女が三人寄れば、かしましい ――

 

アラサー仲良し三人組のランチタイムは、

 

きょうも職場のウワサ話で盛り上がっています。

 

 

 

 

「こんどの人事、A課長が部長に昇進するって」

 

「やっぱりね。あの人 “人たらし” だから」

 

「あら、でも私、Aさんのこと好きよ」

 

「私も。“人たらし”って言われるのはわかるけど、

 

 悪い印象は全然ないし…」

 

「そうね。普段の話し方も、とっても気づかいが

 

 あるし…。美容院行った次の日なんか必ず声を

 

 かけてくれて、こないだなんか『髪切ったの?

 

 前も良かったけど、ショートも似合うね』って。

 

 ホメ方が上手なのよ」

 

「ああ、それってB男と大違い。あいつなんか、

 

『髪切ったんだ。またフラれたのか』って。

 

 必ず余分な一言あるんだよね。

 

 ああいうデリカシーのない奴、大っ嫌い」

 

「Aさんは感じの悪い言い方、絶対しない

 

 男性の受けだって全然いいし…」

 

「そう、C男が言ってた。前に失敗したとき、

 

 あの周年プロジェクト。あのとき最後まで

 

 かばってくれたのはA課長だけだったって」

 

「知ってる。D部長だって賛成してたのに。

 

 でも最後は “手のひら返し” だったよね。

 

 責任を部下に押し付けるなんてサイテー。

 

 あんな奴、地獄に落ちるわ」

 

「その点、Aさんはスゴイよね。あのときも

 

 C男を、周りにホメまくってた

 

『C男はスゴイ。あの発想を膨らませるのが

 

 上司の仕事なんだ』って」

 

「それもできずに責任だけ押しつけるのって

 

 もうサイテー

 

「C男も言ってた。何が嬉しかったかって、

 

 Aさんが自分のことホメてたって、あとで

 

 いろんな人から聞いたこと。やっぱり直接

 

 ホメられるのも嬉しいけど、周りから聞く

 

 のってチョー嬉しいよね

 

「ちょっとあんた、A課長にゾッコンじゃない。

 

 ダメよ、不倫は」

 

「ないない。顔面偏差値、低すぎる(笑)」

 

「ひっどーい!」

 

「Aさんは男としてっていうより、人として

 

 尊敬できるってこと。女にだけ人気がある

 

 のは “女たらし” なんだから」

 

「あんた、早く食べなさいよ。もう時間よ。

 

 もう、しゃべってばっかりなんだから…」

 

「あんたもよ(笑)」

 

 

 

 浅沼道郎の本

 

 

<ゆっくり話すだけで、もっと伝わる! アナウンサーが教える7つの技 | 浅沼道郎 |本 | 通販 | Amazon

 

 

*今際(いまわ)の言葉 臨終の最期の言葉のこと

 

 

A男さんは85歳。自分の死期を悟って

 

枕もとに家族を呼んだ。

 

 

 

 

 

(ああ、幸せな人生だった)――

 

そう心の中でつぶやきながら、

 

二人の孫に伝えたいことがあった。

 

 

 

*****************

 

 

 

高2のB男君と中3のC子さんは、

 

小さい頃からおじいちゃん子。

 

早くも目を赤く泣きはらしている。

 

 

 

「おお、来てくれたか。ありがとう」

 

土気色(つちけいろ)の顔に懸命に笑みを

 

浮かべようとするが、顔はこわばる。


 

 

孫たちからは言葉がない。

 

うつむいたまま、ただ肩をふるわせている。

 

息も絶え絶え、A男さんは息苦しいなか、

 

なんとか声を絞り出した。

 

 

 

「二人の幸せを祈っているよ。困ったときは

 

 じいじのことを3回呼んで、祈りごとを

 

 心の中で唱えてごらん。必ず力になるから」

 

 

 

年長のB男君が答える。

 

 

 

「そんなことはいいから、死んじゃイヤだよ。

 

 お願いだから、死なないで。ねぇ頑張って」

 

