襷がけの二人 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

(あらすじ)※Amazonより

裕福な家に嫁いだ千代と、その家の女中頭の初衣。
「家」から、そして「普通」から逸れてもそれぞれの道を行く。

「千代。お前、山田の茂一郎君のとこへ行くんでいいね」
親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
実家よりも裕福な山田家には女中が二人おり、若奥様という立場に。
夫とはいまひとつ上手く関係を築けない千代だったが、

元芸者の女中頭、初衣との間には、仲間のような師弟のような絆が芽生える。

やがて戦火によって離れ離れになった二人だったが、
不思議な縁で、ふたたび巡りあうことに……

幸田文、有吉佐和子の流れを汲む、女の生き方を描いた感動作!
第170回直木賞候補にノミネート。

 

※ちょっとネタバレしています。

 

◇◆

 

第170回直木賞候補作である。

あもる一人直木賞(第170回)選考会の様子はこちら・・

 

 

 

 

 

 

 

最後の最後まで迷った末に、あもる一人直木賞受賞を熊文学(河﨑秋子「ともぐい」ʕ•ᴥ•ʔ)の1作品にしたが、W受賞にするなら絶対この作品!と思っていた。

それくらいおもしろかった!!

正直、受賞作である万城目さんの「八月の御所グラウンド」より私はこの嶋津さんの「襷がけの二人」を皆さんにオススメしちゃいたい。

 

 

なんかこう、この作品を読むと心がゆるんで気持ちが温かくなれる。

ユーモアに溢れていて、それでいて実直で、この作品に込められた空気感が好きだった。

あとあと!夜に読むと超絶お腹がすく。

ダイエット中の方はご用心あそばせ。

とにかく料理の描写がいちいち美味しそうなの!!

牛タンのシチューとか美味しそう〜。

料理した~い!! ←あもちゃん、料理は嫌いじゃないから・・!でも味は・・笑?

 

ちょっと昔に流行った「丁寧な暮らし」がそこには描かれている。

舞台は大正時代~昭和初期だから、それこそ現代の意識高い系の「丁寧な暮らし」ではなく、現実的な「丁寧な暮らし」。

上記の牛タンだってスーパーで売られているのをそのままチョチョイと煮込むとかではない。

下拵えして〜。コトコト煮込んで〜。

そもそもお肉自体珍しい時代だったので、何枚も重ねられたタンの薄切りを見て、牛の舌なんてみんな知らないから、1枚につき1頭の牛の舌だと思って(気持ちはわかるぞ笑)

「一体、何頭の牛を屠殺したのか><」

と恐怖している姿とか腹抱えて笑った。

 

そんな物語だが、まず序盤でちょっと混乱させてくるのが面白い。

主従が入れ替わるサマが面白かったな。

でもそれはミステリーのように作品の肝になるような大事な話ではないので(あっと言わせたい訳ではない)、早い段階で主従逆ということを匂わせているあたりも上手。

 

そして続く、市井の人たちの暮らしぶりやちょっとしたあれこれの描写が本当に面白い。

休憩ポイントというか緩急の描写がとても上手く、いいタイミングで空間が作ってある。

笑わせポイント、苦行ポイント、ほっこりポイント・・・色々な感情に気づくことができる。

主人公の千代の初夜のシーンで、あまりの痛さ(笑)に旦那を蹴っとばす、考え方によっては一大事なシーンなのにいちいち笑わせてくる。

 

他にもそういうおもしろシーンがあったり、ご近所の余計な話ばっかりする噂好きなちょっといや〜なおばさんも出てくるのだが、このおばさんの描写がものすごく上手なの。

噂好きで千代にいらん事ばっか吹き込んでくるのだが、ちょっと千代にもいけないところがあり(天然でニブチン)、千代のように天真爛漫でおおらかであることはいいことだし、本当に好感が持てるのだがニブイというのは一方で罪でもある部分もあると思う。

