新・バスコの人生考察 -11ページ目

告白しない片思いに何か意味はあるか?の考察・中編(パソコン読者用)

※2008年・2月15日の記事を再々編集


 K子ちゃんに告白できなかった僕は、意気消沈で帰宅しました。


 自分の気の弱さに辟易して、服を着替える元気もありません。ドミノが倒れるかのように、布団に倒れ込んだのです。


 そこで今回は、「告白しない片思いに何か意味はあるか?」の考察・中編です。


 逃げ込むかのように、僕は布団の中に入りました。


 天井を見上げる僕は、ピクリとも動きません。


 「終わった……」


 この言葉が頭で何度もリフレインして、動きたくても動けないのです。


 なぜ、もっと積極的に行かなかった……。


 なぜ、もっと自分をアピールしなかった……。


 なぜ、もっと中身のある話ができなかった……。


 そしてなぜ、告白しなかった……。


 心に渦巻くのは、「なぜ」や「もっと」といった、後悔の念ばかり。どうにもならないマイナスの感情が心に押し寄せて、気持ちをげんなりとさせます。


 どこか安心している自分を見ると、殺したくなりました。ショックを受けているはずなのに、心のどこかで、「よかった、告白しなくて済んで……」と考える自分がいたのです。


 気がつくと、壁をガンガンに殴っていました。


 絶望、焦燥、安堵……。たくさんの感情が入り混じって、自分が何をやっているのかわかりません。


 枕元には、携帯電話を置いています。


 「もしかしたら、K子ちゃんが電話してくるのではないか……」


 K子ちゃんは、僕の番号など知りません。携帯が鳴るわけがないのに、現状を打破してくれるかもしれない何かを手の届く範囲に置いておきたくて、気がつくと、意味なく携帯を握り締めているのです。


 僕はK子ちゃんと、クリスマス・イブを一緒に過ごす予定でした。


 この日は12月21日です。告白できずにやり過ごしてしまうことを想定し、イブの3日前であるこの日を、最終日に設定していました。


 「今度、どこかに遊びに行かへん?」


 「お願いします!」


 「それやったら、イブにどこかに行こうや?」


 このように、イブ込みの誘いを計算していたのです。


 なのに、言えなかった……。最高のクリスマスになったかもしれないのに……。


 イブに何の予定もない自分がますます情けなくなり、ダブルのショックで、ヘコまずにはいられません。


 K子ちゃんは、エスカレーター式で、高校に併設された女子短大に進学します。近所で大学生同士という、最高の形での恋愛になれたかもしれないのです。


 1人暮らしをしている僕のマンションに、毎日のように遊びにこれたでしょう。僕の大学生活の最後を飾るにふさわしい、「青春の総決算」と言っても過言ではないことだったのです。


 なのに、こうなるためのチャンスをみすみす逃してしまった……。何もかもがうまくいってたかもしれないのに……。


 気分が悪くなり、トイレに吐きに行きました。


 僕を布団から出させたのは、「嘔吐」という名の、現実的な体の異変だったのです。


 あてもなくつけたテレビが、気がつくと、砂嵐になっています。こんな目障りな音でさえ気にならず、シェンロンが現われても無視しそうなほど、この日はずっと放心状態でした。


 翌日からは、数分に1回、ため息をつく生活が始まりました。


 何をしても楽しめず、感じることすべてが7割引きです。大好きなラーメンを食べに行っても、口に入れるその瞬間こそおいしいものの、K子ちゃんのことが頭をよぎった瞬間から味がしなくなってしまうのです。


 2人でした会話を思い出して、K子ちゃんの過去の発言から、自分への好意を探っていきます。


 もしかしてあの発言は、僕への告白だったのではないか……。


 僕が働いてるときに買物に来たことがあったけど、そのとき、僕のレジには来なかったな……。いや、でもシャイだから、来れなかったのかもしれない。それはむしろ、僕のことを意識している証拠なのでは……。


 毎日のように、このようなことを考えます。それがたまらなくイヤで、イヤだとわかっていてもまた考えてしまう、どうしようもない悪循環に陥ってしまったのです。


 それでも、来月からは大学試験が始まります。落ち込んでばかりもいられず、もう1つのバイト先である居酒屋も、1月は試験勉強をするためにほとんど入らなかったので、すべての時間を勉強にあてなければならないのです。


 僕はこの段階で、留年が決定的でした。


 留年を見越して、就職活動をしなかったほどです。来年という1年を将来を考える時間にするためには、今回の試験で満タンに近い単位を取得しなければなりません。事実、K子ちゃんのことを気にかけながらも、すでに勉強を始めていたぐらいで、本来なら、恋愛ごときで悩んでいる時期ではないのです。


 僕は無理にでも自分を奮起させ、邪念を振り払いました。明るい未来を信じて、勉強に明け暮れたのです。


 ですが、イブだけは、本当につらかったです。


 今ごろ、K子ちゃんとキレイな夜景を見ていたかもしれないのにな……。


 こう考えて舌を噛みそうになり、戦争でも起きないかなと、何回思ったことか。


 僕は貧乏学生です。クリスマスといえども、コンビニで1番安いケーキを買うのが精一杯。安物特有の味のしないイチゴを口に含むと悲しくなり、その悲しさに輪をかけるかのように、僕の隣に住む男の部屋に、彼女らしき女性がやってきたのです。


 「メリークリスマス!」


 「おい!遅かったやんけ!」


 腹立つわ……。ほんまに殺したいわ、こいつら……。


 イライラしながらも、「こいつらがHを始めたら、オ○ニーのオカズになるかな……」と考える自分がいます。そんな自分がたまらなくイヤで、惨めすぎて泣けてくるのです。


 年末も、例年なら実家に帰るのに、家で勉強していました。大学の近くの食堂に行き、気心のしれたオバサンと話をして、気を紛らわせました。大晦日も、そしてお正月も、僕は勉強に勤しんだのです。


 正月明けからは、勉強の舞台を大学図書館に移しました。


 ですが、楽しそうに勉強するカップルがうらやましくてね。


 長机に一度、彼氏、僕、彼女の並びで座ったことがあり、僕を挟んでイチャイチャする2人を見ると、惨めな自分がいたたまれないのです。


 なのにその彼女から発せられるシャンプーの匂いが官能的で、イチャつく2人を尻目に、真ん中に座る僕は軽く勃起していたのです。


 「僕、よかったら移動するんで、ここに座ってもらっていいですよ」


 こんなふうに妙にいい奴を演じる自分もなんかイヤで、めちゃくちゃ惨めに思えたのです。


 仲のいい友達も、単位をほとんど取得していたので、会うことは少ないです。


 「地球上で、俺は今、1番惨めだ……」


 このように考えてしまい、度重なる負の圧迫で、さながら「心の胃潰瘍」になってしまったのです。


 こんな精神状態なので、なおさらK子ちゃんのことで思いつめるわけにはいきません。図書館での勉強終わりには、K子ちゃんのいる時間帯にはスーパーの前を通らないようにし、わざわざ遠回りして帰宅することにしました。


 ここから数十メートル先に、僕の女神がいるんやけどな……。


 わかってはいても、気弱な人間にとってのこの数十メートルは、はるか遠くに感じられます。距離うんぬんは関係なく、そこに、絶対的な壁が存在します。見えない厚い壁が存在し、禍々しいオーラを放って、進入を阻んでくるのです。


 それでも、僕は試験勉強をがんばりました。夜を徹して勉強に勤しみ、なんとか試験を乗り切ったのです。


 がんばった甲斐あって、試験はバッチリでした。現実問題、留年することは間違いないものの、ほとんどの単位を取得できた手ごたえがあったのです。


 すると当然のように、K子ちゃんのことが気になりだしました。試験中も考えることはざらだったものの、ひと段落して気持ちに余裕が出てくると、K子ちゃんのことを考えずにはいられないのです。


 僕の部屋には、昨秋に買ったパソコンがあります。ネットで、僕とK子ちゃんの相性占いをしました。いい結果が出るまでたくさんのサイトを巡り、「相性は抜群!」と出た、最高の結果だけをお気に入りに登録するなど、僕の頭の中にはK子ちゃんのことしかないのです。


 そこで親に無理を言って、留年した際の学費を立て替えてもらうことにしました。2月は、K子ちゃんをどうするかの作戦に時間をあてるべく、居酒屋のバイトを少なめにすることにしたのです。


 ですが、バイトを休む理由は、これだけではありません。


 実は、体を壊してしまったのです。


 試験勉強をがんばりすぎた疲れ、なにより、K子ちゃんのことを考えすぎた心の疲れで、試験が終わった1月20日ごろから、完全に体がおかしくなりました。食事をすれば吐き、何をしても楽しくないしで、軽い鬱病にかかってしまったのです。


 僕は2月を休暇月間、かつ、「K子ちゃんをどうものにするか月間」と名づけて、部屋にこもることにしました。


 2月に入り、最初の数日は、まるまる休暇にあてました。K子ちゃんのことを考えながらも、部屋でごろごろしていました。


 しばらくして、K子ちゃんに告白するべく、1つの作戦を思いつきました。


 それは、「偶然を装ってK子ちゃんに会い、その場でデートに誘う」という、非常にズル賢い作戦です。


 ほとんどストーカーなのですが、たまたま出会ったような見せ方でK子ちゃんに近づき、「久し振りやな!髪切った?」とでも言って、デートに誘うのです。


 K子ちゃんが学校に向かうとき、バイトに行くとき、バイトの休憩で家に帰るときなど、以前に会話した情報から行動パターンを分析しました。自分のスケジュールと相談しながら、「そのとき」を模索したのです。


 とはいえ、タイミングを計って行っても、簡単に会えるものではありません。


 学校が休みなので会えない、休憩の順番を読み違えて会えない……。諸所の理由で会えず、その都度、傷心で家に帰ってきたのです。


 ただ、あるとき、スーパーに向かうK子ちゃんを発見したのです。


 時刻は午後4時50分。周囲に人はいません。しかもその日は、毎日欠かさずチェックしていた『めざましTV』の占いも1位だったのです。


 ついにきた……。やっとチャンスがおとずれた……。


 僕は、大きく深呼吸をしました。


 「スー、ハー、スー、ハー、スー、パー、フフフ」


 くだらないダジャレにも無理矢理笑って気持ちを落ち着かせ、声に出して何度も深呼吸をしました。


 「よし!行こう!」


 出発の合図を声に出し、僕は1歩、また1歩と、K子ちゃんに近づいて行きました。高鳴る鼓動を手で押さえながら、女神に近づいて行ったのです。


 ところが、K子ちゃんが角を曲がった瞬間、逆方向に歩き出す自分がいるのです。


 後ろ姿とはいえ、女神を近くに見ると、途端に心臓がバクバクして別人格になります。「恥ずかしいならやめとけよ!」と悪魔がささやいてきたのです。


 結局、やっとおとずれたこのチャンスでさえ、僕は逃した、いや、逃すことを選んだのです。


 もうイヤや……。マジで死にたい……。


 自分があまりに情けなくて、家に帰って泣きました。


 しかも、自分が惨めすぎてMっ気が生じ、めちゃくちゃなオ○ニーをしました。


 「堕ちるところまで堕ちてやる!」


 自暴自棄になり、部屋に貼ってあった永作博美のポスターをはがして、顔面におもいっきりかけたのです。


 ですが、終わったあとに、死にたくなりました。行為終わりの虚無感もあって、本気で死にたくなりました。そしてこのときから心の病が加速し、食事がまったくノドを通らなくなったのです。


 体も、見る見るうちにやせていきました。居酒屋のバイトも無理言って友達に代わってもらい、人生で初めての引きこもりを経験することになったのです。


 テレビをつけても、見るのはNHKばかり。音の少ない番組しか、体が受けつけません。民放のバラエティー番組などもってのほか、鉄の万力で常時締めつけられる心には、過剰な演出や人の楽しむ姿が、なんとも苦痛なのです。


 あるときから、耳に入るすべての歌の歌詞が、今の自分のためにあるように聞こえてきました。そのメッセージが自分を勇気づけてくれると同時に、「前の女のことはあきらめろ!」といった歌詞を聴くと、妙にホッとする自分もいるのです。


 たまに外出しても、目に入る風景はモノクロに見えます。視界に入るものすべてがセピアがかって見え、鬱屈という檻の中を、さまよっているかのようなのです。


 それもギャラリーが誰ひとりとしていない、狭い檻です。


 「僕は誰にも見てもらえないんだ……」


 こう考えずにはいられず、心の自由のない囚人になってしまったのです。重い手錠をはめられ、ただ、自分の意志ではずすことができるのにはずそうとしない、何の意味もない人間に……。


 このとき、たまたま入った本屋で、山崎まさよしの曲が聴こえて涙を流したことを、僕は今でも忘れません。


 ♪いつでも捜しているよ どっかに君の姿を 向かいのホーム 路地裏の窓 こんなとこにいるはずもないのに 願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ できないことは もう何もない すべてかけて抱きしめてみせるよ


 これは、『Onemoretime、Onemorechance』という曲で、今の自分を投影しているかのような曲だったのです。


 外に出ると、僕は常にどこかで、K子ちゃんを探していました。


 踏み切り越しにK子ちゃんが通学で利用している電車の中を見たり、コンビニや中華料理屋など、同じ街で生活しているK子ちゃんに偶然会えることを信じて、至るところを歩きました。ゴミ収集車の中を見るぐらいの勢いで探しましたし、カツラのオッサンの頭をめくって、「ここにもいない……」と言いそうなほどだったのです。


 K子ちゃんに似た女性が男と手をつないでいようものなら、近くまで行ってたしかめました。


 髪型が似ているとか、乗っている自転車が同じといったささいなことでも、疑心暗鬼になります。わざわざあとをつけてたしかめ、「よかった、K子ちゃんじゃなくて……」と自分を安心させていたのです。


 ですが、同時に、こうも考えました。


 「彼氏ができたのなら、僕もあきらめがつくのに……」


 今というこの瞬間に生きるのに精一杯で、明るい未来よりも、今の自分をなんとかしてほしいのです。それほど追い詰められており、マイナスをプラスにすることよりも、0でいいから楽になりたい、と考えてしまう自分がいるのです。


 僕はすべてに怯えながら、日々、檻の中を徘徊しました。手錠をはめられ、狭い檻の中を何度も歩きました。


 ある日のことです。


 いつものように街を歩いていると、後ろから誰かが話しかけてきました。


 「バスコ君、久し振りやないの!」


 振り返ると、シャクレの藪上さんが立っていました。


 藪上さんと話をすると疲れます。僕は通り一遍の会話で済ませようとしたのですが、「アンマ、ヤチェタケド、ゲンチチテンノ?(通訳→あんた、やせたけど、元気してんの?)」と訊かれた瞬間、自分を心配してくれる母親の姿に見えたのです。


 「藪上さん、飯でも食いに行きませんか?」


 気がつくと、僕は藪上さんを食事に誘っていました。


 誰かに話を聞いてほしかったのです。誰でもいいので、生身の人間と接することで、手錠をはずしたかったのです


 薮上さんに導かれるように、近くの喫茶店に入りました。


 ですが、正直に言うのは恥ずかしい、という弱気な自分が顔を出して、本当のことが言えません。


 「ナニチャアッテンジャロ?チョウチキニイッチェミ?(通訳→何かあってんやろ?正直に言ってみ?)」


 こう訊かれて、「スーパーのバイトをやめたのは、実は、お弁当を盗んでいたからなんです」と、やせた理由にウソをついてしまったのです。


 自分のやっていることが恥ずかしくて、「K子ちゃんのことが好きやから、偶然会えるように毎日、街を歩いているんです」とは言えなかったんですね。


 ただ、僕はここで藪上さんから、とびきり優しい言葉を聞くことになります。


 「あんた、そんなん気にせんでいいよ。店長も、そんなことはもう気にしてないよ。私も正直、似たようなことを考えたことがあるし、お金がないんやったら仕方がないよ」


 本当の悩みごとと違うとはいえ、感動せずにはいられませんでした。


 「あんたはマジメすぎるところがあるから、あんまり考え込んだらあかんよ。そんなこと気にしなくていいから、またスーパーに買物においで」


 こう言われて、僕は泣いてしまったのです。


 自分が情けなくて情けなくて、そして、こんな情けない自分にも手を差し伸べてくれる人を見たとき、人のあたたかさに心が震えたのです。


 「泣かんでいいがな。今日は私がごちそうしてあげるから。ほら、ご飯を食べ」


 1人暮らしでお金がかかるにもかかわらず、藪上さんは、僕に食事をごちそうしてくれました。


 本当にいい人なんですよ、藪上さん。あごについた焼肉のタレが多少気になるものの、母親のように優しい人なのです。


 シャクレを罵倒したことを、僕は後悔しました。S君と一緒に、「しゃく家」「柿の種」などと、陰でひどいあだ名で呼んでいた自分を殺したくなりました。


 幸いにも、泣いたことで、僕の心はスッキリとしました。


 しかも藪上さんから、僕がお弁当を盗んでいたことはウワサになっていない、という情報を聞けたので、ある作戦を決行することにしたのです。


 それは、「夜の10時前に買い物客を装ってスーパーに行き、K子ちゃんと一緒に帰る」という、考えられる範囲での最高の作戦です。


 K子ちゃんが働く月曜日、木曜日、金曜日の10時直前に行けば、K子ちゃんがいることは間違いありません。K子ちゃんが帰る時間に合わせて僕も店を出れば、一緒に帰れるのです。


 僕は再び、シャドウ告白を始めました。


 途中、2月14日に、「僕の家を探してチョコレートを持ってきてくれないかな……」とムダな期待を抱きながらも、言葉のラッシュをくり返しました。


 そして2月の半ばを過ぎたある日、僕は2ヵ月振りに、スーパーの門を叩いたのです。


 禍々しいオーラを払いのけ、厚い壁をぶっ壊しました。緊張しながらも、弱気を悟られないように少し高めのテンションで、女神のいるレジの前に行きました。


 「久し振りやな!みんな、元気?」


 幸いにも、現場に店長はいません。S君がいたことから話もしやすく、そしてK子ちゃんは、相変わらずかわいいままのK子ちゃんでした。


 「バスコさん、久し振りじゃないですか!」


 K子ちゃんが、僕に声をかけてくれました。


 僕は四六時中、K子ちゃんのことを考えています。いざ本人を前にして舞い上がってしまい、正視できません。


 「ひ、久し振りやな!」


 僕は声を震わせながら、言葉を返しました。「やせたんと違います?」と続けられて、「試験勉強をがんばりすぎたわ!」と、目を逸らして答えました。


 「ちょっと、買い物をしてくるわ!」


 僕は店内を移動し、レジに持って行くタイミングを計りました。


 時刻は10時になりました。


 K子ちゃんがレジを離れ、僕は買いたくもないサバの缶詰をカゴに入れました。そして、K子ちゃんが階段を下りてくるのを足音で確認してレジに向かったところ、荷物を取ってきたK子ちゃんが、僕のところにやって来たのです。


 僕は、用意していたセリフを思い出しました。緊張を悟られないように、冷静を装って、話しかけました。


 「K子ちゃん、今から帰んの?」


 「はい!」


 「あっ、俺もそろそろ行かないとあかんわ。家、こっち?」


 「はい!」


 「一緒に帰るか?」


 「はい!」


 白々しく会話して、一緒に帰ることに成功したのです。


 スーパーを出た僕らは、並んで歩き始めました。


 至近距離からK子ちゃんの横顔を見ることが、とても現実のこととは思えません。どこかもったいなく感じられ、ずっと生ハムを食べているかのような、どこまでも続きそうな幸福感に、僕の体は包まれました。


 暗闇の中、連なる電灯が薄い光を放っています。寿命が尽きかけた蛍のようで、いい感じで、外は暗いです。漆黒が動物本来の大胆さを刺激してくるかのようで、告白するにはこれ以上ない舞台でしょう。


 ですが、今までにも増して、僕の心はドキドキです。いつ言おうかいつ言おうかと、気が気じゃないのです。


 なにしろ、あの女神が僕の真横にいます。その事実を考えただけで、卒倒しそうになるのです。


 途中で逃げ出したくなったものの、もうこのチャンスを逃すわけにはいきません。


 「寒いな。髪切った?」


 僕は月並みな話題をふって、「そのとき」を計っていたのですが、僕はここで、悲しいお知らせを聞くことになります。


 「私、今月いっぱいで、スーパーのバイトをやめるんです」


 K子ちゃんは、この春から短大に進学します。家から余裕で通える距離なのに、この街を離れて、4月から女友達2人と短大近くに部屋を借りて住む、と言うのです。


 マジで……。僕の近所ではなくなるんや……。


 思わず、テンションが下がりました。


 それでも、交際できれば、こんなことは小さなことです。思い描いた理想の恋愛にはなりにくくなったものの、付き合えるだけで御の字なのです。


 そしてこのことを知ったからには、ますます告白しないわけにはいきません。


 もうすぐ、スーパーにK子ちゃんはいなくなります。告白できるのは、これが本当にラストチャンスなのです。


 僕は、特攻隊レベルで、自分を追い詰めました。


 「私の家、あのマンションなんですよ」


 「へー、そうなんや!」


 「……」


 「……」


 この会話のあとに間ができたので、僕は「今しかない!」と考えました。ついに「そのとき」を、今というこの瞬間に決定したのです。


 ドックン、ドックン。


 僕の心臓が高鳴ります。と同時に、猛烈に熱いものが込み上げてきました。


 言ったるわ、こんなもん!ちょっと勇気を出せばこんなことは簡単や!余裕や、余裕!簡単な話や!