「ハハハ、もういいよ。じいじは…じいじは

 

 もう頑張れない…。これまでずーっと、

 

 頑張ってきたんだから…」

 

「お願いだから、そんなこと言わないで」

 

「B男、いいか、おまえは男の子なんだから、

 

 これからはパパやママを支えて、しっかり

 

 家を守るんだぞ。いいか、頼んだぞ」

 

「じいじ、そんなこと言われても……

 

 いまの時代、男も女も関係ねえし

 

「・・・・・・」

 

 

 

これはいかん、と気づいたA男さん、

 

次に、C子さんに語りかけた。

 

 

 

「C子、じいじの最期の願いを聞いてくれ」

 

「うん、何でも言って」

 

「いいか、これだけは言っておくぞ。将来、

 

 お前が結婚して家を出ても、いつまでも

 

 家族は家族。パパとママのことを大切に

 

 するんだよ」

 

「じいじ、そんなこと言われても……

 

 あたし、結婚なんて考えたことないし…」

 

「(ゴホ、ゴホッ)ど、どうして?」

 

「だって結婚なんて人生最大のリスク

 

 だと思うんだよね」

 

「リ、リスが、どうしたって?」

 

「リスじゃなくて、リスク。危険だってこと」

 

「じゃあ、せ、せ、生活はどうするんだ?」

 

「働く。お金のためじゃなく生きがいのために」

 

「生きがいって…子どもはどうするんだ?」

 

「うーん、子どもはいらないっかな…。

 

 子育ての環境は悪くなるばっかりだし…」

 

「・・・・・・」

 

「ねえ、じいじ、聞いてるの?」

 

「・・・・・・」

 

「ねえ、しっかりして。じいじ、死なないで」

 

「・・・・・・」

 

 

 

意識が遠のくなかで、A男さんは思った。

 

(まったく、いまどきの若いもんは…。

 

 うーん、このままでは

 死にきれない……)

 

 

浅沼道郎の本

極上の言葉に涙する夜があってもいいじゃないか | みらいパブリッシング⁤ (miraipub.jp)

 

 

 

<

     名古屋外国語大学(愛知・日進市)

 

 

きょうは名古屋外国語大学・特別講義の担当でした。

 

 

 

 

 

講義タイトルは――

 

「話すチカラは生きるチカラ」

 

 

 

 

 

 

学生たちにとっては随分、大げさなタイトルに

 

聞こえたかもしれません。

 

 

 

 

でも、長年「話し方」に関わってきた私の、

 

これが結論です。

 

 

 

 

「話し方」は「生き方」を表します。

 

ですから「話し方」を学ぶことは、自分の

 

「生き方」を見つめ直すことでもあります。

 

 

 

 

前向きで明るい「話し方」を身につければ

 

楽しい人生を送ることができます。

 

 

 

 

逆に、後ろ向きの「話し方」ばかりして、

 

何でも他人のせいにしていたら、結局

 

惨めな人生を送ることになってしまいます。

 

 

 

 

若い人たちには、ぜひ自分の「話し方」を

 

見つめ直してほしいと話しました。

 

自分の「話し方」にを込めてほしいと。

 

 

 

 

それは、きっと自分の「生き方」に

 

を込めることにつながるから…。

 

 

 

 

若い人たちと触れ合えるのは楽しい。

 

真剣にメモをとりながら、講義に

 

耳をかたむけてくれる学生たち。

 

彼らの未来が平和で安定した社会で

 

ありますように……願うばかりです。

 

 

 

<

NHKのニュースで、画面の右上に

 

こんな文字が表示されていました。

 

 

 

「AI自動音声で 

 お伝えしています」

 

 

 

この表示がなければ、

 

イントネーション、滑舌、間(ま)など

 

人間のアナウンサーが読んでいると

 

誰もが信じてしまう完成度です。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで気になるのは、このままでは将来、

 

人間アナウンサーは必要なくなるのか?

