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[こんなにも面白い医学の世界 第33回 「目散る」アルコール]

(レジデントノート 2017年6月号掲載)


最近、メタノール(メチルアルコール)を飲んで中毒になり搬送されてくる
患者さんが増えているのですが、楽に死ねる、とか、思いっきり酔える、
などという誤った情報をインターネットから得ているケースが多いようです。

かつては密造酒に含まれ、その危険性から「バクダン」と呼ばれていたらしい
ですが、今回はこのメタノールがテーマです。


メタノールの構造式はご存知のとおりCH3OHで、燃料や工業用にも使われて
おり、引火性が強く危険物第四類アルコール類に指定されています。

密造酒などに含まれることもありますが、新鮮な果実やフルーツジュースにも
含まれるそうで、その致死量は個人差も大きく、0.3〜1.0 mg/kg程度と
いわれています。

メタノールは、アルコールデヒドロゲナーゼで酸化され、ホルムアルデヒドに
なります。
ホルムアルデヒドの水溶液は、解剖実習でご遺体を固定していたホルマリン
で、これも毒性が強いように思いますが、実際体内ではホルムアルデヒドで
いる期間は短く、すぐにホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼによって蟻酸に
変化します。

この蟻酸がメタノール中毒の原因物質で、視神経に直接働いて脱髄を起こし
たり、ミトコンドリアの電子伝達系にかかわるシトクロムオキシダーゼを
阻害したりするために視神経毒性が現れるといわれています。

また、蟻酸の影響で、アニオンギャップが開大する代謝性アシドーシスが
起こってきます。



なぜ目だけに症状が強く現れるかというと、網膜にはビタミンA
(レチノール)をレチナールに酸化するためのアルコールデヒドロゲナーゼが
豊富に存在しており、メタノールを飲んだ場合には網膜でホルムアルデヒド、
蟻酸が大量につくられるためです。

われわれが学生のころ、メチルアルコールは失明することが多いので、
語呂合わせで「目散る」アルコールと覚えたものです。


ところで、なぜ蟻酸は「蟻」なのかというと、蟻がもっている毒の主成分で
あるからです。
ヤマアリなどある種類の蟻は、水鉄砲のように毒液を外敵に吹きかけて巣を
防衛したり、獲物を狩ったりするのですが、この主成分が蟻酸だそうで、
すべての蟻が蟻酸をもっているわけではありません。


メタノールと蟻酸はともに血液透析により効率よく除去することができる
ので、中毒には血液透析を行います。

また、生体内での蟻酸分解を促進するために葉酸の投与が推奨されます。

2014年9月に、アルコールデヒドロゲナーゼを阻害するホメピゾールの
製造販売が承認されました。
私も臨床で一度だけ使ったことがありますが、欧米ではエチレングリコール
中毒およびメタノール中毒の標準的治療薬として位置づけられています。





https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115872.html


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[こんなにも面白い医学の世界 第34回 心臓の穴は片頭痛を起こす?]

(レジデントノート 2017年7月号掲載)


頭痛は、救急・総合診療でも多く遭遇する症候です。

なかでも、発作性かつ拍動性に起こる片頭痛は、人口の約8%にみられると
され、しばしば悪心・嘔吐を伴うこともあるため、日常生活に支障をきたし
悩んでいる人が多い頭痛です。
脳の器質的病変を伴わないことから、なかなか有効な治療法も確立されて
いません。

この片頭痛と卵円孔開存に深い関係があるという研究結果が2014年に発表
され、注目されています。


ご存じのように、卵円孔は胎児期に胎盤からの酸素を多く含んだ血液を右心房
から左心房を経て全身へ流すための通路です。

卵円孔は出生後には自然に閉鎖しますが、健常成人の15~25%は閉鎖せずに
開存したままといわれています。

通常、卵円孔が開存しても大きな問題は起きませんが、心臓に右から左への
シャントがあることで、静脈系にある血栓が卵円孔を通過し、脳梗塞の原因に
なることが知られています。

また、静脈系にある気泡が動脈系に移動して空気塞栓をきたし、潜水病の
ような症状がでやすいことも報告されており、これらは循環動態からも、
容易に想像することができます。


しかし、片頭痛と卵円孔開存の関係については明確な説明がなされている
わけではありません。
現時点では、セロトニンなどの血管作動物質や、その他の片頭痛を誘導する
ような物質が卵円孔を通過し、肺でトラップされることなく直接大動脈に
入るためであると推測されています。

