大好きなシチリアを舞台にしたイタリア映画

『シチリアサマー』現在公開中です。

 

 原題:Stranizza d'Amuri

    (2023 イタリア)

 監督:ジュゼッペ・フィオレッロ
 主演:ガブリエーレ・ピッツーロ

    サムエレ・セグレート

 

  

 

1982年、

保守的なカトリックの国イタリア。

その中でも更に難しいシチリアで

二人の青年は出会い、友情はやがて

愛情へと育まれます。

 

その二人が本当に美しくて、

二人のピュアさとシチリアの自然が

本当にまぶしい映画です。

 

が、同性愛はタブー。

決して許されない当時のシチリア社会。

2人は命を失うこととなります。

 

 

目 次

(クリックしても飛びません、ごめんなさい🙇)

  1.  実話は未解決事件
  2. 実話「ジャッレ事件」
  3. 実話の青年の複雑な身の上
  4. 13歳の甥が逮捕⁉
  5. シチリアの名誉殺人とは
  6. 映画は実話の再現ではない
  7. あらすじ
  8. 映画のキャストから見るシチリア社会
  9. 総評 
 
この映画は、
美しい少年達のラブストーリーや、
当時の保守的な社会に引き裂かれた
悲しい二人の運命とかではなく、
本国イタリアでも元の事件を知らなかった
若者たちの間ではかなりの衝撃で、
けっこうな話題作となったそうです。
 
この映画は実話の「ジャッレ事件」を元に
遺族に細心の注意とリスペクトをもって
制作されたそうです。
 
今日はその未解決事件を
ひも解いてみたいと思います。
 

 

 

1. 実話は未解決事件
 

一見美しい映画なのですが、

元のストーリーは実話であり、

主人公の二人は殺されています。

 

実話は1980年に起きた

「ジャッレ事件」です。

 

ジャッレはシチリアの東海岸の町で、

カターニャとタオルミーナ(映画

『グランブルー』が撮影された町)の

中間にあります。

 

南イタリアはカトリックが強く、

また男性社会のため、ほんの数十年前まで

女性が未婚で肉体関係を持つこと

人妻の不貞同性愛などはタブーで、

もし見つかった場合は一族にとって

「不名誉」または「恥」と見なされ、

何らかの社会的制裁を受けることが多かったのです。

 

実話では犯人は見つかっておらず

未解決事件となります。

 

噂では、住人は犯人を何となくは

判ってるのですがシチリアの伝統的な

習慣オメルタ(沈黙の掟)があるために

 

見たり聞いたりしたこと、

 知っている事を話してはならない

 

という”暗黙のルール”に従ったようです。

 

映画では、二人が逃避行するシーンで

物語は終わり、暗転になったところで

二発の銃声が鳴り響きます。

 

なので二人が亡くなった後には

一切触れられてません。

 

 

2. 実話「ジャッレ事件」とは

 

実話は1980年の10月に起きました。

映画の設定と実話は若干状況が違い

まずは主人公二人の年齢が変えられています。

 

映画ではジャンニが17歳、

ニーノが16歳です。

実話はジョルジョが25歳、

トーニが15歳でした。

 

 

映画ではわざと年齢設定を変えて、

二人を同年代にしてありますが、

そうすることで二人の純愛が、

閉鎖的な社会の偏見により

亡き者として葬られてしまった、

という問題定義になっています。

 

25歳と15歳だと、どうでしょうか。

大人が未成年を手なずけた等

の憶測を呼び、映画のテーマである

同性愛差別からズレてしまうからでしょう。

 

性的アイデンティティが

まだ定まってない思春期に

大人からグルーミングされ影響を受けて

しまう人は多いようです。

 

事実、当時わずか15歳だったトーニの

一族の遺族感情としては、

トーニがジョルジョに手なずけられ

その結果同性愛になってしまい

最後には殺されたという憤りを感じていたそうです。

 

 

3. 実話の青年の複雑な身の上

 

映画を見て心苦しいのは、ジャンニが

気の毒なほどのいじめに遭うのですが

実話のジョルジョは父が楽器商で

ジョルジョもソルフェージュを教えていたようです。

 

が、ジョルジョは優等生ではなく

たまに店の楽器を勝手に売りさばき

問題を起こして父も困っていたとのことです。

 

またジョルジョの母は以前

別の男性と結婚していたのですが

ジョルジョの父と不倫関係にあり

ジョルジョを身ごもったとか。

 