 

という率直な疑問です。

 

 

 

 

びっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくり

 

 

 

 

以下、ある日の人間アナとAIアナの会話です。

 

 

 

「AIさんの活躍はめざましいね。スゴイよ」

 

 

「ありがとう。君からそう言ってもらえると

 

 とっても嬉しい。そもそも君たちのために

 

 ボクらは生まれてきたんだから」

 

 

「え、どういうこと?」

 

 

「だって、君たちは本当に忙しすぎるだろ。

 

 24時間体制でニュースのスタンバイなんて

 

 人間のすることじゃない。ボクらだったら

 

 早朝も深夜もまったく関係ない。だから

 

 体調をくずして急に休むなんてこともない」

 

 

「ああ、それはありがたいけど……」

 

 

「だったら、もっと感謝してほしいなあ。

 

 この際だから、はっきり言わせてもらうよ。

 

 ボクらはニュースの誤読なんて絶対にしない。

 

 噛んだり言いよどむなんてことも絶対にない。

 

 新しい単語のアクセントもすぐ辞書で調べる。

 

 どう考えても、人間より優れているのさ!」

 

 

「そんなに威張らなくても……ショックショックショック 

 

 

「おいおい、どうした、どうした? ん?

 

 すぐ弱気になるのが人間のダメなところだ」

 

 

「そうさ。人間には “感情” があるからね。

 

 弱さや悲しみ、苦しみを知っているから、

 

 人々に寄り添ったニュースを伝えられる。

 

 AIには “人間らしさ” が欠けているんだ」

 

 

「その課題は十分に承知しているさ。だから…

 

 これからの進化に注目してほしいってこと」

 

 

 

******************

 

 

 

結局、プライドとプライドのぶつかり合いで

 

ケンカ別れになってしまったようです(苦笑)。

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず人間アナを代表してまとめると――

 

 

 

人間アナはAIアナのできないことに注力する。

 

ニュースの企画や取材、現場のインタビュー、

 

さまざまな人間の感情に応えられる臨機応変な

 

対応に磨きをかけていく――そうしなければ、

 

アナウンサーの未来はないでしょう。

 

 

 

 

今回はギャンブルの話題です。

 

 

 

あなたがコイントスに挑戦する、

 

と仮定しましょう。

 

 

 

 

 

 

が出るか? が出るか?

 

 

その確率は2分の1です。

 

 

 

 

でも……

 

 

 

 

1回目から3回目まで、続けて

 

ばかりが出たとしたら…?

 

 

 

 

4回目は、そろそろが出るだろう、

 

そう思ったあなたは、

 

に賭けたくなるはずです。

 

 

 

 

でも、4回目もまたが出てしまったら?

 

次の5回目は、さすがにがくるだろう、

 

そう確信して、に賭けるでしょう。

 

 

 

それでも、またまたが出たとしたら?

 

5回も続けてが出るなんておかしい、

 

あなたはイカサマを疑うかもしれません。

 

 

 

 

しかし4回目も5回目も、何回続けても

 

かの確率は2分の1なのです。

 

 

 

 

たまたま同じ結果が続いたからといって、

 

次の確率が変化することはありません。

 

 

 

 

このように、勝手な確率の思い込みを

 

ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)

 

といいます。 *誤謬とは、まちがいの意。

 

 

 

 

 

一方、統計学では、

 

大数(たいすう)の法則

 

いわれる定理があります。

 

 

 

 

これは、たくさん実験すれば

 

データの平均は真の平均に近づく、

 

というものです。

 

 

 

 

コイントスの場合、少ない回数では

 

どちらかが連続することがあっても、

 

回数が多くなれば、仮に100回続けたら、

 

の確率は、限りなく2分の1

 

近づくということです。

 

 

 

 

ギャンブルは娯楽です。楽しむものです。

 

楽しく賭けることは大いに結構ですが、

 

人生を賭けるのは、まちがいです。

 

それこそ人生の誤謬です!

