(あらすじ)※Amazonより
1977年、エストニアに生まれたラウリ・クースク。
コンピュータ・プログラミングの稀有な才能があった彼は、ソ連のサイバネティクス研究所で活躍することを目指す。だがソ連は崩壊し……。
歴史に翻弄された一人の人物を描き出す、かけがえのない物語。
第170回直木賞ノミネート
第40回織田作之助賞ノミネート
◇◆
第170回直木賞候補作である。
あもる一人直木賞(第170回)選考会の様子はこちら・・
私はやっぱり宮内さんの作品が好きなんだなあ〜と改めて思う。
(前回候補作の『あとは野となれ大和撫子』は「ムム!?(by 楽天カードマン)」だったが、それ以外の候補作は素晴らしかった。)
異世界感というか、リアルな話なのにどこかSF感が漂っていて、すごく無機質なのに温かい。
宮内さんじゃないと描けない、そんな独特の世界。
ものすご〜く面白く読んだ。
今現在、ロシアやその周辺国を巡って大変な事態に陥っているが、そんな複雑なお国事情に巻き込まれて育つ少年少女たち。
出会い、友情を育み、政治的なことで国内外や彼らの生活が混乱し、そして別れていく。
そんな少年少女たちの1人にラウリ・クースクという少年がいた。ちょっと変わっていて、でもすごく頭のいい子。そんな彼の足跡をジャーナリストが辿っていく話。
・・・って思うじゃないですか!?
話はそんな単純なものではなく、途中のどんでん返しに「あっ!」って言っちゃった。本当に。
いや確かにそういう話でもあるし、すこぶるシンプルに話は進んでいく。
彼(ラウリ)が生まれた故郷から話が始まり、子供時代・児童時代・学生時代・・と時系列にラウリの足跡を現代のジャーナリストが追っていく。
ラウリの昔の話と現代のジャーナリストの話、で交互しながら前に進む。
その時間の行き来はタイムマシンに乗って移動し、どこか無機質で不思議感がある。
それはあったかもしれない別の世界線を描いているからかもしれない。
そんな描写も含めて読者をグッと引き込む。
ラウリの幼少期のコンピューターゲームを独学で作っていく話が面白かったなあ。
ドット絵らしきなもので、それを動かして〜とか、淡々とした表現なのにドット1つ1つ(単位はあっているのか笑?)に熱を帯びているような丁寧なシーンであった。
P C関係なんてまるでちんぷんかんぷんであっても、言わんとしていることはわかるし、こちらも一緒にゲームを作っていく感覚でワクワクしちゃう。
そんな楽しい話もあれば、学校でのイジメや政治的な話など色々な話が重ねられていく。
(宮内さんの作品って、文章や描写を「織り込む」というより「重ねる」の方がしっくりくる。)
色々な話が重ねられていくのに、常にその色は薄暗い灰色一色でその描写も素晴らしい。
とにかく重くて薄暗い。
いつ雨が降ってきてもおかしくない、そんな曇天色。
時々キラッとするエピソードも挟まれるのに、灰色の背景は変わらない。
そんなこと(色)どこにも書いてないのに、なぜか常に灰色の暗さが拭えないのだ。
これも描写のうまさなんだろうなあ。
全く描かれていないのに作品に色が乗っている。
すごく個性的な作家さんだと思う。日本語もちょっと面白いし。
(前もどっかで書いたと思うが宮内さん、幼少期をニューヨークで過ごしたそう。不思議な文章にちょっと納得である。)
そして少しずつラウリの時系列が大人時代になってくると、思わぬ事実が発覚するのだ。
いや〜「あっ!」って言っちゃったね。
まさかミステリ?要素があるとは思ってなかったので、いきなりそんな事態に陥り、
やられた〜><
と宮内さんのあまりの鮮やかな手口に、
こりゃ一本取られたね、とおでこを叩いちゃった。←リアクションが古い笑
しかもしかもラストもちょっと幸せなところもイイ!
無機質なSFなのに、ちょっとミステリ入っていて、そして温かなラスト。
うーん、読後感は最高でありました。
ただね〜。
この作品が大衆受けするかと言われると、うーん・・だし、面白いから読んでみて!と世の中の人たちに紹介できるか?って言われると些かためらわれるのも事実。
いや、面白いんですよ!面白いの。ほんと。
ただやっぱりちょっと難しいんだな〜。
描かれている内容は全く難しくないが、こういう作品を面白がれるかどうか好みがすごく分かれる作品である。
でもきっと宮内さんはずっとこういう作品を書いていくのだろうし、私はそんな作品を期待している。万城目ちゃんとも違うし、もりみん(森見登美彦)ともまた違う、でもちょっと変わった作品を描く宮内さんを私は応援していきたい。