12月のマデイラ下流への小旅行・5
初日、オレがまず小さなアスーを釣った。ネグロ河水系のアスーと比べると僅かに3本の黒いバーの直線的さが弱いかな、とも思うけど、キクラ・ピニーマほどには乱れていない。あきらかにアスー、すなわちテメンシスである。
初日の一発目アスー
アスー・フィッシングでは、岸辺のストラクチャをなるべくタイトで攻めるってのが、キモ中のキモである。ガイドとしてご法度かも?、の反省はあるけど、2発目もオレだった。岸辺に沿うようなコースに入ったサミーに水面が炸裂! ボート・パイロットが、デカいぞ! と叫んだ。オレも炸裂の水飛沫からして、そのように見えた。2~3秒の間をおいて(これがトップ・フッキングでのキモであることは、言うまでもな~い)、合わせたけど、突っ込みが思ったより弱い。上がってきたのは、ややパッカ模様をした1.5キロくらいの小物じゃないか。
2発目のテメンシス
パイロットは、水面でバイトしたヤツは、明らかに数キロはあった筈だと言って残念がった。おそらく、たぶん、デカい個体が炸裂したんだけれど、そいつがルアーを食いそこね、傍にいた別の小さいヤツが食ったんだろう、と結論した。こんな経験は、前にもある。
お客さんにも釣ってもらわなくっちゃいけないでしょ。ジョーちゃんのトップに待望のバイトがでた。バシュ~んと跳ねたのは、シルバー・アロワナくん。彼は以前のメシアナ島で、大きなアロワナをたくさん釣ってるからねぇ。
続く
12月のマデイラ下流への小旅行・4
さて、釣り場のお話しをしよう。マモリ水路に面したところに、いくつかのラーゴ(湖沼)がある。友人の怪魚ハンター、武ちゃんがお気に入り、ジュマ湖も遠くない。余談だけど、ジュマってのは、伝説の巨獣マピングアリと、ほぼ同義語でもある。マピングアリってのは、アマゾン密林奥地に生き残っているというユーマ(UMA)であり、それは1万年ちょっと前まで南米広域にいた地上棲大型ナマケモノが正体であるという説は根強い。
地上棲ナマケモノの化石とオレ(パタゴニアにて)
ジュマの語源は、おそらくビッグ・フットという意味だろう。同名であるジュマ族ってインディオがマデイラ流域に昔はけっこう多く居住していたんだけど、アマゾンでもっとも好戦的で人数も多かったタパジョス流域のムンドゥルク族に200年くらい前に大襲撃されて、多くが干し首にされて、ほぼ壊滅した歴史をもっている。それはさておき、到着早々にタックルを用意して、タートル湖に繰りだした。
それにしても、空に黒い雨雲が多いなぁ。ボート・パイロットの話では、このところ急に水位が上がっていると言う。これは、実にまずい兆候であるね。
続く
12月のマデイラ下流への小旅行・3
それから、ジョーくんといろいろと相談を繰り返した。アスー・フィッシングの本拠地は、ネグロ河が定番に決まっているけれど、そこは乾期の水位が事前(半年くらい前)に読めないこと。上流のバルセロスにマナウスからエア便を就航していたアズール社が取りやめた時期だったこと(その後、ローカル便MAP社が飛ばすようになった)、などなどあり、マデイラ河下流を舞台に選ぶことになった。
タートル・ロッジのフルトゥアンチ
利用するインフラは、アマゾン・タートル・ロッジに決めた。ここはマナウスからネグロ河とアマゾン本流を渡ってカレイロ船着き場まで船で行き、そこから陸路で3時間くらいでマモリ水路、そしてアマゾンカワイルカがウヨウヨいる水の濁った水路をボートで1時間くらい、狭い水路でブラック・ウォーターのラーゴ・タルタルーガ(タートル湖)に入って30分くらいで到着できる。湖畔にフルトゥアンチ(浮家)小屋があって、そこからちょっときつい傾斜の板でできた階段を登った見晴らしのいい場所に、小ぎれいな木造のコテージが建っている。各部屋には、きちんとエアコンも設備されている。