実臨床では、卵円孔を閉鎖する手術を行うと、高い確率で片頭痛が軽快する
ことがわかっています。

ロンドンの病院では、月に5日以上頭痛を感じ、発作前に前兆がある比較的
重症の成人片頭痛患者(18~60歳)443人のうち、心エコーで卵円孔開存が
確認された147人を対象に、卵円孔を閉鎖する手術を実施する群(74人)と、
偽手術を行う群(73人)に割り付けて経過を観察したところ、片頭痛の
発作日数が半分に減った患者は、実手術群では42%、偽手術群では23%と
有意な違いがみられたと報告されています。


宣伝になりますが、我が岡山大学の赤木禎治准教授らのグループは、片頭痛の
患者さんで卵円孔開存がある方へカテーテル手術を積極的に行い、一定の
効果があることを示しています。


皆さんも、これで片頭痛の患者さんを診たときに、心エコーのオーダーを
出せますよね。
卵円孔開存と片頭痛、一見何も関係ないようなことに気づくことが、大発見を
生むこともあるのです。




https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115896.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[過度な高血圧治療は認知症に悪影響を及ぼす?]

(MEDLEY  2015年6月4日)


<認知機能障害を持つ患者172人を追跡>
認知症は、「物忘れ」「見当識障害」などの症状に代表され、高齢化の進む
日本では重要な問題の1つです。

また、高血圧は、未治療の例を含めると国民の40%近くが罹患しているとも
いわれている、最も罹患率の多い病気の1つです。

今回の研究では、多くの人に関わるこの2つの病気に意外な関連性が見つかり
ました。
高血圧の治療において血圧が低いグループの方が、認知機能低下が早かったと
いう結果が出ています。



<血圧と認知機能の低下との関連性を解析>
診察室での血圧、家庭での血圧や降圧薬の使用の有無が認知機能低下に影響が
あるかどうかを解析するために、筆者らは以下の方法で研究しています。

 2009年6月1日から2012年12月31日の間に、イタリアにある2つの記銘力
外来にて、認知症ならびに軽度認知機能障害を持つ患者を追跡調査した。
追跡期間の中央値は9ヶ月であった。
認知機能の低下は、追跡開始前と追跡中のMMSEの得点の変化と定義した。


認知症または軽度認知機能障害がある患者を対象に、およそ9ヶ月にわたってその後の経過を追跡しました。
認知機能の評価には、全世界で広く使われているMMSEという30点満点の
検査を用いています(日本では、長谷川式認知症スケールが頻繁に用いられ
ます)。
軽度認知機能障害の定義としては、明らかな記憶障害はあるが、日常生活や
全般的認知機能は問題がない、といったことがあげられます。



<日中血圧が低いグループでは、認知機能の低下が強かった>
結果は以下の通りでした。
172人の患者を解析し、平均年齢は79歳(標準偏差5)、平均のMMSEは22.1
(標準偏差4.4)だった。
172人のうち、68%は認知症、32%は軽度認知機能障害を持ち、69.8%は
降圧薬にて治療されていた。
日中の収縮期血圧が下位1/3にあたる128mmHg以下のグループでは、
MMSEの変化は平均-2.8点 (標準偏差3.8)であったのに対して、中間1/3に
あたる129-144mmHgのグループでは-0.7点 (標準偏差2.5、P=0.002)、
上位1/3の145mmHg以上のグループでは-0.7点(標準偏差3.7、P=0.003)
と有意に128mmHg以下のグループでMMSEの変化が大きかった[...]。



以上のように、日中の血圧が128mmHg以下の良好な血圧なコントロールを
達成している群では、認知機能の低下が強いことが示されました。

筆者らは、「過剰な血圧の低下は、高齢者において認知機能の障害を起こして
いるかもしれない」と結論付けています。



一般的に、高血圧は動脈硬化を促進し、脳の血管や心臓の血管を狭くする
ことで、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。

これらを予防する為に降圧治療を行うわけですが、今回の研究では過度の
降圧は逆に認知機能に悪いとの結果が出ました。

血圧というのは平たく言えば「組織に必要な血液を届ける力」と言い換える
ことができます。
もし低い血圧と認知機能の低下に因果関係があるならば、血圧が強すぎると
動脈硬化を起こし、一方で血圧が弱すぎると、脳に必要な血液が足りなくなり
認知機能に影響を与える、という説明ができるのかもしれません。

