騙し絵の牙
2021/4/3 ユナイテッド春日部
思えばこの作品、本公開まで長かった。
予告編をそれこそ何度見たことか。
2020年6月19日から公開される予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により延期され、2021年3月26日にやっと公開された。
- 6月19日から公開を予定していた俳優の大泉洋(47)主演の映画「騙し絵の牙」の公開が新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期されることが分かった。15日に「騙し絵の牙」製作委員会が発表した。 (2020年4月15日)
- 映画『騙し絵の牙』が本年中の公開は見送り2021年に公開することを決定した。(
- 主演の大泉洋ほか、松岡茉優、宮沢氷魚、池田エライザ、斎藤工、中村倫也、木村佳乃、小林聡美、佐藤浩市ら超豪華キャストの共演で話題の『騙し絵の牙』。公開が延期されていた本作の新公開日が2021年3月26日(金)に決定、大泉さん自身の口からそれを伝えるスペシャル映像「未来で待つ男」も到着した。(
上映作品が鑑賞済みの『シン・エヴァ』だったのと、
上映時間も合わず、
「オレは『ノマドランド』が見たいんじゃ!」と、
それすら上映されていないこの初訪問シネコンを立ち去り、
春日部駅から近い、ララガーデン内の
2007年11月8日オープン
ユナイテッド春日部に移動。
しかし『ノマドランド』はまたしても時間が合わず、
だったらさすがに予告だけで済まさず、
いよいよ『騙し絵の牙』を観てみるかと。
相変わらず前置きが長いが、
観てみた感想は?
面白かったですよ!
出版社を舞台のストーリーですが、
文学界や出版社、
作家と編集者の関係や問題が克明に描き出され、
そこに現実味や真実味があってウソ臭さがないため、
ドラマに説得力があり、
飽きず、退屈せずに、最後まで全く眠くならずに鑑賞終了。
で、ここから先は、ネタバレとはいかずとも、
映画の内容に触れますので、
白紙状態で鑑賞希望の方は閲覧をお控え下さい。(赤字部分)
エンドクレジットで、映画独自のオリジナル脚本ではなく、
原作小説があったと知り、
帰宅後に調べてみた。
すると原作は、2017年8月31日にKADOKAWAから刊行された塩田武士によるミステリ小説の『騙し絵の牙』とのこと。
塩田氏は、
- 大学1年の19歳の時に藤原伊織の『テロリストのパラソル』を読み、作家を志して創作活動を開始。
- 新人賞に応募し続けるも12年間は芽が出なかった。
- 大学卒業後に入社した神戸新聞社での将棋担当記者としての取材経験を活かし、2010年、プロ棋士を目指す無職の男を新聞記者の視点で描いた『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞。
- 全選考委員が最初の投票でマルをつけ満場一致での受賞となり、2011年、同作で作家デビュー。第23回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞した。
- 2012年に神戸新聞社を退社し、専業作家となる。2013年に娘が産まれた。
- 2016年、グリコ・森永事件を題材のモチーフとした『罪の声』で第7回山田風太郎賞受賞。
- 同作は2016年版の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、2017年版の「このミステリーがすごい!」で第7位、第38回吉川英治文学新人賞候補に選ばれた。
- 2018年、『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞受賞。
——とのことで、同氏がご自身で身を以て経験した出版界の問題が作品内にちりばめられているし、
塩田氏ご自身が確固たるストーリーテラー(語り部)であることも、『罪の声』に続いて実証している。
小説の話ばかりで、これでは映画の話にならないので、
そちらのスタッフにも目を向けると、
監督は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)
『クヒオ大佐』(2009)
『桐島、部活やめるってよ』(2012)
——の3本だけは私も鑑賞済みで、
どれも面白く、眠くならなかった(これけっこう重要。初回から眠くなる映画のなんと多いことよ!)
吉田大八監督。
映画『騙し絵の牙』は、
原作を一度バラバラにして、映画用に脚本を再構築した。
そのため、大泉演じる速水であれば、大泉らしさが排除されており、大泉は「(原作で当て書きされていたのに)私が出た映画の中で一番、私っぽくなかった」と述べている。
——とのこと。
その要素は剥がされながらもしかし、
どの仕事でも、
誰もが自分の関わる部署や部門、
仕事の中身が一番だと自負(勘違い)し、
その分担がなくても実は困らないという事実を絶対に認めないから、
世の中の流れに取り残されていく
——という骨子はきちんと伝わったので、
まったく問題なかったと思う。
強いて挙げれば、
各キャラが社内のエレベーターで絶妙に顔合わせする場面が重なったのはちょいと残念。
「謎の男」が、才能を開花させずに、
ある程度裕福に暮らしているのもこれまた「謎」
また架空キャラの設定名が、
ドラマとリンクしているのも出来すぎた話で、
城島咲(池田エライザ)と伊庭
ではあったけど、
それは原作からだったんだろうし、
些末なことなのでおいておく。
大泉洋はもちろん、
もう一人の主役級、
松岡茉優の左利き演技も冴え渡る。
この作品の中では、
世の中や社会の仕組みが正常に機能しており、
現実世界ではごまかされ続けて追求されない責任で失脚していく
権力者争いの図式も心地良かった。
とまあ、私は堪能したんですけど、
同様に私は好意的評価だった、同じ塩田武士原作の『罪の声』の時も、
非常にギュッと中身が詰まった142分=2時間22分。
全くアクビも出ず、
ずっと集中し続けたまま、
濃密な鑑賞を終えました。
映★画太郎氏のレビューだと、