が、男性は生まれた息子が、

妻を寝取った男の子供だと世間には

言えず(これもシチリアでは男性の恥)

自分の息子として育てたのか……。

 

しかしジョルジョを愛せるわけもなく

サレジオ修道会に8年も預けています。

 

その後その男性は亡くなり

母子は実の父のもとに身を寄せます。

 

ジョルジョは16歳から同性愛だと

すでに公言していたそうで

そんな息子を父は疎ましく思い

家で食事を与えない事もあったとか。

そんな時、ジョルジョはトーニの家で

よくご飯を食べに来ていたと

トーニの姉が証言しています。

 

実話のトーニの父は花火師ではなく

祭りの出店で子供向けの玩具を売り

ジョルジョもそれを手伝っていました。

 

また街の人から

Puppu ccu bullu(公認ゲイ)

言われていたのは実話だそうです。

が、映画のような陰湿ないじめが

あったのかは不明です。

何しろジョルジョとトニーは

公然と手をつないで歩いていたそうで

二人の関係はもう誰もが知っていたのでしょう。

 

二人は駆け落ちしてから2週間後に

畑で遺体となって発見されます。

二発の銃弾は二人の頭部を打ち抜いてました。

 

 

4. 13歳の甥が逮捕⁉

 

遺体は羊飼いにより発見されます。

 

逮捕されたのはトーニの甥の

フランチェスコ・メッシーナで

当時はなんと13歳でした。

 

映画の中ではニーノの甥で

トト君という9歳の少年の設定で

ジャンニに焼きもちを焼くシーンがたびたび見られます。

 

実話のフランチェスコの証言では

トーニとジャンニから

「僕たちを殺して、じゃないと君を殺すよ」

と脅されたと自供します。

そして見返りに腕時計をもらったとか。

 

が、数日後にはそれを撤回します。

「憲兵に殴られて自供を強いられた」

とのことでした。

 

武器の拳銃は二人の遺体から

少し離れた所に埋められていたので

二人の無理心中説はすぐになくなりました。

 

が、その武器は13歳の少年の腕では

撃てるものではないそうです。

 

当時のイタリアでは14歳以下は

罪に問われない法律があったので

フランチェスコは誰かの罪をかぶって

出頭させられたのでは?との見方があります。

 

↑トーニの甥のフランチェスコ。

 優しい少年だったという。

 

フランチェスコは罪に問われずに

釈放されましたが彼のその後の人生は

すっかり狂ってしまったそうで

今はもう還暦近いのですが、

なんと刑務所に入っています!

 

容疑はマフィアがらみの恐喝で

6年の刑は恐喝としては悪質だそうです。

 

現地の新聞を見ると

逮捕された一味の写真の中に

フランチェスコのものがありますが

見るからに人生が狂ってしまった感が

漂っていて、とても気の毒です。

 

 

5.シチリアの名誉の殺人とは?

 

シチリアには名誉の殺人の習慣があり

妻の不貞を知った夫が、妻と愛人を

殺しても情状酌量されていました。

 

また地域によっては

自分を欺いた二人を殺さないと

夫は「寝取られ男」「腰抜け」などと

男性社会で笑い者になるようなこともあったとか。

 

妻の不貞というのはイタリア社会では

それほど一族の不名誉な事であり、

そしてこの不名誉な要因として

家族の一員が同性愛者であることも含まれます。

 

なのでジャッレ事件の場合も、

父が息子を撃った?

同性愛の息子の人生を悲観して?

一族にとって不名誉な息子の責任を取った?

 

こんな風に仮定することもできます。

が、それも想像の域を超えていません。

 

ここで押さえておきたいのは、

何しろシチリアというところは

ジャッレ事件のはるか昔から

「名誉殺人」という独特の習慣があり、

保守のイタリア内でも非常に特殊な地域だという事です。

 

なお、名誉殺人は1981年に廃止となりました。

 

 

 

 

 

6.映画は実話の再現ではない

 

映画「シチリアサマー」制作の数年前

あるジャーナリストがジャッレを訪れ

念入りな取材をしています。

 

そこで関係者からの聞き取りで、

何となくの犯人像が浮かび上がり

もはや犯人は判明しているようです。

 

が、映画ではそれには触れず、

犯人像はぼやかし、別の純愛ストーリーにしていますね。

 

ヨーロッパには

「映画は監督の物である」

という概念があり

「シチリアサマー」には元になった

実話があるけど、かといって

実話の再現ドラマではないということです。

 

