"When you tell authorities 'you're wrong,' you stay within a model of respect that doesn't frighten them. When you say 'you've lost your fucking minds,' it means questioning their very legitimacy. And that scares them."
(Oleksandr Rachev, strategist)
(訳)「当局に『あなたは間違っている』と言う時は、彼らを怖がらせない程度の敬意の範疇に留まる。『正気を失っている』と言う時は、彼らの正当性そのものを疑うことになる。そして、それが彼らを怖がらせるのだ」
(オレクサンデル・ラチェフ、戦略家)
ウクライナで汚職撲滅委員会(NABU)に国家保安庁(SBU)の強制捜査の手が入り、ラーダでNABUの独立性を剥奪する法案が可決され、ゼレンスキーが署名したことでウクライナ国民の反感が高まり、ドローン攻撃の中、各都市でおよそ1万人がデモに繰り出したことで、この問題はウクライナのEU加盟にも影響を及ぼしている。
独立行政委員会の廃止はどこの誰が見ても民主制に対する暴挙で、西側ではキーウ政権に対する疑惑が持ち上がっている。ウクライナ国民の敵は第一はロシア軍、第二は自国の政権という言葉も出ているくらいだ。反感の大きさを見て、ゼレンスキーは直ちに修正法案を出し、独立性については担保を国民に約束した。
ウクライナには5つほどの腐敗監視のオンブズマン的組織があり、独立行政委員会はNABUを含む2つであり、戦時下のウクライナで最後に残った委員会であったことも反感の強さに繋がったようだ。早急な廃止には独立機関の捜査が大統領周辺に及んでいたためという噂もある。ウクライナは旧ソ連の影響で官僚制に対する不信感が根強く、その点で活動の実態はともかく、NABUの検察庁下部組織化には強い拒否感があったものと思われる。
The slogan "I need a system that works for me" would be fine for intellectuals. But "Why the fuck do I need a system that works against me?" reaches ordinary people's minds. "Because that's exactly how they talk."
「自分に都合の良いシステムが必要だ」というスローガンは知識人には有効だろう。しかし、「一体なぜ自分に都合の悪いシステムが必要なんだ?」という問いは、一般人の心に響く。「だって、彼らはまさにそう言うから」
(ラチェフ、上掲)
ほか、背景にはトランプ政権による支援の後退を挙げるものもある。独立行政委員会は元々アメリカ発祥の組織で、そのためNABUもバイデン政権の強い後援を受けていた。が、次のトランプ政権はウクライナの法の支配に興味がなく、軍事援助を含む支援を早々に切り上げた、その間隙を突いて政権側が反撃に出たという説である。
一連の話を聞いて首を傾げるのは、いわゆるゼレンスキーと彼の政権というのは与党の名前が「国民の僕(スルハ・ナロード)」であることもあるように、いわば庶民の代表であり、いくら戦時下とはいえ、こういう非民主的な政策を率先して進める政権には見えなかったことがある。
つい先日公開されたゼレンスキーの資産内容では、大統領一家の昨年の年収は5千万円ほどだが、不動産の売却益がなければ3千万円ほどであり、多くは売れっ子脚本家である細君(オレーナ・ゼレンシカ)の収入で、あとは保有するテナントの賃料収入である。車は本人と妻で二台を保有しているが、ベンツとレンジローバーではあるものの、12年落ちと10年落ちの旧々型である。ロレックスの時計は保有しているが、俳優時代に購入したもので、政治家時代には大きな資産形成はなく、むしろつましい暮らしをしている。大統領としての報酬は年俸800万円ほどである。
イェルマークなど彼の閣僚も似たようなものであり、ゼレンスキー政権の閣僚は先に辞めたクレバやレズニコフも含め、芸能界や学会で成功した収入はあっても、極端な金持ちは一人もいない。前国防大臣のウメロフがたぶんいちばん金持ちだが、オリガルヒと肩を並べるほどではない。
こういう連中がアメリカの隙を狙って汚職捜査部門を攻撃、というのは考えにくいし、捜査されて困るほどの利権があるとも思えない。ゼレンスキーについては隠し資産の報道が幾度となくされているが、多くはフェイクで、石油会社やチョコレート会社との癒着もロシアが血眼で探している割にはなさそうなのである。
ただ、報じられている内容が全てではないかもしれない。例えばプーチンは公式には彼よりよほど少ない年収(年俸1,600万円ほど)だが、比べ物にならないほどの資産を実質的に保有している。公的には、確か彼の資産はモスクワ市のマンション2区画だけである。
This difference reveals an ironic truth: Western youth don’t know how good they have it. They’ve never lived without independent courts, free press, or anti-corruption agencies. They can afford to attack these institutions because they’ve never experienced their absence.