過度の降圧治療による、他の臓器に対する効果を調べるとより興味深い結果が
得られるかもしれません。




(石田 渉)




https://medley.life/news/item/556e1b8542e56f77045256d4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[皮膚病の乾癬と心臓病の大動脈弁狭窄の意外な関係]

(MEDLEY  2015年6月15日)


<500万人のオランダ人のデータから>
乾癬は、皮膚に慢性的に起きる炎症によって赤い発疹ができる病気ですが、
皮膚だけではなく体の様々な部位にも炎症を起こすことで、動脈硬化などの
全身病を引き起こすことも広く知られています。

今回の研究では、乾癬と大動脈弁狭窄という一見全く異なる種類の病気に
実は関連がある、という結果が出ています。



<大動脈弁狭窄とは>
人の心臓には血液の逆流を防ぐための4つの弁がついています。
その中でも心臓と大動脈をつなぐ、大動脈への出口に当たる部分が大動脈弁
です。

大動脈弁狭窄とは、本来スムーズに血液が通過できる大動脈への出口が、
何らかの理由で狭くなってしまう病態です。
出口が狭くなると、そこを通過するのに余計な負荷が心臓にかかってしまい、
心不全や失神といった症状を呈します。

大動脈が狭くなる原因として、1つは弁の慢性的な炎症というものが挙げ
られます。
著者らは、乾癬が全身に炎症を起こすのであれば、弁に炎症を起こしても
何ら不思議ではない、という観点の下、研究をしています。

 

<18歳以上のオランダ人500万人を解析>
筆者らは1997年1月から2011年12月31日までに取得された、18歳以上の
オランダ人5,107,624人のデータを解析して、乾癬と大動脈弁狭窄の関連を
調べました。
その他の合併症や、内服薬、社会的経済的背景などの様々な因子を詳細に
集計しています。

 

<乾癬の重症度に応じて、大動脈弁狭窄の頻度が増えた>
結果は以下のとおりでした。
観察期間中、58,747人の軽度の乾癬、11,918人の重度の乾癬が見られた。
大動脈弁狭窄の発生頻度は、8.09/1万人年(対照群、48,539人、平均観察
期間12.3年)16.07/1万人年(軽度乾癬、509人、平均観察期間6.2年)、
20.08/1万人年(重度乾癬、99人、平均観察期間 5.4年)であった。


以上のように、乾癬がある人、特に重症の乾癬がある人では、大動脈弁狭窄の
発生頻度が上昇していることがデータから導かれました。


 
皮膚の病気と全身の病気の関連がある例というのは他にも様々なものが
ありますが、今回の研究の特筆すべき点は、解析したデータ量の膨大さ
(500万人)と「慢性的な炎症」という共通項から乾癬と大動脈弁狭窄を
結びつけた点だと思います。
これらの疾患の背後にあるメカニズムが解明される日が待ち遠しいですね。


なお、MEDLEYニュースでは乾癬についてほかの研究も紹介しています。
興味のある方はあわせてご覧ください。
「糖尿病に乾癬が合併すると血管病変のリスクが上がる」



(石田 渉)





https://medley.life/news/item/557aa9df7c6821fd00d532cc

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[「耳たぶにしわ」「手のひらが赤い」 
                 小さな体の変化は恐ろしい病気の兆候]

(J-CASTニュース  2016年5月10日)
【羽鳥慎一モーニングショー】(テレビ朝日系) 2016年5月6日放送
「早期発見!自宅でできる健康診断」



<時計の文字盤、思い出せなかったらご注意>
脳梗塞に心筋梗塞、認知症......。
加齢とともに気になる病気だが、できるなら避けたいのは当然だ。
そのためには予防、早期発見が欠かせない。

番組では、わずかな時間と手間でこうした病気を見つける簡単な方法を紹介
した。
たった10秒でできるテストもある。



<アナログの丸時計で「8時50分」を描けますか>
司会の羽鳥慎一アナが最初に紹介したのは「時計テスト」だ。
紙に大きく「丸時計」の絵を描く。
デジタルではなく、壁にかかっているようなアナログの時計だ。
1~12時まで文字盤の数字を入れたうえで、正確に針が「8時50分」を
指している絵に仕上げるというもの。

