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[頭部の不快感から顎関節症・・・「TCH」は“スマホ猫背”が原因だった?]

(ZAKZAK  2014年01月08日)(今日のストレス 明日の病気)


背筋がピンと伸びている人は、それだけで若く見える。
そんな人が目立つほど、日本人は「猫背」が多い。

そして、猫背は意外なところにダメージを及ぼす。
もちろん背景にはストレスが・・・。


会社員のEさんは32歳なのに、どう見ても40代半ばに映る。
風格や貫禄があるのではない。
単に「年寄りくさい」のだ。

特に忙しくなると、その傾向に拍車がかかる。
背中を丸めてパソコンに向かう姿は、こたつで編み物をするおばあさんの
よう。


そんなEさんの悩みは「首から上の不定愁訴」だ。

緊張型頭痛はもちろん、目の下の頬のあたりには慢性的な痛みもある。
本人の表現を借りれば、「頭全体がこっている」感じだ。


そんな症状が悪化して、ついにあごが動かなくなった。
あわてて歯科医院を訪れると、顎関節症と診断される。

しかも原因として「トゥース・コンタクティング・ハビット(TCH)」という
病態を指摘されたのだ。

「TCHは最近、歯科領域で話題の病態です」と語るのは、東京都江戸川区に
ある宝田歯科医院の宝田恭子院長。
具体的に説明してもらおう。
「人間は背筋を伸ばして安静にした時、上の前歯の裏と下の前歯の前面に
わずかな隙間ができるようになっています。ところがストレスや過労、
パソコンやスマホの台頭で、常に猫背になる人が増えてきた。背中が丸まる
と、どうしても下あごが前に出るので、本来あるべき隙間がなくなる。その
結果、あごに余計な力が加わり、さまざま症状を引き起こすのです」
宝田院長によると、実は歯科医師もTCHになりやすいとか。
「歯の治療中はどうしても前かがみになるので、TCHのリスクが高いんです。
私も顔を上げるたびに背中を回すストレッチをするなどして、あごの負担を
取り除いています」(宝田院長)


TCHは不快な症状や老いて見えるだけでなく、咀嚼機能の悪化から実際に
老化が早まるという。
疲れた時ほど、ストレスのたまった時ほど、背筋をピンと伸ばしましょう。 




(長田昭二)




http://www.zakzak.co.jp/health/doctor/news/20140319/dct1403191903034-n1.htm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[緊張状態で始まる「空せき」 解消できなければ心療内科的な治療が必要]

(ZAKZAK  2014年04月09日)(今日のストレス 明日の病気)


「あがり症」の人にとって、人前でのスピーチほどつらいものはない。
しかし、役職が上がれば、どうしてもその機会は増えてくる。
そんな緊張状態で始まる「空せき」。
ただでさえつっかえつっかえのスピーチにせきが混ざるから、何を言っている
のかわからない・・・。


Kさん(38)は昨年から部門のマネジャーに昇格した。
日本的にいえば「課長」だ。
部下は10人。
小なりといえども管理職となり、意気揚々のはずだったのだが、出足から
つまずいた。

昇進直後に部下が結婚し、披露宴で乾杯の音頭を取ることになったのだ。
しかし、人前で話すのが大の苦手なKさん。
開会前からせきが止まらなくなった。
水を飲んでもむせてしまい、テーブルは水だらけ。
わずか1分ほどのスピーチもせきがひどくて収拾がつかず、乾杯用に持って
いたグラスからこぼれたビールでマイクの周りはビチャビチャだ。

以来、前にもましてスピーチ嫌いになったKさんだが、今年中に結婚を予定
する部下が4人もいる。
それを考えただけでせきが出る-。


「心因性の咳嗽ですね」と語るのは、JCHO大阪病院内科医の鈴木夕子医師。
ストレスが引き起こすせきなので、病院で検査をしても明らかな異常は
見つからない。

しかし、見つける手掛かりはあると鈴木医師は言う。
「起きているとき、特に仕事中にせきが止まらなくなるものの、夜間や就寝中
には止まるのが特徴。気管支炎や肺炎であれば、夜間でも就寝中でも関係なく
せきが出るので、ここが重要なポイント。加えてストレス性のせきは、
乾いた“空せき”なので、たんを伴うCOPD(慢性閉塞性肺疾患)とも区別が
つきやすい」(鈴木医師)


