新・バスコの人生考察 -13ページ目

片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?の考察~お弁当中身編~(パソコン読者用)

※2007年・5月30日の記事を再々編集


 前回は「お弁当準備編」と題して、お弁当を調理するまでの、各準備における細工をご紹介しました。


 今回はそれを踏まえた「お弁当中身編」です。


 あなたはお弁当の中身に細工を施し、意中の男性を自分に振り向かせるのです。


 そこで今回は、「片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?」の考察~お弁当中身編~です。


 おかずを創るにあたって、まず、次のことを認識しなければなりません。


 「愛情は、おかずの量ではなく、種類数に比例して伝わる」


 1つのおかずの量が多いのではなく、少ない量でもたくさんのおかずを入れるほうが、「努力の跡=愛情」が感じられるからです。


 おかずを1つ作るだけでも大変です。たくさんのおかずを入れておくと、相手の男性は、手間のかかり具合に自分への愛情を感じます。から揚げであれば3つではなく2つにして、余ったスペースには何か別のおかずを入れましょう。


 これは同時に、「栄養のバランスを考えていますよ!」というメッセージを送ることにもなります。


 種類が多ければ、その分だけ栄養のバランスがいいです。「俺の体を気遣ってくれているんだな……」と思わせられる、というわけです。


 ちなみに料理の巧拙は、手作り弁当においてはあまり関係ありません。


 おいしいに越したことはないものの、そんなにおいしくなかったとしても、「俺のためにわざわざ作ってくれた!」という感謝の気持ちから、悪く思われないのです。


 「完璧な手作りマフラーよりも、少しほつれた手作りマフラーのほうがうれしい」


 こう思うのと同じで、そこに人間味を感じます。すべてのレシピをプロ顔負けにこなすよりも、「ヘタなりに精一杯がんばった」ぐらいの見え方のほうが、むしろ感動するでしょう。


 次に、手作り弁当は第一印象が大事、ということを認識しなければなりません。


 「開けた瞬間にどう感じるかで味が3割違う」


 こう言っても過言ではなく、ただでさえ男性は、ワクワクしながら弁当箱を開けます。すでにハードルが上がっており、そのハードルを乗り越えなければならないのです。


 まずは、この高いハードルをクリアするための、フタを開けた瞬間の第一印象を上げる作戦を3つご紹介します。


①おかずの1つひとつに、違う色のアルミケース(紙ケース)を使用する
 使用するアルミケース1つで、見栄えは如実に変わります。


 赤、オレンジ、黄色……。色を分けることで、フタを開けた瞬間の印象があでやかになるのです。


 これは言うなれば、「お花畑」です。


 「1つひとつの色を変えるなんて、いかにも女の子らしいなあ!」


 男性にこう思わせることで、あなたの女の子らしさに拍車がかかるのです。


 ただでさえ、おかずの種類が多いです。その1つひとつに色分けをしていれば、「相当手間がかかってるな、これ!」と思わせられます。「汁がこぼれてほかのおかずにつかないように配慮している」というメッセージを送ることにもなるでしょう。


②おかずの中心にプチトマトを載せる
 真ん中にプチトマトがあるだけで、見た目の印象はまったく違います。


 人は何かを見下ろすとき、必ず中心に目が行きます。最初に目に飛び込んでくる場所に真っ赤なものがあれば、全体までキレイに見えるのです。


 弁当箱を丸型にしたのは、この作戦のためでもあります。丸型のほうが中心地に置きやすく、なにより、弁当箱の丸さとプチトマトの丸さとがリンクして、かわいらしく見えるのです。


 その周囲には、色とりどりのアルミケースが並んでいます。お花畑色がますます強くなり、「かわいらしいお弁当だな!」が、「愛らしいお弁当だな!」にステップアップするでしょう。


 ですが、入れていいのは1つだけです。


 2つ以上入れると、「彩りのためにあえて入れた」との意図がぼやけます。「1つのおかずとして入れた」という見え方になってしまい、女の子らしさをアピールしにくいのです。


③白ご飯の右半分と左半分とで別のフリカケを振る
 この細工には、白ご飯の左右で色が違うというアート性のほかに、2つの意味が込められています。


 まず、「あなたに少しでも違う味を味わってほしいから!」という優しいメッセージを送ることです。


 この気遣いは非常にうれしく、白ご飯は箸でつまむ頻度が高いです。口にする度に、「この子、いい子だわ……」と、あなたの優しさを感じずにはいられないでしょう。


 次に、相手の男性に恩を売る、ということです。


 フリカケ1つは、だいたい白ご飯1杯分です。それを使い切らないで新しいフリカケを振るのですから、「手が込んでるな。それより、残ったフリカケはどうしたんだろう……」と、逆に男性のほうが気を遣ってしまうのです。


 これは、「何かお礼をしてくださいよメッセージ」なのです。


 気を遣い始めた男性は、「ここまでしてもらったんだから何かお礼をしないと」という気持ちになりやすいです。その背中を押すために、「余ったフリカケは捨てましたよ!」というぐらい思わせぶりに、色の違うフリカケを左右に少量ずつ振っておきましょう。



 以上の3つを実行すれば、相手の男性はもちろん、周囲の男たちも「キレイ!」と口をそろえることでしょう。


 そして以下に、おかずのレシピをご紹介します。


 あなたは①~③でお弁当の第一印象をよくし、以下のおかず攻撃で男性を振り向かせるのです。


④枝豆を入れる
 枝豆は、白ご飯のおかずになりにくいです。お弁当から切り離して最初に食べる人が多く、お弁当全体を眺めることになるのです。


 その結果、①~③で完成させたお花畑をじっくりと観察してもらえます。これはある種の「お花見」で、お茶(ジュース)をお酒に枝豆をつまみに、桜を見るような感覚で眺めてもらえるのです。


 お弁当全体をじっくりと眺めるのですから、あなたの愛情を感じずにはいられません。


 「キレイなお弁当だな。女の子らしいし、手が込んでるし、食べる俺のことをよく考えてくれているし……」


 このように、あなたの努力を自分への愛情だととらえます。「第一印象のよさ+お花見のよさ=あなたの魅力」と解釈し、ほかのおかずを必要以上においしく感じてしまうのです。


 枝豆を最初に手にしてもらうためにも、枝豆は1番手前に配置してください。アルミケースからはみ出る感じで入れておけば、ほとんどの男性が最初に手に取りますから。


⑤から揚げをレモンとセットで入れる
 鳥のから揚げが嫌いな人などいません。とりあえず入れておけば、イヤがられることはないでしょう。


 このとき、レモンをセットで入れておけば、「あなたの健康を気遣っていますよ!」というメッセージになります。気が利くと思わせられるのはもちろん、このレモンには「脂っこい食べ物はなるべく控えてくださいね!」という優しいメッセージが込められているのです。


 そのメッセージを強くするためにも、レモンは多めに入れてください。から揚げ2個に対してレモンを2切れ入れておけば、「レモン1切れじゃ足りないかもしれないから!」という、あなたの気遣いが伝わるでしょう。


 あなたは紙おしぼりを入れました。白ご飯におかずの汁がこぼれないように、白ご飯とおかずを別々にしました。これに加えてレモンを2切れも入れたのですから、「この子はいいお嫁さんになる!」と思わせられるのです。


 いいお嫁さんになると思わせられれば、相当、ポイントは高いです。あなたを好きにならないまでも、あなたを見る目が変わってくるでしょう。


⑥タコさんウインナーを入れる
 定番のおかずである、タコさんウインナー。


 男はタコさんウインナーを見ると、自分の子供時代のお弁当を思い出します。母親が作ってくれたタコさんウインナーを思い出して、「この子はいいお母さんになるな!」と思うのです。


 母性ほど、男心をくすぐるものはありません。あなたを相手の男性の母親にシンクロさせれば、非常に効果的でしょう。


 微妙にヘタクソにすればなお、効果は高いです。


 目がとがっていたり、足が太かったりするほうが、かわいいものです。なによりヘタなほうが、「料理の経験が少ない=男に手料理を振る舞い慣れていない=交際人数が少ない」と、そこに処女性を見出しやすいのです。


 交際人数の多い女性のほうが好きという男など、まずいません。うぶさは男にとっては魅力で、ヘタな料理は逆にアピールにもなるのです。


 この作戦は、ややブリッコ色が強いです。ですが前回の記事でもふれたとおり、男は「大胆さ=自分への愛」と考えるのです。


 よっぽど嫌いな女性でもないかぎり、女の作為が多少見えてもうれしいもの。「ブリブリしたタコさんウインナーはお約束!」という意識があることからも、マイナスに働くことはありません。


⑦冷凍ものではないエビチリを入れる
 エビチリを入れるのは、2つ理由があります。


 まず、費用がかかる、ということです。


 冷凍ではない本物のエビを使えば、「この子に何かお礼をしないと!」という気持ちに拍車がかかります。高価なエビをわざわざ剥いてまで作ってくれたのですから、お礼へのすさまじいプレッシャーになるのです。


 次に、食べるときに口が汚れる、ということです。


 エビチリを食べると、口がタレで汚れます。あなたが気を利かして入れてくれたおしぼりを、「こんな高価なものを申し訳ない……」と、あなたに気を遣いながら使うことになるのです。


 「こんな高価なエビチリを入れてくれるなんて、申し訳ないな。(おしぼりで口を拭いて)あー、こんなおしぼりまで用意してくれて!あー、白ご飯にはフリカケが2種類も!」


 あなたのした小細工が波状攻撃になり、「何かお礼をしてくださいね!」と、どんどんプレッシャーを与えることになるのです。


 お弁当に費用をかければかけるほど、お礼への気持ちが強くなります。「きっかけ」を作るためにも、見ただけで高級感が伝わるほどの大きなエビを入れてください。


⑧少しこげた餃子を入れる
 ④~⑦すべてを、疑いの目で見られないとはかぎりません。タコさんウインナーに至っては、多少なりともブリッコをしているわけですから。


 そこでズル賢さを疑われないように、愛情料理の中に、愛情が足りない料理をあえて入れます。準備編の小汚い割り箸と同様、1つだけポカをすることで、作為をミスリードするのです。


 そのおかずは、「少しこげた餃子」がベストでしょう。


 視覚的に目立たないと、ポカが気づかれない可能性があります。お花畑の中で目立つためには、派手な色の中でも浮く、黒色こそがベストなのです。


 餃子がこげるのは、よくあることです。「少しこげた餃子のほうが好き」と考える人も多いので、それほど失礼には当たりません。


 さすがに、これを意図的にやっていると思う人はいないでしょう。


 「から揚げのレモンや高価なエビチリを計算で入れるような女だったら、こんなポカはしないだろうな。アルミケースの色分けも計算でやっているなら、こげた餃子なんて入れないだろうしな。考えすぎか……」


 このように、自分の思慮深さを反省せざるをえないのです。


⑨デザートは2種類入れる
 食事の最後に食べるのがデザートです。途中でデザートを口にする人などおらず、①~⑧の作戦であなたの作為を刷り込み、最後の最後にこう思わせます。


 「フリカケだけではなく、デザートまで2種類もある!」


 これは、「何かお礼をしてくださいよメッセージ」の総仕上げです。


 最後に口にするデザートにすら、「リンゴとブドウ」「オレンジとバナナ」など、2種類も用意します。口の中を癒すだけじゃなく、「違った味を楽しんでもらうよう私は最後の最後まで配慮してますよ!」というメッセージを込めるのです。


 とりわけ、メロンやマンゴーといった高級果物であれば、申し訳なさに拍車がかかります。「絶対にお礼をしなければならない!」と、強迫観念にも似た感情にさいなまれることでしょう。


 人は、映画のエンディングや小説のオチなど、最後の場面が1番印象に残り、そこから俯瞰で見直すことで作品の感想を持ちます。あなたの作為を徹底的に刷り込まれ、最後ですら、「あー、こんなにおいしい果物を2種類も!」となれば、こう思わずにはいられません。


 「このお弁当は最高だ!」



 以上が、お弁当の中身に施す小細工です。


 ①~⑨すべてを実行すれば、相手の男性に、次のようなことを思わせられます。


 「この子は、俺のことを本気で好きなんだな!」


 「この子は、愛らしくてかわいいな!」


 「この子は、よく気が利く子だな!」


 「この子は、いいお嫁さんになるな!」


 「この子は、いいお母さんになるな!」


 たくさんの感情が重なり合って、「この子は、いい彼女になるな!」と思う可能性があるのです。


 あなたに少しでも気がある男性なら、好意を抱く可能性は高いでしょう。少なくとも、「あなたにお礼を言いたい!」と思っていることだけは間違いありません。


 そこで、カエルの弁当箱です。


 相手の男性は、この弁当箱を捨てるわけにはいきません。あなたへの感謝が強いことから、「弁当箱を返すときに、きちんと直接お礼を言おう!」という気持ちになりやすく、使い捨てではなく形ある弁当箱にしたのは、「洗って返してもらうときに会うため」なのです。


 使い捨てなら、電話でお礼を言われるかもしれません。もう1度会えるとはかぎらず、家に帰るまでが修学旅行ならぬ、「手作り弁当は弁当箱を返してもらうまでが手作り弁当」なのです。


 もちろん、会社の同僚であれば、社内で返してくるかもしれません。そうでなくても、「これ、ありがとう」と、素っ気なく返してくる人がいるかもしれません。


 無責任なようですが、その場合はあきらめてください。ここまでして素っ気ない態度をとるような男なら、関わらないほうがいいからです。


 どんなに鈍感な男でも、あなたのこのお弁当にかける意気込みは伝わっています。それを無視するような冷たい男など、あなたを幸せにしてくれるわけがないのです。


 とはいうものの、①~⑨の細工を施せば、感謝の気持ちから、あなたと2人で会おうとする可能性は高いです。あなたは弁当箱を返してもらうという名目で、待ち合わせ場所を決めて相手の男性と会います。


 相手の男性は、自分のことが好きな女と会うのでドキドキしています。


 もっとドキドキさせるために、待ち合わせの時間は夜がベスト。闇がロマンチズムを演出してくれるので、「忙しいから夜しかダメです!」と理由をつけて必ず夜にし、最後の作戦を決行します。


 2回に渡ってお送りした今回の考察。


 以下の⑩こそが、最後にして史上最大の作戦です。


⑩弁当箱を返してもらうときに、1本の指にバンドエイドを貼っておく
 相手の男性に、「慣れない料理をしたために指をケガしました!」とアピールするのです。


 相手の男性は弁当箱を手渡す際、あなたの指が否応なしに目に入ります。


 「俺のためにがんばりすぎてケガをしたんだな……」


 こう思わずにはいられないのです。


 もちろん、1本の指とはいえ狙いすぎですし、ブリッコをしていることは間違いありません。ですが、あなたのことが嫌いでないのであれば、「感謝」「ドキドキ」「闇」の3つが絡み合って、この段階での小さな作為など気になりません。「この子はここまでして俺のことを好きだと伝えたいんだ……」と思う気持ちのほうが強いのです。


 その結果、この段階で相手の男性は、「付き合うかどうか迷っている」と言っても過言ではありません。あとは、その背中を押してあげればよく、すべての作戦の総仕上げとして、最後にこう告げてください。


 「好きです。大好きなんです……」


 こんなことを言われたら、男はグッときます。


 上目使いで照れながら言われたら、闇も相まって必要以上に効きます。あなたのほうが年上なら、「~です」と敬語を使う慎みさを見せればなお、効果的でしょう。


 それでも、男がYESと言う可能性は100%ではありません。ただ、ここまでやれば、シングルの男なら「じゃあ、今度映画でも観に行く?」ぐらいのことは言う可能性が高いのです。


 仮にフラれたとしても、落ち込むことすれ、気持ちを引きずることは少ないです。


 餃子をわざとこがし、バンドエイドを指に貼る猿芝居までしたのですから、やれるだけのことは全部やりました。


 「ここまでやったんだから、もう何をやっても無理!」


 何の悔いも残らないほど徹底的に努力したので、「この人とは縁がなかった」と、あきらめるしかないのです。


 ラブレターだと、こうはいきません。徹底的に努力したわけではないので、あきらめきれないところがあります。


 「もっとほかの作戦を考えなければ!」


 気持ちを引きずりやすく、ムダな努力を強いられるのです。



 「手作り弁当こそが最強の告白方法である」


 こう考えて間違いありません。


 電話で告白するよりも、ラブレターで告白するよりも、はるかに効果的なのです。


 もちろん、今回の考察は、すべて憶測です。実際にやったわけではありませんが、僕は自信があります。


 「交際確率が50%アップする」


 こう断言しておきますので、意中の男性がいる方はぜひ、今回の考察を参考にしてみてください。


 ちなみに僕は、すごく単純な男です。手作り弁当なんて渡されたら、完全に舞い上がります。その場でOKを出しますので、みなさまの中で若くてオッパイの大きい方がいたらぜひ……。



片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?の考察~お弁当中身編~(携帯読者用)

※2007年・5月30日の記事を再々編集

 前回は「お弁当準備編」と題して、お弁当を調理するまでの、各準備における細工をご紹介しました。

 今回はそれを踏まえた「お弁当中身編」です。

 あなたはお弁当の中身に細工を施し、意中の男性を自分に振り向かせるのです。

 そこで今回は、「片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?」の考察~お弁当中身編~です。

 おかずを創るにあたって、まず、次のことを認識しなければなりません。

 「愛情は、おかずの量ではなく、種類数に比例して伝わる」

 1つのおかずの量が多いのではなく、少ない量でもたくさんのおかずを入れるほうが、「努力の跡=愛情」が感じられるからです。

 おかずを1つ作るだけでも大変です。たくさんのおかずを入れておくと、相手の男性は、手間のかかり具合に自分への愛情を感じます。から揚げであれば3つではなく2つにして、余ったスペースには何か別のおかずを入れましょう。

 これは同時に、「栄養のバランスを考えていますよ!」というメッセージを送ることにもなります。

 種類が多ければ、その分だけ栄養のバランスがいいです。「俺の体を気遣ってくれているんだな……」と思わせられる、というわけです。

 ちなみに料理の巧拙は、手作り弁当においてはあまり関係ありません。

 おいしいに越したことはないものの、そんなにおいしくなかったとしても、「俺のためにわざわざ作ってくれた!」という感謝の気持ちから、悪く思われないのです。

 「完璧な手作りマフラーよりも、少しほつれた手作りマフラーのほうがうれしい」

 こう思うのと同じで、そこに人間味を感じます。すべてのレシピをプロ顔負けにこなすよりも、「ヘタなりに精一杯がんばった」ぐらいの見え方のほうが、むしろ感動するでしょう。

 次に、手作り弁当は第一印象が大事、ということを認識しなければなりません。

 「開けた瞬間にどう感じるかで味が3割違う」

 こう言っても過言ではなく、ただでさえ男性は、ワクワクしながら弁当箱を開けます。すでにハードルが上がっており、そのハードルを乗り越えなければならないのです。

 まずは、この高いハードルをクリアするための、フタを開けた瞬間の第一印象を上げる作戦を3つご紹介します。

①おかずの1つひとつに、違う色のアルミケース(紙ケース)を使用する
 使用するアルミケース1つで、見栄えは如実に変わります。

 赤、オレンジ、黄色……。色を分けることで、フタを開けた瞬間の印象があでやかになるのです。

 これは言うなれば、「お花畑」です。

 「1つひとつの色を変えるなんて、いかにも女の子らしいなあ!」

 男性にこう思わせることで、あなたの女の子らしさに拍車がかかるのです。

 ただでさえ、おかずの種類が多いです。その1つひとつに色分けをしていれば、「相当手間がかかってるな、これ!」と思わせられます。「汁がこぼれてほかのおかずにつかないように配慮している」というメッセージを送ることにもなるでしょう。

②おかずの中心にプチトマトを載せる
 真ん中にプチトマトがあるだけで、見た目の印象はまったく違います。

 人は何かを見下ろすとき、必ず中心に目が行きます。最初に目に飛び込んでくる場所に真っ赤なものがあれば、全体までキレイに見えるのです。

 弁当箱を丸型にしたのは、この作戦のためでもあります。丸型のほうが中心地に置きやすく、なにより、弁当箱の丸さとプチトマトの丸さとがリンクして、かわいらしく見えるのです。

 その周囲には、色とりどりのアルミケースが並んでいます。お花畑色がますます強くなり、「かわいらしいお弁当だな!」が、「愛らしいお弁当だな!」にステップアップするでしょう。

 ですが、入れていいのは1つだけです。

 2つ以上入れると、「彩りのためにあえて入れた」との意図がぼやけます。「1つのおかずとして入れた」という見え方になってしまい、女の子らしさをアピールしにくいのです。

③白ご飯の右半分と左半分とで別のフリカケを振る
 この細工には、白ご飯の左右で色が違うというアート性のほかに、2つの意味が込められています。

 まず、「あなたに少しでも違う味を味わってほしいから!」という優しいメッセージを送ることです。

 この気遣いは非常にうれしく、白ご飯は箸でつまむ頻度が高いです。口にする度に、「この子、いい子だわ……」と、あなたの優しさを感じずにはいられないでしょう。

 次に、相手の男性に恩を売る、ということです。

 フリカケ1つは、だいたい白ご飯1杯分です。それを使い切らないで新しいフリカケを振るのですから、「手が込んでるな。それより、残ったフリカケはどうしたんだろう……」と、逆に男性のほうが気を遣ってしまうのです。

 これは、「何かお礼をしてくださいよメッセージ」なのです。

 気を遣い始めた男性は、「ここまでしてもらったんだから何かお礼をしないと」という気持ちになりやすいです。その背中を押すために、「余ったフリカケは捨てましたよ!」というぐらい思わせぶりに、色の違うフリカケを左右に少量ずつ振っておきましょう。


 以上の3つを実行すれば、相手の男性はもちろん、周囲の男たちも「キレイ!」と口をそろえることでしょう。

 そして以下に、おかずのレシピをご紹介します。

 あなたは①~③でお弁当の第一印象をよくし、以下のおかず攻撃で男性を振り向かせるのです。

④枝豆を入れる
 枝豆は、白ご飯のおかずになりにくいです。お弁当から切り離して最初に食べる人が多く、お弁当全体を眺めることになるのです。

 その結果、①~③で完成させたお花畑をじっくりと観察してもらえます。これはある種の「お花見」で、お茶(ジュース)をお酒に枝豆をつまみに、桜を見るような感覚で眺めてもらえるのです。

 お弁当全体をじっくりと眺めるのですから、あなたの愛情を感じずにはいられません。

 「キレイなお弁当だな。女の子らしいし、手が込んでるし、食べる俺のことをよく考えてくれているし……」

 このように、あなたの努力を自分への愛情だととらえます。「第一印象のよさ+お花見のよさ=あなたの魅力」と解釈し、ほかのおかずを必要以上においしく感じてしまうのです。

 枝豆を最初に手にしてもらうためにも、枝豆は1番手前に配置してください。アルミケースからはみ出る感じで入れておけば、ほとんどの男性が最初に手に取りますから。

⑤から揚げをレモンとセットで入れる
 鳥のから揚げが嫌いな人などいません。とりあえず入れておけば、イヤがられることはないでしょう。

 このとき、レモンをセットで入れておけば、「あなたの健康を気遣っていますよ!」というメッセージになります。気が利くと思わせられるのはもちろん、このレモンには「脂っこい食べ物はなるべく控えてくださいね!」という優しいメッセージが込められているのです。

 そのメッセージを強くするためにも、レモンは多めに入れてください。から揚げ2個に対してレモンを2切れ入れておけば、「レモン1切れじゃ足りないかもしれないから!」という、あなたの気遣いが伝わるでしょう。

 あなたは紙おしぼりを入れました。白ご飯におかずの汁がこぼれないように、白ご飯とおかずを別々にしました。これに加えてレモンを2切れも入れたのですから、「この子はいいお嫁さんになる!」と思わせられるのです。

 いいお嫁さんになると思わせられれば、相当、ポイントは高いです。あなたを好きにならないまでも、あなたを見る目が変わってくるでしょう。

⑥タコさんウインナーを入れる
 定番のおかずである、タコさんウインナー。

 男はタコさんウインナーを見ると、自分の子供時代のお弁当を思い出します。母親が作ってくれたタコさんウインナーを思い出して、「この子はいいお母さんになるな!」と思うのです。

