で通りがかりました。車は僕の母親が運転し、後ろに僕が座っています。涙で腫れた僕の母親の顔を見つけた木下さんが、仕事の手を止めて、僕らの車に走ってきたのです。

 「おじいちゃん、どう?大丈夫?」

 亡くなったと薄々気づきながらも、木下さんは訊きました。僕の母親が「木下君、おじいちゃん、亡くなったわ!」と報告したところ、木下さんが急に泣き始めたのです。

 僕のおじいちゃんは、地域の民生委員をやっていました。貧しい木下さんの家をいろいろと世話してあげており、その恩もあってか、木下さんが引くぐらい泣き始めました。呼吸を荒らし、鼻水を垂らし、そばの人に「あいつ、何なん?」と言われそうなほど、泣きじゃくったのです。

 ただ、天に向かって「チキショー!」と叫ぼうとした際、号泣したために呼吸がおかしくなり、「チキ、チキ、チキ」と、その後のショーの言葉が出てきません。「チキ、チキ、チキ……」と7、8回はチキチキ言っていたのですが、言葉が出てこないことに気づいた木下さんが、「チキ、チキ、チキ……、何かあったら言ってな!」と言葉をあきらめやがったのです。

 僕は笑ってしまいました。この段階では気持ちも落ち着いていたので、思わず顔を横に向けて肩を揺らしてしまったのです。

 「木下君、じゃあ、また!」

 おじいちゃんの亡骸を引き取りに行かなければならないため、僕の母親がこう言って、車を発進させました。

 すると、「何かあったら言ってよ!何かあったら言ってよ!」と叫びながら、木下さんが走って車についてきました。「何かあったら言ってよ!俺、何でもするからさ!」と、泣きながら追いかけてきたのです。

 僕は、笑ったことを後悔しました。

 本当にいい人なんですよ、木下さん。情に厚い、優しい人なのです。

 ところがです。

 木下さんが車の進行を妨げていたため、後ろの車が木下さんにクラクションを鳴らしたのですが、その車に向かって「やかましいわ!」と叫ぶはずのところを、「チキショー!」って叫んだんですよ!

 いやいや、意味わからん!クラクション鳴らした車に「チキショー!」って意味わからん!

 「チキチョーーー!!!」

 噛んでんねんけど!?手のつけようがないぐらい頭おかしい奴やねんけど!?

 そりゃね、クラクションを鳴らす人は、ある意味「畜生」ですよ。ただ、そんな深い解釈ができるわけもなく、言われたほうは何のこっちゃわからないんですね。

 しかも鼻水を垂らし、自転車の修理工具を手にしたまま叫んでいます。周囲の人は、「武器片手に謎の言葉を叫ぶ変質者」に見えているのです。

 勘弁してくれよ、おい!「何でもするからさ!」って、じゃあ死んでくれ!長い目で見たらそれが1番助かるわ!

 「チキチョー!」と聞こえたとき、気丈に振る舞う僕の母親も、微妙に笑ってましたからね。「知り合いと思われたくない」と思ったのか、急に車のスピードを速めましたから。

検証エピソード⑤『障害物競走』
 これは、3年前のお話です。

 僕の家の前に当時、ある夫婦が住んでいました。2人は共働きで、「子供(裕康君)の運動会を観に行ってやれない」という話を耳にしたのです。

 そこで、僕が裕康君の保護者として、運動会を観に行ってあげることにしました。

 僕は、裕康君の徒競走とダンスを見守りました。午前の部が終わり、2人でお弁当を食べていたところ、木下さんがやってきました。僕の母親に僕がここにいることを聞いたらしく、裕康君と顔見知りなことからも、3人で昼休みをすごしました。

 午後の最初のプログラムは、保護者参加の障害物競走です。僕もエントリーしており、木下さんも急遽、「出たい」と言い出したのです。

 そこで無理言って競技直前にエントリーしてもらい、僕と木下さんは、障害物競争に参加することになりました。

 この障害物競走には、1レース、7、8人が参加します。僕は2番目の組、木下さんは5番目の組です。1つ目は跳び箱、2つ目は炭酸一気飲み、3つ目がぐるぐるバットで、最後が飴食いです。

 僕は、「やるからには勝ちたい!」と気合いが入っていました。ですが、3つ目のぐるぐるバットまでは先頭で走り抜けたものの、最後の飴食いに苦戦して、最下位でゴールしたのです。

 「おっちゃん、俺のかたきを取ってくれ!」

 順番を待つ木下さんに、僕は声をかけました。木下さんも、「任しとけ!1位でゴールするから、その瞬間を写真に撮ってくれ!」と鼻息が荒いです。

 3組目、4組目が終わり、木下さんの組がやってきました。僕はギャラリーが見守るロープの外側に陣取り、木下さんの写真を撮るため、同じ進行方向に走ることにしました。

 「位置について。よーい、バン!」

 スタートの火蓋が切られました。

 ですが、やはり木下さんは木下さんですよ。「天才的な千両役者」ですよ。

 木下さんは、ジャンプ台を跳ぶタイミングを間違えて、跳び箱に顔面から突っ込んでいきました。後ろに戻って跳び直そうとするものの、顔面を殴打した恐怖心から、跳ぶ直前で何度も止まってしまうのです。

 「おっちゃん、その板はもういいから、普通に跳び箱をまたげ!」

 近くにいた僕は、声を張り上げました。

 するとジャンプ台を使わず、跳び箱にお尻をつけてクリアしました。炭酸一気飲みも、みんなが苦戦しているのを尻目に、ものすごいスピードで飲み切りました。気がつくと、先頭をうかがおうかというところまでポジションを上げていたのですが、3つ目のぐるぐるバットで、ぐるぐる回るのに合わせるかのように鼻血を出して周囲に撒き散らし始めたんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!ドン引きやんけ、ほかの参加者!

 その結果、赤の絵の具で円を描いたような模様ができたんですよ!顔はおろか服まで真っ赤に染まり、観てる人たちが「なんやねん、あのオッサン!」と、ざわつき始めたのです!

 ただ、当の木下さんは、おかまいなしです。先に飴食いをしていた男性が「うおー!後ろからすごいのがきた!」と驚くのを尻目に、ケースに顔面を突っ込むやいなや、すさまじい白煙を撒き散らして飴を探し始めました。お遊び色など皆無、四角のケースにおもいっきり顔面をつけて、片っ端から顔面を移動させ始めたのです。

 そして、ものの10秒で飴を探し当ててゴール目がけて走り始めたのですが、ぐるぐるバットをしたことでここにきて方向感覚がおかしくなり、ロープの外のギャラリーに頭から突っ込んでいったんですよ!

 「ギャーーーーー!!!」

 こんなもん、大声の1つも出ますよ!なにしろこのオッサン、顔は真っ白で口周囲や衣服は血だらけなんですよ!「色白のゾンビが人を食った!」なみのありえない顔面なのです!

 ええ加減にせいよ、お前!せっかくの運動会が台なしやんけ!

 結局、木下さんは2位でゴールしました。

 ですが、僕は逃げましたからね。

 木下さんは、白い粉と血のせいで、視界が悪いです。

 「たけちゃん、どこ?たけちゃん、どこ?」

 こう言いながら僕を探していたものの、僕だけではなく、その場の全員がモーゼのように道を空けていましたから……。


 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。

 ちなみにそんな木下さん。

 現在は64歳ですが、人生で1番遠出した場所は奈良です……。

ブルーを乗り越えるにはどうすればいいか?の考察(パソコン読者用)

※2009年・9月24日の記事を再編集


 僕は頻繁に、このブログの読者から悩み相談を受けます。なぜ僕みたいな奴に相談するのかわからないのですが、月に何通かはメールが届くなど、今ではちょっとしたライフワークになっているのです。


 彼ら彼女らの悩みごとは、多岐に渡ります。


 ですが、すべてに共通している原因があり、そのことはほかならぬ、僕自身の悩みごとでもあります。「悩みの元凶ロングセラー」といった感じで、僕もいまだに、それを完全には払拭できていないのです。


 それは、「メンタル面の弱さ」です。


 好きな人に告白する勇気がない、仲間に裏切られて立ち直れない、社会に踏み出す勇気がない、上司に怒られて死にたくなったなど、僕が経験してきたことばかりです。その分だけ感情移入しやすく、人の相談に乗っているうちに、自分で自分の相談に乗っているような錯覚に陥るほどなのです。


 ですが僕は、自分の弱さに打ち勝ってきました。正確には「乗り越えてきた」で、気持ちを切り替えたことで、何とかクリアできたのです。


 僕は人の3倍、弱い人間です。何をするにも弱く、生きるうえで常に足枷となってきたのですが、それでも乗り越えてきました。


 したがって、僕のような奴でも乗り越えてきたので、あなたにも必ずできますよ、というのが悩み相談に対する、僕の答えなのです。毎回そのことを説明し、僭越ながら、読者の方にも納得いただけている、と考えています。


 とはいえ悩みごとは、人に助言されたぐらいでは解決しないでしょう。納得はしたものの、時間がたてば再び、もとの悩みが顔を出すはずです。


 悩みごとというのは、脳内にへばりつきます。そのへばりを取っても取っても、メンタルの弱い人ほど、再びへばりつかれます。これはみなさまもご経験があるはずで、僕もそのくり返しなんですね。


 人間、そんな簡単には変わりません。どんなにすばらしい小説や映画に感化されても、ひと晩寝たら、同じ弱さが顔を出します。気持ちがリセットされてしまい、昨晩の熱さなど、どこ吹く風なのです。


 では、悩まない人間になるにはどうすればいいか?


 これは僕にもわかりませんし、正解などないでしょう。


 ですが、先ほども申し上げたとおり、乗り越えることは可能です。解決しないまでもちょっとした気持ちの切り替え方があり、僕はこれを何度も実践して、次第に強い人間になっていったのです。


 人間には元来、「免疫」という、弱さに対する抗体が存在しています。何度も経験して免疫をつけ、強い抗体を体内に植えつけていきます。その抗体が「ブルー」を乗り越える思考の変化につながり、明日への活力を生むのです。


 そこで今回は、「ブルーを乗り越えるにはどうすればいいか?」の考察です。


 今回は、僕が実践する、「ブルーを乗り越えるための気持ちの切り替え方」をご紹介します。「行動編」と「考え方編」とに分けて、ご説明させていただきます。


 とはいえ、僕は31歳の若造です。まだまだ人生経験も少なく、人に講釈を垂れるほど偉くありません。僕の方法がみなさまに通用するかどうかわかりませんが、僕は本当に、人の3倍は弱いです。そんな僕が強くなってきたのですから、たくさんの方が使用できる、と信じています。


 まずは、「行動編」です。


 以下にご紹介する8個のステップを踏み、ブルーを乗り越えてください。


ステップ①知り合いに話を聞いてもらう
 当たり前のことなのですが、これができない人が、意外と多いのです。「人に相談するのはかっこ悪い」と見栄を張って、ひとりで抱え込んでしまうんですね。


 悩みごとというのは、自分ひとりでは、絶対に解決しません。乗り越えられそうで乗り越えられず、結果として成功することはあるものの、それはたまたまです。結果オーライなだけで、毎回ひとりで抱え込む癖をつけてしまうと、精神がどんどん病んでいくのです。


 僕は先輩後輩に関係なく、誰にでも相談します。親はもちろんのこと、彼女、友達、美容院の美容師さん、行きつけの食堂の店員さん……。たくさんの人に相談して、たくさんの考え方を知るのです。


 弱さを見せることは、恥ずかしいことではありません。変なプライドは捨てて、気軽にどんどん相談しましょう。


 人に相談するときのポイントは、「すべてをさらけだす」ということです。


 恥ずかしい部分を隠し、情報を曲げて伝える人がいますが、ダメです。解決には至らないので必ず、すべてを正直に言うようにしてください。隠していたことをカミングアウトしたという事実ひとつとっても、気持ちがスッキリするのですから。


ステップ②メッセージ性の強い曲を、歌詞を噛みしめながら聴く
 自分をさらけだして人に相談したあとは、音楽を聴きます。


 音楽の歌詞というのは、その多くが人の弱さを表現したものです。メッセージ性の強い歌詞に触れて、自分を奮起させましょう。


 僕は音楽というのは、宗教と同じである、と考えています。


 「あんなスーパースターでも、自分と同じ悩みごとを抱えているんだ」


 こんなふうに共感できるからこそ、その教祖について行きたくなるのです。


 役者やタレントよりも、ミュージシャンに熱狂的なファンが多いのは、このように布教されたからでしょう。メッセージが心にダイレクトに届くので、「この人について行きたい!」となるんですね。


 ちなみに僕の教祖は、ミスチルであり長渕剛であり、中島みゆきです。


 なかでも、中島みゆき。


 これほど人の弱さをうまく表現できる教祖を、僕は知りません。酸いも甘いも知っている人でしょうから、口から出る言葉は迫真を持って迫ってくるのです。


ステップ③ワンランク上のデザートをたくさん食べる
 いわゆる、やけ食い。落ち込んだときにやけ食いする人は多く、それが高価なものであればあるほど、効果は高いでしょう。


 なかでもオススメなのは、コンビニのデザートです。


 手軽に買えますし、いつもより100円多めに出すだけで、露骨なまでに味が変わります。高級感を体に通し、その非日常さが活力を生んでくれるのです。


 「やけ~」というのは、質と量の両方で圧倒しなければなりません。僕はお酒は飲めないので、いつもコンビニデザートをたくさん食べるのですが、かなり癒されます。太らないよう代わりに食事を抜けば、ウエイトオーバーにもなりません。


 僕がよくやるのは、ハーゲンダッツ4つ食いです。


 4つ食べても、たかだか1000円です。セレブ汁が体中にあふれ、「俺は今、生きてるな!」と、妙な感慨に浸ることができるのです。


ステップ④人気の少ない、夜の街にくり出す
 過去記事でもご紹介しましたが、夜の静寂は、気持ちを落ち着かせます。自分を客観的に見るには最適で、疲労にともなってあふれ出すアドレナリンが気持ちをしゃきっとさせ、次第に元気になるのです。


 夜の街には田んぼ、公園、神社など、闇を含有した癒しスポットがたくさんあります。それらを順に回り、マイナスになった気持ちをプラスで支配していってください。


 プラス思考が51%以上になると、自分がより元気になるよう、楽観的な考えが脳内にあふれ出してきます。どんどんプラスで埋めていき、前向きな答えを持って家路に着きましょう。


 メッセージ性の強い音楽を聴きながらであればなお、効果は高いです。


 静寂で落ち着きを取り戻していることから歌詞を噛みしめやすく、心の芯にストレートに届きます。同時にプラスがどんどんあふれて、70%、80%ぐらいなら、すぐに埋まるでしょう。


 時間がたってプラスが減るようなら、100%になるまで歩き続けてください。最低でも51%をキープした状態で家路に着ければ、目覚めたあとの気持ちが違うはずです。


ステップ⑤ひとりで立ち飲み屋に行って、オッサンやオバハンに話を聞いてもらう
 お酒というのは、憂さを晴らしてくれます。ですがそれは一時のものであり、素面に戻るやいなや悲しくなるというのは、よくある話でしょう。