 なのに、言えないのです……。言おうと思っても、言葉が出てこないのです……。そのちょっとの勇気が僕にはないのです……。


 気がつけば、タイムアップ。告白できずに、K子ちゃんの家の前まで来てしまったのです。


 「まだまだ寒いから、風邪を引かんようにしいや」


 告白できなかった僕は、こう口にするのが精一杯。100メートルはあろう後ろ髪を引かれながら、家に帰ってきてしまったのです。


 部屋に入った瞬間、発狂に近い形で荒れ狂いました。


 「このダメ男が!お前なんか死んでしまえ!」


 鏡に映った自分を怒鳴りつけ、鏡を壁に投げつけて粉々にしました。


 下戸なのにもかかわらず、ウイスキーを瓶のまま口にしました。


 「♪これ以上何を失えば 心は許されるの どれほどの痛みならば もう一度君に会える Onemoretime…… 」


 薄れ行く意識の中で山崎まさよしを口ずさみながら、僕は涙を流して眠りについたのです……。


 後編へ……。



告白しない片思いに何か意味はあるか?の考察・中編(携帯読者用)

※2008年・2月15日の記事を再々編集

 K子ちゃんに告白できなかった僕は、意気消沈で帰宅しました。

 自分の気の弱さに辟易して、服を着替える元気もありません。ドミノが倒れるかのように、布団に倒れ込んだのです。

 そこで今回は、「告白しない片思いに何か意味はあるか?」の考察・中編です。

 逃げ込むかのように、僕は布団の中に入りました。

 天井を見上げる僕は、ピクリとも動きません。

 「終わった……」

 この言葉が頭で何度もリフレインして、動きたくても動けないのです。

 なぜ、もっと積極的に行かなかった……。

 なぜ、もっと自分をアピールしなかった……。

 なぜ、もっと中身のある話ができなかった……。

 そしてなぜ、告白しなかった……。

 心に渦巻くのは、「なぜ」や「もっと」といった、後悔の念ばかり。どうにもならないマイナスの感情が心に押し寄せて、気持ちをげんなりとさせます。

 どこか安心している自分を見ると、殺したくなりました。ショックを受けているはずなのに、心のどこかで、「よかった、告白しなくて済んで……」と考える自分がいたのです。

 気がつくと、壁をガンガンに殴っていました。

 絶望、焦燥、安堵……。たくさんの感情が入り混じって、自分が何をやっているのかわかりません。

 枕元には、携帯電話を置いています。

 「もしかしたら、K子ちゃんが電話してくるのではないか……」

 K子ちゃんは、僕の番号など知りません。携帯が鳴るわけがないのに、現状を打破してくれるかもしれない何かを手の届く範囲に置いておきたくて、気がつくと、意味なく携帯を握り締めているのです。

 僕はK子ちゃんと、クリスマス・イブを一緒に過ごす予定でした。

 この日は12月21日です。告白できずにやり過ごしてしまうことを想定し、イブの3日前であるこの日を、最終日に設定していました。

 「今度、どこかに遊びに行かへん?」

 「お願いします!」

 「それやったら、イブにどこかに行こうや?」

 このように、イブ込みの誘いを計算していたのです。

 なのに、言えなかった……。最高のクリスマスになったかもしれないのに……。

 イブに何の予定もない自分がますます情けなくなり、ダブルのショックで、ヘコまずにはいられません。

 K子ちゃんは、エスカレーター式で、高校に併設された女子短大に進学します。近所で大学生同士という、最高の形での恋愛になれたかもしれないのです。

 1人暮らしをしている僕のマンションに、毎日のように遊びにこれたでしょう。僕の大学生活の最後を飾るにふさわしい、「青春の総決算」と言っても過言ではないことだったのです。

 なのに、こうなるためのチャンスをみすみす逃してしまった……。何もかもがうまくいってたかもしれないのに……。

 気分が悪くなり、トイレに吐きに行きました。

 僕を布団から出させたのは、「嘔吐」という名の、現実的な体の異変だったのです。

 あてもなくつけたテレビが、気がつくと、砂嵐になっています。こんな目障りな音でさえ気にならず、シェンロンが現われても無視しそうなほど、この日はずっと放心状態でした。

 翌日からは、数分に1回、ため息をつく生活が始まりました。

 何をしても楽しめず、感じることすべてが7割引きです。大好きなラーメンを食べに行っても、口に入れるその瞬間こそおいしいものの、K子ちゃんのことが頭をよぎった瞬間から味がしなくなってしまうのです。

 2人でした会話を思い出して、K子ちゃんの過去の発言から、自分への好意を探っていきます。

 もしかしてあの発言は、僕への告白だったのではないか……。

 僕が働いてるときに買物に来たことがあったけど、そのとき、僕のレジには来なかったな……。いや、でもシャイだから、来れなかったのかもしれない。それはむしろ、僕のことを意識している証拠なのでは……。

 毎日のように、このようなことを考えます。それがたまらなくイヤで、イヤだとわかっていてもまた考えてしまう、どうしようもない悪循環に陥ってしまったのです。

 それでも、来月からは大学試験が始まります。落ち込んでばかりもいられず、もう1つのバイト先である居酒屋も、1月は試験勉強をするためにほとんど入らなかったので、すべての時間を勉強にあてなければならないのです。

 僕はこの段階で、留年が決定的でした。

 留年を見越して、就職活動をしなかったほどです。来年という1年を将来を考える時間にするためには、今回の試験で満タンに近い単位を取得しなければなりません。事実、K子ちゃんのことを気にかけながらも、すでに勉強を始めていたぐらいで、本来なら、恋愛ごときで悩んでいる時期ではないのです。

 僕は無理にでも自分を奮起させ、邪念を振り払いました。明るい未来を信じて、勉強に明け暮れたのです。

 ですが、イブだけは、本当につらかったです。

 今ごろ、K子ちゃんとキレイな夜景を見ていたかもしれないのにな……。

 こう考えて舌を噛みそうになり、戦争でも起きないかなと、何回思ったことか。

 僕は貧乏学生です。クリスマスといえども、コンビニで1番安いケーキを買うのが精一杯。安物特有の味のしないイチゴを口に含むと悲しくなり、その悲しさに輪をかけるかのように、僕の隣に住む男の部屋に、彼女らしき女性がやってきたのです。

 「メリークリスマス!」

 「おい!遅かったやんけ!」

 腹立つわ……。ほんまに殺したいわ、こいつら……。

 イライラしながらも、「こいつらがHを始めたら、僕も興奮して少しは癒されるかな……」と考える自分がいます。そんな自分がたまらなくイヤで、惨めすぎて泣けてくるのです。

 年末も、例年なら実家に帰るのに、家で勉強していました。大学の近くの食堂に行き、気心のしれたオバサンと話をして、気を紛らわせました。大晦日も、そしてお正月も、僕は勉強に勤しんだのです。

 正月明けからは、勉強の舞台を大学図書館に移しました。

 ですが、楽しそうに勉強するカップルがうらやましくてね。

 長机に一度、彼氏、僕、彼女の並びで座ったことがあり、僕を挟んでイチャイチャする2人を見ると、惨めな自分がいたたまれません。

 「僕、よかったら移動するんで、ここに座ってもらっていいですよ」

 こんなふうに妙にいい奴を演じる自分もなんかイヤで、めちゃくちゃ惨めに思えたのです。

 仲のいい友達も、単位をほとんど取得していたので、会うことは少ないです。

 「地球上で、俺は今、1番惨めだ……」

 このように考えてしまい、度重なる負の圧迫で、さながら「心の胃潰瘍」になってしまったのです。

 こんな精神状態なので、なおさらK子ちゃんのことで思いつめるわけにはいきません。図書館での勉強終わりには、K子ちゃんのいる時間帯にはスーパーの前を通らないようにし、わざわざ遠回りして帰宅することにしました。

 ここから数十メートル先に、僕の女神がいるんやけどな……。

 わかってはいても、気弱な人間にとってのこの数十メートルは、はるか遠くに感じられます。距離うんぬんは関係なく、そこに、絶対的な壁が存在します。見えない厚い壁が存在し、禍々しいオーラを放って、進入を阻んでくるのです。

 それでも、僕は試験勉強をがんばりました。夜を徹して勉強に勤しみ、なんとか試験を乗り切ったのです。

 がんばった甲斐あって、試験はバッチリでした。現実問題、留年することは間違いないものの、ほとんどの単位を取得できた手ごたえがあったのです。

 すると当然のように、K子ちゃんのことが気になりだしました。試験中も考えることはざらだったものの、ひと段落して気持ちに余裕が出てくると、K子ちゃんのことを考えずにはいられないのです。

 僕の部屋には、昨秋に買ったパソコンがあります。ネットで、僕とK子ちゃんの相性占いをしました。いい結果が出るまでたくさんのサイトを巡り、「相性は抜群!」と出た、最高の結果だけをお気に入りに登録するなど、僕の頭の中にはK子ちゃんのことしかないのです。

 そこで親に無理を言って、留年した際の学費を立て替えてもらうことにしました。2月は、K子ちゃんをどうするかの作戦に時間をあてるべく、居酒屋のバイトを少なめにすることにしたのです。

 ですが、バイトを休む理由は、これだけではありません。

 実は、体を壊してしまったのです。

 試験勉強をがんばりすぎた疲れ、なにより、K子ちゃんのことを考えすぎた心の疲れで、試験が終わった1月20日ごろから、完全に体がおかしくなりました。食事をすれば吐き、何をしても楽しくないしで、軽い鬱病にかかってしまったのです。

 僕は2月を休暇月間、かつ、「K子ちゃんをどうものにするか月間」と名づけて、部屋にこもることにしました。

 2月に入り、最初の数日は、まるまる休暇にあてました。K子ちゃんのことを考えながらも、部屋でごろごろしていました。

 しばらくして、K子ちゃんに告白するべく、1つの作戦を思いつきました。

 それは、「偶然を装ってK子ちゃんに会い、その場でデートに誘う」という、非常にズル賢い作戦です。

 ほとんどストーカーなのですが、たまたま出会ったような見せ方でK子ちゃんに近づき、「久し振りやな!髪切った?」とでも言って、デートに誘うのです。

 K子ちゃんが学校に向かうとき、バイトに行くとき、バイトの休憩で家に帰るときなど、以前に会話した情報から行動パターンを分析しました。自分のスケジュールと相談しながら、「そのとき」を模索したのです。

 とはいえ、タイミングを計って行っても、簡単に会えるものではありません。

 学校が休みなので会えない、休憩の順番を読み違えて会えない……。諸所の理由で会えず、その都度、傷心で家に帰ってきたのです。

 ただ、あるとき、スーパーに向かうK子ちゃんを発見したのです。

 時刻は午後4時50分。周囲に人はいません。しかもその日は、毎日欠かさずチェックしていた『めざましTV』の占いも1位だったのです。

 ついにきた……。やっとチャンスがおとずれた……。

 僕は、大きく深呼吸をしました。

 「スー、ハー、スー、ハー、スー、パー、フフフ」

 くだらないダジャレにも無理矢理笑って気持ちを落ち着かせ、声に出して何度も深呼吸をしました。

 「よし!行こう!」

 出発の合図を声に出し、僕は1歩、また1歩と、K子ちゃんに近づいて行きました。高鳴る鼓動を手で押さえながら、女神に近づいて行ったのです。

 ところが、K子ちゃんが角を曲がった瞬間、逆方向に歩き出す自分がいるのです。

 後ろ姿とはいえ、女神を近くに見ると、途端に心臓がバクバクして別人格になります。「恥ずかしいならやめとけよ!」と悪魔がささやいてきたのです。

 結局、やっとおとずれたこのチャンスでさえ、僕は逃した、いや、逃すことを選んだのです。

 もうイヤや……。マジで死にたい……。

 自分があまりに情けなくて、家に帰って泣きました。

 しかも、自分が惨めすぎてMっ気が生じ、めちゃくちゃなマスターベーションをしました。

 「堕ちるところまで堕ちてやる!」

 自暴自棄になり、部屋に貼ってあった永作博美のポスターをはがして、顔面におもいっきりかけたのです。

 ですが、終わったあとに、死にたくなりました。行為終わりの虚無感もあって、本気で死にたくなりました。そしてこのときから心の病が加速し、食事がまったくノドを通らなくなったのです。

 体も、見る見るうちにやせていきました。居酒屋のバイトも無理言って友達に代わってもらい、人生で初めての引きこもりを経験することになったのです。

 テレビをつけても、見るのはNHKばかり。音の少ない番組しか、体が受けつけません。民放のバラエティー番組などもってのほか、鉄の万力で常時締めつけられる心には、過剰な演出や人の楽しむ姿が、なんとも苦痛なのです。

 あるときから、耳に入るすべての歌の歌詞が、今の自分のためにあるように聞こえてきました。そのメッセージが自分を勇気づけてくれると同時に、「前の女のことはあきらめろ!」といった歌詞を聴くと、妙にホッとする自分もいるのです。

 たまに外出しても、目に入る風景はモノクロに見えます。視界に入るものすべてがセピアがかって見え、鬱屈という檻の中を、さまよっているかのようなのです。

 それもギャラリーが誰ひとりとしていない、狭い檻です。

 「僕は誰にも見てもらえないんだ……」

 こう考えずにはいられず、心の自由のない囚人になってしまったのです。重い手錠をはめられ、ただ、自分の意志ではずすことができるのにはずそうとしない、何の意味もない人間に……。

 このとき、たまたま入った本屋で、山崎まさよしの曲が聴こえて涙を流したことを、僕は今でも忘れません。

 ♪いつでも捜しているよ どっかに君の姿を 向かいのホーム 路地裏の窓 こんなとこにいるはずもないのに 願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ できないことは もう何もない すべてかけて抱きしめてみせるよ

 これは、『Onemoretime、Onemorechance』という曲で、今の自分を投影しているかのような曲だったのです。

 外に出ると、僕は常にどこかで、K子ちゃんを探していました。

 踏み切り越しにK子ちゃんが通学で利用している電車の中を見たり、コンビニや中華料理屋など、同じ街で生活しているK子ちゃんに偶然会えることを信じて、至るところを歩きました。ゴミ収集車の中を見るぐらいの勢いで探しましたし、カツラのオッサンの頭をめくって、「ここにもいない……」と言いそうなほどだったのです。

 K子ちゃんに似た女性が男と手をつないでいようものなら、近くまで行ってたしかめました。

 髪型が似ているとか、乗っている自転車が同じといったささいなことでも、疑心暗鬼になります。わざわざあとをつけてたしかめ、「よかった、K子ちゃんじゃなくて……」と自分を安心させていたのです。

 ですが、同時に、こうも考えました。

 「彼氏ができたのなら、僕もあきらめがつくのに……」

 今というこの瞬間に生きるのに精一杯で、明るい未来よりも、今の自分をなんとかしてほしいのです。それほど追い詰められており、マイナスをプラスにすることよりも、0でいいから楽になりたい、と考えてしまう自分がいるのです。

 僕はすべてに怯えながら、日々、檻の中を徘徊しました。手錠をはめられ、狭い檻の中を何度も歩きました。

 ある日のことです。

 いつものように街を歩いていると、後ろから誰かが話しかけてきました。

 「バスコ君、久し振りやないの!」

 振り返ると、シャクレの藪上さんが立っていました。

 藪上さんと話をすると疲れます。僕は通り一遍の会話で済ませようとしたのですが、「アンマ、ヤチェタケド、ゲンチチテンノ?(通訳→あんた、やせたけど、元気してんの?)」と訊かれた瞬間、自分を心配してくれる母親の姿に見えたのです。

 「藪上さん、飯でも食いに行きませんか?」

 気がつくと、僕は藪上さんを食事に誘っていました。

 誰かに話を聞いてほしかったのです。誰でもいいので、生身の人間と接することで、手錠をはずしたかったのです。

 薮上さんに導かれるように、近くの喫茶店に入りました。

 ですが、正直に言うのは恥ずかしい、という弱気な自分が顔を出して、本当のことが言えません。

 「ナニチャアッテンジャロ?チョウチキニイッチェミ?(通訳→何かあってんやろ?正直に言ってみ?)」

 こう訊かれて、「スーパーのバイトをやめたのは、実は、お弁当を盗んでいたからなんです」と、やせた理由にウソをついてしまったのです。

 自分のやっていることが恥ずかしくて、「K子ちゃんのことが好きやから、偶然会えるように毎日、街を歩いているんです」とは言えなかったんですね。

 ただ、僕はここで藪上さんから、とびきり優しい言葉を聞くことになります。

 「あんた、そんなん気にせんでいいよ。店長も、そんなことはもう気にしてないよ。私も正直、似たようなことを考えたことがあるし、お金がないんやったら仕方がないよ」

 本当の悩みごとと違うとはいえ、感動せずにはいられませんでした。

 「あんたはマジメすぎるところがあるから、あんまり考え込んだらあかんよ。そんなこと気にしなくていいから、またスーパーに買物においで」

 こう言われて、僕は泣いてしまったのです。

 自分が情けなくて情けなくて、そして、こんな情けない自分にも手を差し伸べてくれる人を見たとき、人のあたたかさに心が震えたのです。

 「泣かんでいいがな。今日は私がごちそうしてあげるから。ほら、ご飯を食べ」

 1人暮らしでお金がかかるにもかかわらず、藪上さんは、僕に食事をごちそうしてくれました。

 本当にいい人なんですよ、藪上さん。あごについた焼肉のタレが多少気になるものの、母親のように優しい人なのです。

 シャクレを罵倒したことを、僕は後悔しました。S君と一緒に、「しゃく家」「柿の種」などと、陰でひどいあだ名で呼んでいた自分を殺したくなりました。

 幸いにも、泣いたことで、僕の心はスッキリとしました。

 しかも藪上さんから、僕がお弁当を盗んでいたことはウワサになっていない、という情報を聞けたので、ある作戦を決行することにしたのです。

 それは、「夜の10時前に買い物客を装ってスーパーに行き、K子ちゃんと一緒に帰る」という、考えられる範囲での最高の作戦です。

 K子ちゃんが働く月曜日、木曜日、金曜日の10時直前に行けば、K子ちゃんがいることは間違いありません。K子ちゃんが帰る時間に合わせて僕も店を出れば、一緒に帰れるのです。

 僕は再び、シャドウ告白を始めました。

 途中、2月14日に、「僕の家を探してチョコレートを持ってきてくれないかな……」とムダな期待を抱きながらも、言葉のラッシュをくり返しました。

 そして2月の半ばを過ぎたある日、僕は2ヵ月振りに、スーパーの門を叩いたのです。

 禍々しいオーラを払いのけ、厚い壁をぶっ壊しました。緊張しながらも、弱気を悟られないように少し高めのテンションで、女神のいるレジの前に行きました。

 「久し振りやな!みんな、元気?」

 幸いにも、現場に店長はいません。S君がいたことから話もしやすく、そしてK子ちゃんは、相変わらずかわいいままのK子ちゃんでした。

 「バスコさん、久し振りじゃないですか!」

 K子ちゃんが、僕に声をかけてくれました。

 僕は四六時中、K子ちゃんのことを考えています。いざ本人を前にして舞い上がってしまい、正視できません。

 「ひ、久し振りやな!」

 僕は声を震わせながら、言葉を返しました。「やせたんと違います?」と続けられて、「試験勉強をがんばりすぎたわ!」と、目を逸らして答えました。

 「ちょっと、買い物をしてくるわ!」

 僕は店内を移動し、レジに持って行くタイミングを計りました。

 時刻は10時になりました。

 K子ちゃんがレジを離れ、僕は買いたくもないサバの缶詰をカゴに入れました。そして、K子ちゃんが階段を下りてくるのを足音で確認してレジに向かったところ、荷物を取ってきたK子ちゃんが、僕のところにやって来たのです。

 僕は、用意していたセリフを思い出しました。緊張を悟られないように、冷静を装って、話しかけました。

 「K子ちゃん、今から帰んの?」

 「はい!」

 「あっ、俺もそろそろ行かないとあかんわ。家、こっち?」

 「はい!」

 「一緒に帰るか?」

 「はい!」

 白々しく会話して、一緒に帰ることに成功したのです。

 スーパーを出た僕らは、並んで歩き始めました。

 至近距離からK子ちゃんの横顔を見ることが、とても現実のこととは思えません。どこかもったいなく感じられ、ずっと生ハムを食べているかのような、どこまでも続きそうな幸福感に、僕の体は包まれました。

 暗闇の中、連なる電灯が薄い光を放っています。寿命が尽きかけた蛍のようで、いい感じで、外は暗いです。漆黒が動物本来の大胆さを刺激してくるかのようで、告白するにはこれ以上ない舞台でしょう。

 ですが、今までにも増して、僕の心はドキドキです。いつ言おうかいつ言おうかと、気が気じゃないのです。

 なにしろ、あの女神が僕の真横にいます。その事実を考えただけで、卒倒しそうになるのです。

 途中で逃げ出したくなったものの、もうこのチャンスを逃すわけにはいきません。

 「寒いな。髪切った?」

 僕は月並みな話題をふって、「そのとき」を計っていたのですが、僕はここで、悲しいお知らせを聞くことになります。

 「私、今月いっぱいで、スーパーのバイトをやめるんです」

 K子ちゃんは、この春から短大に進学します。家から余裕で通える距離なのに、この街を離れて、4月から女友達2人と短大近くに部屋を借りて住む、と言うのです。

 マジで……。僕の近所ではなくなるんや……。

 思わず、テンションが下がりました。

 それでも、交際できれば、こんなことは小さなことです。思い描いた理想の恋愛にはなりにくくなったものの、付き合えるだけで御の字なのです。

 そしてこのことを知ったからには、ますます告白しないわけにはいきません。

 もうすぐ、スーパーにK子ちゃんはいなくなります。告白できるのは、これが本当にラストチャンスなのです。

 僕は、特攻隊レベルで、自分を追い詰めました。

 「私の家、あのマンションなんですよ」

 「へー、そうなんや!」

 「……」

 「……」

 この会話のあとに間ができたので、僕は「今しかない!」と考えました。ついに「そのとき」を、今というこの瞬間に決定したのです。

 ドックン、ドックン。

 僕の心臓が高鳴ります。と同時に、猛烈に熱いものが込み上げてきました。

 言ったるわ、こんなもん!ちょっと勇気を出せばこんなことは簡単や!余裕や、余裕!簡単な話や!


