八月の御所グラウンド | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

(あらすじ)※Amazonより

死んだはずの名投手とのプレーボール
戦争に断ち切られた青春
京都が生んだ、やさしい奇跡

女子全国高校駅伝―都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。
謎の草野球大会―借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。

京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは--

今度のマキメは、じんわり優しく、少し切ない
青春の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る感動作2篇

 

◆◇

 

第170回直木賞受賞作である。

あもる一人直木賞(第170回)選考会の様子はこちら・・

 

 

 

 

 

 

 

残念ながら私の順位では5位であったが、見事本物の直木賞を受賞!

でもでも一作も読んでない時点でやった「タイトルだけで選ぶ直木賞選考会」では・・・

 

>今回の受賞作は〜

>▽河﨑秋子『ともぐい』(新潮社)
>▽万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)

>のW受賞だと思います!

 

あもちゃん、すごくね!?

読んでもないのに2作とも当てるとか、わたしゃエスパーか。

(そして実際読んで、1作外すというオチ)

 

それはともかく、万城目さんは6度目の正直〜!!メデタイ!

そう、メデタイはメデタイんだけど〜・・・納得いかず。

 

今回の作品はいつもほど「直木賞向きじゃない」作品ではなかったが、そもそも万城目さんってもうベテランなんよ。大先生なんよ。

改めて感じたね。

あの書きぶりといい、余裕といい、原稿用紙を無駄にたくさん広々と使って(褒め言葉です)

オサレで小粋でちょっと切なくて、わりとくだらない話をあんな風に書けるなんて、大御所にしかできない。

私みたいな小心者、空白をぎゅうぎゅうに埋めたいじゃん。

沈黙の時間が怖くてしゃべり倒したいじゃん。

そんなことせずに堂々と腕組みしてどっかり座るサマはもう水戸のご老公(水戸黄門)。

私は好きだったよ、あの作品。

ただこの必死の肉厚の候補作品群の中に、飄々とした手練れの作家が書いたふわり軽い作品が1つヒラリ〜。

うーん、この異色感といったら笑!

 

選考委員らの間でも、違う時間軸で話し合われそう。

候補作としてではなく単純に作品の読書会みたいな感じでさ。

とか思っていたが、なんか受賞した。

メデタイけど今じゃなかろ、、という思いが~。

 

万城目さんは07年「鹿男あをによし」、09年「プリンセス・トヨトミ」、10年「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」、13年「とっぴんぱらりの風太郎」、14年「悟浄出立」の5作品がいずれも直木賞候補作となり、今回は6度目のノミネートでの受賞となった。

 

もう今さら直木賞なんて要らないんだろうと思っていたし(そんなわけない)、もちろん今回の作品での受賞は喜ばしいのだが、6度目のこの作品で受賞させるなら、「とっぴんぱらり」で受賞させればよかったんだと思うの。

欠点も多いけどすごく魅力的な作品だったよ。漬物石レベルに重たいし。←重量も文句なし!

過去候補作見ても、「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」での受賞は無理だし(コラッ)、「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」は読む人を選ぶにしても、「とっぴんぱらりの風太郎」「悟浄出立」は受賞に値する作品だったと思うのよ~。

 

さて内容だが、京都の若者のスポーツのお話が2作品。

最初の駅伝の話「十二月の都大路上下ル」はちょっとしたおつまみで、メインは本作品タイトルと同じ「八月の御所グラウンド」。

 

そのおつまみの「十二月の都大路上下ル」は私の好きじゃないタイプの作品だった。

主人公の女子高生が方向音痴すぎてイライラした笑

私が方向音痴じゃないせいか、極度の方向音痴(例えば汗かき夫!)を見るとイライラする。

方向音痴のくせにやたらと自信満々でそして間違えるし、右か左かの二択でも堂々と間違える。

十叉路(そんな道あるのかしらんが)で間違えるならまだしも、なぜ二択で間違えるんだ。

まるで汗かき夫を見ているようでイライラしました笑!!