対策は「原因となっているストレスを取り除くことに限る」というから、
これが1番難しい。
ストレス発散がうまくいかない場合は、心療内科的な治療が必要になることも
あり、Kさんもその公算が大きそうだ。


「6月には結婚式が2回もあるんです」と、せき込みながらも器用にため息を
つくKさん。そんな上司にスピーチを頼まなければならない部下たちの
ストレスは、大丈夫だろうか・・・。




(長田昭二)





http://www.zakzak.co.jp/health/disease/news/20140408/dss1404081756000-n1.htm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[「砂糖に心疾患やがんのリスク」 業界団体がデータ隠蔽か]

(HealthDay News  2017年11月21日)


砂糖の主成分であるショ糖が心疾患や膀胱がんのリスクを高める可能性を
示唆した約50年前の研究結果を、米国の砂糖の業界団体が隠蔽し続けてきたと
指摘する論文が「PLOS Biology」11月21日オンライン版に掲載された。

内部文書の分析に基づきこの論文を執筆した米カリフォルニア大学サン
フランシスコ校(UCSF)のStanton Glantz氏らは「喫煙の害を示す研究
結果を大手たばこ企業がもみ消した事例と共通した問題だ」としている。


Glantz氏らは今回、1967~1971年に砂糖研究財団(Sugar Research
Foundation ; SRF、現・砂糖協会)による資金提供を受け英バーミンガム
大学の研究者らが実施した「プロジェクト259」と呼ばれる研究に関する
内部文書を分析した結果を発表した。

この研究では、ラットにショ糖とでんぷんのいずれかが多く含まれた餌を
与えたところ、ショ糖を与えたラットではでんぷんを与えたラットと比べ、
心疾患リスクと強く関連するトリグリセライド値(中性脂肪)が上昇し、
当時から膀胱がんとの関連が指摘されていたβ-グルクロニダーゼと呼ばれる
酵素の値も上昇する可能性が示唆された。

しかし、研究者らがこれらの予備データをSRFに提示したところ、研究を
続けるための資金提供が打ち切られてしまったという。
また、この予備データはその後公表されることはなかった。

「研究者たちは砂糖の有害性を示唆するデータを彼ら(SRFの関係者)に
示し、『研究を終わらせるにはあと数週間必要だ』と説明した。
ところが彼らはデータを見て『その必要はない』と回答し、全てをなかった
ことにした」とGlantz氏は話す。

同氏は「この研究データは砂糖の取り過ぎと心血管リスクとの関連について
解明を進める一助となったはずだが、業界団体はそれを求めていなかった」と
の見方を示している。

なお、プロジェクト259が実施された当時、米食品医薬品局(FDA)は砂糖の
含有量が多い食品に対して規制を強化するかどうかを検討中であった。
論文の筆頭著者であるUCSF のCristin Kearns氏は「この結果が公になって
いれば、砂糖はもっと厳しく監視されていた可能性がある」としている。


一方、今回Glantz氏らがまとめた論文について、砂糖協会は「プロジェクト
259は進捗が大幅に遅れ、予算も超過していた」と説明。
「砂糖協会は設立当初から一貫して科学研究と技術革新を尊重してきた。
現在も消費者の食習慣における砂糖の役割について理解を深めるための研究
支援に尽力している」としている。



米レノックス・ヒル病院で減量プログラムを実施しているSharon Zarabi
氏は、Glantz氏らの報告を受け「われわれが何を食べるべきかを示す政府の
ガイドラインが、食品業界のロビイストによって左右されている実態が
明らかになった」とコメント。
特定の食品の摂取を支持する研究の多くが業界の資金援助によるものである
ことを指摘している。





http://www.healthdayjapan.com/




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[亜鉛不足で起こる症状…低身長や味覚障害など]