 そして、「いいお酒」というのは、周囲があってこそです。「誰と飲むか」で味が如実に違い、社の同僚と飲んでも、得られるものは少ないでしょう。


 場は楽しいものの、利害関係が含まれているからです。助言がフェイクである可能性もあり、なにより、深みがありません。「しょせんは他人ごと」というのが本音で、ダイレクトには届かないのです。


 そこで、立ち飲み屋にひとりで行ってください。


 立ち飲み屋には、利害関係のない、濃い奴がうじゃうじゃしています。人間味のある人が多く、その濃さは、弱さとは真逆のものです。体中が「俺は細かいことは気にしないよ!」と語っているかのようで、自分の悩みがちっぽけなものに思えてくるのです。


 話しかければ、輪に入れてくれます。一面識もない人にも優しく接してくれますし、アドバイスも豪快なんですよ。「死んだらいいねん、そんな奴!」などと当たり前のように言ってくるので、これが妙に癒されるんですね。


 僕はその昔、上司に理不尽なことで説教されて落ち込み、ふらりと立ち飲み屋に入ったことがあります。オッサンの輪に入れてもらって相談したところ、そのうちのひとりが「兄ちゃん、心配せんでもそんな奴はもうすぐ、がんになるから!もうすぐ死ぬ奴のことで悩んでても意味ないで!ハハハハハ!」と豪快に笑い飛ばしたのです。


 オッサンやオバハンは、伊達に歳食ってませんよ。年輪は理屈を越え、接すると、自分の心に元気玉が集まってくるような気がするのです。


ステップ⑥風俗で濃厚なプレーをする
 これは男性のみですが、オススメです。


 ごちゃごちゃ言わずに、風俗に行ったらいいんですよ。終電に間に合わない、行くと電車賃がなくなる、といった細かいことは気にせず、仕事を終えたその足で向かうのです。


 またそのプレーは、普段より濃いものにしてください。オプションをつけ倒すのはもちろんのこと、すべての憂さを晴らすべく、あらゆるエロスに興じるのです。


 僕の後輩なんて先日、上司にしばかれたあとに、ムチでしばかれに行ってましたからね。「お前、まだしばかれんの?」と僕は訊いたぐらいで、翌日は普通に元気を取り戻していたのです。


 極限のエロスは理屈を越えます。学生時代を思い出してみてください、先生に怒られても、友達に裏ビデオを貸してもらっていたらテンション上がったでしょ?


 「あの感じ」は、大人になった今でも健在です。憂さをエロスに変え、対象にぶつけてなくしましょう。


 行為終わりの虚無感も、すべてを発散できたときには、プラスに変わっています。スッキリ感が虚無感を凌駕し、それが活力に変化するのです。


ステップ⑦寝ちまう
 ①~⑥を終えたら、寝てください。単に寝るのではなく、「寝ちまう」のです。


 寝ると寝ちまうは全然違います。寝ちまうはややこしいことから逃げるためのもので、①~⑥をがんばったご褒美として、最後に逃げるのです。


 がんばる人ほど悩みやすいです。誠実さと悩みは、表裏一体。マジメな人ほど、細かいことを気にして殻に閉じこもってしまうんですね。


 したがって、「がんばった=マジメにやりすぎた」という自分への報酬が、「逃げる=あたたかい布団」なのです。がんばりすぎないようにするために最後に逃げ、悩みの深刻さを緩和させるのです。


 もちろん、悩みが解決するわけではありません。ですが①~⑥を終えて寝ちまったら、目覚めが違います。途中で悩みに支配されることはあるものの、抗体が強くなっていることから、すぐにプラス思考51%以上を保てるのです。


 なにより、夜の街にくり出し、お酒を飲み、風俗に行ったのですから、体は疲れています。ぐっすり眠れるので、その目覚めのよさが、残りのマイナス思考49%を侵食してくれます。その結果、プラス思考がマイナス思考を大幅に上回り、前向きな気分で出社できるでしょう。


ステップ⑧墓参りをする
 先祖というのは、自分と血のつながった存在です。無形とはいえそれは、「完全なる味方」なのです。


 それを有形化したのが現家族であり、血族という存在は利害関係のない、あなたの味方です。そこで、味方を従えるために墓参りに行き、従者として心に持ち帰るのです。


 他人が与えてくれる優しさは、何かしらの偽善や打算が含まれているものです。ですが、家族を中心とする血族が与えてくれる優しさは、無償の愛にほかなりません。本能からくる慈悲なので、これに勝る味方はいないのです。


 僕は何か勝負がかかったとき、おじいちゃんの形見である腕時計を、ポケットにいつもしのばせています。最近では頻繁に墓参りに行くなど、完全なる味方に語りかけ、味方の頭数でマイナス思考をつぶします。味方の背後霊を増やし、プラス思考を60%、70%と増やしていくのです。


 これは、神頼みではありません。至極現実的な行動で、何かにすがるのではなく、協力してもらうのです。血族の力を借りて目の前の課題に取り組み、結果として、ブルーを乗り越えるのです。


 なにより墓場は、慈愛に満ちています。


 僕の先祖が眠る墓場には、腹巻きをしているお地蔵さんがいます。近所のおばあさんが手縫いの腹巻きを巻きつけており、その現場を目撃したとき、僕は涙が止まりませんでした。「お腹を壊したらかわいそうだ」という感じがたまらず、「人って、こんなにも人を思いやれるものなんだな」と考えて、人間という存在が愛おしく思えたのです。


 こんな優しい空間に入ったら、前を向かないと仕方がないですよ。味方も増えるし人間的にも優しくなれるしで、ヘタな道徳の時間よりも、墓場に行くほうがよっぽど勉強になるのです。



 全体をとおして言えるのは、「普段と同じことをしてはいけない」ということです。


 部屋に閉じこもって妄想にふけるのではなく、プラス思考になるための行動をくり返し、習慣にしてください。習慣化して成功体験を増やし、どんどん免疫をつけましょう。


 次にご紹介するのは「考え方編」です。


 ステップ①~⑧を踏み、気持ちの総仕上げとして以下にご紹介する、3つのことを噛みしめてください。


 この3つは、誰もが一度は考えたことがあるものです。


 ですが、その当たり前のことこそが真理なのです。この真理を今一度噛みしめて、ブルーを一気に乗り越えましょう。


①今この瞬間、同じ悩みを抱えている人が何万人もいる
 これは事実です。どんな悩みごとでも、同じことで悩んでいる奴が腐るほどいるのです。


 人は身近に、同じ悩みを抱えている人を見つけると安心します。薄毛で悩んでいても、周囲が全員薄毛なら、その悩みは大きくありません。自分だけだ、と思うから心細いのであり、ほかにもたくさんいるという事実を、心の底から噛みしめるのです。


 あなたがリストラされたとします。ですがリストラされた奴なんて、この国に何人います?


 あなたが今いる場所の半径100メートル以内に、マジで何人かいますよ。そしてそんな奴が、今日も笑いながらシコってるんですよ。


 恋愛の悩みもそうです。曲の多くがラブソングなのも、それだけ多くの人が同じ悩みを抱えている、ということです。だからこそ音楽文化は普遍で、恋愛の悩みは人類にとって、永遠のベストセラーなのです。


 アフリカの民族運動で牢獄に長年収容された、かのネルソン・マンデラ。


 はっきり言いますけどあいつ、牢獄でシコってましたよ。顔より、ペニスのほうが黒いですよ。あんな苦労のなかでも心にゆとりを持ち、釈放後、20代の女と結婚してすぐに、子供ができました。「刑務所を出てすぐに出した」みたく、やることはやってるんですよ、あんなすごい奴でも。パンドラの箱から希望をすくい上げて前を向き、牢獄の外に出てすぐに中に出したんですよ。


 僕はこの考え方を、「同等安心」と呼んでいます。


 身近にいなくても、同じような奴が必ずいます。そいつらが前を向いて生きているのですから、そんなことで悩むのは悩み損です。悩みが顔を出すごとにこのことを思い出し、楽観的に考える癖をつけるのです。


②幸せと不幸せは、半分半分である
 これも真理です。誇張でもなんでもなく、イヤなことがあったら必ず、良いことがあるのです。


 常套句ではなく、事実以外の何物でもありません。信じるとかではないのです、必然なので、現実的にそれを待てばいいのです。


 だって、あなたの人生を振り返ってみてください。ここ何年もイヤなことばっかりなんて、まあないでしょ?時間の経過とともに幸せが訪れ、その都度、その幸せが悩みを帳消しにしてくれたでしょ?


 僕の競馬仲間で、2年半、馬券をはずしている奴がいました。借金だらけで、「金がなくて死にたいわ……」と嘆いていたのですが、今年の初頭に120万円の馬券をゲットして、借金を帳消しにしたのです。


 かく言う、僕もそうです。


 僕は放送作家をしているのですが、必ずしも、恵まれた環境で仕事はしていません。理不尽だな、運がないな、と思うことばかりで、それでもイヤな仕事が続いた先には必ず、いい仕事が待っていました。そのくり返しで、それを知っているからこそ、「今は我慢、今は我慢」と自らに言い聞かすことができたのです。


 イヤなことがあったら、それは次に良いことが起こることへの予兆です。「やったぜ!もうすぐ良いことがあるぜ!」てなもんで、気持ちをすぱっと切り替えて、そのときが来るのを待てばいいのです。


 なにより、どん底を経験したら、その先に起こることはすべて、比較で楽に感じます。


 「この試練に耐えたら、この先は必ず楽になる!つらいのは今だけだ!」


 至極当たり前のことなのですが、これを意識するかどうかで、人生の充実度が変わってきます。如実に違ってくるので、立ち直れないときほど特に、このことを噛みしめましょう。


 明石家さんまさんがその昔、こういう言葉を吐きました。


 「生きてるだけで丸もうけやで!」


 これは、すばらしい言葉ですよ。何ごとも楽観的に考える癖をつけ、幸せの訪れを待つ、黎明期として不幸を享受する癖をつければ、過ごす時間に潤いが出るのです。



 そして、最後。これは考え方の最優先順位であり、僕が生きるうえでの最高法規でもあります。みなさまも、同じ悩みを抱えている人に思いをはせ、幸せの訪れを待ち、以下の言葉を胸にブルーと戦ってください。


③人生は一度しかない
 この言葉は、僕の座右の銘です。当たり前すぎて言うのもはばかれるのですが、今一度この言葉を噛みしめてください、人生は一度きりなのです。


 「一度しかない人生だから、どう行動するべきか?」


 この言葉を指針に、羅針盤の向きを決めるべきなのです。


 僕はこの言葉は、全人類共通の、心の最高法規だと思っています。自分に与えられた唯一の人生を、自分という唯一の存在をもって立ち向かうのです。


 落ち込んでいる人には、この言葉は強すぎるかもしれません。「やれ!」と同義なので、気がめいるでしょう。


 ですが、そこで再び、こう考えてください。


 「人生は一度しかない!」


 人生は一度しかないと考えてめいった気分を、さらに人生は一度しかないと考えて凌駕するのです。


 僕は過去のブルーをこの言葉を指針に、上記の方法を使って乗り越えてきました。人の3倍は弱い僕が、自分に何度も言い聞かせて、乗り越えてきたのです。


 悩みごとが大きければ、逃げるのも手です。僕も事実、何度も逃げてきました。今でも逃げることなどしょっちゅうで、現在でも人の2倍は弱いです。


 ただ、勝負どきに逃げてはいません。正確には、「逃げたら100%後悔する」と判断できたときには、ごちゃごちゃ言わずに前に進みました。出たとこ勝負で、いろいろあったものの、なんだかんだで、なんとかなったのです。


 人生は必ず、どこかに着地点があります。真剣に悩むのはその着地点に立ってからでよく、がんばれば不思議と、その着地点の居心地は悪くありません。「がんばれ!」というチープな言葉は、本当にがんばっていないから安っぽく聞こえるのであり、心底がんばる奴には聞こえ方が違ってくるのです。


 今回の考察のテーマは、実は、このブログの読者の方からリクエストされました。僕よりも年配のその方は、それはもう、大きな悩みを抱えておられます。


 それでも、「がんばります!」と、おっしゃってくれました。それが自分のことのようにうれしく、同時に、「俺って、こんなピュアなところがあったんだ……」と認識できて、僕も成長させられたのです。


 みなさま、社会で成功するスーパースターといえども、もとは誰もが凡人ですよ。特別な能力を持っているのではなく、ごく普通の、あなたの隣にいるような人が努力を重ねて成功したのです。


 「私は、自分に自信がないんです……」


 これも、よく聞く言葉です。


 そこで、こう考えてください。


 「イチローは野球がうまいだけだ!」


 スーパースターのイチローといえども、野球がうまいだけです。大衆の耳目を引く「野球」という分野に秀でていたからこそ偉大に思えるだけで、営業能力に長けた営業マンは、「営業の天才」です。分野が違うだけで、どんな人でも、なんらしかの天才なのです。「どちらが人間として上か」と考えるのはナンセンスで、なのに誰かと比較して、自信をなくしてしまうのです。


 「私は、しがないサラリーマンだから……」


 こう考えて卑屈になるのではなく、イチローに「じゃあ訊くけど、お前は俺みたいに毎日、取引先に一軒一軒頭を下げれんのか?」と訊いたら、絶対に無理ですよ。あんなすごい奴でもできないことがたくさんあり、要するに、「それだけのこと」なのです。見方を変えればどうってことない「それだけのこと」なのに、勝手に自分で大げさな「それほどのこと」にしてしまって、自信をなくしているのです。


 探せば誰にでも、すぐれた部分はあります。


 「一面的な部分を見て卑屈になるのではなく、自分のすぐれた部分に焦点を当てて自信を回復する」


 これを習慣にすれば、「弱音」とも五分に戦えるようになります。


 それでも、成功する人というのは、もともとメンタルの強い人が多いです。


 ですがくり返し申し上げるとおり、メンタルは鍛えれば、必ず強くなります。「立ち直るためのパターン」を身につけ、ブルーというへばりを脳から取り除くのです。解決しないまでも乗り越えることは充分可能で、その都度悩みながら、毎回、乗り越えて行けばいいのです。


 冒頭でもお話ししたとおり、今回のこの記事を読んでも、明日には同じ悩みが顔を出していることでしょう。


 そこで上記のようなことを、何度も何度もくり返してください。


 自分で自分を洗脳するほどくり返し、ある種の「自分教」として、メンタルを強くする方法論を確立します。教祖はあなた自身で、自分で自分を引っ張り上げるのです。


 冷静に考えてもこの世の中、病気以外の悩みごとは大抵、解決しますよ。クスリに頼らなくても、聖書に頼らなくても、現実という枠組みのなかでも充分、克服可能なのです。


 今回の記事は若造の戯言であり、偽善です。ですが、そんな偽善者の僕でも、最後にみなさまに、次の言葉を送ります。


 僕は、がんばっている人を全員、尊敬しています。誠実さに勝る美徳はなく、以下の言葉は僕の本意で、尊敬の念を込めて心から、次のエールを送らせてください。


 「今日も行ってらっしゃい!」




ブルーを乗り越えるにはどうすればいいか?の考察(携帯読者用)

※2009年・9月24日の記事を再編集

 僕は頻繁に、このブログの読者から悩み相談を受けます。なぜ僕みたいな奴に相談するのかわからないのですが、月に何通かはメールが届くなど、今ではちょっとしたライフワークになっているのです。

 彼ら彼女らの悩みごとは、多岐に渡ります。

 ですが、すべてに共通している原因があり、そのことはほかならぬ、僕自身の悩みごとでもあります。「悩みの元凶ロングセラー」といった感じで、僕もいまだに、それを完全には払拭できていないのです。

 それは、「メンタル面の弱さ」です。

 好きな人に告白する勇気がない、仲間に裏切られて立ち直れない、社会に踏み出す勇気がない、上司に怒られて死にたくなったなど、僕が経験してきたことばかりです。その分だけ感情移入しやすく、人の相談に乗っているうちに、自分で自分の相談に乗っているような錯覚に陥るほどなのです。

 ですが僕は、自分の弱さに打ち勝ってきました。正確には「乗り越えてきた」で、気持ちを切り替えたことで、何とかクリアできたのです。

 僕は人の3倍、弱い人間です。何をするにも弱く、生きるうえで常に足枷となってきたのですが、それでも乗り越えてきました。

 したがって、僕のような奴でも乗り越えてきたので、あなたにも必ずできますよ、というのが悩み相談に対する、僕の答えなのです。毎回そのことを説明し、僭越ながら、読者の方にも納得いただけている、と考えています。

 とはいえ悩みごとは、人に助言されたぐらいでは解決しないでしょう。納得はしたものの、時間がたてば再び、もとの悩みが顔を出すはずです。

 悩みごとというのは、脳内にへばりつきます。そのへばりを取っても取っても、メンタルの弱い人ほど、再びへばりつかれます。これはみなさまもご経験があるはずで、僕もそのくり返しなんですね。

 人間、そんな簡単には変わりません。どんなにすばらしい小説や映画に感化されても、ひと晩寝たら、同じ弱さが顔を出します。気持ちがリセットされてしまい、昨晩の熱さなど、どこ吹く風なのです。

 では、悩まない人間になるにはどうすればいいか?

