スタッフロール | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

 

 

(あらすじ)※Amazonより

映画に夢を見て、映画に魔法をかけて、私たちは生きていく。

 

戦後ハリウッドの映画界でもがき、爪痕を残そうと奮闘した特殊造形師・マチルダ。
脚光を浴びながら、自身の才能を信じ切れず葛藤する、現代ロンドンのCGクリエイター・ヴィヴィアン。
CGの嵐が吹き荒れるなか、映画に魅せられた2人の魂が、時を越えて共鳴する。
特殊効果の“魔法”によって、“夢”を生み出すことに人生を賭した2人の女性クリエイター。その愛と真実の物語。

 

◆◇

 

第167回直木賞候補作である。

↓あもる一人直木賞(第167回)選考会の様子はこちら・・

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の直木賞候補作で私の度肝を抜いた傑作、『戦場のコックたち』や『ベルリンは晴れているか』以上のものを期待して読んだのだが、残念ながら言葉は悪いがちょっと期待はずれであった。期待値が高すぎたせいもあるのかもしれないが。

 

 

 

全体的にはこの2作よりスッキリとして読みやすくなったのだが、そのせいでいい意味で存在感の大きかったゴツゴツとした岩のような荒い描写が全くなくなった。それが非常に残念。


舞台はハリウッド映画の特撮の世界。
前半はアナログな特殊造形の世界に生きたマチルダ、後半ではその数十年後のロンドンでCGの世界でアニメーターとして生きるヴィヴィアンを主人公に据え、その二人を結びつける複雑数奇な運命を描いている。

映画に詳しい人は、特撮やCGが多く使われてきた戦後の映画作成の歴史も詳細に描かれているので(『2001年宇宙の旅』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やらの懐かしい特撮映画の名前がたくさん挙がるし、実在のスピルバーグやルーカス、カーペンターやキューブリックなどの映画監督の特撮やCGへの取り組み、その歴史についてもかなりの頁を割いて描かれている)、そういう点では楽しめるんじゃなかろうか。

 

という感じで前半の特撮の仕事に情熱を傾けるマチルダの章もそこまで面白かったわけではないが、まあまあ楽しめた。

それが舞台が数十年後のロンドンに移った時から、全体的に登場人物全ての動き方の意味がわからなくなってしまった。

そんなに複雑な動き方しなくても最初からこうしていればよかったのでは・・・?

とかミステリー要素(とまではいかないけど)を少し入れたかったのか、そちらとのバランスがすごく悪かったように思う。

二人目の主人公ヴィヴィアンが勝手なことばっかするんだわ〜。

 

そしてこれは仕方ないことでもあるのだが、CGやPC技術について説明をしないと前に進めないため、そちらに労力をだいぶ取られてしまっていて、肝心のストーリーが割と雑になっていた。

ヴィヴィアンがギフト(天賦の才)を持つがゆえの悩みを描くシーンなどはもう少しじっくり向き合ってみて良かったのではないかなあ。

ただそのおかげで、私の中で大興奮の中で終わったアニメ「鬼滅の刃・遊郭編」でのエフェクトやらCGやらの苦労に思いを馳せながら読むことができた〜。

こんなに苦労してあの神回と呼ばれた妓夫太郎と私の推し柱・宇髄天元様の死闘も作られたのかと思うと泣ける。しかしこれだけ時間と労力が必要となると、刀鍛冶の里編は来年だろうな。

とかとか色々思いながら読むことができたのは良かった。

 

そしてCGより特撮の方がよい、と豪語するヴィヴィアンの地元の映画マニアとヴィヴィアンが怒鳴り合いの大ゲンカをするシーンは面白かった笑

なのにせっかくそのきっかけとなったお兄さんの存在が中途半端でそしてフェードアウト。

お兄さんだけでなく、全体的にちょっと出ては消えていく人物が多かった気がする。

 

ただただ、1つだけよかったことが!

それは主人公や舞台を外国人・外国にすること。

前回の候補の時も、前々回の候補の時も、外国人を主人公にして外国を舞台とすることに意味があるのか、とか言う直木賞の選考委員がいるんですよ〜。

余計なこと言わずに日大の立て直しに勤しんでいてほしいわ。

 

毎回毎回そんなこと言われながらも今回も外国人が主人公で外国が舞台。

しかしこれがこの作品ではすごく大事な意味をなしていた。

外国人の名前ってピンとこないじゃないですか。

だから、前半のマチルダの章で出てきた登場人物が、後半のヴィヴィアンの章で実はあの時の誰々が〜って感じでポロポロ再登場してくるのだが(映画世界って狭い。ま、どの業界も狭いんだけど)、外国人の名前のせいで最初からサラッと名乗られているのに、後からその正体がわかって、ええええ〜!これ、あの人だったのね!という驚きが日本人名であることより大きいと思いました!

・・・以上です。

 

ちょっと映画に詳しい人に読んでもらって、感想を聞かせてもらいたいところではあるが、深緑野分さん推しの私としては、今作品についてはいまいち感が否めませんでした。

次回作に期待!!!