 

 

 

 

最後は、この名言(迷言)で締めくくります。

 

 

 

 

麻雀賭博で逮捕された有名人の一言。

 

警察官に対して――

 

「もうギャンブルはしません。

 賭けてもいいです」

       (漫画家・蛭子能収さん)

 

 

 

テレビ朝日『相棒』を観ていて

 

気づいたことがあります。

 

 

 

©テレビ朝日 東映

 

 

 

水谷豊さんが演じる杉下右京警部は、

 

普段は穏やかな雰囲気なのですが・・・

 

 

 

 

犯人を逮捕したあと、その犯人に向かって

 

険しい顔つきで、声を震わせ、

 

怒りをあらわに言葉をぶつけます。

 

 

 

 

でも、けっして「バカ野郎!」とは

 

言いません。

 

 

 

 

「バカなマネをしては

 いけません!」

 

 

 

そう、常に丁寧語なのです。

 

 

 

 

びっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくりびっくり

 

 

 

 

同じく丁寧語で諭(さと)すといえば――

 

すぐに思い当たるのが、

 

裁判官の説諭(せつゆ)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

裁判官は判決を言い渡したあと、

 

被告人に対して一言、自分の思うところを

 

語りかけます。それも丁寧語で…

 

 

 

 

たとえば……

 

 

 

 

(窃盗罪で有罪の男性に対して)

 


「世の中それほど捨てたものではありません。

 

人を信用して、困ったときにはどこかに

 

相談をしてください。

 

私に会いにきてもいいし、そのときは、

 

裁判官としてできるだけのことをしたいと

 

思います」

 

長峯超輝著『裁判官の人情お言葉集』

(幻冬舎新書)から抜粋

 


 

 

裁かれる立場でありながら、裁く人から

 

丁寧語で語りかけられる――

 

このときの被告人の気持ちは、はて?

 

 

 

 

丁寧語は相手に敬意を表す敬語表現です。

 

人はみな平等だよ、対等の立場だよ、

 

そんなニュアンスで語られる言葉は、

 

間違いなく被告人の胸を打ちます。

 

 

 

 

刑事と犯人の関係も同じです。

 

 

 

 

どんな人間関係であろうと、

 

丁寧語は、

 

コミュニケーション

 

潤滑油になるのです。

 

 

 

 

浅沼道郎の本

周りの9割が味方に変わる話し方

(みらいパブリッシング)

 

 

 

 

リーゼントサングラスがよく似合った。

 

まもなく5月14日は俳優三浦洋一命日です。

 

なんと24回目の命日です。享年46。

 

 

 

以前、アクション俳優をめざす若者に

 

「あこがれているのは誰?」と聞いたとき、

 

すかさず「岡田准一さん」と返ってきました。

 

 

 

「三浦洋一はどう?」と言ったら

 

「・・・・・・」

 

まったく反応がありませんでした。

 

(そうか、その若者が物心ついたときには、

 

 三浦君はもう亡くなっていたんだ…)

 

当たり前とはいえ、ショックでした。

 

 

 

三浦君とは中学・高校・大学と一緒でした。

 

大学キャンパスでよく顔を合わせましたが、

 

それも2年生まで。

 

 

 

「いま芝居がおもしろくて

 授業に出られない」

 

 

そんな言葉を最後に、大学では

 

まったく顔を見なくなりました。

 

 

 

しかし活躍ぶりは素晴らしかった!

 

テレビでは主演級ドラマが目白押し。

 

すっかり人気俳優になりました。

 

 

 

©TOEI COMPANY,LTD テレビ朝日

 

 

 

忙しい中、私が勤める名古屋のテレビ局で

 

早朝番組に生出演してくれたことも

 

ありました。

 

 

 

しばらく闘病中とは聞いていましたが、

 

再会を楽しみにしていた2000年春、

 

同窓会に欠席の連絡がありました。

 

 

 

そして、ほどなくして訃報が……

 

 

 

葬儀は、24年前の5月18日、

 

東京・府中の日華斎場で営まれました。

 

 

 

彼の棺(ひつぎ)が、びっくりするほど

 

軽かったことを覚えています。

 

 

 

それもそのはず・・・

 

 

 

食道がんでいっさい食事はできず、

 