(読売新聞  2017年12月21日)


埼玉県の小学5年男児(10)は身長の伸びが遅かった。
小学校入学前に成長ホルモン分泌が不十分な低身長症と診断され、1年から
成長ホルモンの注射を開始したが十分効果がなかった。
半年後に血液検査で亜鉛不足と分かり、亜鉛を補充する薬を飲み始めたところ
伸び始め、今は標準身長にほぼ追いついた。
父親(49)は「亜鉛が成長に関係しているとは知らなかった。適切な治療を
受けられて良かった」と喜ぶ。


亜鉛は体に欠かせないミネラルだ。
不足すると味覚障害や食欲不振、皮膚炎、口内炎、脱毛、傷が治りにくいなど
様々な影響が出る。
赤ちゃんのおむつかぶれや子どもの低身長の原因となっている場合もある。

また、消化や吸収などに関与する酵素を作ったり、働きを強めたりする。
造血、生殖、免疫などの機能維持にもかかわっている。



<体内では生成不能、サプリメントも市販されているが…>
体内で作り出すことができないため、食事で摂取するしかない。

厚生労働省が定める日本人が摂取すべき亜鉛の1日当たり推奨量は、成人
男性で10ミリ・グラム、同女性で8ミリ・グラム。
だが厚労省の調査では、平均摂取量はそれぞれ9ミリ・グラム前後、7ミリ・
グラム前後にとどまる。

小児科医で帝京平成大学(東京・池袋)教授の児玉浩子さん(71)は「亜鉛を
十分に摂取できていない人は多いのではないか」と指摘する。

亜鉛が多く含まれる代表的な食品は 牡蠣で、1食分となる60グラム
(5粒)に7.9ミリ・グラム。
豚レバー70グラムで4.8ミリ・グラム、牛肩肉70グラムで4ミリ・グラム、
木綿豆腐150グラムで0.9ミリ・グラムなどとなっている。
バランスよく食べて推奨量を確保する必要がある。


肝臓や腸に病気があると亜鉛を吸収しにくくなるほか、スポーツや妊娠などで
必要量や排出量が増えて不足することもある。

手足が震えるなどの症状が出るパーキンソン病の代表的な治療薬「レボドパ」
や、手足の関節がこわばる関節リウマチの一部治療薬などには、亜鉛を体外に
排出する働きがある。


亜鉛を補充できるサプリメントも市販されているが、どの程度の量を取るかは
自己判断になるうえ、摂取しすぎる危険もある。



<中高年男性の更年期障害にも、亜鉛を処方>
今春、亜鉛不足で様々な体調不良をきたす「低亜鉛血症」に対し、国内で初の
亜鉛製剤「ノベルジン」(商品名)が発売された。
体に銅が蓄積して肝臓や脳などに障害が出る難病ウィルソン病の治療薬として
発売されていたが、低亜鉛血症に効果があることが確認され、効能が追加
された。

マイシティクリニック(東京・新宿)院長の平澤精一さん(62)は、やる気が
起きない、記憶力低下、性機能障害など中高年男性の更年期障害に対し、
男性ホルモン補充療法に加え、この亜鉛製剤を処方することが多い。
平澤さんは「更年期男性の多くは亜鉛も不足している。亜鉛が十分になれば
見た目も若々しくなる」と話す。

児玉さんが理事を務める日本臨床栄養学会では、血液中の亜鉛の値が著しく
低く、味覚障害など様々な症状がある場合を「亜鉛欠乏症」と定義し、
診断基準の作成を進めている。
児玉さんは「医師の間でも亜鉛不足は十分知られていない。明確な診断基準が
必要だ」と話す。




(石塚人生)




https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20171218-OYTET50053/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[体の声を聴く:医師の言葉で苦しみ]

(読売新聞  2013年11月7日)


