安全のコスト
「日本人は水と安全はタダだと思っている」と書いたのは、イザヤ・ベンダサンだったでしょうか。
アメリカに入国する際の手続きが、前と比べて格段にきびしくなったような気がしました。長時間のフライトで疲労困憊しているのに、長蛇の列がいっこうに短くなりません。
パスポートを提示して、身分が確認されてからも、左右の人差し指(英語では index finger と言うのでした)の指紋をとられます。5センチ四方くらいのガラス面が水平になっていて、下からカメラで写すようです。指を置くだけかと思ったら、Push! と命じられました。強く押し付ける。それだけでも2,3秒余計に時間がかかるので、ハカの行かないことおびただしい。最後にカメラに顔を向けて写真をとられました。
どうやってそれらの情報を集約するのかは予測もつきませんが、その処理に要する人員をはじめ、システムの構築とメンテナンス、など、素人が思いつくだけでも、莫大な金がかかるのは明白なことです。
出国するときも、手荷物をエックス線装置に通すこれまでのやり方のほかに、靴を脱いで、それもX線にかけるのでした。金属に「ピーッ」と反応する、あのゲートを靴下裸足で通過します。調べる係りの人数も多くなっているようです。
さらに、人がたくさん集まるところでも、厳重な検査がありました。
「ライオン・キング」というミュージカルは世界中から、もちろんアメリカ中からも、観客が集まる人気作です。その劇場のモギリのところに屈強な青年が陣取って、客のカバンを開けさせて点検ステッキのような棒でかきまわしていました。他の演目会場ではそれはなかったから、この劇場(ミンスコフ・シアター)だけなのでしょう。
ヤンキー・スタジアムも厳しかった。エイト・フォーのようなスプレーはただちにごみ箱に捨てろと言われました。持ちものを入れるための透明なバッグを渡されて、それに移し変えたりしました。
9.11以来の警戒心が街のすみずみにまで行き渡っているようでした。
安全を確保するためのコストは安くはないようです。