フルトゥアンチに到着したとき、こういう欧米人向けのロッジでは定番と言えるウェルカム・ドリンク(アマゾン果実のジュース)が供された。アテンドしてくれた女の子が、鄙(ひな)にも稀な美女だったんで、ちょっち驚いた。彼女は、厨房や食事場でも働いていた。後でツーショットの記念写真を撮らせてもらおうと、実はもくろんでいた(笑)んだけど、チャンスが来る前にロッジから消えて(おそらく仕事の交代)しまったのが、悔やまれることになった。
続く
12月のマデイラ下流への小旅行・2
2013年にメシアナ島、ピラルク・チームに参加してくれた隊員に、マスター・ダース・グランデ卿のインライテンメントでフィッシング・フォースに目覚めたダース・ジョーくんがいる。
某日、彼からメールが入った。2016年12月にアマゾン再挑戦。休みがとれる時期が限られていること、夢として小さくても少しでもかまわずに、アスー・ピーコックバスを狙ってみたいというご希望。
アスー・ピーコックバスの分布地図
上のマップにあるように、本種の分布は、オリノコ河。アマゾン本流の北岸では、支流ネグロ河全域、ネグロの東にあるウルブー川、その東にあるウァトマン川の下流。本流の南岸では、マデイラ河の下流域とそれに隣接する地域。文献では、テッフェ湖にもいることになっているけど、オレは確認していない。
続く
12月のマデイラ下流への小旅行・1
オレのツイーター、6月26日~10月13日に掲載したお話しにキクラ属(ピーコックバス類)全種概説があった。その中で書いたけど、同属の最大種であり、テラ(地球)上のシクリッドの最大種が、学名キクラ・テメンシス(Cichla temensis)である。最強の博物学者フンボルトがオリノコ探検で採集して、1821年に記載した種であるね。
テメンシス種は、ブラジルでツクナレ・アスーって呼ばれる。アスーってのは、先住民トゥッピ・ガラニー族語源で、「でっかい」を意味している。例えば、イグ(水)+アスーが、巨大瀑布で知られたイグアスであるね。
リリ禁法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)のせいでバス・フィッシング業界は、極東島国で大きく衰退したけど、それ以前は多くの若いサピーが、バス釣りにはまっていた。北米原産のラージマウスバスから釣りに目覚めたアングラーたちは、島国のウルさい規制には、うんざりしているんじゃないか? そのせいだろうか、最近の流行(?)になってきた秘境・遠征釣行では、そんなアングラーの憧れ的な存在が、このアスー・ピーコックバスになりつつある。
続く
インペリアル・ドリーム・7
翌日のこと、魚を採ったんで来てくれと子供が呼びに来た。彼らがストックしてくれた魚を観にいく。おっとキンペコがいる。この辺りに生息する本種は、尾柄が余り太くない。もっと下流にいる個体群は、そこが太いものが多い。パラ大学のレアンドロがこの種の記載を準備中だけど、彼がオレにリークしてくれた情報では、熱帯魚漁師が血眼になって探している白部分が太い変異も含め、DNA的にはぜんぶ同一種らしい。
キンペコが観れた
そして、大事そうに子供がペット・ボトルに入れていたインペが1尾いた。Sさんに野生個体を見せられて良かった良かった。もちろん、子供たちへの謝礼は忘れてない。
そんだこんだで、Sさんのシングー案内が終わった。滞在の最終日にパラ大学構内にある熱帯魚養殖研究ラボに行くはずだったけど、運が悪いことにブラジル全土的な学生のマニフェストが始まってしまい、構内に入ることができなかったのが、まことに残念。
Sさんのインペについての思い入れは、たいへんに濃厚だ。それは、彼のブログ、『インペの恩返し・・・』を訪問すれば、理解できると思う。下のURLで、ぜひ訪問してちょうだい。
https://ameblo.jp/corvette821/entry-12318711004.html
Sさんは、野生インペ調査資金を得るためにオレがやっているTシャツや博物画などの販売を手伝ってもらっている。いつも、ありがとうございます!