 母性ほど、男心をくすぐるものはありません。あなたを相手の男性の母親にシンクロさせれば、非常に効果的でしょう。

 微妙にヘタクソにすればなお、効果は高いです。

 目がとがっていたり、足が太かったりするほうが、かわいいものです。なによりヘタなほうが、「料理の経験が少ない=男に手料理を振る舞い慣れていない=交際人数が少ない」と、そこに処女性を見出しやすいのです。

 交際人数の多い女性のほうが好きという男など、まずいません。うぶさは男にとっては魅力で、ヘタな料理は逆にアピールにもなるのです。

 この作戦は、ややブリッコ色が強いです。ですが前回の記事でもふれたとおり、男は「大胆さ=自分への愛」と考えるのです。

 よっぽど嫌いな女性でもないかぎり、女の作為が多少見えてもうれしいもの。「ブリブリしたタコさんウインナーはお約束!」という意識があることからも、マイナスに働くことはありません。

⑦冷凍ものではないエビチリを入れる
 エビチリを入れるのは、2つ理由があります。

 まず、費用がかかる、ということです。

 冷凍ではない本物のエビを使えば、「この子に何かお礼をしないと!」という気持ちに拍車がかかります。高価なエビをわざわざ剥いてまで作ってくれたのですから、お礼へのすさまじいプレッシャーになるのです。

 次に、食べるときに口が汚れる、ということです。

 エビチリを食べると、口がタレで汚れます。あなたが気を利かして入れてくれたおしぼりを、「こんな高価なものを申し訳ない……」と、あなたに気を遣いながら使うことになるのです。

 「こんな高価なエビチリを入れてくれるなんて、申し訳ないな。(おしぼりで口を拭いて)あー、こんなおしぼりまで用意してくれて!あー、白ご飯にはフリカケが2種類も!」

 あなたのした小細工が波状攻撃になり、「何かお礼をしてくださいね!」と、どんどんプレッシャーを与えることになるのです。

 お弁当に費用をかければかけるほど、お礼への気持ちが強くなります。「きっかけ」を作るためにも、見ただけで高級感が伝わるほどの大きなエビを入れてください。

⑧少しこげた餃子を入れる
 ④~⑦すべてを、疑いの目で見られないとはかぎりません。タコさんウインナーに至っては、多少なりともブリッコをしているわけですから。

 そこでズル賢さを疑われないように、愛情料理の中に、愛情が足りない料理をあえて入れます。準備編の小汚い割り箸と同様、1つだけポカをすることで、作為をミスリードするのです。

 そのおかずは、「少しこげた餃子」がベストでしょう。

 視覚的に目立たないと、ポカが気づかれない可能性があります。お花畑の中で目立つためには、派手な色の中でも浮く、黒色こそがベストなのです。

 餃子がこげるのは、よくあることです。「少しこげた餃子のほうが好き」と考える人も多いので、それほど失礼には当たりません。

 さすがに、これを意図的にやっていると思う人はいないでしょう。

 「から揚げのレモンや高価なエビチリを計算で入れるような女だったら、こんなポカはしないだろうな。アルミケースの色分けも計算でやっているなら、こげた餃子なんて入れないだろうしな。考えすぎか……」

 このように、自分の思慮深さを反省せざるをえないのです。

⑨デザートは2種類入れる
 食事の最後に食べるのがデザートです。途中でデザートを口にする人などおらず、①~⑧の作戦であなたの作為を刷り込み、最後の最後にこう思わせます。

 「フリカケだけではなく、デザートまで2種類もある!」

 これは、「何かお礼をしてくださいよメッセージ」の総仕上げです。

 最後に口にするデザートにすら、「リンゴとブドウ」「オレンジとバナナ」など、2種類も用意します。口の中を癒すだけじゃなく、「違った味を楽しんでもらうよう私は最後の最後まで配慮してますよ!」というメッセージを込めるのです。

 とりわけ、メロンやマンゴーといった高級果物であれば、申し訳なさに拍車がかかります。「絶対にお礼をしなければならない!」と、強迫観念にも似た感情にさいなまれることでしょう。

 人は、映画のエンディングや小説のオチなど、最後の場面が1番印象に残り、そこから俯瞰で見直すことで作品の感想を持ちます。あなたの作為を徹底的に刷り込まれ、最後ですら、「あー、こんなにおいしい果物を2種類も!」となれば、こう思わずにはいられません。

 「このお弁当は最高だ!」


 以上が、お弁当の中身に施す小細工です。

 ①~⑨すべてを実行すれば、相手の男性に、次のようなことを思わせられます。

 「この子は、俺のことを本気で好きなんだな!」

 「この子は、愛らしくてかわいいな!」

 「この子は、よく気が利く子だな!」

 「この子は、いいお嫁さんになるな!」

 「この子は、いいお母さんになるな!」

 たくさんの感情が重なり合って、「この子は、いい彼女になるな!」と思う可能性があるのです。

 あなたに少しでも気がある男性なら、好意を抱く可能性は高いでしょう。少なくとも、「あなたにお礼を言いたい!」と思っていることだけは間違いありません。

 そこで、カエルの弁当箱です。

 相手の男性は、この弁当箱を捨てるわけにはいきません。あなたへの感謝が強いことから、「弁当箱を返すときに、きちんと直接お礼を言おう!」という気持ちになりやすく、使い捨てではなく形ある弁当箱にしたのは、「洗って返してもらうときに会うため」なのです。

 使い捨てなら、電話でお礼を言われるかもしれません。もう1度会えるとはかぎらず、家に帰るまでが修学旅行ならぬ、「手作り弁当は弁当箱を返してもらうまでが手作り弁当」なのです。

 もちろん、会社の同僚であれば、社内で返してくるかもしれません。そうでなくても、「これ、ありがとう」と、素っ気なく返してくる人がいるかもしれません。

 無責任なようですが、その場合はあきらめてください。ここまでして素っ気ない態度をとるような男なら、関わらないほうがいいからです。

 どんなに鈍感な男でも、あなたのこのお弁当にかける意気込みは伝わっています。それを無視するような冷たい男など、あなたを幸せにしてくれるわけがないのです。

 とはいうものの、①~⑨の細工を施せば、感謝の気持ちから、あなたと2人で会おうとする可能性は高いです。あなたは弁当箱を返してもらうという名目で、待ち合わせ場所を決めて相手の男性と会います。

 相手の男性は、自分のことが好きな女と会うのでドキドキしています。

 もっとドキドキさせるために、待ち合わせの時間は夜がベスト。闇がロマンチズムを演出してくれるので、「忙しいから夜しかダメです!」と理由をつけて必ず夜にし、最後の作戦を決行します。

 2回に渡ってお送りした今回の考察。

 以下の⑩こそが、最後にして史上最大の作戦です。

⑩弁当箱を返してもらうときに、1本の指にバンドエイドを貼っておく
 相手の男性に、「慣れない料理をしたために指をケガしました!」とアピールするのです。

 相手の男性は弁当箱を手渡す際、あなたの指が否応なしに目に入ります。

 「俺のためにがんばりすぎてケガをしたんだな……」

 こう思わずにはいられないのです。

 もちろん、1本の指とはいえ狙いすぎですし、ブリッコをしていることは間違いありません。ですが、あなたのことが嫌いでないのであれば、「感謝」「ドキドキ」「闇」の3つが絡み合って、この段階での小さな作為など気になりません。「この子はここまでして俺のことを好きだと伝えたいんだ……」と思う気持ちのほうが強いのです。

 その結果、この段階で相手の男性は、「付き合うかどうか迷っている」と言っても過言ではありません。あとは、その背中を押してあげればよく、すべての作戦の総仕上げとして、最後にこう告げてください。

 「好きです。大好きなんです……」

 こんなことを言われたら、男はグッときます。

 上目使いで照れながら言われたら、闇も相まって必要以上に効きます。あなたのほうが年上なら、「~です」と敬語を使う慎みさを見せればなお、効果的でしょう。

 それでも、男がYESと言う可能性は100%ではありません。ただ、ここまでやれば、シングルの男なら「じゃあ、今度映画でも観に行く?」ぐらいのことは言う可能性が高いのです。

 仮にフラれたとしても、落ち込むことすれ、気持ちを引きずることは少ないです。

 餃子をわざとこがし、バンドエイドを指に貼る猿芝居までしたのですから、やれるだけのことは全部やりました。

 「ここまでやったんだから、もう何をやっても無理!」

 何の悔いも残らないほど徹底的に努力したので、「この人とは縁がなかった」と、あきらめるしかないのです。

 ラブレターだと、こうはいきません。徹底的に努力したわけではないので、あきらめきれないところがあります。

 「もっとほかの作戦を考えなければ!」

 気持ちを引きずりやすく、ムダな努力を強いられるのです。


 「手作り弁当こそが最強の告白方法である」

 こう考えて間違いありません。

 電話で告白するよりも、ラブレターで告白するよりも、はるかに効果的なのです。

 もちろん、今回の考察は、すべて憶測です。実際にやったわけではありませんが、僕は自信があります。

 「交際確率が50%アップする」

 こう断言しておきますので、意中の男性がいる方はぜひ、今回の考察を参考にしてみてください。

 ちなみに僕は、すごく単純な男です。手作り弁当なんて渡されたら、完全に舞い上がります。その場でOKを出しますので、みなさまの中で若くてオッパイの大きい方がいたらぜひ……。


片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?~お弁当準備編~(パソコン読者用)

※2007年・5月29日の記事を再々編集


 昨晩、家の台所で食事をしていると、テレビで韓流ドラマをやっていました。


 ベタな恋愛ドラマで、隣に座っている僕の母親は真剣に見ています。僕は何気に視線を投げる程度だったのですが、主人公の女性が片思いの男性にラブレターを渡すシーンがあり、これを見て思ったのです。


 「愛の告白はアナログが1番だな!」


 現代では、電話やメールで告白するケースが多いでしょう。


 しかし、好きな相手に気持ちを伝えるには、アナログな方法こそが1番。アナログな告白には血が通っており、相手を感激させるのです。


 ですが、だからといってラブレターが、最良の方法だとは思いません。


 ラブレターはもらってうれしい反面、重すぎるからです。愛をストレートに伝えることになるので、文面によっては、相手が引いてしまうこともあるでしょう。


 そこで女性にオススメなのが、手作り弁当です。


 手作り弁当には、ラブレターほどの重さはありません。いい感じで角が取れて、さりげなく愛を伝えることができるのです。


 しかも、手作り弁当は、ラブレター以上に小細工が効きます。


 ラブレターも言葉で気持ちの駆け引きはできるのですが、時間をかけてじっくりと見られます。あなたが施した小細工は見抜かれてしまうのです。


 「好きではなく大好きだとあえて書いている」


 「『!』が1個ではなく2個あるところに必死さが見える」


 「ラブレターに格式を持たせるために高価な紙を使っている」


 このように、どうしても行間を読まれてしまうんですね。


 手作り弁当を渡せば、渡された男性は舞い上がります。舞い上がったことで女性の小細工を100%見抜くのは難しく、なにより、食べ終わればなくなります。ラブレターのように、時間をかけて見られることはないのです。


 今回は、意中の男性を振り向かせるための「ズル賢い手作り弁当の創り方」をご紹介します。作るのではなく創り、創ったお弁当を昼時までに渡して、相手の男性を自分に振り向かせるのです。


 そこで今回は、「片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?」の考察~お弁当準備編~です。


 細工をするのは、おかずだけではありません。


 白ご飯はもちろんのこと、弁当箱、バラン、アルミケース……。細部にまで細工を施し、その作為がバレない範囲で、あなたの愛を男の脳に刷り込んでいきます。


 ですが、今回の作戦は、あなたに何の好意も持っていない男性には効果はありません。いくらなんでも、まったく気がない男性に渡しても効果はなく、あなたにほんの少しでも気がある、気がないまでも、交際する可能性が0ではない、と思っていることが条件です。


 可能性が低くとも0ではなく、聞きこみや観察眼で相手の男性をリサーチできていれば、以下の作戦で可能性は間違いなく上がります。


 ところで、お弁当は基本的に、誰かと一緒に食べます。男性の環境にもよるものの、昼休みに会社の屋上で同僚と一緒に、みんなで席を囲んでなど、1人で食べるケースはまれです。手作り弁当をもらったことを周囲も知っていることから、周囲の男が解説者になるのです。


 「この女、お前に気に入られようとして必死だな!」


 「この女、ブリッコしてかわいさをアピールしているな!」


 このように、ああだこうだと女性の作戦を解説してくるのです。


 そこで、次の言葉を肝に銘じてください。


 「さりげなく、かつ、大胆に!」


 演出がさりげないのであれば、たくさんの人に見られても、見抜かれる可能性は低いです。「わざとデコボコのおにぎりを作ってドジな女を演出している」といった露骨なことでもしないかぎり、多少大胆であっても、悪く思われることはありません。


 男は、「大胆さ=自分への愛」と考えます。よっぽど嫌いな女性でもないかぎり、作為が多少見えてもうれしいものなのです。


 今回は「お弁当準備編」と題して、お弁当を調理するまでの、各準備における細工をご紹介します。


 女性は渡す自分を、男性は渡される自分を想像しながらご覧になってください。


①カエルの弁当箱にする
 戦いは、すでに弁当箱を選ぶ段階から始まっています。


 弁当箱は、「カエルの絵のついた弁当箱」がベスト。カエルの愛らしいキャラクターが、女性らしさを助長するからです。


 男性は見た瞬間、「かわいい!=女の子らしい!」と思います。女の子らしい女性がモテやすいことは間違いなく、味気ない弁当箱よりも、キャラクターのついた弁当箱のほうが評価されるのです。


 もちろん、キティちゃんやポケモンのほうがかわいいです。キャラクターの知名度や女の子らしさは、カエルよりも高いでしょう。


 ですが、いかんせん、「狙いすぎ」なのです。


 「私はこの歳になっても少女のようなところがありますよ!」


 この作為がバレバレなので、ブリッコととられかねないんですね。


 「意図的にブリッコしたのではない」と、さりげない見せ方をするためには、カエルあたりの弁当箱がベスト。スーパーに行けば安いのが手に入るので、カエルの弁当箱を用意しましょう。


 そして何があっても、使い捨ての紙弁当箱だけは使ってはいけません。これは次回の考察でご説明しますが、今回の考察の最大のキーワードなので、絶対に避けてください。


②四角型ではなく、丸型の弁当箱を選ぶ
 これも女の子らしさを助長するための作戦で、丸型の弁当箱のほうが、かわいらしく見えるのです。


 円の中に詰め込まれている感じが、「女の子用のお弁当箱=ピクニック感」を感じさせます。カエルの柄と丸みとがリンクして、女の子らしさに拍車がかかるのです。


 カエルだけだと、かわいらしい止まりです。丸型にすることで、「カエル=かわいらしい」⇒「カエル+丸み=愛らしい」になるわけです。


 これは想像したらわかります。


 四角の弁当箱よりも、丸い弁当箱に詰められたサンドイッチのほうがピクニックに来た感じがしませんか?ブラックジャックのピノ子が手にする弁当箱は、四角よりも丸いほうが似合っていませんか?


 あなたを子供のようにかわいく見せるためには、角のない丸型が効果的。弁当箱弁当箱していない丸みを見せるほうが、はるかに愛らしいのです。


 女性の愛らしさは、男にとっては、たまりません。相手の男性があなたに少しでも気があれば、弁当箱を見ただけでもう、その愛らしさにドキドキするでしょう。


③白ご飯とおかずを別々の弁当箱に入れる
 これは、あなたの優しい気遣いを伝えるための作戦です。


 弁当箱を2つに分けるということは、量が多いということです。そのボリュームを見た男性は、「私はあなたに少しでも多く食べて欲しいのです!」というメッセージを受け取ることになるのです。


 また、「白ご飯とおかずがくっつかないように配慮してます!」という気遣いも込められています。


 「この子、俺のことをよく考えてくれているな……」


 男性は、こう思わずにはいられないのです。


 一般的なお弁当は、白ご飯の上におかずがあります。弁当箱が2つあることでこのメッセージを受け取らないわけがなく、普段、コンビニのお弁当ばかり食べている人なら、なおさらです。2つある弁当箱を見たら、この事実1つで感動する男性もいることでしょう。


 これは、「料理版ラブレター」です。


 「少しでも多く食べて欲しい+白ご飯とおかずを一緒にしたくない=男性への気遣い=愛情」になり、間接的に告白することになるのです。


 ラブレターになるとはいえ、文字で表現するような重いものではありません。あくまで、優しい気遣いとして男性は受け取ってくれるのです。



 以上の3つが、弁当箱を選ぶときの注意事項です。


 そして以下の3つは、弁当箱を補佐する道具への小細工です。


④巾着袋に入れる
 弁当箱を入れる袋にも気を遣わなければなりません。


 袋は、紙袋ではなく風呂敷でもなく、「巾着袋」こそがベストです。巾着袋に入れることで、調理姿が目に浮かぶからです。


 人には、「巾着袋=給食袋」のイメージがあります。台所での調理姿とリンクしやすく、「懸命に料理して最後にこの袋に詰めましたよ!」という台所の風景が目に浮かび、手作り弁当としてのリアリティーが出るのです。


 風呂敷にもリアリティーはありますが、現代人は風呂敷の扱いに慣れていません。風呂敷をほどく際に弁当箱を倒してしまう可能性もありますし、風呂敷では、あなたが一生懸命に調理をしている姿が浮かびにくいのです。


 なにより、風呂敷に包むと、狙いすぎです。


 男性は身構えてしまいますし、格式が前に出て「風呂敷に包んでるぐらいだから、よっぽどすごいものが入ってるんだろうな!」と妙に期待させてしまうことから、中身へのハードルが上がってしまうのです。


 したがって、巾着袋こそがベスト。巾着自体がかわいらしい姿であることから、愛らしさに拍車がかかって一石二鳥でしょう。


⑤紙おしぼりを入れる
 これは「私は気が利きますよアピール」で、気が利くことをさらにアピールします。


 女性特有の行き届いた配慮に、感動しない男性はいません。


 たとえば、何か飲み物をこぼしたとします。そのとき、近くの女性が拭いてくれたら、その女性への評価をグンと上げます。好きにならないまでも、印象的な出来事として脳に残り、その女性を見る目が多少なりとも変わるのです。


 これと同じ理屈で、添付で紙おしぼりでもあると、随分と助かります。食事の前に手を拭く、食事中に汚れた口を拭くなど、おしぼりを手にする度に「この子は本当に気が利くよな!」と感謝するのです。


 「自分にはない感性をそこに見出す」


 人は、自分にない感性を持つ人に惹かれる傾向があります。それが異性だとなおさらで、あなたへの評価が上がるのです。


 そのメッセージを強く印象づけるためにも、紙おしぼりは2つ入れてください。2つあれば、「この子は相当、俺に配慮してくれている!」と男性は思いますから。


 ですが、紙おしぼりを置く場所には注意が必要です。あからさまに弁当箱の真ん中に置くと、あなたの作為が見抜かれる可能性があるからです。


 置く位置にこだわる必要はありません。どこに置いても悪く思われることはないので、巾着の端のほうにでも、そっと忍ばせておいてください。


⑥お箸は、家にある汚い割り箸を入れる
 頭が切れる男だと、①~⑤のすべてを疑いの目で見るかもしれません。うがった見方をする偏屈者がいる可能性も0ではないでしょう。


 そこで疑いをブロックするために、1つだけポカをします。1つだけわざとポカをすることで、男性に「考えすぎかな……」と思わせて、作為をミスリードするのです。


 オススメなのは、「家にあるどうでもいい割り箸を入れる」という作戦です。


 みなさまの台所の引き出しには、たくさんの割り箸がしまってあるはずです。お寿司屋でもらった割り箸、コンビニでもらった袋が欠けている小汚い割り箸……。このような割り箸をあえて入れることで、頭が切れる男とて、こう思います。


 「あれ、カエルの弁当箱や紙おしぼりなど、今まで全部計算でやっていると思っていたけど、割り箸は普通のものなのか。ズル賢い女ならこんなミスをするわけないよな。ちょっと考えすぎたかな……」


 小汚い割り箸をわざと入れるなんて、この記事を読んだ人でもないかぎり気づかないでしょう。自分の思慮深さを反省せざるをえず、しかも小汚い割り箸には、「庶民性をアピールする」というメリットもあります。


 おかずが豪華であっても、割り箸に庶民性が感じられれば、どこかホッとします。なにより、庶民的な割り箸が入っていると、「この子、何かかわいいところあるな!」と、男は思ってしまうものなんですね。


 複数の男性があなたのお弁当を値踏みしてくるので、裏の裏をかかなければなりません。この割り箸作戦は相当ズル賢いのですが、このレベルでズル賢くないと、自分に好意のない男を振り向かせることはできないでしょう。



 そして、最後。


 これこそが、お弁当準備編における最大の作戦です。①~⑥の総仕上げになるので、肝に銘じてください。


⑦水筒は渡さない
 水筒を渡すと、食事の準備が整っていることから、すぐに食べられてしまいます。弁当箱のフタを開けるまでに、「どんなお弁当なんだろう……」と、考えさせる時間が必要なのです。


 渡されたお弁当に水筒がなければ、コンビニや近くの自販機に飲み物を買いに行きます。飲み物を買いに行く時間を与えることで、「あなたのお弁当に思いを馳せさせる」のです。


 男性は、女性からの手作り弁当にテンションが上がっています。ドラクエは、やるよりも買うまでに並んでいる時間のほうが楽しいのと同様、フタを開けるまでのこの時間にワクワクせずにはいられないのです。


 その結果、①~⑥の効果がすべてアップします。


 ワクワクしながら巾着袋をはずし、ワクワクしながらカエルの弁当箱やおしぼりを目にするのですから、あなたの小細工は必要以上に効いてくるのです。


 飲み物を買いに行ったのがコンビニであればなお、効果は高いです。ランチタイムにお弁当を買うほかの人を見て、優越感に浸れるからです。


 「ふん、こいつらは機械で作った愛情のない弁当かよ!俺は、俺のことを好きな女が作ってくれた弁当を食べるっていうのによ!」


 幸福感を比較することで、あなたへの評価が否が応にも上がってしまうのです。


 水筒がなくても、ないのが普通です。あなたの評価が下がることはなく、おしぼりを入れたことで、気が利くアピールは充分できているのです。


 もちろん、会社に備え付けのお茶があれば、思いを馳せるような時間はありません。ですが少なくとも、水筒を用意してすぐに食べられるよりかはましです。総合的に考えると、水筒は渡さないほうがベターなのです。



 以上の7つが、お弁当を準備するまでの作戦です。


 「もらった男はここまで観察しないよ!」


 こうおっしゃる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。


 手作り弁当を渡された男は、必ず、細部までチェックしながら食べます。手作り弁当はそれほどまでに男を舞い上がらせる、意味深な箱なのです。


 「お弁当中身編」に続く……。



片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?の考察~お弁当準備編~(携帯読者用)

※2007年・5月29日の記事を再々編集

 昨晩、家の台所で食事をしていると、テレビで韓流ドラマをやっていました。

 ベタな恋愛ドラマで、隣に座っている僕の母親は真剣に見ています。僕は何気に視線を投げる程度だったのですが、主人公の女性が片思いの男性にラブレターを渡すシーンがあり、これを見て思ったのです。

 「愛の告白はアナログが1番だな!」

 現代では、電話やメールで告白するケースが多いでしょう。

 しかし、好きな相手に気持ちを伝えるには、アナログな方法こそが1番。アナログな告白には血が通っており、相手を感激させるのです。

 ですが、だからといってラブレターが、最良の方法だとは思いません。

 ラブレターはもらってうれしい反面、重すぎるからです。愛をストレートに伝えることになるので、文面によっては、相手が引いてしまうこともあるでしょう。

 そこで女性にオススメなのが、手作り弁当です。

 手作り弁当には、ラブレターほどの重さはありません。いい感じで角が取れて、さりげなく愛を伝えることができるのです。

 しかも、手作り弁当は、ラブレター以上に小細工が効きます。

 ラブレターも言葉で気持ちの駆け引きはできるのですが、時間をかけてじっくりと見られます。あなたが施した小細工は見抜かれてしまうのです。

 「好きではなく大好きだとあえて書いている」

 「『!』が1個ではなく2個あるところに必死さが見える」

 「ラブレターに格式を持たせるために高価な紙を使っている」

 このように、どうしても行間を読まれてしまうんですね。

 手作り弁当を渡せば、渡された男性は舞い上がります。舞い上がったことで女性の小細工を100%見抜くのは難しく、なにより、食べ終わればなくなります。ラブレターのように、時間をかけて見られることはないのです。

