冥土の土産に大リーグ
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勝負・・・にはならないかもしれないね

冥土の土産に大リーグ


翌朝、オイラはばあちゃんと一緒にベアーズの

練習に参加することになった。

ちょっと曇り空で天気が悪いけど雨は降らな

そうだ。ばあちゃんはアメリカ合衆国の国旗の

デザインをした風呂敷に荷物を詰め込んでいる。


「ばあちゃん、すごくファンキーな風呂敷だね!」


むこうに行ってからばあちゃんの服装とか

趣味がずいぶんアメリカンな感じになった。


「さあ、行くか」


ばあちゃんは荷物を詰め込むとさっそうと

歩き始める。去年一緒に行った時がウソの

ような頼もしさだ。


「ばあちゃん、やっぱり今日も角やんと

勝負するの?」


練習場にむかうばあちゃんの目は

すごく堂々としていて、空を見上げて

いるような感じだ。まるでその先に

ばあちゃんの求める世界があるかのように。


「勝負・・・にはならないかもしれないね」


ばあちゃんはオイラの質問にこう答える。

勝負にならない?


「どういうこと?」


オイラは気になってまた質問したけど

ばあちゃんはそれに答えず再び

ばあちゃんの求める世界へと迷いなく

歩きはじめていた。


「今回は時間前に着いたね」


しばらくするといつもの練習場のある

土手が見えてくる。

集合時間の10分前には着きそうだな。


「さて・・」


ばあちゃんがボソッとそう言った瞬間

オイラの背筋がゾクッとした。

何かよく分からないオーラがばあちゃんの

体中から噴き出しているようだ。

一体この1年間で何があったんだろう?

私をベアーズに連れてって。

冥土の土産に大リーグ



「小太郎!」


右手に持っている銃の硝煙を口で

吹いて、ばあちゃんがオイラの名前を

勢いよく呼んだ。


「な、何だい?」


ばあちゃんは銃をオイラに渡すと

バットを振りはじめた。


「まだベアーズでやってるのかい?」


その話か。オイラ小学校6年に上がって

ついにベアーズでレギュラーになる

ことができたんだ。ばあちゃんが帰って

きたら自慢しようと思ってたんだけど・・。


「もしかして・・・」


オイラは胸がドキドキしてきた。


「ああ、行くよ。明日練習だろ?]


やっぱり。

1年前のあの悪夢がオイラの頭に甦る。


「ばあちゃん、もう勘弁してくれないかな。

みんなの練習もあるし、また同じことに

なったらオイラもう・・・」


するとばあちゃんはスイングをやめて

オイラに一通の手紙を差し出した。

・・・何だろう?


「これは?」


オイラはその手紙を受け取って

ばあちゃんに聞いた。


「読んでみるといいさね」


ばあちゃんは穏やかな目でオイラに

手紙を読むようにすすめる。

とりあえず読んでみよう。

どれどれ・・・


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小太郎くん


おばあちゃんをベアーズの練習に

連れていって欲しい。

今の彼女ならかなりいい勝負ができる

はずだ。これは僕の記録に誓って言うよ。

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何か子供が書いたような下手くそな字だな。

誰からだろう?


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イチローより

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ウソくさっ!

何でこんな手紙をイチローがオイラに

書くんだよ!意味が分からん。


「ところで・・・」


そこで母ちゃんがまたおそるおそる

ばあちゃんに話しかける。

銃をぶっ放されたばかりだというのに

チャレンジャーだな。


「おばあちゃんはどうやってむこうに

渡ったのですか?パスポートは持って

いなかったはずですが・・・」


・・・ん?

そういえば・・・。


「簡単さね」


ばあちゃんは、何だそんなことか

といった感じで答える。


「船さ」


・・・船?


「戦中の日本とは違って今はあちこちの

港から船が出てるからね。色々な荷物が

乗っている船に適当に乗ったのさ」


密航かよ!

ばあちゃんがどんどん犯罪者になって

いくなあ・・・。


「これが乗せてもらった船の船長さ。

いい男だろ?手土産ももらったぞ」


そう言うとばあちゃんはいかにも

海賊!っていう感じの船長と仲良さげに

映っている写真と、小さな袋に入った

白い粉をオイラに渡す。


「証拠写真・・・この・・白い粉は?」


すごく危ない香りのする粉だ。


「何でも極楽浄土にいける・・・」


「あ~っ!!いいっ!やっぱいいよ

ばあちゃん、聞きたくない」


この話をこれ以上聞いちゃいけない

オイラは直感的にそう思ったんだ。

銃刀法違反なんだけどな・・・。

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「ばあちゃん!」


オイラは思わず叫んだ。


「小太郎」


ばあちゃんは懐かしそうな目でオイラを

見て、部屋を見回した。


「荒れ果てたもんだねぇ・・・」


アンタがたった今荒らしたんだよ!


「ばあちゃん、どこ行ってたの?」


オイラはばあちゃんの格好が気になって

しょうがなかった。

ウエスタンのガンマンのような格好で

左手にはバット、右手には銃を持っている。

通報されたら間違いなくアウトだ。


「ダイリーグさ」


ばあちゃんはそう言うと、胸ポケット

から写真を何枚か取り出して

うずくまっている父ちゃんの方にむかって

ポイと投げた。


「おお!これは!」


父ちゃんは写真を見るとびっくりした様子だ。


「何、何!なにが映ってるの?」


おいらも気になって父ちゃんの持って

いる写真を横から覗いた。


「イッ・・イチローじゃん!」


写真を見るとサングラスをかけた

ばあちゃんとイチローが仲よさげに

映っている写真だった。


「こ、こっちはショーン・ケリー・・・

あとこれは・・誰だっけな・・・」


おいらが選手の名前を思い出そうと

しているとばあちゃんが誇らしげに答えた。


「ああ、デビッドかい?」


どんだけフレンドリーなんだよ!

しかしマリナーズの有名選手とこれだけ

親しげに写真を撮れるなんて・・・すごい。

おいらは思わず感心してしまった。


「ところで・・・」


そこへ母ちゃんがおそるおそる

ばあちゃんに尋ねる。


「記念写真を撮りにいかれたのですか?」


その質問を聞いた瞬間ばあちゃんの

銃が火を噴いた。


バン!バン!バン!


「ヒイッ・・・!」


母ちゃんの悲鳴と混じって銃声が部屋に

響き渡る。ちゃぶ台に風穴が3つ、泡盛も

割れて部屋の中はもうめちゃくちゃだ。


「バカなことを言うんじゃないよ」


というか銃刀法違反で通報しようかな・・。

母ちゃんと父ちゃんは完全に強盗に

入られた悲劇の夫婦のようだ。

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