医師の言葉は、しばしば病気の予後を左右します。

Eさんは60歳代前半の女性。
お尻から両足の太もも内側にかけて、慢性の痛みが5年間続いている人
でした。

整形外科で腰椎ヘルニアと指摘され手術を受けても、痛みはなくなりません。

さらに大学病院を含む11か所のペインクリニックや整形外科を受診。
医師から「手遅れ」「心因性」「うつや!」などの言葉を投げかけられ、
痛みと絶望のため2度の自殺を試み、精神科に入院したこともありました。


診察室に入ってきたEさんは「座っているのが苦痛で、寝ている時以外は地獄
です。立ったまま診察をお願いします」。
この言葉だけで、私は痛みの原因が推測できました。
全身を診察した後、肛門に指を入れて調べる「直腸診」を行い、肛門を持ち
上げ支えている肛門挙筋を指で押さえると、予測した通り、Eさんが訴えて
いる部位に激痛が起こりました。

診察後、私は肛門と直腸の絵を描き、「あなたの痛みは肛門直腸障害という
機能性胃腸障害の一つですよ」と説明したところ、ようやく納得したよう
です。


1か月後、Eさんは娘さんを連れて来院しました。
表情がにこやかで別人のようでした。軽い痛みはまだ続いているようですが、
娘さんによると、「これまで寝たきりでしたが、今は買い物も家事も自分で
するようになり、見違えるように元気になりました」とのこと。
Eさんは「先生から痛みの原因の説明を受けて、安心できたのです」と話して
くれました。


「異常ない」「心因性」「うつ」といった言葉は、かえって患者を拒絶し、
苦しめてしまうことになるのです。
医師が「患者の視点」を持つことは、すべての医療の原点です。



(清仁会洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)





http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=87665

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[エラの張った顔は要注意 「歯ぎしり」は全身を壊す危険な悪癖]

(日刊ゲンダイ  2014年9月11日)


「また歯ぎしりしてたわよ!」――。
睡眠中の歯ぎしりを妻に指摘されたことのある人も多いはず。
たかが歯ぎしりと放置し続けると、歯だけでなく内臓までボロボロになりかね
ない。

歯ぎしりは歯だけでなく、全身を破壊する恐れのある危険な悪癖だという。
歯科医療研究センター「林歯科」の林晋哉院長に、歯ぎしりの危険性を
聞いた。

明け方、体が目覚めようとする時、誰もが「歯ぎしり」や音の出ない
「噛みしめ」をしている。
口は脳へつながる神経の数が最も多い場所だ。
歯を噛みしめることで、寝ている時に副交感神経が優位になっている脳に
対し、目覚めさせる信号を送っているのだ。

しかし、歯の噛み合わせが悪いと、脳にうまく信号を送れない。
そのため、必要以上の「噛みしめ」や「歯ぎしり」をしてしまう。
その負担は想像以上に大きい。
朝、起きた時に「顎がだるい」「疲れている」といった感覚を覚える人は
要注意だ。
これを長期にわたって繰り返せば、いずれ歯の表面や内部が欠けてしまう


「物を乱暴に扱えば壊れるように、歯も使い過ぎれば壊れます。歯が欠けた
隙間には細菌が入り込んで虫歯になったり、歯肉に負担がかかることで
歯周病も進行しやすくなります。顔にある4カ所の咀嚼筋は常に凝った状態に
なり、それに連なる表情筋が硬くなって、険のあるトゲトゲしい印象になる
人もいます」

いわゆる「エラの張った顔」は骨格によるものと思われがちだが、実は
歯ぎしりや噛みしめによって咀嚼筋が発達し、厚くなってしまったものだと
いう。



<ある程度は自分で緩和できる>
歯ぎしりの被害は口の周辺だけではない。

「筋肉は筋膜によってつながっています。咀嚼筋が疲労してくれば、首や肩の
筋肉にも悪影響を及ぼし、頭痛や肩こりを引き起こします。また、平衡感覚を
はじめいろいろな脳神経を必要以上に刺激してしまうので、めまいやさらには
胸の痛み、呼吸困難などの原因にもなるのです」


もし、歯ぎしりの圧力によって右の歯が壊れた場合、バランスを取ろうとして
体は左側に傾き、背骨が曲がってしまう。
すると傾いている方の内臓や血管、神経が圧迫され、さまざまな病気に
つながっていく。