知らず知らずに誰かを傷つけていたりする、ということをこのいや〜なオバチャンから知らされる。読者が。すんごく感じ悪いおばちゃんなのに、案外真理をついていたりする。

この人物描写が極めて上手。

その証拠に千代のニブイところがちょいちょい出てくるし、迂闊なところとして戦後環境が変わっても出てくる。

寮母さんが寮生とチチクリあっちゃダメでしょ><

噂になるやん!というか人目につくでしょうよ・・と思ったら人目についたわ。

そして私が思い至らなかったことも描いていて、いや〜ちゃんと回収してくるなあ〜と感心した。

(例:他の寮生らが淫らなこと(「おばさん、ヤらせてよ~」みたいな)を言ってくる)

でもそんな千代ちゃんも憎めなくて。

彼とのあれこれは千代ちゃんにとって、初めての恋で初めての快楽だったんだなあと。

痛いだけのアレじゃない。性の悦びを知ったのだと。

なんだかジーンとした。

 

性の悦びといえば、重要なシーンがありました。

(重要でもないかも、だが、私にとっては重要だと思いました!!)

かっこいい女中頭のお初さんとアソコを見せ合うシーン。

見せ合うシーンの前には、自分のアソコについて詳細に説明するシーンもあったり。

いや〜これ、女性じゃないと描けない気がする。

男性が、あんなにもいやらしくなく、ちょっとユーモア交えて面白おかしく描けるだろうか。

でも茶化す感じでもなくて、この人ものすごいバランス感覚に長けているんだ。

と嶋津さんに興味津々〜。

 

人間模様が描かれている作品ではあるが、人間以外にも魅力的なものも登場していて、それがこのお家で飼われているトラオ(猫)。

これが、か〜わいいの。

他にも色々とアイテムや色々な人物が出てくるが何もかもが無意味じゃなくて。

丁寧に磨かれた床や食器、ワイングラス。美味しいお酒・・・飲みたくなってきた笑

 

ただ1つ!

途中でステキなおじいさま(重田さん)が出てくるのだが、この人だけはもうちょっとどうにか、もっともっと上手に使えんかったか?と残念な思い。

このおじいちゃんをどうにかしようという痕跡は見られたのだが、うまく使われないまま消えていった。あえて使わなかったのかなあ。匂わせはあったからいっちょかみしてくるか!?とワクワクしたのだが、あっさり登場してそのままフェードアウト。

あまり詳しく描かれなかったけど私は重田さんが好きだったぞ!

もっと重田さんについて読みたかったよ〜。

 

こちらの作品でも第二次世界大戦が描かれていたが(候補作6作品のうち3作品が第二次世界大戦について触れていた)、重苦しくなく、それでいて最低限きっちり描写がなされていてじっくり読むことができた。

何度もいうが、このバランスの良さは嶋津さん天性のものではないだろうか。

手に汗握る戦争描写がない感じ、時代が変わったのだとも思う。

そしてそうやって変わっていきながら、作家さんの手によって戦争の辛さや酷さもまた伝わり続けていくのだ、と思う。

 

そんな感じであもちゃん大絶賛だったのだが、その絶賛ぶりを聞いていた汗かき夫が

「じゃあ俺も読んでみようかな」

と言った時、私は

うーん、汗かき夫が楽しめるかどうかわかんないや

と答えた。

本物の直木賞受賞が惜しくも受賞ならず、だったのはそこだったのかもしれない。

 

「丁寧な暮らし」や「時間をかけて料理」(レンジはないし、一般家庭にガスコンロ、冷蔵庫もない時代)の描写に結構ページを割いていて、また女性同士のたわいない会話劇、百合的な女子同士の尊いふれあい・・・これらを楽しめるかどうか、にかかっている。

ちょっとだけ人を選ぶ作品かもしれない。

ハードボイルドとかそういう作品が好きな人はムリかもしれん・・

 

それでも私はわりと皆さんにこちらの作品をオススメしますけども。

嶋津さんの今後の作品にすご〜く期待したい!