【本編終了】
インペリアル・ドリーム・6
昔は釣りもしてたってSさん言ってたから、我々は、フィッシング遊びもやった。でもあんまり釣りに時間を食いたくなかったんで、移動の途中でのトローリングをすることにした。ほどなくしてSさんは、ブラック・ピラニアを釣った。
さてと、せっかくシングーまで来たんだから、Sさんにキンペコ、できればインペを観てもらいたんだけど、3人という少人数では無理そうだ。これは、人海戦術を使ったほうがいいかも。インペ生息地付近の島には、プレコ漁師小屋があって、そこにはガキ共がたくさんいる。ちょうど彼らたちが潜り遊びをしていたので、いろいろ採ってきてくんないか、と頼んだ。
夕方が近くなったころ、再びトローリングすると、ビックーダが釣れた。カショーロも2回くらいきたんだけど、ジャンプでバレた。
実を言うと、オレはシングー下流の激流の釣りをマジにやったことがない。明らかに上流より釣魚の魚影が少ないのは、事実。だから、フィッシング・チームのスポットとして選んだことがないんだ。でもまあ、熱帯魚観察のついでの遊びなら、楽しめることが判った。
インペリアル・ドリーム・5
ナウドは、イタマラカ激流の上で投網を投げていた。彼が狙っているスポットは、岸辺から水中に繁茂しているカワゴケソウ地帯。
カワゴケソウ帯で投網を打つ
もちろん狙いがあってやってる。アマゾン支流の岩盤斜面には、カワゴケソウ食いパクー類たちが進化している。その中の珍種オッスブトゥス・シングーエンセ(Ossubtus xinguense)を採るんだ。上手い具合に小さいのが、2匹採れた。後でオレが大学ラボ水槽に、生体を寄付した。
急流に棲むオッスブトゥスの子供
さて、この他に採れたのは……
ペコルティア・ヴィッタータ系
マツブッシー若魚
シングー潜りは、いろいろな種類が観れて、実に楽しい。
インペリアル・ドリーム・4
Sさんには、なるべく流れが弱いところで潜っててもらって、オレは、水中カメラ片手に潜ってみた。澄水のシングー水中景観は、たいへん素晴らしい。
シングーの流水地帯にたくさん生息していて、もっとも簡単に観察できるのが、ドワーフ・パイク・シクリッド、すなわちテレオキクラ属の小魚であるね。パイク・シクリッドが専門分野であるインパ所属のプリシラ・マドカ嬢(日系)に、シングーのテレオキクラについてご教授を願ったことがあるけど、オレには未だ種類判別がよくできない(汗)。
画像は、おそらくテレオキクラ・シンデレラ(間違ってたら、ゴメンナサイ)と思う。これって、すごっく可愛い種小名でしょ。コスプレ・フィギアをニヤニヤとイジくっている君々、寂しい人工造作ブツから自然界の美造形の鑑賞に宗旨がえして、この小魚でも飼ってみたら(笑)? そっちのほうが、ずっと恰好いいよ。ちなみに、シングー中流の急流には、テレオキクラ・センチスクアマって、ド珍種も生息している。最近聞いたウワサだけど、ドイツの輸入業者に少し入荷したらしい。
岩の割れ目にいたレポラカンティクス
テレオキクラがいた岩の割れ目の奥で何かが動いたぞ。おっとプレコだ。灰色の基色に黒スポット、こいつはレポラカンティクス・ヘテロドン(ホワイトオレンジトリムプレコ)だね。
インペリアル・ドリーム・3
シングー最後の急流ポイントに多いプレコは、バリアンシトルス属の現地名“アカリ・ヴァルデ”である。アクアライフ誌2017年2月号で、オレは本種を紹介している。記事の写真キャプで、『近い将来、新種記載されると思われる……』、って書いちゃった。しかしながらぁ~……
前々からバリアンシトルス・シャンテルス(Baryancistrus xanthellus)すなわち、オレンジフィン・カイザー・プレコの地域変異を研究していたインパ(アマゾン研究所)所属ラリッサ嬢が今年の中旬に、“アカリ・ヴァルデ”のDNAシークエンス検査の結果を発表した。そして、「“アカリ・ヴァルデ”は、オレカイの地域変異にすぎないわよ~ん!」という結論を出してしまった。そんな訳で、AL誌に書いた文章は、オレの早とちりでしたぁ~、とここで謝罪をしときましょう(笑)。
今回ベロ・モンチ急流で採った“アカリ・ヴァルデ”は、オレカイ変異
余談だけど、大型オレカイは美味なシングー・プレコの中でも、たいへんジモピーに好まれている種類だ。スープにして逸品、甲殻類もイメージできる丸焼きは絶品。10月頃に♀は抱卵し、それを塩漬けにしたオレカイ・キャビア(オレのオリジナル)もド珍味である。

