 今回は、意中の男性を振り向かせるための「ズル賢い手作り弁当の創り方」をご紹介します。作るのではなく創り、創ったお弁当を昼時までに渡して、相手の男性を自分に振り向かせるのです。

 そこで今回は、「片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?」の考察~お弁当準備編~です。

 細工をするのは、おかずだけではありません。

 白ご飯はもちろんのこと、弁当箱、バラン、アルミケース……。細部にまで細工を施し、その作為がバレない範囲で、あなたの愛を男の脳に刷り込んでいきます。

 ですが、今回の作戦は、あなたに何の好意も持っていない男性には効果はありません。いくらなんでも、まったく気がない男性に渡しても効果はなく、あなたにほんの少しでも気がある、気がないまでも、交際する可能性が0ではない、と思っていることが条件です。

 可能性が低くとも0ではなく、聞きこみや観察眼で相手の男性をリサーチできていれば、以下の作戦で可能性は間違いなく上がります。

 ところで、お弁当は基本的に、誰かと一緒に食べます。男性の環境にもよるものの、昼休みに会社の屋上で同僚と一緒に、みんなで席を囲んでなど、1人で食べるケースはまれです。手作り弁当をもらったことを周囲も知っていることから、周囲の男が解説者になるのです。

 「この女、お前に気に入られようとして必死だな!」

 「この女、ブリッコしてかわいさをアピールしているな!」

 このように、ああだこうだと女性の作戦を解説してくるのです。

 そこで、次の言葉を肝に銘じてください。

 「さりげなく、かつ、大胆に!」

 演出がさりげないのであれば、たくさんの人に見られても、見抜かれる可能性は低いです。「わざとデコボコのおにぎりを作ってドジな女を演出している」といった露骨なことでもしないかぎり、多少大胆であっても、悪く思われることはありません。

 男は、「大胆さ=自分への愛」と考えます。よっぽど嫌いな女性でもないかぎり、作為が多少見えてもうれしいものなのです。

 今回は「お弁当準備編」と題して、お弁当を調理するまでの、各準備における細工をご紹介します。

 女性は渡す自分を、男性は渡される自分を想像しながらご覧になってください。

①カエルの弁当箱にする
 戦いは、すでに弁当箱を選ぶ段階から始まっています。

 弁当箱は、「カエルの絵のついた弁当箱」がベスト。カエルの愛らしいキャラクターが、女性らしさを助長するからです。

 男性は見た瞬間、「かわいい!=女の子らしい!」と思います。女の子らしい女性がモテやすいことは間違いなく、味気ない弁当箱よりも、キャラクターのついた弁当箱のほうが評価されるのです。

 もちろん、キティちゃんやポケモンのほうがかわいいです。キャラクターの知名度や女の子らしさは、カエルよりも高いでしょう。

 ですが、いかんせん、「狙いすぎ」なのです。

 「私はこの歳になっても少女のようなところがありますよ!」

 この作為がバレバレなので、ブリッコととられかねないんですね。

 「意図的にブリッコしたのではない」と、さりげない見せ方をするためには、カエルあたりの弁当箱がベスト。スーパーに行けば安いのが手に入るので、カエルの弁当箱を用意しましょう。

 そして何があっても、使い捨ての紙弁当箱だけは使ってはいけません。これは次回の考察でご説明しますが、今回の考察の最大のキーワードなので、絶対に避けてください。

②四角型ではなく、丸型の弁当箱を選ぶ
 これも女の子らしさを助長するための作戦で、丸型の弁当箱のほうが、かわいらしく見えるのです。

 円の中に詰め込まれている感じが、「女の子用のお弁当箱=ピクニック感」を感じさせます。カエルの柄と丸みとがリンクして、女の子らしさに拍車がかかるのです。

 カエルだけだと、かわいらしい止まりです。丸型にすることで、「カエル=かわいらしい」⇒「カエル+丸み=愛らしい」になるわけです。

 これは想像したらわかります。

 四角の弁当箱よりも、丸い弁当箱に詰められたサンドイッチのほうがピクニックに来た感じがしませんか?ブラックジャックのピノ子が手にする弁当箱は、四角よりも丸いほうが似合っていませんか?

 あなたを子供のようにかわいく見せるためには、角のない丸型が効果的。弁当箱弁当箱していない丸みを見せるほうが、はるかに愛らしいのです。

 女性の愛らしさは、男にとっては、たまりません。相手の男性があなたに少しでも気があれば、弁当箱を見ただけでもう、その愛らしさにドキドキするでしょう。

③白ご飯とおかずを別々の弁当箱に入れる
 これは、あなたの優しい気遣いを伝えるための作戦です。

 弁当箱を2つに分けるということは、量が多いということです。そのボリュームを見た男性は、「私はあなたに少しでも多く食べて欲しいのです!」というメッセージを受け取ることになるのです。

 また、「白ご飯とおかずがくっつかないように配慮してます!」という気遣いも込められています。

 「この子、俺のことをよく考えてくれているな……」

 男性は、こう思わずにはいられないのです。

 一般的なお弁当は、白ご飯の上におかずがあります。弁当箱が2つあることでこのメッセージを受け取らないわけがなく、普段、コンビニのお弁当ばかり食べている人なら、なおさらです。2つある弁当箱を見たら、この事実1つで感動する男性もいることでしょう。

 これは、「料理版ラブレター」です。

 「少しでも多く食べて欲しい+白ご飯とおかずを一緒にしたくない=男性への気遣い=愛情」になり、間接的に告白することになるのです。

 ラブレターになるとはいえ、文字で表現するような重いものではありません。あくまで、優しい気遣いとして男性は受け取ってくれるのです。


 以上の3つが、弁当箱を選ぶときの注意事項です。

 そして以下の3つは、弁当箱を補佐する道具への小細工です。

④巾着袋に入れる
 弁当箱を入れる袋にも気を遣わなければなりません。

 袋は、紙袋ではなく風呂敷でもなく、「巾着袋」こそがベストです。巾着袋に入れることで、調理姿が目に浮かぶからです。

 人には、「巾着袋=給食袋」のイメージがあります。台所での調理姿とリンクしやすく、「懸命に料理して最後にこの袋に詰めましたよ!」という台所の風景が目に浮かび、手作り弁当としてのリアリティーが出るのです。

 風呂敷にもリアリティーはありますが、現代人は風呂敷の扱いに慣れていません。風呂敷をほどく際に弁当箱を倒してしまう可能性もありますし、風呂敷では、あなたが一生懸命に調理をしている姿が浮かびにくいのです。

 なにより、風呂敷に包むと、狙いすぎです。

 男性は身構えてしまいますし、格式が前に出て「風呂敷に包んでるぐらいだから、よっぽどすごいものが入ってるんだろうな!」と妙に期待させてしまうことから、中身へのハードルが上がってしまうのです。

 したがって、巾着袋こそがベスト。巾着自体がかわいらしい姿であることから、愛らしさに拍車がかかって一石二鳥でしょう。

⑤紙おしぼりを入れる
 これは「私は気が利きますよアピール」で、気が利くことをさらにアピールします。

 女性特有の行き届いた配慮に、感動しない男性はいません。

 たとえば、何か飲み物をこぼしたとします。そのとき、近くの女性が拭いてくれたら、その女性への評価をグンと上げます。好きにならないまでも、印象的な出来事として脳に残り、その女性を見る目が多少なりとも変わるのです。

 これと同じ理屈で、添付で紙おしぼりでもあると、随分と助かります。食事の前に手を拭く、食事中に汚れた口を拭くなど、おしぼりを手にする度に「この子は本当に気が利くよな!」と感謝するのです。

 「自分にはない感性をそこに見出す」

 人は、自分にない感性を持つ人に惹かれる傾向があります。それが異性だとなおさらで、あなたへの評価が上がるのです。

 そのメッセージを強く印象づけるためにも、紙おしぼりは2つ入れてください。2つあれば、「この子は相当、俺に配慮してくれている!」と男性は思いますから。

 ですが、紙おしぼりを置く場所には注意が必要です。あからさまに弁当箱の真ん中に置くと、あなたの作為が見抜かれる可能性があるからです。

 置く位置にこだわる必要はありません。どこに置いても悪く思われることはないので、巾着の端のほうにでも、そっと忍ばせておいてください。

⑥お箸は、家にある汚い割り箸を入れる
 頭が切れる男だと、①~⑤のすべてを疑いの目で見るかもしれません。うがった見方をする偏屈者がいる可能性も0ではないでしょう。

 そこで疑いをブロックするために、1つだけポカをします。1つだけわざとポカをすることで、男性に「考えすぎかな……」と思わせて、作為をミスリードするのです。

 オススメなのは、「家にあるどうでもいい割り箸を入れる」という作戦です。

 みなさまの台所の引き出しには、たくさんの割り箸がしまってあるはずです。お寿司屋でもらった割り箸、コンビニでもらった袋が欠けている小汚い割り箸……。このような割り箸をあえて入れることで、頭が切れる男とて、こう思います。

 「あれ、カエルの弁当箱や紙おしぼりなど、今まで全部計算でやっていると思っていたけど、割り箸は普通のものなのか。ズル賢い女ならこんなミスをするわけないよな。ちょっと考えすぎたかな……」

 小汚い割り箸をわざと入れるなんて、この記事を読んだ人でもないかぎり気づかないでしょう。自分の思慮深さを反省せざるをえず、しかも小汚い割り箸には、「庶民性をアピールする」というメリットもあります。

 おかずが豪華であっても、割り箸に庶民性が感じられれば、どこかホッとします。なにより、庶民的な割り箸が入っていると、「この子、何かかわいいところあるな!」と、男は思ってしまうものなんですね。

 複数の男性があなたのお弁当を値踏みしてくるので、裏の裏をかかなければなりません。この割り箸作戦は相当ズル賢いのですが、このレベルでズル賢くないと、自分に好意のない男を振り向かせることはできないでしょう。


 そして、最後。

 これこそが、お弁当準備編における最大の作戦です。①~⑥の総仕上げになるので、肝に銘じてください。

⑦水筒は渡さない
 水筒を渡すと、食事の準備が整っていることから、すぐに食べられてしまいます。弁当箱のフタを開けるまでに、「どんなお弁当なんだろう……」と、考えさせる時間が必要なのです。

 渡されたお弁当に水筒がなければ、コンビニや近くの自販機に飲み物を買いに行きます。飲み物を買いに行く時間を与えることで、「あなたのお弁当に思いを馳せさせる」のです。

 男性は、女性からの手作り弁当にテンションが上がっています。ドラクエは、やるよりも買うまでに並んでいる時間のほうが楽しいのと同様、フタを開けるまでのこの時間にワクワクせずにはいられないのです。

 その結果、①~⑥の効果がすべてアップします。

 ワクワクしながら巾着袋をはずし、ワクワクしながらカエルの弁当箱やおしぼりを目にするのですから、あなたの小細工は必要以上に効いてくるのです。

 飲み物を買いに行ったのがコンビニであればなお、効果は高いです。ランチタイムにお弁当を買うほかの人を見て、優越感に浸れるからです。

 「ふん、こいつらは機械で作った愛情のない弁当かよ!俺は、俺のことを好きな女が作ってくれた弁当を食べるっていうのによ!」

 幸福感を比較することで、あなたへの評価が否が応にも上がってしまうのです。

 水筒がなくても、ないのが普通です。あなたの評価が下がることはなく、おしぼりを入れたことで、気が利くアピールは充分できているのです。

 もちろん、会社に備え付けのお茶があれば、思いを馳せるような時間はありません。ですが少なくとも、水筒を用意してすぐに食べられるよりかはましです。総合的に考えると、水筒は渡さないほうがベターなのです。


 以上の7つが、お弁当を準備するまでの作戦です。

 「もらった男はここまで観察しないよ!」

 こうおっしゃる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

 手作り弁当を渡された男は、必ず、細部までチェックしながら食べます。手作り弁当はそれほどまでに男を舞い上がらせる、意味深な箱なのです。

 「お弁当中身編」に続く……。


木下さんは何者か?の考察~ベスト版④~(パソコン読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日、知り合いのおじさんと、近所のうどん屋に昼ご飯を食べに行きました。


 この店は、8人掛けのテーブルが横に3つあります。すべて合席で、僕らは奥のテーブルの端に、並んで座ることになりました。


 このおじさんは、注文したうどんに、尋常じゃない量の天かすを入れます。この店は天かすが入れ放題で、別に丼を借りて山盛り入れ、ダシに浸して食べるのです。


 僕は恥ずかしいと思いながらも、注文したカレーうどんを食べていたのですが、天かすを口に入れすぎたこのおじさんが、おもいっきりむせやがったのです。


 口から大量の天かすを吐き出したため、テーブルは天かすまみれ。前に座るお客さんにもかかり、吐き出した量が多すぎて、隣のテーブルの男性の後頭部にも天かすが付着したのです。


 最悪や……。メチャクチャ恥ずかしいやんけ……。


 僕は周囲に謝りたおし、「ええ加減にせいよ!」と、このおじさんを叱ることにしたのですが、パッとこのおじさんを見たら、鼻から麺を出しながら普通にうどん食べ続けてたんですよ!


 なんでやねん、お前!取れよ、麺を!気になるやろ、鼻から出てたら!


 「あー、おいしい!」


 おいしいやあるか、お前!ていうか、気づいてないの?鼻から麺が出てることに気づいてないの!?


 このおじさんの名前は、木下さん。僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 日ごろからおかしなことを連発し、先日も「これ、白ご飯に合うから!」と言って得意気にタッパを渡してきたものの、中身は白ご飯やったんですよ。


 どういうことやねん!そりゃ合うわな、それ!だってそれは白ご飯やねんから!


 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版④~です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。


検証エピソード①『英語』
 木下さんは、外国人に話しかけるのが好きです。街で外国人を見かけると、急に駆け寄って、英語で話しかけます。


 ですが、英語はメチャクチャ。いや、メチャクチャなんてものではなく、正しいのは「ホワッチュアネーム?」と「マイネームイズ……」ぐらいで、あとは思いついた単語を並べるだけなのです。


 その昔、バスに一緒に乗っていると、杖をついた外国人のおばあさんがやってきました。するとそれを見た木下さんが、「私の隣の席が空いてますよ!」と言おうとして、「ハロー!レフトのイス、プリーズミーゴ!」って言ったんですよ。


 意味わからん!間違ってるとかそんなレベルの話じゃないぞ、それ!


 「ハリーミー!レフトのイスにハリーミー!」


 どこ前留学した、お前!?どこの駅前に留学したらそんな英語を教えてくれんの!?


 ほかにも木下さんは、語尾に「ドゥー?」をつける癖があります。「日本はどうですか?」は「ジャパン、ドゥー?」、「お寿司は好きですか?」は「寿司、ドゥー?」と、単語にドゥーをつければなんとかなると思っています。買物袋を持った外国人を見かけると、いつも「ショッピング、ドゥー?」と話しかけるのです。


 先日のことです。


 僕の家の台所に、僕の母親と木下さんがいました。僕は部屋で仕事をしており、トイレに行ったときにインターホンが鳴ったので玄関に出たところ、1人の外国人がいます。


 近所の大学の留学生らしく、「パソコンで作ったグラフィックアートを買ってくれないか」と言います。1枚1000円で、お金がなくて、一軒一軒まわっているそうなのです。


 ウィリアムという名のアメリカ人で、日本語はペラペラ。しかも、腰の低い好青年です。玄関にやってきた僕の母親も信用して、家に入れてあげることになりました。


 外国人を見た木下さんは、興奮しています。ウィリアムを見るやいなや、「ハロー!マイネームイズ木下!」と握手を求め、「ゴーヒヤー!プリーズハリーミー!」と謎の英語を駆使して、台所にうながしました。


 僕らは台所のテーブルに座りました。


 木下さんは、ウィリアムの隣にぴったりと張り付いています。ウィリアムの絵を順番に見ながら、メチャクチャな英語で感想を言い始めたのです。


 まず、滝の上に4匹のオオカミが並んでいる絵を手に取り、ウィリアムに「オー!ドッグ、ドゥー?」と質問したのです。


 ごめん、何言ってんの、自分?訊きたいんはこっちやねんけど!?


 「ドゥー、ドゥー?」


 ドゥーを訊いてんの!?ドゥーはお前発信やろ!お前しか説明しようないやろ、そんな謎の英語!


 次に、風船に囲まれた気球の絵を手にしました。木下さんは手にするやいなや上機嫌に、「イエー!ビューティースカイ!フウセンフウセンイエー!」って言ったんですよ。


 風船は日本語やろ!で、イエーって何!?「とりあえず叫んどけ!」みたいな、その安易な叫び声は何なん!?


 それでも、ウィリアムは好青年です。


 「キノシタサン、コレハオオカミデス!」


 こう言って、優しく訂正してくれます。気球の絵へのコメントに対しても、「アリガトウゴザイマス、キノシタサン!」と、やんわりと返してくれました。


 ほどなくして、木下さんが1枚の絵を手にしました。これは森の湖の前に老人が立ち、湖から、剣をつかんだ手が出ているシュールな絵です。


 すると木下さんは、絵が難しすぎてテンぱったのでしょう。どうコメントしていいのかわからず、絵のトーンが緑色であるのをいいことに、ウィリアムにこう質問しました。


 「グリーン、塗り塗りドゥー?」


 何言ってんねん、お前!ええ加減にせいよ、さっきから!


 「塗り塗り?」


 日本語やろ、完全に!これは普通に日本語やろ!


 「塗り塗りドッグドゥー?」


 ドッグはさっきの絵やろ!人間ドッグに行け、お前みたいな奴!


 聞かされたウィリアムは、「はっ?」って言いましたからね。あんなに好青年だったウィリアムが、「アンタ、ナニヲイッテルノ?」とばかりに「はっ?」って言いましたから。


検証エピソード②『幸子ちゃん』
 木下さんは、日本語もメチャクチャです。中学校すらまともに出ていないので語彙に乏しく、ワケのわからない言葉
を連発してきます。


 しかも、病的なレベルで噛み噛み。おかしな日本語を噛み噛みで言ってくるので、聞くほうは大変なのです。


 僕は木下さんから、「たけちゃん」と呼ばれています。


 ですが、たまに「シャケちゃん」と呼ばれます。「おはよう、シャケちゃん」「シャケちゃん、今、何時?」と話しかけられ、噛みすぎて、「シャケらん」と呼ばれることもあるのです。


 シャケらんですよ、シャケらん?こんなもん、もう原型が何かわからないでしょ!?


 一緒に原付きに乗っていたとき、一度、「シャケらん、ここマッスグダケやで!」と言われたのですが、これ木下さん的には、「たけちゃん、ここ一方通行やで!」と言っているのです。


 加えて、木下さんは感受性が豊かです。怒ったり、泣いたりしたときの取り乱し方は尋常ではなく、そのときに口から出る日本語なんて、何もかもがメチャクチャなのです。


 先日のことです。


 僕の近所に住む女性が亡くなられました。


 この女性は、「幸子ちゃん」と呼ばれています。61歳で、木下さんにとっても、数少ない友人でした。妹のようにかわいがっていたものの、先日、脳梗塞で急死されたのです。


 訃報を聞いた木下さんが、僕の家に来ました。


 木下さんは、もう泣いています。僕は幸子ちゃんとはそれほど親しくなかったのですが、身寄りが少ないと聞いたことから、お通夜の準備を手伝ってあげることにしました。


 僕の父親に連れ立たれて、僕と木下さんは幸子ちゃんの家に行きました。


 一軒屋とはいえ、小さな家です。ドアを開けると、中はひっそりとしています。


 幸子ちゃんは旦那に先立たれ、子供もいません。家に来ているのは兄弟2人だけで、そのわびしさに、僕も泣きそうになりました。


 居間には、幸子ちゃんの妹さんがいました。妹さんのそばには、面布をされた仏さんがいます。僕の父親は幸子ちゃんのお兄さんにあいさつに行き、僕と木下さんは仏さんと対面することにしました。


 「この度は、ご愁傷様でした」


 僕は正座して、妹さんに一礼をしました。


 一方、木下さんはあいさつもせず、一目散に仏さんのそばに行きました。そして、妹さんに「顔を見てあげてください」と言われるやいなや面布をはずし、仏さんの両頬に両手をつけて叫んだのです。


 「お前、すごいきれいな死に顔になっちまってるんがーーー!」


 はっ?はっ?


 静寂の中、意味不明の雄たけびが木霊したのです。


 木下さんは号泣しています。堰を切ったように涙があふれ、このあと声を震わせながら、謎の雄たけびを上げ始めたのです。


 「脳梗炎(脳梗塞)か?幸子ちゃん、脳梗炎なんかで死んだんか!?」


 何言ってんねん、お前!脳梗炎って、聞きようによっては膀胱炎に聞こえるぞ、それ!


 「また一緒に、パ、パ、パチ、パチ、パ、パ、パ……」


 噛みすぎや!落ち着け!


 「チンコしたかった!」


 パチンコな!そこで切んなよ!ある意味下ネタやぞ、それは!「膀胱炎で死んだ不倫している女」に聞こえるぞ!


 あわてた僕は木下さんを止めました。ところがふと見た仏さんの顔が、木下さんが垂らした鼻水でビショビショになってるんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!マジで勘弁してくれって!


 完全に口に入ってるんですよ!ちょっとした「死に水」になっているのです!


 何考えてんねん、お前!どんな見送り方やねん、これ!


 「生きてたらいいことあんのに……」


 自殺したんと違うわ!生きたくても生きられんかってん、幸子ちゃんは!


 「おっちゃん、これハンカチ!これで仏さんの顔を拭いてあげて!」


 木下さんが面布で拭きそうな勢いだったので僕はハンカチを渡したところ、木下さんが泣きながら僕に言ったのです。


 「ありがとう、シャケらん!」


 俺はシャケと違うから!川を下ったりせえへんから!


 妹さんなんて、軽く笑ってましたからね。「本当にすいません!」と謝罪した僕に、「いえいえ」と半笑いで返してきましたから。


検証エピソード③『引っ越し』
 これは1ヵ月ほど前のお話です。


 僕の家の前に住む田中さん一家が、東北に引っ越すことになりました。


 田中さん一家とは、古い付き合いです。なかでも一人娘である4歳の「ともちゃん」は愛らしく、僕の父親は、自分の孫のようにかわいがっていました。


 引っ越し前夜、田中さんの家の庭で、バーベキューをしました。僕と僕の両親、そして木下さんも参加して、思い出話に花を咲かせました。


 迎えた、翌日。朝の8時に、旅立つ田中さんの家の前に、僕らは集合しました。


 僕の父親は、ともちゃんを抱き上げて涙を流しています。


 「ともちゃんとサヨナラすることを考えたら、泣けてきたわ」


 すると近くにいるともちゃんの父親が、こう返しました。


 「サヨナラとか言わないでくださいよ。だっていつかまた会うんですから」


 この会話を聞いて、僕もうるっときました。そしてともちゃんが僕のところに来て、「たけちゃん、また遊ぼうや!」と言われた瞬間、僕も泣いてしまったのです。


 木下さんも泣き始め、小雨がパラついていたことから、ドラマのワンシーンのように感じられました。


 やがて、別れの時間がやってきました。


 僕の両親がプレゼントを渡すのを見て、僕も用意していたプレゼントを渡すことにしました。


 僕の両親は、商品券を渡しました。恐縮するご夫妻に強引に手渡し、僕はともちゃんにはおもちゃのペンダントを、ともちゃんのお父さんにはネクタイを渡しました。


 「開けてもいい?」


 こう言われたので、僕は「どうぞどうぞ!でも、たいしたものではないんで!」と返しました。


 ふと見ると、僕の隣にいる木下さんが、妙な物体を手にしています。10センチ四方の紙包みで、ミドリ電化のチラシが巻きつけてあります。この感動的なシーンを台なしにしかねない「爆発物」を木下さんが渡す可能性があるため、僕の心臓がバクバクし始めたのです。


 木下さんが、ともちゃんのお父さんに近づきました。


 「これ、つまらないもんやけど、よかったら!」


 こう言って、紙包みを渡そうとしたのです。


 ともちゃんのお父さんは、木下さんが貧乏であることを知っています。


 「木下さん、いいですよ!本当に気持ちだけでいいんで!」


 こう言って、受け取ろうとはしません。


 ですが木下さんは半泣きになりながら、「そんなこと言うなよ!俺らは何年一緒におったんよ!いいから受け取って!」と、強引に手に握らせたのです。


 ともちゃんのお父さんは観念しました。そして、「ではお言葉に甘えて、いただくことにします。開けてもいいですか?」と言ってミドリ電化のチラシをめくり始めたのですが、開かれた紙包みの中から、透明の袋に入ったプルーンの食いさしが出てきたんですよ。


 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、こいつ!