180センチの長身なのに

 

体重は40キロ台だった、と

 

あとで聞きました。

 

 

 

それでも・・・

 

 

 

棺の中の三浦君はタキシードにリーゼント。

 

めっちゃカッコ良かった。

 

 

 


 

 

この日、喪主をつとめた妻の真理子さん

 

6年前に卵巣がんで亡くなりました。

 

 

 

 

  懐かしい年賀状の写真から

 

 

 

友人が亡くなるのはさみしい……

 

彼を知る人がいなくなるのも

 

いまはとってもさみしい……

 

 

 

こうしてブログに名を記すことで、

 

一人でも多くの方に

 

 

俳優三浦洋一のことを

思い出してほしいのです。

 

 

 

某テレビ局の番組プロデューサーA氏は、

 

業界のカリスマとして有名です。

 

 

 

とにかく出演交渉が上手なのです。

 

相手がどんなにテレビ嫌いでも、

 

面と向かってA男さんから出演依頼されれば、

 

なぜか「YES」と言ってしまうのだそうです。

 

 

 

元プロ野球選手で、いまは解説者のB氏は、

 

こんなエピソードを紹介してくれました。

 

 

 

 

 

 

もう20年も前のことですね。

 

私がまだ新人だった頃、シーズンオフに

 

A男さんの番組に出演させてもらいました。

 

 

 

収録のあと、レストランに案内されたんです。

 

実はこの日は女房の誕生日で、

 

早めに失礼しますとお伝えしたら、

 

30分だけお付き合いくださいって…。

 

 

 

ええ、本当に30きっかりだったので、

 

テレビ局の人は(時間に正確なんだなあ)と

 

驚いたことを覚えています。

 

 

 

でももっと驚いたのは、帰り際に

 

AD(アシスタントディレクター)さんから

 

山ほどのバラの花束を手渡されたことです。

 

 

 

 

 

 

 

そのときのA男さんの言葉がまた

 

粋(いき)だったんです。。

 

 

『うちのADは気がきくんです。

奥様へのプレゼントです』って。

 

 

それから毎年、その日には

自宅にバラの花束が届くんです。

ええ、もう20年間ずっと。

 

 

そんな人から何か頼まれたら、

断れると思いますか? 

 

 

断れませんよね(笑)

 

 

 

浅沼道郎の本

極上の言葉に涙する夜があってもいいじゃないか | みらいパブリッシング (miraipub.jp)

 

 

 

A君は公立中学の1年生。

 

入学したばかりの英語の授業で

 

「わかりません」と答えたところ、

 

いきなりゴツンと先生の拳が

 

頭に落ちてきました。

 

 

 

(痛っ!)。心の中で思わず悲鳴を

 

上げましたが、声にはなりませんでした。

 

声に出さなかったのではなく、

 

出せなかったのです。

 

 

 

なぜ出せなかったのか? 

 

二人で暮らす母親のB子さんには

 

「恥ずかしかったから」と話しましたが、

 

このときのA君の心境はもっと複雑でした。

 

 

 

“痛み”というより

 

(どうしてこんなことでぶたれるの?)

 

という“驚き”と、小学校とは違う

 

中学校の先生の“怖さ”に

 

思わず言葉を失ったのでした。

 

 

 

そして……この日から3ヵ月。

 

A君は不登校が続いています。

 

 

 

しばらくは担任やクラスメートから

 

頻繁に連絡がありましたが、

 

最近はそれも途絶えがちです。

 

 

 

A君の〈取り残され感〉は日増しに強くなり、

 

ほとんど外出することもなくなりました。

 

 

 

(このまま引きこもりが続いたら、この子は

 

一体どうなってしまうのだろう?)――

 

 

 

B子さんの不安は募る一方です。

 

そんなとき、

 

宅配便で一冊の絵本が届きました。

 

 

 

差出人の名前を見て、

 

B子さんは驚きの声を上げました。

 

 

 

そこにはA君の名前があったのです。

 

なんとA君からB子さんへの

 

誕生日プレゼントでした。

 

 