 なのに、言えないのです……。言おうと思っても、言葉が出てこないのです……。そのちょっとの勇気が僕にはないのです……。

 気がつけば、タイムアップ。告白できずに、K子ちゃんの家の前まで来てしまったのです。

 「まだまだ寒いから、風邪を引かんようにしいや」

 告白できなかった僕は、こう口にするのが精一杯。100メートルはあろう後ろ髪を引かれながら、家に帰ってきてしまったのです。

 部屋に入った瞬間、発狂に近い形で荒れ狂いました。

 「このダメ男が!お前なんか死んでしまえ!」

 鏡に映った自分を怒鳴りつけ、鏡を壁に投げつけて粉々にしました。

 下戸なのにもかかわらず、ウイスキーを瓶のまま口にしました。

 「♪これ以上何を失えば 心は許されるの どれほどの痛みならば もう一度君に会える Onemoretime…… 」

 薄れ行く意識の中で山崎まさよしを口ずさみながら、僕は涙を流して眠りについたのです……。

 後編へ……。

告白しない片思いに何か意味はあるか?の考察・前編(パソコン読者用)

※2008年・2月14日の記事を再々編集


 先日、部屋を大掃除しました。


 例年であれば、年末にします。昨年末は忙しくてできなかったため、時間に余裕のできたこの時期にすることにしたのです。


 僕の掃除は、大がかりなものです。徹底的に片づけることから、懐かしいものがたくさん出てきます。それらを見ながら毎年、「こんなときもあったな……」と、ノスタルジーに浸るのです。


 今回、タンスの奥に閉じ込められた段ボールの中から、1つのエプロンが出てきました。


 このエプロンは、僕が大学時代にアルバイトをしていた、スーパーマーケットのエプロンなのです。


 このエプロンには、たくさんの思い出が詰まっています。


 ただ、このエプロンは感慨に浸るためではなく、自分を戒める意味で保管してあります。「2度とこんなことをしてはいけない!」という、強い自戒の意味を込めて……。


 僕は過去に、一度だけ女性に告白したことがあります。自分で言うのもなんですが、女性のほうから告白されて交際したのがすべてで、自分から好きだと言ったのは、あとにも先にもこのときだけなのです。


 ですが、僕はシャイです。気が小さく、人に話しかけるのも苦手。女性に告白するなんぞ、死んだほうがましだ、と思うほどのことなのです。


 告白に至るまで、いろいろとありました。「告白しない片思い」という奴で、意味のない時間を悶々と過ごし、自分がイヤになって、体を壊してしまったのです。


 このエプロンを見た僕の脳裏に、1つの記憶が蘇ってきました。掃除をしていた手が止まり、いい意味でも悪い意味でもしんみりせずにはいられない、鮮烈な思い出が脳を駆け巡ったのです。


 そこで今回は、「告白しない片思いに何か意味はあるか?」の考察・前編です。


 これは僕が1人暮らしをしていた、大学4年生のときのお話です。


 当時、僕は家から10分足らずのところにある居酒屋で、アルバイトをしていました。


 僕は、大学の単位が不足しています。留年を見越して学費を稼ぐため、毎日のように働いていました。


 あるとき、店長にお願いされました。


 「悪いけど、労働基準法に違反するから、働くのを減らしてくれ」


 僕が働きすぎたらしく、週に4回以上、働けなくなったのです。


 そこでその年の夏ごろから、近所のスーパーマーケットで、居酒屋とかけ持ちで働くことにしました。


 スーパーの勤務時間は、夕方の5時から、店が閉店する11時までの6時間。業務はレジを打つだけの簡単なもので、お金を稼ぐにはもってこいの仕事でした。


 僕にとっては、お金を稼ぐためだけの仕事です。友達を作ったり、ましてや彼女を作ろうなんて気はさらさらなかったのですが、同じようにレジで働いていた女の子を好きになってしまったのです。


 このスーパーには縦にレジが4台あり、1人ずつ入って働きます。8時からはお客さんが少ないため、レジを2台にして2人ずつ30分の休憩をとり、全員の休憩が終わった9時から11時までは、2台のレジでペアになって働き

ます。誰とペアになるかは早い者勝ちで、僕の隣になることが多かった女の子と話をするうちに、気になりだしたのです。


 彼女の名前は、K子ちゃん。


 この近所に住む、隣町の女子高に通う3年生です。ショートカットがよく似合う、それはもう、かわいらしい女の子なのです。


 女子高生特有のあくの強さは一切なく、「バスコさん、バスコさん!」と、気さくに話しかけてくれます。なついてくるウサギのようで、放たれる愛嬌に、くらくらするほどなのです。


 「バスコさんの接客って、荒くないですか?」


 「そんなことないよ!」


 「荒いですよ!お客さんにはもうちょっと親切にしてくださいよ!」


 なんとない会話なものの、楽しいです。愛らしい女の子が冗談半分に悪態ついてきたと考えると、うれしくて仕方がありません。


 そしてその会話を、家に帰ってから何回も思い出します。自然と顔がニヤけ、胸の内側がポカポカとあたたかくなってくるのです。


 シフトの関係で、K子ちゃんとは、週に一度しか会えません。高校生で10時に帰るため、週にたった1時間しか話ができないのですが、回を重ねるごとに、僕は好きになっていきました。


 当時、僕に彼女はいません。


 大学や居酒屋にも親しい女の子はおらず、女性とは長い間、遠ざかっています。気さくに話しかけてくれるK子ちゃんが女神のように思え、K子ちゃんが隣でクシャミをしようものなら、口から出た唾液の破片を吸い込もうとするぐらいの勢いです。


 バイト中は、K子ちゃんと目が合う→目を逸らす→また見るのくり返しです。店内ですれ違ったときに見て、振り返って見て、店内を曲がるときに横目でもう一度見て……。このくり返しで、女神が愛おしくて仕方がないのです。

 恥ずかしながら、これでもかというぐらい、K子ちゃんとの恋愛の妄想をしました。


 週に3度は僕の部屋に遊びにきて朝帰りをする、真夜中にキスをするためだけに近くの公園で会う……。こんな恥ずかしいことを、当たり前のように考えていました。


 「結婚したい!」と思うぐらいに好きで、結婚してK子ちゃんが僕の名字になったとき、語呂が悪くないかを確認したりしました。妄想が膨らみすぎて、K子ちゃんのお父さんに結婚の申し込みに行くところを、勝手にシュミレー

ションしているほどだったのです。


 ただ、いつまでたっても、告白できません。


 ほかのバイトの人に聞いて、K子ちゃんに彼氏がいないことはわかっています。なのにシャイな僕は、勇気がなくて言えないのです。


 バイト先の人に言って、協力してもらう手もあります。S君という同じ大学の男友達ができたので、S君に力を借りて告白することも可能でしょう。


 ですが、本当のシャイは、男友達に言うこともできません。女性を好きでいる自分がどこか恥ずかしいため言えず、なにより、彼女のいないS君もK子ちゃんを好きな可能性があるため、邪魔されることを考えて言えないのです。


 とりわけ僕は、「相手も自分のことを好きだとわからないかぎり、自分からは告白しない」と決めている節があります。勇気がないのはもちろんのこと、告白するとしても、自分への愛情を確認できないことには言えないのです。


 僕は、K子ちゃんに会える木曜日に、レジでペアになれるようにタイミングを計りました。偶然を装い、真後ろのレジに入って話しかけるなど、僕を好きになったと確信できる証拠を得るために、孤軍奮闘しました。


 K子ちゃんを好きになってからというもの、歯磨きや洗顔といった日常の行為が、以前に比べて入念になりました


 「常に最高の自分を見せたい!」


 この思いに支配され、バイト中は、常に凛としています。


 バイトに遅刻して店に全速力で走ってきたときも、息が切れてクシャクシャになっている顔は、K子ちゃんには見せません。ブサイクな自分を見せたくないため、K子ちゃんの前を通るときだけは、妙に涼しい顔をしました。


 同時に、そんながんばる自分を誰も認めてくれないことに、どこか苛立ちを感じます。その結果、K子ちゃんに接してくる異性が全員、敵に見えてきたのです。

 K子ちゃんが自分以外の男の従業員と楽しそうに会話しているところを見ると、気持ちがモヤモヤします。その後、その従業員だけではなく、K子ちゃんにも、どこか冷たくしてしまう自分がいるのです。


 いろいろと、アピールもしました。


 盗み聞きで、K子ちゃんは男らしい人が好き、という情報を得たときには、「俺はオーストラリアに行ったとき、黒人を殴り倒したからな!」と、ウソをつきました。レジのカゴをたくさん担ぐ姿を見せたり、家が貧しいという情報を仕入れたときは、「デート代を出さない男なんて最低やな!俺は全額出すからな!」と、後ろのレジにいるK子ちゃんに聞こえるように言ったりと、子供みたいなことを真剣にしていたのです。


 しかし、いつまでたっても、僕のことを好きになったという確証を得られません。仲よく話こそするものの、男女としての距離が縮まった気がしないのです。


 「まあでも、もっと仲よくなれば、好きにもなってくれるやろう!」


 結局、負け犬特有のプラス思考で、自分を慰めることにしました。K子ちゃんにさりげなくアピールするのをくり返し、僕は働き続けました。


 ところが、事件は起こったのです。


 僕はS君と共謀して、スーパーのその日に処分される食料品を、レジを通さずに持って帰っていました。店長に、「捨てるんやったらくださいよ?」とお願いしても断られたため、店が閉まる11時前にS君がレジに入り、僕は個人的な買物を装って、レジを通さずに弁当や惣菜をくすねていたのです。


 ただ、あるとき、店長に見つかってしまったのです。


 店長が近くにいることに気づかず、S君が弁当をよけてバーコードを打ち始めたところ、買物客を装った僕と店長の目が合ってしまったのです。


 思わず目を逸らしたものの、時すでに遅し。店長は目を吊り上げており、翌日から、極端に冷たくなりました。転校生を無視する小学生のごとく、ほかのバイトには優しく接し、共犯であるS君にもなぜだか普通に接したものの、僕にだけ、あからさまに対応が違ったのです。


 これを見て、僕は、バレたと確信しました。


 「ほかの従業員にも知れ渡っているのではないか……」


 このような被害妄想が顔を出して、働きづらくなったのです。


 僕は居心地の悪さに耐えられず、12月末をもって、バイトをやめることにしました。


 大学試験が近づいて、勉強しなければならない時期です。タイミングよく居酒屋の店長が変わり、新しい店長がタイムカードを2つ用意してくれることになったので、スーパーで働く理由はなくなったのです。


 もちろん、K子ちゃんのことが好きなので、やめたくはありません。


 とはいえ、スーパーにいづらい、大学試験が近い、シフトの融通がきく居酒屋で、好きな時間に好きなだけ働ける、といったことを総合的に考えると、やめたほうが得策だ、と判断したのです。


 僕はバイトをやめるにあたり、1つの決意をしました。


 言わずもがな、K子ちゃんへの告白です。


 確証を得るとか悠長なことなど、もう言ってられません。バイトをやめてK子ちゃんと働けなくなっても、付き合っていれば、そんなことはどうでもいいのです。


 しかし、そこはシャイな僕です。バイト仲間にやめることを報告し、背水の陣で自分を追い詰めたものの、告白できません。


 「言うんだ!勇気を出して言うんだ!」


 仕事中もレジそっちのけで告白のことを考えていたのに、いざ本人を前にすると言えないのです。


 ノドまでは出かかるものの、そこから先が出てきません。いざ言おうとしても、そういう空気を出した自分を客観的に見て恥ずかしくなり、話を強引に変えてしまうのです。


 恋愛ベタは、相手とちょっとしたことがあるだけで、すぐに、自分のことが好きなのではないか、という結論に持っていこうとします。僕がまさにそうで、K子ちゃんと少し目が合っただけなのに、「俺のことをずっと見ていたのではないか……」といいように考えるなど、妙な悦に浸って自分を満足させます。そして、「向こうのほうからそのうちに告白してくるのでは?」という都合のいい理由をつけて、逃げるのです。


 告白できないままに、月日は流れました。気がつくと、バイト最終日になっていたのです。


 K子ちゃんは携帯電話を持っていません。連絡先を訊くことはできず、いづらくなったことからその後、プライベートでスーパーに来ることもできません。


 告白するチャンスは、もうこの日をおいてないのです。


 それもチャンスは一度きり。レジでK子ちゃんとペアになり、「今度、どこかに遊びに行かへん?」と誘うしかありません。お別れ会をしてくれる気の利いた奴もいないので、そのときこそが、シャイな僕にとってのラストチャンスなのです。


 本番前夜、僕は寝る間を惜しんで、告白の練習をしました。


 シャドウボクシングならぬ「シャドウ告白」で、ボクサーのシュッシュッなみに、「今度映画を観に行かへん?今度映画を観に行かへん?」と、壁に向かって練習しました。「こう言われたらこう切り返そう!」と、ディフェンス込みであらゆる事態を想定し、徹底的に予習をしました。


 真夜中にもかかわらず、近くの神社にお参りに行きました。


 「僕に勇気をください!」


 こう心の中でつぶやいて手を合わせ、5円玉を何枚入れたことか。1枚、2枚ではなく、コンビニでわざわざ両替えまでして、何十枚も投げ入れました。


 そして、ほとんど寝つけないままに時間だけが経過し、バイトの時間がやってきたのです。


 僕は予習したことを反芻して、スーパーに向かいました。


 「落ち着けよ!絶対になんとかなるから!」


 自分にこう言い聞かせて、スーパーに入りました。


 休憩室でエプロンをつける僕に、K子ちゃんがあいさつをしてきました。


 「バスコさん、おはようございます!」


 僕は、すでに緊張しています。「あっ、おはよう」と目も合わさないまま返し、逃げるようにレジに向かいました


 年末なので、店は混雑しています。


 とはいえ、「そのとき」が来ることを考えると、僕は仕事どころではありません。商品を袋に入れる手がずっと震え、特売品に気づかず、そのままの値段で売ってしまいます。ジュースを並べようとして倒したりと、心ここにあらずなのです。


 「バスコ、何かあったんか?」


 S君に心配される始末で、まったく仕事が手につきません。


 あかん、めちゃくちゃ緊張してきた……。生きてる心地がせえへん……。


 緊張がピークに達した僕は、気持ちを落ち着かせることにしました。適当な理由をつけてトイレに行き、タバコを吸いました。わずか数分の間に2本、3本と吸い、「大丈夫や!なんとかなるわ!」と自分に言い聞かせたのです。


 それでも幸か不幸か、時計の針は進みます。


 時刻は夜の8時。いよいよ休憩時間になったのです。僕は大きく深呼吸をしました。


 休憩の順番は、4人であみだくじをして決めます。自分の名前を紙に書き、8時~8時30分組(1番)と8時30分~9時組(2番)に分かれます。


 もしK子ちゃんと同じ休憩時間になると、その後、ペアになれません。同じ休憩時間の2人が2つのレジに別々に入るため隣には行けず、店が混雑しているため、仕事中に話しかけることもできないのです。


 もちろん、休憩時間を一緒に過ごせれば、何の問題もありません。


 ですが、K子ちゃんは家に食事をしに帰るのです。一緒に店を出て、その場で告白するという手もあるものの、忙しさによってレジの引き継ぎ時間にズレがあるため、確実ではないのです。


 そして、順番としては2番がほしいです。K子ちゃんと誰かが先にレジに入り、僕があとから来て、K子ちゃんの隣に行くのがベストなのです。


 これはもう、神に祈るしかありません。


 「頼むから、僕が2番でK子ちゃんは1番を引いてくれ!」


 昨晩にお参りに行ったことを信じ、僕は心で手を合わせながら、あみだくじに名前を書きました。


 ところが、神はいなかったのです。


 同じ休憩時間になるという最悪の事態こそ免れたものの、僕は1番を引き、K子ちゃんは2番を引いたのです。


 こうなるともう、僕が先にレジに入っているわけです。K子ちゃんが僕を選んで、隣に来てくれるしかありません


 とはいえ、僕はK子ちゃんが隣に来てくれるという、自信がありました。過去にこのような状況では、ほとんど僕の隣に来てくれていたからです。


 もう1人のレジの子も、僕がやめるにあたって入ってきた、仕事のできない男子高校生です。K子ちゃんが僕を好きでないにしても、こいつとの比較で僕の隣に来る可能性は高いのです。


 僕は、K子ちゃんが隣に来てくれることを信じて、休憩室でタバコを吸いました。予習してきたことを反芻し、早めにレジに入ってK子ちゃんの到着を待ったのですが、僕の隣にオバハンがやってきたんですよ!K子ちゃんが戻ってくる少し前に、「バスコ君、今日で最後やんな?」と、何食わぬ顔でやってきやがったのです!


 空気読めよ、お前!読みようがないけど読んでくれよ!


 最悪ですよ、こんなもん。綿密に告白のシュミレーションをしたのに、こんなオバハンに来られたらどうしようもないのです。


 なのにこのオバハンがまた、めちゃくちゃシャクレなのです。「幽霊にずっとアッパーくらってんのか?」というぐらいのシャクレで、休憩室でカップラーメンを食べたとき、容器に口をつけてスープを飲んだら、あごをヤケドしました。「熱い!」と叫んだ瞬間、パッとあごを見たらあごにネギが載っていたぐらいのアゴラーで、シャクレすぎて何を言ってるのかわからないのです。


 なにしろ一度、「タロット占いに興味ある?」と訊かれて、魔女っ子メグと聞き間違えた僕は、「いや、アニメはあまり観ないんですよ」と答えたのです。


 タロット占いと魔女っ子メグですよ?どんなしゃべり方するんですか、このオバハン!


 しかも、よくしゃべるんですよ。


 若い男の子が大好きらしく、「バルコクン、ヒチキトカスジナヒト?(通訳→バスコ君、ひじきとか好きな人?)」「オトウチャン、シホロ、ナニホチテンノ?(通訳→お父さん、仕事は何をしてるの?)」「ハムラガサキ、タラコッテピロ?→(通訳不能)」と話しかけてくるので、毎回、訊き返さなければならないのです。


 このオバサンの名前は、藪上さん。


 バツイチの50過ぎの人で、実は、スーパーのバイトを紹介してくれたのもこの薮上さんで、買物客で来ていた僕と親しかったのです。


 いずれにせよ、作戦失敗です。藪上さんに隣に来られたため、ラストチャンスを逃してしまったのです。


 僕が前のレジにいたことから、振り返ってK子ちゃんに強引に話しかけるという方法も、考えはしました。


 しかし、時間を追うごとに客足が増え、藪上さんとすら、話す暇がありません。レジをもう1台増やすことになり、K子ちゃんが1人でレジに入ることになったのです。


 結果は惨敗。10時になり、K子ちゃんは帰ることになったのです。


 レジを離れる際、K子ちゃんが僕のところに来ました。


 「バスコさん、今までありがとうございました!また、スーパーにお買物に来てくださいね!」


 僕に声をかけてくれたものの、僕の頭の中は真っ白です。


 「そ、そうやな……」


 こう返すのが精一杯で、告白できることなしに、彼女は去って行くのです。


 ですが、正直、ホッとしている自分がいました。


 「よかった、告白しなくて済んで……」


 このように、どこか安心しているところがあったのです。


 なにより、もしK子ちゃんが僕を好きなら、早めに休憩を切り上げてでも、僕のレジの隣に来たでしょうから。


 僕は今日が最後なのにそうしなかったということは、僕に興味がないということなのかな……。


 こんなふうに考えて泣きそうになり、同時に、ホッとしている自分がいました。藪上さんに「バスコ君、たけのこの里は、上のチョコレートと下のクッキーどっちが好き?(←通訳後)」と訊かれても無視してしまうほど、僕は混乱しました。


 そしてこのあと、僕はますます混乱します。


 荷物を取って戻ってきたK子ちゃんがレジの前を通りがかり、僕を見て、なんとも言えない表情を浮かべたのです。ちらちらと僕のほうを見ており、いかにも何か言いたそうな素振りを見せてきたのです。


 女性というのは、さりげなく、自分の気持ちを伝えようとするところがあります。「あなたのことが好きですよ!」とばかりに、合図を送ってくることがあるのです。僕のようなシャイな女性だと、言葉ではなく、視線で表現するところがあるんですね。


 もうどうしたらいいか、わからなくなりましたよ。


 僕のことが好きなのかな、それともただの勘違いなのかな……。


 こんなふうに考えて、半ばパニック状態に陥ったのです。


 ほどなくして、K子ちゃんは店を出ました。


 もちろん、追いかけて告白することは可能です。そうすればこんな疑心暗鬼にならなくて済むのですが、作戦が失敗に終わったことで熱い気持ちがリセットされ、ここにきて再び、シャイな自分が顔を出し始めたのです。


 追いかけるべきかな……。でも、仲間に見られるから恥ずかしいな……。告白したところで、断られるかもしれないしな……、いや、断られるわ!断られるに決まってるわ!


 結局、弱さに支配された僕は、ただただ、去り行くK子ちゃんの後ろ姿を見つめていました。バイトを終え、家に帰ってからも寝つけず、終始、悶々としていたのです。


 そして、ここから始まったのです。「告白しないだけの片思い」という、何の意味もない時間が……。告白できない自分の弱さに辟易し、何をするにつけても悪い影響を与えてしまう、負の悪循環が……。


 中編に続く……。


告白しない片思いに何か意味はあるか?の考察・前編(携帯読者用)

※2008年・2月14日の記事を再々編集

 先日、部屋を大掃除しました。

 例年であれば、年末にします。昨年末は忙しくてできなかったため、時間に余裕のできたこの時期にすることにしたのです。

 僕の掃除は、大がかりなものです。徹底的に片づけることから、懐かしいものがたくさん出てきます。それらを見ながら毎年、「こんなときもあったな……」と、ノスタルジーに浸るのです。

 今回、タンスの奥に閉じ込められた段ボールの中から、1つのエプロンが出てきました。

 このエプロンは、僕が大学時代にアルバイトをしていた、スーパーマーケットのエプロンなのです。

 このエプロンには、たくさんの思い出が詰まっています。

 ただ、このエプロンは感慨に浸るためではなく、自分を戒める意味で保管してあります。「2度とこんなことをしてはいけない!」という、強い自戒の意味を込めて……。

 僕は過去に、一度だけ女性に告白したことがあります。自分で言うのもなんですが、女性のほうから告白されて交際したのがすべてで、自分から好きだと言ったのは、あとにも先にもこのときだけなのです。

 ですが、僕はシャイです。気が小さく、人に話しかけるのも苦手。女性に告白するなんぞ、死んだほうがましだ、と思うほどのことなのです。

 告白に至るまで、いろいろとありました。「告白しない片思い」という奴で、意味のない時間を悶々と過ごし、自分がイヤになって、体を壊してしまったのです。

 このエプロンを見た僕の脳裏に、1つの記憶が蘇ってきました。掃除をしていた手が止まり、いい意味でも悪い意味でもしんみりせずにはいられない、鮮烈な思い出が脳を駆け巡ったのです。

 そこで今回は、「告白しない片思いに何か意味はあるか?」の考察・前編です。

 これは僕が1人暮らしをしていた、大学4年生のときのお話です。

 当時、僕は家から10分足らずのところにある居酒屋で、アルバイトをしていました。

 僕は、大学の単位が不足しています。留年を見越して学費を稼ぐため、毎日のように働いていました。

 あるとき、店長にお願いされました。

 「悪いけど、労働基準法に違反するから、働くのを減らしてくれ」

 僕が働きすぎたらしく、週に4回以上、働けなくなったのです。

 そこでその年の夏ごろから、近所のスーパーマーケットで、居酒屋とかけ持ちで働くことにしました。

 スーパーの勤務時間は、夕方の5時から、店が閉店する11時までの6時間。業務はレジを打つだけの簡単なもので、お金を稼ぐにはもってこいの仕事でした。

 僕にとっては、お金を稼ぐためだけの仕事です。友達を作ったり、ましてや彼女を作ろうなんて気はさらさらなかったのですが、同じようにレジで働いていた女の子を好きになってしまったのです。

 このスーパーには縦にレジが4台あり、1人ずつ入って働きます。8時からはお客さんが少ないため、レジを2台にして2人ずつ30分の休憩をとり、全員の休憩が終わった9時から11時までは、2台のレジでペアになって働きます。誰とペアになるかは早い者勝ちで、僕の隣になることが多かった女の子と話をするうちに、気になりだしたのです。

 彼女の名前は、K子ちゃん。

 この近所に住む、隣町の女子高に通う3年生です。ショートカットがよく似合う、それはもう、かわいらしい女の子なのです。

 女子高生特有のあくの強さは一切なく、「バスコさん、バスコさん!」と、気さくに話しかけてくれます。なついてくるウサギのようで、放たれる愛嬌に、くらくらするほどなのです。

 「バスコさんの接客って、荒くないですか?」

 「そんなことないよ!」

 「荒いですよ!お客さんにはもうちょっと親切にしてくださいよ!」

 なんとない会話なものの、楽しいです。愛らしい女の子が冗談半分に悪態ついてきたと考えると、うれしくて仕方がありません。

 そしてその会話を、家に帰ってから何回も思い出します。自然と顔がニヤけ、胸の内側がポカポカとあたたかくなってくるのです。

 シフトの関係で、K子ちゃんとは、週に一度しか会えません。高校生で10時に帰るため、週にたった1時間しか話ができないのですが、回を重ねるごとに、僕は好きになっていきました。