 しかもこれ、ほとんど残ってないんですよ!一度開けたものに輪ゴムをし、10個以上入っていたものが半分も残っていないのです!


 何考えてんねん、お前!1000歩譲って食いさしは許したるから、もうちょっと入ってるもん渡せよ!


 「どう?」


 答えようないわ!返答に困るわ、こんなもんの感想訊かれても!


 「ほ、ほしかったんです、これ!」


 ウソつけ、あんたも!ほしいわけあるか、こんな食いさし!


 それから1分もしないうちに、カミナリが鳴りましたからね。神様が「木下、それは違うぞ!」と怒ったのか、急にカミナリが鳴りましたから。


検証エピソード④『屋根修理』
 僕の父親は、家から10分足らずのところに畑を所有しています。先日、荷物置き場にしている倉庫の屋根に穴が空
いたため、僕が修理を手伝うことになりました。


 僕の父親が倉庫の屋根に上りました。僕は脚立に登り、下から木のカバーを渡します。強風でカバーが飛ばないように、コンクリートのブロックを下から渡していったのですが、木下さんがやってきたのです。


 僕の母親に聞いたらしく、「俺も手伝うから!」と言って聞きません。2人いれば充分の仕事なのに、「こんなことしか恩返しができないから!」と言って、無理矢理手伝ってきたのです。


 ですが、はっきり言って、邪魔なのです。


 固定して倒れようのない脚立を手で押さえてきたり、僕のズボンについた泥を強引に払ってきたりと、迷惑なだけです。しかも途中で、「これ、差し入れ!」と言って、おはぎを渡してきたのですが、このおはぎは僕の家にあったものなのです。


 ただの泥棒やろ、お前!差し入れと違うわ、こんなもん!


 「遠慮せんでいいから!」


 当たり前じゃ!ていうか1個減ってるやんけ!ここにくる途中で食ったやろ!


 「木下さん、多田さんの家に行って、ビニールテープをもらってきて!」


 見かねた僕の父親が、木下さんに仕事を与えました。


 多田さんの家は農家です。脚立を貸してくれたのも多田さんなのですが、実は、カバーをくくりつけるためのテープは足りています。迷惑そうにしていた僕に気づいて、木下さんを追い出すために、僕の父親は無理矢理仕事を与えたのです。


 そうとは知らない木下さんは、仕事を与えられて上機嫌です。


 「じゃあ行ってくるわ!」


 こう言って愛用のボロボロの原付きに乗り、200メートルほど先の多田さんの家に向かいました。僕らは邪魔者が戻る前に修理を終えようと、仕事の手を速めました。


 しばらくして、誰かの叫び声が聞こえてきました。


 「そこのバイク、止まりなさい!」


 叫んでいるのは警察官。僕らのいる畑と、隣の田んぼに挟まれた小道を、1台の原付きが2台のバイクに追いかけられているのです。


 見ると、木下さんでした。


 多田さんの家が近いことからノーヘルで行ってしまい、途中で出会った警察に追いかけられているのです。


 ですが、遠くに逃げればいいのに、同じ小道を何周も走っています。「止まれ!止まるんや!」と怒鳴られながら、同じところをぐるぐるとまわっています。「バターになるわ!」というぐらいまわり、ちょっとしたオートレースになっているのです。


 警察はやがて、木下さんのアホさに気がつきました。後ろのバイクが「ここで待ってたらもう1周するやろ!」とばかりに、小道の入口で停車したのです。


 案の定、木下さんはもう一周しようと入口にやってきたのですが、警察のバイクを振り切って、急に国道に乗りつけました。そして僕らがいる畑の横の道に抜け、「たけちゃん、俺もう帰るから、これ!」と言ってビニールテープを投げつけてきたのですが、投げたテープがおもいっきりドブにはまったんですよ!


 何しにきてん、お前!泥棒し、人の邪魔をし、警察から逃げ、人様のものをドブに捨てるなんて並みの犯罪者よりもたち悪いぞ!


 このあと、僕の父親はクギを踏みましたからね。木下さんのあまりの奇行に焦ったのか、めったにミスなどしないのに、マジでクギ踏みましたから。


検証エピソード⑤『マッスルドッキング』
 僕が小学生のときに、『キン肉マン』が大流行しました。


 仲間内で技をかけ合うのが日課になったのですが、相手も子供なので体が小さく、うまくかけられません。誰もがかける側にまわりたいことから、それぞれのお父さんに、技をかけさしてもらうようになりました。


 ですが、どのお父さんも、平日は仕事でいません。休日だけでは満足できず、自営業で暇を持て余している、木下さんに技をかけさしてもらうことになったのです。


 木下さんは、子供と遊ぶのが好きです。こころよく引き受けてくれ、しかも「痛い痛い!」とオーバーに痛がってくれるので、非常にかけがいがあるんですね。


 ところがあるときから、お金を取るようになりました。


 最初こそ楽しそうにやっていたものの、悪知恵を思いついたのでしょう。家にある漫画で技の難易度を調べ、「今日からはお金を取るから!」と言って、各技に対する値段表を見せてきたのです。


 それでも、値段はしれています。「ベルリンの赤い雨=20円」「キャメルクラッチ=30円」など、1番高いクロスボンバーでも100円だったので、僕らはお金を払って、技をかけさしてもらいました。


 木下さんにとっては、いい小遣い稼ぎなのでしょう。僕らのグループ7人から、日々、小銭を稼ぎまくっていたのですが、体を酷使しすぎて、ボロボロになっていったのです。


 なかでもバッファローマンの必殺技、ハリケーンミキサー。


 ツノで相手を吹っ飛ばす技で、助走をつけて木下さんの顔面に頭突きをするのですが、これは50円なのです。


 50円ですよ、これ?どう考えても割に合わないでしょ!?


 一度、7人で7発分のハリケーンミキサーを購入したところ、「連続でこい!」と言われました。


 4人目ぐらいで鼻血が出ているのに、木下さんは「いいから、こい!」と平気で、僕らをガンガンに受け止めます。段々とエスカレートし、「マッスルインフェルノ=200円」という、サーフィンの姿勢で体に乗って壁に突進する

技を、大きな滑り台でサーフィンの板になって、僕らにやらしてくれたのです。


 ある日のことです。


 僕の家で友達と遊んでいると、木下さんがニヤニヤしながらやってきて言いました。


 「マッスルドッキングをせえへんか?」


 マッスルドッキングというのは、大技中の大技です。キン肉バスター(相手を逆さに持ち上げ、相手の首を自分の肩口で支えて着地する)とキン肉ドライバー(相手の両足首をつかみ、自分の両脚で、相手の両腕の動きを封じた状態で落下する)を組み合わせた、禁断の技なのです。誰か2人でキン肉バスターを作り、自分がキン肉ドライバーをかけられた状態で床に頭をつけ、キン肉バスターとドッキングする、と言うのです。


 なるほど、難しいとはいえ、できないことはありません。残った仲間に体を支えてもらえば、ぎりぎり可能でしょう


 ただし、値段は1000円です。大技のため、吹っかけてきやがったんですね。


 メンバーの1人である家君が、「俺が出すわ!」と言ってくれました。


 家君は、金持ちの息子です。全額出してくれることになり、僕らはクラスメイトに自慢するため、写真を撮ることにしました。


 準備が整い、僕の家の階段で技をかけることになりました。


 キン肉ドライバーをするのは僕です。僕は、逆さになって首を床につけた木下さんの両腕に両足を載せ、階段にもたれかかりました。同時に僕の上で、メンバーで1番体重の軽い川田君を、家君が持ち上げたのです。


 僕はワクワクしてきました。「写真を頼むで!」と、仲間にお願いしました。


 「マッスル、ドッキーング!!!」


 2組がドッキングしました。少し傾いてはいるものの、仲間に支えられながら、夢の大技が完成したのです。


 ところが、1番下の木下さんの様子がおかしいです。何かを叫んでいるので僕は何気に下を見たところ、頭突きの後遺症と頭に血が昇ったせいで鼻血がおもいっきり噴き出してるんですよ!血が口にあふれ返って呼吸ができなくなっており、しかも途中から家君が足を木下さんの股間に置いたため、金玉に2人の全体重がかかって悶絶しているのです!


 「痛い痛い痛い!あかんあかんあかん!あかんあかんあかん!」


 これ、逆さになって血吐きながら叫んでるんですよ!目にも血が入り、僕の左足が木下さんの耳を踏んだせいで五感すべてがやられてしまっているのです!


 「やめろや!やめろって!」


 お前が頼んでんやろが!お前が進んでお願いしてきてんやろが!


 「ウギャーーー!もう限界!!!」


 痛みが限界に達した木下さんが体を動かしたため、僕らは床に叩きつけられました。すると木下さんは顔面血まみれのまますぐに立ち上がり、倒れている家君に手を差し出してこう叫んだのです。


 「金!」


 言うてる場合か!!!



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 ちなみにエピソード①でご紹介した、外国人のウィリアム。


 結局、絵を3枚買ってあげることになったのですが、玄関を出たウィリアムに、最後に木下さんがこう叫びました。


 「グッバイ!オマバによろしく!」


 オバマや!!!



木下さんは何者か?の考察~ベスト版④~(携帯読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集

 先日、知り合いのおじさんと、近所のうどん屋に昼ご飯を食べに行きました。

 この店は、8人掛けのテーブルが横に3つあります。すべて合席で、僕らは奥のテーブルの端に、並んで座ることになりました。

 このおじさんは、注文したうどんに、尋常じゃない量の天かすを入れます。この店は天かすが入れ放題で、別に丼を借りて山盛り入れ、ダシに浸して食べるのです。

 僕は恥ずかしいと思いながらも、注文したカレーうどんを食べていたのですが、天かすを口に入れすぎたこのおじさんが、おもいっきりむせやがったのです。

 口から大量の天かすを吐き出したため、テーブルは天かすまみれ。前に座るお客さんにもかかり、吐き出した量が多すぎて、隣のテーブルの男性の後頭部にも天かすが付着したのです。

 最悪や……。メチャクチャ恥ずかしいやんけ……。

 僕は周囲に謝りたおし、「ええ加減にせいよ!」と、このおじさんを叱ることにしたのですが、パッとこのおじさんを見たら、鼻から麺を出しながら普通にうどん食べ続けてたんですよ!

 なんでやねん、お前!取れよ、麺を!気になるやろ、鼻から出てたら!

 「あー、おいしい!」

 おいしいやあるか、お前!ていうか、気づいてないの?鼻から麺が出てることに気づいてないの!?

 このおじさんの名前は、木下さん。僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。

 日ごろからおかしなことを連発し、先日も「これ、白ご飯に合うから!」と言って得意気にタッパを渡してきたものの、中身は白ご飯やったんですよ。

 どういうことやねん!そりゃ合うわな、それ!だってそれは白ご飯やねんから!

 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。

 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版④~です。

 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。

 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。

検証エピソード①『英語』
 木下さんは、外国人に話しかけるのが好きです。街で外国人を見かけると、急に駆け寄って、英語で話しかけます。

 ですが、英語はメチャクチャ。いや、メチャクチャなんてものではなく、正しいのは「ホワッチュアネーム?」と「マイネームイズ……」ぐらいで、あとは思いついた単語を並べるだけなのです。

 その昔、バスに一緒に乗っていると、杖をついた外国人のおばあさんがやってきました。するとそれを見た木下さんが、「私の隣の席が空いてますよ!」と言おうとして、「ハロー!レフトのイス、プリーズミーゴ!」って言ったんですよ。

 意味わからん!間違ってるとかそんなレベルの話じゃないぞ、それ!

 「ハリーミー!レフトのイスにハリーミー!」

 どこ前留学した、お前!?どこの駅前に留学したらそんな英語を教えてくれんの!?

 ほかにも木下さんは、語尾に「ドゥー?」をつける癖があります。「日本はどうですか?」は「ジャパン、ドゥー?」、「お寿司は好きですか?」は「寿司、ドゥー?」と、単語にドゥーをつければなんとかなると思っています。買物袋を持った外国人を見かけると、いつも「ショッピング、ドゥー?」と話しかけるのです。

 先日のことです。

 僕の家の台所に、僕の母親と木下さんがいました。僕は部屋で仕事をしており、トイレに行ったときにインターホンが鳴ったので玄関に出たところ、1人の外国人がいます。

 近所の大学の留学生らしく、「パソコンで作ったグラフィックアートを買ってくれないか」と言います。1枚1000円で、お金がなくて、一軒一軒まわっているそうなのです。

 ウィリアムという名のアメリカ人で、日本語はペラペラ。しかも、腰の低い好青年です。玄関にやってきた僕の母親も信用して、家に入れてあげることになりました。

 外国人を見た木下さんは、興奮しています。ウィリアムを見るやいなや、「ハロー!マイネームイズ木下!」と握手を求め、「ゴーヒヤー!プリーズハリーミー!」と謎の英語を駆使して、台所にうながしました。

 僕らは台所のテーブルに座りました。

 木下さんは、ウィリアムの隣にぴったりと張り付いています。ウィリアムの絵を順番に見ながら、メチャクチャな英語で感想を言い始めたのです。

 まず、滝の上に4匹のオオカミが並んでいる絵を手に取り、ウィリアムに「オー!ドッグ、ドゥー?」と質問したのです。

 ごめん、何言ってんの、自分?訊きたいんはこっちやねんけど!?

 「ドゥー、ドゥー?」

 ドゥーを訊いてんの!?ドゥーはお前発信やろ!お前しか説明しようないやろ、そんな謎の英語!

 次に、風船に囲まれた気球の絵を手にしました。木下さんは手にするやいなや上機嫌に、「イエー!ビューティースカイ!フウセンフウセンイエー!」って言ったんですよ。

 風船は日本語やろ!で、イエーって何!?「とりあえず叫んどけ!」みたいな、その安易な叫び声は何なん!?

 それでも、ウィリアムは好青年です。

 「キノシタサン、コレハオオカミデス!」

 こう言って、優しく訂正してくれます。気球の絵へのコメントに対しても、「アリガトウゴザイマス、キノシタサン!」と、やんわりと返してくれました。

 ほどなくして、木下さんが1枚の絵を手にしました。これは森の湖の前に老人が立ち、湖から、剣をつかんだ手が出ているシュールな絵です。

 すると木下さんは、絵が難しすぎてテンぱったのでしょう。どうコメントしていいのかわからず、絵のトーンが緑色であるのをいいことに、ウィリアムにこう質問しました。

 「グリーン、塗り塗りドゥー?」

 何言ってんねん、お前!ええ加減にせいよ、さっきから!

 「塗り塗り?」

 日本語やろ、完全に!これは普通に日本語やろ!

 「塗り塗りドッグドゥー?」

 ドッグはさっきの絵やろ!人間ドッグに行け、お前みたいな奴!

 聞かされたウィリアムは、「はっ?」って言いましたからね。あんなに好青年だったウィリアムが、「アンタ、ナニヲイッテルノ?」とばかりに「はっ?」って言いましたから。

検証エピソード②『幸子ちゃん』
 木下さんは、日本語もメチャクチャです。中学校すらまともに出ていないので語彙に乏しく、ワケのわからない言葉を連発してきます。

 しかも、病的なレベルで噛み噛み。おかしな日本語を噛み噛みで言ってくるので、聞くほうは大変なのです。

 僕は木下さんから、「たけちゃん」と呼ばれています。

 ですが、たまに「シャケちゃん」と呼ばれます。「おはよう、シャケちゃん」「シャケちゃん、今、何時?」と話しかけられ、噛みすぎて、「シャケらん」と呼ばれることもあるのです。

 シャケらんですよ、シャケらん?こんなもん、もう原型が何かわからないでしょ!?

 一緒に原付きに乗っていたとき、一度、「シャケらん、ここマッスグダケやで!」と言われたのですが、これ木下さん的には、「たけちゃん、ここ一方通行やで!」と言っているのです。

 加えて、木下さんは感受性が豊かです。怒ったり、泣いたりしたときの取り乱し方は尋常ではなく、そのときに口から出る日本語なんて、何もかもがメチャクチャなのです。

 先日のことです。

 僕の近所に住む女性が亡くなられました。

 この女性は、「幸子ちゃん」と呼ばれています。61歳で、木下さんにとっても、数少ない友人でした。妹のようにかわいがっていたものの、先日、脳梗塞で急死されたのです。

 訃報を聞いた木下さんが、僕の家に来ました。

 木下さんは、もう泣いています。僕は幸子ちゃんとはそれほど親しくなかったのですが、身寄りが少ないと聞いたことから、お通夜の準備を手伝ってあげることにしました。

 僕の父親に連れ立たれて、僕と木下さんは幸子ちゃんの家に行きました。

 一軒屋とはいえ、小さな家です。ドアを開けると、中はひっそりとしています。

 幸子ちゃんは旦那に先立たれ、子供もいません。家に来ているのは兄弟2人だけで、そのわびしさに、僕も泣きそうになりました。

 居間には、幸子ちゃんの妹さんがいました。妹さんのそばには、面布をされた仏さんがいます。僕の父親は幸子ちゃんのお兄さんにあいさつに行き、僕と木下さんは仏さんと対面することにしました。

 「この度は、ご愁傷様でした」

 僕は正座して、妹さんに一礼をしました。

 一方、木下さんはあいさつもせず、一目散に仏さんのそばに行きました。そして、妹さんに「顔を見てあげてください」と言われるやいなや面布をはずし、仏さんの両頬に両手をつけて叫んだのです。

 「お前、すごいきれいな死に顔になっちまってるんがーーー!」

 はっ?はっ?

 静寂の中、意味不明の雄たけびが木霊したのです。

 木下さんは号泣しています。堰を切ったように涙があふれ、このあと声を震わせながら、謎の雄たけびを上げ始めたのです。

 「脳梗炎(脳梗塞)か?幸子ちゃん、脳梗炎なんかで死んだんか!?」

 何言ってんねん、お前!脳梗炎って、聞きようによっては膀胱炎に聞こえるぞ、それ!

 「また一緒に、パ、パ、パチ、パチ、パ、パ、パ……」

 噛みすぎや!落ち着け!

 「チンコしたかった!」

 パチンコな!そこで切んなよ!ある意味下ネタやぞ、それは!「膀胱炎で死んだ不倫している女」に聞こえるぞ!

 あわてた僕は木下さんを止めました。ところがふと見た仏さんの顔が、木下さんが垂らした鼻水でビショビショになってるんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!マジで勘弁してくれって!

 完全に口に入ってるんですよ!ちょっとした「死に水」になっているのです!

 何考えてんねん、お前!どんな見送り方やねん、これ!

 「生きてたらいいことあんのに……」

 自殺したんと違うわ!生きたくても生きられんかってん、幸子ちゃんは!

 「おっちゃん、これハンカチ!これで仏さんの顔を拭いてあげて!」

 木下さんが面布で拭きそうな勢いだったので僕はハンカチを渡したところ、木下さんが泣きながら僕に言ったのです。

 「ありがとう、シャケらん!」

 俺はシャケと違うから!川を下ったりせえへんから!

 妹さんなんて、軽く笑ってましたからね。「本当にすいません!」と謝罪した僕に、「いえいえ」と半笑いで返してきましたから。

検証エピソード③『引っ越し』
 これは1ヵ月ほど前のお話です。

 僕の家の前に住む田中さん一家が、東北に引っ越すことになりました。

 田中さん一家とは、古い付き合いです。なかでも一人娘である4歳の「ともちゃん」は愛らしく、僕の父親は、自分の孫のようにかわいがっていました。

 引っ越し前夜、田中さんの家の庭で、バーベキューをしました。僕と僕の両親、そして木下さんも参加して、思い出話に花を咲かせました。

 迎えた、翌日。朝の8時に、旅立つ田中さんの家の前に、僕らは集合しました。

 僕の父親は、ともちゃんを抱き上げて涙を流しています。

 「ともちゃんとサヨナラすることを考えたら、泣けてきたわ」

 すると近くにいるともちゃんの父親が、こう返しました。

 「サヨナラとか言わないでくださいよ。だっていつかまた会うんですから」

 この会話を聞いて、僕もうるっときました。そしてともちゃんが僕のところに来て、「たけちゃん、また遊ぼうや!」と言われた瞬間、僕も泣いてしまったのです。

 木下さんも泣き始め、小雨がパラついていたことから、ドラマのワンシーンのように感じられました。

 やがて、別れの時間がやってきました。

 僕の両親がプレゼントを渡すのを見て、僕も用意していたプレゼントを渡すことにしました。

 僕の両親は、商品券を渡しました。恐縮するご夫妻に強引に手渡し、僕はともちゃんにはおもちゃのペンダントを、ともちゃんのお父さんにはネクタイを渡しました。

 「開けてもいい?」

 こう言われたので、僕は「どうぞどうぞ!でも、たいしたものではないんで!」と返しました。

 ふと見ると、僕の隣にいる木下さんが、妙な物体を手にしています。10センチ四方の紙包みで、ミドリ電化のチラシが巻きつけてあります。この感動的なシーンを台なしにしかねない「爆発物」を木下さんが渡す可能性があるため、僕の心臓がバクバクし始めたのです。

 木下さんが、ともちゃんのお父さんに近づきました。

 「これ、つまらないもんやけど、よかったら!」

 こう言って、紙包みを渡そうとしたのです。

 ともちゃんのお父さんは、木下さんが貧乏であることを知っています。

 「木下さん、いいですよ!本当に気持ちだけでいいんで!」

 こう言って、受け取ろうとはしません。

 ですが木下さんは半泣きになりながら、「そんなこと言うなよ!俺らは何年一緒におったんよ!いいから受け取って!」と、強引に手に握らせたのです。

 ともちゃんのお父さんは観念しました。そして、「ではお言葉に甘えて、いただくことにします。開けてもいいですか?」と言ってミドリ電化のチラシをめくり始めたのですが、開かれた紙包みの中から、透明の袋に入ったプルーンの食いさしが出てきたんですよ。

 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、こいつ!

 しかもこれ、ほとんど残ってないんですよ!一度開けたものに輪ゴムをし、10個以上入っていたものが半分も残っていないのです!

 何考えてんねん、お前!1000歩譲って食いさしは許したるから、もうちょっと入ってるもん渡せよ!

 「どう?」

 答えようないわ!返答に困るわ、こんなもんの感想訊かれても!

 「ほ、ほしかったんです、これ!」

 ウソつけ、あんたも!ほしいわけあるか、こんな食いさし!

 それから1分もしないうちに、カミナリが鳴りましたからね。神様が「木下、それは違うぞ!」と怒ったのか、急にカミナリが鳴りましたから。

検証エピソード④『屋根修理』
 僕の父親は、家から10分足らずのところに畑を所有しています。先日、荷物置き場にしている倉庫の屋根に穴が空いたため、僕が修理を手伝うことになりました。

 僕の父親が倉庫の屋根に上りました。僕は脚立に登り、下から木のカバーを渡します。強風でカバーが飛ばないように、コンクリートのブロックを下から渡していったのですが、木下さんがやってきたのです。

 僕の母親に聞いたらしく、「俺も手伝うから!」と言って聞きません。2人いれば充分の仕事なのに、「こんなことしか恩返しができないから!」と言って、無理矢理手伝ってきたのです。

 ですが、はっきり言って、邪魔なのです。

 固定して倒れようのない脚立を手で押さえてきたり、僕のズボンについた泥を強引に払ってきたりと、迷惑なだけです。しかも途中で、「これ、差し入れ!」と言って、おはぎを渡してきたのですが、このおはぎは僕の家にあったものなのです。

 ただの泥棒やろ、お前!差し入れと違うわ、こんなもん!