歯ぎしりを甘く見ていると、いずれ全身まで破壊される。
気付いたら一刻も早く解消したい。


林医師によれば、歯ぎしりはある程度まで自分で緩和できるという。
「人はリラックスしていると、上の歯と下の歯の間に2~3ミリの『安静
空隙』という隙間が空いています。歯ぎしりが強い人は日中も歯を噛みしめて
いることが多いので、普段から『咀嚼筋マッサージ』や『割り箸法』を実践
して、いつでも無意識に安静空隙を保てるよう身につけてください。何度も
繰り返し、脳に安静空隙を覚えさせることがポイントです」

咀嚼筋マッサージは、人さし指で頬のやや後ろ側にある咀嚼筋や、こめかみに
ある側頭筋をゆっくりマッサージするだけ。
会議中や電車の中など、気付いたときに何度も実践しよう。
割り箸法は、あおむけに寝て口を軽く開け、割り箸を唇の間にのせて全身を
10~30分程度リラックスさせればOKだ。

「しかし、長年にわたる悪癖は脳が覚えてしまったものなので、そう簡単には
直りません。すでに肩こり、頭痛、虫歯、歯周病などの実被害がある人は、
まず医師の診断を受けた方がいいでしょう」



歯の疾患によって歯が抜け始める平均年齢は51歳。
そこから年々1本、2本と減っていくが、負担が大きい歯ぎしりを改善して
歯を大切に使えば、70歳、80歳になっても自分の歯をより多く残すことが
できる。

今からでも遅くはない。





http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/153248




 

 

 

 

 

 

 

 

 

[長嶋型か ジョーダン型か]

(読売新聞  2007年10月12日)(元東京医科歯科大学教授エッセイ)


熱闘甲子園、プロ野球、メジャーリーグと、相変わらず日本人の胸を熱く
するのが野球である。
かくいう私も子どもの頃は夕方暗くなるまで、近所の原っぱでボール遊びを
していた。
大人になってからはもっぱら野球観戦であったが、私の時代は間違いなく、
王、長嶋の時代であった。
彼らのプレーを思い出しては自分の甘酸っぱい青春時代を重ね合わせていた。


歯科医になってからも彼らの時代は続き、2人とも毎日の激しい戦いと
練習で、奥歯がぼろぼろになってしまったという話に関心を持った。
そうか、やはり力を出すためには奥歯をギュッと噛みしめなくてはならない
のだ、と思ったものである。

その後、多くのスポーツで同様のことが語られ、いつしかそれは世間の常識と
なった。
相撲、ラグビーなどの格闘技、あるいは格闘技の要素の強いスポーツは
もちろん、接触プレーのないゴルフでさえ飛距離を出すためにも噛みしめる
ことが重要とされた。
飛距離アップのためのマウスピースなどという、怪しげな商品も売られた
程である。


ところが、噛みしめなくても力を出す人はいるらしい。
いや、むしろ噛み合わせていない状態の方が、力を出すタイプの人がいる
らしい。

北海道医療大学の石島勉教授の噛み合わせと背筋力の関係を調べた研究に
よると、日本人の約3分の2の人が奥歯を噛みしめると背筋力が最大値を
示し、残りの3分の1はむしろ噛み合わせていない方が力を発揮すると報告
されている。


かの有名なアメリカのプロバスケットボール選手だったマイケル・ジョーダン
さんは、力を出すときでも口を開けたままだったそうだ。
そう言えば、舌を大きく出しながら、相手の防御をかいくぐってシュートする
写真が多く見られた。
第一、もしそうでなければ、その度に舌を噛み切って血だらけになって
しまったことであろう。

野球に詳しい人ならば、一昔前に巨人軍に在籍していたガルベス投手も舌を
出しながら投球していたことを覚えているだろう。


噛みしめると力を発揮するタイプの人は、えらの張った、四角い顔をしている
人が多い。
それは、噛む力を生み出す筋肉と顎の骨が発達しているからである。
フーテンの寅さんみたいなタイプである。


ただ、噛む力が強いが故に奥歯、あるいはそれを支える骨、さらには顎の
関節にもダメージを与えてしまうことが多い。
従って、こういうタイプの人は歯を防御するためにも、ボクシングの選手が
はめているようなマウスピースを歯科医院で作ってもらうのがよい。


王、長嶋派か、はたまたマイケル・ジョーダン、ガルベス派か、あなたは
どちらのタイプですか?