 これは僕にもわかりませんし、正解などないでしょう。

 ですが、先ほども申し上げたとおり、乗り越えることは可能です。解決しないまでもちょっとした気持ちの切り替え方があり、僕はこれを何度も実践して、次第に強い人間になっていったのです。

 人間には元来、「免疫」という、弱さに対する抗体が存在しています。何度も経験して免疫をつけ、強い抗体を体内に植えつけていきます。その抗体が「ブルー」を乗り越える思考の変化につながり、明日への活力を生むのです。

 そこで今回は、「ブルーを乗り越えるにはどうすればいいか?」の考察です。

 今回は、僕が実践する、「ブルーを乗り越えるための気持ちの切り替え方」をご紹介します。「行動編」と「考え方編」とに分けて、ご説明させていただきます。

 とはいえ、僕は31歳の若造です。まだまだ人生経験も少なく、人に講釈を垂れるほど偉くありません。僕の方法がみなさまに通用するかどうかわかりませんが、僕は本当に、人の3倍は弱いです。そんな僕が強くなってきたのですから、たくさんの方が使用できる、と信じています。

 まずは、「行動編」です。

 以下にご紹介する8個のステップを踏み、ブルーを乗り越えてください。

ステップ①知り合いに話を聞いてもらう
 当たり前のことなのですが、これができない人が、意外と多いのです。「人に相談するのはかっこ悪い」と見栄を張って、ひとりで抱え込んでしまうんですね。

 悩みごとというのは、自分ひとりでは、絶対に解決しません。乗り越えられそうで乗り越えられず、結果として成功することはあるものの、それはたまたまです。結果オーライなだけで、毎回ひとりで抱え込む癖をつけてしまうと、精神がどんどん病んでいくのです。

 僕は先輩後輩に関係なく、誰にでも相談します。親はもちろんのこと、彼女、友達、美容院の美容師さん、行きつけの食堂の店員さん……。たくさんの人に相談して、たくさんの考え方を知るのです。

 弱さを見せることは、恥ずかしいことではありません。変なプライドは捨てて、気軽にどんどん相談しましょう。

 人に相談するときのポイントは、「すべてをさらけだす」ということです。

 恥ずかしい部分を隠し、情報を曲げて伝える人がいますが、ダメです。解決には至らないので必ず、すべてを正直に言うようにしてください。隠していたことをカミングアウトしたという事実ひとつとっても、気持ちがスッキリするのですから。

ステップ②メッセージ性の強い曲を、歌詞を噛みしめながら聴く
 自分をさらけだして人に相談したあとは、音楽を聴きます。

 音楽の歌詞というのは、その多くが人の弱さを表現したものです。メッセージ性の強い歌詞に触れて、自分を奮起させましょう。

 僕は音楽というのは、宗教と同じである、と考えています。

 「あんなスーパースターでも、自分と同じ悩みごとを抱えているんだ」

 こんなふうに共感できるからこそ、その教祖について行きたくなるのです。

 役者やタレントよりも、ミュージシャンに熱狂的なファンが多いのは、このように布教されたからでしょう。メッセージが心にダイレクトに届くので、「この人について行きたい!」となるんですね。

 ちなみに僕の教祖は、ミスチルであり長渕剛であり、中島みゆきです。

 なかでも、中島みゆき。

 これほど人の弱さをうまく表現できる教祖を、僕は知りません。酸いも甘いも知っている人でしょうから、口から出る言葉は迫真を持って迫ってくるのです。

ステップ③ワンランク上のデザートをたくさん食べる
 いわゆる、やけ食い。落ち込んだときにやけ食いする人は多く、それが高価なものであればあるほど、効果は高いでしょう。

 なかでもオススメなのは、コンビニのデザートです。

 手軽に買えますし、いつもより100円多めに出すだけで、露骨なまでに味が変わります。高級感を体に通し、その非日常さが活力を生んでくれるのです。

 「やけ~」というのは、質と量の両方で圧倒しなければなりません。僕はお酒は飲めないので、いつもコンビニデザートをたくさん食べるのですが、かなり癒されます。太らないよう代わりに食事を抜けば、ウエイトオーバーにもなりません。

 僕がよくやるのは、ハーゲンダッツ4つ食いです。

 4つ食べても、たかだか1000円です。セレブ汁が体中にあふれ、「俺は今、生きてるな!」と、妙な感慨に浸ることができるのです。

ステップ④人気の少ない、夜の街にくり出す
 過去記事でもご紹介しましたが、夜の静寂は、気持ちを落ち着かせます。自分を客観的に見るには最適で、疲労にともなってあふれ出すアドレナリンが気持ちをしゃきっとさせ、次第に元気になるのです。

 夜の街には田んぼ、公園、神社など、闇を含有した癒しスポットがたくさんあります。それらを順に回り、マイナスになった気持ちをプラスで支配していってください。

 プラス思考が51%以上になると、自分がより元気になるよう、楽観的な考えが脳内にあふれ出してきます。どんどんプラスで埋めていき、前向きな答えを持って家路に着きましょう。

 メッセージ性の強い音楽を聴きながらであればなお、効果は高いです。

 静寂で落ち着きを取り戻していることから歌詞を噛みしめやすく、心の芯にストレートに届きます。同時にプラスがどんどんあふれて、70%、80%ぐらいなら、すぐに埋まるでしょう。

 時間がたってプラスが減るようなら、100%になるまで歩き続けてください。最低でも51%をキープした状態で家路に着ければ、目覚めたあとの気持ちが違うはずです。

ステップ⑤ひとりで立ち飲み屋に行って、オッサンやオバハンに話を聞いてもらう
 お酒というのは、憂さを晴らしてくれます。ですがそれは一時のものであり、素面に戻るやいなや悲しくなるというのは、よくある話でしょう。

 そして、「いいお酒」というのは、周囲があってこそです。「誰と飲むか」で味が如実に違い、社の同僚と飲んでも、得られるものは少ないでしょう。

 場は楽しいものの、利害関係が含まれているからです。助言がフェイクである可能性もあり、なにより、深みがありません。「しょせんは他人ごと」というのが本音で、ダイレクトには届かないのです。

 そこで、立ち飲み屋にひとりで行ってください。

 立ち飲み屋には、利害関係のない、濃い奴がうじゃうじゃしています。人間味のある人が多く、その濃さは、弱さとは真逆のものです。体中が「俺は細かいことは気にしないよ!」と語っているかのようで、自分の悩みがちっぽけなものに思えてくるのです。

 話しかければ、輪に入れてくれます。一面識もない人にも優しく接してくれますし、アドバイスも豪快なんですよ。「死んだらいいねん、そんな奴!」などと当たり前のように言ってくるので、これが妙に癒されるんですね。

 僕はその昔、上司に理不尽なことで説教されて落ち込み、ふらりと立ち飲み屋に入ったことがあります。オッサンの輪に入れてもらって相談したところ、そのうちのひとりが「兄ちゃん、心配せんでもそんな奴はもうすぐ、がんになるから!もうすぐ死ぬ奴のことで悩んでても意味ないで!ハハハハハ!」と豪快に笑い飛ばしたのです。

 オッサンやオバハンは、伊達に歳食ってませんよ。年輪は理屈を越え、接すると、自分の心に元気玉が集まってくるような気がするのです。

ステップ⑥風俗で濃厚なプレーをする
 これは男性のみですが、オススメです。

 ごちゃごちゃ言わずに、風俗に行ったらいいんですよ。終電に間に合わない、行くと電車賃がなくなる、といった細かいことは気にせず、仕事を終えたその足で向かうのです。

 またそのプレーは、普段より濃いものにしてください。オプションをつけ倒すのはもちろんのこと、すべての憂さを晴らすべく、あらゆるエロスに興じるのです。

 僕の後輩なんて先日、上司にしばかれたあとに、ムチでしばかれに行ってましたからね。「お前、まだしばかれんの?」と僕は訊いたぐらいで、翌日は普通に元気を取り戻していたのです。

 極限のエロスは理屈を越えます。学生時代を思い出してみてください、先生に怒られても、友達に裏ビデオを貸してもらっていたらテンション上がったでしょ?

 「あの感じ」は、大人になった今でも健在です。憂さをエロスに変え、対象にぶつけてなくしましょう。

 行為終わりの虚無感も、すべてを発散できたときには、プラスに変わっています。スッキリ感が虚無感を凌駕し、それが活力に変化するのです。

ステップ⑦寝ちまう
 ①~⑥を終えたら、寝てください。単に寝るのではなく、「寝ちまう」のです。

 寝ると寝ちまうは全然違います。寝ちまうはややこしいことから逃げるためのもので、①~⑥をがんばったご褒美として、最後に逃げるのです。

 がんばる人ほど悩みやすいです。誠実さと悩みは、表裏一体。マジメな人ほど、細かいことを気にして殻に閉じこもってしまうんですね。

 したがって、「がんばった=マジメにやりすぎた」という自分への報酬が、「逃げる=あたたかい布団」なのです。がんばりすぎないようにするために最後に逃げ、悩みの深刻さを緩和させるのです。

 もちろん、悩みが解決するわけではありません。ですが①~⑥を終えて寝ちまったら、目覚めが違います。途中で悩みに支配されることはあるものの、抗体が強くなっていることから、すぐにプラス思考51%以上を保てるのです。

 なにより、夜の街にくり出し、お酒を飲み、風俗に行ったのですから、体は疲れています。ぐっすり眠れるので、その目覚めのよさが、残りのマイナス思考49%を侵食してくれます。その結果、プラス思考がマイナス思考を大幅に上回り、前向きな気分で出社できるでしょう。

ステップ⑧墓参りをする
 先祖というのは、自分と血のつながった存在です。無形とはいえそれは、「完全なる味方」なのです。

 それを有形化したのが現家族であり、血族という存在は利害関係のない、あなたの味方です。そこで、味方を従えるために墓参りに行き、従者として心に持ち帰るのです。

 他人が与えてくれる優しさは、何かしらの偽善や打算が含まれているものです。ですが、家族を中心とする血族が与えてくれる優しさは、無償の愛にほかなりません。本能からくる慈悲なので、これに勝る味方はいないのです。

 僕は何か勝負がかかったとき、おじいちゃんの形見である腕時計を、ポケットにいつもしのばせています。最近では頻繁に墓参りに行くなど、完全なる味方に語りかけ、味方の頭数でマイナス思考をつぶします。味方の背後霊を増やし、プラス思考を60%、70%と増やしていくのです。

 これは、神頼みではありません。至極現実的な行動で、何かにすがるのではなく、協力してもらうのです。血族の力を借りて目の前の課題に取り組み、結果として、ブルーを乗り越えるのです。

 なにより墓場は、慈愛に満ちています。

 僕の先祖が眠る墓場には、腹巻きをしているお地蔵さんがいます。近所のおばあさんが手縫いの腹巻きを巻きつけており、その現場を目撃したとき、僕は涙が止まりませんでした。「お腹を壊したらかわいそうだ」という感じがたまらず、「人って、こんなにも人を思いやれるものなんだな」と考えて、人間という存在が愛おしく思えたのです。

 こんな優しい空間に入ったら、前を向かないと仕方がないですよ。味方も増えるし人間的にも優しくなれるしで、ヘタな道徳の時間よりも、墓場に行くほうがよっぽど勉強になるのです。


 全体をとおして言えるのは、「普段と同じことをしてはいけない」ということです。

 部屋に閉じこもって妄想にふけるのではなく、プラス思考になるための行動をくり返し、習慣にしてください。習慣化して成功体験を増やし、どんどん免疫をつけましょう。

 次にご紹介するのは「考え方編」です。

 ステップ①~⑧を踏み、気持ちの総仕上げとして以下にご紹介する、3つのことを噛みしめてください。

 この3つは、誰もが一度は考えたことがあるものです。

 ですが、その当たり前のことこそが真理なのです。この真理を今一度噛みしめて、ブルーを一気に乗り越えましょう。

①今この瞬間、同じ悩みを抱えている人が何万人もいる
 これは事実です。どんな悩みごとでも、同じことで悩んでいる奴が腐るほどいるのです。

 人は身近に、同じ悩みを抱えている人を見つけると安心します。薄毛で悩んでいても、周囲が全員薄毛なら、その悩みは大きくありません。自分だけだ、と思うから心細いのであり、ほかにもたくさんいるという事実を、心の底から噛みしめるのです。

 あなたがリストラされたとします。ですがリストラされた奴なんて、この国に何人います?