 「遠慮せんでいいから!」

 当たり前じゃ!ていうか1個減ってるやんけ!ここにくる途中で食ったやろ!

 「木下さん、多田さんの家に行って、ビニールテープをもらってきて!」

 見かねた僕の父親が、木下さんに仕事を与えました。

 多田さんの家は農家です。脚立を貸してくれたのも多田さんなのですが、実は、カバーをくくりつけるためのテープは足りています。迷惑そうにしていた僕に気づいて、木下さんを追い出すために、僕の父親は無理矢理仕事を与えたのです。

 そうとは知らない木下さんは、仕事を与えられて上機嫌です。

 「じゃあ行ってくるわ!」

 こう言って愛用のボロボロの原付きに乗り、200メートルほど先の多田さんの家に向かいました。僕らは邪魔者が戻る前に修理を終えようと、仕事の手を速めました。

 しばらくして、誰かの叫び声が聞こえてきました。

 「そこのバイク、止まりなさい!」

 叫んでいるのは警察官。僕らのいる畑と、隣の田んぼに挟まれた小道を、1台の原付きが2台のバイクに追いかけられているのです。

 見ると、木下さんでした。

 多田さんの家が近いことからノーヘルで行ってしまい、途中で出会った警察に追いかけられているのです。

 ですが、遠くに逃げればいいのに、同じ小道を何周も走っています。「止まれ!止まるんや!」と怒鳴られながら、同じところをぐるぐるとまわっています。「バターになるわ!」というぐらいまわり、ちょっとしたオートレースになっているのです。

 警察はやがて、木下さんのアホさに気がつきました。後ろのバイクが「ここで待ってたらもう1周するやろ!」とばかりに、小道の入口で停車したのです。

 案の定、木下さんはもう一周しようと入口にやってきたのですが、警察のバイクを振り切って、急に国道に乗りつけました。そして僕らがいる畑の横の道に抜け、「たけちゃん、俺もう帰るから、これ!」と言ってビニールテープを投げつけてきたのですが、投げたテープがおもいっきりドブにはまったんですよ!

 何しにきてん、お前!泥棒し、人の邪魔をし、警察から逃げ、人様のものをドブに捨てるなんて並みの犯罪者よりもたち悪いぞ!

 このあと、僕の父親はクギを踏みましたからね。木下さんのあまりの奇行に焦ったのか、めったにミスなどしないのに、マジでクギ踏みましたから。

検証エピソード⑤『マッスルドッキング』
 僕が小学生のときに、『キン肉マン』が大流行しました。

 仲間内で技をかけ合うのが日課になったのですが、相手も子供なので体が小さく、うまくかけられません。誰もがかける側にまわりたいことから、それぞれのお父さんに、技をかけさしてもらうようになりました。

 ですが、どのお父さんも、平日は仕事でいません。休日だけでは満足できず、自営業で暇を持て余している、木下さんに技をかけさしてもらうことになったのです。

 木下さんは、子供と遊ぶのが好きです。こころよく引き受けてくれ、しかも「痛い痛い!」とオーバーに痛がってくれるので、非常にかけがいがあるんですね。

 ところがあるときから、お金を取るようになりました。

 最初こそ楽しそうにやっていたものの、悪知恵を思いついたのでしょう。家にある漫画で技の難易度を調べ、「今日からはお金を取るから!」と言って、各技に対する値段表を見せてきたのです。

 それでも、値段はしれています。「ベルリンの赤い雨=20円」「キャメルクラッチ=30円」など、1番高いクロスボンバーでも100円だったので、僕らはお金を払って、技をかけさしてもらいました。

 木下さんにとっては、いい小遣い稼ぎなのでしょう。僕らのグループ7人から、日々、小銭を稼ぎまくっていたのですが、体を酷使しすぎて、ボロボロになっていったのです。

 なかでもバッファローマンの必殺技、ハリケーンミキサー。

 ツノで相手を吹っ飛ばす技で、助走をつけて木下さんの顔面に頭突きをするのですが、これは50円なのです。

 50円ですよ、これ?どう考えても割に合わないでしょ!?

 一度、7人で7発分のハリケーンミキサーを購入したところ、「連続でこい!」と言われました。

 4人目ぐらいで鼻血が出ているのに、木下さんは「いいから、こい!」と平気で、僕らをガンガンに受け止めます。段々とエスカレートし、「マッスルインフェルノ=200円」という、サーフィンの姿勢で体に乗って壁に突進する技を、大きな滑り台でサーフィンの板になり、僕らにやらしてくれたのです。

 ある日のことです。

 僕の家で友達と遊んでいると、木下さんがニヤニヤしながらやってきて言いました。

 「マッスルドッキングをせえへんか?」

 マッスルドッキングというのは、大技中の大技です。キン肉バスター(相手を逆さに持ち上げ、相手の首を自分の肩口で支えて着地する)とキン肉ドライバー(相手の両足首をつかみ、自分の両脚で、相手の両腕の動きを封じた状態で落下する)を組み合わせた、禁断の技なのです。誰か2人でキン肉バスターを作り、自分がキン肉ドライバーをかけられた状態で床に頭をつけ、キン肉バスターとドッキングする、と言うのです。

 なるほど、難しいとはいえ、できないことはありません。残った仲間に体を支えてもらえば、ぎりぎり可能でしょう。

 ただし、値段は1000円です。大技のため、吹っかけてきやがったんですね。

 メンバーの1人である家君が、「俺が出すわ!」と言ってくれました。

 家君は、金持ちの息子です。全額出してくれることになり、僕らはクラスメイトに自慢するため、写真を撮ることにしました。

 準備が整い、僕の家の階段で技をかけることになりました。

 キン肉ドライバーをするのは僕です。僕は、逆さになって首を床につけた木下さんの両腕に両足を載せ、階段にもたれかかりました。同時に僕の上で、メンバーで1番体重の軽い川田君を、家君が持ち上げたのです。

 僕はワクワクしてきました。「写真を頼むで!」と、仲間にお願いしました。

 「マッスル、ドッキーング!!!」

 2組がドッキングしました。少し傾いてはいるものの、仲間に支えられながら、夢の大技が完成したのです。

 ところが、1番下の木下さんの様子がおかしいです。何かを叫んでいるので僕は何気に下を見たところ、頭突きの後遺症と頭に血が昇ったせいで鼻血がおもいっきり噴き出してるんですよ!血が口にあふれ返って呼吸ができなくなっており、しかも途中から家君が足を木下さんの股間に置いたため、金玉に2人の全体重がかかって悶絶しているのです!

 「痛い痛い痛い!あかんあかんあかん!あかんあかんあかん!」

 これ、逆さになって血吐きながら叫んでるんですよ!目にも血が入り、僕の左足が木下さんの耳を踏んだせいで五感すべてがやられてしまっているのです!

 「やめろや!やめろって!」

 お前が頼んでんやろが!お前が進んでお願いしてきてんやろが!

 「ウギャーーー!もう限界!!!」

 痛みが限界に達した木下さんが体を動かしたため、僕らは床に叩きつけられました。すると木下さんは顔面血まみれのまますぐに立ち上がり、倒れている家君に手を差し出してこう叫んだのです。

 「金!」

 言うてる場合か!!!


 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。

 ちなみにエピソード①でご紹介した、外国人のウィリアム。

 結局、絵を3枚買ってあげることになったのですが、玄関を出たウィリアムに、最後に木下さんがこう叫びました。

 「グッバイ!オマバによろしく!」

 オバマや!!!

大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?の考察~最終日~(パソコン読者用)

※2008年・5月3日の記事を再々編集


 「ちょっと、こっちにきてくれるか?」


 見上げた視線の先に、沢口さんがいました。あの顔面凶器が、過去最高の顔面で僕らの前に現れたのです。


 そこで今回は、体力強化合宿の最終話、「大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?」の考察~最終日~です。


 「2人とも、飯はもうそのへんにしておけ。ちょっと外に出よか」


 沢口さんは続けました。


 怒鳴らない、紳士的な口調が逆に怖いです。「怒りを通り越してこの口調になりましたよ」というのが、見るからにわかるのです。


 僕と小林は、言うとおりにするしかありません。僕は箸を止めて、口に入っていたカレーうどんの麺を飲み込みました


 沢口さんに連れ立たれて、校舎を出ます。


 連れて行かれる際、ふと見た沢口さんの右目が、怒りでピクピクと震えています。「右目だけ誰かがリモコンで動かしてますよ!」というぐらい、鋭い視線が素早い上下運動をくり返しているのです。


 そして、会話もないままに社会学部を出た瞬間、張り手にも近いビンタが僕らに飛んできたのです。


 「殺すぞ、お前ら!!!」


 僕らは吹っ飛ばされました。衝撃がすごすぎて、後ろの花壇に背中から突っ込んでいったのです。


 殴られた衝撃で、カレーうどんが口の中に逆流してきました。血と嘔吐物が混ざった気持ち悪い液体が、口一杯に広がりました。


 沢口さんに腕をつかまれて、僕らは部室に連れて行かれました。


 時刻は夕方の4時。僕と小林の班のメンバーを集めて、緊急の反省会が開かれることになりました。


 部室には、昨日脱走した平田がいます。校内で発見されて合宿に連れ戻されたのですが、そんな平田のことがまったく気にならないほど、僕は自分のことで精一杯です。


 桜木さんは、「リーダーの僕の管理責任です!」と、山川さんと沢口さんに頭を下げています。小林の班のリーダーも同様に謝罪したのですが、神林が言い放った言葉に、僕は殺意を覚えました。


 「バスコ、頼むわ!」


 お前が言うなよ!脱走したお前に言う資格なんてないねん!


 「みんな大変やねんから、勝手なことしたらあかんで!」


 お前が1番勝手やねん!お前、耳たぶを業務用のホッチキスでカッツーン止めたろか!両たぶとも止めたろか!って、両たぶってなんやねん!


 ですが、ことがことだけに、言い返すわけにもいきません。僕は神林に納得が行かないながらも、何度も謝罪の言葉を口にしました。


 すると、僕の尋常ではないこうべの垂れ方が功を奏したのでしょう。山川さんも沢口さんも根負けし、許してくれたのです。


 ただ、砂は増やされます。僕と河井は都合52キロ、2年生とはいえ新人の神林も52キロ、桜木さんに至っては、前代未聞の70キロを背負わされることになったのです。


 70キロですよ、70キロ!?こんなもん、あの二宮金次郎でも「母さん、僕もう蒔きを担ぐんはイヤやから、悪いけど吉原で働いてくれない?」とか泣き言を言うでしょ!?


 翌日の歩荷を想像して倒れそうになったのですが、僕は怒られながらも、どこか緊張感がありません。気がつくと、こう口にしていました。


 「山川さん、桜木さんが増やされる分の砂を僕に担がせてください!」


 僕は薄っぺらい人間です。「桜木さんへの申し訳なさを示せば、誰もが俺に共感してくれるわ!」とばかりに、子供にありがちな妙なヒーローを演じようとしています。「無茶言うなよ!」と返ってくることを見越して、思ってもいないことを口にしたのです。


 ですが、小さい器は、大きい器の前では陰になります。器の大きい人間は時として残酷で、山川さんが冷然たる表情を浮かべて、僕にこう言いました。


 「思ってもいないのに、そんなこと言わなくていいから。お前みたいな奴は、自分の分だけを背負ってればいいから」


 卑しい心を見透かされて、呆然としました。


 周囲も僕の「エセ勇気」を見透かしたのでしょう。僕にひと言も声をかけることなく、その場を立ち去ったのです。


 僕はその場に立ち尽くしました。


 「俺はなんてつまらない人間なんだ……」


 こんなふうに思えて仕方がありません。桜木さんに「どんまい!」と背中を叩かれても、器の違いを見せられたようで、自分が心底、惨めに思えたのです。


 このあと、裏山に戻って掃除を始めました。


 僕の心は自己嫌悪に支配されています。掃除が手につかず、晩ご飯抜きで立たされたときも、茫然自失。唯一の楽しみであるシャワーも、楽しんでいるフリをしているだけで、本当は頭の中が真っ白だったのです。


 時刻は夜の9時になりました。


 シンポジウムを終えて部室を出ると、校舎の下の階段に、同期の仲間が集まっていました。


 その場に上級生はいません。明日で合宿が終わることへの安堵感から表情も柔和で、誰もが楽しそうに話をしています。


 ですが、その輪に入っても、僕は疎外感が消えません。


 「こいつら、どうせ腹の中で俺のことを笑ってるんやろ……」


 被害妄想の螺旋にがんじがらめにされて、腹の底から笑えないのです。


 僕は普段から仲間と一緒にいるときも、「こいつは本当は俺のことを嫌っているのではないか……」と疑ってしまうところがあります。猜疑心が強く、仲間とケンカをして仲直りしても、「本当はまだ怒っているのではないか……」と懐疑的になり、どこか距離を置いてしまうところがあるのです。


 事実、このときも無視されたわけでもないのに、僕に「おやすみ」と言わずに立ち去った仲間がいると、「俺のことを腹の中であざ笑っているのではないか……」と疑って、頭が真っ白になったのです。


 「心」に関するすべてのことに対して、僕は未熟です。かっこをつける、すぐにクヨクヨする、人を疑ってしまう……。心の未熟さを数えればキリがありません。

 ですが、同時にこうも思いました。


 「こんな自分を変えたい!」


 昔から気になっていた自分の心の未熟さを、「これを機に潰したい!」という強烈な思いに支配されたのです。


 青臭い18歳の僕は、明日行われる最後の歩荷を、自分への試練と考えました。


 今までのように逃げるのではなく、自分を追い込んで弱さを潰します。死と隣り合わせの経験をするので、妥協せずに立ち向かえば、自分が変われるような気がしたのです。


 急に熱くなってきました。


 テントに戻っても、神林の足の臭さが気になりません。熱さが臭さを凌駕して、タオルを鼻にかけただけで我慢できました。


 目を閉じて、僕は自分の18年間の人生を振り返りました。自分の人生を自問自答したところ、親に甘やかされて育ったことに気がついたのです。


 好きなものを何でも買ってもらったこと、何かにつけて親に付き添ってもらったこと……。未成年でまだ免罪符になるとはいえ、親の愛が自己成長を阻害していたことに気がついたのです。


 防空壕であるはずのこのテントが、母親の胎内のように思えてきました。「何かあったら親が助けてくれる」という甘えを具現化したようで、妙に居心地悪く感じられました。


 僕の自問自答は、やがて行動となって表れました。


 「明日は絶対に自分の力でリュックを担いでやる!」


 体中が燃えたぎり、真夜中にもかかわらず、担ぐ練習をすることにしたのです。


 今までの僕は、練習する姿を周囲に見せつけて同情を買うような、あさましい人間でした。


 ですがこのときは、そんな感情は芽生えませんでした。リュックを引きずって誰もいない竹やぶまで運び、52キロの砂と1本勝負をくり広げました。


 とはいえ、簡単には持ち上がりません。今までよりかは惜しいところまではいくものの、そこから手を離してしまいます。


 しかも、疲労という名の弱さが熱さを凌駕し、「まあ、なんとかなるか」と、あきらめてしまいます。「あと1回だけやし逃げ切れるか」と、弱い自分が再び顔を出し始めたのです。


 そこで、腕を疲れさせすぎないように練習こそやめたものの、自分の熱い思いを形で表すために、徹夜で行くことにしました。


 寝て目が覚めると、熱さがリセットされているような気がします。一睡もせずに自分を追い詰めることにしました。


 迎えた、翌朝。


 「起きろ!起きんかい!」


 山川さんの怒声が朝を告げました。


 かけ声と同時に、僕は勢いよくテントを飛び出しました。


 幸いにも、昨晩の熱さは維持できています。僕は朝ご飯をかき込み、身支度を整えて、いつものように整列しました


 「最後やから気合い入れて行けよ!よっしゃ、担げ!」


 山川さんの号令で、僕らはリュックを担ぎ始めました。


 ですが、僕は担げません。あれだけ練習したのに担げないのです。


 それでも、今までとはモチベーションが違います。前日までは、なんだかんだでサポーターの女性が助けてくれる、と甘えていたのですが、そんな弱さは今の僕にはありません。


 失敗しても、何度もチャレンジします。プライドも羞恥心も捨て去り、力みすぎて鼻水を垂らしながらも、「どどど根性」を見せつけたのです。


 結果、最終日にして初めて、担げたのです。


 冷静になって考えれば、決して担げない重さではなかったことに気がつきました。


 今までは、「自分だけ取り残されるのは恥ずかしい」「周囲が自分をさげすみながら見ている」などと、周りを意識しすぎて心が折れていただけだったのです。50キロを超えるとはいえ、ベルトに手を通して持ち上げることは、それほど難しいことではなかったのです。


 担げた僕を見て、山川さんが手を叩きながら言ってくれました。


 「バスコ、よくやったぞ!」


 まぶたの奥が、じわりと潤みました。


 担げない仲間を見ても、今の僕には彼らをさげすむようなところはありません。むしろ「がんばれよ!」とばかりに、心でエールを送っていたのです。


 他愛のないこととはいえ、自分がひと回り大きくなった気がしました。


 いつものように、裏山を下りました。


 前日までは、下るときのヒザへの衝撃がたまらなく痛かったのですが、今日は気合いが入っているため気になりません。僕は前の奴を追い越して、猛スピードで裏山を出ました。


 とはいえ、歩荷は甘くありません。過去最高のその重みは尋常ではなく、最終日の今日は、「自分が今までに犯した罪やすべての弱さ」といった感じで、その負の重さが計り知れません。


 僕はこの重みに対して、償い、前向きといった気持ちで戦うことにしました。過去を振り返り、甘やかされて育ったこと、友達の悪口を言ったこと、ウソくさい反省の姿を見せたことなど、このピンチをチャンスと捉えて、一気に吹っ切ろうと考えました。


 ところが熱くなった気持ちも、50キロを超える重みの前では、やがて駆逐されます。最初こそ気合いが入っていたものの、張り切りすぎて、次第に弱さが顔を出してきたのです。


 やはり人間、そう簡単には変わりませんね。


 「俺は何をかっこいいことを考えてんねん!」


 「神林、早く歩けよ!4浪もしてるくせによ!」


 このように、負の心にどんどん支配されていったのです。


 それでも、熱さの芽は完全に抜かれたわけではありません。僕は熱さの芽を伸ばしては縮ませ、縮んでは伸ばすのをくり返しながら、歩き続けました。


 「今日は外には一切出ないから!ずっと校内を歩くから!」


 山川さんが叫びました。


 山川さんを先頭に、各学部の校舎のまわりを順番に移動します。


 校内とはいえ、アップダウンが激しいところもあります。桜木さんが遅れだしたことで、僕らの班は最後尾。それでも僕は死力を尽くして足を運んだのですが、歩荷中にもかかわらず、神林が僕に話しかけてきたのです。


 最終日ということで、神林のテンションは上がっています。熱くなっており、僕に妙な励ましの言葉をかけてきたのです。


 「バスコ、がんばろうな!」


 「……」


 「がんばろうな!」


 「……はい、がんばりましょうね」


 「えっ?」


 がんばれんわ、お前がおったら!この先不安やわ、お前みたいな奴と一緒やったら!


 「バスコやったらできる!」


 「……」


 「バスコやったら絶対にできる!」


 「……」


 「バスコは必ずなんとかする男や!!!」


 なんともならんわ、お前と一緒やったら!俺がドラえもんやったとしても自信ないわ!


 「バスコ、腰は痛くないか?」


 「……」


 「腰は痛くないか?」


 「……痛いですよ」


 「そうか」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 ……確認だけなん!?ちょっと待って、俺の腰を心配してるんじゃなくて、確認してるだけなん!?「サロンシップがあるけどよかったら?」とか言わへんの!?


 「そうか。バスコは腰が痛いんか」


 何がしたいねん、お前!何もしてくれへんのになんでそんなこと訊くねん!


 「神林さん、ちょっと話しかけんといてください!マジでしんどいんで!」


 「俺もしんどいねん!しんどいのはみんな一緒!」


 ごめん、何言ってんの、自分!?かっこつけたいかどうか知らんけど、全然意味わからんねんけど!?


 「弱い自分を変えていけよ!!!」


 何なんお前、マジで!もう検事呼ぶぞ、お前!弁護士と違うぞ、国が主体となってお前を訴えるぞ!


 このように、僕にひたすら迷惑をかけてくるのです。


 僕は神林の話を適当に聞き流しながら、歩き続けました。


 時刻は6時になりました。


 正門の近くにある「法文坂」と呼ばれる坂を通りがかったとき、山川さんが叫びました。


 「よっしゃ!じゃあ休憩のあとに、この法文坂を10セット走るから!」


 勘弁してくれよ、おい!50度以上あるやんけ、この坂!


 思わず、熱さの芽が抜かれかけました。


 それを証拠にこのあとの休憩の際、仲間に向ける視線が、天使から悪魔に変わっていたのです。


 とりわけ神林を見ると、今までのことが思い出されて、過去最高にイライラしてきました。


 神林は熱くなっています。脱走した平田に近づいて、こう言いました。


 「平田、お前やったらできるよ!」


 何様やねん、お前!お前にそんなこと言う資格ないねん!


 「平田、逃げても意味ないよ!」


 お前も逃げたやろ!「脱走の先輩」は先輩って意味と違うからな!


 「バスコ、大丈夫か?」


 「バスコ、このチョコレートを食べ!」


 「バスコ、このポカリスエット、いっぱい飲みや!」


 選挙出んのか、お前!選挙の立候補を考えてるその街で1番土地持ってる奴か!


 「バスコ、飲みすぎやで、ポカリ!」


 どっちやねん、お前!AB型か!


 「この野郎!飲みすぎやがって、この野郎!」


 うざっ、こいつ!なんやねんこのテンション!

 

 「バスコ、自分を変えていけよ!!!」


 ええ加減にせいよ、コラ!ていうか、お前はいつ変わんねん!お前が1番変わらないとあかんねんぞ!


 僕は終始、神林にイライラしました。まったく休めないままに、休憩が終了したのです。


 「よっしゃ、法文坂を走れ!」


 山川さんの号令で、僕らは一斉に走らされることになりました。


 案の定、この坂はえげつないです。傾斜がきついのはもちろん、長さは50メートル以上もあります。倒れ込む奴が続出し、神林なんて、軽いゲロを吐きながら走っているのです。


 ゲロ吐くなよ、お前!ていうかさすがに立ち止まれよ、ゲロ吐いてるんやから!


 「そーれっ!れっ!」


 声出し始めやがった、命令されてないのに!声と同時にゲロが飛び出してきた!


 「そーれっ!れっ!オロオロオロオロ!オロオロオロオロ!」


 本ゲロ吐きやがった!本ゲロ吐き出したぞ、おい!


 「ニンニンニンニン!ニンニンニンニン!」


 忍者が出てきた!ここでまさかの忍者が!


 「オロオロオロオロ!」


 「ニンニンニンニン!」


 「オロオロオロオロ!」


 「ニンニンニンニン!」

 

 ゲロと忍者のコラボ!ゲロニンはきつすぎるぞ、この状況で!


 「神林さん、休んだらどうですか?」


 「えっ?」


 「休んだらどうですか?」


 「えっ?」


 「休んだらどうですか!?」


 「休みたいけどオロオロオロオロ!」


 「ニンニンニンニン!」


 「オロオロオロオロ!」


 「ニンニンニンニン!」


 どうなってんねん、ここ!どうなってんねんこの一帯マジで!もう俺もろとも爆撃してくれ!俺なりの愛国心として命捨てるわ、これ以上もうこいつらを野放しにはできん!

 

 おかしなことが多すぎて、僕は精神的にも肉体的にもボロボロです。

 

 僕の足の裏には、たくさんの血豆ができています。皮もズルむけなので、そこに体重がかかってめちゃくちゃ痛いのです。


 吉田という同期の奴に至っては、脱水症状で頭がおかしくなっています。近くの噴水に頭を突っ込んで、溺死しかけました。背中の重みで顔を上げられなくなり、誰かが気づかなければ、完全に死んでいたのです。

 惨事は続きます。


 「どどど根性」でなんとか法文坂を制覇したものの、気合いの入りすぎた山川さんが「グラウンドに併設された客席を駆け上がれ!」って言うんですよ!


 無理無理!メロスでも無理!


