『恐怖の岬』を観ました。
弁護士サムは、8年の刑期を終えて出所したケイディと再会する。
サムの証言により刑務所に送られたケイディは今もなお強い恨みを抱き、その日からサムの行く先々に姿を現すようになる。ケイディの嫌がらせに頭を抱えるサムだが、付きまとうだけで実質的な罪を犯していないケイディには警察も手を出せない。
しかし、自分のみならず妻子にまで危険が及び始めている事を知ったサムは、警察の友人や私立探偵の協力を得て、ケープ・フィアー川にあるボートハウスにケイディを誘い出すが……といったお話。
要約すると、自分が刑務所に送った男に狙われる弁護士の話です。
今でこそストーカーという犯罪が周知されるようになりましたが、本作に登場するケイディというキャラはその先駆けとも言える存在です。
しかしケイディの言い分も分からなくはなく、自分を刑務所に送ったサムへの深い恨みが犯行の原因、つまりは復讐です。法律上の善悪はさておき、本人にとっては自分こそが正しいと思い込むものですからね。
これは現実に置き換えると少々ゾッとする話で、犯行現場の目撃者となった人は見た事をありのまま証言をするものですが、そこから犯人に罰が下って刑期を終えた時、その犯人は証人に対し何を思うだろう?と。
ハッキリ言わずとも、刑務所に入った人の全てが真人間になって出所するとは思いません。中にはケイディのように証人への恨みが消えぬまま出所の時を迎える人もいるかもしれませんしね。
本作を大真面目に観た人は、大ハシャぎで陪審員をやりたがる気にはならないと思います。
そんな本作の悪役であるマックス・ケイディ。
1962年の作品である事を鑑みると、世に出るには少し早かったキャラに思えます。映画史上のヤベー犯罪者ランキングにも、割と上位にランクインできる実力(?)を秘めているんじゃないかと。
自分を刑務所に送ったサムを恨み、復讐を目論むのはまぁ自然な発想です。
シャバに出てサムを捜し出して袋叩きに合わせようとする……というのは凡作の発想ですが、収監中のケイディは法律を勉強し、ソッコー刑務所に逆戻りになる暴力沙汰は起こさず、自分が抱いている感情を伝えた上でサムの行く先々で姿を見せるだけに留めます。その行く先々というのも、念入りに調査する周到さがあってのもの。
サムに与えるのはあくまで精神的苦痛に留め、ストレスを限界突破させようとする知能犯になったあたりに、サムに対する深い執念を感じさせます。もちろん、とどめは自分の手で下そうとしていたでしょうが…。
ケイディは性犯罪者ってのが根っこにありますが、あまりにも見境がないのがコワい。
すれ違った女性を目で追いかける冒頭から、女に目がない様子が随所で描かれます。
女に目がないと言っても鼻の下を伸ばす程度のものではなく、目的はあくまで婦女暴行。アメリカ(映画)における婦女暴行とは下半身がムズムズする程度に留まらない、殴る蹴るといった文字通りの暴行も含みますから…。
まずはバーで引っ掛けた売春婦崩れの女、そしてサムの妻であるペギーも標的にされますが、それどころか娘のナンシー(小中学生くらい!)にまで手を伸ばそうとするんだから寒気すら感じます。
クライマックスでは川を泳ぐためだからか、目的地に辿り着いた後の事を考えているのか、上裸になるのも変態的すぎて…!
これは軽く捉えがちなシーンですが、ケイディが娘=ナンシーを狙っている事を知った妻=ペギーに、サムは、もしナンシーが襲われたらケイディを告訴するかと問います。もちろんペギーの答えはYES。
しかし、ケイディには告訴されないという確信がある、何故なら……というサムの推察は言葉だけでも十分な説得力があります(説明に詰まるのが生々しい)。想像の範疇ながら胸クソ悪くなるので、現実にならなくて良かったよ…。
そんなケイディを演じるのはロバート・ミッチャムさん。
ミッチャムさんと言えば、個人的フェイバリットムービーである『眼下の敵』のマレル艦長を始めとする健全な紳士というイメージが強いんですが、ところどころでまともな姿を見せるものの、その正体は身の毛もよだつ変態野郎という新境地を見せてくれます。
逆に、主人公サムを演じるグレゴリー・ペックさんはイメージ通りの正義の人を演じているので、こちらには安心感しかありません(笑)。
ちなみに本作の監督はJ・リー・トンプソンさんという事で、こちらも俺ッチのフェイバリットムービー『ナバロンの要塞』を連想させます。
後年、本作は『ケープ・フィアー』という作品としてリメイクされます。
どちらを先に見るべきか?とは言いませんが、映画を愛する人なら基本的には公開された順、話題作をよく見るような人は自分が生まれた年に近い方を見とけば良いと思います。
余分な肉付けをせざるを得ないリメイク版に比べると、オリジナル版=本作の方はシンプルでお話も伝わりやすいと思います。
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Blu-ray版は吹替版を収録しているくらいで、映像特典は何もないドケチ仕様です。
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