 あなたが今いる場所の半径100メートル以内に、マジで何人かいますよ。そしてそんな奴が、今日も笑いながらシコってるんですよ。

 恋愛の悩みもそうです。曲の多くがラブソングなのも、それだけ多くの人が同じ悩みを抱えている、ということです。だからこそ音楽文化は普遍で、恋愛の悩みは人類にとって、永遠のベストセラーなのです。

 アフリカの民族運動で牢獄に長年収容された、かのネルソン・マンデラ。

 はっきり言いますけどあいつ、牢獄でシコってましたよ。顔より、ペニスのほうが黒いですよ。あんな苦労のなかでも心にゆとりを持ち、釈放後、20代の女と結婚してすぐに、子供ができました。「刑務所を出てすぐに出した」みたく、やることはやってるんですよ、あんなすごい奴でも。パンドラの箱から希望をすくい上げて前を向き、牢獄の外に出てすぐに中に出したんですよ。

 僕はこの考え方を、「同等安心」と呼んでいます。

 身近にいなくても、同じような奴が必ずいます。そいつらが前を向いて生きているのですから、そんなことで悩むのは悩み損です。悩みが顔を出すごとにこのことを思い出し、楽観的に考える癖をつけるのです。

②幸せと不幸せは、半分半分である
 これも真理です。誇張でもなんでもなく、イヤなことがあったら必ず、良いことがあるのです。

 常套句ではなく、事実以外の何物でもありません。信じるとかではないのです、必然なので、現実的にそれを待てばいいのです。

 だって、あなたの人生を振り返ってみてください。ここ何年もイヤなことばっかりなんて、まあないでしょ?時間の経過とともに幸せが訪れ、その都度、その幸せが悩みを帳消しにしてくれたでしょ?

 僕の競馬仲間で、2年半、馬券をはずしている奴がいました。借金だらけで、「金がなくて死にたいわ……」と嘆いていたのですが、今年の初頭に120万円の馬券をゲットして、借金を帳消しにしたのです。

 かく言う、僕もそうです。

 僕は放送作家をしているのですが、必ずしも、恵まれた環境で仕事はしていません。理不尽だな、運がないな、と思うことばかりで、それでもイヤな仕事が続いた先には必ず、いい仕事が待っていました。そのくり返しで、それを知っているからこそ、「今は我慢、今は我慢」と自らに言い聞かすことができたのです。

 イヤなことがあったら、それは次に良いことが起こることへの予兆です。「やったぜ!もうすぐ良いことがあるぜ!」てなもんで、気持ちをすぱっと切り替えて、そのときが来るのを待てばいいのです。

 なにより、どん底を経験したら、その先に起こることはすべて、比較で楽に感じます。

 「この試練に耐えたら、この先は必ず楽になる!つらいのは今だけだ!」

 至極当たり前のことなのですが、これを意識するかどうかで、人生の充実度が変わってきます。如実に違ってくるので、立ち直れないときほど特に、このことを噛みしめましょう。

 明石家さんまさんがその昔、こういう言葉を吐きました。

 「生きてるだけで丸もうけやで!」

 これは、すばらしい言葉ですよ。何ごとも楽観的に考える癖をつけ、幸せの訪れを待つ、黎明期として不幸を享受する癖をつければ、過ごす時間に潤いが出るのです。


 そして、最後。これは考え方の最優先順位であり、僕が生きるうえでの最高法規でもあります。みなさまも、同じ悩みを抱えている人に思いをはせ、幸せの訪れを待ち、以下の言葉を胸にブルーと戦ってください。

③人生は一度しかない
 この言葉は、僕の座右の銘です。当たり前すぎて言うのもはばかれるのですが、今一度この言葉を噛みしめてください、人生は一度きりなのです。

 「一度しかない人生だから、どう行動するべきか?」

 この言葉を指針に、羅針盤の向きを決めるべきなのです。

 僕はこの言葉は、全人類共通の、心の最高法規だと思っています。自分に与えられた唯一の人生を、自分という唯一の存在をもって立ち向かうのです。

 落ち込んでいる人には、この言葉は強すぎるかもしれません。「やれ!」と同義なので、気がめいるでしょう。

 ですが、そこで再び、こう考えてください。

 「人生は一度しかない!」

 人生は一度しかないと考えてめいった気分を、さらに人生は一度しかないと考えて凌駕するのです。

 僕は過去のブルーをこの言葉を指針に、上記の方法を使って乗り越えてきました。人の3倍は弱い僕が、自分に何度も言い聞かせて、乗り越えてきたのです。

 悩みごとが大きければ、逃げるのも手です。僕も事実、何度も逃げてきました。今でも逃げることなどしょっちゅうで、現在でも人の2倍は弱いです。

 ただ、勝負どきに逃げてはいません。正確には、「逃げたら100%後悔する」と判断できたときには、ごちゃごちゃ言わずに前に進みました。出たとこ勝負で、いろいろあったものの、なんだかんだで、なんとかなったのです。

 人生は必ず、どこかに着地点があります。真剣に悩むのはその着地点に立ってからでよく、がんばれば不思議と、その着地点の居心地は悪くありません。「がんばれ!」というチープな言葉は、本当にがんばっていないから安っぽく聞こえるのであり、心底がんばる奴には聞こえ方が違ってくるのです。

 今回の考察のテーマは、実は、このブログの読者の方からリクエストされました。僕よりも年配のその方は、それはもう、大きな悩みを抱えておられます。

 それでも、「がんばります!」と、おっしゃってくれました。それが自分のことのようにうれしく、同時に、「俺って、こんなピュアなところがあったんだ……」と認識できて、僕も成長させられたのです。

 みなさま、社会で成功するスーパースターといえども、もとは誰もが凡人ですよ。特別な能力を持っているのではなく、ごく普通の、あなたの隣にいるような人が努力を重ねて成功したのです。

 「私は、自分に自信がないんです……」

 これも、よく聞く言葉です。

 そこで、こう考えてください。

 「イチローは野球がうまいだけだ!」

 スーパースターのイチローといえども、野球がうまいだけです。大衆の耳目を引く「野球」という分野に秀でていたからこそ偉大に思えるだけで、営業能力に長けた営業マンは、「営業の天才」です。分野が違うだけで、どんな人でも、なんらしかの天才なのです。「どちらが人間として上か」と考えるのはナンセンスで、なのに誰かと比較して、自信をなくしてしまうのです。

 「私は、しがないサラリーマンだから……」

 こう考えて卑屈になるのではなく、イチローに「じゃあ訊くけど、お前は俺みたいに毎日、取引先に一軒一軒頭を下げれんのか?」と訊いたら、絶対に無理ですよ。あんなすごい奴でもできないことがたくさんあり、要するに、「それだけのこと」なのです。見方を変えればどうってことない「それだけのこと」なのに、勝手に自分で大げさな「それほどのこと」にしてしまって、自信をなくしているのです。

 探せば誰にでも、すぐれた部分はあります。

 「一面的な部分を見て卑屈になるのではなく、自分のすぐれた部分に焦点を当てて自信を回復する」

 これを習慣にすれば、「弱音」とも五分に戦えるようになります。

 それでも、成功する人というのは、もともとメンタルの強い人が多いです。

 ですがくり返し申し上げるとおり、メンタルは鍛えれば、必ず強くなります。「立ち直るためのパターン」を身につけ、ブルーというへばりを脳から取り除くのです。解決しないまでも乗り越えることは充分可能で、その都度悩みながら、毎回、乗り越えて行けばいいのです。

 冒頭でもお話ししたとおり、今回のこの記事を読んでも、明日には同じ悩みが顔を出していることでしょう。

 そこで上記のようなことを、何度も何度もくり返してください。

 自分で自分を洗脳するほどくり返し、ある種の「自分教」として、メンタルを強くする方法論を確立します。教祖はあなた自身で、自分で自分を引っ張り上げるのです。

 冷静に考えてもこの世の中、病気以外の悩みごとは大抵、解決しますよ。クスリに頼らなくても、聖書に頼らなくても、現実という枠組みのなかでも充分、克服可能なのです。

 今回の記事は若造の戯言であり、偽善です。ですが、そんな偽善者の僕でも、最後にみなさまに、次の言葉を送ります。

 僕は、がんばっている人を全員、尊敬しています。誠実さに勝る美徳はなく、以下の言葉は僕の本意で、尊敬の念を込めて心から、次のエールを送らせてください。

 「今日も行ってらっしゃい!」

山で野グソをするときに注意しなければならないことは何か?の考察(パソコン読者用)

※2007年・5月12日の記事を再々編集


 僕は、山登りが大好きです。学生時代を中心に、たくさんの山を制覇してきました。


 山は危険です。冬山は言うに及ばず、通常の山でも注意しなければならないことがたくさんあります。


 高山病、過呼吸、毒ヘビ……。油断すると事故につながり、なかでも次にご紹介することだけは、ちょっとした油断が大惨事につながるのです。


 それは、野グソです。


 僕は過去、山で何度も野グソをしてきました。腸が弱く、登山の際には必ずと言っていいほど野グソをし、そして何度も被害に遭ってきたのです。


 はっきり言いますけど、素人は、野グソを甘くみてますよ。「ティッシュを持って行く」「人のいないところでする」の2つしか考えてないでしょ?それさえ注意すれば大丈夫、と思っているでしょ?


 それは甘いです。野グソのプロから言わせれば、めちゃくちゃ甘いです。


 今回は僕の経験を踏まえて、素人の方に、山で野グソをするときの心構えを伝授したいと思います。


 そこで今回は、「山で野グソをするときに注意しなければならないことは何か?」の考察です。


 今回は、山で野グソをするときの注意事項である「野グソ8ヵ条」、略して「ノグハチ」をご紹介します。


ノグハチ第1条
●人が来る可能性のある方向にお尻を向けてはいけない
 お尻を向ける方向には、注意が必要です。


 山中には、入り口などありません。どこから人が来るかわからず、登山客や山の住人が急に現れることが、往々にしてあるのです。


 野グソ中にお尻のほうから見られたら、悲惨です。恋人に見られたら、100年の恋が冷める、と言っても過言ではありません。あまりの情けない姿に、婚約を破棄されても文句は言えないでしょう。


 万が一、生放送中のテレビカメラが入ってきたら、悲惨極まりないです。


 知らずにレポーターが来て、「今日も富士山は登山客でにぎわってますねって、うわー、カメラ止めろ!」なんて言われたら、そのまま舌噛んで死んだほうがましです。YOUTUBEにも、「おもいっきりTVでおもいっきりウンコ」と題された映像があげられてしまうでしょう。


 「人が来る可能性の高い方向を予測して、そこにお尻を向けない」


 これを意識すれば、大惨事は防げます。少なくとも、前から見られるほうがダメージは少ないです。とっさにパンツも上げられますからね。


 どんなに切羽詰まった便意でも、まずはこのことを認識してください。「もといた場所(人のいる方向)にお尻を向けない」「道路に近い方角にはお尻を向けない」といったことに留意して、お尻のほうから見られるのだけは回避しましょう。


ノグハチ第2条
●地盤が傾いている場所でしてはいけない
 足場にも、注意が必要です。


 きばっていると、ただでさえ身動きがとりにくいです。傾斜がきついと、力んだ拍子にそのまま転がってしまう可能性が高いのです。


 下半身を露出したまま転がったら、悲惨です。なにしろ、お尻にはウンコを挟んでいます。転がった地点に子供がいれば、「ママ!チンコとウンコ両方出してるオッサンが転がってきた!」と言われ、ママもママで「たーくん、そんな人がいるわけないでしょって、ギャー、ほんまにおった!」と叫ぶなど、場が騒然となるのです。


 「誰か助けてくれ!」


 転倒が止まらずにこう叫んだところで、誰も助けてくれません。チンチンを出しながら転がる人間など、誰も関わりたくありません。傾斜がなくなるまで、「リアル糞転がし」をしなければならないのです。


 僕は過去、傾斜を気にしないで野グソをしたために、数メートル先まで転がったことがあります。幸いにも、人に見られることはなかったのですが、あまりの情けなさに死にたくなりましたよ。そんな状態でも、パチン、と受身をした自分が心底情けなかったですから。


 野グソをするときの地盤は、平坦でなければなりません。多少傾いていたとしても、どこかの枝をつかんでするなどして、くれぐれも転がらないようにご注意ください。


ノグハチ第3条
●近くに野生動物がいないことを確認する
 山中には、野生動物がいます。ポケットに食べ物でも入っていると、たくさんの動物が集まってくるのです。


 状態が状態だけに、逃げるわけにはいきません。猿が肛門を舐めてくれたり、シカが角で掃除をしてくれるならありがたいものの、前からイノシシが突っ込んできたらシャレにならないのです。


 場所が下り坂で、前から突っ込まれて転げ落ちると悲惨です。


 「おい!あそこでチンチン出しながらイノシシと格闘してるオッサンがおるぞ!」


 こんなふうに言われますし、変に角をつかんで互角の戦いをしてしまうと、「変質者がイノシシ相手に修行している!」と思われて、誰も助けてくれません。チンチンを噛まれた状態で転がると、「あのオッサン、イノシシに舐めさしてるぞ!これ、撃つんやったらオッサンのほうやんな?」と、人間のほうが射殺されてもおかしくないのです。


 熊に遭遇したら、もっと悲惨です。発見されたときの死体が、めちゃくちゃ恥ずかしいからです。


 「誰か来てくれ!ケツからウンコ出したオッサンが半裸で死んでる!」


 こんなふうに言われますし、傷をつけられずに死んだら死んだで、「スカトロ好きの露出狂が心臓発作で死んだ」と思われなくもないのです。


 その結果、警察の死体検分に立ち会った親に、「これ、おたくの息子さんですかね?」「……違います!こんな奴知りません!」と、他人のフリをされてしまうでしょう。


ノグハチ第4条
●近くに、野グソをしている人がいないことを確認する
 野グソ中は、誰もが息を潜めています。高い草木が死角になって視認できないことも多く、安易にスポットを決めると、近くに戦友がいる可能性があるのです。


 こんな気まずいことはありません。互いの存在に気づいて、「あっ、ど、どうも」「こ、こちらこそ、どうも」「……」「……」「き、北はどっちですかね?」「北はこっちと違います?」「ほんまですか?」「ほんまですよ!」と、気まずさをごまかそうとする会話に耐えられません。今さら場所を移動するわけにもいかず、ブリブリと音でもしたら、もう笑うしかないんですね。


 相手が外国人であれば、ややこしいことになる可能性もあります。


 「ユーもウンコing?」


 こんなふうによくわからない英語で話しかけたら、言葉の通じない外国人がバカにされたと勘違いして、怒り出すかもしれません。「ユーもウンコing?」「ホワット?」「いやあの、ユーもウンコingなのかなと思いまして……」「シャラップ!」などと、ケンカになります。誰かに「あそこでケツからウンコ出しながら殴り合いしてる奴らがおるぞ!」と叫ばれて、大ごとになるのです。


 スポット探しの際は、目と耳をフル稼働させてください。咳払いをするなどして周囲を確認し、心配なら、「今から野グソをしますけど、ここに誰もいませんよね?」と声に出して確認しましょう。


ノグハチ第5条
●ウルシに注意する
 言うまでもなく、ティッシュは持って行きます。ですが足らなくなる場合があり、近くの葉っぱを使ったもののそれがウルシだったら、肛門がかぶれてしまうのです。


 こんなもん、恥ずかしくて病院に行けませんよ。医者に「どうしました?」と訊かれて、「ウルシで肛門拭いたらかぶれました!」とは言えませんからね。


 正直に言ったとしても、「ウルシで肛門拭いたらかぶれました」「はっ?」「ウルシで肛門拭いたらかぶれました」「はっ?」と信用されず、しかも、病院内でウワサをされます。「来たわよ、例のウルシが!」「信じられないわ、ウルシでお尻を拭くなんて!」とウワサされ、「次のウルシどうぞ!」と、間違って呼ばれかねないんですね。


 あなたがスポーツ選手なら、そのことがメディアに漏れる可能性もあります。スポーツ新聞に、『途中リタイアの鈴木、実はアナルがリタイア!』『鈴木のアナルがかゆくナル!』などと叩かれ、2ちゃんねるにも『鈴木のアナルを叩くスレ~2かぶれ目~』と書かれるなど、散々な目に遭わされるでしょう。


 登山の際には、植物図鑑でウルシを確認しておいてください。葉っぱを代用するのはかまいませんが、くれぐれもウルシだけには手を出さないようにしましょう。


ノグハチ第6条
●「野グソをしてくる!」と仲間に伝える
 これは、非常に大事です。


 たしかに、仲間に言うには勇気がいります。ですが、野グソをしてくることを伝えず、正確には、野グソをする場所を伝えずにいなくなってしまうと、そのことを知らない仲間が、現場にやってくる可能性があるのです。


 女性のみなさま、ここで、知り合いに見られるところを想像してください。


 見られたのが、あなたの好きな男性だったらどうですか?好きな人にウンコ、及び前の毛を見られたら、どんな気持ちになりますか?