 70度ぐらいあるんですよ、この客席!高さも広島市民球場の外野席ぐらいあるのです!


 もう何でもするから許してくれ!死ぬまでヘルメットを枕にして寝るわ!仲本工事そっくりの女と結婚するわ!だから許してくれって、ごめん、やっぱり仲本工事はイヤやわ!

 結果、全員がボロボロです。かけ声を要求されても、「ハアハア、そーれっ、れっ……」と声が出ません。


 ですが、神林だけは元気です。完全に頭がおかしくなっており、このときに神林が叫んだ「キチ○イボイス」だけは、いまだに耳から離れません。「そうそうそうそう!そうそうそうそう!」と「そう」を何度もため、「そうっーーーーーーれっ!れっ!れっ!」と絶叫し、最後に「レッツゴー!」って言ったんですよ。


 あの世にレッツゴーしろ、お前は!で、えんま大王に「耳が遠いのでもう1回言ってもらえませんか?」と口答えしてキレられろ!


 「れい、れい、レッ、レッ、レッツゴーーー!!!」


 噛んだぞ、おい!この瞬間、地球上で1番かっこ悪い奴がおったぞ、ここに!


 僕はフラフラです。体中のすべてが痛くて、もやしみたいな姿勢で上っているのです。


 時刻は7時をまわっています。何度も上らされた挙句、休憩もなしに校内を移動させられました。


 ですがしばらくして、僕らは山川さんから天使の言葉を聞くことになります。


 「よっしゃ!あとは裏山に戻って終了や!歩荷はこれで終わりやから、最後に死力を尽くせ!」


 ハア、もうすぐ終わるんや……。家に帰って、あたたかい布団で寝れるんや……。


 熱さの芽が、すくすくと成長してきました。


 「みんな、あと少しやからがんばろうぜ!」


 僕は率先して声を出しました。


 周りを見渡すと、僕のように熱い奴らばかりです。誰もが汗ダラダラで声を振り絞っており、彼らを見ると、「こんな大学生活も悪くないのではないか」と考える自分がいたのです。


 そしてその思いは、このあと、確信に変わります。


 裏山に戻って、いつものゴール地点を通過しました。裏山を抜け、大学中が見渡せる丘に到着したところ、そこにOBの富岡さんが立っていたのです。


 富岡さんは、優しい表情を浮かべています。両手で大きな画用紙を持ち上げており、そこにはこう書かれていました


 『お前ら、最高にかっこよかった!』


 もう、泣きましたよ。あんなに怖かった富岡さんが、「バスコ、あと少しや!がんばれ!」とエールを送ってくれたのです。


 山川さんは言いました。


 「お前ら、この丘から大学を見渡して自分の思いを叫べ!腹の底から声を出して、自分の弱さを潰せ!」


 僕は涙が止まりません。ここまでたどりつけたこと、なにより、最後にして自分の弱さと向き合えたことに感動したのです。


 途中で、何度も自分の弱さに負けました。ただそれでも、仮に「1勝9敗」でも、ここにたどりついた自分がいることは事実。僕は「1勝した」のです。


 「俺はがんばったぞ!!!」


 僕は叫びました。誰もが自分の思いを言葉にして叫び、神林なんて、「ウララララー!未来の自分にウララララー!」と謎の雄たけびをあげたのです。



 5日間に及んだ、地獄の歩荷が終わりを告げました。


 このあといつものようにテント設営を行うことになり、熱くなった僕は、設営の相手に神林を指名しました。


 「大団円でこの合宿を終わりたい!」


 こう考えて、唯一の懸念材料だった、神林とのわだかまりを解くことにしたのです。


 「神林さん、よかったら、僕とテント設営しませんか?」


 すると手を差し伸べた僕に、神林はこう言いました。


 「いや、バスコは怖いから遠慮しとくわ!」


 断んなよ、お前!空気読めよ!


 夕方に、裏山で「砂捨て式」と題して、今まで担いだ砂を捨てる儀式が行われました。僕は、「自分が今までに犯した罪やすべての弱さ」を捨て去りました。


 捨てた砂に水を混ぜて泥んこにし、3、4年生にかけることを許されました。


 僕はすさまじい勢いで、かけたおしてやりました。どさくさに紛れて、沢口さんの陰毛を50本以上引っ張ってやりましたし、神林なんて、はしゃぎすぎて補聴器が吹っ飛んだのです。


 夜の7時から、テントの前で合宿の打ち上げが行われました。


 山川さんも沢口さんも、今までのことが何だったかと思うほど、優しいです。


 山川さんは、昨日、僕に言ったことを訂正してくれました。


 「バスコ!お前は強い男や!」


 僕の目を見て、こう言ってくれたのです。


 サポーターの女性が、僕が担ぐ砂の量を加減していたことを、こっそりと教えてくれました。新入生に50キロはきついらしく、山川さんの配慮で、僕が最終日に背負っていたのは52キロではなく、45キロだったらしいのです。


 山川さんの男気と優しさに、僕は再び涙をこぼしました。


 宴の最中、富岡さんの命令で、新入生が順番に一発芸を披露することになりました。


 僕は山川さんのモノマネをしてスベり、同期の仲間も、思いつきでいろいろなことをやりました。


 ですが、神林の芸だけは一際、異彩を放っていました。最後の最後まで、この人はやってくれます。


 「えー、ちょっと何をしたらいいかわからないので、キリスト教の教えを説きたいと思います。イエス様は……」


 いやいや、笑えんわ!引くわ!


 「ユダに裏切られ……」


 お前も裏切ったやろ!ドユダやろ、お前は!



 強化合宿で感化された僕は、その後、探検にのめりこんでいきました。


 この合宿終わりで部を辞めるつもりだったのに、夏には山に登り、秋には再び洞窟に行き、冬には雪山にも登りました。


 ですが、2年生になって再び体力強化合宿の時期になると、部を続ける気が起きなかったのです。


 僕は探検部を去りました。桜木さんが部のキャプテンになり、お世話になった先輩に別れのあいさつをして、部を去ったのです。


 探検部での濃密な時間は、今でも最高の思い出です。事実、ここで知り合った仲間とは今でも付き合いがあるほどで、本当に充実していました。


 ただ、入部したことを、僕は後悔しているのです。


 初日の冒頭でもご紹介したとおり、「女の子と楽しく大学生活を送る」という当初の目的が、探検部に入ったことでできなかったからです。2年生からはバイトが生活の主となり、キャンパスライフもくそもなかったのです。


 大学のサークル選びは、死ぬほど考えなければなりません。たくさんのサークルを訪ねるのはもちろん、各イベントにも積極的に参加し、自分に合った最高のサークルを選ばなければならないのです。


 スポーツ一直線の青春も、それはそれで充実しているでしょう。


 ですが、大学生活はなんと言っても、「異性とどう楽しい時間を過ごしたか?」が核。彼女彼氏の有無だけではなく、「キャンパス内でどれだけ異性と笑い合えたか?」を最優先順位で考えなければならず、そうしないことには、僕のような中途半端なキャンパスライフになってしまうんですね。


 ちなみに神林は、僕と同じ時期に、同じ理由で部を去りました。


 大学卒業後は、司法書士を目指して司法浪人をしていたらしいのですが、今から5年前に桜木さんにお会いしたときに聞いた話では、当時の神林は、まだ浪人していたのです。


 えーと、5年前にまだ浪人。4浪して大学を卒業したときが26歳。現在35歳で、5年前にまだ浪人してたということは、少なく見積もっても再び4浪って、お前は人生で何年浪人してんねん!


 未来のお前はイタタタター!!!


大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?の考察~最終日~(携帯読者用)

※2008年・5月3日の記事を再々編集

 「ちょっと、こっちにきてくれるか?」

 見上げた視線の先に、沢口さんがいました。あの顔面凶器が、過去最高の顔面で僕らの前に現れたのです。

 そこで今回は、体力強化合宿の最終話、「大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?」の考察~最終日~です。

 「2人とも、飯はもうそのへんにしておけ。ちょっと外に出よか」

 沢口さんは続けました。

 怒鳴らない、紳士的な口調が逆に怖いです。「怒りを通り越してこの口調になりましたよ」というのが、見るからにわかるのです。

 僕と小林は、言うとおりにするしかありません。僕は箸を止めて、口に入っていたカレーうどんの麺を飲み込みました。

 沢口さんに連れ立たれて、校舎を出ます。

 連れて行かれる際、ふと見た沢口さんの右目が、怒りでピクピクと震えています。「右目だけ誰かがリモコンで動かしてますよ!」というぐらい、鋭い視線が素早い上下運動をくり返しているのです。

 そして、会話もないままに社会学部を出た瞬間、張り手にも近いビンタが僕らに飛んできたのです。

 「殺すぞ、お前ら!!!」

 僕らは吹っ飛ばされました。衝撃がすごすぎて、後ろの花壇に背中から突っ込んでいったのです。

 殴られた衝撃で、カレーうどんが口の中に逆流してきました。血と嘔吐物が混ざった気持ち悪い液体が、口一杯に広がりました。

 沢口さんに腕をつかまれて、僕らは部室に連れて行かれました。

 時刻は夕方の4時。僕と小林の班のメンバーを集めて、緊急の反省会が開かれることになりました。

 部室には、昨日脱走した平田がいます。校内で発見されて合宿に連れ戻されたのですが、そんな平田のことがまったく気にならないほど、僕は自分のことで精一杯です。

 桜木さんは、「リーダーの僕の管理責任です!」と、山川さんと沢口さんに頭を下げています。小林の班のリーダーも同様に謝罪したのですが、神林が言い放った言葉に、僕は殺意を覚えました。

 「バスコ、頼むわ!」

 お前が言うなよ!脱走したお前に言う資格なんてないねん!

 「みんな大変やねんから、勝手なことしたらあかんで!」

 お前が1番勝手やねん!お前、耳たぶを業務用のホッチキスでカッツーン止めたろか!両たぶとも止めたろか!って、両たぶってなんやねん!

 ですが、ことがことだけに、言い返すわけにもいきません。僕は神林に納得が行かないながらも、何度も謝罪の言葉を口にしました。

 すると、僕の尋常ではないこうべの垂れ方が功を奏したのでしょう。山川さんも沢口さんも根負けし、許してくれたのです。

 ただ、砂は増やされます。僕と河井は都合52キロ、2年生とはいえ新人の神林も52キロ、桜木さんに至っては、前代未聞の70キロを背負わされることになったのです。

 70キロですよ、70キロ!?こんなもん、あの二宮金次郎でも「母さん、僕もう蒔きを担ぐんはイヤやから、悪いけど吉原で働いてくれない?」とか泣き言を言うでしょ!?

 翌日の歩荷を想像して倒れそうになったのですが、僕は怒られながらも、どこか緊張感がありません。気がつくと、こう口にしていました。

 「山川さん、桜木さんが増やされる分の砂を僕に担がせてください!」

 僕は薄っぺらい人間です。「桜木さんへの申し訳なさを示せば、誰もが俺に共感してくれるわ!」とばかりに、子供にありがちな妙なヒーローを演じようとしています。「無茶言うなよ!」と返ってくることを見越して、思ってもいないことを口にしたのです。

 ですが、小さい器は、大きい器の前では陰になります。器の大きい人間は時として残酷で、山川さんが冷然たる表情を浮かべて、僕にこう言いました。

 「思ってもいないのに、そんなこと言わなくていいから。お前みたいな奴は、自分の分だけを背負ってればいいから」

 卑しい心を見透かされて、呆然としました。

 周囲も僕の「エセ勇気」を見透かしたのでしょう。僕にひと言も声をかけることなく、その場を立ち去ったのです。

 僕はその場に立ち尽くしました。

 「俺はなんてつまらない人間なんだ……」

 こんなふうに思えて仕方がありません。桜木さんに「どんまい!」と背中を叩かれても、器の違いを見せられたようで、自分が心底、惨めに思えたのです。

 このあと、裏山に戻って掃除を始めました。

 僕の心は自己嫌悪に支配されています。掃除が手につかず、晩ご飯抜きで立たされたときも、茫然自失。唯一の楽しみであるシャワーも、楽しんでいるフリをしているだけで、本当は頭の中が真っ白だったのです。

 時刻は夜の9時になりました。

 シンポジウムを終えて部室を出ると、校舎の下の階段に、同期の仲間が集まっていました。

 その場に上級生はいません。明日で合宿が終わることへの安堵感から表情も柔和で、誰もが楽しそうに話をしています。

 ですが、その輪に入っても、僕は疎外感が消えません。

 「こいつら、どうせ腹の中で俺のことを笑ってるんやろ……」

 被害妄想の螺旋にがんじがらめにされて、腹の底から笑えないのです。

 僕は普段から仲間と一緒にいるときも、「こいつは本当は俺のことを嫌っているのではないか……」と疑ってしまうところがあります。猜疑心が強く、仲間とケンカをして仲直りしても、「本当はまだ怒っているのではないか……」と懐疑的になり、どこか距離を置いてしまうところがあるのです。

 事実、このときも無視されたわけでもないのに、僕に「おやすみ」と言わずに立ち去った仲間がいると、「俺のことを腹の中であざ笑っているのではないか……」と疑って、頭が真っ白になったのです。

 「心」に関するすべてのことに対して、僕は未熟です。かっこをつける、すぐにクヨクヨする、人を疑ってしまう……。心の未熟さを数えればキリがありません。

 ですが、同時にこうも思いました。

 「こんな自分を変えたい!」

 昔から気になっていた自分の心の未熟さを、「これを機に潰したい!」という強烈な思いに支配されたのです。

 青臭い18歳の僕は、明日行われる最後の歩荷を、自分への試練と考えました。

 今までのように逃げるのではなく、自分を追い込んで弱さを潰します。死と隣り合わせの経験をするので、妥協せずに立ち向かえば、自分が変われるような気がしたのです。

 急に熱くなってきました。

 テントに戻っても、神林の足の臭さが気になりません。熱さが臭さを凌駕して、タオルを鼻にかけただけで我慢できました。

 目を閉じて、僕は自分の18年間の人生を振り返りました。自分の人生を自問自答したところ、親に甘やかされて育ったことに気がついたのです。

 好きなものを何でも買ってもらったこと、何かにつけて親に付き添ってもらったこと……。未成年でまだ免罪符になるとはいえ、親の愛が自己成長を阻害していたことに気がついたのです。

 防空壕であるはずのこのテントが、母親の胎内のように思えてきました。「何かあったら親が助けてくれる」という甘えを具現化したようで、妙に居心地悪く感じられました。

 僕の自問自答は、やがて行動となって表れました。

 「明日は絶対に自分の力でリュックを担いでやる!」

 体中が燃えたぎり、真夜中にもかかわらず、担ぐ練習をすることにしたのです。

 今までの僕は、練習する姿を周囲に見せつけて同情を買うような、あさましい人間でした。

 ですがこのときは、そんな感情は芽生えませんでした。リュックを引きずって誰もいない竹やぶまで運び、52キロの砂と1本勝負をくり広げました。

 とはいえ、簡単には持ち上がりません。今までよりかは惜しいところまではいくものの、そこから手を離してしまいます。

 しかも、疲労という名の弱さが熱さを凌駕し、「まあ、なんとかなるか」と、あきらめてしまいます。「あと1回だけやし逃げ切れるか」と、弱い自分が再び顔を出し始めたのです。

 そこで、腕を疲れさせすぎないように練習こそやめたものの、自分の熱い思いを形で表すために、徹夜で行くことにしました。

 寝て目が覚めると、熱さがリセットされているような気がします。一睡もせずに自分を追い詰めることにしました。

 迎えた、翌朝。

 「起きろ!起きんかい!」

 山川さんの怒声が朝を告げました。

 かけ声と同時に、僕は勢いよくテントを飛び出しました。

 幸いにも、昨晩の熱さは維持できています。僕は朝ご飯をかき込み、身支度を整えて、いつものように整列しました。

 「最後やから気合い入れて行けよ!よっしゃ、担げ!」

 山川さんの号令で、僕らはリュックを担ぎ始めました。

 ですが、僕は担げません。あれだけ練習したのに担げないのです。

 それでも、今までとはモチベーションが違います。前日までは、なんだかんだでサポーターの女性が助けてくれる、と甘えていたのですが、そんな弱さは今の僕にはありません。

 失敗しても、何度もチャレンジします。プライドも羞恥心も捨て去り、力みすぎて鼻水を垂らしながらも、「どどど根性」を見せつけたのです。

 結果、最終日にして初めて、担げたのです。

 冷静になって考えれば、決して担げない重さではなかったことに気がつきました。

 今までは、「自分だけ取り残されるのは恥ずかしい」「周囲が自分をさげすみながら見ている」などと、周りを意識しすぎて心が折れていただけだったのです。50キロを超えるとはいえ、ベルトに手を通して持ち上げることは、それほど難しいことではなかったのです。

 担げた僕を見て、山川さんが手を叩きながら言ってくれました。

 「バスコ、よくやったぞ!」

 まぶたの奥が、じわりと潤みました。

 担げない仲間を見ても、今の僕には彼らをさげすむようなところはありません。むしろ「がんばれよ!」とばかりに、心でエールを送っていたのです。

 他愛のないこととはいえ、自分がひと回り大きくなった気がしました。

 いつものように、裏山を下りました。

 前日までは、下るときのヒザへの衝撃がたまらなく痛かったのですが、今日は気合いが入っているため気になりません。僕は前の奴を追い越して、猛スピードで裏山を出ました。

 とはいえ、歩荷は甘くありません。過去最高のその重みは尋常ではなく、最終日の今日は、「自分が今までに犯した罪やすべての弱さ」といった感じで、その負の重さが計り知れません。

 僕はこの重みに対して、償い、前向きといった気持ちで戦うことにしました。過去を振り返り、甘やかされて育ったこと、友達の悪口を言ったこと、ウソくさい反省の姿を見せたことなど、このピンチをチャンスと捉えて、一気に吹っ切ろうと考えました。

 ところが熱くなった気持ちも、50キロを超える重みの前では、やがて駆逐されます。最初こそ気合いが入っていたものの、張り切りすぎて、次第に弱さが顔を出してきたのです。

 やはり人間、そう簡単には変わりませんね。

 「俺は何をかっこいいことを考えてんねん!」

 「神林、早く歩けよ!4浪もしてるくせによ!」

 このように、負の心にどんどん支配されていったのです。

 それでも、熱さの芽は完全に抜かれたわけではありません。僕は熱さの芽を伸ばしては縮ませ、縮んでは伸ばすのをくり返しながら、歩き続けました。

 「今日は外には一切出ないから!ずっと校内を歩くから!」

 山川さんが叫びました。

 山川さんを先頭に、各学部の校舎のまわりを順番に移動します。

 校内とはいえ、アップダウンが激しいところもあります。桜木さんが遅れだしたことで、僕らの班は最後尾。それでも僕は死力を尽くして足を運んだのですが、歩荷中にもかかわらず、神林が僕に話しかけてきたのです。

 最終日ということで、神林のテンションは上がっています。熱くなっており、僕に妙な励ましの言葉をかけてきたのです。

 「バスコ、がんばろうな!」

 「……」

 「がんばろうな!」

 「……はい、がんばりましょうね」

 「えっ?」

 がんばれんわ、お前がおったら!この先不安やわ、お前みたいな奴と一緒やったら!

 「バスコやったらできる!」

 「……」

 「バスコやったら絶対にできる!」

 「……」

 「バスコは必ずなんとかする男や!!!」

 なんともならんわ、お前と一緒やったら!俺がドラえもんやったとしても自信ないわ!

 「バスコ、腰は痛くないか?」

 「……」

 「腰は痛くないか?」

 「……痛いですよ」

 「そうか」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 ……確認だけなん!?ちょっと待って、俺の腰を心配してるんじゃなくて、確認してるだけなん!?「サロンシップがあるけどよかったら?」とか言わへんの!?

 「そうか。バスコは腰が痛いんか」

 何がしたいねん、お前!何もしてくれへんのになんでそんなこと訊くねん!

 「神林さん、ちょっと話しかけんといてください!マジでしんどいんで!」

 「俺もしんどいねん!しんどいのはみんな一緒!」

 ごめん、何言ってんの、自分!?かっこつけたいかどうか知らんけど、全然意味わからんねんけど!?

 「弱い自分を変えていけよ!!!」

 何なんお前、マジで!もう検事呼ぶぞ、お前!弁護士と違うぞ、国が主体となってお前を訴えるぞ!

 このように、僕にひたすら迷惑をかけてくるのです。

 僕は神林の話を適当に聞き流しながら、歩き続けました。

 時刻は6時になりました。

 正門の近くにある「法文坂」と呼ばれる坂を通りがかったとき、山川さんが叫びました。

 「よっしゃ!じゃあ休憩のあとに、この法文坂を10セット走るから!」

 勘弁してくれよ、おい!50度以上あるやんけ、この坂!

 思わず、熱さの芽が抜かれかけました。

 それを証拠にこのあとの休憩の際、仲間に向ける視線が、天使から悪魔に変わっていたのです。

 とりわけ神林を見ると、今までのことが思い出されて、過去最高にイライラしてきました。

 神林は熱くなっています。脱走した平田に近づいて、こう言いました。

 「平田、お前やったらできるよ!」

 何様やねん、お前!お前にそんなこと言う資格ないねん!

 「平田、逃げても意味ないよ!」

 お前も逃げたやろ!「脱走の先輩」は先輩って意味と違うからな!

 「バスコ、大丈夫か?」

 「バスコ、このチョコレートを食べ!」

 「バスコ、このポカリスエット、いっぱい飲みや!」

 選挙出んのか、お前!選挙の立候補を考えてるその街で1番土地持ってる奴か!

 「バスコ、飲みすぎやで、ポカリ!」

 どっちやねん、お前!AB型か!

 「この野郎!飲みすぎやがって、この野郎!」

 うざっ、こいつ!なんやねんこのテンション!

  「バスコ、自分を変えていけよ!!!」

 ええ加減にせいよ、コラ!ていうか、お前はいつ変わんねん!お前が1番変わらないとあかんねんぞ!

 僕は終始、神林にイライラしました。まったく休めないままに、休憩が終了したのです。

 「よっしゃ、法文坂を走れ!」

 山川さんの号令で、僕らは一斉に走らされることになりました。

 案の定、この坂はえげつないです。傾斜がきついのはもちろん、長さは50メートル以上もあります。倒れ込む奴が続出し、神林なんて、軽いゲロを吐きながら走っているのです。

 ゲロ吐くなよ、お前!ていうかさすがに立ち止まれよ、ゲロ吐いてるんやから!

 「そーれっ!れっ!」

 声出し始めやがった、命令されてないのに!声と同時にゲロが飛び出してきた!

 「そーれっ!れっ!オロオロオロオロ!オロオロオロオロ!」

 本ゲロ吐きやがった!本ゲロ吐き出したぞ、おい!

 「ニンニンニンニン!ニンニンニンニン!」

 忍者が出てきた!ここでまさかの忍者が!

 「オロオロオロオロ!」

 「ニンニンニンニン!」

 「オロオロオロオロ!」

 「ニンニンニンニン!」

 ゲロと忍者のコラボ!ゲロニンはきつすぎるぞ、この状況で!

 「神林さん、休んだらどうですか?」

 「えっ?」

 「休んだらどうですか?」

 「えっ?」

 「休んだらどうですか!?」

 「休みたいけどオロオロオロオロ!」

 「ニンニンニンニン!」

 「オロオロオロオロ!」

 「ニンニンニンニン!」

 どうなってんねん、ここ!どうなってんねんこの一帯マジで!もう俺もろとも爆撃してくれ!俺なりの愛国心として命捨てるわ、これ以上もうこいつらを野放しにはできん!

 おかしなことが多すぎて、僕は精神的にも肉体的にもボロボロです。

 僕の足の裏には、たくさんの血豆ができています。皮もズルむけなので、そこに体重がかかってめちゃくちゃ痛いのです。

 吉田という同期の奴に至っては、脱水症状で頭がおかしくなっています。近くの噴水に頭を突っ込んで、溺死しかけました。背中の重みで顔を上げられなくなり、誰かが気づかなければ、完全に死んでいたのです。

 惨事は続きます。

 「どどど根性」でなんとか法文坂を制覇したものの、気合いの入りすぎた山川さんが「グラウンドに併設された客席を駆け上がれ!」って言うんですよ!

 無理無理!メロスでも無理!

 70度ぐらいあるんですよ、この客席!高さも広島市民球場の外野席ぐらいあるのです!

 もう何でもするから許してくれ!死ぬまでヘルメットを枕にして寝るわ!仲本工事そっくりの女と結婚するわ!だから許してくれって、ごめん、やっぱり仲本工事はイヤやわ!

 結果、全員がボロボロです。かけ声を要求されても、「ハアハア、そーれっ、れっ……」と声が出ません。

 ですが、神林だけは元気です。完全に頭がおかしくなっており、このときに神林が叫んだ「キチ○イボイス」だけは、いまだに耳から離れません。「そうそうそうそう!そうそうそうそう!」と「そう」を何度もため、「そうっーーーーーーれっ!れっ!れっ!」と絶叫し、最後に「レッツゴー!」って言ったんですよ。

 あの世にレッツゴーしろ、お前は!で、えんま大王に「耳が遠いのでもう1回言ってもらえませんか?」と口答えしてキレられろ!

 「れい、れい、レッ、レッ、レッツゴーーー!!!」

 噛んだぞ、おい!この瞬間、地球上で1番かっこ悪い奴がおったぞ、ここに!

 僕はフラフラです。体中のすべてが痛くて、もやしみたいな姿勢で上っているのです。

 時刻は7時をまわっています。何度も上らされた挙句、休憩もなしに校内を移動させられました。

 ですがしばらくして、僕らは山川さんから天使の言葉を聞くことになります。

 「よっしゃ!あとは裏山に戻って終了や!歩荷はこれで終わりやから、最後に死力を尽くせ!」

 ハア、もうすぐ終わるんや……。家に帰って、あたたかい布団で寝れるんや……。

 熱さの芽が、すくすくと成長してきました。

 「みんな、あと少しやからがんばろうぜ!」

 僕は率先して声を出しました。

 周りを見渡すと、僕のように熱い奴らばかりです。誰もが汗ダラダラで声を振り絞っており、彼らを見ると、「こんな大学生活も悪くないのではないか」と考える自分がいたのです。

 そしてその思いは、このあと、確信に変わります。

 裏山に戻って、いつものゴール地点を通過しました。裏山を抜け、大学中が見渡せる丘に到着したところ、そこにOBの富岡さんが立っていたのです。

 富岡さんは、優しい表情を浮かべています。両手で大きな画用紙を持ち上げており、そこにはこう書かれていました。

 『お前ら、最高にかっこよかった!』

 もう、泣きましたよ。あんなに怖かった富岡さんが、「バスコ、あと少しや!がんばれ!」とエールを送ってくれたのです。

 山川さんは言いました。

 「お前ら、この丘から大学を見渡して自分の思いを叫べ!腹の底から声を出して、自分の弱さを潰せ!」

 僕は涙が止まりません。ここまでたどりつけたこと、なにより、最後にして自分の弱さと向き合えたことに感動したのです。

 途中で、何度も自分の弱さに負けました。ただそれでも、仮に「1勝9敗」でも、ここにたどりついた自分がいることは事実。僕は「1勝した」のです。

 「俺はがんばったぞ!!!」

 僕は叫びました。誰もが自分の思いを言葉にして叫び、神林なんて、「ウララララー!未来の自分にウララララー!」と謎の雄たけびをあげたのです。


 5日間に及んだ、地獄の歩荷が終わりを告げました。

 このあといつものようにテント設営を行うことになり、熱くなった僕は、設営の相手に神林を指名しました。

 「大団円でこの合宿を終わりたい!」

 こう考えて、唯一の懸念材料だった、神林とのわだかまりを解くことにしたのです。

 「神林さん、よかったら、僕とテント設営しませんか?」

 すると手を差し伸べた僕に、神林はこう言いました。

 「いや、バスコは怖いから遠慮しとくわ!」

 断んなよ、お前!空気読めよ!

 夕方に、裏山で「砂捨て式」と題して、今まで担いだ砂を捨てる儀式が行われました。僕は、「自分が今までに犯した罪やすべての弱さ」を捨て去りました。

 捨てた砂に水を混ぜて泥んこにし、3、4年生にかけることを許されました。

 僕はすさまじい勢いで、かけたおしてやりました。どさくさに紛れて、沢口さんの陰毛を50本以上引っ張ってやりましたし、神林なんて、はしゃぎすぎて補聴器が吹っ飛んだのです。

 夜の7時から、テントの前で合宿の打ち上げが行われました。

 山川さんも沢口さんも、今までのことが何だったかと思うほど、優しいです。

 山川さんは、昨日、僕に言ったことを訂正してくれました。

 「バスコ!お前は強い男や!」

 僕の目を見て、こう言ってくれたのです。

 サポーターの女性が、僕が担ぐ砂の量を加減していたことを、こっそりと教えてくれました。新入生に50キロはきついらしく、山川さんの配慮で、僕が最終日に背負っていたのは52キロではなく、45キロだったらしいのです。

 山川さんの男気と優しさに、僕は再び涙をこぼしました。

 宴の最中、富岡さんの命令で、新入生が順番に一発芸を披露することになりました。

 僕は山川さんのモノマネをしてスベり、同期の仲間も、思いつきでいろいろなことをやりました。

 ですが、神林の芸だけは一際、異彩を放っていました。最後の最後まで、この人はやってくれます。

 「えー、ちょっと何をしたらいいかわからないので、キリスト教の教えを説きたいと思います。イエス様は……」

 いやいや、笑えんわ!引くわ!

 「ユダに裏切られ……」

 お前も裏切ったやろ!ドユダやろ、お前は!


 強化合宿で感化された僕は、その後、探検にのめりこんでいきました。

 この合宿終わりで部を辞めるつもりだったのに、夏には山に登り、秋には再び洞窟に行き、冬には雪山にも登りました。

 ですが、2年生になって再び体力強化合宿の時期になると、部を続ける気が起きなかったのです。

 僕は探検部を去りました。桜木さんが部のキャプテンになり、お世話になった先輩に別れのあいさつをして、部を去ったのです。

 探検部での濃密な時間は、今でも最高の思い出です。事実、ここで知り合った仲間とは今でも付き合いがあるほどで、本当に充実していました。

 ただ、入部したことを、僕は後悔しているのです。

 初日の冒頭でもご紹介したとおり、「女の子と楽しく大学生活を送る」という当初の目的が、探検部に入ったことでできなかったからです。2年生からはバイトが生活の主となり、キャンパスライフもくそもなかったのです。

 大学のサークル選びは、死ぬほど考えなければなりません。たくさんのサークルを訪ねるのはもちろん、各イベントにも積極的に参加し、自分に合った最高のサークルを選ばなければならないのです。

 スポーツ一直線の青春も、それはそれで充実しているでしょう。

 ですが、大学生活はなんと言っても、「異性とどう楽しい時間を過ごしたか?」が核。彼女彼氏の有無だけではなく、「キャンパス内でどれだけ異性と笑い合えたか?」を最優先順位で考えなければならず、そうしないことには、僕のような中途半端なキャンパスライフになってしまうんですね。

 ちなみに神林は、僕と同じ時期に、同じ理由で部を去りました。

 大学卒業後は、司法書士を目指して司法浪人をしていたらしいのですが、今から5年前に桜木さんにお会いしたときに聞いた話では、当時の神林は、まだ浪人していたのです。

 えーと、5年前にまだ浪人。4浪して大学を卒業したときが26歳。現在35歳で、5年前にまだ浪人してたということは、少なく見積もっても再び4浪って、お前は人生で何年浪人してんねん!

 未来のお前はイタタタター!!!

大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?の考察~4日目~(パソコン読者用)

※2008年・5月2日の記事を再々編集


 「あれっ、神林は?」


 部室がざわつき始めました。


 山川さんも、脱走した平田の捜索をあきらめて戻ってきています。全員の意識が、今度は平田から神林のほうに向けられたのです。


 そこで今回は、「大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?」の考察~4日目~です。


 10分、15分たっても、神林はきません。部員総出で校内中を探したものの見つからず、みんながシャワーを浴びている隙に逃げた、と判断されたのです。


 結局、再び実家に戻ったと推測し、OBの富岡さんが運転する車で、山川さんと桜木さんが迎えに行くことになりました。


 とはいえ、平田の脱走術を知ったことから、神林が実家に戻っている可能性は低いです。家に帰らずに逃げ切った平田と同じで見つからない可能性が高く、平田の班同様、僕らの班は3キロではなく、砂を5キロ増やされるのです。


 最悪や……。マジでシャレにならん……。


 ショックすぎて、自分が死んだような錯覚に陥りました。彼女に黒人と浮気されたなみにショックで、「俺、今、生きてる?」と訊きそうになるほどなのです。


 シンポジウムも、まったく頭に入ってきません。


 「聞いてんのか、バスコ?」


 ボーッとする僕に、沢口さんが注意してきました。


 注意された僕は、「すいませんね」と返すなど、妙にふてぶてしいです。「お前、誰に口聞いとんじゃ、ボケ!」と怒られる始末で、あまりのショックに何もする気が起きません。


 シンポジウムが終わり、みんなはテントに戻りました。


 時刻は9時をまわっています。僕の班と、ほかの班のリーダーだけが部室に残され、山川さんたちの帰りを待つことになりました。


 空気は、異常なまでに重いです。連日の疲れもあって、言葉数も少ないです。そんな僕らを励まそうと、サポーターの女性が話しかけてくれるのですが、ことがことだけに、返す気力もありません。


 もうマジで何なん、神林……。全部、神林のせいやんけ……。


 神林のことを考えると、怒りで頭から煙が出そうになります。目の前にあるシンポジウム用の資料を、無意識のうちに手でくしゃくしゃに握りつぶしている自分がいるのです。


 しばらくして、夜の部室に足音が聞こえてきました。


 その足音から、山川さんたちが捜索をあきらめて帰ってきたと思ったのですが、神林も一緒にいるんですよ!平田のようにどこかに逃げ去ればいいのに、性懲りもなくまた実家に戻っていたのです!


 しかも、ふてぶてしい顔をしてやがるんですよ!完全に開き直り、昨日とは打って変わって憎たらしい顔でこっちを見てやがるのです!


 もう我慢できませんよ!こんな奴、許せませんよ!


 僕は我慢の限界を超えました。テーブルを飛び越えて神林につかみかかったのですが、こいつが僕に柔道の袈裟固めを決めやがったんですよ!


 なんでやねん、お前!なんでお前が反撃してくんねん!


 「(神林が)落ち着け、バスコ!」


 なんでお前にそんなこと言われないとあかんねん!ほかの奴が言うんやったらわかるけど、加害者のお前になんでそんなこと言われないとあかんねん!


 こんなもん、僕はめちゃくちゃかっこ悪いですよ!「お前、コラ!」とつかみかかったのに、僕は負けたんですよ!?


 しかも、こいつは元柔道部なので力が強いです。僕は「殺すぞコラって、痛い痛い痛い!」と叫んでいます。「俺が悪かったから許してくれ!」と謝りかねないレベルで痛いと叫びまくっているのです。


 最悪やんけ、こんなもん!周囲も半笑いやんけ!「こいつ、めっちゃダサいやん……」みたいな顔してるやんけ!


 「痛い痛い痛い!もう許してや!」


 最低か、俺!誰かこの最低な俺を止めてくれ!


 「腕の骨が折れてしまうじゃないですか!」


 敬語使ってもうた!誰か俺を安楽死の処分にしてくれ!かっこ悪すぎて、この先もう生きていく自信がない!


 結局、桜木さんがあいだに入って、袈裟固めをはずしてくれました。


 ですが、袈裟固めを決められている最中に、僕は神林の背中をつねってましたからね。鬼の形相でつかみかかったのに、唯一できた仕返しが「体をつねる」という、史上最低の攻撃でしたから。


 山川さんの指示で、ほかの班のリーダーは裏山に戻りました。興奮冷めやらぬまま、僕らの班で話し合いをもつことになったのです。


 富岡さん、山川さん、沢口さん立会いのもと、冷静になった神林も、僕らに謝罪してきました。


 ですが、こんな奴を僕は許せません。富岡さんに、「そんなこと言わずに許したれよ!」とお願いされたものの、簡単には許せないんですね。


 「頭を丸めるんで許してください!」


 こう言って、神林は頭を下げました。ですが、こいつはもともと短髪なのです。


 意味ないねん、お前が坊主にしても!せめて、「他人の皮を縫い付けてわざと包茎にします!」ぐらい言えよ!


 「自分のお金で頭を丸めるんで!」


 ……そりゃそうやろ!お前、何を「本来はあなたたちが代金を支払うところを」みたいな言い方してくれとんねん!こんな状況でどうやったらそんな発想出てくんねん!


 話が噛み合わないのを見て、富岡さんが神林に提案しました。


 「じゃあ許してほしかったら、バスコが増やされる分の砂をお前が担げ!」


 「それはイヤです」


 うんって言えや!お前、そこはうんって言うやろ、普通!


 「それだけはイヤです!」


 親を呼べ、もう!こんなん言う奴、もう親の責任や!親もろとも説教や!


 このように、神林はすべてがおかしいです。納得いかないことが多すぎて、イライラが止まらないんですね。


 それでも、いつまでも駄々をこねるわけにはいきません。


 「今度逃げたらマジで許さんからな!」


 僕はこう怒鳴りつけることで、自分を無理にでも納得させました。


 時刻は夜の10時。話し合いを終えた僕らは、裏山に戻りました。


 テントに入ると、案の定、神林の足が臭いです。神林はここ2日、シャワーを浴びていません。「近くにバタリアンいない?」というぐらい、神がかった悪臭なのです。


 足だけ逮捕するぞ、お前!もう足に手錠はめるわ、これだけ臭かったら!


 「神林さん、なんでそんなに足が臭いんですか?」


 「男は誰だって臭いよ。さだまさしも臭いよ」


 なんでさだまさし出すねん!「償い」って、そんな歌と違うぞ!


 「南こうせつだって臭いよ」


 なんで玄人受けのフォーク歌手ばっかり出すねん!ほかに誰かおるやろ!


 はっきり言いますけど、神林の足が真横にあったら、将棋の羽生さんでも2歩しますよ。集中力もあったものではなく、角を真っ直ぐに移動させたり、ヘタしたら王将で王手をしますから。


 「神林さん、申し訳ないですけど、足を外に出して寝てもらえませんかね?」


 神林に貸しがあるのをいいことに、僕はお願いしました。神林も了承してくれたので、テントに匂いこそ残るものの、なんとか我慢できました。


 とはいえ、簡単には寝つけません。なにしろ明日は49キロ。不安で何度も目が覚めてしまうのです。


 途中でテントに神林が足を戻したこともあり、僕は寝ては覚め、寝ては覚めをくり返しました。


 やがて、朝がやってきました。


 「起きろ!起きんかい!」


 耳をつんざく怒声がテント内に響き渡りました。


 叫んだのは富岡さんです。


 外に出て整列すると、山川さんが言いました。


 「今日は俺に代わって、富岡さんが歩荷を仕切るから!」


 体がブルブルと震えてきました。富岡さんは大阪から青森を踏破した、伝説の探検野郎だからです。


 入部時に、富岡さんの伝説を散々聞かされています。ジャングルに1人で行くのはもちろん、1ヵ月に及ぶ雪山合宿において、1日もマスターベーションを欠かさなかったそうなのです。


 頭おかしいんか、お前!雪山で「かけ氷」をすんなよ!どんなミゾレやねん、それ!


 昨晩に食べたイノシシも、風呂上がりにタオルを肩にかけるぐらいのノリで担いできました。しかも猟銃ではなく手刀で仕留めたらしく、なのにいい歳して、いまだに童貞らしいのです。


 お前、探検はええからとりあえず女の体を探検してこい!どっちのジャングルを先に制覇しとんねん!


 こんな奴が歩荷をしきるなんぞ、今までにも増して地獄でしょう。


 このあと朝ごはんを食べたときも、まったく味がしませんでした。そして気持ちの整理もつかぬまま、準備を整えた僕らに富岡さんが叫んだのです。


 「よっしゃ担げ!担ぎたおせ!」


 富岡さんの号令で、下級生たちがリュックを担ぎ始めました。


 僕のリュックは今まで以上に重く、担げるはずもありません。従来どおり、片手を通しただけで落としてしまうのです。


 ですが、さすがに歩荷3日目です。砂が重くなったこと、なにより誰しもの疲労がピークなので、部員の3分の1近くが担げなくなっています。51キロを背負わされる同期の林はもちろん、僕の班など、超マッチョの桜木さんを除いて全員担げないのです。


 「山川、どうなってんねん、こいつら?お前、しっかり鍛えてんのかコラ!」


 富岡さんが声を張り上げました。


 「申し訳ございません!」


 あの鬼の山川さんが、富岡さんに謝りたおしています。こんな「縦の地獄絵図」を見せられると、怖くて仕方がないのです。


 結局、この日もサポーターに助けられて、なんとか担ぎました。


 「よっしゃ!じゃあ出発や!」


 富岡さんの号令で、4日目の歩荷がスタートです。


 時刻は5時になりました。


 裏山を下り切っていない段階から、富岡さんにかけ声を要求されました。「そーれっ!れっ!れっ!」と順番に叫びながら、裏山を下りました。


 わかっていたこととはいえ、49キロという砂の重さは尋常ではないです。

初日が「デブの幽霊」、2日目が「小さい弟、5人を背負って授業に出る戦争孤児」なら、今日は「配送代をけちって、担いで持って帰ることにした特大冷蔵庫」といった感じで、肩に圧し掛かる重みが殺人的なのです。


 なかでも、桜木さんのリュックだけは、常軌を逸してますよ。


 桜木さんは2年生です。もともとの50キロに、5キロ×3のペナルティーを課せられ、都合65キロの砂を背負わされているのです。


 なのに富岡さんは、遅れだした僕らの班を許しません。


 「さっさと歩かんかい!」


 「どっから声出しとんじゃ!」


 「お前はオカマか、ボケ!」


 このように、容赦のない怒声を浴びせてくるのです。


 連日の歩荷で、全身は筋肉痛です。体を動かすと、刺すような痛みが体中を襲ってきます。


 足の裏には血豆ができています。そこに体重がかかって痛く、背中の重みで股間にすら重圧がかかり、マラドーナにずっと金玉を蹴られているみたいなのです。


 つらすぎて、生きてる心地がしません。「受験に失敗すればよかった」と本気で思いましたし、散歩中の犬に足元で吠えられても、何の気にもならないのです。


 あー、お母さん……。お母さん、助けて……。


 いい歳して、心の中で親を頼りにする自分がいました。


 校内を歩き、大学を出ました。初日同様、緑地公園に向かうことになりました。


 道すがら、初日と違うルートで向かっていることに気がつきました。


 緑地公園に行くのにこの道でいいのかな……。


 このように不思議に思っていたのですが、途中でこのルートを通る意味がわかりました。僕らが向かう先には幹線道路があり、その道沿いから緑地公園まで、すべてが上り坂なのです。


 勘弁してくれよ、おい!屯田兵か、俺ら!


 想像すると、恐ろしすぎて卒倒しそうになります。僕はなるべく考えないようにしました。


 15分ほど歩いて、幹線道路の下にきました。


 予想していたとおり、殺人的な上り坂です。40度近い傾斜が、1キロ以上も続いているのです。


 富岡さんのイヤがらせなのか、上り坂の直前で、休憩を取ることになりました。


 僕はリュックを下ろせません。リュックを背負ったまま壁にもたれかかっていたのですが、機嫌が悪すぎて、アメを配ってくれるサポーターの優しさが偽善に思えました。仲のいい友達に修学旅行で違う班に入られたときのように、目に入る人すべてが敵に見えました。


 なのに神林が空気を読まず、僕の隣にきて話しかけてきたのです。


 「すごい坂やな、バスコ」


 「そうですね」


 「まるで伊勢エビやな」


 「……」


 「伊勢エビみたいやわ」


 「……」


 「伊勢エビのように曲がっとるわ」


 例えようわからんねん、お前!わかりやすくするために例えたのに混乱させるってどういうことやねん!


 「バスコ、逃げたらあかんで。この合宿は自分との戦いやからな」


 逃げまくりやろ、お前!福田和子なみに逃げまくりやろ!


 「弱い自分を変えていけよ!」


 何様やねん、お前!逃げまくってるお前がなんでそんな偉そうやねん!


 「神林さん、悪いけど、話しかけんといてください」


 「えっ?」


 「しんどいんで、僕に話しかけないでください!」


 「えっ?」


 もうこれがしんどい!何回も訊き返される、これ自体がもうしんどい!


 「休憩、終了!行くぞ!」


 終わったやんけ、休憩!お前のせいで休めんかったやんけ!


 神林のせいで、休憩になりませんでした。何の疲れも取れないままに、地獄の歩荷が始まったのです。


 予想していたとはいえ、声を出しながらのこの上り坂は、まさに地獄坂です。


 背負った冷蔵庫で背中が痛いのはもちろん、ヒザは常にカックンされてるみたいにフラフラ。腰に至っては、痛すぎて感覚が麻痺しているのです。


 信号待ちでガードレールに手をかけようものなら、富岡さんに怒られます。


 「触るな、そこ!自分の弱さをもっと潰していけ!」


 このように、妙な正義を振りかざしてくるのです。


 なんやねん、こいつ童貞のくせに!自分が触ったことないからって、触るなとか言うなよ!


 僕を含めて、倒れ込む者が続出です。5分に1回は誰かが倒れ、失神に近い形で、バタンと倒れる奴までいます。


 神林に至っては、完全に頭がおかしくなっています。自分に気合いを入れるためにかけ声をアレンジし、「れいれれれれれれ!れいれれれれれれ!」って言ったんですよ。


 静かにせいや、お前!全員ドン引きやんけ!


 「れいられいられいら!れいられいられいら!れいらられいらら、れいれれーい!!!」


 脳に寄生虫入ってない!?現代科学では説明つかんわ、今のお前!


