[睡眠の質”が甲状腺刺激ホルモンの構造に影響]
(Qlife 2017年3月31日)
睡眠の質が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の構造に影響を及ぼすことを、
兵庫医科大学内科学講座の角谷学助教、小山英則主任教授らの研究グループが
発表しました。
この発見で、睡眠障害と肥満や糖尿病などの生活習慣病をつなぐひとつの
道筋が明らかになり、新薬開発に結びつくことが期待されます。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、血液中の甲状腺ホルモン値に応じて脳下垂体
から分泌されるホルモン。
甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン値が低下すると分泌量が上昇し、反対に
甲状腺機能亢進症では減少します。
まれなケースとして、免疫グロブリンと結合した血清TSHが代謝を受けずに
高濃度で血中に滞留する「マクロTSH血症」という病気があります。
従来、マクロTSHはマクロTSH血症患者にしかないと思われていましたが、
今回の研究でマクロTSH血症ではない患者の血清にも多く含まれていることが
明らかになりました。
同大学では2010年から、睡眠や疲労、自律神経機能といった神経内分泌学的
機能が糖尿病やメタボリックシンドロームなどの発症にどのように関与して
いるかを明らかにするため、コホート研究を行っており、現在1,000人以上の
患者を追跡しています。
研究グループは、このうち甲状腺疾患がない314人の血清TSHを解析しました。
<睡眠障害のバイオマーカーに>
解析の結果、血清TSH値が正常範囲にもかかわらず、ほぼ全ての患者の血清に
マクロTSHが含まれていることがわかりました。
さらに別の解析法により、マクロTSHはほかのタンパク質と結合していない
遊離型のTSHと比べて、糖鎖構造が大きく異なることも判明しました。
また、マクロTSHの高値は、アクティグラフで評価した睡眠の効率や質の
悪化を表す指標と有意な関連を示すこともわかりました。
このことは、睡眠障害がTSH分子の糖鎖構造変化に影響し、血清でマクロ
TSHを形成する可能性を示しており、高次脳機能がTSHを調節する
メカニズムに影響している可能性も示唆しています。
マクロTSHが睡眠の質と深く関連していることがわかったことで、マクロTSH
値が今後、睡眠障害を判断するバイオマーカーになることも考えられます。
研究グループでは「血清TSH値の評価に甲状腺機能だけでなく、睡眠障害な
どの影響を考慮する必要があることも示しており、神経内分泌学的見地だけで
なく、内分泌臨床においても極めて重要な知見」としています。
(菊地 香織)
https://www.qlife.jp/square/healthcare/story61826.html