 これは、マジでシャレになりませんよ。しかもテンぱりすぎて、「もう先輩ったら!プンプン!」とブリッコをしてしまい、プンプンの拍子にウンコがちぎれたら、僕ならそのまま谷底に飛び込んで自殺しますよ。


 「あそこの草むらで用を足すから、絶対に来ないでね!」


 最悪の事態を想定して、仲間にこう伝えましょう。言わないことで見られる可能性があるのなら、言って多少の恥ずかしい思いをするほうが、はるかにましなのです。


 これは言うなれば、「野グソ保険」です。「言うのが恥ずかしいというリスク=保険料」を支払って、万が一を回避しましょう。


ノグハチ第7条
●タバコを吸ってはいけない
 山は禁煙です。


 ですが、野グソが長期戦になると、喫煙者は、しゃがんだままで一服をします。我慢できずに吸ってしまうのですが、正義感の強い山男が、煙をたどって注意しに来ることがあるのです。


 大学時代、とある山で野グソをしていたときのこと。木をかき分けて1人のオッサンが現れ、僕は「現場」を見られました。


 下半身を露出させている僕は、あ然としています。一方、このオッサンに、人の野グソを見たという罪悪感はありません。僕の野グソには一切触れず、「ふざけんじゃねえよ、てめえ!」と言って、普通にタバコを注意してきたのです。


 お前やろ、ふざけてんの!チンチン丸見えやねんぞ、俺!


 「こんなところでタバコ吸ったらダメだよ!」


 お前も野グソ見に来たらダメだよ!タバコ吸った俺も悪いけど、トータルで考えたらお前のほうがはるかにたち悪いねん!


 とはいえ、状況が状況だけに、強気になれません。恥ずかしすぎて言い返すことができず、その後、頂上でこのオッサンと再会したのですが、まあ気まずかったですよ。顔を見れたものではなく、妙な被害妄想で食事どころではなかったのです。


 山には、正義感の強い山男が存在します。無骨なタイプが多く、野グソ現場を見ようが、おかまいなしです。ですのでくれぐれも、タバコは吸わないようにしてください。



 そして、最後。この第8条は、今までにも増して注意しなければならない、最高法規です。


ノグハチ第8条
●ストレッチをしてから行く
 野グソは長時間、ウンコ座りをします。両足にかかる負担が大きく、事前にストレッチをしておかないと、足がつってしまうことがあるのです。


 忘れもしない、僕が大学1年生のときのことです。


 僕は、所属していた探検部の夏合宿で、長野県の槍ヶ岳に登りました。そして合宿3日目の夕方に、事件は起こったのです。


 僕は、森の中で野グソをしていました。


 合宿に来て、初めてのウンコです。15分以上もしゃがみ込み、寒すぎて途中から下痢に変わったため現場を離れられず、山歩きの疲労も相まって、足がつり始めたのです。


 こむら返りと呼べるほどの激痛で、ウンコどころではありません。あまりの激痛に耐えられず、ウンコの上に、直接お尻をつけてしまったのです。


 お尻が汚れたとはいえ、こむら返りが治ったわけではありません。僕は激痛に耐えながら、ズボンとパンツを脱ぎました。そして、スッポンポンで木に両手を当てて足のふくらはぎを伸ばし始めたのですが、坂の上から「遅いけど大丈夫か?」と言いながら同期の奴(畠山)が近づいてきたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!完全に頭おかしい奴やんけ、俺!


 「来んでいいわ!もう戻るから、大丈夫や!」


 こう返したので畠山は来なかったものの、その後、畠山が僕を見るときに、ずっと半笑いなのです。


 そう、畠山は、僕のことが見えていたのです……。勇気を出して訊いてみたところ、「見えてたよ!」と教えてくれたのです……。


 これは、マジでシャレになりません。僕の人生の汚点ベスト5に入るほどの辱めで、これを書いている今でも、思い出して寒気がしてくるほどなのです。


 登山中は、筋肉疲労を起こしています。そんな状態で野グソをすれば、かなりの確率でつってしまうのです。


 したがって、野グソの前には必ず、両足をストレッチしてください。それも念入りに、仮に猛烈な便意に焦っていても、最低限、屈伸だけはしましょう。



 以上が、今回の考察です。


 ノグハチは、どれか1つ欠けてもダメです。なかでもストレッチだけは、絶対にしてください。僕のように知り合いに見られると、一生消えない心の傷になるのです。


 事実、僕は大学を卒業してから、彼女と一緒に歩いていると畠山にバッタリ出くわしたのですが、思わず「畠山君」と、君づけで呼んでしまいましたから……。


山で野グソをするときに注意しなければならないことは何か?の考察(携帯読者用)

※2007年・5月12日の記事を再々編集

 僕は、山登りが大好きです。学生時代を中心に、たくさんの山を制覇してきました。

 山は危険です。冬山は言うに及ばず、通常の山でも注意しなければならないことがたくさんあります。

 高山病、過呼吸、毒ヘビ……。油断すると事故につながり、なかでも次にご紹介することだけは、ちょっとした油断が大惨事につながるのです。

 それは、野グソです。

 僕は過去、山で何度も野グソをしてきました。腸が弱く、登山の際には必ずと言っていいほど野グソをし、そして何度も被害に遭ってきたのです。

 はっきり言いますけど、素人は、野グソを甘くみてますよ。「ティッシュを持って行く」「人のいないところでする」の2つしか考えてないでしょ?それさえ注意すれば大丈夫、と思っているでしょ?

 それは甘いです。野グソのプロから言わせれば、めちゃくちゃ甘いです。

 今回は僕の経験を踏まえて、素人の方に、山で野グソをするときの心構えを伝授したいと思います。

 そこで今回は、「山で野グソをするときに注意しなければならないことは何か?」の考察です。

 今回は、山で野グソをするときの注意事項である「野グソ8ヵ条」、略して「ノグハチ」をご紹介します。

ノグハチ第1条
●人が来る可能性のある方向にお尻を向けてはいけない
 お尻を向ける方向には、注意が必要です。

 山中には、入り口などありません。どこから人が来るかわからず、登山客や山の住人が急に現れることが、往々にしてあるのです。

 野グソ中にお尻のほうから見られたら、悲惨です。恋人に見られたら、100年の恋が冷める、と言っても過言ではありません。あまりの情けない姿に、婚約を破棄されても文句は言えないでしょう。

 万が一、生放送中のテレビカメラが入ってきたら、悲惨極まりないです。

 知らずにレポーターが来て、「今日も富士山は登山客でにぎわってますねって、うわー、カメラ止めろ!」なんて言われたら、そのまま舌噛んで死んだほうがましです。YOUTUBEにも、「おもいっきりTVでおもいっきりウンコ」と題された映像があげられてしまうでしょう。

 「人が来る可能性の高い方向を予測して、そこにお尻を向けない」

 これを意識すれば、大惨事は防げます。少なくとも、前から見られるほうがダメージは少ないです。とっさにパンツも上げられますからね。

 どんなに切羽詰まった便意でも、まずはこのことを認識してください。「もといた場所(人のいる方向)にお尻を向けない」「道路に近い方角にはお尻を向けない」といったことに留意して、お尻のほうから見られるのだけは回避しましょう。

ノグハチ第2条
●地盤が傾いている場所でしてはいけない
 足場にも、注意が必要です。

 きばっていると、ただでさえ身動きがとりにくいです。傾斜がきついと、力んだ拍子にそのまま転がってしまう可能性が高いのです。

 下半身を露出したまま転がったら、悲惨です。なにしろ、お尻にはウンコを挟んでいます。転がった地点に子供がいれば、「ママ!チンコとウンコ両方出してるオッサンが転がってきた!」と言われ、ママもママで「たーくん、そんな人がいるわけないでしょって、ギャー、ほんまにおった!」と叫ぶなど、場が騒然となるのです。

 「誰か助けてくれ!」

 転倒が止まらずにこう叫んだところで、誰も助けてくれません。チンチンを出しながら転がる人間など、誰も関わりたくありません。傾斜がなくなるまで、「リアル糞転がし」をしなければならないのです。

 僕は過去、傾斜を気にしないで野グソをしたために、数メートル先まで転がったことがあります。幸いにも、人に見られることはなかったのですが、あまりの情けなさに死にたくなりましたよ。そんな状態でも、パチン、と受身をした自分が心底情けなかったですから。

 野グソをするときの地盤は、平坦でなければなりません。多少傾いていたとしても、どこかの枝をつかんでするなどして、くれぐれも転がらないようにご注意ください。

ノグハチ第3条
●近くに野生動物がいないことを確認する
 山中には、野生動物がいます。ポケットに食べ物でも入っていると、たくさんの動物が集まってくるのです。

 状態が状態だけに、逃げるわけにはいきません。猿が肛門を舐めてくれたり、シカが角で掃除をしてくれるならありがたいものの、前からイノシシが突っ込んできたらシャレにならないのです。

 場所が下り坂で、前から突っ込まれて転げ落ちると悲惨です。

 「おい!あそこでチンチン出しながらイノシシと格闘してるオッサンがおるぞ!」

 こんなふうに言われますし、変に角をつかんで互角の戦いをしてしまうと、「変質者がイノシシ相手に修行している!」と思われて、誰も助けてくれません。チンチンを噛まれた状態で転がると、「あのオッサン、イノシシに舐めさしてるぞ!これ、撃つんやったらオッサンのほうやんな?」と、人間のほうが射殺されてもおかしくないのです。

 熊に遭遇したら、もっと悲惨です。発見されたときの死体が、めちゃくちゃ恥ずかしいからです。

 「誰か来てくれ!ケツからウンコ出したオッサンが半裸で死んでる!」

 こんなふうに言われますし、傷をつけられずに死んだら死んだで、「スカトロ好きの露出狂が心臓発作で死んだ」と思われなくもないのです。

 その結果、警察の死体検分に立ち会った親に、「これ、おたくの息子さんですかね?」「……違います!こんな奴知りません!」と、他人のフリをされてしまうでしょう。

ノグハチ第4条
●近くに、野グソをしている人がいないことを確認する
 野グソ中は、誰もが息を潜めています。高い草木が死角になって視認できないことも多く、安易にスポットを決めると、近くに戦友がいる可能性があるのです。

 こんな気まずいことはありません。互いの存在に気づいて、「あっ、ど、どうも」「こ、こちらこそ、どうも」「……」「……」「き、北はどっちですかね?」「北はこっちと違います?」「ほんまですか?」「ほんまですよ!」と、気まずさをごまかそうとする会話に耐えられません。今さら場所を移動するわけにもいかず、ブリブリと音でもしたら、もう笑うしかないんですね。

 相手が外国人であれば、ややこしいことになる可能性もあります。

 「ユーもウンコing?」

 こんなふうによくわからない英語で話しかけたら、言葉の通じない外国人がバカにされたと勘違いして、怒り出すかもしれません。「ユーもウンコing?」「ホワット?」「いやあの、ユーもウンコingなのかなと思いまして……」「シャラップ!」などと、ケンカになります。誰かに「あそこでケツからウンコ出しながら殴り合いしてる奴らがおるぞ!」と叫ばれて、大ごとになるのです。

 スポット探しの際は、目と耳をフル稼働させてください。咳払いをするなどして周囲を確認し、心配なら、「今から野グソをしますけど、ここに誰もいませんよね?」と声に出して確認しましょう。

ノグハチ第5条
●ウルシに注意する
 言うまでもなく、ティッシュは持って行きます。ですが足らなくなる場合があり、近くの葉っぱを使ったもののそれがウルシだったら、肛門がかぶれてしまうのです。

 こんなもん、恥ずかしくて病院に行けませんよ。医者に「どうしました?」と訊かれて、「ウルシで肛門拭いたらかぶれました!」とは言えませんからね。

 正直に言ったとしても、「ウルシで肛門拭いたらかぶれました」「はっ?」「ウルシで肛門拭いたらかぶれました」「はっ?」と信用されず、しかも、病院内でウワサをされます。「来たわよ、例のウルシが!」「信じられないわ、ウルシでお尻を拭くなんて!」とウワサされ、「次のウルシどうぞ!」と、間違って呼ばれかねないんですね。

 あなたがスポーツ選手なら、そのことがメディアに漏れる可能性もあります。スポーツ新聞に、『途中リタイアの鈴木、実はアナルがリタイア!』『鈴木のアナルがかゆくナル!』などと叩かれ、2ちゃんねるにも『鈴木のアナルを叩くスレ~2かぶれ目~』と書かれるなど、散々な目に遭わされるでしょう。

 登山の際には、植物図鑑でウルシを確認しておいてください。葉っぱを代用するのはかまいませんが、くれぐれもウルシだけには手を出さないようにしましょう。

ノグハチ第6条
●「野グソをしてくる!」と仲間に伝える
 これは、非常に大事です。

 たしかに、仲間に言うには勇気がいります。ですが、野グソをしてくることを伝えず、正確には、野グソをする場所を伝えずにいなくなってしまうと、そのことを知らない仲間が、現場にやってくる可能性があるのです。

 女性のみなさま、ここで、知り合いに見られるところを想像してください。

 見られたのが、あなたの好きな男性だったらどうですか?好きな人にウンコ、及び前の毛を見られたら、どんな気持ちになりますか?