コメンテーターの吉永みち子、長嶋一茂、玉川徹ディレクターは全員正解。
この結果を見たイシハラクリニック院長・石原結實医師は「完全に正常です」
と太鼓判を押した。

だが、街角では正確に描けない人が続出していた。
60代女性は、文字盤の「12」を入れ忘れたうえ、数字の位置が全体的に
おかしい。
60代男性は「覚えていないものだな」とぼやいていたが、出来上がった時計の
文字盤、針が正しい位置とは程遠かった。

長嶋「アナログの時計を最近見ていないんじゃない」
玉川「でも60代でしょ。小学生(のころ)からずっと見てきて今さら急に頭が
   デジタルになっちゃったってことはないよね」

さらに40代女性の場合、長針と短針を間違えて「9時45分」になっていた。
自分に対して「描けなくて怖い」とつぶやいた。

羽鳥アナ「(街角で)20人にやってもらって、5人の方が正解でした」
玉川「逆に言えば、5人しか正解していないってことか」

石原医師によると、形、大きさ、位置を確実に示せないのは認知機能の
低下で、針の位置の間違いは理解力、記憶力、注意力の衰えだという。

認知症の場合、自分で「物忘れがひどくなった」という自覚がないままに、
朝食を食べたこと自体を忘れてしまっている状態だ。
自分の状態がどうなのかを理解するうえで、時計テストで確認しては
どうだろう。



<耳のしわ、手のひらが赤い、いずれも要注意>
次は「心筋梗塞が分かるチェック」3種類だ。
最初は「耳たぶのしわを見る」。
耳たぶの血管はとても細くて詰まりやすい。血流が悪く詰まってしまうと、
耳たぶまで血液が届かずにシワシワになる。
これが動脈硬化のサインというわけだ。


次に「アキレス腱の幅が1.5センチ以内」かどうかを測る。
アキレス腱は心臓の冠動脈と「ほぼイコール」で、コレステロールがたまると
太くなるのだという。
1.5センチを超えていたら要注意だ。


最後に「目頭のしこり」。これもコレスレロールのたまり具合が分かる
もので、たとえ自分にはなくても両親や祖父母、おじやおばにしこりが
あったら、やはり心筋梗塞の可能性が出てくる。



石原医師はさらに、手のひらや顔が赤い人は血流が悪くなっていると指摘
した。
動脈硬化が起きると、血管が拡張して血流を良くしようとするため、手の
ひらや顔に現れやすい。
耳たぶのしわと合わせて、注意したい項目だ。



「脳卒中がわかるテスト」も紹介された。1つ目は、20秒間片足で目を
つぶったまま立つだけ。
20秒前に足をついてしまったら、そのうち3割の人には小さな出血が生じて
いる可能性があるそうだ。

2つ目はもっと短く、たったの10秒でできる。
両腕を肩の高さに水平になるように上げて、手のひらを上に向けて10秒間
目をつぶる。
目をあげた時に水平が保てておらず、片腕が下がっていたら、筋肉や運動を
つかさどる大脳に異変が生じているかもしれない。





http://news.livedoor.com/article/detail/11503998/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[<骨折>自分の骨で固定し治療 手術中ねじに加工 島根大]

(毎日新聞  2017年12月16日)


島根大医学部が、患者自身の骨を加工した「骨ねじ」を使って骨折部分を固定
する新たな治療に取り組んでいる。
国内初の臨床応用として10年間で患者12人に手術し、8割を超す10人は
術後の経過が良好という。
研究グループは「骨ねじは異物反応がなく、金属ボルトのように再度の除去
手術も必要なく、患者の負担も減らせる」としている。

研究グループの内尾祐司教授らが15日に成果を発表した。

内尾教授らによると、骨折の固定手術を行う際、すねなどからピーナツ程度の
大きさの骨片を採取。
手術室に置いた加工機を使ってその場でねじに加工し、骨折を固定する。
術後数カ月で周りの骨と同化し、採取した部分の骨も自然に修復されると
いう。

2006年に大学の倫理委員会の承認を得て臨床研究を開始。
今年までに10代後半~60代の男女12人が手術を受けた。
10人は骨の結合など経過が良好で、うち7人は術後1年以上経過した。
一方、合併症による再手術が1例、退院後の採取部分の骨折が1例あった。
研究グループは「手術の成功率は通常の治療と比べても遜色ない」として
いる。


治療法は人気テレビドラマ「ドクターX」でも紹介された。


島根大は現在、地元企業などと新型の加工機を共同開発しており、今年9月に
試作機が完成。
従来約1時間かかっていた加工時間の短縮、ねじ以外の形状への加工などを
目指している。



【山田英之】




https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171216-00000002-mai-soci

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[心筋梗塞、マグネシウムでリスク減]

(家庭の医学  2017年12月11日)


<大豆や海藻を意識してとろう>
国立がん研究センターなどの研究発表によると、マグネシウムを多く摂取した
グループのほうが摂取しないグループよりも心臓病を起こすリスクが約3割
低いことがわかりました。

しかし、1日の摂取量は減少傾向にあります。
大豆製品や魚、海藻など多くの食材に含まれるマグネシウムを上手に食卓に
採り入れるには?