 「富岡さん、ちょっと休ませてやりませんか?」


 見かねた山川さんが、富岡さんに提案しました。


 ですが、富岡さんは聞く耳を持ちません。僕の同期の奴が「あんた、俺らを殺す気か!」と怒鳴ってつかみかかろうとしたものの、一喝して強引に歩かせるのです。


 もう自分と戦うしかないんや……。戦わずに済むんは死んだときだけなんや……。


 僕は無理にでも、自分にこう言い聞かせました。自分を信じて死力を尽くし、なんとか緑地公園に到着したのです。


 富岡さんの指示で、休憩を取ることになりました。


 ムダ口を叩く奴など、誰ひとりとしていません。全員が満身創痍で、奪い合うかのように、ポカリスエットをガブ飲みしています。自分が生き残るのに精一杯で、仲間のことなど気にしてられないのです。


 休憩が終わり、初日同様、園内の坂を駆け上がることを要求されました。


 このときのことは、しんどすぎて覚えていません。唯一覚えているのが、途中で野グソをしたことです。


 富岡さんに怒鳴られながらも、無理言ってトイレに行かせてもらいました。


 トイレまで我慢できず、園内にある花壇の隅でしゃがみ込んだところ、散歩をしている人に見られました。


 ですが、僕は疲れがピークに達しています。恥ずかしがる余力もなく、疲労が恥辱を凌駕して、まったく気にならなかったのです。


 園内を30分ほど周回して、大学に戻ることになりました。


 帰りは今までとは比にならないぐらい、フラフラでした。


 例の坂を下るときなんて、ジジイのリハビリなみに足元はおぼつきません。サポーターに「がんばって歩きましょうね!」と言われて、なめられてるみたいなのです。


 僕は、尽きた死力の残りかすをかき集めました。視線を宙にさまよわせながらもなんとか裏山に到着し、ようやく4日目の歩荷が終了したのです。


 ハア、今日も生き残ったか……。親は元気にしてるかな……。


 青い空を見て、まぶたの奥がじわりと潤みました。


 時刻は9時をまわっています。歩荷時間が大幅に押したことから、テント設営は中止になりました。


 僕は1限目に授業があります。同期で同学部の小林を連れ立って、授業に行くことにしました。


 授業道具を取りに部室に寄った際、小林が僕に提案してきました。


 「隠れて、ジュースを飲まへんか?」


 当たり前ですが、勝手な飲食は禁止です。


 今までも、この発想はありました。財布は部室のロッカーにあります。飲み食いは可能だったものの、見つかったときのことを考えて、できなかったのです。


 ですが、今の僕に躊躇はありません。


 「そうやな!」


 2つ返事で了承し、周囲の目をこれ以上ないぐらいに気にしながらも、学部近くの自動販売機で500ミリリットルのチェリオを購入しました。


 僕はこのジュースのうまさを、生涯忘れません。潤うとはまさにこのこと、ノドの肉のミクロに至るまで甘みが染み込んでくるのです。


 この4日間で口にした糖分は、歩荷中のポカリとサポーターがくれるアメやチョコレートのみ。あまりのおいしさに、涙が出そうになりましたから。


 小林の提案で、授業をさぼることにしました。クーラーが効いている図書館で寝ることにしたのです。


 館内の休憩室に行くと、笑けるぐらい、探検部の部員が寝ていました。ここは秘密基地になっているらしく、同じ班の河井はもちろん、2回生の先輩方もグーグー寝ているのです。


 仮眠を終えて、裏山に戻りました。


 時刻は11時をまわっています。軽いジョギングを経て、昼ご飯を食べることになりました。


 食事はもちろん、粗末なものです。朝に炊いた残りのご飯をおかゆにし、ちくわ1本とバナナ1本だけです。質素すぎて食べた気がしません。


 僕と小林は、先ほどのジュースに味を占めています。このあとの3時限目の授業こそちゃんと受けたものの、4時限目の授業を抜け出して、校内の食堂で食べることにしました。


 大学を出て食べに行きたかったのですが、各門には上級生が張りついています。離れたところにある、社会学部の食堂に行くことにしました。


 3、4年生の部員に、社会学部の人がいないことはリサーチ済みです。富岡さんは帰りましたし、山川さんもジョギングのない時間はテントで寝ているので、慎重にやればバレません。


 財布から抜いておいた1000円札を握り締めて、僕らは社会学部の食堂に入りました。念のため帽子を深くかぶり、僕はチキンカツ定食のご飯大盛りと、カレーうどんの大盛りを注文しました。


 引くぐらい、おいしかったです。むしゃむしゃと口をついて出そうなほど食べ散らかし、おいしすぎて、呼吸をするのを忘れてしまうほどなのです。


 ところがです。


 カレーうどんをすする僕の視線の先に、探検部の「あいつ」の姿が飛び込んできたのです。


 「私は見回りをしてますよ!」


 こう叫ぶかのごとく、殺気だった視線を放ちながら、食堂に入ってきたのです。


 やばい……。マジでシャレにならん……。


 体が戦慄を覚えました。直下型の地震をくらったかのようにプルプルと震え、摂氏にも近い、恐ろしく冷たい汗が体中から噴き出してきたのです。


 僕は帽子のつばを、テーブルにつくぐらいの勢いで下げました。


 「カレーを顔に塗ってインド人のフリをしよう!」


 こんなことを本気で考えましたし、小林に至っては、うどんのお椀をほとんど直角に立てて顔を隠しているのです。


 何も食べないでいると、かえって怪しまれます。


 「こ、このチキン、おいしいな!」


 「そ、そうやな!」


 会話をすることで自然な感じを装い、うつむきながらも食事を続行しました。


 しばらくして、誰かが近づいてくるのがわかりました。


 コツン、コツン、コツン。


 死刑囚を迎えに行く看守のように、誰かがイヤな靴音を響かせて僕らに近づいてきました。


 コツン、コツン、コツン。コツン、コツン、コツン。


 靴音は次第に大きくなります。


 そしてその靴音は僕の真横で止まり、同時に、音の主がこう呟いたのです。


 「ちょっと、こっちにきてくれるか?」


 恐る恐る箸を止めて見上げたところ、そこには顔を紅潮させた顔面凶器、そう、沢口さんがいたのです……。


 怒涛の最終日へ……。


大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?の考察~4日目~(携帯読者用)

※2008年・5月2日の記事を再々編集

 「あれっ、神林は?」

 部室がざわつき始めました。

 山川さんも、脱走した平田の捜索をあきらめて戻ってきています。全員の意識が、今度は平田から神林のほうに向けられたのです。

 そこで今回は、「大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?」の考察~4日目~です。

 10分、15分たっても、神林はきません。部員総出で校内中を探したものの見つからず、みんながシャワーを浴びている隙に逃げた、と判断されたのです。

 結局、再び実家に戻ったと推測し、OBの富岡さんが運転する車で、山川さんと桜木さんが迎えに行くことになりました。

 とはいえ、平田の脱走術を知ったことから、神林が実家に戻っている可能性は低いです。家に帰らずに逃げ切った平田と同じで見つからない可能性が高く、平田の班同様、僕らの班は3キロではなく、砂を5キロ増やされるのです。

 最悪や……。マジでシャレにならん……。

 ショックすぎて、自分が死んだような錯覚に陥りました。彼女に黒人と浮気されたなみにショックで、「俺、今、生きてる?」と訊きそうになるほどなのです。

 シンポジウムも、まったく頭に入ってきません。

 「聞いてんのか、バスコ?」

 ボーッとする僕に、沢口さんが注意してきました。

 注意された僕は、「すいませんね」と返すなど、妙にふてぶてしいです。「お前、誰に口聞いとんじゃ、ボケ!」と怒られる始末で、あまりのショックに何もする気が起きません。

 シンポジウムが終わり、みんなはテントに戻りました。

 時刻は9時をまわっています。僕の班と、ほかの班のリーダーだけが部室に残され、山川さんたちの帰りを待つことになりました。

 空気は、異常なまでに重いです。連日の疲れもあって、言葉数も少ないです。そんな僕らを励まそうと、サポーターの女性が話しかけてくれるのですが、ことがことだけに、返す気力もありません。

 もうマジで何なん、神林……。全部、神林のせいやんけ……。

 神林のことを考えると、怒りで頭から煙が出そうになります。目の前にあるシンポジウム用の資料を、無意識のうちに手でくしゃくしゃに握りつぶしている自分がいるのです。

 しばらくして、夜の部室に足音が聞こえてきました。

 その足音から、山川さんたちが捜索をあきらめて帰ってきたと思ったのですが、神林も一緒にいるんですよ!平田のようにどこかに逃げ去ればいいのに、性懲りもなくまた実家に戻っていたのです!

 しかも、ふてぶてしい顔をしてやがるんですよ!完全に開き直り、昨日とは打って変わって憎たらしい顔でこっちを見てやがるのです!

 もう我慢できませんよ!こんな奴、許せませんよ!

 僕は我慢の限界を超えました。テーブルを飛び越えて神林につかみかかったのですが、こいつが僕に柔道の袈裟固めを決めやがったんですよ!

 なんでやねん、お前!なんでお前が反撃してくんねん!

 「(神林が)落ち着け、バスコ!」

 なんでお前にそんなこと言われないとあかんねん!ほかの奴が言うんやったらわかるけど、加害者のお前になんでそんなこと言われないとあかんねん!

 こんなもん、僕はめちゃくちゃかっこ悪いですよ!「お前、コラ!」とつかみかかったのに、僕は負けたんですよ!?

 しかも、こいつは元柔道部なので力が強いです。僕は「殺すぞコラって、痛い痛い痛い!」と叫んでいます。「俺が悪かったから許してくれ!」と謝りかねないレベルで痛いと叫びまくっているのです。

 最悪やんけ、こんなもん!周囲も半笑いやんけ!「こいつ、めっちゃダサいやん……」みたいな顔してるやんけ!

 「痛い痛い痛い!もう許してや!」

 最低か、俺!誰かこの最低な俺を止めてくれ!

 「腕の骨が折れてしまうじゃないですか!」

 敬語使ってもうた!誰か俺を安楽死の処分にしてくれ!かっこ悪すぎて、この先もう生きていく自信がない!

 結局、桜木さんがあいだに入って、袈裟固めをはずしてくれました。

 ですが、袈裟固めを決められている最中に、僕は神林の背中をつねってましたからね。鬼の形相でつかみかかったのに、唯一できた仕返しが「体をつねる」という、史上最低の攻撃でしたから。

 山川さんの指示で、ほかの班のリーダーは裏山に戻りました。興奮冷めやらぬまま、僕らの班で話し合いをもつことになったのです。

 富岡さん、山川さん、沢口さん立会いのもと、冷静になった神林も、僕らに謝罪してきました。

 ですが、こんな奴を僕は許せません。富岡さんに、「そんなこと言わずに許したれよ!」とお願いされたものの、簡単には許せないんですね。

 「頭を丸めるんで許してください!」

 こう言って、神林は頭を下げました。ですが、こいつはもともと短髪なのです。

 意味ないねん、お前が坊主にしても!せめて、「他人の皮を縫い付けてわざと包茎にします!」ぐらい言えよ!

 「自分のお金で頭を丸めるんで!」

 ……そりゃそうやろ!お前、何を「本来はあなたたちが代金を支払うところを」みたいな言い方してくれとんねん!こんな状況でどうやったらそんな発想出てくんねん!

 話が噛み合わないのを見て、富岡さんが神林に提案しました。

 「じゃあ許してほしかったら、バスコが増やされる分の砂をお前が担げ!」

 「それはイヤです」

 うんって言えや!お前、そこはうんって言うやろ、普通!

 「それだけはイヤです!」

 親を呼べ、もう!こんなん言う奴、もう親の責任や!親もろとも説教や!

 このように、神林はすべてがおかしいです。納得いかないことが多すぎて、イライラが止まらないんですね。

 それでも、いつまでも駄々をこねるわけにはいきません。

 「今度逃げたらマジで許さんからな!」

 僕はこう怒鳴りつけることで、自分を無理にでも納得させました。

 時刻は夜の10時。話し合いを終えた僕らは、裏山に戻りました。

 テントに入ると、案の定、神林の足が臭いです。神林はここ2日、シャワーを浴びていません。「近くにバタリアンいない?」というぐらい、神がかった悪臭なのです。

 足だけ逮捕するぞ、お前!もう足に手錠はめるわ、これだけ臭かったら!

 「神林さん、なんでそんなに足が臭いんですか?」

 「男は誰だって臭いよ。さだまさしも臭いよ」

 なんでさだまさし出すねん!「償い」って、そんな歌と違うぞ!

 「南こうせつだって臭いよ」

 なんで玄人受けのフォーク歌手ばっかり出すねん!ほかに誰かおるやろ!

 はっきり言いますけど、神林の足が真横にあったら、将棋の羽生さんでも2歩しますよ。集中力もあったものではなく、角を真っ直ぐに移動させたり、ヘタしたら王将で王手をしますから。

 「神林さん、申し訳ないですけど、足を外に出して寝てもらえませんかね?」

 神林に貸しがあるのをいいことに、僕はお願いしました。神林も了承してくれたので、テントに匂いこそ残るものの、なんとか我慢できました。

 とはいえ、簡単には寝つけません。なにしろ明日は49キロ。不安で何度も目が覚めてしまうのです。

 途中でテントに神林が足を戻したこともあり、僕は寝ては覚め、寝ては覚めをくり返しました。

 やがて、朝がやってきました。

 「起きろ!起きんかい!」

 耳をつんざく怒声がテント内に響き渡りました。

 叫んだのは富岡さんです。

 外に出て整列すると、山川さんが言いました。

 「今日は俺に代わって、富岡さんが歩荷を仕切るから!」

 体がブルブルと震えてきました。富岡さんは大阪から青森を踏破した、伝説の探検野郎だからです。

 入部時に、富岡さんの伝説を散々聞かされています。ジャングルに1人で行くのはもちろん、1ヵ月に及ぶ雪山合宿において、1日もマスターベーションを欠かさなかったそうなのです。

 頭おかしいんか、お前!雪山で「かけ氷」をすんなよ!どんなミゾレやねん、それ!

 昨晩に食べたイノシシも、風呂上がりにタオルを肩にかけるぐらいのノリで担いできました。しかも猟銃ではなく手刀で仕留めたらしく、なのにいい歳して、いまだに童貞らしいのです。

 お前、探検はええからとりあえず女の体を探検してこい!どっちのジャングルを先に制覇しとんねん!

 こんな奴が歩荷をしきるなんぞ、今までにも増して地獄でしょう。

 このあと朝ごはんを食べたときも、まったく味がしませんでした。そして気持ちの整理もつかぬまま、準備を整えた僕らに富岡さんが叫んだのです。

 「よっしゃ担げ!担ぎたおせ!」

 富岡さんの号令で、下級生たちがリュックを担ぎ始めました。

 僕のリュックは今まで以上に重く、担げるはずもありません。従来どおり、片手を通しただけで落としてしまうのです。

 ですが、さすがに歩荷3日目です。砂が重くなったこと、なにより誰しもの疲労がピークなので、部員の3分の1近くが担げなくなっています。51キロを背負わされる同期の林はもちろん、僕の班など、超マッチョの桜木さんを除いて全員担げないのです。

 「山川、どうなってんねん、こいつら?お前、しっかり鍛えてんのか、コラ!」

 富岡さんが声を張り上げました。

 「申し訳ございません!」

 あの鬼の山川さんが、富岡さんに謝りたおしています。こんな「縦の地獄絵図」を見せられると、怖くて仕方がないのです。

 結局、この日もサポーターに助けられて、なんとか担ぎました。

 「よっしゃ!じゃあ出発や!」

 富岡さんの号令で、4日目の歩荷がスタートです。

 時刻は5時になりました。

 裏山を下り切っていない段階から、富岡さんにかけ声を要求されました。「そーれっ!れっ!れっ!」と順番に叫びながら、裏山を下りました。

 わかっていたこととはいえ、49キロという砂の重さは尋常ではないです。初日が「デブの幽霊」、2日目が「小さい弟、5人を背負って授業に出る戦争孤児」なら、今日は「配送代をけちって、担いで持って帰ることにした特大冷蔵庫」といった感じで、肩に圧し掛かる重みが殺人的なのです。

 なかでも、桜木さんのリュックだけは、常軌を逸してますよ。

 桜木さんは2年生です。もともとの50キロに、5キロ×3のペナルティーを課せられ、都合65キロの砂を背負わされているのです。

 なのに富岡さんは、遅れだした僕らの班を許しません。

 「さっさと歩かんかい!」

 「どっから声出しとんじゃ!」

 「お前はオカマか、ボケ!」

 このように、容赦のない怒声を浴びせてくるのです。

 連日の歩荷で、全身は筋肉痛です。体を動かすと、刺すような痛みが体中を襲ってきます。

 足の裏には血豆ができています。そこに体重がかかって痛く、背中の重みで股間にすら重圧がかかり、マラドーナにずっと金玉を蹴られているみたいなのです。

 つらすぎて、生きてる心地がしません。「受験に失敗すればよかった」と本気で思いましたし、散歩中の犬に足元で吠えられても、何の気にもならないのです。

 あー、お母さん……。お母さん、助けて……。

 いい歳して、心の中で親を頼りにする自分がいました。

 校内を歩き、大学を出ました。初日同様、緑地公園に向かうことになりました。

 道すがら、初日と違うルートで向かっていることに気がつきました。

 緑地公園に行くのにこの道でいいのかな……。

 このように不思議に思っていたのですが、途中でこのルートを通る意味がわかりました。僕らが向かう先には幹線道路があり、その道沿いから緑地公園まで、すべてが上り坂なのです。

 勘弁してくれよ、おい!屯田兵か、俺ら!

 想像すると、恐ろしすぎて卒倒しそうになります。僕はなるべく考えないようにしました。

 15分ほど歩いて、幹線道路の下にきました。

 予想していたとおり、殺人的な上り坂です。40度近い傾斜が、1キロ以上も続いているのです。

 富岡さんのイヤがらせなのか、上り坂の直前で、休憩を取ることになりました。

 僕はリュックを下ろせません。リュックを背負ったまま壁にもたれかかっていたのですが、機嫌が悪すぎて、アメを配ってくれるサポーターの優しさが偽善に思えました。仲のいい友達に修学旅行で違う班に入られたときのように、目に入る人すべてが敵に見えました。

 なのに神林が空気を読まず、僕の隣にきて話しかけてきたのです。

 「すごい坂やな、バスコ」

 「そうですね」

 「まるで伊勢エビやな」

 「……」

 「伊勢エビみたいやわ」

 「……」

 「伊勢エビのように曲がっとるわ」

 例えようわからんねん、お前!わかりやすくするために例えたのに混乱させるってどういうことやねん!

 「バスコ、逃げたらあかんで。この合宿は自分との戦いやからな」

 逃げまくりやろ、お前!福田和子なみに逃げまくりやろ!

 「弱い自分を変えていけよ!」

 何様やねん、お前!逃げまくってるお前がなんでそんな偉そうやねん!

 「神林さん、悪いけど、話しかけんといてください」

 「えっ?」

 「しんどいんで、僕に話しかけないでください!」

 「えっ?」

 もうこれがしんどい!何回も訊き返される、これ自体がもうしんどい!

 「休憩、終了!行くぞ!」

 終わったやんけ、休憩!お前のせいで休めんかったやんけ!

 神林のせいで、休憩になりませんでした。何の疲れも取れないままに、地獄の歩荷が始まったのです。

 予想していたとはいえ、声を出しながらのこの上り坂は、まさに地獄坂です。

 背負った冷蔵庫で背中が痛いのはもちろん、ヒザは常にカックンされてるみたいにフラフラ。腰に至っては、痛すぎて感覚が麻痺しているのです。

 信号待ちでガードレールに手をかけようものなら、富岡さんに怒られます。

 「触るな、そこ!自分の弱さをもっと潰していけ!」

 このように、妙な正義を振りかざしてくるのです。

 なんやねん、こいつ童貞のくせに!自分が触ったことないからって、触るなとか言うなよ!

 僕を含めて、倒れ込む者が続出です。5分に1回は誰かが倒れ、失神に近い形で、バタンと倒れる奴までいます。

 神林に至っては、完全に頭がおかしくなっています。自分に気合いを入れるためにかけ声をアレンジし、「れいれれれれれれ!れいれれれれれれ!」って言ったんですよ。

 静かにせいや、お前!全員ドン引きやんけ!

 「れいられいられいら!れいられいられいら!れいらられいらら、れいれれーい!!!」

 脳に寄生虫入ってない!?現代科学では説明つかんわ、今のお前!

 「富岡さん、ちょっと休ませてやりませんか?」

 見かねた山川さんが、富岡さんに提案しました。

 ですが、富岡さんは聞く耳を持ちません。僕の同期の奴が「あんた、俺らを殺す気か!」と怒鳴ってつかみかかろうとしたものの、一喝して強引に歩かせるのです。

 もう自分と戦うしかないんや……。戦わずに済むんは死んだときだけなんや……。

 僕は無理にでも、自分にこう言い聞かせました。自分を信じて死力を尽くし、なんとか緑地公園に到着したのです。

 富岡さんの指示で、休憩を取ることになりました。

 ムダ口を叩く奴など、誰ひとりとしていません。全員が満身創痍で、奪い合うかのように、ポカリスエットをガブ飲みしています。自分が生き残るのに精一杯で、仲間のことなど気にしてられないのです。

 休憩が終わり、初日同様、園内の坂を駆け上がることを要求されました。

 このときのことは、しんどすぎて覚えていません。唯一覚えているのが、途中で野グソをしたことです。

 富岡さんに怒鳴られながらも、無理言ってトイレに行かせてもらいました。

 トイレまで我慢できず、園内にある花壇の隅でしゃがみ込んだところ、散歩をしている人に見られました。

 ですが、僕は疲れがピークに達しています。恥ずかしがる余力もなく、疲労が恥辱を凌駕して、まったく気にならなかったのです。

 園内を30分ほど周回して、大学に戻ることになりました。

 帰りは今までとは比にならないぐらい、フラフラでした。

 例の坂を下るときなんて、ジジイのリハビリなみに足元はおぼつきません。サポーターに「がんばって歩きましょうね!」と言われて、なめられてるみたいなのです。

 僕は、尽きた死力の残りかすをかき集めました。視線を宙にさまよわせながらもなんとか裏山に到着し、ようやく4日目の歩荷が終了したのです。

 ハア、今日も生き残ったか……。親は元気にしてるかな……。

 青い空を見て、まぶたの奥がじわりと潤みました。

 時刻は9時をまわっています。歩荷時間が大幅に押したことから、テント設営は中止になりました。

 僕は1限目に授業があります。同期で同学部の小林を連れ立って、授業に行くことにしました。

 授業道具を取りに部室に寄った際、小林が僕に提案してきました。

 「隠れて、ジュースを飲まへんか?」

 当たり前ですが、勝手な飲食は禁止です。

 今までも、この発想はありました。財布は部室のロッカーにあります。飲み食いは可能だったものの、見つかったときのことを考えて、できなかったのです。

 ですが、今の僕に躊躇はありません。

 「そうやな!」

 2つ返事で了承し、周囲の目をこれ以上ないぐらいに気にしながらも、学部近くの自動販売機で500ミリリットルのチェリオを購入しました。

 僕はこのジュースのうまさを、生涯忘れません。潤うとはまさにこのこと、ノドの肉のミクロに至るまで甘みが染み込んでくるのです。

 この4日間で口にした糖分は、歩荷中のポカリとサポーターがくれるアメやチョコレートのみ。あまりのおいしさに、涙が出そうになりましたから。

 小林の提案で、授業をさぼることにしました。クーラーが効いている図書館で寝ることにしたのです。

 館内の休憩室に行くと、笑けるぐらい、探検部の部員が寝ていました。ここは秘密基地になっているらしく、同じ班の河井はもちろん、2回生の先輩方もグーグー寝ているのです。

 仮眠を終えて、裏山に戻りました。

 時刻は11時をまわっています。軽いジョギングを経て、昼ご飯を食べることになりました。

 食事はもちろん、粗末なものです。朝に炊いた残りのご飯をおかゆにし、ちくわ1本とバナナ1本だけです。質素すぎて食べた気がしません。

 僕と小林は、先ほどのジュースに味を占めています。このあとの3時限目の授業こそちゃんと受けたものの、4時限目の授業を抜け出して、校内の食堂で食べることにしました。

 大学を出て食べに行きたかったのですが、各門には上級生が張りついています。離れたところにある、社会学部の食堂に行くことにしました。

 3、4年生の部員に、社会学部の人がいないことはリサーチ済みです。富岡さんは帰りましたし、山川さんもジョギングのない時間はテントで寝ているので、慎重にやればバレません。

 財布から抜いておいた1000円札を握り締めて、僕らは社会学部の食堂に入りました。念のため帽子を深くかぶり、僕はチキンカツ定食のご飯大盛りと、カレーうどんの大盛りを注文しました。

 引くぐらい、おいしかったです。むしゃむしゃと口をついて出そうなほど食べ散らかし、おいしすぎて、呼吸をするのを忘れてしまうほどなのです。

 ところがです。

 カレーうどんをすする僕の視線の先に、探検部の「あいつ」の姿が飛び込んできたのです。

 「私は見回りをしてますよ!」

 こう叫ぶかのごとく、殺気だった視線を放ちながら、食堂に入ってきたのです。

 やばい……。マジでシャレにならん……。

 体が戦慄を覚えました。直下型の地震をくらったかのようにプルプルと震え、摂氏にも近い、恐ろしく冷たい汗が体中から噴き出してきたのです。

 僕は帽子のつばを、テーブルにつくぐらいの勢いで下げました。

 「カレーを顔に塗ってインド人のフリをしよう!」

 こんなことを本気で考えましたし、小林に至っては、うどんのお椀をほとんど直角に立てて顔を隠しているのです。

 何も食べないでいると、かえって怪しまれます。

 「こ、このチキン、おいしいな!」

 「そ、そうやな!」

 会話をすることで自然な感じを装い、うつむきながらも食事を続行しました。

 しばらくして、誰かが近づいてくるのがわかりました。

 コツン、コツン、コツン。

 死刑囚を迎えに行く看守のように、誰かがイヤな靴音を響かせて僕らに近づいてきました。

 コツン、コツン、コツン。コツン、コツン、コツン。

 靴音は次第に大きくなります。

 そしてその靴音は僕の真横で止まり、同時に、音の主がこう呟いたのです。

 「ちょっと、こっちにきてくれるか?」

 恐る恐る箸を止めて見上げたところ、そこには顔を紅潮させた顔面凶器、そう、沢口さんがいたのです……。

 怒涛の最終日へ……。