 これは、マジでシャレになりませんよ。しかもテンぱりすぎて、「もう先輩ったら!プンプン!」とブリッコをしてしまい、プンプンの拍子にウンコがちぎれたら、僕ならそのまま谷底に飛び込んで自殺しますよ。

 「あそこの草むらで用を足すから、絶対に来ないでね!」

 最悪の事態を想定して、仲間にこう伝えましょう。言わないことで見られる可能性があるのなら、言って多少の恥ずかしい思いをするほうが、はるかにましなのです。

 これは言うなれば、「野グソ保険」です。「言うのが恥ずかしいというリスク=保険料」を支払って、万が一を回避しましょう。

ノグハチ第7条
●タバコを吸ってはいけない
 山は禁煙です。

 ですが、野グソが長期戦になると、喫煙者は、しゃがんだままで一服をします。我慢できずに吸ってしまうのですが、正義感の強い山男が、煙をたどって注意しに来ることがあるのです。

 大学時代、とある山で野グソをしていたときのこと。木をかき分けて1人のオッサンが現れ、僕は「現場」を見られました。

 下半身を露出させている僕は、あ然としています。一方、このオッサンに、人の野グソを見たという罪悪感はありません。僕の野グソには一切触れず、「ふざけんじゃねえよ、てめえ!」と言って、普通にタバコを注意してきたのです。

 お前やろ、ふざけてんの!チンチン丸見えやねんぞ、俺!

 「こんなところでタバコ吸ったらダメだよ!」

 お前も野グソ見に来たらダメだよ!タバコ吸った俺も悪いけど、トータルで考えたらお前のほうがはるかにたち悪いねん!

 とはいえ、状況が状況だけに、強気になれません。恥ずかしすぎて言い返すことができず、その後、頂上でこのオッサンと再会したのですが、まあ気まずかったですよ。顔を見れたものではなく、妙な被害妄想で食事どころではなかったのです。

 山には、正義感の強い山男が存在します。無骨なタイプが多く、野グソ現場を見ようが、おかまいなしです。ですのでくれぐれも、タバコは吸わないようにしてください。


 そして、最後。この第8条は、今までにも増して注意しなければならない、最高法規です。

ノグハチ第8条
●ストレッチをしてから行く
 野グソは長時間、ウンコ座りをします。両足にかかる負担が大きく、事前にストレッチをしておかないと、足がつってしまうことがあるのです。

 忘れもしない、僕が大学1年生のときのことです。

 僕は、所属していた探検部の夏合宿で、長野県の槍ヶ岳に登りました。そして合宿3日目の夕方に、事件は起こったのです。

 僕は、森の中で野グソをしていました。

 合宿に来て、初めてのウンコです。15分以上もしゃがみ込み、寒すぎて途中から下痢に変わったため現場を離れられず、山歩きの疲労も相まって、足がつり始めたのです。

 こむら返りと呼べるほどの激痛で、ウンコどころではありません。あまりの激痛に耐えられず、ウンコの上に、直接お尻をつけてしまったのです。

 お尻が汚れたとはいえ、こむら返りが治ったわけではありません。僕は激痛に耐えながら、ズボンとパンツを脱ぎました。そして、スッポンポンで木に両手を当てて足のふくらはぎを伸ばし始めたのですが、坂の上から「遅いけど大丈夫か?」と言いながら同期の奴(畠山)が近づいてきたんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!完全に頭おかしい奴やんけ、俺!

 「来んでいいわ!もう戻るから、大丈夫や!」

 こう返したので畠山は来なかったものの、その後、畠山が僕を見るときに、ずっと半笑いなのです。

 そう、畠山は、僕のことが見えていたのです……。勇気を出して訊いてみたところ、「見えてたよ!」と教えてくれたのです……。

 これは、マジでシャレになりません。僕の人生の汚点ベスト5に入るほどの辱めで、これを書いている今でも、思い出して寒気がしてくるほどなのです。

 登山中は、筋肉疲労を起こしています。そんな状態で野グソをすれば、かなりの確率でつってしまうのです。

 したがって、野グソの前には必ず、両足をストレッチしてください。それも念入りに、仮に猛烈な便意に焦っていても、最低限、屈伸だけはしましょう。


 以上が、今回の考察です。

 ノグハチは、どれか1つ欠けてもダメです。なかでもストレッチだけは、絶対にしてください。僕のように知り合いに見られると、一生消えない心の傷になるのです。

 事実、僕は大学を卒業してから、彼女と一緒に歩いていると畠山にバッタリ出くわしたのですが、思わず「畠山君」と、君づけで呼んでしまいましたから……。

度がすぎる合席はやめにするべきではないか?の考察・後編(パソコン読者用)

※2007年・9月16日の記事を再々編集


 最悪や……。なんでこんなオッサンの隣で飯食わないとあかんねん……。


 店内には熱気が充満しています。異常なまでに暑く、5メートルほど先にある厨房では常時、どぎつい言葉が飛び交っています。ただでさえ最悪の環境なのに、僕は、シンナー臭いオッサンの真横で食事をすることになってしまったのです。


 そこで今回は、「度がすぎる合席はやめにするべきではないか?」の考察・後編です。


 僕が座ったテーブルは、とにかく狭いです。


 2人席より少し大きいぐらいで、強引に4人座らせています。ソースやしょう油、街頭でもらったのが丸出しのティッシュまで置いてあり、4人座った狭さは異常なのです。


 ティッシュの隣には、10センチ四方の小箱が置いてあります。なんとなしにフタを開けて見たところ、コンビニで肉まんを買ったときにもらえる、添付のカラシが死ぬほど入ってたんですよ。


 こんなん使わすなよ、客に!客に出せるもんと違うやろ、こんなもん!


 幸いにも、僕は最奥の壁際です。僕は壁にぎりぎりまでもたれかかりました。席の後ろに若干のスペースがあるので、そこに調味料類をすべて移動させて、少しでもテーブルを広くしました。


 「お水、置いときますね!」


 従業員のオバハンが水を持ってきました。


 ですが、異常にぬるいです。「羊水か、これ?」というぐらいぬるく、まったく飲む気がしないのです。


 僕の後ろの壁には、有名人のサインが1枚、飾ってあります。「こんな店に有名人なんて来るんかな……」と不思議に思いながらも何気に見たところ、「麻生詩織」と書かれてあったのです。


 誰やねん、麻生詩織って!こんな無名の奴のサインなんて飾んなよ!飾っても許される有名人のサインは、城みちるあたりまでが限度やねん!


 『ポン定、最高!』


 ポン定頼んだん!?女やのに日本酒おかずに白飯食ったんや!?


 壁にはサインだけではなく、たくさんの貼り紙がしてあります。オススメのおかずが貼ってあるのですが、中には妙な貼り紙もあります。


 『猫ちゃんをもらってください!』


 関係ないやんけ、食堂と!ていうか詳細書けや、もっと!どんな猫かぐらいは書いとけや!


 『モード学園の願書、お取り寄せできます!』


 客層考えろ!こんな濃い奴らがモード学園に行くか、ボケ!ファッションに関して、肌さえ隠せてたら布1枚でもOK、と考える連中やねん、こいつらは!


 『モツ鍋、やろうと思ってます!』


 やってから貼れや!意気込み書いてどないすんねん!ていうか、何のメリットあんの、この貼り紙!?貼ったところで見た奴はどう反応したらいいの!?


 ほかにも、上半身裸の力道山のポスター、「草津」とプリントされたボロボロのペナント、ヒモで強引に飾ってある特大のそろばん……。濃いものだらけで、その濃さに触れると、暑さに拍車がかかるのです。


 僕の前には、30代の男性が2人座っています。会話がないことから面識がないのは間違いなく、僕の左隣には、あんかけのオッサン(以下、あんかけ)がいます。全員が赤の他人なので、流れる沈黙がなんとも苦痛なのです。


 とりわけ、目のやり場に困ります。


 前の男性と目が合い、向こうも目のやり場に困っているのがわかります。気まずくて仕方がなく、間をもたせようとタバコを吸いたくても、この距離で吸うわけにはいきません。なのに、あんかけだけがこの狭い中、平気な顔で吸っているのです。


 ふざけんなよ、お前!お前も防空壕で隣の奴にタバコ吸われたらイヤやろ!


 「♪チュールチュルチュル チュールチュルチュル……」


 カラシで遊ぶな、チュルチュル!


 「♪チュールチュルチュル ハルサメ!」


 それなんやねん、おい!なあ何、そのオリコン850位ぐらいの気持ち悪い歌は!?


 ほどなくしてあんかけが、店にあるスポーツ新聞を手に取りました。


 狭いにもかかわらず、広げて読み始めました。僕の顔に新聞が当たり、しかもそこはアダルト広告の欄。「生涯現役!」と書かれたバイアグラの広告で、マッチョジジイの上半身が僕の唇にぶつかっているのです。


 ムラムラしたババアか、俺は!亡くなった旦那を思い出して、急に新聞ごと吸い始めたババアか!


 段々とイライラしてきましたよ。


 僕は必要以上に壁にもたれかかり、あんかけから距離を取りました。そして気分を落ち着かせるために、壁にもたれながら食堂一帯を眺めたのですが、まあここは濃い奴ばかりですよ。


 女性など皆無、ブラジル人や中国人は当たり前、7割方は作業服の男性です。負の匂いがプンプンしており、見ていて怖いぐらいなのです。


 中でも、僕の左隣のテーブルだけは、尋常じゃないですよ。


 チュルチュル、先ほどのヒゲの濃いブラジル人を含めた南米勢2人、だるんだるんのTシャツを着た初老の男性、作業服の中国人……。ありえない座組みで、「日本の最低賃金について話し合うサミット」みたいなのです。


 ヒゲではないもう1人のブラジル人なんて、「顔のビザも切れてないか?」というぐらい、殴られたのが丸出しのものすごい顔面です。一方、ヒゲの濃いブラジル人もブラジル人で、箸を器用に使ってヒジキを食べているものの、ヒゲが濃すぎて、ヒジキ食ってんのかヒゲ食ってんのかわからないのです。


 しかもさっきより、伸びているような気がします。あれから1時間もたっていないのに濃くなった気がしてならず、これね、こいつがヒゲを1年間剃らなかったら、顔がリーゼントになりますよ。50年剃らなかったら、日本にいながらヒゲが母国ブラジルに届いてもおかしくなく、「お前、どっちに住んでんの?」と訊かれかねないのです。


 店内には、四隅に扇風機がつけられています。


 ですがそのうちの1つは、外側のカバーがありません。剥きだしの羽がグルグルと周っており、羽が飛んできて顔面ボコボコのブラジル人にぶつかったら、「オレハ、ヒルヤスミニモナグラレルノカ!」と発狂してもおかしくないのです。


 厨房からは、「早く持って行け、あほんだら!」と罵声が飛び交っています。この空間自体がある種のジャパニーズホラーで、『血まみれ扇風機』『ビザ切れて顔切れる』的なタイトルで映画化されるのはもちろん、顔面ボコボコのブラジル人を主役とした『タイシュウショクドウ~サンパウロのお母さん、いま、会いにゆきます~』といったヒューマン映画が撮られてもおかしくないのです。


 僕はいろいろと妄想を働かせ、暇を潰しました。店内の暑さにやられながらも、あんかけが放つシンナーの匂いに参りながらも、なんとか時間を稼いだのです。


 ですが、いつまでたっても、注文がきません。


 前もって食券を渡しているにもかかわらず、15分以上たってもきません。前に座る2人にはこの段階でようやくきたものの、僕とあんかけには一向にこないのです。


 本気でイライラしてきましたよ。暑い・狭い・遅いの3重苦にもなると、イライラが止まらないんですね。


 そのときです。


 「俺のあんかけ、まだかよ?」


 我慢の限界を超えたのか、あんかけが、前の客に注文を持ってきたオバハンにクレームをつけました。


 「あと何分だよ、俺のあんかけ!?俺のあんかけを先に頼むよ!」


 あんかけは声を荒げました。「俺はあんかけだよ!」と言い間違いそうなほどの勢いで、あんかけを連呼したのです。


 「すいません、僕のカレーうどんもまだですかね?」


 あんかけのクレームに紛らせて、僕も訊きました。


 しかし、「俺、前の奴の皿うどんを見てたら我慢できねえよ!」と叫ぶあんかけの気迫に押されて、僕の声は届きません。それでも雄たけびの間隙を縫って、「僕のカレーうどんも急いでくださいね!」と続けたものの、オバハンもオバハンで、「今作ってるんで待っててくださいよ!」と素っ気ないのです。


 ふざけんなよ、お前!こっちが金もらってもおかしくないほどの空間やねんぞ、ここ!


 これは、むかつきましたよ。こんなありえない空間に押しやっておいて、この態度はないですよ。


 僕は開き直りました。周囲の迷惑も考えず、タバコを吸ってやることにしたのです。


 「あと5分待って注文がこなかったら店を出よう」


 こう決意し、僕は壁にもたれかかってタバコを吸い始めたのですが、厨房内で、ケンちゃんが殴られているのが目に入ったのです。厨房の男性に背中をニーキックされ、ていうか、完全にボコボコにされてるんですよ!


 どうなってんねん、この店!あと5分も待てんぞ、俺!今すぐにでも出て行きたくなったぞ!


 「もっとキレイに皿洗えや!」


 それだけなん!?それだけを理由に暴力振るうんや!?タイガーマスクを養成するところと違うよな、ここ!?


 「一気に全部洗えるような奴になれや!」


 ムチャ言うなよ、洗浄機もないのに!おるわけないやろ、そんな奴!土佐犬飼ってるOLよりもおらんわ!


 僕は怖くなってきました。


 ですが、周囲の客は微動だにしません。常連客が多いのか、「今日もやってるわ!」とばかりに平然としているのです。


 「あんかけとカレーうどんができた!すぐに持って行け!」


 ほどなくして、厨房の男性が声を張り上げました。いろいろと苦労させられたものの、ようやく僕の注文ができあがったのです。


 ハア、やっとや……。お腹もグーグーなってるわ……。


 僕は思わず前のめりになったのですが、僕のカレーうどんをフラフラのジジイが運んでくるんですよ!あんかけうどんはすぐにオバハンが運んできたのに、僕のおぼんは半分死んでるジジイがトボトボと運んでくるのです!


 なんで働いてんねん、お前みたいな奴が!比較的太ってるミイラぐらいやんけ、こいつ!


 めちゃくちゃ遅いんですよ、このジジイ!僕の席まで5メートルしかないのに、日が暮れる、いや「年が明けるわ!」というぐらい遅く、運びながらジジイ自体が老衰してもおかしくないのです!


 仮眠取るぞ、俺!もしくは1回家に帰って昼飯食ってから、晩飯として取りに戻ってくるぞ!


 「ゴホンゴホン!」


 咳き込むなよ、ジジイ!中に入れ歯入ったらどうしてくれんねん!


 それでも、なんとか到着しました。僕は立ち上がって受け取ったのですが、おぼんがカレーまみれなんですよ!「こぼしうどん、お待ちどう!」というぐらい、客に出せないレベルでこぼしまくっているのです!


 ふざけんなよ、お前!嫌われてる囚人の飯やんけ、こんなもん!


 「お待ちどう……」


 声ちっちゃ!テレビの音量で言ったら2ぐらいしか出てへんやんけ、こいつ!


 「待たせてごめんね……」


 死神をか!?「しぶとく生きてごめんね!」とかそういうことか!?