国立がん研究センターや国立循環器病研究センターが発表したこの研究
結果は、1995年と1998年に45~74歳だった男女8万5000人を、約15年に
わたって大規模に追跡調査したものです。

日々の食事を調べてマグネシウムの摂取量をもとに5つのグループに分けて
比較したところ、男性では、食事からのマグネシウム摂取量が最も多い
グループが最も少ないグループに比べて狭心症や心筋梗塞などの「虚血性
心疾患」の発症リスクが34%低いという結果になりました。
女性では中間~多い群ではリスクが低くなり、3番目に多く摂取している
グループが最も少ないグループに比べて39%低いという結果でした。

同時にマグネシウム摂取量と「脳血管障害」との関係を調べたところ、
関連性は見いだせなかったとのことです。


マグネシウムはミネラルの一種で、多くは(60~65%)骨に存在して
います。
300種類以上の酵素反応の補助をしているので、ほぼすべての代謝反応や合成
などに関与しています。
また、カルシウムと密接につながり、骨の弾性維持など骨の健康にも
かかわり、神経伝達や筋収縮などにも必要な物質です。


「日本人の食事摂取基準 2015年版」では1日の推奨量は、30~40代男性で
370mg、30~40代女性で290mgとされています。

それに対して推定摂取量は2016年の国民健康・栄養調査では40代男性で
240mg、40代女性で210mgと、男女とも、不足気味といわざるを得ない状況
です。
マグネシウムの摂取量は年々減少傾向にあって、2001年の国民健康・栄養
調査の結果と比べると男性も女性も約40mg減になっています。


マグネシウムの不足は、血圧を上げ、血糖の代謝を低下させて、動脈硬化を
促進してしまいます。
動脈硬化は、心臓をはじめ全身の血管障害のリスクを高めてしまいます。

骨粗しょう症の誘因にもなります。


マグネシウムは、魚介類(さくらえび、丸干しイワシ、牡蠣など)、野菜
(ホウレンソウ、モロヘイヤなど)、大豆製品(納豆、豆腐など)、種実類
(落花生、アーモンドなど)、海藻類(ひじき、わかめなど)といった、
さまざまな食材に含まれています。
バランスよくメニューに取り入れれば、摂取しやすい栄養素のはずです。

早速今日から、野菜、大豆製品、海藻類などを少し意識して、増やしてみては
いかがでしょうか。
食事以外のサプリメントなどで摂取する場合は、成人350mg/日を上限量と
設定されています。
過剰にとり過ぎると下痢などを起こす可能性もあるので、毎日の食事での
補充を中心に考えてください。




(監修:東京医科大学病院 総合診療科准教授 原田芳巳)



http://sp.kateinoigaku.ne.jp/kiji/124877/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[こんなにも面白い医学の世界 第35回 氷をバリバリかじる人は病気?]

(レジデントノート2017年8月号掲載)


ジュースなどを飲んだ後、氷をバリバリかじる人がいます。
氷を異常なほどに食べることは、氷食症(pagophagia)と呼ばれ、異食症
(pica)の1つと考えられています。
氷食症の定義はあいまいで、製氷皿1皿以上食べたり、強迫的異常行動として
みられる場合をそう呼ぶそうですが、氷食症は鉄欠乏性貧血の患者さんに
比較的高い確率でみられる症状であることが知られています。

氷をバリバリ食べる人を見たら貧血を考えなさい、と学生のころに習った
ことがあり、実際に内科診断学の教科書にも書いてあります。
では、鉄欠乏性貧血になるとなぜ氷が食べたくなるのでしょうか?

