こんなとこで着替えんなよっ!
ばあちゃんの手を引っ張りながら歩いて
いくとやっと河原が見えてきた。
「もう時間過ぎちゃってるなあ・・・」
オイラ一人だったら間にあったのに・・。
うわっ・・・監督が腕組んで仁王立ちで
待ってるぞ。
「遅ぇ~ぞ!小太郎!何やってんだ!!」
監督が200m位先からこっちに向かって
怒鳴ってくる。
「いやだなぁ・・・今日は機嫌悪いみたいだ。
頼むからばあちゃんおとなしくしててね・・」
Zzz・・・
Zzz・・・
Zzz・・・
って寝てんのかよっ!
「ばあちゃん!着いたよ!
ていうか歩きながらよく寝れるよね」
オイラもうあきれちゃったよ。
するとばあちゃんはハッと目を覚まして
監督に向かっていきなり走りだしたんだ。
「ば、ばあちゃん!」
走れるのかよっ!
ここまで引っ張ってきたオイラって一体・・。
とりあえず遅刻なんだしオイラも走らなきゃ。
「監督、スイマセンっ!」
仁王立ちしている監督の前に着いたオイラは
すぐに監督に謝った。でもばあちゃんは
監督をなめるように見て一言こう言ったんだ。
「ハルと申します」
このタイミングで自己紹介すんの!?
監督もちょっと引き気味だし。
「あ・・ああ、どうも」
するとばあちゃんは唐草模様の風呂敷を
広げていきなり着替えはじめたんだ。
「ばあちゃん、こんなところで着替えんなよ!」
何考えてんだよ!
「ん?練習じゃないのか?」
オイラの突っ込みの意味が通じてないや。
「小太郎、とりあえずロッカーまで連れて
いって一緒に着替えてこい」
監督の怒りはどっかいっちゃったみたいだ。
そこはラッキーだったな。
「分かりました!」
オイラはまたばあちゃんの手を引っ張って
ロッカーまで連れていくことになった。
戦時中はこんなもんじゃなかった
ばあちゃんは唐草模様の風呂敷に荷物を
いっぱい詰め込んでる。
「ばあちゃん、野球の練習するのに
そんなに荷物いらないよ」
何でそんなに着替えが必要なんだろう。
「小太郎や」
ばあちゃんは荷物をまとめる手を止めて
オイラの方をまっすぐ見ながらこう言った。
「戦時中はこんなもんじゃなかった」
何言ってんだよ!
「戦時中じゃないよばあちゃん!
これからベアーズの野球の練習に
行くだけだよ!」
ばあちゃんはオイラの声には反応せず
再びプルプルと震えながら荷物を
まとめ出した。
「ほら、もう遅刻しちゃうからオイラ
行くよ。ばあちゃんも行くんでしょ?」
ばあちゃんはゆっくりと頷く。
「次の試合に出れるかもしれない
大事な練習だから邪魔しないでね」
オイラはばあちゃんにそう釘をさして
一緒に家を出た。
ハア・・・
ハア・・・
ハア・・・
「・・・ばあちゃん大丈夫?」
家を出て50mのところでばあちゃんは
すでに息切れだ。だから荷物そんなに
いらないって言ったのに。
「ハア・・小太・・ハア・・郎・・や」
もうオイラの名前もよく聞こえないや。
「戦時中はこんなもんじゃなかった」
だから戦時中じゃないってば!
何でそれだけスラスラ言えるのさ!
とりあえずオイラはばあちゃんの手を
引っ張って、ベアーズの練習場が
ある河原へと向かっていったんだ。
世界に行けるって一体何なのさ!?
ス~・・・ハ~・・・
ス~・・・ハ~・・・
や、やっぱりばあちゃんの呼吸が変だ!
なでしこジャパンの活躍を観てから
ばあちゃんがおかしくなっちゃたぞ!?
「ばあちゃん、何言ってるんだよ?」
ばあちゃんは相変わらずフルフル震えて
いた。でもいつもの震えとちょっと違う。
何か武者震いしてる感じだぞ。
「小太郎」
ばあちゃんはまたオイラの名前を呼んだ。
「何?」
オイラはばあちゃんが何を言い出すのか
もう気が気じゃなかった。
「ワシらも世界にいけるじゃろうか?」
さっき聞いたよ!
「それはさっきも聞いたよばあちゃん!
一体世界って何なのさ!」
するとばあちゃんは突然バットの素振りを
するような動作を始めた。
「王さ~ん、王さ~ん」
一本足打法かよ!
「ばあちゃん、何してんの!?」
ダメだ。ばあちゃんにオイラの声が届いて
ないや。ボケちゃったんだな、きっと。
「小太郎や」
今度は何?
「お前明日野球チームの練習があるだろ?」
そうだ。オイラ毎週日曜にベアーズの
練習があるんだ。
「勿論だよ、ばあちゃん」
オイラはまだ補欠だけど、次の試合には
出してもらえそうだから頑張るんだ。
「ワシもいくぞ」
ハァ!?
「何言ってるの!?ばあちゃん来ても
しょうがないよ!?」
また素振りをはじめた。
「イチローや、イチローや」
今度は振り子打法かよ!?
オイラの名前を呼ぶような感じで
振るのやめてくれないかな・・・。
結局次の日、ばあちゃんはオイラと一緒に
ベアーズの練習に来ることになった。