 テーブルに置こうにも、狭すぎて、あんかけのおぼんと重ならないことには置けません。前の客は、1人が単品の皿うどんだったのでなんとか置けたのですが、僕の並びはあんかけが堂々と置いているため置けないのです。


 そこで中身だけをテーブルに置き、おぼんを下げてもらおうとジジイに話しかけたのですが、このジジイがまた、めちゃくちゃ耳が遠いのです。


 「すいません!」


 「……」


 「すいません!」


 「……」


 「すいません!!!」


 「……はいっ?」


 「このおぼん、下げてもらえませんかね?」


 「……」


 「このおぼんを下げてもらえませんかね!?」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 死んでない?今まさに生涯を終えてない?だとしたら俺、お前の手を握らないとあかんねんけど!?


 「…………うん」


 うんってなんやねん!で、帰って行ったぞ、おい!おぼんも下げずに勝手に間違った解釈して帰って行ったぞ!


 結局、おぼんを足元に置くという、ありえない食事をすることになりました。ありえない店で、ありえない奴の隣で、ありえない食べ方をするはめになったのです。


 とはいえ、ここのカレーうどんはおいしいです。いろいろなことがありすぎてもう、まったく期待していなかったのですが、麺類にはうるさい僕がうなるほどの美味なのです。


 付属のひじきの煮物や、もやしと温泉卵を和えたものもおいしいです。なによりご飯が食べ放題なので、まあ行列ができたとしてもおかしくはないんですね。


 ですが、苦労して手に入れたおいしい食事も、あんかけのせいで台無しです。こいつがうどんのスープをレンゲで飲む際、毎回、「あー!」と言うからです。「飛行機落ちてくるわ!」というぐらい、あーあー叫びまくっているのです。


 ターザンか、お前!森に帰れや、さっさと!


 「(水を飲んで)あー!」


 意味わからん!叫びすぎて感覚がおかしくなってるやんけ!


 「あー!あー!」


 感じてんのか、お前!テーブルの下で誰かに股間いじられてんのか!?


 「ふぅ」


 イってない!?この安堵のため息はイったとしか思えんねんけど!?


 しかも、豪快に麺をすすります。スープが僕の体にかかってくるのです。


 僕が「熱い!」と、あんかけに聞こえるようにアピールしても、おかまいなしにガンガンに飛ばしてきやがったのです。


 どつき回したろか、お前!後ろに飾ってある特大のそろばんでよ!もしくは、そろばんやりまくって駒ではじき殺したろか!


 僕はもう、完全にキレました。「あんかけと殴り合いになってもかまわない」と思うほど、体がカッカしてきました。汗をかきすぎて体中がビショビショになっていますし、僕に失うものは何もないのです。


 そこで手始めに、カレーうどんのスープをあんかけに飛ばしてやりました。今までは飛ばさないように気を遣って食べていたものの、そんなことはもう関係ありません。


 僕はこのタイミングで、斜めに向けていた体を正面に戻しました。その結果、僕とあんかけの腕がぶつかり始めたのです。


 腕をぶつけてきた僕の態度の変化を見て、あんかけも僕を意識し始めました。それを証拠に「やるか、若いの?」とばかりに、ガンガンに腕をぶつけてきたのです。


 腹立つわ、こいつ!お前みたいな奴は、漢方薬を飲むときにオブラート破れろ!むせて苦しんだあとに、裸足で毛虫を踏め!


 僕は、「右腕は食事用、左腕は対あんかけ攻撃用」と決めました。ともに酔拳をするかのごとく、あんかけの右腕と僕の左腕が「場所」をめぐってしのぎを削り始めたのです。


 僕がスープを飛ばせば、あんかけも飛ばしてきます。ただ、僕よりもはるかに大きい液体を飛ばしてきやがったのです。


 ほんまに腹立つわ、こいつ!お前みたいな奴は、好きな女の子の前で腕相撲負けろ!しかも街中で、小汚い服装のときにかぎってその子に遭遇しろ!


 こいつは手強いです。さすがに百戦錬磨の「合席猛者」です。このあと僕の攻撃をブロックするために、策を巡らし始めたのです。


 「兄ちゃん、老練さに勝る武器はないんだぜ?」


 こう口にするかのごとく、汗だくにもかかわらず、スープが腕にかからないように腕のまくりを戻しやがったのです。


 いちいち腹立つわ、こいつ!お前みたいな奴は、病院に行くほどでもない中途半端な頭痛を常に抱えろ! 常にしんどくて、しんどすぎてタクシー拾ったらしゃべりすぎる運転手に当たれ!


 「あー!」


 静かにせいや、コラ!本気でむかついてきたわ、こいつ!


 ですが、僕も負けてはいません。僕は作戦を変更し、おでこの汗を手で拭くフリをして、あんかけにかけてやったのです。


 ざまあみろ、ボケ!どうや?お前の大好きなあんかけの中に俺の汚い汗が入ったやろ!?


 僕は、心の中でほくそ笑みました。そして、このつばぜり合いが5分ほど続き、カレーのからさにむせたフリをしてツバをかけるという地味な攻撃をくり返し、やがて僕のご飯がなくなったのです。


 ご飯のおかわりを入れるためには、席を立たなければなりません。あんかけを立ち上がらせることになるのです。


 あんかけへの敵意をむき出しにするべく、僕はこう言ってやりました。


 「どけ!」


 言われたあんかけは、素直に立ち上がったのです。


 びびってるわ、こいつ!俺の視線の鋭さとシャレにならん汗のかきっぷりにびびってるわ!


 僕は、茶碗を強く握りしめました。「お前ら、俺様がおかわりするんだからどけよ!」とばかりに練り歩きながら炊飯ジャーに向かったのですが、あんかけが僕の後ろにやってきやがったのです。


 あんかけにとっては、これは2回目のおかわり。うどんも平らげたので、おかずになるようなものは、ほとんど残っていません。これは僕に対する、「兄ちゃん、戦いはまだ終わってませんぜ?」という宣戦布告なのです。


 何なん、お前!お前みたいな奴は、修学旅行で外人と同じ班になれ!全然話が噛み合わず、スキンシップを図ろうとチョケてキック入れたら、シャレが通じずに普通にボコボコにされろ!


 これは、カチンときましたよ。僕の闘志に火がつきましたよ。


 僕はご飯が残り少ないのをいいことに、ジャー中央のホカホカの部分を根こそぎ入れることにしました。どう考えても茶碗に入りきらない量なのに、しゃもじで押さえつけて、ぎゅうぎゅうに詰めてやったのです。こうすることであんかけは、ジャーの端にへばりついたカチコチの米を食べなければならないのです。


 いい気味じゃ、ボケ!あー、すっとした!


 ところが、あんかけはやはり、ただ者ではありません。カチコチのご飯を、何の躊躇もなしに入れたのです。


 席に戻り、僕が残ったスープの中にご飯を入れるやいなや、あんかけは同じ食べ方を始めました。


 「兄ちゃん、考えることは一緒でんな?よきライバルでんな?」


 こう話しかけるかのごとく、ほとんど残っていないあんかけスープの中に、ご飯をぶち込んで雑炊を始めやがったのです。


 いちいち勘に触るわ、こいつ!あー、もうイライラしてきた!


 そこで、「どっちが食いっぷりがいいか」を競うべく、僕はカレーの熱さも忘れて、ガンガンに口にほり込んでやりました。「お前ごときが俺に勝てると思うな!俺は、俺は世界で1番長いブログを更新するバスコじゃい!」と心で叫びながら、お茶漬け感覚で流し込んでやったのです。


 あんかけなんてね、いまだにふーふーしてますよ。僕は、ふーふーなんて女々しいことはしません。熱さも気にしないでガンガンに流し込んでやりましたよ。


 俺の勝ちやぞ、おい!お前みたいな奴が俺に勝てると思うな、ボケ!


 あんかけとの戦いに勝利した僕は、心で雄たけびをあげました。


 しばらくして、前の席の2人がいなくなりました。


 すると新しくやってきたブラジル人が、汗びっしょりでカレーライスを流し込む僕を見て、「オー、ノー!コンナゲヒンナヤツガコノクニニイタノカ!」とばかりに、露骨にイヤな顔をしやがったのです。


 僕は、冷静さを取り戻しました。


 自分のやったことの無意味さに気がついたのです。なにより戦いに集中するあまりに、味もへったくれもなかったことに気がついたのです……。


 恥ずかしさをともに競ったあんかけは、食べ終えて店を出ました。この史上最低の戦いに参加しているのは、僕だけになってしまったのです。


 ご飯を入れすぎたため、暑さと満腹感で食べるのが苦しいです。ブラジル人の冷たい視線に耐えながら、僕は1人で戦うはめになったのです。


 こんなことなら、もう少しあんかけにいてほしかったな……。あんなに憎かったあんかけが、何だか戦友に思えてきた……。


 心細くて、涙が出そうになりました。しかも、新しく隣に座ったのが体の大きいオッサンだったため、窮屈さに拍車がかかったのです。


 白い目で見られながら、残飯のようなカレーライスを食べる惨めな僕。


 僕はプライドをズタズタにされて、店をあとにしたのです……。



 その日から、2日後。


 僕はこの店に置いてある、例のCD定食が気になっていました。「2度とこの店には行かない」と思っていたのに、気になって仕事が手につかないほどなのです。


 そこで、混雑していない時間帯を見計らって行き、注文しました。


 すると野菜炒めと一緒に、妙なCD(ミニアルバム)がついてきたのです。


 タイトルは『YOU』。


 今回の考察の最後に、アルバム名にもなっている、このYOUのサビの歌詞をご紹介します。


 ♪YOU 君がいなくなると 憂 俺はさびちまうんだよ YOU


 ほんまに何なん、この店……。


度がすぎる合席はやめにするべきではないか?の考察・後編(携帯読者用)

※2007年・9月16日の記事を再々編集

 最悪や……。なんでこんなオッサンの隣で飯食わないとあかんねん……。

 店内には熱気が充満しています。異常なまでに暑く、5メートルほど先にある厨房では常時、どぎつい言葉が飛び交っています。ただでさえ最悪の環境なのに、僕は、シンナー臭いオッサンの真横で食事をすることになってしまったのです。

 そこで今回は、「度がすぎる合席はやめにするべきではないか?」の考察・後編です。

 僕が座ったテーブルは、とにかく狭いです。

 2人席より少し大きいぐらいで、強引に4人座らせています。ソースやしょう油、街頭でもらったのが丸出しのティッシュまで置いてあり、4人座った狭さは異常なのです。

 ティッシュの隣には、10センチ四方の小箱が置いてあります。なんとなしにフタを開けて見たところ、コンビニで肉まんを買ったときにもらえる、添付のカラシが死ぬほど入ってたんですよ。

 こんなん使わすなよ、客に!客に出せるもんと違うやろ、こんなもん!

 幸いにも、僕は最奥の壁際です。僕は壁にぎりぎりまでもたれかかりました。席の後ろに若干のスペースがあるので、そこに調味料類をすべて移動させて、少しでもテーブルを広くしました。

 「お水、置いときますね!」

 従業員のオバハンが水を持ってきました。

 ですが、異常にぬるいです。「羊水か、これ?」というぐらいぬるく、まったく飲む気がしないのです。

 僕の後ろの壁には、有名人のサインが1枚、飾ってあります。「こんな店に有名人なんて来るんかな……」と不思議に思いながらも何気に見たところ、「麻生詩織」と書かれてあったのです。

 誰やねん、麻生詩織って!こんな無名の奴のサインなんて飾んなよ!飾っても許される有名人のサインは、城みちるあたりまでが限度やねん!

 『ポン定、最高!』

 ポン定頼んだん!?女やのに日本酒おかずに白飯食ったんや!?

 壁にはサインだけではなく、たくさんの貼り紙がしてあります。オススメのおかずが貼ってあるのですが、中には妙な貼り紙もあります。

 『猫ちゃんをもらってください!』

 関係ないやんけ、食堂と!ていうか詳細書けや、もっと!どんな猫かぐらいは書いとけや!

 『モード学園の願書、お取り寄せできます!』

 客層考えろ!こんな濃い奴らがモード学園に行くか、ボケ!ファッションに関して、肌さえ隠せてたら布1枚でもOK、と考える連中やねん、こいつらは!

 『モツ鍋、やろうと思ってます!』

 やってから貼れや!意気込み書いてどないすんねん!ていうか、何のメリットあんの、この貼り紙!?貼ったところで見た奴はどう反応したらいいの!?

 ほかにも、上半身裸の力道山のポスター、「草津」とプリントされたボロボロのペナント、ヒモで強引に飾ってある特大のそろばん……。濃いものだらけで、その濃さに触れると、暑さに拍車がかかるのです。

 僕の前には、30代の男性が2人座っています。会話がないことから面識がないのは間違いなく、僕の左隣には、あんかけのオッサン(以下、あんかけ)がいます。全員が赤の他人なので、流れる沈黙がなんとも苦痛なのです。

 とりわけ、目のやり場に困ります。

 前の男性と目が合い、向こうも目のやり場に困っているのがわかります。気まずくて仕方がなく、間をもたせようとタバコを吸いたくても、この距離で吸うわけにはいきません。なのに、あんかけだけがこの狭い中、平気な顔で吸っているのです。

 ふざけんなよ、お前!お前も防空壕で隣の奴にタバコ吸われたらイヤやろ!

 「♪チュールチュルチュル チュールチュルチュル……」

 カラシで遊ぶな、チュルチュル!

 「♪チュールチュルチュル ハルサメ!」

 それなんやねん、おい!なあ何、そのオリコン850位ぐらいの気持ち悪い歌は!?

 ほどなくしてあんかけが、店にあるスポーツ新聞を手に取りました。

 狭いにもかかわらず、広げて読み始めました。僕の顔に新聞が当たり、しかもそこはアダルト広告の欄。「生涯現役!」と書かれたバイアグラの広告で、マッチョジジイの上半身が僕の唇にぶつかっているのです。

 ムラムラしたババアか、俺は!亡くなった旦那を思い出して、急に新聞ごと吸い始めたババアか!