異食にはさまざまな種類が存在し、土、粘土、毛髪、紙などの報告があり
ますが、本邦における鉄欠乏性貧血では、氷食以外の異食症の症状が現れる
ことはきわめて稀といわれています。

また氷食症は、同じ貧血でも鉄欠乏性貧血にのみみられます。


氷食症が起きる理由については、強い精神的ストレスや強迫観念によるという
説や、貧血に伴う口腔内の炎症を抑えようとするため、あるいは氷を噛む
ことによって反射的に脳血流を増加させている、など、さまざまな説明が
なされていますが、いまだ明確な機序はわかっていません。



40年以上前の非常に古いものですが、興味深い研究があるので紹介します。
まずラットから脱血して貧血にします。
次に、氷でも水でも好きな方から水分を摂取できるようにラットを教育
します。
正常なラットは約45%の水分を氷から摂取するのに対して、貧血ラットは
96%の水分を氷から摂取しました。
両群の水分摂取量には差がないにもかかわらずです。

驚くことに、この研究では貧血のラットは氷をなめるよりも、かじることの
方がよくみられた、と報告しています。

この傾向は、ラットの貧血が改善するにつれ消失し、貧血がなくなった
ラットは氷には見向きもしなくなった、と報告されています。

氷食症が実験動物でもみられる、というのは非常に興味深く、この病態の
奥深さを感じます。


最近、鉄欠乏の患者さんはドパミン受容体の数が減少しており、むずむず脚
症候群(restless legs syndrome)を合併することも知られています。


カフェなどで氷をバリバリ食べていたら、このトリビアを知っている人に
救急車を呼ばれたりするかもしれませんので、気をつけないといけませんね。





https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115902.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[原因不明の顔の痛み]

(家庭の医学  2016年10月25日)


<鎮痛薬が効かない…>
顔を締め付けられるような、あるいはうずくような痛みがあるにも
かかわらず、MRIやCTなどで検査をしても原因がわからない…
もしかしたら非定型顔面痛かもしれません。
その原因と治療法について紹介します。


非定型顔面痛では、上あごの奥歯辺りがうずく、頬を締めつけられるなどと
いった症状が現れます。
歯科では口腔顔面痛ともいいます。
鎮痛薬を服用しても効果がみられず、痛みのために口が開けられない、痛くて
動けないなどというように、日常生活に支障をきたします。

顔面の痛みという点で、まず三叉神経痛を疑うかもしれません。
しかし、神経に沿って発作的に激痛が走る三叉神経痛とは異なり、非定型
顔面痛では持続的にズキズキした痛み(疼痛)に悩まされます。
数カ月あるいは数年というように、長期間痛みが続く人は少なくありません。

あごの痛みや奥歯の痛みとして感じることも多いため、口腔内のみの場合には
非定型歯痛とも呼ばれます。
抜歯したり、歯の神経を抜いたりしても痛みが治まらないケースがみられ
ます。
また、外科的処置を行うことで、かえって痛みが広がったり増大したりする
傾向があるのもこの病気の特徴です。


MRIやCTなどで脳の検査を受けても、痛みにつながる原因が見つからない
ため、歯科・耳鼻科・眼科などさまざまな診療科を受診することも珍しくない
ようです。
なかには診断にたどり着くまでに数年かかったという声もきかれます。


原因はまだ明らかとなっていませんが、脳神経の情報伝達ネットワーク機能に
異常が起こり、痛みの感覚が処理できなくなっていると考えられています。
また、自律神経失調症や抑うつ傾向にある人、心理的ストレスを抱えている人
などに多く発症する傾向がみられます。


治療には抗うつ薬のアミトリプチリンが最も効果的といわれています。
そのほかにも、神経ブロック、鍼、漢方薬などの治療が行わることもあり
ます。
いずれも長い時間をかけて治療を行う必要があります。

思い当たる症状がある人は、神経内科やペインクリニックなど痛みの専門
外来、口腔顔面痛の専門外来を設けている病院へ相談するといいでしょう。
症状に合わせて心療内科と連携する場合もあります。




(監修:寺本神経内科クリニック院長 寺本純)





http://sp.kateinoigaku.ne.jp/kiji/123990/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[頭痛から発見されたアクロメガリー]

40歳頃から頭痛を感じるようになった。
内科を受診し、頭部CT検査を受けるが異常は見つからず、市販薬を服用して
いた。
その後も症状の改善は見られず脳神経外科を受診。
先端巨大症様顔貌変化は軽度であったが、手足の肥大が見られた。
血液検査とMRI検査により本症と診断された。


臨床症状:頭痛、いびき、手足の肥大