 当時、僕に彼女はいません。

 大学や居酒屋にも親しい女の子はおらず、女性とは長い間、遠ざかっています。気さくに話しかけてくれるK子ちゃんが女神のように思え、K子ちゃんが隣でクシャミをしようものなら、口から出た唾液の破片を吸い込もうとするぐらいの勢いです。

 バイト中は、K子ちゃんと目が合う→目を逸らす→また見るのくり返しです。店内ですれ違ったときに見て、振り返って見て、店内を曲がるときに横目でもう一度見て……。このくり返しで、女神が愛おしくて仕方がないのです。

 恥ずかしながら、これでもかというぐらい、K子ちゃんとの恋愛の妄想をしました。

 週に3度は僕の部屋に遊びにきて朝帰りをする、真夜中にキスをするためだけに近くの公園で会う……。こんな恥ずかしいことを、当たり前のように考えていました。

 「結婚したい!」と思うぐらいに好きで、結婚してK子ちゃんが僕の名字になったとき、語呂が悪くないかを確認したりしました。妄想が膨らみすぎて、K子ちゃんのお父さんに結婚の申し込みに行くところを、勝手にシュミレーションしているほどだったのです。

 ただ、いつまでたっても、告白できません。

 ほかのバイトの人に聞いて、K子ちゃんに彼氏がいないことはわかっています。なのにシャイな僕は、勇気がなくて言えないのです。

 バイト先の人に言って、協力してもらう手もあります。S君という同じ大学の男友達ができたので、S君に力を借りて告白することも可能でしょう。

 ですが、本当のシャイは、男友達に言うこともできません。女性を好きでいる自分がどこか恥ずかしいため言えず、なにより、彼女のいないS君もK子ちゃんを好きな可能性があるため、邪魔されることを考えて言えないのです。

 とりわけ僕は、「相手も自分のことを好きだとわからないかぎり、自分からは告白しない」と決めている節があります。勇気がないのはもちろんのこと、告白するとしても、自分への愛情を確認できないことには言えないのです。

 僕は、K子ちゃんに会える木曜日に、レジでペアになれるようにタイミングを計りました。偶然を装い、真後ろのレジに入って話しかけるなど、僕を好きになったと確信できる証拠を得るために、孤軍奮闘しました。

 K子ちゃんを好きになってからというもの、歯磨きや洗顔といった日常の行為が、以前に比べて入念になりました。

 「常に最高の自分を見せたい!」

 この思いに支配され、バイト中は、常に凛としています。

 バイトに遅刻して店に全速力で走ってきたときも、息が切れてクシャクシャになっている顔は、K子ちゃんには見せません。ブサイクな自分を見せたくないため、K子ちゃんの前を通るときだけは、妙に涼しい顔をしました。

 同時に、そんながんばる自分を誰も認めてくれないことに、どこか苛立ちを感じます。その結果、K子ちゃんに接してくる異性が全員、敵に見えてきたのです。

 K子ちゃんが自分以外の男の従業員と楽しそうに会話しているところを見ると、気持ちがモヤモヤします。その後、その従業員だけではなく、K子ちゃんにも、どこか冷たくしてしまう自分がいるのです。

 いろいろと、アピールもしました。

 盗み聞きで、K子ちゃんは男らしい人が好き、という情報を得たときには、「俺はオーストラリアに行ったとき、黒人を殴り倒したからな!」と、ウソをつきました。レジのカゴをたくさん担ぐ姿を見せたり、家が貧しいという情報を仕入れたときは、「デート代を出さない男なんて最低やな!俺は全額出すからな!」と、後ろのレジにいるK子ちゃんに聞こえるように言ったりと、子供みたいなことを真剣にしていたのです。

 しかし、いつまでたっても、僕のことを好きになったという確証を得られません。仲よく話こそするものの、男女としての距離が縮まった気がしないのです。

 「まあでも、もっと仲よくなれば、好きにもなってくれるやろう!」

 結局、負け犬特有のプラス思考で、自分を慰めることにしました。K子ちゃんにさりげなくアピールするのをくり返し、僕は働き続けました。

 ところが、事件は起こったのです。

 僕はS君と共謀して、スーパーのその日に処分される食料品を、レジを通さずに持って帰っていました。店長に、「捨てるんやったらくださいよ?」とお願いしても断られたため、店が閉まる11時前にS君がレジに入り、僕は個人的な買物を装って、レジを通さずに弁当や惣菜をくすねていたのです。

 ただ、あるとき、店長に見つかってしまったのです。

 店長が近くにいることに気づかず、S君が弁当をよけてバーコードを打ち始めたところ、買物客を装った僕と店長の目が合ってしまったのです。

 思わず目を逸らしたものの、時すでに遅し。店長は目を吊り上げており、翌日から、極端に冷たくなりました。転校生を無視する小学生のごとく、ほかのバイトには優しく接し、共犯であるS君にもなぜだか普通に接したものの、僕にだけ、あからさまに対応が違ったのです。

 これを見て、僕は、バレたと確信しました。

 「ほかの従業員にも知れ渡っているのではないか……」

 このような被害妄想が顔を出して、働きづらくなったのです。

 僕は居心地の悪さに耐えられず、12月末をもって、バイトをやめることにしました。

 大学試験が近づいて、勉強しなければならない時期です。タイミングよく居酒屋の店長が変わり、新しい店長がタイムカードを2つ用意してくれることになったので、スーパーで働く理由はなくなったのです。

 もちろん、K子ちゃんのことが好きなので、やめたくはありません。

 とはいえ、スーパーにいづらい、大学試験が近い、シフトの融通がきく居酒屋で、好きな時間に好きなだけ働ける、といったことを総合的に考えると、やめたほうが得策だ、と判断したのです。

 僕はバイトをやめるにあたり、1つの決意をしました。

 言わずもがな、K子ちゃんへの告白です。

 確証を得るとか悠長なことなど、もう言ってられません。バイトをやめてK子ちゃんと働けなくなっても、付き合っていれば、そんなことはどうでもいいのです。

 しかし、そこはシャイな僕です。バイト仲間にやめることを報告し、背水の陣で自分を追い詰めたものの、告白できません。

 「言うんだ!勇気を出して言うんだ!」

 仕事中もレジそっちのけで告白のことを考えていたのに、いざ本人を前にすると言えないのです。

 ノドまでは出かかるものの、そこから先が出てきません。いざ言おうとしても、そういう空気を出した自分を客観的に見て恥ずかしくなり、話を強引に変えてしまうのです。

 恋愛ベタは、相手とちょっとしたことがあるだけで、すぐに、自分のことが好きなのではないか、という結論に持っていこうとします。僕がまさにそうで、K子ちゃんと少し目が合っただけなのに、「俺のことをずっと見ていたのではないか……」といいように考えるなど、妙な悦に浸って自分を満足させます。そして、「向こうのほうからそのうちに告白してくるのでは?」という都合のいい理由をつけて、逃げるのです。

 告白できないままに、月日は流れました。気がつくと、バイト最終日になっていたのです。

 K子ちゃんは携帯電話を持っていません。連絡先を訊くことはできず、いづらくなったことからその後、プライベートでスーパーに来ることもできません。

 告白するチャンスは、もうこの日をおいてないのです。

 それもチャンスは一度きり。レジでK子ちゃんとペアになり、「今度、どこかに遊びに行かへん?」と誘うしかありません。お別れ会をしてくれる気の利いた奴もいないので、そのときこそが、シャイな僕にとってのラストチャンスなのです。

 本番前夜、僕は寝る間を惜しんで、告白の練習をしました。

 シャドウボクシングならぬ「シャドウ告白」で、ボクサーのシュッシュッなみに、「今度映画を観に行かへん?今度映画を観に行かへん?」と、壁に向かって練習しました。「こう言われたらこう切り返そう!」と、ディフェンス込みであらゆる事態を想定し、徹底的に予習をしました。

 真夜中にもかかわらず、近くの神社にお参りに行きました。

 「僕に勇気をください!」

 こう心の中でつぶやいて手を合わせ、5円玉を何枚入れたことか。1枚、2枚ではなく、コンビニでわざわざ両替えまでして、何十枚も投げ入れました。

 そして、ほとんど寝つけないままに時間だけが経過し、バイトの時間がやってきたのです。

 僕は予習したことを反芻して、スーパーに向かいました。

 「落ち着けよ!絶対になんとかなるから!」

 自分にこう言い聞かせて、スーパーに入りました。

 休憩室でエプロンをつける僕に、K子ちゃんがあいさつをしてきました。

 「バスコさん、おはようございます!」

 僕は、すでに緊張しています。「あっ、おはよう」と目も合わさないまま返し、逃げるようにレジに向かいました。

 年末なので、店は混雑しています。

 とはいえ、「そのとき」が来ることを考えると、僕は仕事どころではありません。商品を袋に入れる手がずっと震え、特売品に気づかず、そのままの値段で売ってしまいます。ジュースを並べようとして倒したりと、心ここにあらずなのです。

 「バスコ、何かあったんか?」

 S君に心配される始末で、まったく仕事が手につきません。

 あかん、めちゃくちゃ緊張してきた……。生きてる心地がせえへん……。

 緊張がピークに達した僕は、気持ちを落ち着かせることにしました。適当な理由をつけてトイレに行き、タバコを吸いました。わずか数分の間に2本、3本と吸い、「大丈夫や!なんとかなるわ!」と自分に言い聞かせたのです。

 それでも幸か不幸か、時計の針は進みます。

 時刻は夜の8時。いよいよ休憩時間になったのです。僕は大きく深呼吸をしました。

 休憩の順番は、4人であみだくじをして決めます。自分の名前を紙に書き、8時~8時30分組(1番)と8時30分~9時組(2番)に分かれます。

 もしK子ちゃんと同じ休憩時間になると、その後、ペアになれません。同じ休憩時間の2人が2つのレジに別々に入るため隣には行けず、店が混雑しているため、仕事中に話しかけることもできないのです。

 もちろん、休憩時間を一緒に過ごせれば、何の問題もありません。

 ですが、K子ちゃんは家に食事をしに帰るのです。一緒に店を出て、その場で告白するという手もあるものの、忙しさによってレジの引き継ぎ時間にズレがあるため、確実ではないのです。

 そして、順番としては2番がほしいです。K子ちゃんと誰かが先にレジに入り、僕があとから来て、K子ちゃんの隣に行くのがベストなのです。

 これはもう、神に祈るしかありません。

 「頼むから、僕が2番でK子ちゃんは1番を引いてくれ!」

 昨晩にお参りに行ったことを信じ、僕は心で手を合わせながら、あみだくじに名前を書きました。

 ところが、神はいなかったのです。

 同じ休憩時間になるという最悪の事態こそ免れたものの、僕は1番を引き、K子ちゃんは2番を引いたのです。

 こうなるともう、僕が先にレジに入っているわけです。K子ちゃんが僕を選んで、隣に来てくれるしかありません。

 とはいえ、僕はK子ちゃんが隣に来てくれるという、自信がありました。過去にこのような状況では、ほとんど僕の隣に来てくれていたからです。

 もう1人のレジの子も、僕がやめるにあたって入ってきた、仕事のできない男子高校生です。K子ちゃんが僕を好きでないにしても、こいつとの比較で僕の隣に来る可能性は高いのです。

 僕は、K子ちゃんが隣に来てくれることを信じて、休憩室でタバコを吸いました。予習してきたことを反芻し、早めにレジに入ってK子ちゃんの到着を待ったのですが、僕の隣にオバハンがやってきたんですよ!K子ちゃんが戻ってくる少し前に、「バスコ君、今日で最後やんな?」と、何食わぬ顔でやってきやがったのです!

 空気読めよ、お前!読みようがないけど読んでくれよ!

 最悪ですよ、こんなもん。綿密に告白のシュミレーションをしたのに、こんなオバハンに来られたらどうしようもないのです。

 なのにこのオバハンがまた、めちゃくちゃシャクレなのです。「幽霊にずっとアッパーくらってんのか?」というぐらいのシャクレで、休憩室でカップラーメンを食べたとき、容器に口をつけてスープを飲んだら、あごをヤケドしました。「熱い!」と叫んだ瞬間、パッとあごを見たらあごにネギが載っていたぐらいのアゴラーで、シャクレすぎて何を言ってるのかわからないのです。

 なにしろ一度、「タロット占いに興味ある?」と訊かれて、魔女っ子メグと聞き間違えた僕は、「いや、アニメはあまり観ないんですよ」と答えたのです。

 タロット占いと魔女っ子メグですよ?どんなしゃべり方するんですか、このオバハン!

 しかも、よくしゃべるんですよ。

 若い男の子が大好きらしく、「バルコクン、ヒチキトカスジナヒト?(通訳→バスコ君、ひじきとか好きな人?)」「オトウチャン、シホロ、ナニホチテンノ?(通訳→お父さん、仕事は何をしてるの?)」「ハムラガサキ、タラコッテピロ?→(通訳不能)」と話しかけてくるので、毎回、訊き返さなければならないのです。

 このオバサンの名前は、藪上さん。

 バツイチの50過ぎの人で、実は、スーパーのバイトを紹介してくれたのもこの薮上さんで、買物客で来ていた僕と親しかったのです。

 いずれにせよ、作戦失敗です。藪上さんに隣に来られたため、ラストチャンスを逃してしまったのです。

 僕が前のレジにいたことから、振り返ってK子ちゃんに強引に話しかけるという方法も、考えはしました。

 しかし、時間を追うごとに客足が増え、藪上さんとすら、話す暇がありません。レジをもう1台増やすことになり、K子ちゃんが1人でレジに入ることになったのです。

 結果は惨敗。10時になり、K子ちゃんは帰ることになったのです。

 レジを離れる際、K子ちゃんが僕のところに来ました。

 「バスコさん、今までありがとうございました!また、スーパーにお買物に来てくださいね!」

 僕に声をかけてくれたものの、僕の頭の中は真っ白です。

 「そ、そうやな……」

 こう返すのが精一杯で、告白できることなしに、彼女は去って行くのです。

 ですが、正直、ホッとしている自分がいました。

 「よかった、告白しなくて済んで……」

 このように、どこか安心しているところがあったのです。

 なにより、もしK子ちゃんが僕を好きなら、早めに休憩を切り上げてでも、僕のレジの隣に来たでしょうから。

 僕は今日が最後なのにそうしなかったということは、僕に興味がないということなのかな……。

 こんなふうに考えて泣きそうになり、同時に、ホッとしている自分がいました。藪上さんに「バスコ君、たけのこの里は、上のチョコレートと下のクッキーどっちが好き?(←通訳後)」と訊かれても無視してしまうほど、僕は混乱しました。

 そしてこのあと、僕はますます混乱します。

 荷物を取って戻ってきたK子ちゃんがレジの前を通りがかり、僕を見て、なんとも言えない表情を浮かべたのです。ちらちらと僕のほうを見ており、いかにも何か言いたそうな素振りを見せてきたのです。

 女性というのは、さりげなく、自分の気持ちを伝えようとするところがあります。「あなたのことが好きですよ!」とばかりに、合図を送ってくることがあるのです。僕のようなシャイな女性だと、言葉ではなく、視線で表現するところがあるんですね。

 もうどうしたらいいか、わからなくなりましたよ。

 僕のことが好きなのかな、それともただの勘違いなのかな……。

 こんなふうに考えて、半ばパニック状態に陥ったのです。

 ほどなくして、K子ちゃんは店を出ました。

 もちろん、追いかけて告白することは可能です。そうすればこんな疑心暗鬼にならなくて済むのですが、作戦が失敗に終わったことで熱い気持ちがリセットされ、ここにきて再び、シャイな自分が顔を出し始めたのです。

 追いかけるべきかな……。でも、仲間に見られるから恥ずかしいな……。告白したところで、断られるかもしれないしな……、いや、断られるわ!断られるに決まってるわ!

 結局、弱さに支配された僕は、ただただ、去り行くK子ちゃんの後ろ姿を見つめていました。バイトを終え、家に帰ってからも寝つけず、終始、悶々としていたのです。

 そして、ここから始まったのです。「告白しないだけの片思い」という、何の意味もない時間が……。告白できない自分の弱さに辟易し、何をするにつけても悪い影響を与えてしまう、負の悪循環が……。

 中編に続く……。

結婚式で花嫁を奪い去るときに注意しなければならないことは何か?の考察(パソコン読者用)

※2008年・1月25日の記事を再々編集


 『卒業』という映画をご存知でしょうか?


 ダスティン・ホフマン主演の青春映画で、かの有名な結婚式の最中に花嫁を奪い去るシーンを、ご存知でない方はいないでしょう。


 ですが、これは映画だからいいものの、現実に実行するには大きなリスクがつきまといます。奪う側の男性は、冷静にことを運ばなければ、後々とんでもないことになってしまうのです。


 合言葉は、「かっこよく奪い去る」です。


 花嫁は本意でないとはいえ、相手に何らかのメリットがあったからこそ、結婚しようと考えました。その迷いを断ち切らせ、「やっぱりこの人!」と思わせるためには、映画さながらにかっこよく奪い去らなければならないのです。


 そこで今回は、「結婚式で花嫁を奪い去るときに注意しなければならないことは何か?」の考察です。


 今回は、あなた(男性)が、ひろこ(女性)と恋仲にあり、ひろこが何らかの事情で、たいして好きでもない男と結婚させられる、と仮定します。あなたは以下の注意点を遵守し、式場に乗り込んでひろこを奪い去るのです。


①車で来ているか?
 結婚式場からの交通手段は、当たり前ですが、車です。花嫁の手をつかんで奪い去り、「乗れ!」の決め台詞で、そそくさと現場をあとにしなければなりません。


 ですが、車ではなく移動が電車だったら、かっこ悪いです。花嫁をかっこよく奪い去ったはいいものの、式場を出てつり革をつかむなんて、こんなかっこ悪いことはないのです。


 いくら感激する花嫁とて、途中で「この人、ちょっと違う……」と思うでしょう。駅に着いて、「えーと、とりあえず五反田まで出て乗り換えるか。五反田までは270円。あるか?」なんて言われたら、せっかくの感動が冷めてしまうんですね。


 花嫁は、ウェディングドレスを着たままの移動です。好奇の目にさらされ、精神的苦痛で「やっぱり、あなたとは無理!」と、気持ちが変わる可能性があります。万が一痴漢でもされたら、「この人のせいでこんな目に遭った!」と、あなたを憎悪するでしょう。


 電車を使わずに、タクシーに乗ったとしても、それはそれでかっこ悪いです。「どちらまで?」「どこまででも行ってください!」と言うような粋な男なら救いはあるものの、「とりあえず、五反田のバス停で降ろしてもらえます?」「2000円分だけどこかに行ってもらえます?」「チキショウ!あと5メートル手前で降りてたらメーター変わらずに済んだのに!」なんて言われたら、興ざめもいいところなのです。


 したがって、免許を持っていなければ、式当日までに取得するようにしてください。式場には車で行き、間違ってもミッション車でエンストをくり返し、追っ手に追いつかれるようなことだけは避けましょう。


②それなりの腕力はあるか?
 勇ましく式場に乗り込んでも、参列者や警備員に取り押さえられることは間違いありません。


 この計画を実行するには、それなりの腕力が必要。映画のようにスムーズに行くわけがなく、押さえ込まれても払いのけ、屈強な男たちを振り切らなければならないのです。


 花嫁の目の前で取り押さえられれば、かっこ悪いです。「ひろこは俺の女だ!」と乗り込んだのに、現場にいた空手の有段者に腕をつかまれて、「痛い痛い!すいません、もうしないんで勘弁してください!」とか言ってしまったら、目も当てられません。


 それこそ、「違うんですよ、旦那!場を盛り上げようとやっただけなんですよ!」と言い訳してしまうと、その気になっていた花嫁も冷めてしまうでしょう。


 しかも、あなたがカツラで、もみくちゃになったときにはずれると、シャレになりません。


 「ひろこをよこせ!俺はあいつを愛しているんだ!」


 こんなふうに叫んだところで何の説得力もなく、周囲に笑われるのはもちろん、ブーケが必要なのはあなたのほうです。あきらめて帰ることにしても、「これ、落ちましたけど?」と半笑いでカツラを渡されますし、後日郵送で送られてきたら、悪夢を思い出して死にたくなるんですね。


 加えて、現場には、ビデオカメラを用意している人がいます。その映像をメディアに流されてしまうのです。


 テレビやネット動画に流され、世間の失笑を買います。翌日のスポーツ新聞にも、『花嫁を奪いにきて、カツラを奪われる』『卒業に影響された男、髪の毛も卒業』『式場に乱入男、毛殺沙汰に』といった見出しをつけられ、いい笑いものなんですね。


 したがって、体を鍛えて強くなるのはもちろんのこと、一戦交える際の身だしなみにも、注意が必要です。とりわけカツラの人は、万が一を考えて、「輪ゴムで固定する」「付き添いの人に、頭を押さえてもらいながら戦う」「その日だけ、サインペンで髪の毛を書いていく」など、対策を練ってください。


③式場内に乗り込むタイミングは完璧か?
 式に呼ばれていないあなたは、式場の外から乗り込むタイミングを計ります。誓いのキスをするタイミングで、「ちょっと待った!」と乗り込むのがベストでしょう。


 ですが、まだ花嫁がいないのに乗り込んでしまうと、最悪です。


 花嫁が入場していないことに気づかず、「ひろこー!」と扉を開けてしまうと、周囲は何のことかわかりません。今さら「すいません、タイミングを間違えました!」とは言えず、花嫁がいないこの段階から作戦を決行しなければならないのです。


 このとき、現場に、ひろこという名のババアがいたとします。


 「はい、わてがひろこですけど?」


 「い、いやあの」


 「わてのことが好きなんですか?」


 「い、いやあの……」


 「大胆なお・か・た!誓いのチューして?ねえ、誓いのチューして?」


 こんなふうになりかねません。勘違いした参列客に、「ババア、おめでとう!今日はひろことババアのダブル挙式だ!」なんて言われたら、あなたはババアを奪いにきただけの変質者なのです。


 咄嗟に判断して、「すいません、遅れました!」と、参列客を装って席に座るという手もあるにはあります。


 ですが、勇ましく扉を開けた手前、花嫁が現われても、今さら「ひろこ!逃げるぞ!」とは言えません。間が悪すぎて、席で待つあいだに気持ちが冷めてしまうのです。


 バレないように行動するとはいえ、場内の様子は、ドアに顔を突っ込んででも確認しましょう。


④お腹を壊していないか?
 式場に乗り込むとき、あなたは緊張しています。暴力団なみの勢いで乗り込んでいくため、緊張しすぎて、お腹を壊していることは充分に考えられるのです。


 ですが、勢いよく乗り込んだ手前、もみくちゃになる最中に、「ごめん、トイレに行かしてくれ!」とは言えません。「離せ!ひろこは俺のもんだって、ごめん、それよりトイレに行かして?10分後に帰ってくるから、続きはあとでやろうや?」とは言えず、人前で漏らすことになります。周囲と取っ組み合いになるので、お腹を壊していると、力んだ拍子に出てしまうのです。


