魔女狩りを描く映画の撮影現場を舞台に、次第に増していく緊張感から、いつしか混沌に包まれていくさまを、原色とフラッシュを多用した過激なヴィジュアルで描き出していく

 

 

 

 

 

 

          -  LUX AETERNA  - 監督 脚本 ギャスパー・ノエ

 

 出演 シャルロット・ゲンズブール、ベアトリス・ダル、アビー・リー 他

 

こちらは2019年制作の フランス映画 フランス です。(51分)

 

 

 

 

  女優のベアトリス・ダルが初監督を飾る、魔女狩りを題材にした映画の撮影現場。この日は主演のシャルロット・ゲンズブールが磔にされるシーンを撮影する予定だったが、監督を降板させたいプロデューサーとそれに同調する撮影監督や、シャルロットを自分の作品に引き抜こうとする新人監督など、、、

 

 

 

 

それぞれの思惑が入り乱れ現場は大混乱に陥ってしまう。さらに問題のシーンの撮影直前、シャルロットの娘から電話が入る。 やっとセットを使ってのリハーサルが始まるが、背景として使っていた液晶スクリーンに不具合が発生し、撮影現場はカオスな状況へと陥っていく、、。

 

 

 

 

こちらでもご紹介した 「エンター・ザ・ボイド」 「CLIMAX クライマックス」 と、物議を醸す映画を撮らせたら右に出る者がいないギャスパー・ノエの作品でございます。 その中でも今回は企画先行の作品で、ある種一応のコンセプトに沿ったものになっています。 その企画というのが世界的ファッションブランド“サンローラン”のクリエイティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロが、写真家、小説化、といった様々なアーティストを起用し、ブランドの世界観を多角的な視点から表現するアート・プロジェクト“SELF”の第4弾としてギャスパー・ノエ監督とのコラボで製作された中編アート・ムービーな本作。

 

 

 

 

なんと製作期間は2カ月という本作、しかし出演者があの「ベティ―・ブルー」のベアトリス・ダル、「アンチクライスト」のシャルロット・ゲンズブール、そして監督が「アレックス」のギャスパー・ノエって、もうそのメンバーを見ただけで狂気を感じますよね。この時点で普通ではない映画である事を確信しましたよ、ハイ。

 

 

 

 

内容は勿論、紛れもないギャスパー・ノエワールドが炸裂しています。 映画冒頭モノクロで魔女裁判で使われた拷問器具や火あぶりの映像が映され、初監督作の現場で会話をするベアトリス・ダルと主演に迎えられたシャルロット・ゲンズブールの楽屋話が淡々と交わされています。 役名は無く、撮影現場の裏側を覗いているような趣向です。 

 

 

 

 

ただ何故かこの場面、同じ部屋にいる二人の姿を左右に分割したスプリットスクリーンが使われ、多くの場面にも2分割や3分割された画面によって、演者やスタッフの姿が 同時進行で描かれ、50分ほどの時間がリアルタイムに進行していきます。 その為字幕で観た場合に、左右それぞれで語られるセリフが左右同時に表示されるという現象が起こる羽目になります。 
 

 

 

 

現場自体もフランス語や英語が入り乱れ、映画に直接関係ない人間や、我の強い多くのスタッフ、文句をいうプロデューサー等でゴチャゴチャしている事もあり、良い意味で捉えればそんな無秩序な世界をより左右に表示される字幕を目で追わなければいけないという事で生々しく体験出来る部分もあります。その映画の途中々ではゴダールやブニュエルといった映画人が語ったテキストが表示されある種ノエの映画へのオマージュや敬意、挑戦も感じられる個所もあります。

 

 

 

 

そんな撮影現場の混沌を断ち切るように、ラスト10分に訪れる怒涛のギャスパー・ノエらしさが炸裂した狂気と観客に向けての視覚的暴力! まだかまだかとその終了を待っていたのですが、なんとそのままエンドクレジットまで巻き込んでの終了と相成りました。これを劇場のスクリーンで観ていたらいったいどうなっていたのか心配するレベルの視覚体験でございます。 

 

 

 

 

クラシカルなモノクロ映像で始まり、女性視点の映画裏話、テキストによるアーティストの名言、スプリットスクリーンを使いワンカットやPOVといった情報量の多い映像とセリフ、遂に映画も佳境になった瞬間、色の三原色 赤 緑 青 を強烈に点滅させるというドSな構成。 良いんです、ギャスパー・ノエはこうでなくちゃいけません。この監督に普通は求めてはいないのです。 こういった企画、枠があるからこそ、いつも以上に自由な表現を手にしたようなチャレンジ精神が覗えます。 

 

 

 

 

しかし、前記したようにハチャメチャな事をしているようで、実は純粋にギャスパー・ノエらしい映画へのオマージュとも受け取れる面も多々ある作品でもあって、鬼才、変態監督と呼ばれる彼ですが、意外に純粋な映画ファンであり、根が真面目な部分がこの作品で浮き彫りになってしまったように感じてしまったのは私だけでしょうか?

 

 

 

 

ギャスパー・ノエなりの映画へのオマージュとも言える本作。 好き嫌いは分かれて、圧倒的に嫌いな意見が多いとは思いますが、普通じゃないもの、別なもの、特別な体験、映画に何を期待して選ぶか、と様々ですが、ついつい観ずにはいられない監督で、不安や嫌悪感を楽しみに出来る希少な映像作家である事は確かです。

 

 

 

 

本作を観て「2001年宇宙の旅」のスターゲイトのトリップ感を味わえるか、ただただ苦痛を感じるかは、その日のバイオリズムと体調によって変わるかも知れませんが、極上のバッドトリップは味わえると思いますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー