たたかい終えて(第167回直木賞)。 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

あれから約4ヶ月。

ようやく第167回直木賞の選評についての記事ですよ〜!ドヤァ。

どうせ今回豪快に外したことですし、そのまま読まなかったことにしてスルーしたかったのだが、こうしてオール讀物も入手してしまった(言い方!)のでこのクソ忙しい中、ペンを・・いや、マウスを掴んだのであります。

 

それにしてももう秋が(いやもう冬レベルに寒い)やってきている。

もう次の直木賞が迫ってきている~。ひー。

光陰矢のごとし・・・矢どころか機関銃なみに過ぎていくんですけど!!!

誰の陰謀なんだーーーー!!!!

 

とかなんとかくだらんこと言っているそばからどんどん時間がすぎていく。

さっさと第167回の選評について触れていきたい。

 

 

↓あもる一人直木賞(第167回)選考会の様子はこちら・・

 

 

 

 

 

 

選評に入る前に、受賞記念に書かれた窪美澄さんの自伝エッセイはよかったなあ。

窪さん独特の柔らかでやさしい小説とはまた違う凄みがあった。

また、直木賞作家の白石一文さんとの受賞記念対談も普段の窪さんの様子を知ることができてよかった。

白石一文氏の作品はあまり好きではないのだが、窪さんと普段から親しくしているらしく、窪さんとの対談はなかなか踏み込んでいて面白く読めた。

そして皆さん、あの窪さんの小説の世界観に騙されてはなりませんぞ笑!窪さんはいい意味でも悪い意味でもすさまじい人であります。

そして窪さんも(白石さん同様)デビューは遅かったものの、やはり作家になるべくしてなった人のようであった。

窪さんは作家になる前から「自分の文章がお金に換わるというのはなんとなく分かっていた」んだそうです。

うーん、ゴイゴイスー。

今回は(たまたま!)推さなかったが、もともと窪さんは私の推し作家。

今後も良作を期待したい。

 

第167回直木賞受賞作家の窪さんについては以上です。

 

さて話は直木賞選評に戻り、本物の選考委員がいかに候補作を読んだのか、が選評として載っていたので簡単にまとめたい(受賞作を中心に)。

※ざっくり◎○△×で分けたが、選考委員の微妙な表現については私のさじ加減なのでご了承ください。

 

(選考委員は掲載順)

・浅田次郎 「絞め殺しの樹」 ◯

      「夜に星を放つ」 ◯

      「爆弾」     ×

      「女人入眼」   △

      「スタッフロール」△

 

直木賞受賞作発表直後の講評やあとで出てくる高村薫氏の選評によると、私イチオシの「絞め殺しの樹」が「一番厳しい評価」だったようなのだが、浅田さんの選評を読むとちょっとホッとする。アドバイスめいた言葉を紡ぎながら全体的には河﨑さんの作品に好意的で、窪さんの受賞作の次に高評価、と感じた。

受賞作の「夜に星を放つ」には、過剰な小説ばかりの昨今、久しぶりに豊かな文学性を感じた、とのことでありました。

 

・北方謙三 「絞め殺しの樹」 △

      「夜に星を放つ」 ◯

      「爆弾」     ×

      「女人入眼」   △

      「スタッフロール」△

 

直木賞受賞作発表直後の講評だと、受賞作と永井さんの「女人入眼」の次に「爆弾」・・だったと思うのだが、上記の浅田さんや北方のオジキの選評だけ読むと、本当に同じ回の選評?と疑いたくなるレベルの呉さんの「爆弾」に対する2人の選考委員の低評価よ(笑)

オジキは「爆弾」に特に厳しく、前半はよかったけど後半がね、この作家の作品はいつもこんな感じだよね、と。・・私と同じ意見でちょっとヤダ笑

しかも呉さんの面白いだけのエンターテインメント作品、は自分の小説観と微妙にズレていて、そういう私が選考委員をしているということで呉さんの不運だと思う。

だそうです。

要するに自分が選考委員でいる間は呉さんがこのまま同じ方向性の作品を書くのならば自分は高い点数つけられないよ、ちゅーことです。き・・・きびすぃ。

ちなみに受賞作は気持ちのいい短編集で言葉に無駄がない、いい受賞作であった、とのこと。

 

ちょっとぉ。最近オジキの選評がまともでマジ困る。←コラッ。

・・いつからそんな物分かりのいいオジキになったの。

しかもなんか今回は言うことは言います、的にいい感じの北方のオジキ感出してるし。

あもちゃん、寂しいわ笑

じゃ、仕方ない。今回もここでいつものお約束。

みんなお忘れかもしれないので、ここでオジキの名言をリピートアフタミー!

 

ソープに行け!

(・・・・・・)←耳を傾けてうんうんと頷くあもちゃん。

 

はい、よく言えました。以上です。

 

・宮部みゆき「絞め殺しの樹」 ×

      「夜に星を放つ」 ○

      「爆弾」     △

      「女人入眼」   ◎

      「スタッフロール」△

 

宮部さんは「夜に星を放つ」と「女人入眼」を推したそう。さらにこの二作で決戦投票になった際は「女人入眼」を推したらしい。鎌倉時代小説の大先輩である永井路子氏を持ち出し、「女人入眼」のよきところを長文で綴っております。

宮部さん、いつもは受賞作にしか触れないのにここ最近は全候補作について触れ、さらに今回はどの作品を推した、と明確に書いてくれていました。こうして選評を読む身からするとこの上なくありがたいことであります笑

 

・三浦しをん「絞め殺しの樹」 ×

      「夜に星を放つ」 ○

      「爆弾」     ◎

      「女人入眼」   ◎

      「スタッフロール」×

 

しをんちゃんが選考委員になってから初めて、しをんちゃんの選評に、ん~となった。

それでも選評の内容自体は相変わらず丁寧で、特に技術的な視点からの選評は本当に勉強になる。

受賞作の技術的な欠点?への指摘(たとえばこっくりさんの登場回数)も、私も同じように思っていたので納得できたし、私にはイマイチだった「爆弾」への高評価の部分も「それはちょっと評価が高すぎるでしょ!?」とは思うもののなるほど納得。

ただ「絞め殺しの樹」についてがな~。主人公が手に職つけて自立もできるのに、なぜ辛い環境から逃げないのか、とどうしても思ってしまう、という選評は、うーん。Amazonのコメントの中にもそういうのがあったのだが、田舎で育つとその逃げない、逃げるという考えそのものがない、という感覚がわかると思うのだが、しをんちゃん、横浜雙葉のお嬢様だからな~。

都会の人には田舎の人間の肌感がわからないでしょ、とは言いたくないが、多少そういう面が出た選考会であったように思う。

 

・髙村 薫 「絞め殺しの樹」 ◎

      「夜に星を放つ」 ○

      「爆弾」     ×

      「女人入眼」   △

      「スタッフロール」△

 

いつも選評が厳しめの高村さんが、選考会で「一番厳しい評価」だった「絞め殺しの樹」にまさかの高評価!うっそーん。

私が推した作品を推してくれたのは嬉しいけども!!!うっそーん。信じられん笑

髙村さんの「絞め殺しの樹」に対する選評でステキだと思った箇所。

 

「評者以外のほぼ全員(の選考委員)が女主人公の意志の弱い生き方についていけない、という意見だった。しかしながら、戦前戦後の北海道には厳しい自然と生活に翻弄された弱い人びとが山ほどいただろうし、その一人一人のささやかな感情の歴史を掬い取るのが小説だとしたら、本作の主人公のような女性の造形も十分ありうるだろう。また本作は、土地の歴史と風土が生きているという意味でも小説の王道である。」※()内は私が補充したもの

 

河﨑さんの作品を推した私がこれを読んだときにすごく嬉しかったくらいだから、きっと河﨑さんがここを読んだら泣いちゃうだろうな笑

そして髙村さんは

「ところで、主人公に共感できる小説は優れた小説なのだろうか。」

と私たち読者に、そして同席する選考委員にも疑問を投げかける。

私もそれはずっと思っていたこと。

音楽も、小説も、その他のものも、共感できること=良作、なんでしょうかね。

ピアニストの演奏をよく聴くが、あの楽譜の部分をそういう理解で演奏するんだ~、私は違うけど~ということがよくある。

だからって悪い演奏、とも思わないし、なんなら、そういう解釈しちゃうのね!と感動までしちゃったりもする。

読者や選考委員の読む能力を髙村さんは問うている。

共感できない=駄作、と評価してしまうのは、突き詰めれば単なる好き嫌いだけになってしまう。

友達同士の会話ならそれでもよいが、作品の善し悪しを評価する場合においてはそれは違うと思う。

最終的にはそれが決め手になることもあるだろうが(同点の場合とか)。

その疑問を私は常に真摯に受け止めたい。

 

どうでもいいけど、「爆弾」に対して髙村さんがオジキ以上に厳しくて、思わず笑ってしまった。

「最初から最後までスズキタゴサクの冗長なお喋り以外に立ち上がってくる世界がないのは、落丁かと思ったほどだった。」

 

落丁っっっっ!!!!

皮肉がこわいっっっ!

髙村さんのこと、好きになりそう笑

 

・林真理子 「絞め殺しの樹」 △

      「夜に星を放つ」 ◎

      「爆弾」     △

      「女人入眼」   ○

      「スタッフロール」△

 

今回も、海外を舞台とする作品について林のおばちゃんお得意の

「『どうして日本人の作家が、海外の話を書かなくてはいけないのか』というものを最後まで拭い去ることができなかった」

が聞けるわ!(←「スタッフロール」が米英が舞台で、米国人英国人が主人公)

と楽しみに読み進めたのだが

 

「どうして日本人が、外国人になって小説を描かなくてはいけないのか、という疑問が今回は全くわかなかった」

 

ズコーーーーーーーーー!

おばちゃん、日和ったか。

 

前回の逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」についてそういう疑問がわいたのなら、今作でもわいて良さそうなんですが・・!?

あもちゃん、その基準がわかんねえ!!!

 

ちなみに受賞作については、

短篇集はともすると不利になることがあるが、窪さんのこの作品は本当に星のようなきらめきをはなっていた

そうです。

 

・角田光代 「絞め殺しの樹」 ×

      「夜に星を放つ」 △

      「爆弾」     ◎

      「女人入眼」   ○

      「スタッフロール」△

 

全体的にしをんちゃんと同じような選評であった。

しをんちゃん同様、「爆弾」を推したらしい。

髙村さんは「落丁じゃないか?」とか言ってましたが笑

これだけ選考委員の中でも評価が割れるんだもの、そりゃ私なんかが当てられるわけないわ~!!←これは大声で言いたい。

 

高評価だった受賞作、そしてそれに対するほかの選考委員の選評に対してはクールで

「こっくりさんのくだりは、自分には安易に思えたがこの短編こそすばらしいという声も多かった」

と書いていて、角田さんの中にちょっとした不満が垣間見えた気がするのは私だけでしょうか笑

 

しをんちゃんも書いていたこっくりさんのくだり(「真珠星スピカ」)、だが、私もこの2人の選考委員同様、え~・・・と思った側であります。

「よくなかったのは・真珠星スピカ」

と断言してたくらいですし・・・

どこがすばらしい短編やねん!・・って推し作家の窪さんが悪いわけではない。

 

「絞め殺しの樹」についてもほぼしをんちゃんと同じ。

角田さんも都会の人なんやろか・・?

と思ってwiki見たら横浜の人であった!やっぱり!!大都会!!

 

・伊集院静 「絞め殺しの樹」 不明(多分×)

      「夜に星を放つ」 ○

      「爆弾」     △

      「女人入眼」   ◎

      「スタッフロール」不明(多分×)

 

ご本人は「女人入眼」を推したらしいが、受賞作「夜に星を放つ」にも高評価。

今日のテーマ(=新コロ)に果敢に取り組んだ点で、頭ひとつ抜けていた印象だった、とのこと。

海外が舞台の「スタッフロール」には触れないんか~い!

いつもの台詞(林のおばちゃんと同じやつ)を書いて欲しかったのに。そしてそれに対して文句を死ぬほど言いたかったのに!くぅ~。

 

そして最後は桐野夏生氏。これはちょっと面白かった。

 

・桐野夏生 「絞め殺しの樹」 ×

      「夜に星を放つ」 ○

      「爆弾」     ×

      「女人入眼」   ◎

      「スタッフロール」△

 

 

小説世界に没頭できるのは、主人公もしくは登場人物の主体性に負うところが大きい。共感できれば、するするとその世界に入り込めるし、反感を持てば、その人物と小説世界の調和について考え続けることになる。反感以前に納得できない場合は辛い。それでも目新しい魅力的な人物に出会いたくて、読者は本の旅を続けるのだが。

 

と冒頭に書いていた桐野氏。

結局どういうことやねん、とか思うが(笑)、とりあえず共感は大事、さもなくば共感はできなくとも納得させてほしいと言ってるってことで。

作品に共感できることが優れた作品といえるのか、と疑問を呈した髙村さんとは違う視点。

そりゃ私が受賞作を当てられるわけないわ~。と何度でもいう~。

そして「爆弾」については、前半後半の落差がすごすぎる、と私と同じく感想。

 

選考委員全員の選評を読んでみて思ったが、受賞作である「夜に星を放つ」は選考委員全員が悪くない印象であったものの、他の作品と比べても圧倒的という感じがしなかった。

むしろ長所短所はあるけれど「女人入眼」が刺激的!という印象を持った選考委員が多かったように思う。角田さんは「窪さんの作品は選考委員の中でダントツの高評価であった」と書いていたが、選評を読む限りは紙一重での受賞という印象。

 

選考会当日のナマの現場で交わされる意見と、家に帰って各々が改めてじっくり書く選評ではやはり温度差や意見が違ってくるんだろうなあ。

あのときはこう言ったけど・・もう1回読んでみたらやっぱり・・とかさ。

(そんなんで意見変えられても困るけども!)

 

そんなわけで、あと2ヶ月もすれば次の直木賞候補作の発表がやってくる。

いや、早すぎるって!!!

誰の陰謀なんだーーーーー!?

 

今回の選評を参考に、次回こそ当ててみせるぞー(棒)!