 

 

 

 

 

 

 

 

[体の声を聴く  腰痛 「身」の所見で原因探る]

(読売新聞  2013年9月26日)


腰痛に悩む人はわが国で約2800万人と言われています。


50歳代の男性Bさんも、30年間続く痛みに悩んでいます。
軽い脊柱管狭窄が見つかり20年前に手術を受けたのですが、良くなりません
でした。
手術は成功しているのに、どうして腰痛が続くのでしょうか。

診察をすると、舌の周りに強い歯形がついています(舌歯圧痕)。
首の後ろから両肩にまたがる僧帽筋に、強い凝りと圧痛を認めます。

次に、意識障害や肩関節の筋力をみる「アームドロップ試験」をして
みました。
私は慢性的な緊張の有無を診るのにこの試験をよく使います。
Bさんの両腕を持って肩の位置までTの字のように持ち上げて手を離すと、
彼の両腕は何度繰り返しても落ちません。
これらは、体も心も併せた全体を表す「身」の所見と呼ばれます。

また、腰椎の両側の筋肉を指で押さえると強い痛みを訴えました。
X線やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査では異常を認めません。

以上の体の所見より、
 (1)Bさんは若い頃から歯を噛み締めて頑張って生きてきたため、
    慢性的な緊張を抱えている
 (2)痛みは「筋筋膜性腰痛」という(検査では異常が見つからない)
    機能性の痛みが中心である
ということが分かります。
Bさんの腰痛については、脊柱管狭窄という器質的な病気があったとはいえ、
痛みの大部分は機能性の痛みだったのです。


「腰痛診療ガイドライン2012」(日本整形外科学会・日本腰痛学会編)に
よると、腰痛患者のうち原因の分からない腰痛が85%。
それほど腰痛は難しい。

では、心療内科医はBさんの治療をどのように行うのでしょうか。
詳しくは次回で。




(清仁会洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)





http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=85280

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[体の声を聴く 悩みで起きた じんましん]

(読売新聞  2013年10月17日)


30代のCさんは、ある施設の調理士。
数百人分の魚の調理をしている最中、全身に発疹が現れ、仕事に支障が出て
います。

皮膚科医が、魚のエキスを使って皮膚のアレルギー反応を調べる「パッチ
テスト」を行っても陰性でした。


そこで私は、診察中にCさんを催眠状態に導入し、「調理場にいる」という
暗示をかけました。
すると、彼は左右の手を動かし調理をするしぐさを始め、じんましんが現れ、
体をかき始めたのです。

1日だけ入院してもらい、催眠時の血中ヒスタミン値などアレルギー反応に
関与する物質を調べると、じんましんの出現に並行してこれらの物質の数値が
上昇しました。

ヒスタミンは、通常は抗原に反応して肥満細胞から放出されるのですが、
抗原がなくても条件刺激だけでこうした反応が引き起こされることが分かって
います。


診察室で不思議な体験をしたCさんは、人間関係で悩みを抱えていることを
私に打ち明けてくれました。
悩みに耳を傾け、具体的な解決策について話し合って実行した結果、彼の
人間関係は好転し、じんましんも軽快しました。


西洋医学の医療モデルは、心と体を別個のものとする「心身二元論」です。
体の病気が専門の内科などの身体各科と、うつ病や統合失調症など心の病気が
専門の精神科とに分けられています。


一方、心療内科は「心と体は互いに関連し合い、明確に区別できない」という
のが大前提。
心と体を分けて行う医療だけでは、Cさんの病気は解決できなかったで
しょう。


ただ、心療内科を標榜する医師の9割以上が実は精神科医のため、心療内科は
心の病気を診る、という誤解と混乱が生じているのが現状なのです。





(清仁会洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)





http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=86519

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[乳児股関節脱臼を見逃すな]

