冥土の土産に大リーグ -4ページ目

拝啓、ベーブルース殿。

冥土の土産に大リーグ


「ツノやん、ごめん。ちょっとだけ投げて

もらっていい?」


オイラがそう言うと、ツノやんはロジンを

手にとって頷いた。


「手加減無しでいいの?」


いや・・・それは・・・。


「勿論じゃ!」


オイラが返事に困った一瞬のスキをついて

ばあちゃんがツノやんに宣戦布告した。


「ばあちゃん、頼むからおとなしくしてて

くれよ・・・って何?その格好は?」


ばあちゃんはバッターボックスに立って

バットを天に向けている。


「拝啓、ベーブルース殿」


ホームラン予告かよ!


「無理だよばあちゃん!

余計なことしなくていいから!」


スパン!!


その瞬間ばあちゃんの目の前に鋭い

直球が投げ込まれた。


「忙しいからさ、3球ね」


おお、ツノやんちょっとホームラン予告に

カチンときてるぞ。


「あと2球」


ツノやんが更に投げようとするところで

ばあちゃんは手を挙げた。


「ファール!」


・・・ファール?

一瞬オイラとツノやんの時が止まる。


「ばあちゃん、ファールって何?

もしかしてタイムのこと?」


ばあちゃんはオイラの質問を完全に

スルーして繰り返す。


「ファール!」


だからファールって何なんだよ!


「こ、小太郎や・・」


ばあちゃんの様子が少し変だ!?


「どうしたの!?」


ばあちゃんはベンチにある風呂敷包みを

指さしてこういった。


「薬の時間じゃ」


スパン!!


オイラが呆れているその瞬間、再び

ツノやんの速球がミットに投げ込まれた。


「あと1球」

だから戦時中じゃないっちゅうの!

冥土の土産に大リーグ


ばあちゃんはバットを持ち出すと悠然と

バッターボックスへとむかっていった。


「ばあちゃん!何してんの!」


ちょうどピッチャーが投球練習をしている

ところでばあちゃんは深呼吸をして構えた。


「何だ?あの構え?」


ピッチャーのツノやんもびっくりだ。

ばあちゃんの構えは全然野球じゃない。

何ていうか・・・るろ剣に出てくる斎藤の

牙突みたいな構えだ。


「きなさい」


いや、打てないだろ!


「ばあちゃん、そんな構えで打てる

わけないじゃん!」


ばあちゃんが不思議そうな顔でこっちを見る。


「竹やりと同じじゃないのかえ?」


だから戦時中じゃないっちゅうの!

こいつで戦うのですな?

冥土の土産に大リーグ


着替えを済ませたばあちゃんとオイラは

練習に入る前の準備運動をすることにした。


「ばあちゃん普段運動してないんだから

しっかり準備運動しないとケガするよ」


ばあちゃんは静かにうなずくと軽快に

体操を始めた。


「おっ、結構動きが軽いんだね」


オイラはちょっとビックリしてその様子を

眺めていた。


バキ・・


バキバキ・・・


ボキボキボキ・・・!



!!?


「ちょ、ちょっとばあちゃん!体の中から

変な音がしてるよ!」


ばあちゃんの顔色がどんどん青白く

なっていく。


「ヤメヤメ!やっぱ無理だよばあちゃん。

準備運動ですでにグロッキーじゃん!」


ばあちゃんはオイラの方をキッと睨んだ。


「小太郎や」


何て鋭い目なんだろう。


「骨までいってないから大丈夫」


そういう問題かよっ!


「準備運動で骨までいかれたら

たまんないよ!頼むから今日は

大人しく見ててよ」


オイラはばあちゃんをベンチまで

連れていって座らせた。とにかく

今日はここで大人しく見学させとこう。


「小太郎、もう準備はいいのか?」


そこへ監督がやってきた。


「バッチリです!」


ってオイラが言おうとしたら

ばあちゃんに先に言われたしっ!


「ばあちゃん、頼むから大人しくしてて

くれってば!」


オイラの声は全く届いていない。

ばあちゃんはバットを持ち出して

監督にこう言った。


「こいつで戦うのですな?」


武器じゃないってば!