ビヴァリー・シルズ
アメリカのソプラノ歌手ビヴァリー・シルズが今月2日に亡くなりました。享年78。
何年か前に歌手を引退したのは聞いていましたが、こんなに早く訃報に接するとは思っていなかった。
じつは、この歌手の歌ったのを聞いたことがありません。CD屋さんで、いくつもその名前を見てはいましたが。
7月7日だったか、ホテルのテレビからアリアが流れてきました。ルチア、ロベルト・デヴリュー、椿姫、などなど。テレビに出演したり、メトロポリタンで歌ったりした映像を、次々に放映したものでした。最後に、
In memoriam of Beverley Sills
という字幕が出たので、ああ、亡くなったのかと分かりました。顔も知らなかったので、途中まで誰が歌っているのだろうと思ったくらいです。
これが、初めて聞くビヴァリー・シルズでした。コロラトゥーラ・ソプラノですね。私の好きなエディタ・グルベローヴァの演じる役と重なるところが多い歌手でした。
安全のコスト
「日本人は水と安全はタダだと思っている」と書いたのは、イザヤ・ベンダサンだったでしょうか。
アメリカに入国する際の手続きが、前と比べて格段にきびしくなったような気がしました。長時間のフライトで疲労困憊しているのに、長蛇の列がいっこうに短くなりません。
パスポートを提示して、身分が確認されてからも、左右の人差し指(英語では index finger と言うのでした)の指紋をとられます。5センチ四方くらいのガラス面が水平になっていて、下からカメラで写すようです。指を置くだけかと思ったら、Push! と命じられました。強く押し付ける。それだけでも2,3秒余計に時間がかかるので、ハカの行かないことおびただしい。最後にカメラに顔を向けて写真をとられました。
どうやってそれらの情報を集約するのかは予測もつきませんが、その処理に要する人員をはじめ、システムの構築とメンテナンス、など、素人が思いつくだけでも、莫大な金がかかるのは明白なことです。
出国するときも、手荷物をエックス線装置に通すこれまでのやり方のほかに、靴を脱いで、それもX線にかけるのでした。金属に「ピーッ」と反応する、あのゲートを靴下裸足で通過します。調べる係りの人数も多くなっているようです。
さらに、人がたくさん集まるところでも、厳重な検査がありました。
「ライオン・キング」というミュージカルは世界中から、もちろんアメリカ中からも、観客が集まる人気作です。その劇場のモギリのところに屈強な青年が陣取って、客のカバンを開けさせて点検ステッキのような棒でかきまわしていました。他の演目会場ではそれはなかったから、この劇場(ミンスコフ・シアター)だけなのでしょう。
ヤンキー・スタジアムも厳しかった。エイト・フォーのようなスプレーはただちにごみ箱に捨てろと言われました。持ちものを入れるための透明なバッグを渡されて、それに移し変えたりしました。
9.11以来の警戒心が街のすみずみにまで行き渡っているようでした。
安全を確保するためのコストは安くはないようです。
ダイエット?
ニューヨークの雑踏の中にしばらくいました。前に行ったのも7月ですが、その年の9月11日に世界貿易センタービルがなくなってしまった。ケネディ空港に着陸する少し前、マンハッタンを左下に見ながら飛行機が通過しました。グラウンド・ゼロのところがポッカリ隙間になっているのを、あらためて信じがたい思いで眺めたことでした。
特別の目的がある滞在でもなかったので、街中を歩き回ることが多かった。目につくのは、太った人々です。とくにご婦人方。豊満という単語がシッポをまいて逃げ出しそうな、胸の大きさと、腰まわりの太さ。20代と思しいお嬢さんでもそんな状態です。時折、乳母車に載せた赤ん坊を見かけましたが、押しているお母さんのボリュームと比べて、いかにも小さくて可愛いこどもたちです。思わず目が行く、そういう子たちが、いずれは、こんな容積を獲得するのであろうか、と、ひとさまのことながら、暗澹たる予想をしてしまいました。
テレビをつけると、どのチャンネルでも、ダイエット法の宣伝をしています。みんな別の方法やクスリなどです。
ビフォアとアフターを並べて効用を強調するのは日本のコマーシャルと一緒です。体験者が登場して、何ポンド減らすことができたかを語るのもいっしょ。「食べてやせる」式の宣伝が多いような気がしました。
しかし、一歩外へ出ると、さっきのビフォアがアフターでもおかしくないほどの肥満体が「目白押し」状態でした。
気合を入れて写真も撮ったので、おいおい紹介していきますね。
辞書代わり
本を作る仕事では辞書が欠かせません。国語、漢和、英和、和英、などのことばの辞書。百科事典、現代用語の基礎知識、などもそばにないと不便です。
ときには、ブリタニカ、ラルースなどの大百科事典も引きました。
日本でいいものがないのは人名辞典です。戦前の軍人の名前をしらべようとしても、手がかりさえない場合が多かった。
戦前に平凡社だかから出た「大人名辞典」が、つとめていた会社にありました。年号が紀元で出てくる(昭和16年が紀元2600年というように)ので読み替えが面倒でしたが、武士も軍人もたくさん載っているので助かった。
日外アソシエーツというところが有料でやっている、ネット上の人名辞典も使いました。これも人数は多くない。
渡部昇一先生がよく言及なさる、イギリスが誇る人名辞典 DNB(Dictionary of National Biography) のような辞書ができれば便利だろうなあ、といつも思います。大事業だから、今からでは無理かもしれませんが。
事件や人名を調べるのに重宝したのは、高校生用の歴史の教科書です。『詳説日本史』と『詳説世界史』(山川出版社)。一度買い換えたけれど、36年間かならず辞書と並んで机の上にありました。もちろん今でも。