(共同通信  2015年4月21日)


<診断遅れで治療難航><健診体制の再構築を>
赤ちゃんの脚の付け根の関節が外れてしまう先天性股関節脱臼。
国内ではかつて乳児の1~2%にみられたが、1970年代に始まった予防
啓発の効果により発生頻度は10分の1程度まで低下した。

ところが近年、歩行開始後にようやく診断され、治療に難渋するケースが
全国的に増えている。

患者の減少で医師や保健師の認識が薄れ、0歳児の健診で見逃されるように
なったことが背景にあるという。



<調査で裏付け>
「予想以上に診断の遅れが増えている。あぜんとしました」
日本小児整形外科学会 による先天性股関節脱臼の実態調査をまとめた、
あいち小児保健医療総合センター の服部義センター長は驚きを隠さない。

10年ほど前から、各地の小児整形外科医から診断遅れの症例が多いとの指摘が
相次いでいた。

学会は2013年、実態を探るため全国の大学病院や小児病院、小児療育施設
など1987施設にアンケートを実施し、782施設から回答を得た。

それによると、2011年4月~2013年3月の2年間に股関節脱臼と診断された
子どもは1295人で、うち199人(15.4%)が1歳以降に診断されていた。
さらにこのうちの36人は、何と3歳以上での診断だった。

注目すべきは、1歳以降に診断された199人の大半が公的乳児健診を受けて
いたにもかかわらず、異常発見に至らなかったことだ。
「健診での見逃しが裏付けられました」と服部さんは話す。
 


<後天的要因>
この病気は「先天性」と言いながら、実は出生時に脱臼していることは
少ない。
脱臼の準備状態で生まれたところに、おむつの当て方や抱き方、向き癖などの
後天的要因が加わって起きる。

患者は女の子が男の子の5~9倍と圧倒的に多い。

現在の発生率は千人に1~3人。

予防啓発の効果に加え、女性の体格向上で胎内のスペースが広くなった
ことや、妊婦が腹帯をきつく巻いて重労働を強いられるような社会環境で
なくなったことが発生率低下につながったと考えられている。


生後3~4カ月の乳児健診で見つかれば、ほとんどが「リーメンビューゲル」
というベルト状の装具を3カ月程度装着して外来通院で治せる。

しかし、発見が遅れると脱臼したまま骨の成長が進んでしまうため、治療は
どんどん難しくなる。

1歳を過ぎると入院して脚を引っ張る「けん引」という治療が必要になり、
それでもだめなら手術が避けられない。

放置すれば将来、痛みや日常動作の制限が生じる変形性股関節症に進行する
恐れがある。



<簡便にチェック>
それだけに早期発見が重要だが、現状は学会調査の通りだ。
「患者数が激減し、医師や保健師が日常的に扱う病気ではなくなりました。
診たことがないから知識もない。少子化で乳児健診の予算を削る自治体も
あり、健診体制自体が脆弱化しています」と信濃医療福祉センターの朝貝芳美
所長は指摘する。


危機感から朝貝さんらは健診用のチェック表を作成、関係学会を通じて普及に
乗り出した。
 (1)股関節の開き具合
 (2)太ももや鼠径部のしわが左右の脚で対称か
 (3)家族歴
 (4)女の子か
 (5)逆子で生まれたか
の5項目で簡便に判定できる内容で、脱臼の疑いがあれば、さらに詳しい
検査が勧められる。


また「脚を締め付けるおむつや洋服は避ける」「両脚をM字型に開いて正面
から抱く『コアラ抱っこ』をする」といった予防法を親に周知するため、
パンフレットの配布にも取り組んでいる。

「数は減っても決して過去の病気ではありません。予防法の徹底と健診体制の
再構築が必要です」と朝貝さんは話している。




(共同通信 赤坂達也)





http://www.47news.jp/feature/medical/2015/04/post-1277.html