氷をバリバリかじる人は病気 | アクティブエイジング アンチエイジング

[こんなにも面白い医学の世界 第35回 氷をバリバリかじる人は病気?]

(レジデントノート2017年8月号掲載)


ジュースなどを飲んだ後、氷をバリバリかじる人がいます。
氷を異常なほどに食べることは、氷食症(pagophagia)と呼ばれ、異食症
(pica)の1つと考えられています。
氷食症の定義はあいまいで、製氷皿1皿以上食べたり、強迫的異常行動として
みられる場合をそう呼ぶそうですが、氷食症は鉄欠乏性貧血の患者さんに
比較的高い確率でみられる症状であることが知られています。

氷をバリバリ食べる人を見たら貧血を考えなさい、と学生のころに習った
ことがあり、実際に内科診断学の教科書にも書いてあります。
では、鉄欠乏性貧血になるとなぜ氷が食べたくなるのでしょうか?

異食にはさまざまな種類が存在し、土、粘土、毛髪、紙などの報告があり
ますが、本邦における鉄欠乏性貧血では、氷食以外の異食症の症状が現れる
ことはきわめて稀といわれています。

また氷食症は、同じ貧血でも鉄欠乏性貧血にのみみられます。


氷食症が起きる理由については、強い精神的ストレスや強迫観念によるという
説や、貧血に伴う口腔内の炎症を抑えようとするため、あるいは氷を噛む
ことによって反射的に脳血流を増加させている、など、さまざまな説明が
なされていますが、いまだ明確な機序はわかっていません。



40年以上前の非常に古いものですが、興味深い研究があるので紹介します。
まずラットから脱血して貧血にします。
次に、氷でも水でも好きな方から水分を摂取できるようにラットを教育
します。
正常なラットは約45%の水分を氷から摂取するのに対して、貧血ラットは
96%の水分を氷から摂取しました。
両群の水分摂取量には差がないにもかかわらずです。

驚くことに、この研究では貧血のラットは氷をなめるよりも、かじることの
方がよくみられた、と報告しています。

この傾向は、ラットの貧血が改善するにつれ消失し、貧血がなくなった
ラットは氷には見向きもしなくなった、と報告されています。

氷食症が実験動物でもみられる、というのは非常に興味深く、この病態の
奥深さを感じます。


最近、鉄欠乏の患者さんはドパミン受容体の数が減少しており、むずむず脚
症候群(restless legs syndrome)を合併することも知られています。


カフェなどで氷をバリバリ食べていたら、このトリビアを知っている人に
救急車を呼ばれたりするかもしれませんので、気をつけないといけませんね。





https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115902.html