 

(あの子ったら、いつの間に注文したの?)……

 

封を開けると、夜空を見上げるクマの親子の

 

表紙が目に飛び込んできました。

 

 

 

     『いつまでも』

(アンナ・ピンヤタロ作/主婦の友社)

 

 

 

パラパラとめくると

 

いくつかの子グマのセリフが

 

B子さんの目に留まりました。

 

 

 

「おかあさんは、いつまで

  ぼくのおかあさんなの?」

 

「いつまでぼくのことすき?」

 

 

 

たちまち熱い涙がB子さんの頬を伝いました。

 

(この子グマは、あの子だ)――

 

すぐに気づいた

 

B子さんに代わって、

 

絵本の中では母グマが

 

子グマの問いに答えていました。

 

 

「いつまでもよ」

 

 

いまB子さんがA君にしてやれること。

 

それは、いつまでもそばにいてあげること。

 

あらためてそう確信したB子さんは、

 

一人つぶやきました。

 

 

(大丈夫。お前は

 そのままでいい。

 生きていてくれるだけで

 いいんだよ)

 

 

STEP.1浅沼道郎の本

極上の言葉に涙する夜があってもいいじゃないか | みらいパブリッシング (miraipub.jp)

 

 

 

<

ベテランアナウンサーのA男さんが

 

こんな話をしてくれました。

 

 

 

アナウンサーが担当する仕事は、

 

番組MCや事件・事故現場からのリポート、

 

スポーツ実況、ナレーションなど……

 

なかでも私がもっとも楽しんでいるのは

 

インタビューです。

 

 

 

 

 

 

アナウンサーという仕事をめざしたのも、

 

いま話題の人たちに直に会えるのが

 

魅力と感じたからです。

 

 

 

芸能人やスポーツ選手、政治家といった、

 

その時々の“旬”の人たちに会えることは

 

常に刺激の連続です。

 

 

 

マイクを向ける人たちは皆さん

 

プロフェッショナルですから、

 

それぞれの方たちのエピソードに

 

へーっ、ほーっと、驚いたり感心したり、

 

楽しいだけでなく大いに勉強になります。

 

 

 

もちろん失敗談もいっぱいあります。

 

準備不足、知識不足で、相手の方を

 

怒らせてしまったり……ええ、本番中は

 

笑顔で対応されていても、

 

収録終了後に無言で立ち去られたときは、

 

さすがにへこみました。

 

 

 

有名人のインタビューだけが

 

勉強になるわけではありません。

 

予測不能な回答が飛び出すのが、

 

子どもへのインタビューです。

 

 

 

ある選挙取材では、小学生の男の子に

 

ドキッとさせられました。

 

候補者たちが選挙演説に

 

声をからしているのを見て、

 

 

 

「どうしてあんなに選挙に

 勝ちたいのかな?

 議員になると、よっぽど

 イイことがあるんだね」

 

 

 

  議員さん本人に

  届けたい声でした(笑)。

 

 

 

20年以上も前、いまでも胸を締めつけられる

 

女の子のことを思い出します。

 

 

 

「これまで一番幸せを感じた瞬間は、

 

 いつ、どんなときでしたか?」――

 

 

 

このテーマでさまざまな年代層に

 

お聞きしたときのこと。

 

 

 

「万馬券を当てたとき」

 

「彼からプロポーズされたとき」

 

 

 

そんな答えに交じって、

 

一人の小さな女の子が

 

「おかあさんに

 ギュッとされたとき」

 

 

その言葉にほっこりしていた私に、

 

あとで担任の先生が

 

こっそり教えてくれました。

 

 

 

 

「あの子、1年前に

 母親を亡くしたんです」

 

 

 

 

帰社するマイクロバスの最後列の席で、

 

私は一人、涙が止まりませんでした。

 

 

 

  あの子も、いまはもう

  素敵なお母さんに

  なっているのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

浅沼道郎の本

 

極上の言葉に涙する夜があってもいいじゃないか | みらいパブリッシング (miraipub.jp)

 

 

 

 

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