 式場でウンコを漏らしたら、シャレになりません。「お前なんかにひろこは幸せにできない!」と言ったところで、こんな奴よりも、確実に花婿のほうが幸せにしてくれます。「つまみ出せ!」と言われても、もうつまみ出してますし、かっこ悪いこと極まりないのです。


 花嫁も、自分を奪いにきてくれてうれしい反面、ウンコを漏らされた現実を見て、「やっぱり、やめとこう……」と思うでしょう。


 そして、奪還に失敗して逃げ去ると、花嫁も他人のフリをするでしょうから、「ウンコを漏らしにきただけの変質者」と思われます。「華やかな場所でウンコをしたいタイプのスカ○ロ好き」と解釈されてしまうので、死んだほうがましなんですね。


 したがってお腹が痛いのであれば、乗り込む直前に、何度もトイレに行っておきましょう。心配なら、パンパースをして乗り込むことも考えなければならず、体調にはくれぐれも注意してください。


⑤コンタクトレンズにしたか? 
 現場で、もみくちゃになることは間違いありません。メガネをしていれば、はずれる可能性が高いのです。


 もみくちゃになってるときに、「メガネ、メガネ」とは、かっこ悪くて言えません。連れ去ったあとに拾いに行くわけにもいかず、目が見えない状態で逃げるハメになるのです。


 目が悪すぎる人だと、全然関係のない人を連れ去る可能性も0ではありません。興奮も相まって見間違えやすいですし、ひどい場合、白のタキシードを着た全然知らないオッサンを、ウェディングドレスを着た花嫁と勘違いするかもしれないのです。


 このとき、そのオッサンがオカマだったら、悲惨です。あなたがいい男なら、そのまま連れ去られることを望んで、花嫁のフリをする可能性があります。そして、目が見えないのをいいことに声色を変え、「今すぐホテルでニャンニャンしたい!」と誘い、ホテルに入った瞬間に本性をむき出しにして襲いかかるのです。


 オカマとはいえ、男です。力任せに体を奪われ、気がつくと、「ああ!ひろこよりも、ア○ルを開発してくれたこの人のほうが素敵!」と、妙に調教されてしまう可能性もあるのです。(それはそれで幸せかもしれませんが……)


 もちろん、途中でさすがに気づくでしょうから、こんなことは、まず考えられません。


 ですが、いかんせん目が見えないだけに、絶対にない、と言い切ることはできません。とりわけ、間違った相手が声優をしているババアなら、声色を変えるなどお手のもの。ホテルでババアの垂れチチに触れるまで、気づかない可能性があるのです。


 最悪の事態を想定して、メガネの人はコンタクトにしておきましょう。コンタクトを落としても、くれぐれも相手を間違わないように、冷静さだけは失わないでください。


⑥花嫁に、本当にその気はあるか?
 花嫁にその気がなければ、この作戦は通用しません。望まない、どんな政略結婚であれ、花嫁にその気がなければ、単なる拉致になってしまうのです。


 乗り込んだのに断られれば、今までにも増してシャレになりません。「ひろこ、行くぞ!」と手をつかんだのに、「ごめん、無理!」「えっ?」「無理!」「お前、俺のことが好きなんだろ?」「好きだけど、無理!ごめん、やっぱり世の中お金だわ!」と断られたら、面目もあったものではありません。「帰れ!帰れ!」と、周囲から帰れコールもくらってしまうでしょう。


 これは、つらいどころの話ではありません。


 それこそ、カツラは取れるわ、ウンコを漏らすわなどしていたら、こんな惨めなことはありません。「俺の人生は、ついてないことばかりだ……」と自暴自棄になり、電車に飛び込むなんてことも、ない話ではないのです。


 そして花嫁も、本音では迎えにきて欲しい、と思っていても、いざ現実を目の当たりにすると、裏切るものでしょう。ことがことだけに、参列客や親の顔色を気にして、そう簡単に言うとおりにはできないんですね。


 したがって実行に移す場合は、花嫁が自分についてくるという、確信が必要です。100%、いや120%の確信がなければならず、花嫁に断られたことに怒り、「バージンロードって、こいつはバージンと違いますよ!」と悪態ついたところで、自分が惨めになるだけなのです。



 そして、最後。


 これだけは、何が何でも注意しなければなりません。注意というよりも心構えに近く、今までにも増して頭に叩き込んでください。


⑦裁判に備える覚悟はあるか?
 これは、意外と盲点だったはずです。


 花嫁を奪い去ると、訴えられてもおかしくないのです。


 式を中止にしたという、直接的な被害はもちろん、乱闘のときに相手にケガをさせたら、傷害罪に問われます。花婿としても、たくさんの参列客の前で恥をかかされて、こんな名誉毀損はありません。重層的な罪で訴えられる可能性が高く、裁判にも十中八九負けるでしょうから、支払わされる賠償金は半端ではないのです。


 しかも、映画さながらの事件が起こったことから、メディアが騒ぎ立てます。


 会社にもいづらくなり、あなたや花嫁はもちろん、家族にも迷惑がかかります。その現実に耐えられず、破局することも充分に考えられるのです。


 それでも、「愛があれば大丈夫!愛こそすべて!」とおっしゃる方は、それはそれで仕方がありません。好きなものは仕方がないので否定はしませんが、これだけは言っておきます。


 もし、あなたが花嫁を奪って略奪婚をしたら、怒った花婿があなたを殺す可能性も0ではありません。あなたのしたことはそれだけ重大で、人生を台無しにされた、と言っても過言ではないのです。


 したがって、くれぐれも勢いに任せて実行してはいけません。大局的な判断が求められるので、花嫁を奪い去ろうと本気でお考えの方は、肝に銘じてください。



 以上が、今回の考察です。 


 卒業で描かれるシーンは、表面的なことにすぎません。現実的には障害が多すぎて、成功させるのは不可能に近いのです。


 ちなみに僕は、本当に好きな女性なら、もしかしたら、やるかもしれません。こう見えて気持ちは熱いほうなので、条件がそろえば、式場に乗り込んで奪うことも、やぶさかではないです。


 ですが、僕は緊張しいで、めちゃくちゃ腸が弱いです。もみくちゃになる最中にウンコを漏らす可能性が高いので、その場合は、「出て行け!」と言われたあとに、開き直って、こう言い返してやりますよ。 


 「もう、出とるわ!」



結婚式で花嫁を奪い去るときに注意しなければならないことは何か?の考察(携帯読者用)

※2008年・1月25日の記事を再々編集

 『卒業』という映画をご存知でしょうか?

 ダスティン・ホフマン主演の青春映画で、かの有名な結婚式の最中に花嫁を奪い去るシーンを、ご存知でない方はいないでしょう。

 ですが、これは映画だからいいものの、現実に実行するには大きなリスクがつきまといます。奪う側の男性は、冷静にことを運ばなければ、後々とんでもないことになってしまうのです。

 合言葉は、「かっこよく奪い去る」です。

 花嫁は本意でないとはいえ、相手に何らかのメリットがあったからこそ、結婚しようと考えました。その迷いを断ち切らせ、「やっぱりこの人!」と思わせるためには、映画さながらにかっこよく奪い去らなければならないのです。

 そこで今回は、「結婚式で花嫁を奪い去るときに注意しなければならないことは何か?」の考察です。

 今回は、あなた(男性)が、ひろこ(女性)と恋仲にあり、ひろこが何らかの事情で、たいして好きでもない男と結婚させられる、と仮定します。あなたは以下の注意点を遵守し、式場に乗り込んでひろこを奪い去るのです。

①車で来ているか?
 結婚式場からの交通手段は、当たり前ですが、車です。花嫁の手をつかんで奪い去り、「乗れ!」の決め台詞で、そそくさと現場をあとにしなければなりません。

 ですが、車ではなく移動が電車だったら、かっこ悪いです。花嫁をかっこよく奪い去ったはいいものの、式場を出てつり革をつかむなんて、こんなかっこ悪いことはないのです。

 いくら感激する花嫁とて、途中で「この人、ちょっと違う……」と思うでしょう。駅に着いて、「えーと、とりあえず五反田まで出て乗り換えるか。五反田までは270円。あるか?」なんて言われたら、せっかくの感動が冷めてしまうんですね。

 花嫁は、ウェディングドレスを着たままの移動です。好奇の目にさらされ、精神的苦痛で「やっぱり、あなたとは無理!」と、気持ちが変わる可能性があります。万が一痴漢でもされたら、「この人のせいでこんな目に遭った!」と、あなたを憎悪するでしょう。

 電車を使わずに、タクシーに乗ったとしても、それはそれでかっこ悪いです。「どちらまで?」「どこまででも行ってください!」と言うような粋な男なら救いはあるものの、「とりあえず、五反田のバス停で降ろしてもらえます?」「2000円分だけどこかに行ってもらえます?」「チキショウ!あと5メートル手前で降りてたらメーター変わらずに済んだのに!」なんて言われたら、興ざめもいいところなのです。

 したがって、免許を持っていなければ、式当日までに取得するようにしてください。式場には車で行き、間違ってもミッション車でエンストをくり返し、追っ手に追いつかれるようなことだけは避けましょう。

②それなりの腕力はあるか?
 勇ましく式場に乗り込んでも、参列者や警備員に取り押さえられることは間違いありません。

 この計画を実行するには、それなりの腕力が必要。映画のようにスムーズに行くわけがなく、押さえ込まれても払いのけ、屈強な男たちを振り切らなければならないのです。

 花嫁の目の前で取り押さえられれば、かっこ悪いです。「ひろこは俺の女だ!」と乗り込んだのに、現場にいた空手の有段者に腕をつかまれて、「痛い痛い!すいません、もうしないんで勘弁してください!」とか言ってしまったら、目も当てられません。

 それこそ、「違うんですよ、旦那!場を盛り上げようとやっただけなんですよ!」と言い訳してしまうと、その気になっていた花嫁も冷めてしまうでしょう。

 しかも、あなたがカツラで、もみくちゃになったときにはずれると、シャレになりません。

 「ひろこをよこせ!俺はあいつを愛しているんだ!」

 こんなふうに叫んだところで何の説得力もなく、周囲に笑われるのはもちろん、ブーケが必要なのはあなたのほうです。あきらめて帰ることにしても、「これ、落ちましたけど?」と半笑いでカツラを渡されますし、後日郵送で送られてきたら、悪夢を思い出して死にたくなるんですね。

 加えて、現場には、ビデオカメラを用意している人がいます。その映像をメディアに流されてしまうのです。

 テレビやネット動画に流され、世間の失笑を買います。翌日のスポーツ新聞にも、『花嫁を奪いにきて、カツラを奪われる』『卒業に影響された男、髪の毛も卒業』『式場に乱入男、毛殺沙汰に』といった見出しをつけられ、いい笑いものなんですね。

 したがって、体を鍛えて強くなるのはもちろんのこと、一戦交える際の身だしなみにも、注意が必要です。とりわけカツラの人は、万が一を考えて、「輪ゴムで固定する」「付き添いの人に、頭を押さえてもらいながら戦う」「その日だけ、サインペンで髪の毛を書いていく」など、対策を練ってください。

③式場内に乗り込むタイミングは完璧か?
 式に呼ばれていないあなたは、式場の外から乗り込むタイミングを計ります。誓いのキスをするタイミングで、「ちょっと待った!」と乗り込むのがベストでしょう。

 ですが、まだ花嫁がいないのに乗り込んでしまうと、最悪です。

 花嫁が入場していないことに気づかず、「ひろこー!」と扉を開けてしまうと、周囲は何のことかわかりません。今さら「すいません、タイミングを間違えました!」とは言えず、花嫁がいないこの段階から作戦を決行しなければならないのです。

 このとき、現場に、ひろこという名のババアがいたとします。

 「はい、わてがひろこですけど?」

 「い、いやあの」

 「わてのことが好きなんですか?」

 「い、いやあの……」

 「大胆なお・か・た!誓いのチューして?ねえ、誓いのチューして?」

 こんなふうになりかねません。勘違いした参列客に、「ババア、おめでとう!今日はひろことババアのダブル挙式だ!」なんて言われたら、あなたはババアを奪いにきただけの変質者なのです。

 咄嗟に判断して、「すいません、遅れました!」と、参列客を装って席に座るという手もあるにはあります。

 ですが、勇ましく扉を開けた手前、花嫁が現われても、今さら「ひろこ!逃げるぞ!」とは言えません。間が悪すぎて、席で待つあいだに気持ちが冷めてしまうのです。

 バレないように行動するとはいえ、場内の様子は、ドアに顔を突っ込んででも確認しましょう。

④お腹を壊していないか?
 式場に乗り込むとき、あなたは緊張しています。暴力団なみの勢いで乗り込んでいくため、緊張しすぎて、お腹を壊していることは充分に考えられるのです。

 ですが、勢いよく乗り込んだ手前、もみくちゃになる最中に、「ごめん、トイレに行かしてくれ!」とは言えません。「離せ!ひろこは俺のもんだって、ごめん、それよりトイレに行かして?10分後に帰ってくるから、続きはあとでやろうや?」とは言えず、人前で漏らすことになります。周囲と取っ組み合いになるので、お腹を壊していると、力んだ拍子に出てしまうのです。

 式場でウンコを漏らしたら、シャレになりません。「お前なんかにひろこは幸せにできない!」と言ったところで、こんな奴よりも、確実に花婿のほうが幸せにしてくれます。「つまみ出せ!」と言われても、もうつまみ出してますし、かっこ悪いこと極まりないのです。

 花嫁も、自分を奪いにきてくれてうれしい反面、ウンコを漏らされた現実を見て、「やっぱり、やめとこう……」と思うでしょう。

 そして、奪還に失敗して逃げ去ると、花嫁も他人のフリをするでしょうから、「ウンコを漏らしにきただけの変質者」と思われます。「華やかな場所でウンコをしたいタイプのスカ○ロ好き」と解釈されてしまうので、死んだほうがましなんですね。

 したがってお腹が痛いのであれば、乗り込む直前に、何度もトイレに行っておきましょう。心配なら、パンパースをして乗り込むことも考えなければならず、体調にはくれぐれも注意してください。

⑤コンタクトレンズにしたか? 
 現場で、もみくちゃになることは間違いありません。メガネをしていれば、はずれる可能性が高いのです。

 もみくちゃになってるときに、「メガネ、メガネ」とは、かっこ悪くて言えません。連れ去ったあとに拾いに行くわけにもいかず、目が見えない状態で逃げるハメになるのです。

 目が悪すぎる人だと、全然関係のない人を連れ去る可能性も0ではありません。興奮も相まって見間違えやすいですし、ひどい場合、白のタキシードを着た全然知らないオッサンを、ウェディングドレスを着た花嫁と勘違いするかもしれないのです。

 このとき、そのオッサンがオカマだったら、悲惨です。あなたがいい男なら、そのまま連れ去られることを望んで、花嫁のフリをする可能性があります。そして、目が見えないのをいいことに声色を変え、「今すぐホテルでニャンニャンしたい!」と誘い、ホテルに入った瞬間に本性をむき出しにして襲いかかるのです。

 オカマとはいえ、男です。力任せに体を奪われ、気がつくと、「ああ!ひろこよりも、ア○ルを開発してくれたこの人のほうが素敵!」と、妙に調教されてしまう可能性もあるのです。(それはそれで幸せかもしれませんが……)

 もちろん、途中でさすがに気づくでしょうから、こんなことは、まず考えられません。

 ですが、いかんせん目が見えないだけに、絶対にない、と言い切ることはできません。とりわけ、間違った相手が声優をしているババアなら、声色を変えるなどお手のもの。ホテルでババアの垂れチチに触れるまで、気づかない可能性があるのです。

 最悪の事態を想定して、メガネの人はコンタクトにしておきましょう。コンタクトを落としても、くれぐれも相手を間違わないように、冷静さだけは失わないでください。

⑥花嫁に、本当にその気はあるか?
 花嫁にその気がなければ、この作戦は通用しません。望まない、どんな政略結婚であれ、花嫁にその気がなければ、単なる拉致になってしまうのです。

 乗り込んだのに断られれば、今までにも増してシャレになりません。「ひろこ、行くぞ!」と手をつかんだのに、「ごめん、無理!」「えっ?」「無理!」「お前、俺のことが好きなんだろ?」「好きだけど、無理!ごめん、やっぱり世の中お金だわ!」と断られたら、面目もあったものではありません。「帰れ!帰れ!」と、周囲から帰れコールもくらってしまうでしょう。

 これは、つらいどころの話ではありません。

 それこそ、カツラは取れるわ、ウンコを漏らすわなどしていたら、こんな惨めなことはありません。「俺の人生は、ついてないことばかりだ……」と自暴自棄になり、電車に飛び込むなんてことも、ない話ではないのです。

 そして花嫁も、本音では迎えにきて欲しい、と思っていても、いざ現実を目の当たりにすると、裏切るものでしょう。ことがことだけに、参列客や親の顔色を気にして、そう簡単に言うとおりにはできないんですね。

 したがって実行に移す場合は、花嫁が自分についてくるという、確信が必要です。100%、いや120%の確信がなければならず、花嫁に断られたことに怒り、「バージンロードって、こいつはバージンと違いますよ!」と悪態ついたところで、自分が惨めになるだけなのです。


 そして、最後。

 これだけは、何が何でも注意しなければなりません。注意というよりも心構えに近く、今までにも増して頭に叩き込んでください。

⑦裁判に備える覚悟はあるか?
 これは、意外と盲点だったはずです。

 花嫁を奪い去ると、訴えられてもおかしくないのです。

 式を中止にしたという、直接的な被害はもちろん、乱闘のときに相手にケガをさせたら、傷害罪に問われます。花婿としても、たくさんの参列客の前で恥をかかされて、こんな名誉毀損はありません。重層的な罪で訴えられる可能性が高く、裁判にも十中八九負けるでしょうから、支払わされる賠償金は半端ではないのです。

 しかも、映画さながらの事件が起こったことから、メディアが騒ぎ立てます。

 会社にもいづらくなり、あなたや花嫁はもちろん、家族にも迷惑がかかります。その現実に耐えられず、破局することも充分に考えられるのです。

 それでも、「愛があれば大丈夫!愛こそすべて!」とおっしゃる方は、それはそれで仕方がありません。好きなものは仕方がないので否定はしませんが、これだけは言っておきます。

 もし、あなたが花嫁を奪って略奪婚をしたら、怒った花婿があなたを殺す可能性も0ではありません。あなたのしたことはそれだけ重大で、人生を台無しにされた、と言っても過言ではないのです。

 したがって、くれぐれも勢いに任せて実行してはいけません。大局的な判断が求められるので、花嫁を奪い去ろうと本気でお考えの方は、肝に銘じてください。


 以上が、今回の考察です。 

 卒業で描かれるシーンは、表面的なことにすぎません。現実的には障害が多すぎて、成功させるのは不可能に近いのです。

 ちなみに僕は、本当に好きな女性なら、もしかしたら、やるかもしれません。こう見えて気持ちは熱いほうなので、条件がそろえば、式場に乗り込んで奪うことも、やぶさかではないです。

 ですが、僕は緊張しいで、めちゃくちゃ腸が弱いです。もみくちゃになる最中にウンコを漏らす可能性が高いので、その場合は、「出て行け!」と言われたあとに、開き直って、こう言い返してやりますよ。 

 「もう、出とるわ!」


木下さんは何者か?の考察~ベスト版⑤~(パソコン読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集


 今年の元旦のことです。


 その日の夜の9時すぎに、僕は家の台所にいました。


 僕の母親は、友達とカラオケに行きました。父親は朝が早かったため、もう寝ています。僕はおせち料理がダメで、1人でカップラーメンをすすっていたのですが、近所のおじさんがやってきたのです。


 お酒を飲みすぎたのか、このおじさんの顔は真っ赤です。坂本九の『上を向いて歩こう』を口ずさみ、台所のテーブルに座る僕の前に来ました。踊りながら、「♪上を向ーいて!」と口ずさんでいたのですが、僕と一切会話することなく、ワンコーラス歌い切ってそのまま帰って行ったんですよ!


 何しに来てん、お前!用事はなんやねん、用事は!?


 家を出たおじさんは、ガレージにいる、うちの犬(ゴン太)に話しかけています。


 ですが、なにやらおかしなことを言っています。耳を澄まして聞いたところ、ゴン太にこう話しかけていました。


 「ワン太、今年も吠えんの?ワンワンて?ワンワンて?」


 はっ?はっ?


 「でも、今年は馬年です!犬年やったらよかったけど、残念ながら牛年やわ、ワン太!」


 ごめん、何言ってんの、自分!?皆目わからんねんけど、お前の日本語!?


 謎の言葉を残して、おじさんは帰って行きました。ゴン太が心配になった僕は、安否を確認しにガレージに向かったのですが、エサ入れの中に、透明の袋に包まれたままのカッチコチの切り餅が入ってたんですよ!


 何がしたいねん、お前!意味わからんねん、さっきから!何もかもが意味不明すぎて手のつけようがないねん!


 このおじさんの名前は、木下さん。僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 日ごろからおかしなことを連発し、つい先日も、行きつけの食堂がご飯の大盛りに別料金を取りだしたのを見て、警察に言いに行ったのです。


 動くか、警察!「大盛り課」とかあるか!「ヤス、行くぞ!2丁目の食堂が大盛りに別料金を取りだしやがった!」とか言うか!


 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版⑤~です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。


検証エピソード①『常識力チェック』
 木下さんほど、頭の悪い人はいません。僕も過去にいろいろなアホを見てきましたが、群を抜いてすごいのです。


 なにしろ木下さんは、自分の名前を頻繁に間違えます。木下なのに、「木ノ下」「木の下」と表記するなど、自分の名前さえもきちんと書けないのです。


 木下さんは、中学校すら、まともに出ていません。もちろん、学歴をとやかく言うつもりはないのですが、すべての理屈を超えてもう、「何もかもがアホ」としか言いようがないのです。


 今回、僕は「常識力チェック」と題して、木下さんの知能をテストすることにしました。


 1問10点で、都合10問です。「仕事で必要やから!」とウソをついて、僕の両親、ならびに、ほかの近所の人にもやらせてカモフラージュし、木下さんの知能をあぶり出すことにしたのです。


 問題は、次のような簡単なものばかりです。


 「アメリカの首都は?」


 「コンビニの名前を3つ書いてください」


 「世界三大珍味は?」


 僕の近所には、頭の悪い人が多いです。僕の母親も天然ボケなのですが、それでもみんな、40点以上は取りました。


 ですが1人だけ、当たり前のように0点を叩き出した奴がいるのです。


 言わずもがな、木下さんです。


 もうね、ありえないんですよ、間違え方が。まず、「アメリカの首都は?」という問題で、ニューヨーク、譲ってテキサスぐらいなら、まだわかりますよ。これが世間で言うところの「普通のアホ」なのでしょうが、木下さん、「ロンコン」って書いてるんですよ。


 ロンコンですよ、ロンコン?ロンドンと香港が混ざったのか知りませんけど、普通のアホではこんな間違いはしないでしょ!?