実話では甥のフランチェスコは

容疑者となり人権侵害を受けました。

なので映画で重要キャストのトト君は

叔父ニーノを慕う少年であり、

事件の犯人とは結び付かない設定になってますね。

 

また実話で犯人ではないかと

言われてる人は今回の映画には

登場どころか、かすりもしていません。

 

浮かび上がった容疑者というのが

関係者へのインタビューによるもので

警察が再調査をして判った容疑者ではないからです。

 

犯人と言われてる人の名前は

私もここに書くことはできません。

書けばそれは人権侵害に値するし、

何より証拠があるわけでも

確証があるわけでもないのです。

 

 

 

 

7.あらすじ

ネタバレあり

映画を楽しみにしてる人は*印まで見ないでね

 

🔸前半

主人公のジャンニは同性愛者であると

町中に知られ、バールにたむろする男達に

揶揄われ、いじめられる日々を送る。

 

↑家の壁に落書きが。”ゲイ認定済み”

 

母の内縁の夫フランコのバイクの整備工場で働くが、

家には居場所すらない。

 

当時のシチリアでゲイはタブーのため

ジャンニは町中の笑い者だ。

そんなジャンニを疎ましく思うフランコは

常に機嫌が悪く、母はフランコに嫌われないよう

言う事を聞いて生きるしかない。

 

母は息子に言う。

「フランコに追い出されたらどうするの?

 以前のあの悲惨な生活に戻るのよ」と。

 

フランコに出会う前の母子は

相当貧しい生活をしていたようだ。

 

一方でもう一人の主人公のニーノは

花火師アルフレードの息子で

頼りになる父と家庭的な母、

姉や甥と郊外で暮らしている。

 

天真爛漫でとても賢く、心優しい青年だ。

 

↑花火師のアルフレードと長男のニーノ。

 

 

🔸後半

バイクの事故で二人は出会い、

意識を失ったジャンニに

ニーノが人工呼吸をして一命を取り留める。

 

それをきっかけに二人は友達になり、

ニーノの叔父ピエトロが町の主要産業の

石切り場で責任者をしてるため

就職を世話してもらうことになり、

やっとフランコの整備工場をやめることができた(嬉!)

 

ジャンニは毎日一生懸命働き、

その仕事ぶりも認められた。

ある日、石切り場の日雇い労働者の列に

バールのいじめっ子の一人を見て

ジャンニは逃げ出してしまう。

 

ちょうどそのころ花火師である

ニーノの父の喘息が悪化したため、

現場に一人で行くことになったニーノは

ジャンニを誘う。

 

三輪オートに身を寄せ合い、

祭で花火を打ちあげ、希望に満ち溢れる二人。

 

が、二人の関係は町の人に目撃され

ニーノの両親に密告される。

 

悲観する母、激怒する父と親戚、

ニーノは一族から責め裁かれ

ジャンニとはもう会うなと言われ

家に軟禁されてしまうえーん

家父長制度の強いシチリアでは

父親の言うことは絶対的である。

 

一方でジャンニの所に現れたニーノの

親戚の男たちは、ジャンニを広場に引きずり出し

公衆の面前で殴る蹴るの暴行を働き

ジャンニは大けがを負ってしまう。

 

逃げる男達が乗った車を運転していたのは

なんとニーノの叔父で、石切り場の所長の

ピエトロだった。

 

 

↑フィオレッロ監督も主演のサムエレもシチリア出身

 

 

🔸クライマックス

 

愛する二人は引き裂かれた。

イタリアは1982年のサッカーのW杯で優勝する。

ニーノの家族も喜びに沸いている。

 

思い立ったニーノは家を飛び出し、

ジャンニの家の窓の下に。

そして「ジャンニ、ジャンニ!」と叫ぶ。

ジャンニが窓から外を見る。

そこにはモトリーノに乗ったニーノが!

 

止める母の頬に口づけをして

階段を走り下りるジャンニ。

ニーノの後ろに飛び乗り、母を見つめます。

 

二人のその目は希望に溢れている↓

(このシーンハート)

 

 

優勝の喜びに沸き、お祭り騒ぎの群衆の中

二人は走り去っていく。

その姿を母もフランコもバルの男も見守る。

 

そしてたどり着いたのは二人の秘密の場所。

が、二発の銃声が鳴り響き…。

 

*****あらすじ(ネタバレ)終わりです*****

 

 

 

8.映画のキャスト

(当時のシチリア社会が見えます)

 

🔷バールにたむろする人々

南イタリアの失業率は40%を超えており、

仕事をせずにいつもぶらぶらしている人は

町の広場によく見られました。

 

マフィアの構成員の下っ端になるのは

あのような男どもの中の若い連中です。

(町にもよります)

 

ゲイのジャンニを庇えば、

今度は自分が標的になります。

そして「お前もゲイなんだな」と言われかねません。

 

↑このバールは映画のセットだという。完成度高い!