方向音痴ってどうして根拠もないのにああも自信満々なんでしょうか・・・不思議な生態。

 

・・ってそういうこと作品ではないのだが、要するに駅伝選手である方向音痴の女子高生がルートを間違えそうになって、新撰組が現れてなんだかんだ正しいルートに戻って無事ゴール。そんな話であった。なんのこっちゃ。

 

そしてもう1作はメインの「八月の御所グラウンド」。

きっと直木賞候補選考係に万城目ファンがいるんでしょうなあ。

何度も言うが、万城目さんって直木賞向きじゃない。そんな中でもまだ直木賞に向いているタイプの作品を候補に挙げてきたな、とは正直思った。

しかし他の候補作を見たときのものすごい異質感たるや笑

 

万城目さんって変な作品書く人、というイメージがあると思うが(え?ない?私はある笑)、変な作品を書くだけじゃなくて、やっぱり上手いの。

その技術に「やっぱさすがだなあ」・・とちょっと感心した。今さらだが。

あの書きぶりといい、余裕といい、さすが。

わりとくだらない話(笑)を、原稿用紙を惜しみなく使ってオサレで小粋でちょっと切なくてあんな風に書けるなんて、大御所ならでは。

 

クラブのママさんのチュー(オジさんの言うところの接吻・・キッスよ)が優勝商品の野球大会とか、馬鹿馬鹿しすぎるでしょ!

大学の卒業論文の単位をエサに大学教授から無理矢理野球大会に参加させられる、とか馬鹿馬鹿しすぎるでしょ!

そこにホストクラブで働くホストの助っ人とか、元カノとの別れ話とか・・・鹿の内蔵取り出したりしている熊ʕ•ᴥ•ʔ文学の後に読んだもんで、そのあまりのギャップに思わず苦笑い。

 

だがその馬鹿馬鹿しさが少しずつ暗転・・ちょっと切ない話に変わる。

(ここが万城目さんの上手いとこ。さすがだなあ・・と。)

まさかそんな展開になるとは思ってもおらず、戦争により海に散った沢村栄治に想いを馳せた。

 

↓「沢村賞」由来の沢村栄治。この小説でも言ってたけどこんな顔だったのね。名前は知ってるけど顔までは知らんかった。

しかも沢村ってこんな最期を迎えていただなんて知らなかった。

 

今回の候補作6つのうち、半分の3作品が第二次世界大戦を扱う作品でした。

まさかその1つがこの馬鹿馬鹿しい作品と思われた万城目さんの作品だったとは。

「生きたかっただろうな」

の言葉が胸に刺さる。

 

野球、やろうぜ!

やりたくてももうできない彼らを思うと、ちょっと胸がちくっとする。

 

ただ基本的に馬鹿馬鹿しい作品ではある。

野球の素人ばかりが集まって、ただただ野球をやる話。

これ、野球を知らない人が読んでわかるんですかね。。と思いながら読みました。

野球のシーンが結構多い。

作品内では野球のルールすら知らない留学生も参加させられているのだが、ルールを知らないが故にアウトを取られるシーンなど、私はルールを知っているからそのアウトの理由やアウトを取られた情景が容易に思い浮かぶのだが、果たして野球を知らない人にこれが伝わるか?

野球を知らなくても楽しめる!・・・とはちょっと言いづらい気もする。

まあ野球を知っている私は十二分に楽しめました。

 

6度目の正直の報告をお仲間と待っていた万城目さん↓

 

私は

>あとは同じく京大グループのもりみん(森見登美彦)の受賞を待つのみ。

>もりみんの受賞が先だと思ってたんだけどな〜。

>(理由:もりみんの方が好きだから笑)

 

と書いたのだが、そのもりみんらと一緒に受賞発表を待っていたとは。

うーん、メンツが濃い。

 

「「特に森見さんとは、今までも直木賞というものに対してお互い不毛な議論を交わすことが多く、我々は正攻法ルートではなくて、不必要に面白ルートから攻めてるんじゃないかと…安全な進み方が確保されている道ではなくて、裏の誰も通ってない絶壁を目指しては滑落しているんじゃないかと。そういう話をずっとしていて。なかなかこのルートからの登はんは難しいんじゃないかと。やっぱり無理じゃないかとか話すような感じだったので、こうして獲れてしまったことがびっくりでして。次は森見さんだとバトンを渡したい気持ちです」と“盟友”に感謝とエールをおくった。」

 

自分たちが「不必要に面白ルートから攻めてる」とわかってらっしゃるのがウケる。

そんな万城目さんも言うように、次はもりみんですよ!!!!

首をなが~くして、お待ちしております。

 

とにもかくにも、6度目の正直おめでとうございます!