今日はばあちゃんの誕生日だ。
ばあちゃんが大リーグへいってくるといって
あれから1年が経った・・・
オイラはもう小学校6年に上がった。
今日でばあちゃんも81歳を迎えたはずだ。
そう、今日はばあちゃんの誕生日。
「おばあちゃん帰ってこないわね~」
ちゃぶ台を囲みながら家族で晩御飯を
食べている中、母ちゃんが心配そうに
そう言った。
「というかどこへ行ったんだ?」
父ちゃんが今さらな質問をしてくる。
1年経って、その質問はないだろ!
「さあ・・・」
かあちゃんもかよ!
オイラはちょっと腹が立ってきた。
みんなばあちゃんに無関心すぎだ!
「ばあちゃんは、大リーグに行ったんだよ!」
母ちゃんと父ちゃんはタクアンを
ポリポリ食べながらオイラの様子を
観察していた。何て目でオイラを見るんだ。
「大リーグって・・・ねえ?」
母ちゃんが呆れた様子で父ちゃんに
同意を求める。
「何だ、アメリカにでも行ったのか?」
う・・・それは・・・分からない。というか
自分で言っておいて何だけど、大リーグへ
行くっていうのはどういう意味なんだろう?
「さあさ、そんな湿っぽいお話はとりあえず
置いておいて、おばあちゃんの誕生日
祝いでもしましょうな」
そう言って母ちゃんは食卓に刺身の
盛り合わせと泡盛をデン!と置いた。
「おお、そうだな」
こ、この酒飲み家族が・・・。
ただ酒を飲む口実があればいいだけじゃないか。
大体これで2人が飲みつぶれてオイラが
片付けとかしなくちゃならなくなるんだ。
「いつかグレてやる・・」
オイラがボソっと言うと、父ちゃんが反応した。
「おお~・・・グレろグレろ。父ひゃんも
応援しちゃるからりょ~・・・」
もう酔っぱらってるのかよ!
父ちゃんはグデングデンだ。
面倒くさいな~・・・オイラがそんなことを
思っていると突然玄関からもの凄い
音が聞こえてきた。
ガシャーーーン!!
!?
な、何だ何だ!?
ガラスが割れるような音が聞こえてきたぞ!?
「父ちゃん、母ちゃん!」
zzz・・・
ZZZ・・・
ZZZ・・・・
寝るなよ!
酔い潰れるの早すぎだろ!
・・・と思ったら2人ともまだ起きてる。
「こ、小太郎・・・ちょっと様子見てきて」
死んだフリかよ!
父ちゃんはおびえた様子でオイラに
そう言った。そこは父ちゃんの役目だと
思うんだけどなぁ・・・。
「えぇ~・・・やだよ・・・怖いし・・」
オイラがそう言うと父ちゃんはポケット
から千円札を出した。
「ホラ、これで・・」
息子を買収すんなよ!
最低の親だな。
その時、玄関から聞いたことのある声が
どんどん近付いてきた。
「ハ~ッピバースデー、トゥ~ミ~♪」
・・・ん?
「ハ~ッピバースデー、ディア~♪」
ばあちゃんだ!
ガシャーーン!
バットでばあちゃんが居間のガラス戸を大破!
「小太郎~♪」
うわ~・・ばあちゃん懐かしいな~・・・。
てかほとんど強盗だろ~・・・これじゃあ。
「ハ~ッピバースデー、トゥ~ミ~♪」
パン!パン!パン!
歌い終わるとばあちゃんはクラッカーの
代わりに銃で天井を打ちぬいた。
・・・銃?
「小太郎、久しぶり」
ばあちゃんは格好よくポーズを決めてる。
でも、突っ込みドコロ満載だ。
ダイリーグへ行ってみる!?
「・・・ろう・・小太郎や・・・」
ん・・・
目を覚ますとオイラは家の布団で寝ていた。
すぐ横ではばあちゃんが心配そうにオイラの
様子を見ている。
「おお、目を覚ましたか」
イテテ・・・後頭部がすごくズキズキする。
「オイラ、ばあちゃんにローリングソバット
されたような・・・」
少し記憶が混乱してる。
ばあちゃんがびっくりした様子で答えた。
「何を言ってるんだい!私がローリング
ソバットなんて出来るわけないじゃないか」
じゃあその足にペタペタ沢山貼ってある
シップは何なのさ!
「ばあちゃん、ひどいよ!」
オイラ段々意識がはっきりしてきたぞ。
「間違いないよ!オイラ覚えてるもん!
河原でばあちゃんオイラに思いっきり
ローリングソバットしたのを!」
ばあちゃんはフッ、とオイラから目を
そらすとこう言った。
「ばれちゃしょうがないね・・」
何だそりゃ!!
「小太郎や、私監督にダイリーグと
いう場所を教えてもらったんだけどね」
何の話をしてるんだろう・・・
「とりあえず行くことにしてみたよ!」
ハァ?
オイラばあちゃんの話の展開に全く
ついていけない。
「何言ってるか分からない・・イテテ・・
さっぱりだよ、ばあちゃん」
ばあちゃんはオイラの話には耳を
傾けず、唐草模様の風呂敷を背負って
出かけようとする。
「ちょ、ちょ、ちょ・・!どこ行くの?」
今から出掛けるの?
「どこって・・・決まってるじゃないのさ!
ダイリーグだよ!」
ばあちゃんダイリーグを場所か何かと
勘違いしてるんじゃ・・・。
もはやオイラにばあちゃんを止めることは
できそうになかった。
夢にときめけないし、明日にもきらめけません。
オイラはツノやんに肩を貸してもらいながら
監督のところまで連れていってもらった。
「小太郎、その痛み忘れるんじゃないぞ」
監督はやっぱりハラハラ涙を流してる。
というか殴られた意味が分からない。
訴えたら勝てるんじゃないかな。
「監督、オイラは何で殴られたんですか?」
ちょっと納得いかない。
「小太郎、お前はハルさんの気持ちが
分からないと言ったな」
うん、言った。
「お前は何のために野球をやっている?」
えっ?
監督の予想外の質問にオイラは一瞬
戸惑った。
「そりゃ・・・みんなで楽しくやるため・・・
じゃないんですか?」
バン!!
そこで監督は再びバットを地面に
激しく叩きつける。
「違う!!」
違うの?
「そんな中途半端曖昧な気持ちで
野球を楽しめるか!」
何でオイラこんなに怒られてるんだろう?
「小太郎よ・・・」
もう、何でもいいや・・・。
「夢にときめけ!明日にきらめけだ!」
川籐じゃん!
監督ただの痛い人になっちゃったよ。
もうオイラはうんざりしてきたから
殴られるの覚悟で監督に思わず言って
しまったんだ。
「監督・・・少年野球でそれは・・無いっす」
その瞬間グランドの空気が凍りついた。
ツノやんが驚いた目でこっちを見てる。
お前、言っちゃったの?って目だ。
ハイハイ、言っちゃいましたよ。
もう殴るなり蹴るなり好きにしてくれよ。
「小太郎!」
バチコーーーーン!
オイラは後頭部に強い衝撃を受けて
再び土手の方までゴロゴロ転がって
いった。飛んできたのは監督の拳ではなく
何とばあちゃんのローリングソバットだ。
「ふぉ~~・・」
トン
トン
トン
ばあちゃんは見事な着地をすると
ブルースリーのような足さばきを見せた。
その運動神経あれば打てたんじゃ・・
オイラは薄れゆく意識の中でそんな
ことを思った。