(Alya Shandra, journalist)
(訳)欧米の若者運動との対照は、これ以上ないほど鮮明だ。アメリカやヨーロッパの若者は、しばしば民主主義制度そのものを標的とし、救いようのないほど腐敗していると見なす制度の打破を要求する。一方、ウクライナのZ世代は、権威主義に支配されないように民主主義制度を守り、強化するために闘っている。
(アリア・シャンドラ、ジャーナリスト)
制度的に見るならば、独立捜査機関の権限が検事総長の直轄になったとしても、それだけで組織の独立性が損なわれるわけではない。こと西側諸国の基準では検察官は各々独立しており、検事総長も進行している捜査を直接指揮できるわけではない。政権は検事総長を解任することで好ましくない捜査に対する政権の意向を示す。検察庁は行政機関であるが、準司法機関でもあり、それ以上の介入は許容されていない。
こういうものであれば、ゼレンスキーが懸念を示すライエンほかEU代表に説明して同意を得たように、検察庁の下部組織でも独立性は維持できるように見えるが、現に西側諸国では同種の捜査は通常の捜査機関が行っているが、ウクライナの場合は裁判官も二千人の不足が言われているように法曹教育が不十分で、キエフ経済大学法学科を卒業したゼレンスキーもイェルマークも卒業したことで弁護士の資格を持っているが、司法制度の精密な運営というものがこの程度の教育ではできないことも明らかなことである。「国民の僕」では、腐敗した裁判官に代わって神父が判事に任命されていた。法科卒のゼレンスキーでもその程度の認識なのである。
When Ukrainian Gen Z hit the streets to defend anti-corruption agencies, they turned protest signs into an art form. Armed with cardboard, markers, and three years of war-induced gray hair, they created what might be the most literate protest movement in recent memory.
These weren’t your typical angry slogans. Protesters quoted Taras Shevchenko alongside modern poets, mixed classical Ukrainian literature with creative profanity, and crafted messages that read like Twitter threads gone beautifully offline. “Do cattle low when NABU is whole?” riffed on 19th-century novels. “Nations don’t die of heart attacks—first their NABU and SAPO are taken away” played with national poetry. And yes, plenty of signs just said “fuck” in various creative arrangements.
(Christine Chraibi, translator)
(訳)
ウクライナのZ世代が反汚職機関を擁護するために街頭に繰り出した時、彼らは抗議のプラカードを芸術の域にまで高めた。段ボール、マーカー、そして3年間の戦争で白髪になった髪を武器に、彼らは近年で最もリテラシーの高い抗議運動を繰り広げたと言えるだろう。
これらは典型的な怒りのスローガンとは一線を画した。抗議者たちはタラス・シェフチェンコの詩や現代詩を引用し、ウクライナ古典文学と独創的な冒涜表現を織り交ぜ、まるでTwitterのスレッドがオフラインになったかのようなメッセージを作り上げた。「NABUが完全だと牛は死ぬのか?」は19世紀の小説を翻案した。「国家は心臓発作で死ぬのではない。まずNABUとSAPOが奪われるのだ」は民族詩を翻案した。そしてもちろん、多くのプラカードには様々な独創的なアレンジで「ファック」とだけ書かれていた。
(クリスティン・クライビ、翻訳家)
ウクライナから少し距離を措くと、この事件は同時期に提訴されたカルロス・ゴーンとダチ文科相の贈収賄事件と併せて、ロシアによるハイブリッド攻撃の一環と見ることもできる。抗議運動自体は本物だが、便乗して政権打倒を叫ぶロシア工作員の存在が確認されている。
実を言うとNABUの実績は芳しくなく、10年間の活動で訴追された高官が数人しかいないなど、職員個人のロシアとの繋がりや、組織の無能についてはかねてから言われていた。ゼレンスキーの措置はたぶん大筋では正しいが、ウクライナ国民の官僚不信の根深さを見誤ったことにミスがあった。
なお、上に挙げたダチ文科相というのは元欧州議会議員で、現大統領のマクロンの懐刀で、来年のパリ市長選に立候補が予定されている人物である。ロシア・中東に強く、ゴーンのアフトバス買収でも、プーチンの別荘(ダーチャ)に前大統領のサルゴジと共に個人的に招かれるなど存在感を示した。
金に汚いことでも有名で、ルノーやアゼルバイジャンの石油会社を巡る収賄につき、黒い噂の絶えない人物でもある。なぜマクロンがこの人物を重用しているかについては、政権内でも疑問の声がある。一説にはラシダ・ダティ(文科相の本名)はマクロンの妻ブリジットのお気に入りで、それで数々のスキャンダルから護られてきたとも言われている。起訴した予審判事を彼女は攻撃し、大統領府も擁護したために、司法の中立につきパリ刑事裁判所長官が異例の声明を出す事態に発展している。
なお、ゴーンがラシダとの折衝に用いたのはRNBVのムナ・セペリというイラン人の女性弁護士である。当時の彼はロシア・中東をルノー・日産のブルーオーシャンとみなしていた。実はゴーン事件を調べると、日本から現在のウクライナ・ロシアについていろいろ分かることがある。
そしてこういった人物につき、ロシアが弱点を周到に調べ上げていることも、いつものことである。そもそもゴーン事件さえ、ウクライナ侵略との絡みで眺めるならば、また違った像が見えてくる事件でもある。
But more often, cyber operations are part of a strategy of Russia’s hybrid war, in which Russia aims to alter the decision-making processes of its adversary. A cyberattack targeting infrastructure is unlikely to cause significant permanent damage, but it will definitely spread panic among the government among the general population, who start feeling insecure, start protesting, being afraid, and blame the government. And that is exactly the goal of such an attack.
(Shandra, above)
(訳)しかし、多くの場合、サイバー作戦はロシアのハイブリッド戦戦略の一部であり、ロシアは敵の意思決定プロセスの変更を目指しています。インフラを標的としたサイバー攻撃が重大な恒久的な被害をもたらす可能性は低いですが、 政府や一般市民の間でパニックが広がることは間違いありません。人々は不安を感じ、抗議活動を始め、恐怖に駆られ、政府を非難するようになります。そして、まさにそれが、このような攻撃の目的なのです。
(シャンドラ、上掲)