 次に、「コンビニの名前を3つ書いてください」で、これはさすがに間違いようがないですよ。なにしろ、僕の近所にも3種類あるのですから。


 1つ目は、「ローソン」と正解でした。2つ目は「さんくすー」と少し間違っていたものの、おまけで正解にしました。ところが3つ目の回答を目にした瞬間、僕の体が震えだしたのです。


 「牛丼」


 何言ってんねん、お前!牛丼!?ぎゅぎゅぎゅ、牛丼!?なんでも置いてるのがコンビニの売りやのに店名は牛丼なんや!?


 それでも、これらは、まだましです。問題は「世界三大珍味は?」で、なにしろこれ、白紙回答やったんですよ。問題の意味がわからないらしく、「世界三大珍味」が何なのかが理解できていないのです。


 「なんでもいいから、高級そうな食べ物を3つ書いてくれ!おっちゃんにとって、めったに食べられないものを3つ書いてくれたらいいから!」


 僕がこのように要求したところ、木下さんは以下の回答をしました。


 「おすしのなかのとろ。すじ肉。ロース肉」


 ブルーなるわ!貧乏すぎてブルーなんねん!ていうかすじ肉は安いやろ!


 「プリン」


 4つあるやんけ!数学もボロボロやんけ、こいつ!


 結果、0点です。ほかの簡単な問題にも誤答をし、僕は震えた手で「0点」と書こうとしたのですが、何気に用紙の上を見たところ、僕の背筋が凍りついたのです。


 「木の下」


 マイナス点やんけ!0点と違うぞ、名前も間違ったお前はマイナス点やぞ!マイナス10点で、人類史上最低の点数やぞ、これは!


 もうね、ヘキサゴンの出演者が天然ボケだとか、そんなレベルの話じゃないですよ。次元が違う、としか言いようがなく、なにしろ本人は、「30点は取れてる!」と思っていたらしいですから。


検証エピソード②『蚊』
 これは、2ヶ月ほど前のお話です。


 その日の昼すぎ、僕は家の台所で、僕の母親と、ざるうどんを食べていました。


 しばらくして、木下さんがやってきました。家に昼ごはんがなかったらしく、見かねた僕の母親は、木下さんの分も作ってあげることにしました。


 3人して、ざるうどんを食べます。とりとめのない話で盛り上がり、しばらくして、台所に蚊がいることに気がつきました。


 この蚊は、めちゃくちゃ手強いです。近くまで来ても、叩こうとした瞬間、別の場所に移動します。今まで見たことがないほどのすばやい蚊で、瞬間移動をするかのごとく、そそくさと逃げ去ってしまうのです。


 案の定、僕の左腕が刺されました。刺されないように、肌を露出した部分は動かすなどして抵抗したものの、間隙を縫って刺してきやがったのです。


 しかも、お腹がいっぱいになったはずなのに、スピードは衰えていません。次の獲物を狙っているのか、再び僕らの前を猛スピードでうろつき始めたのです。


 僕には、仕事で仕上げなければならない原稿があります。結局、僕は始末するのをあきらめて、部屋に戻りました。


 3時間後。


 小腹が空いた僕は、何か甘いものはないかと、台所に行きました。台所では僕の母親と木下さんが雑談をしており、先ほどの憎き蚊が、再び姿を現したのです。


 先ほどと、何らスピードが変わることはありません。いやむしろ、腹ごしらえをしたためかスピードはアップしており、僕らの前をビュンビュンと飛び始めたのです。


 これは、むかつきましたよ。そこでリベンジするべく、僕はあらゆるところを叩いたものの仕留められず、ほどなくして、木下さんの首元が刺されていることに気がついたのです。


 「うわー、今度は俺や!」


 木下さんは叫びました。「絶対に殺したる!」と声を張り上げたのですが、今しがた猛スピードで飛び回っていた蚊が、僕の血でお腹が膨れてもスピードが衰えなかった蚊が、アホの血吸った途端、ヨレヨレになってるんですよ!


 これ、マジですよ!木下さんの血を吸った途端、「私はアホになりました!」とばかりにヨレヨレなんですよ!露骨なまでに僕らの前を超スローでうろつき始めたのです!


 シャレならんわ、お前の血!まだマラリアのほうがましやわ!


 「(手で叩きながら)死ね、ボケ!死ね、ボケ!」


 お前もボケやねん!お前がボケやからその蚊もボケになってん!


 正直、「アホはうつるんや……」と考えて、一緒にいるのが怖くなりましたよ。それを証拠に、僕が「おっちゃんの血を吸ったら蚊はアホになるんやな!」と言うのを聞いた瞬間、僕の母親は買物に行きましたから。


検証エピソード③『お葬式』
 これは、7年ほど前のお話です。


 僕の母方の祖父が亡くなり、祖父の家で、葬儀が営まれました。


 葬儀には、たくさんの参列客が集まってくれました。そして葬儀を終え、道路沿いに停車している霊柩車まで、男8人で棺桶を担ぐことになったのです。


 誰が担ぐかは、事前に決めてあります。ですが、式に参列していた木下さんが、急に「俺も担ぎたい!」と、わがままを言いだしたのです。


 棺桶を担ぐのは、仏さんと血縁関係にある人と決まっています。部外者である木下さんに権利はないものの、「お願いやから担がせて!おじいさんにあれだけお世話になったから、俺も力を貸したいんや!」と、涙ながらにお願いしてきたのです。


 それでも、これ以上人が増えたら邪魔になります。結局、僕の母親が言って聞かせ、木下さんはあきらめました。


 すると木下さんは、少しでもみんなの役に立ちたいと思ったのでしょう。僕らが棺桶を担いで家を出た途端、「はい、そこ、足元を気をつけて!」と、エスコートを始めました。棺桶を先導し、妙な指示を出してきたのです。


 それでも、何か役に立つ情報なら、いいですよ。ただ、「そこは坂やから気をつけて!」と言うものの、言われた場所は坂でもなんでもありません。10度あるかないかの平坦な道なのです。


 ウソついてるやんけ、お前!迷惑やねん、お前のやってること!


 「犬が来たよ!危ないよ!」


 チワワやんけ、これ!土佐犬とかやったらわかるけど、おとなしそうなチワワやんけ、この犬!


 「人が来るぞー!」


 お前も人やろ!そう言ってる、人であるお前が来たわ!


 それでも、木下さんは一生懸命です。笑うわけにはいかず、木下さんは、僕らを邪魔する障害物がないかを確認するために先にカーブを曲がったのですが、僕らがカーブにさしかかろうとした瞬間、「牛乳屋が来るぞーーー!!!」と叫びながら全速力で走ってきたんですよ!


 ただの牛乳屋やろ!オバハンが牛乳瓶回収してるだけやろ!


 「牛乳屋が来るぞ、みんな!!!」


 だからなんやねん!で、叫ぶんやったら「自転車が来るぞ!」って言えや!牛乳屋が来るってなんやねん!


 「もう来る、もう来る!もうすぐ牛乳屋が来るぞーーー!!!」


 もう来たわ!牛乳屋はもう俺らの横を通りすぎて行ったわ!で、何もなかったわ!なんやったら牛乳屋のほうが俺らをよけてくれたわ!ある種のオオカミ少年やねん、お前のやってること!


 これを言われた瞬間、棺桶を持つ8人、全員が笑いましたからね。先ほどまで哀しみにくれていたのに、全員、普通に笑いましたから。


検証エピソード④『目』
 木下さんは、目がいいです。唯一の自慢が視力で、60を過ぎても両目ともに1・5。老眼鏡も持ってはいる
ものの、それすらも使うことは少ないのです。


 ですが、2年ほど前から、視力が落ちはじめました。そのことにショックを受け、「目をよくする!」と言って、いろいろと試しはじめたのです。


 目にいいと聞いて、ウナギの肝や海草を食べます。ことあるごとに目を洗い、僕に、「たけちゃん、視力を上げたいから、目を引っ張ってくれ!」とお願いしてきたのです。


 何の意味あんねん、それ!引っ張ってよくなるんやったら、伊達政宗も独眼流の看板下ろしてるわ!


 「目がちぎれてもいいから引っ張って!」


 ちぎれたら視力もクソもないやろ!視力上がるどころかレセプトの点数上がるわ、手術代で!


 それでも本人は、よかれと思ってやっています。注意しすぎると怒られるので、ほっておくことにしました。


 2年前のある日のことです。


 その日の夜、僕は寝つけませんでした。近所を散歩することにし、音楽を聴きながら歩いていたところ、木下さんも散歩していたのです。


 時刻は夜の11時をすぎています。木下さんは缶ビールを飲みながら歩いており、木下さんの行動が気になった僕は、あとをつけることにしました。


 コンビニの近くに来た木下さんが、急に歩くのをやめました。道路の近くに寄って立ち止まり、前を走る車を見ながら、なにやらぶつぶつ言いはじめたのです。


 不審に思った僕は、バレないように近づきました。後ろから耳を澄ましたところ、「神戸市 あ 7735」「姫路市 い 2881」と、車のナンバープレートを暗唱しているのです。


 木下さんは視力を上げるために、目のトレーニングをしているのでしょう。遠目にナンバープレートを見ながら、ロボットのような声で「香川市 う 16885」「大阪市 え 33852」などと叫びまくっているのです。


 しばらくして、車の往来が途切れました。


 木下さんは、ナンバプレートを読むのをやめて、街中を移動しはじめました。そして先ほど同様に、ロボットみたいな声で「やまもとせいこついん」「えいぎょうじかん じゅうじからにじゅうさんじ」「うせつきんし」などと、目に入るすべての文字を暗唱しはじめたのです。


 ですが、読めない漢字は飛ばします。「月極駐車場」「泌尿器科」は飛ばし、しまいには「貸倉庫」を飛ばしたんですよ。


 読めよ、貸倉庫ぐらい!ていうか、俺の家の倉庫を貸したったことあるやろ!俺に「倉庫貸してくれへん?」と口にしたことがあるやろ!


 「アコム」


 めっちゃでかいわ、その看板の字!誰でも読めるわ、そんなでかい字!


 僕は怖くなってきました。


 こう見えて、木下さんは健常者です。ぎりぎりこっちの世界に踏みとどまっているので、こんなことをこれ以上やらせたら、そっちの世界に行ってしまいそうな気がしたのです。


 僕は木下さんに、このトレーニングをやめさせることにしました。


 商店街に入り、木下さんが「よしのや」「わぎゅうせんもんてん」などと言っている中、僕は後ろから近づきました。「おっちゃん、何してんねん?」と話しかけたところ、僕を見た木下さんが、今まで同様のロボットの声で「たけちゃん」って言ったんですよ。


 俺は字と違うわ!俺は俺や!


 「たけちゃん」


 俺を「読む」な!俺は字と違うねん、だから!


 結局、このトレーニングの効果が出たのか、木下さんの視力は回復しました。ですが、視力ならぬ「脳力」は、ほとんど0ですよ。「脳力検査」と題して、視力ボードみたいに常識問題を上から並べていったら、1番上の問題も答えられないですから。


検証エピソード⑤『クロス』
 その昔、僕の近所に、頭のおかしいおじさんがいました。


 木下さんも充分おかしいのですが、このおじさんは完全に「そっちの人」です。意味不明のことをぶつぶつ言いながら街を徘徊するなど、完全にイってしまっているのです。


 一度、近所の公園でガンガンにゴルフをしていたので、僕の父親が注意しました。


 「こんなところでゴルフをしたら危ないやろ!」


 すると、「♪うちのじいちゃんは、河原でヒョイ!ヒョイヒョイヒョイヒョイ、河原でヒョイ!」と口ずさみながら帰って行きました。自分の気持ちを表現できない人で、会話が一切成立しないのです。


 そしてあるときから、自転車に乗る人に自分の自転車を近づけて、「クロース!」と叫びはじめました。自分の自転車を交差し、「クロース!」「ダブルクロース!」などと一日中、叫ぶようになったのです。


 僕も、何回もクロスされました。大雨の日に一度、「雨の中、クロース!」とやられたときなど、あまりの突撃感に、マジで殺されると思ったほどなのです。


 とはいえ、ややこしいおじさんです。文句を言うのは怖く、注意しても、意味不明の言葉を返されるのは目に見えています。警察に相談しても助けてもらえず、僕らはあきらめることにしました。


 僕が高校生のときのことです。


 ある日、僕の家に木下さんがやってきました。ニヤニヤしており、訊くと、高収入を得られる短期バイトを見つけたらしいのです。


 ですが、話を聞くうちに、木下さんがだまされていることに気がつきました。


 当時は国政選挙の直前。このバイトは、「天皇陛下、万歳!」的な言葉を録音したカセットテープを持ち、自転車に乗って街中に流す仕事だったのです。


 仕事を依頼したのは、街の政治結社です。近所でも、関わったら殺されると風評が立つような恐ろしい団体で、日ごろから暇をしている木下さんに目をつけて、お願いしたのです。


 これは困りましたよ。それがややこしい仕事だということを説明したところ、木下さんが泣きはじめたのです。


 幸いにも、このバイトは、選挙中の短い期間だけです。選挙が終わっても頼まれるようなら、そのときは警察に連絡してなんとかしてもらうと約束し、その日は木下さんを帰しました。


 やがてラジカセ片手に、自転車に乗った木下さんが街を徘徊しはじめました。


 そしてあるとき、学校帰りに自転車に乗る僕と、ばったりと遭遇したのです。


 木下さんは自転車を止めて、僕のところに来ました。


 「たけちゃん、選挙が終わったら俺、ほんまにもうやらんでいいよな?変な団体に入れられへんよな?」


 こう言いながら、半泣きになっているのです。


 「大丈夫や!心配せんでも、警察がなんとかしてくれるわ!」


 僕はこう言って、木下さんを慰めました。木下さんも、泣きながらとはいえ僕の言葉に納得し、再び街中を自転車で周りはじめました。


 すると前から、クロスがやってきたのです。僕の前を自転車で走る木下さんに、クロスが近づいてきたのです。


 「クローーーース!!!」


 クロスが木下さんの自転車にクロスをしました。


 クロスされた木下さんは、「ふざけんな!」と怒鳴って自転車を止め、クロスに近づきました。クロスの胸倉をつかみ、「クロスって、お前はアホか!お前みたいなアホがこの街をうろつくな!」と、ものすごい形相で怒鳴り散らしたのです。


 ですが、途中から興奮で我を忘れ、ワケのわからないことを言いはじめました。


 「お前みたいなアホは、アメリカの奥のほうに住め!アメリカの奥のほうにアフリカのジャングルがあるから、そこで迷ってヘビに噛まれて、誰にも助けてもらえんと救急車を呼べ!」


 このように、アホに対してアホを丸出しにしたのです。


 言われたクロスは、まったく意に介しません。感情、そして自分の意見を言葉にできない人なので、ワケのわからないことをぶつぶつ言いながら、木下さんを無視し続けているのです。


 結局、僕があいだに入って、アホ2人の争いは終わりました。


 クロスは新たなクロスの相手を求めて、立ち去りました。木下さんは、「アホ、わかったな?お前は明日からアメリカのジャングルに行ってヘビに噛まれるんやぞ!」と妙な捨てゼリフを吐いて、ラジカセ片手に雑踏に紛れました


 それから、10分後のことです。


 僕の家の近くのパン屋の前で、僕がやきそばパンを食べていたところ、クロスが通りがかったのです。それもなぜか満面の笑み。何かあったのか、今までに見せたことがないような笑みを浮かべて、こう口ずさみながら僕の前を横切ったのです。


 「♪アーホに~、アーホと~、言われたくない~!!!」


 あのクロスが初めて自分の意見を言ったのです!今まで怒鳴られても警察に怒られても自分の意見を口にしなかったクロスが、アホのおかげで覚醒したんですよ!アホ同士が化学反応を起こし、クロスの心の闇を断ち切ったのです


 最近、クロスの姿を見かけなくなりました。新しい住みかが見つかったのか、街では見かけなくなったのですが、どこかで幸せに暮らしていると、僕は信じます。


 なにしろ、クロスの心の闇は絶たれたのですから。アホという化学反応によって、自分の意見を言えるまでに成長したのですから……。



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 ちなみに①でご紹介した、常識力チェック。


 先日、第2弾を決行したところ、第1弾にも増してひどいことになりました。その結果はいずれ、このブログでご紹介したいと思います……。


木下さんは何者か?の考察~ベスト版⑤~(携帯読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集

 今年の元旦のことです。

 その日の夜の9時すぎに、僕は家の台所にいました。

 僕の母親は、友達とカラオケに行きました。父親は朝が早かったため、もう寝ています。僕はおせち料理がダメで、1人でカップラーメンをすすっていたのですが、近所のおじさんがやってきたのです。

 お酒を飲みすぎたのか、このおじさんの顔は真っ赤です。坂本九の『上を向いて歩こう』を口ずさみ、台所のテーブルに座る僕の前に来ました。踊りながら、「♪上を向ーいて!」と口ずさんでいたのですが、僕と一切会話することなく、ワンコーラス歌い切ってそのまま帰って行ったんですよ!

 何しに来てん、お前!用事はなんやねん、用事は!?

 家を出たおじさんは、ガレージにいる、うちの犬(ゴン太)に話しかけています。

 ですが、なにやらおかしなことを言っています。耳を澄まして聞いたところ、ゴン太にこう話しかけていました。

 「ワン太、今年も吠えんの?ワンワンて?ワンワンて?」

 はっ?はっ?

 「でも、今年は馬年です!犬年やったらよかったけど、残念ながら牛年やわ、ワン太!」

 ごめん、何言ってんの、自分!?皆目わからんねんけど、お前の日本語!?

 謎の言葉を残して、おじさんは帰って行きました。ゴン太が心配になった僕は、安否を確認しにガレージに向かったのですが、エサ入れの中に、透明の袋に包まれたままのカッチコチの切り餅が入ってたんですよ!

 何がしたいねん、お前!意味わからんねん、さっきから!何もかもが意味不明すぎて手のつけようがないねん!

 このおじさんの名前は、木下さん。僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。

 日ごろからおかしなことを連発し、つい先日も、行きつけの食堂がご飯の大盛りに別料金を取りだしたのを見て、警察に言いに行ったのです。

 動くか、警察!「大盛り課」とかあるか!「ヤス、行くぞ!2丁目の食堂が大盛りに別料金を取りだしやがった!」とか言うか!

 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。

 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版⑤~です。

 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。

 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。

検証エピソード①『常識力チェック』
 木下さんほど、頭の悪い人はいません。僕も過去にいろいろなアホを見てきましたが、群を抜いてすごいのです。

 なにしろ木下さんは、自分の名前を頻繁に間違えます。木下なのに、「木ノ下」「木の下」と表記するなど、自分の名前さえもきちんと書けないのです。

 木下さんは、中学校すら、まともに出ていません。もちろん、学歴をとやかく言うつもりはないのですが、すべての理屈を超えてもう、「何もかもがアホ」としか言いようがないのです。

 今回、僕は「常識力チェック」と題して、木下さんの知能をテストすることにしました。

 1問10点で、都合10問です。「仕事で必要やから!」とウソをついて、僕の両親、ならびに、ほかの近所の人にもやらせてカモフラージュし、木下さんの知能をあぶり出すことにしたのです。

 問題は、次のような簡単なものばかりです。

 「アメリカの首都は?」

 「コンビニの名前を3つ書いてください」

 「世界三大珍味は?」

 僕の近所には、頭の悪い人が多いです。僕の母親も天然ボケなのですが、それでもみんな、40点以上は取りました。

 ですが1人だけ、当たり前のように0点を叩き出した奴がいるのです。

 言わずもがな、木下さんです。

 もうね、ありえないんですよ、間違え方が。まず、「アメリカの首都は?」という問題で、ニューヨーク、譲ってテキサスぐらいなら、まだわかりますよ。これが世間で言うところの「普通のアホ」なのでしょうが、木下さん、「ロンコン」って書いてるんですよ。

 ロンコンですよ、ロンコン?ロンドンと香港が混ざったのか知りませんけど、普通のアホではこんな間違いはしないでしょ!?

 次に、「コンビニの名前を3つ書いてください」で、これはさすがに間違いようがないですよ。なにしろ、僕の近所にも3種類あるのですから。

 1つ目は、「ローソン」と正解でした。2つ目は「さんくすー」と少し間違っていたものの、おまけで正解にしました。ところが3つ目の回答を目にした瞬間、僕の体が震えだしたのです。

 「牛丼」

 何言ってんねん、お前!牛丼!?ぎゅぎゅぎゅ、牛丼!?なんでも置いてるのがコンビニの売りやのに店名は牛丼なんや!?

 それでも、これらは、まだましです。問題は「世界三大珍味は?」で、なにしろこれ、白紙回答やったんですよ。問題の意味がわからないらしく、「世界三大珍味」が何なのかが理解できていないのです。

 「なんでもいいから、高級そうな食べ物を3つ書いてくれ!おっちゃんにとって、めったに食べられないものを3つ書いてくれたらいいから!」

 僕がこのように要求したところ、木下さんは以下の回答をしました。

 「おすしのなかのとろ。すじ肉。ロース肉」

 ブルーなるわ!貧乏すぎてブルーなんねん!ていうかすじ肉は安いやろ!

 「プリン」

 4つあるやんけ!数学もボロボロやんけ、こいつ!

 結果、0点です。ほかの簡単な問題にも誤答をし、僕は震えた手で「0点」と書こうとしたのですが、何気に用紙の上を見たところ、僕の背筋が凍りついたのです。

 「木の下」

 マイナス点やんけ!0点と違うぞ、名前も間違ったお前はマイナス点やぞ!マイナス10点で、人類史上最低の点数やぞ、これは!

 もうね、ヘキサゴンの出演者が天然ボケだとか、そんなレベルの話じゃないですよ。次元が違う、としか言いようがなく、なにしろ本人は、「30点は取れてる!」と思っていたらしいですから。

検証エピソード②『蚊』
 これは、2ヶ月ほど前のお話です。

 その日の昼すぎ、僕は家の台所で、僕の母親と、ざるうどんを食べていました。

 しばらくして、木下さんがやってきました。家に昼ごはんがなかったらしく、見かねた僕の母親は、木下さんの分も作ってあげることにしました。

 3人して、ざるうどんを食べます。とりとめのない話で盛り上がり、しばらくして、台所に蚊がいることに気がつきました。

 この蚊は、めちゃくちゃ手強いです。近くまで来ても、叩こうとした瞬間、別の場所に移動します。今まで見たことがないほどのすばやい蚊で、瞬間移動をするかのごとく、そそくさと逃げ去ってしまうのです。

 案の定、僕の左腕が刺されました。刺されないように、肌を露出した部分は動かすなどして抵抗したものの、間隙を縫って刺してきやがったのです。

 しかも、お腹がいっぱいになったはずなのに、スピードは衰えていません。次の獲物を狙っているのか、再び僕らの前を猛スピードでうろつき始めたのです。

 僕には、仕事で仕上げなければならない原稿があります。結局、僕は始末するのをあきらめて、部屋に戻りました。

 3時間後。

 小腹が空いた僕は、何か甘いものはないかと、台所に行きました。台所では僕の母親と木下さんが雑談をしており、先ほどの憎き蚊が、再び姿を現したのです。

 先ほどと、何らスピードが変わることはありません。いやむしろ、腹ごしらえをしたためかスピードはアップしており、僕らの前をビュンビュンと飛び始めたのです。

 これは、むかつきましたよ。そこでリベンジするべく、僕はあらゆるところを叩いたものの仕留められず、ほどなくして、木下さんの首元が刺されていることに気がついたのです。

 「うわー、今度は俺や!」

 木下さんは叫びました。「絶対に殺したる!」と声を張り上げたのですが、今しがた猛スピードで飛び回っていた蚊が、僕の血でお腹が膨れてもスピードが衰えなかった蚊が、アホの血吸った途端、ヨレヨレになってるんですよ!