 段々とイライラしてきましたよ。

 僕は必要以上に壁にもたれかかり、あんかけから距離を取りました。そして気分を落ち着かせるために、壁にもたれながら食堂一帯を眺めたのですが、まあここは濃い奴ばかりですよ。

 女性など皆無、ブラジル人や中国人は当たり前、7割方は作業服の男性です。負の匂いがプンプンしており、見ていて怖いぐらいなのです。

 中でも、僕の左隣のテーブルだけは、尋常じゃないですよ。

 チュルチュル、先ほどのヒゲの濃いブラジル人を含めた南米勢2人、だるんだるんのTシャツを着た初老の男性、作業服の中国人……。ありえない座組みで、「日本の最低賃金について話し合うサミット」みたいなのです。

 ヒゲではないもう1人のブラジル人なんて、「顔のビザも切れてないか?」というぐらい、殴られたのが丸出しのものすごい顔面です。一方、ヒゲの濃いブラジル人もブラジル人で、箸を器用に使ってヒジキを食べているものの、ヒゲが濃すぎて、ヒジキ食ってんのかヒゲ食ってんのかわからないのです。

 しかもさっきより、伸びているような気がします。あれから1時間もたっていないのに濃くなった気がしてならず、これね、こいつがヒゲを1年間剃らなかったら、顔がリーゼントになりますよ。50年剃らなかったら、日本にいながらヒゲが母国ブラジルに届いてもおかしくなく、「お前、どっちに住んでんの?」と訊かれかねないのです。

 店内には、四隅に扇風機がつけられています。

 ですがそのうちの1つは、外側のカバーがありません。剥きだしの羽がグルグルと周っており、羽が飛んできて顔面ボコボコのブラジル人にぶつかったら、「オレハ、ヒルヤスミニモナグラレルノカ!」と発狂してもおかしくないのです。

 厨房からは、「早く持って行け、あほんだら!」と罵声が飛び交っています。この空間自体がある種のジャパニーズホラーで、『血まみれ扇風機』『ビザ切れて顔切れる』的なタイトルで映画化されるのはもちろん、顔面ボコボコのブラジル人を主役とした『タイシュウショクドウ~サンパウロのお母さん、いま、会いにゆきます~』といったヒューマン映画が撮られてもおかしくないのです。

 僕はいろいろと妄想を働かせ、暇を潰しました。店内の暑さにやられながらも、あんかけが放つシンナーの匂いに参りながらも、なんとか時間を稼いだのです。

 ですが、いつまでたっても、注文がきません。

 前もって食券を渡しているにもかかわらず、15分以上たってもきません。前に座る2人にはこの段階でようやくきたものの、僕とあんかけには一向にこないのです。

 本気でイライラしてきましたよ。暑い・狭い・遅いの3重苦にもなると、イライラが止まらないんですね。

 そのときです。

 「俺のあんかけ、まだかよ?」

 我慢の限界を超えたのか、あんかけが、前の客に注文を持ってきたオバハンにクレームをつけました。

 「あと何分だよ、俺のあんかけ!?俺のあんかけを先に頼むよ!」

 あんかけは声を荒げました。「俺はあんかけだよ!」と言い間違いそうなほどの勢いで、あんかけを連呼したのです。

 「すいません、僕のカレーうどんもまだですかね?」

 あんかけのクレームに紛らせて、僕も訊きました。

 しかし、「俺、前の奴の皿うどんを見てたら我慢できねえよ!」と叫ぶあんかけの気迫に押されて、僕の声は届きません。それでも雄たけびの間隙を縫って、「僕のカレーうどんも急いでくださいね!」と続けたものの、オバハンもオバハンで、「今作ってるんで待っててくださいよ!」と素っ気ないのです。

 ふざけんなよ、お前!こっちが金もらってもおかしくないほどの空間やねんぞ、ここ!

 これは、むかつきましたよ。こんなありえない空間に押しやっておいて、この態度はないですよ。

 僕は開き直りました。周囲の迷惑も考えず、タバコを吸ってやることにしたのです。

 「あと5分待って注文がこなかったら店を出よう」

 こう決意し、僕は壁にもたれかかってタバコを吸い始めたのですが、厨房内で、ケンちゃんが殴られているのが目に入ったのです。厨房の男性に背中をニーキックされ、ていうか、完全にボコボコにされてるんですよ!

 どうなってんねん、この店!あと5分も待てんぞ、俺!今すぐにでも出て行きたくなったぞ!

 「もっとキレイに皿洗えや!」

 それだけなん!?それだけを理由に暴力振るうんや!?タイガーマスクを養成するところと違うよな、ここ!?

 「一気に全部洗えるような奴になれや!」

 ムチャ言うなよ、洗浄機もないのに!おるわけないやろ、そんな奴!土佐犬飼ってるOLよりもおらんわ!

 僕は怖くなってきました。

 ですが、周囲の客は微動だにしません。常連客が多いのか、「今日もやってるわ!」とばかりに平然としているのです。

 「あんかけとカレーうどんができた!すぐに持って行け!」

 ほどなくして、厨房の男性が声を張り上げました。いろいろと苦労させられたものの、ようやく僕の注文ができあがったのです。

 ハア、やっとや……。お腹もグーグーなってるわ……。

 僕は思わず前のめりになったのですが、僕のカレーうどんをフラフラのジジイが運んでくるんですよ!あんかけうどんはすぐにオバハンが運んできたのに、僕のおぼんは半分死んでるジジイがトボトボと運んでくるのです!

 なんで働いてんねん、お前みたいな奴が!比較的太ってるミイラぐらいやんけ、こいつ!

 めちゃくちゃ遅いんですよ、このジジイ!僕の席まで5メートルしかないのに、日が暮れる、いや「年が明けるわ!」というぐらい遅く、運びながらジジイ自体が老衰してもおかしくないのです!

 仮眠取るぞ、俺!もしくは1回家に帰って昼飯食ってから、晩飯として取りに戻ってくるぞ!

 「ゴホンゴホン!」

 咳き込むなよ、ジジイ!中に入れ歯入ったらどうしてくれんねん!

 それでも、なんとか到着しました。僕は立ち上がって受け取ったのですが、おぼんがカレーまみれなんですよ!「こぼしうどん、お待ちどう!」というぐらい、客に出せないレベルでこぼしまくっているのです!

 ふざけんなよ、お前!嫌われてる囚人の飯やんけ、こんなもん!

 「お待ちどう……」

 声ちっちゃ!テレビの音量で言ったら2ぐらいしか出てへんやんけ、こいつ!

 「待たせてごめんね……」

 死神をか!?「しぶとく生きてごめんね!」とかそういうことか!?

 テーブルに置こうにも、狭すぎて、あんかけのおぼんと重ならないことには置けません。前の客は、1人が単品の皿うどんだったのでなんとか置けたのですが、僕の並びはあんかけが堂々と置いているため置けないのです。

 そこで中身だけをテーブルに置き、おぼんを下げてもらおうとジジイに話しかけたのですが、このジジイがまた、めちゃくちゃ耳が遠いのです。

 「すいません!」

 「……」

 「すいません!」

 「……」

 「すいません!!!」

 「……はいっ?」

 「このおぼん、下げてもらえませんかね?」

 「……」

 「このおぼんを下げてもらえませんかね!?」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 死んでない?今まさに生涯を終えてない?だとしたら俺、お前の手を握らないとあかんねんけど!?

 「…………うん」

 うんってなんやねん!で、帰って行ったぞ、おい!おぼんも下げずに勝手に間違った解釈して帰って行ったぞ!

 結局、おぼんを足元に置くという、ありえない食事をすることになりました。ありえない店で、ありえない奴の隣で、ありえない食べ方をするはめになったのです。

 とはいえ、ここのカレーうどんはおいしいです。いろいろなことがありすぎてもう、まったく期待していなかったのですが、麺類にはうるさい僕がうなるほどの美味なのです。

 付属のひじきの煮物や、もやしと温泉卵を和えたものもおいしいです。なによりご飯が食べ放題なので、まあ行列ができたとしてもおかしくはないんですね。

 ですが、苦労して手に入れたおいしい食事も、あんかけのせいで台無しです。こいつがうどんのスープをレンゲで飲む際、毎回、「あー!」と言うからです。「飛行機落ちてくるわ!」というぐらい、あーあー叫びまくっているのです。

 ターザンか、お前!森に帰れや、さっさと!

 「(水を飲んで)あー!」

 意味わからん!叫びすぎて感覚がおかしくなってるやんけ!

 「あー!あー!」

 感じてんのか、お前!テーブルの下で誰かに股間いじられてんのか!?

 「ふぅ」

 イってない!?この安堵のため息はイったとしか思えんねんけど!?

 しかも、豪快に麺をすすります。スープが僕の体にかかってくるのです。

 僕が「熱い!」と、あんかけに聞こえるようにアピールしても、おかまいなしにガンガンに飛ばしてきやがったのです。

 どつき回したろか、お前!後ろに飾ってある特大のそろばんでよ!もしくは、そろばんやりまくって駒ではじき殺したろか!

 僕はもう、完全にキレました。「あんかけと殴り合いになってもかまわない」と思うほど、体がカッカしてきました。汗をかきすぎて体中がビショビショになっていますし、僕に失うものは何もないのです。

 そこで手始めに、カレーうどんのスープをあんかけに飛ばしてやりました。今までは飛ばさないように気を遣って食べていたものの、そんなことはもう関係ありません。

 僕はこのタイミングで、斜めに向けていた体を正面に戻しました。その結果、僕とあんかけの腕がぶつかり始めたのです。

 腕をぶつけてきた僕の態度の変化を見て、あんかけも僕を意識し始めました。それを証拠に「やるか、若いの?」とばかりに、ガンガンに腕をぶつけてきたのです。

 腹立つわ、こいつ!お前みたいな奴は、漢方薬を飲むときにオブラート破れろ!むせて苦しんだあとに、裸足で毛虫を踏め!

 僕は、「右腕は食事用、左腕は対あんかけ攻撃用」と決めました。ともに酔拳をするかのごとく、あんかけの右腕と僕の左腕が「場所」をめぐってしのぎを削り始めたのです。

 僕がスープを飛ばせば、あんかけも飛ばしてきます。ただ、僕よりもはるかに大きい液体を飛ばしてきやがったのです。

 ほんまに腹立つわ、こいつ!お前みたいな奴は、好きな女の子の前で腕相撲負けろ!しかも街中で、小汚い服装のときにかぎってその子に遭遇しろ!

 こいつは手強いです。さすがに百戦錬磨の「合席猛者」です。このあと僕の攻撃をブロックするために、策を巡らし始めたのです。

 「兄ちゃん、老練さに勝る武器はないんだぜ?」

 こう口にするかのごとく、汗だくにもかかわらず、スープが腕にかからないように腕のまくりを戻しやがったのです。

 いちいち腹立つわ、こいつ!お前みたいな奴は、病院に行くほどでもない中途半端な頭痛を常に抱えろ! 常にしんどくて、しんどすぎてタクシー拾ったらしゃべりすぎる運転手に当たれ!

 「あー!」

 静かにせいや、コラ!本気でむかついてきたわ、こいつ!

 ですが、僕も負けてはいません。僕は作戦を変更し、おでこの汗を手で拭くフリをして、あんかけにかけてやったのです。

 ざまあみろ、ボケ!どうや?お前の大好きなあんかけの中に俺の汚い汗が入ったやろ!?

 僕は、心の中でほくそ笑みました。そして、このつばぜり合いが5分ほど続き、カレーのからさにむせたフリをしてツバをかけるという地味な攻撃をくり返し、やがて僕のご飯がなくなったのです。

 ご飯のおかわりを入れるためには、席を立たなければなりません。あんかけを立ち上がらせることになるのです。

 あんかけへの敵意をむき出しにするべく、僕はこう言ってやりました。

 「どけ!」

 言われたあんかけは、素直に立ち上がったのです。

 びびってるわ、こいつ!俺の視線の鋭さとシャレにならん汗のかきっぷりにびびってるわ!

 僕は、茶碗を強く握りしめました。「お前ら、俺様がおかわりするんだからどけよ!」とばかりに練り歩きながら炊飯ジャーに向かったのですが、あんかけが僕の後ろにやってきやがったのです。

 あんかけにとっては、これは2回目のおかわり。うどんも平らげたので、おかずになるようなものは、ほとんど残っていません。これは僕に対する、「兄ちゃん、戦いはまだ終わってませんぜ?」という宣戦布告なのです。

 何なん、お前!お前みたいな奴は、修学旅行で外人と同じ班になれ!全然話が噛み合わず、スキンシップを図ろうとチョケてキック入れたら、シャレが通じずに普通にボコボコにされろ!

 これは、カチンときましたよ。僕の闘志に火がつきましたよ。

 僕はご飯が残り少ないのをいいことに、ジャー中央のホカホカの部分を根こそぎ入れることにしました。どう考えても茶碗に入りきらない量なのに、しゃもじで押さえつけて、ぎゅうぎゅうに詰めてやったのです。こうすることであんかけは、ジャーの端にへばりついたカチコチの米を食べなければならないのです。

 いい気味じゃ、ボケ!あー、すっとした!

 ところが、あんかけはやはり、ただ者ではありません。カチコチのご飯を、何の躊躇もなしに入れたのです。

 席に戻り、僕が残ったスープの中にご飯を入れるやいなや、あんかけは同じ食べ方を始めました。

 「兄ちゃん、考えることは一緒でんな?よきライバルでんな?」

 こう話しかけるかのごとく、ほとんど残っていないあんかけスープの中に、ご飯をぶち込んで雑炊を始めやがったのです。

 いちいち勘に触るわ、こいつ!あー、もうイライラしてきた!

 そこで、「どっちが食いっぷりがいいか」を競うべく、僕はカレーの熱さも忘れて、ガンガンに口にほり込んでやりました。「お前ごときが俺に勝てると思うな!俺は、俺は世界で1番長いブログを更新するバスコじゃい!」と心で叫びながら、お茶漬け感覚で流し込んでやったのです。

 あんかけなんてね、いまだにふーふーしてますよ。僕は、ふーふーなんて女々しいことはしません。熱さも気にしないでガンガンに流し込んでやりましたよ。

 俺の勝ちやぞ、おい!お前みたいな奴が俺に勝てると思うな、ボケ!

 あんかけとの戦いに勝利した僕は、心で雄たけびをあげました。

 しばらくして、前の席の2人がいなくなりました。

 すると新しくやってきたブラジル人が、汗びっしょりでカレーライスを流し込む僕を見て、「オー、ノー!コンナゲヒンナヤツガコノクニニイタノカ!」とばかりに、露骨にイヤな顔をしやがったのです。

 僕は、冷静さを取り戻しました。

 自分のやったことの無意味さに気がついたのです。なにより戦いに集中するあまりに、味もへったくれもなかったことに気がついたのです……。

 恥ずかしさをともに競ったあんかけは、食べ終えて店を出ました。この史上最低の戦いに参加しているのは、僕だけになってしまったのです。

 ご飯を入れすぎたため、暑さと満腹感で食べるのが苦しいです。ブラジル人の冷たい視線に耐えながら、僕は1人で戦うはめになったのです。

 こんなことなら、もう少しあんかけにいてほしかったな……。あんなに憎かったあんかけが、何だか戦友に思えてきた……。

 心細くて、涙が出そうになりました。しかも、新しく隣に座ったのが体の大きいオッサンだったため、窮屈さに拍車がかかったのです。

 白い目で見られながら、残飯のようなカレーライスを食べる惨めな僕。

 僕はプライドをズタズタにされて、店をあとにしたのです……。


 その日から、2日後。

 僕はこの店に置いてある、例のCD定食が気になっていました。「2度とこの店には行かない」と思っていたのに、気になって仕事が手につかないほどなのです。

 そこで、混雑していない時間帯を見計らって行き、注文しました。

 すると野菜炒めと一緒に、妙なCD(ミニアルバム)がついてきたのです。

 タイトルは『YOU』。

 今回の考察の最後に、アルバム名にもなっている、このYOUのサビの歌詞をご紹介します。

 ♪YOU 君がいなくなると 憂 俺はさびちまうんだよ YOU

 ほんまに何なん、この店……。