 左から、ママ、ジャンニ。赤いつなぎが継父フランコ。

 右からトゥーリ、ジュゼッピーナ、ニーノ。

 いじめっ子は他に10人位います。

 

 

🔷いじめっ子トゥーリ

バールにいるいじめっ子の中でも

ちょっと雰囲気が違い、
ジャンニを庇うのかと思うと

ジャンニにセクハラをします。

 

この男、もしやバイセクシャルでは?

これはあくまでも私の想像です。

 

が、もしバイだとすると

女性も恋愛対象になるので

男色の方は世間にはばれてないのでしょう。

 

体も大きくて逆らう者はいません。

または一族が町では有利な立場にあるなど考えられます。

 

時おりジャンニには迫りますが、

自分には全くなびかないので

トゥーリはジャンニを面白く思ってないようです。

 

 

🔷バールにいるジュゼッピーナ

ジャンニが男性と寄り添っているのを見て

それをバールで言いふらした張本人。

そこからジャンニの受難が始まります。

目の前の人に迎合してしまう弱い女です。

 

もしやトゥーリに遊ばれたことがある?

またはトゥーリのことが好き?

 

しかし男からはちゃんと交際してもらえない

悲しさがにじみ出ています。

 

当時のシチリアのそれも田舎町で、

未婚の若い女子がいつもバールに、

男どもと居るという事は余りいい絵ではなく、

女友達もいなく、家庭環境的にも

恵まれてないのかも知れません。

 

 

🔷ジャンニの母リーナ

内縁の夫のフランコに捨てられないように

アイラインを描いたり、マニキュアを塗るシーンが

よく出てきます。

 

息子からも

「その安っぽい服もフランコの金か」

と言われてしまいます。

 

が、失業率の高い南イタリアでは

女性の仕事はなく、彼女の立場は気の毒で

息子もそれはわかっているのでしょう。

 

母も、本当はフランコに頼らずに

自立して生きたいのだと思います。

この辺も当時の南イタリアの事情がわかります。

 

 

2人が踊るシーンは私が大好きなシーンです。

母子は強いきずなで結ばれていて、

踊ってる間の二人は幸せで、

現実の悲しみを忘れているのがわかります。

 

また息子が母の髪をとき、

誰にも邪魔されない時間がいいですね。

 

↑バルコニーの二人。洗髪した母を手伝う息子。

 幼いころから寄り添い生きてきたのがわかる。

 背景の町が40年前のシチリアらしくていい。

 

 

🔷ニーノの家族

ニーノの母が息子とジャンニの関係を知り

ひどくショックを受け、世間に恥ずかしいだけでなく

本当に「おぞましい!」と思っていて

嫌悪感にさいなまれるシーンがあります。

 

あれは彼女一人の個人的な反応ではなく、

当時のシチリア社会の大多数の意見でしょう。

 

ジャンニの家族と対照的に

明るくて幸せな家族でしたが、

この一件で失意のどん底に落ちてしまいます。

 

 

 総 評

実話の「ジャッレ事件」を機に

シチリアにはゲイ保護団体の

Arcigay(アルチゲイ)が創設されます。

この事からも当時のシチリアにも

同性愛者は確実に存在していたこと、

抑圧され、普通の結婚をさせられ、

息を殺して生きていたのがわかります。

 

↑ジャッレのジーノとマッシモ、

 今年やっと結婚した。結婚式の後、

 ジョルジョのお墓参りに来たところ。

 40年の愛を貫き、自由な時代を待っていた。

 

 

その人たちが助け合い、

社会的な地位を築き、その活動が

現在のこの自由な社会へつながったと

思うと本当にうれしいですね。

 

この映画はイタリアでは話題作となり、

40年前の「ジャッレ事件」は

再び注目を集めています。

 

ジョルジョとトニー

天国で喜んでくれているといいですね。

 

 

 

 

 

 

今日は長文となりましたあせる

お付き合い有難うございました。

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