 これ、マジですよ!木下さんの血を吸った途端、「私はアホになりました!」とばかりにヨレヨレなんですよ!露骨なまでに僕らの前を超スローでうろつき始めたのです!

 シャレならんわ、お前の血!まだマラリアのほうがましやわ!

 「(手で叩きながら)死ね、ボケ!死ね、ボケ!」

 お前もボケやねん!お前がボケやからその蚊もボケになってん!

 正直、「アホはうつるんや……」と考えて、一緒にいるのが怖くなりましたよ。それを証拠に、僕が「おっちゃんの血を吸ったら蚊はアホになるんやな!」と言うのを聞いた瞬間、僕の母親は買物に行きましたから。

検証エピソード③『お葬式』
 これは、7年ほど前のお話です。

 僕の母方の祖父が亡くなり、祖父の家で、葬儀が営まれました。

 葬儀には、たくさんの参列客が集まってくれました。そして葬儀を終え、道路沿いに停車している霊柩車まで、男8人で棺桶を担ぐことになったのです。

 誰が担ぐかは、事前に決めてあります。ですが、式に参列していた木下さんが、急に「俺も担ぎたい!」と、わがままを言いだしたのです。

 棺桶を担ぐのは、仏さんと血縁関係にある人と決まっています。部外者である木下さんに権利はないものの、「お願いやから担がせて!おじいさんにあれだけお世話になったから、俺も力を貸したいんや!」と、涙ながらにお願いしてきたのです。

 それでも、これ以上人が増えたら邪魔になります。結局、僕の母親が言って聞かせ、木下さんはあきらめました。

 すると木下さんは、少しでもみんなの役に立ちたいと思ったのでしょう。僕らが棺桶を担いで家を出た途端、「はい、そこ、足元を気をつけて!」と、エスコートを始めました。棺桶を先導し、妙な指示を出してきたのです。

 それでも、何か役に立つ情報なら、いいですよ。ただ、「そこは坂やから気をつけて!」と言うものの、言われた場所は坂でもなんでもありません。10度あるかないかの平坦な道なのです。

 ウソついてるやんけ、お前!迷惑やねん、お前のやってること!

 「犬が来たよ!危ないよ!」

 チワワやんけ、これ!土佐犬とかやったらわかるけど、おとなしそうなチワワやんけ、この犬!

 「人が来るぞー!」

 お前も人やろ!そう言ってる、人であるお前が来たわ!

 それでも、木下さんは一生懸命です。笑うわけにはいかず、木下さんは、僕らを邪魔する障害物がないかを確認するために先にカーブを曲がったのですが、僕らがカーブにさしかかろうとした瞬間、「牛乳屋が来るぞーーー!!!」と叫びながら全速力で走ってきたんですよ!

 ただの牛乳屋やろ!オバハンが牛乳瓶回収してるだけやろ!

 「牛乳屋が来るぞ、みんな!!!」

 だからなんやねん!で、叫ぶんやったら「自転車が来るぞ!」って言えや!牛乳屋が来るってなんやねん!

 「もう来る、もう来る!もうすぐ牛乳屋が来るぞーーー!!!」

 もう来たわ!牛乳屋はもう俺らの横を通りすぎて行ったわ!で、何もなかったわ!なんやったら牛乳屋のほうが俺らをよけてくれたわ!ある種のオオカミ少年やねん、お前のやってること!

 これを言われた瞬間、棺桶を持つ8人、全員が笑いましたからね。先ほどまで哀しみにくれていたのに、全員、普通に笑いましたから。

検証エピソード④『目』
 木下さんは、目がいいです。唯一の自慢が視力で、60を過ぎても両目ともに1・5。老眼鏡も持ってはいるものの、それすらも使うことは少ないのです。

 ですが、2年ほど前から、視力が落ちはじめました。そのことにショックを受け、「目をよくする!」と言って、いろいろと試しはじめたのです。

 目にいいと聞いて、ウナギの肝や海草を食べます。ことあるごとに目を洗い、僕に、「たけちゃん、視力を上げたいから、目を引っ張ってくれ!」とお願いしてきたのです。

 何の意味あんねん、それ!引っ張ってよくなるんやったら、伊達政宗も独眼流の看板下ろしてるわ!

 「目がちぎれてもいいから引っ張って!」

 ちぎれたら視力もクソもないやろ!視力上がるどころかレセプトの点数上がるわ、手術代で!

 それでも本人は、よかれと思ってやっています。注意しすぎると怒られるので、ほっておくことにしました。

 2年前のある日のことです。

 その日の夜、僕は寝つけませんでした。近所を散歩することにし、音楽を聴きながら歩いていたところ、木下さんも散歩していたのです。

 時刻は夜の11時をすぎています。木下さんは缶ビールを飲みながら歩いており、木下さんの行動が気になった僕は、あとをつけることにしました。

 コンビニの近くに来た木下さんが、急に歩くのをやめました。道路の近くに寄って立ち止まり、前を走る車を見ながら、なにやらぶつぶつ言いはじめたのです。

 不審に思った僕は、バレないように近づきました。後ろから耳を澄ましたところ、「神戸市 あ 7735」「姫路市 い 2881」と、車のナンバープレートを暗唱しているのです。

 木下さんは視力を上げるために、目のトレーニングをしているのでしょう。遠目にナンバープレートを見ながら、ロボットのような声で「香川市 う 16885」「大阪市 え 33852」などと叫びまくっているのです。

 しばらくして、車の往来が途切れました。

 木下さんは、ナンバプレートを読むのをやめて、街中を移動しはじめました。そして先ほど同様に、ロボットみたいな声で「やまもとせいこついん」「えいぎょうじかん じゅうじからにじゅうさんじ」「うせつきんし」などと、目に入るすべての文字を暗唱しはじめたのです。

 ですが、読めない漢字は飛ばします。「月極駐車場」「泌尿器科」は飛ばし、しまいには「貸倉庫」を飛ばしたんですよ。

 読めよ、貸倉庫ぐらい!ていうか、俺の家の倉庫を貸したったことあるやろ!俺に「倉庫貸してくれへん?」と口にしたことがあるやろ!

 「アコム」

 めっちゃでかいわ、その看板の字!誰でも読めるわ、そんなでかい字!

 僕は怖くなってきました。

 こう見えて、木下さんは健常者です。ぎりぎりこっちの世界に踏みとどまっているので、こんなことをこれ以上やらせたら、そっちの世界に行ってしまいそうな気がしたのです。

 僕は木下さんに、このトレーニングをやめさせることにしました。

 商店街に入り、木下さんが「よしのや」「わぎゅうせんもんてん」などと言っている中、僕は後ろから近づきました。「おっちゃん、何してんねん?」と話しかけたところ、僕を見た木下さんが、今まで同様のロボットの声で「たけちゃん」って言ったんですよ。

 俺は字と違うわ!俺は俺や!

 「たけちゃん」

 俺を「読む」な!俺は字と違うねん、だから!

 結局、このトレーニングの効果が出たのか、木下さんの視力は回復しました。ですが、視力ならぬ「脳力」は、ほとんど0ですよ。「脳力検査」と題して、視力ボードみたいに常識問題を上から並べていったら、1番上の問題も答えられないですから。

検証エピソード⑤『クロス』
 その昔、僕の近所に、頭のおかしいおじさんがいました。

 木下さんも充分おかしいのですが、このおじさんは完全に「そっちの人」です。意味不明のことをぶつぶつ言いながら街を徘徊するなど、完全にイってしまっているのです。

 一度、近所の公園でガンガンにゴルフをしていたので、僕の父親が注意しました。

 「こんなところでゴルフをしたら危ないやろ!」

 すると、「♪うちのじいちゃんは、河原でヒョイ!ヒョイヒョイヒョイヒョイ、河原でヒョイ!」と口ずさみながら帰って行きました。自分の気持ちを表現できない人で、会話が一切成立しないのです。

 そしてあるときから、自転車に乗る人に自分の自転車を近づけて、「クロース!」と叫びはじめました。自分の自転車を交差し、「クロース!」「ダブルクロース!」などと一日中、叫ぶようになったのです。

 僕も、何回もクロスされました。大雨の日に一度、「雨の中、クロース!」とやられたときなど、あまりの突撃感に、マジで殺されると思ったほどなのです。

 とはいえ、ややこしいおじさんです。文句を言うのは怖く、注意しても、意味不明の言葉を返されるのは目に見えています。警察に相談しても助けてもらえず、僕らはあきらめることにしました。

 僕が高校生のときのことです。

 ある日、僕の家に木下さんがやってきました。ニヤニヤしており、訊くと、高収入を得られる短期バイトを見つけたらしいのです。

 ですが、話を聞くうちに、木下さんがだまされていることに気がつきました。

 当時は国政選挙の直前。このバイトは、「天皇陛下、万歳!」的な言葉を録音したカセットテープを持ち、自転車に乗って街中に流す仕事だったのです。

 仕事を依頼したのは、街の政治結社です。近所でも、関わったら殺されると風評が立つような恐ろしい団体で、日ごろから暇をしている木下さんに目をつけて、お願いしたのです。

 これは困りましたよ。それがややこしい仕事だということを説明したところ、木下さんが泣きはじめたのです。

 幸いにも、このバイトは、選挙中の短い期間だけです。選挙が終わっても頼まれるようなら、そのときは警察に連絡してなんとかしてもらうと約束し、その日は木下さんを帰しました。

 やがてラジカセ片手に、自転車に乗った木下さんが街を徘徊しはじめました。

 そしてあるとき、学校帰りに自転車に乗る僕と、ばったりと遭遇したのです。

 木下さんは自転車を止めて、僕のところに来ました。

 「たけちゃん、選挙が終わったら俺、ほんまにもうやらんでいいよな?変な団体に入れられへんよな?」

 こう言いながら、半泣きになっているのです。

 「大丈夫や!心配せんでも、警察がなんとかしてくれるわ!」

 僕はこう言って、木下さんを慰めました。木下さんも、泣きながらとはいえ僕の言葉に納得し、再び街中を自転車で周りはじめました。

 すると前から、クロスがやってきたのです。僕の前を自転車で走る木下さんに、クロスが近づいてきたのです。

 「クローーーース!!!」

 クロスが木下さんの自転車にクロスをしました。

 クロスされた木下さんは、「ふざけんな!」と怒鳴って自転車を止め、クロスに近づきました。クロスの胸倉をつかみ、「クロスって、お前はアホか!お前みたいなアホがこの街をうろつくな!」と、ものすごい形相で怒鳴り散らしたのです。

 ですが、途中から興奮で我を忘れ、ワケのわからないことを言いはじめました。

 「お前みたいなアホは、アメリカの奥のほうに住め!アメリカの奥のほうにアフリカのジャングルがあるから、そこで迷ってヘビに噛まれて、誰にも助けてもらえんと救急車を呼べ!」

 このように、アホに対してアホを丸出しにしたのです。

 言われたクロスは、まったく意に介しません。感情、そして自分の意見を言葉にできない人なので、ワケのわからないことをぶつぶつ言いながら、木下さんを無視し続けているのです。

 結局、僕があいだに入って、アホ2人の争いは終わりました。

 クロスは新たなクロスの相手を求めて、立ち去りました。木下さんは、「アホ、わかったな?お前は明日からアメリカのジャングルに行ってヘビに噛まれるんやぞ!」と妙な捨てゼリフを吐いて、ラジカセ片手に雑踏に紛れました。

 それから、10分後のことです。

 僕の家の近くのパン屋の前で、僕がやきそばパンを食べていたところ、クロスが通りがかったのです。それもなぜか満面の笑み。何かあったのか、今までに見せたことがないような笑みを浮かべて、こう口ずさみながら僕の前を横切ったのです。

 「♪アーホに~、アーホと~、言われたくない~!!!」

 あのクロスが初めて自分の意見を言ったのです!今まで怒鳴られても警察に怒られても自分の意見を口にしなかったクロスが、アホのおかげで覚醒したんですよ!アホ同士が化学反応を起こし、クロスの心の闇を断ち切ったのです!

 最近、クロスの姿を見かけなくなりました。新しい住みかが見つかったのか、街では見かけなくなったのですが、どこかで幸せに暮らしていると、僕は信じます。

 なにしろ、クロスの心の闇は絶たれたのですから。アホという化学反応によって、自分の意見を言えるまでに成長したのですから……。


 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。

 ちなみに①でご紹介した、常識力チェック。

 先日、第2弾を決行したところ、第1弾にも増してひどいことになりました。その結果はいずれ、このブログでご紹介したいと思います……。


馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察~ベスト版④~(パソコン読者用)

※過去の「ロストシャウト」の記事をごちゃ混ぜにして再編集


 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。


 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。


 そう、「ロストシャウト」です。


 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、「ロストシャウト帳」なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。


 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。


 なかでも、地方競馬のロストシャウター。


 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。


 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?」の考察~ベスト版④~です。


 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介します。


①「(パドックで)この、エセちょんまげ野郎が!」 20代・男性
 いきなり凄いのがきましたよ。


 当たり前ですが、騎手にちょんまげの奴などいません。ましてや、ヘルメットをかぶっています。なのに本人の前で、真剣に叫んでいるのです。


 これ、どういう意味ですか?いくら考えても意味がわからないんですけど、誰か教えてくれませんかね!?


 とりわけ、「エセ」の意味がわかりません。ちょんまげ野郎が何なのかわからないのに「エセ」とか言われても、何のことかまったく理解できないのです。


②「夢で見たのと違う!」 20代・男性
 知らんがな、そんなもん!勝手に信じたお前の責任やろ!


 「訴えたろか!」


 誰を訴えんねん!で言うとくぞ、訴えたところで、被告も原告もお前やからな!証人もお前しかおらんし、「被告山田は原告山田に50万円支払うこと!」とか言われるからな!


 ちなみにこいつは、足を骨折しています。ギプスをしてトボトボと歩いていたので何気に見たところ、松葉杖にビックリマンを貼っていました。


③「首を吊りたいけど、首を吊るためのヒモを買う金もねえ!」 60代・男性
 ブルーなるわ!悲しすぎてブルーなんねん、お前!


 このオッサンは、園田競馬場の常連です。ことあるごとに叫ぶのですが、前歯がボロボロで、中央に、細い歯が2本しかないのです。


 リスか、お前!前歯でカリカリして飯食うタイプか!首吊ろうとしても、「やっぱり生きたい!」とか言ってその前歯でヒモをカリカリすんのか!?


 競馬場では毎回、同じ場所にいます。ですが先日、いつもの場所にいませんでした。僕は「まさか首を吊っているのでは……」と心配になって探しまわったところ、子供を預かってくれるチャイルドルームで、1人でパズルしてました。


④「あっ、武豊ストラップの武豊や!」 小学生・男性
 どっちメインにしてんねん!武豊がおるから武豊ストラップがあんねん!武豊は武豊ストラップからの派生商品じ
ゃないねん!


 「お父さん、武豊ストラップの武豊やで!」


 だからメインがおかしいねん!お父さんも注意したってくれ!?


 「ほんまや!武豊ストラップの武豊や!」


 親子そろってアホやんけ!ブッシュか!


 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴ら。


⑤「敷金!」 20代・男性
 意味わからん!敷金が何なのかを言えよ!


 こいつは負けがこんでイライラしており、そのシャウトの多くが、なぜか単語です。「敷金!」同様に単語をシャウトしまくり、僕の真横で「梅雨時!」と叫んだのです。


 梅雨時やけど!今はたしかに梅雨時やけど!


 「今日は梅雨時!明日も梅雨時!」


 病院行け、お前!そんなことを叫ぶ奴は病院に行かないとあかん!で、待合室で「病院内も梅雨時!病院外も梅雨時!」と叫べ!急患扱いですぐに頭をオペしてくれるわ!


 あとまったくの余談ですが、こいつが着ていた黄色のフリース、洗濯しすぎて、ほとんど白でした。


⑥「(ハゲが)このお茶、薄っ!」 50代・男性
 お前も薄いねん!お前の頭もグラウンドゼロやねん!


 「もっと濃くせいや!」


 お前ももっと濃くせいや!ハゲで色白の面長やからミルクアイスそっくりやねん、お前は!


 「経費削減すんなよ!」


 お前も毛費削減してるやろ!毛費0の不況に強い頭やろ、お前は!


 ちなみにこのオッサン、薄着でした。


⑦「神様がもし願いごとを1つ叶えてくれるなら、7レースに戻って11番から流したい!」 60代・男性
 ほかに何かあるやろ!もっと大事な願いごとあるやろ、いくらなんでも!


 「あー!あのころに戻りたい!」


 同窓会か!ていうかお前にとっての「あのころ」は今日の7レースなんや?青春時代よりも今日の7レースに戻りたいんや!?


 ちなみにこのオッサンは、新聞を見ていらないと思った馬に、サインペンで斜線をしています。ですが、斜線を引きすぎてインクが裏面に染み、「裏が読めねえ!」と半泣きになっていました。


⑧「アカン、オシッコ、アカカッタ!」 年齢不詳・たぶんインド人
 インド人やんな?凄いこと言ってるけど、自分、たぶんインド人やんな!?


 「シンジラレヘンワ!」


 俺も信じられへんわ!「関西弁を流暢にあやつるオシッコの赤いインド人」なんて俺も信じられへんわ!


 こいつは、日本人の彼女を連れています。場内のフードコートで一緒だったのですが、モスバーガーの看板を見て、「アッ、ココ、モスアルヤン!」って言ったんですよ。


 モスて、おい!たぶんインド人がモスて!


 「ミユキサン、モスデ、メシクワヘン?」


 飯て、おい!たぶんインド人が飯て!で、なんでインド人のお前がモスに入って日本人の俺がカレー食ってんねん!


 このたぶんインド人は店に入り、長居しています。モスバーガーが大好きみたいで、去り際に、十勝コロッケをテークアウトしていました。


⑨「竜巻、来いや」 20代・男性
 ごめん、何言ってんの、自分!?ほんまに何言ってんの!?


 「激しい竜巻来いや!」


 意味わからん!で、来たところでどうなんの?お前にとってどうプラスになんの!?


 こいつは大学生です。サークルの仲間らしき数名とゴール前に陣取り、むちゃくちゃなことを叫んでいます。ゴールした騎手に「死ね!」と罵声を浴びせるのはもちろん、飛行場が近くにあるのをいいことに、「飛行機、突っ込んでこいや!」と叫んだのです。


 自殺せいや、それやったら!さっきのヒモジジイと首吊れや!ヒモ代は俺が出したるから!


 もう訳がわかりませんよ、こんな奴。


⑩「(全身ピンクのオカマが)何を考えとんねん!」 60代・男性
 お前もや!お前も何考えとんねん!


 「世の中、狂ってるわ!」


 お前を先頭にな!この狂った世の中の先頭にいるんはお前とさっきのたぶんインド人や!


 こいつは阪神競馬場にいつく、「キチ○イ四天王」の1人です。全身がピンクで、下はミニスカートを履いています。キチ○イ中のキチ○イで、その昔、「本日の主役です!」と書かれたタスキをつけて現われたのです。


 いつでも主役じゃ、お前みたいな奴!いつどこにおっても1番目立つわ!ひな人形の中に黒人混ざってるようなもんや!


 ちなみにこいつは、阪神競馬場の東ウイングの2階にいます。心臓の強い方はぜひ、声をかけてみてください。


⑪「これだけ競馬で国に寄付したってんのに、麻生(太郎)のガキは、いまだにわしにひと言もあらへん!」 70代・男性
 なんでお前に礼言わないとあかんねん!政治家はそこまで暇じゃないねん!


 「定額給付金を配るんはいいけど、せめて300万はよこせや!」 


 むちゃ言うなよ、お前!隣のジジイも何か言ったってくれ!?


 「足らん」


 もっと凄い奴がおった!何ぼいんねん、お前の老後!なんや、ジジイでも相手してくれそうな風俗見つけたんか!?『J倶楽部~杖でついてつつかれて~』とかそんな店名か!?


 ちなみにこのジジイ2人は、異常に耳毛が濃いです。フサフサの毛が固まって露出しているため、耳かきが刺さったままになっている可能性があります。


⑫「(右手を挙げて)わたくし、このレースに全財産をつぎ込むか、ビルから飛び降りるかの2択でございます!」 50代・男性
 何の宣誓やねん、これ!高校球児と違って全然さわやかじゃないねん!


 「わたくしの一世一代の大勝負、どうかみなさま、見届け見届け、見届けてください!」


 噛んだぞ、おい!一世一代の大勝負で噛んだぞ!もうすでに負けてるぞ、お前は!


 「ミユキサン、ヤヤコシイヒトヤカラ、ミタラアカンデ!」


 たぶんインド人が出てきた!ていうかお前も充分ややこしいからなって、十勝食ってた!インド人が十勝コロッケをホクホクしてた!


 こいつは結局、馬券をはずしました。ですが翌週に、普通に競馬場に来てましたからね。当たり前のようにビールを飲み、当たり前のように叫びたおしていましたから。


⑬「このたびは俺、ご愁傷様です!」 30代・男性
 全然おもんないねんけど!?正直こういうボケ、俺は1番嫌いやねんけど!?


 「(僕に手を合わせながら)バスコ!このたびは俺、ご愁傷様やわ!」


 ごめん、俺を巻き込まんといて!俺までスベったように見えるから!


 こいつは僕の友達です。常にテンションが高く、つまらないことを連発します。なにしろ途中で、「ラーメン、つけ麺、俺、負けまくり!」って言ったんですよ。


 3つ目、おい!麺関係あらへんやんけ、3つ目!


 「バスコ!ラーメン、つけ麺、俺、負けまくり!」


 だから俺を巻き込むなよ!巻き込むんはちん毛だけにしとけ、お前!


 あとまったくの余談ですが、こいつは大学時代、『フルーツ採集サークル・もぎたて』に所属し、主にブドウを採集していました。


⑭「ハア、また負けた。兄ちゃん、わし、戦時中のほうがよかったわ」 70代・男性
 何ぼ負けてん、お前!何ぼ負けたらそんなどぎついセリフ出てくんねん!


 「まだ、あのころのほうがよかったわ……」


 戦時中の業火なめんな、お前!あのころはな、ババアでも体売る時代やってん!好きでもない男の相手したあとに、泣きながら入れ歯を洗面台で洗うババアの気持ちがわかんのか、お前に!?


 この人と僕は競馬場で知り合い、たまに話をする仲です。あまりに元気がなかったのでその日、僕はモツ串をごちそうしてあげたのですが、真横で見た両鼻から、白髪の混ざった鼻毛が白・黒・白・黒と交互に7本出ていたのです


 葬式か、その鼻!めっちゃ小さい奴を鼻の穴で弔ってんのか!「鼻葬で涙そうそう」とか言ってんのか!?


