まいまいつぶろ | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

(あらすじ)※Amazonより

暗愚と疎まれた将軍の、比類なき深謀遠慮に迫る。
口がまわらず、誰にも言葉が届かない。
歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ蔑まれた君主がいた。
常に側に控えるのは、ただ一人、彼の言葉を解する何の後ろ盾もない小姓・兵庫。
だが、兵庫の口を経て伝わる声は本当に主のものなのか。
将軍の座は優秀な弟が継ぐべきではないか。
疑義を抱く老中らの企みが、二人を襲う。
麻痺を抱え廃嫡を噂されていた若君は、いかにして将軍になったのか。
第九代将軍・徳川家重を描く落涙必至の傑作歴史小説。
 

◇◆

 

第170回直木賞候補作である。

 

あもる一人直木賞(第170回)選考会の様子はこちら・・

 

 

 

 

 

 

 

残念ながら直木賞受賞ならず&あもる一人直木賞6位ではあったが、すごく面白かった。

ただいかんせん、他の候補作が強く、別の回の候補だったらもっといいとこいっていただろうになあ〜と思いながら、泣く泣く6位に。

とにかく候補に上がった時期が悪かった。

 

そうは言っても面白かったのは事実でありまして。

一番好きだったのは、徳川家重と正妻の此宮(増子女王)さんとのエピソード全般。

可愛かったなあ〜。

史実かどうかは知らんが(歴史に疎いもんで)、あそこが一番上手に描かれていて、思わずホッコリニッコリしちゃった。もう孫の可愛い恋愛を見守るおばあちゃんの気持ち。

あとは大岡越前のとことか良かったよね。

大岡越前といったら一般的には加藤剛かもしれんが、この小説内で「忠相(ただすけ)」と描写され、それが松平健演じる上さま(暴れん坊将軍)が「忠相」と呼ぶ声で再生されるもんですから、横内正の大岡越前で私はこの作品を読みました笑!←時代が〜。

とにかく前半は素晴らしかった!!!

上記以外でも作品の本筋である家重と兵庫の主従関係の描写の細やかさも素晴らしくて、もう文句なし!!

 

ただ後半が史実に合わせないといけないせいもあって、都合の悪いところが駆け足気味に。

よってあちこちにその皺寄せが出まくっていた。

前半の丁寧さと細やかさはどこに〜!?

(駆け足すぎて後半、ほとんど覚えてないもんね笑)

最後も無理やり終わらせた感が滲み出る。そこがとにかく残念!

これが時代小説の辛いとこなのだが(前も書いたことあるが)、いくらフィクションで色々描いても、点在する「史実」という中継地点は絶対通過しないといけない。

そこを通過するためにはどうしても今まで拡大解釈して描写し、色々盛って描いてきても、なんとしても一旦強引におさめてその中継地点を通過して、また次の中継地点までの間に盛って〜

・・を繰り返すうちにどうしても無理が生じる。

例えば主人公やその周囲の人間の性格の一貫性がなくなるとか。

 

私は史実には疎いので、実際家重がどういう人間だったかなどはまるで知らず、なんならこの小説でほとんど知ったレベルで、またこの時代にどういう事件があったとか人間関係などはまるで知らないが(学校で習ったこと以上のことは知らない)、それでも感じるの、その強引さが。

これが自然に描けた時こそ、きっとスンバラしい小説になるのだと思う。

多少強引であっても、読者を無理やりにでも納得させるような記述・描写があればなんとかなったかもしれないが、この小説にはその一捻りがちょっと足りなかった。

 

あとちょいちょい気になったのが、文章の不安定さ。

語り手がわからなくなる部分が何箇所かあった。

これ、今誰のセリフ?どういうこと?

となること数回。

お庭番(隠れた存在)のセリフ(心中)だから急に挟まってきたってこと?

いやそれにしても急に人物が入れ替わったりする?

などなど、セリフ描写や人物の入れ替わり方の表現にもう少し工夫があったほうが読者に伝わりやすいと思う。ただ説明があまりに親切すぎても鬱陶しいし、ここの足し引きが難しいところなんだけど。

なんだかんだ文句も書いたが、それでもやはり面白かったし、作者の村木さんには今後に期待!ということで。