 あとまったくの余談ですが、この人はビールを飲むとき、「わしはビールを飲むとき、ひと口目は毎回、肛門が開くねん!」と得意気に言います。


⑮「うおー!このお茶、微妙にクワガタの味がする!」 20代・男性
 そんなお茶ないわ!あってもファーブルあたりにしか需要ないわ!


 「マジでクワガタの味がする!」


 ほんまに「おーいお茶」やんけ!「おーい!」というツッコミを必要とするお茶やぞ、それ!


 こいつは先ほどの大学生グループの1人で、それを聞いたほかの大学生が、真顔でこう返しました。


 「夏やから、自販機に紛れたんと違うか?」


 紛れるか、そんなもん!ていうかお前ら、どこ大?どこの大学がそんなふざけた教育してんの!?


 「ありえるな」


 変差値はいくら!?もう偏差値はいいわ、変差値を教えてくれ!?


 おかしなメンバーばかりで、本当にいい迷惑でしたよ。


⑯「(僕に)なあ兄ちゃん、この飲みさしのビール、300円で買わへんか?」 60代・男性
 闇市か、ここ!どこのどいつが他人の飲みさし買うねん!


 「ひと口しか飲んでへんから?」


 そういう問題じゃないねん!で、100円とかにせいや!定価520円やのにまあまあ高いやんけ、これ!


 「(飲みながら)頼むわ!」


 飲まれてんねんけど!?俺に話しかけながらどんどん量が減ってるんやけど!?量を減らされてんのに、値段据え置きで売りつけられてるんやけど、俺!?


 僕は、このオッサンを無視しました。すると、ほかの若者に声をかけ始めたのですが、「350円でどう?」と値上がりしてました。


⑰「レニングドール来い!レニングドール来い!」「レニングラードね!」 50代の男性2人
 サニングデールや!その馬はサニングデールや、おい!必死なところ恐縮やけど2人とも間違ってんねん!


 この2人は、僕の父親とその知り合いです。なかでも僕の父親は、昔から頻繁に馬名を間違えます。「テレグノシス」という馬を「テレグノキッス」と呼んだり、先日も「アンライバルド」という馬を、「アイスランド」と呼んだのです。


 アイスランドですよ、アイスランド?アイルランドでもない話なのに、アイスランドですよ!?


 「アイスランドからリーチザクラウンに流すわ!」


 お前の脳味噌がリーチかかってんねん!お前の脳味噌こそボケるのにリーチザクラウンや!


 高齢なのであまり言いたくないのですが、正直、聞いてて恐ろしいものがありますよ。


⑱「あかん、差し歯買う金がなくなった!」 50代・男性
 ギャンブルなんてすんなよ、お前!まず差し歯を買って、金に余裕があったらギャンブルせいや!


 「(直線で)差せ!差せ!」


 お前がまず差せ!馬に差してもらうんはお前の歯を差してからや!


 このオッサンは、僕の近所で、たこ焼き屋をやっています。競馬場でたまに会うのですが、その日は度重なる原料の値上げにともない、値上げするかどうかで悩んでいました。


 たこ焼きは、8個200円です。「お客さんに悪いから!」と言ってなかなか値上げしなかったのですが、差し歯を買う金をなくした翌週、10個400円になっていました。


⑲「(競馬場の入り口に来た僕に)はい兄ちゃんこれ、『競馬キンキ』で500円ね!」「いらないです!」「いいからいいから、これ『競馬キンキ』で500円ね!」「ほかの新聞を買うからいらないです!」「いいからいいから!」「いらないです!」「いいからいいから!」「いらないです!」「いいからいいから、いいからいいから、いいからいいからとにかく買って!」 50代・女性
 仕事ない娼婦か、お前!その必死さ、完全にアジア系の立ちんぼやんけ!


 「はい、これ?はい、これ?」


 はいこれやあるか、お前!くるぶしみたいな顔しやがって!


 競馬場の入り口に、めちゃくちゃ強引に売りつけてくるオバハンがいるのです。カバディのディフェンスなみにまとわりつき、一度、勢いにつられて500円を渡してしまったのですが、競馬キンキの定価は410円なのです。


 寸借詐欺やんけ、これ!オレオレ詐欺じゃなくて、イイカライイカラ詐欺やんけ!


 「赤ペンは持ってる?よかったらこのペン、200円やけど?」


 100円やろ、これ!ていうか、どう見ても中古やねんけど、これ!?ゴミ箱あさったとしか思えんねんけど!?


 「いいからいいから!」


 何がいいねんお前、さっきから!お前はもう『笑っていいから』に出ろ!「では明日、来てくれるかな?」「いいから!いいからいいからタモリさん、このサングラスを8万円で買って?」とか言っとけ!


 このオバハンは、毎日のようにいます。新聞が売れないと売店を飛び出して営業を始め、高めの値段で売りつけてくることがあるのです。



 そして、最後。これは今回の記事に何度も登場している、大学生グループの1人が叫びました。マナーが悪すぎて僕はイライラしていたのですが、思わず、笑ってしまいました。


⑳「あかん、志田未来にガンシャしたくなってきた!」 20代・男性
 ええ加減にせいよ、お前!言っていい下ネタとあかん下ネタがあるぞ!


 「わかる!」


 「俺もわかるわ!」


 わかるか、そんなもん!ていうか、したくなったキッカケは何!?キッカケが気になるから教えろ!


 「ボクモワカル!」


 外人がおった!紛れて1人外人いやがった!


 「メッチャワカルワ!」


 お前、マザーは泣いてるぞ、今ごろ!せっかく日本に留学させたのに、パンケーキ焼きながら号泣してるぞ!


 むちゃくちゃなんですよ、この集団。下ネタ百戦錬磨の僕が引くほどに下品で、メンバーの1人が「俺はここ何週間で、ノリピーで5回以上シコったで!」と叫んだのです。


 人前で言うなよ、そんなこと!女性もおるんやぞ、ここ!


 「ボクモシコッタ!」


 お前、ファミリーごと泣いてるぞ、今ごろ!ジャパンに来て「シコッタ!」とか言ってる息子のために、泣きながらミサに通ってるぞ!


 このように、品性のかけらもないのです。


 ですが、正直、おもしろいです。なのでどこか腑に落ちないながらも、これを今回の殿堂入りとさせていただきます。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみに今週末に行われる、第43回スプリンターズステークス。


 うちの父親に予想を訊いたところ、こう答えました。


 「今回のスプリングステークスは難しいな!」


 しっかりしてくれ、父さん!!!


馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察~ベスト版④~(携帯読者用)

※過去の「ロストシャウト」の記事をごちゃ混ぜにして再編集

 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。

 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。

 そう、「ロストシャウト」です。

 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、「ロストシャウト帳」なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。

 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。

 なかでも、地方競馬のロストシャウター。

 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。

 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?」の考察~ベスト版④~です。

 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介します。

①「(パドックで)この、エセちょんまげ野郎が!」 20代・男性
 いきなり凄いのがきましたよ。

 当たり前ですが、騎手にちょんまげの奴などいません。ましてや、ヘルメットをかぶっています。なのに本人の前で、真剣に叫んでいるのです。

 これ、どういう意味ですか?いくら考えても意味がわからないんですけど、誰か教えてくれませんかね!?

 とりわけ、「エセ」の意味がわかりません。ちょんまげ野郎が何なのかわからないのに「エセ」とか言われても、何のことかまったく理解できないのです。

②「夢で見たのと違う!」 20代・男性
 知らんがな、そんなもん!勝手に信じたお前の責任やろ!

 「訴えたろか!」

 誰を訴えんねん!で言うとくぞ、訴えたところで、被告も原告もお前やからな!証人もお前しかおらんし、「被告山田は原告山田に50万円支払うこと!」とか言われるからな!

 ちなみにこいつは、足を骨折しています。ギプスをしてトボトボと歩いていたので何気に見たところ、松葉杖にビックリマンを貼っていました。

③「首を吊りたいけど、首を吊るためのヒモを買う金もねえ!」 60代・男性
 ブルーなるわ!悲しすぎてブルーなんねん、お前!

 このオッサンは、園田競馬場の常連です。ことあるごとに叫ぶのですが、前歯がボロボロで、中央に、細い歯が2本しかないのです。

 リスか、お前!前歯でカリカリして飯食うタイプか!首吊ろうとしても、「やっぱり生きたい!」とか言ってその前歯でヒモをカリカリすんのか!?

 競馬場では毎回、同じ場所にいます。ですが先日、いつもの場所にいませんでした。僕は「まさか首を吊っているのでは……」と心配になって探しまわったところ、子供を預かってくれるチャイルドルームで、1人でパズルしてました。

④「あっ、武豊ストラップの武豊や!」 小学生・男性
 どっちメインにしてんねん!武豊がおるから武豊ストラップがあんねん!武豊は武豊ストラップからの派生商品じゃないねん!

 「お父さん、武豊ストラップの武豊やで!」

 だからメインがおかしいねん!お父さんも注意したってくれ!?

 「ほんまや!武豊ストラップの武豊や!」

 親子そろってアホやんけ!ブッシュか!

 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴ら。

⑤「敷金!」 20代・男性
 意味わからん!敷金が何なのかを言えよ!

 こいつは負けがこんでイライラしており、そのシャウトの多くが、なぜか単語です。「敷金!」同様に単語をシャウトしまくり、僕の真横で「梅雨時!」と叫んだのです。

 梅雨時やけど!今はたしかに梅雨時やけど!

 「今日は梅雨時!明日も梅雨時!」

 病院行け、お前!そんなことを叫ぶ奴は病院に行かないとあかん!で、待合室で「病院内も梅雨時!病院外も梅雨時!」と叫べ!急患扱いですぐに頭をオペしてくれるわ!

 あとまったくの余談ですが、こいつが着ていた黄色のフリース、洗濯しすぎて、ほとんど白でした。

⑥「(ハゲが)このお茶、薄っ!」 50代・男性
 お前も薄いねん!お前の頭もグラウンドゼロやねん!

 「もっと濃くせいや!」

 お前ももっと濃くせいや!ハゲで色白の面長やからミルクアイスそっくりやねん、お前は!

 「経費削減すんなよ!」

 お前も毛費削減してるやろ!毛費0の不況に強い頭やろ、お前は!

 ちなみにこのオッサン、薄着でした。

⑦「神様がもし願いごとを1つ叶えてくれるなら、7レースに戻って11番から流したい!」 60代・男性
 ほかに何かあるやろ!もっと大事な願いごとあるやろ、いくらなんでも!

 「あー!あのころに戻りたい!」

 同窓会か!ていうかお前にとっての「あのころ」は今日の7レースなんや?青春時代よりも今日の7レースに戻りたいんや!?

 ちなみにこのオッサンは、新聞を見ていらないと思った馬に、サインペンで斜線をしています。ですが、斜線を引きすぎてインクが裏面に染み、「裏が読めねえ!」と半泣きになっていました。

⑧「アカン、オシッコ、アカカッタ!」 年齢不詳・たぶんインド人
 インド人やんな?凄いこと言ってるけど、自分、たぶんインド人やんな!?

 「シンジラレヘンワ!」

 俺も信じられへんわ!「関西弁を流暢にあやつるオシッコの赤いインド人」なんて俺も信じられへんわ!

 こいつは、日本人の彼女を連れています。場内のフードコートで一緒だったのですが、モスバーガーの看板を見て、「アッ、ココ、モスアルヤン!」って言ったんですよ。

 モスて、おい!たぶんインド人がモスて!

 「ミユキサン、モスデ、メシクワヘン?」

 飯て、おい!たぶんインド人が飯て!で、なんでインド人のお前がモスに入って日本人の俺がカレー食ってんねん!

 このたぶんインド人は店に入り、長居しています。モスバーガーが大好きみたいで、去り際に、十勝コロッケをテークアウトしていました。

⑨「竜巻、来いや」 20代・男性
 ごめん、何言ってんの、自分!?ほんまに何言ってんの!?

 「激しい竜巻来いや!」

 意味わからん!で、来たところでどうなんの?お前にとってどうプラスになんの!?

 こいつは大学生です。サークルの仲間らしき数名とゴール前に陣取り、むちゃくちゃなことを叫んでいます。ゴールした騎手に「死ね!」と罵声を浴びせるのはもちろん、飛行場が近くにあるのをいいことに、「飛行機、突っ込んでこいや!」と叫んだのです。

 自殺せいや、それやったら!さっきのヒモジジイと首吊れや!ヒモ代は俺が出したるから!

 もう訳がわかりませんよ、こんな奴。

⑩「(全身ピンクのオカマが)何を考えとんねん!」 60代・男性
 お前もや!お前も何考えとんねん!

 「世の中、狂ってるわ!」

 お前を先頭にな!この狂った世の中の先頭にいるんはお前とさっきのたぶんインド人や!

 こいつは阪神競馬場にいつく、「キチ○イ四天王」の1人です。全身がピンクで、下はミニスカートを履いています。キチ○イ中のキチ○イで、その昔、「本日の主役です!」と書かれたタスキをつけて現われたのです。

 いつでも主役じゃ、お前みたいな奴!いつどこにおっても1番目立つわ!ひな人形の中に黒人混ざってるようなもんや!

 ちなみにこいつは、阪神競馬場の東ウイングの2階にいます。心臓の強い方はぜひ、声をかけてみてください。

⑪「これだけ競馬で国に寄付したってんのに、麻生(太郎)のガキは、いまだにわしにひと言もあらへん!」 70代・男性
 なんでお前に礼言わないとあかんねん!政治家はそこまで暇じゃないねん!

 「定額給付金を配るんはいいけど、せめて300万はよこせや!」 

 むちゃ言うなよ、お前!隣のジジイも何か言ったってくれ!?

 「足らん」

 もっと凄い奴がおった!何ぼいんねん、お前の老後!なんや、ジジイでも相手してくれそうな風俗見つけたんか!?『J倶楽部~杖でついてつつかれて~』とかそんな店名か!?

 ちなみにこのジジイ2人は、異常に耳毛が濃いです。フサフサの毛が固まって露出しているため、耳かきが刺さったままになっている可能性があります。

⑫「(右手を挙げて)わたくし、このレースに全財産をつぎ込むか、ビルから飛び降りるかの2択でございます!」 50代・男性
 何の宣誓やねん、これ!高校球児と違って全然さわやかじゃないねん!

 「わたくしの一世一代の大勝負、どうかみなさま、見届け見届け、見届けてください!」

 噛んだぞ、おい!一世一代の大勝負で噛んだぞ!もうすでに負けてるぞ、お前は!

 「ミユキサン、ヤヤコシイヒトヤカラ、ミタラアカンデ!」

 たぶんインド人が出てきた!ていうかお前も充分ややこしいからなって、十勝食ってた!インド人が十勝コロッケをホクホクしてた!

 こいつは結局、馬券をはずしました。ですが翌週に、普通に競馬場に来てましたからね。当たり前のようにビールを飲み、当たり前のように叫びたおしていましたから。

⑬「このたびは俺、ご愁傷様です!」 30代・男性
 全然おもんないねんけど!?正直こういうボケ、俺は1番嫌いやねんけど!?

 「(僕に手を合わせながら)バスコ!このたびは俺、ご愁傷様やわ!」

 ごめん、俺を巻き込まんといて!俺までスベったように見えるから!

 こいつは僕の友達です。常にテンションが高く、つまらないことを連発します。なにしろ途中で、「ラーメン、つけ麺、俺、負けまくり!」って言ったんですよ。

 3つ目、おい!麺関係あらへんやんけ、3つ目!

 「バスコ!ラーメン、つけ麺、俺、負けまくり!」

 だから俺を巻き込むなよ!巻き込むんはちん毛だけにしとけ、お前!

 あとまったくの余談ですが、こいつは大学時代、『フルーツ採集サークル・もぎたて』に所属し、主にブドウを採集していました。

⑭「ハア、また負けた。兄ちゃん、わし、戦時中のほうがよかったわ」 70代・男性
 何ぼ負けてん、お前!何ぼ負けたらそんなどぎついセリフ出てくんねん!

 「まだ、あのころのほうがよかったわ……」

 戦時中の業火なめんな、お前!あのころはな、ババアでも体売る時代やってん!好きでもない男の相手したあとに、泣きながら入れ歯を洗面台で洗うババアの気持ちがわかんのか、お前に!?

 この人と僕は競馬場で知り合い、たまに話をする仲です。あまりに元気がなかったのでその日、僕はモツ串をごちそうしてあげたのですが、真横で見た両鼻から、白髪の混ざった鼻毛が白・黒・白・黒と交互に7本出ていたのです。

 葬式か、その鼻!めっちゃ小さい奴を鼻の穴で弔ってんのか!「鼻葬で涙そうそう」とか言ってんのか!?

 あとまったくの余談ですが、この人はビールを飲むとき、「わしはビールを飲むとき、ひと口目は毎回、肛門が開くねん!」と得意気に言います。

⑮「うおー!このお茶、微妙にクワガタの味がする!」 20代・男性
 そんなお茶ないわ!あってもファーブルあたりにしか需要ないわ!

 「マジでクワガタの味がする!」

 ほんまに「おーいお茶」やんけ!「おーい!」というツッコミを必要とするお茶やぞ、それ!

 こいつは先ほどの大学生グループの1人で、それを聞いたほかの大学生が、真顔でこう返しました。

 「夏やから、自販機に紛れたんと違うか?」

 紛れるか、そんなもん!ていうかお前ら、どこ大?どこの大学がそんなふざけた教育してんの!?

 「ありえるな」

 変差値はいくら!?もう偏差値はいいわ、変差値を教えてくれ!?

 おかしなメンバーばかりで、本当にいい迷惑でしたよ。

⑯「(僕に)なあ兄ちゃん、この飲みさしのビール、300円で買わへんか?」 60代・男性
 闇市か、ここ!どこのどいつが他人の飲みさし買うねん!

 「ひと口しか飲んでへんから?」

 そういう問題じゃないねん!で、100円とかにせいや!定価520円やのにまあまあ高いやんけ、これ!

 「(飲みながら)頼むわ!」

 飲まれてんねんけど!?俺に話しかけながらどんどん量が減ってるんやけど!?量を減らされてんのに、値段据え置きで売りつけられてるんやけど、俺!?

 僕は、このオッサンを無視しました。すると、ほかの若者に声をかけ始めたのですが、「350円でどう?」と値上がりしてました。

⑰「レニングドール来い!レニングドール来い!」「レニングラードね!」 50代の男性2人
 サニングデールや!その馬はサニングデールや、おい!必死なところ恐縮やけど2人とも間違ってんねん!

 この2人は、僕の父親とその知り合いです。なかでも僕の父親は、昔から頻繁に馬名を間違えます。「テレグノシス」という馬を「テレグノキッス」と呼んだり、先日も「アンライバルド」という馬を、「アイスランド」と呼んだのです。

 アイスランドですよ、アイスランド?アイルランドでもない話なのに、アイスランドですよ!?

 「アイスランドからリーチザクラウンに流すわ!」

 お前の脳味噌がリーチかかってんねん!お前の脳味噌こそボケるのにリーチザクラウンや!

 高齢なのであまり言いたくないのですが、正直、聞いてて恐ろしいものがありますよ。

⑱「あかん、差し歯買う金がなくなった!」 50代・男性
 ギャンブルなんてすんなよ、お前!まず差し歯を買って、金に余裕があったらギャンブルせいや!

 「(直線で)差せ!差せ!」

 お前がまず差せ!馬に差してもらうんはお前の歯を差してからや!

 このオッサンは、僕の近所で、たこ焼き屋をやっています。競馬場でたまに会うのですが、その日は度重なる原料の値上げにともない、値上げするかどうかで悩んでいました。

 たこ焼きは、8個200円です。「お客さんに悪いから!」と言ってなかなか値上げしなかったのですが、差し歯を買う金をなくした翌週、10個400円になっていました。

⑲「(競馬場の入り口に来た僕に)はい兄ちゃんこれ、『競馬キンキ』で500円ね!」「いらないです!」「いいからいいから、これ『競馬キンキ』で500円ね!」「ほかの新聞を買うからいらないです!」「いいからいいから!」「いらないです!」「いいからいいから!」「いらないです!」「いいからいいから、いいからいいから、いいからいいからとにかく買って!」 50代・女性
 仕事ない娼婦か、お前!その必死さ、完全にアジア系の立ちんぼやんけ!

 「はい、これ?はい、これ?」

 はいこれやあるか、お前!くるぶしみたいな顔しやがって!

 競馬場の入り口に、めちゃくちゃ強引に売りつけてくるオバハンがいるのです。カバディのディフェンスなみにまとわりつき、一度、勢いにつられて500円を渡してしまったのですが、競馬キンキの定価は410円なのです。

 寸借詐欺やんけ、これ!オレオレ詐欺じゃなくて、イイカライイカラ詐欺やんけ!

 「赤ペンは持ってる?よかったらこのペン、200円やけど?」

 100円やろ、これ!ていうか、どう見ても中古やねんけど、これ!?ゴミ箱あさったとしか思えんねんけど!?

 「いいからいいから!」

 何がいいねんお前、さっきから!お前はもう『笑っていいから』に出ろ!「では明日、来てくれるかな?」「いいから!いいからいいからタモリさん、このサングラスを8万円で買って?」とか言っとけ!

 このオバハンは、毎日のようにいます。新聞が売れないと売店を飛び出して営業を始め、高めの値段で売りつけてくることがあるのです。


 そして、最後。これは今回の記事に何度も登場している、大学生グループの1人が叫びました。マナーが悪すぎて僕はイライラしていたのですが、思わず、笑ってしまいました。

⑳「あかん、志田未来にガンシャしたくなってきた!」 20代・男性
 ええ加減にせいよ、お前!言っていい下ネタとあかん下ネタがあるぞ!

 「わかる!」

 「俺もわかるわ!」

 わかるか、そんなもん!ていうか、したくなったキッカケは何!?キッカケが気になるから教えろ!

 「ボクモワカル!」

 外人がおった!紛れて1人外人いやがった!

 「メッチャワカルワ!」

 お前、マザーは泣いてるぞ、今ごろ!せっかく日本に留学させたのに、パンケーキ焼きながら号泣してるぞ!

 むちゃくちゃなんですよ、この集団。下ネタ百戦錬磨の僕が引くほどに下品で、メンバーの1人が「俺はここ何週間で、ノリピーで5回以上シコったで!」と叫んだのです。

 人前で言うなよ、そんなこと!女性もおるんやぞ、ここ!

 「ボクモシコッタ!」

 お前、ファミリーごと泣いてるぞ、今ごろ!ジャパンに来て「シコッタ!」とか言ってる息子のために、泣きながらミサに通ってるぞ!

 このように、品性のかけらもないのです。

 ですが、正直、おもしろいです。なのでどこか腑に落ちないながらも、これを今回の殿堂入りとさせていただきます。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみに今週末に行われる、第43回スプリンターズステークス。

 うちの父親に予想を訊いたところ、こう答えました。

 「今回のスプリングステークスは難しいな!」

 しっかりしてくれ、父さん!!!