<演奏>

篳篥:中村仁美    映像:ささきしおり

 


 

 中村仁美への評文の中で書いたように、篳篥は、音域や奏法の範囲が極めて狭いが、しかし、彼女は、大変魅力的な音と存在感を持つ。

 個展全体を貫くテーマである「遊び」の延長に、ソロによる新作を考えた。

 

 かねてより存在している(そして近年は流行しているとすら言える)ヴィデオスコアの手法(図形楽譜のようなものを動画で示すことで、従来の図形楽譜以上の様々な可能性を示すあり方)を用いて、また、ゲームピースの一種としてどのような可能性があり得るか。

 

 ここでは、「ひ」「ち」「り」「き」の4文字が、それぞれ奏法を示している。

「ひ」は通常奏法、「ち」は声との重音、「り」はトリル、「き」はタンギングによる連打(篳篥の伝統奏法ではタンギングは行わない)の4種類の奏法で、縦軸は音高を示す。

 およそ次のような画面になる。

 


「ひ」黒、左のライン、普通の奏法



「ち」赤、左から2番目のライン、声との重音



「り」青、右から2番目のライン、トリル



「き」緑、一番右のライン、タンギングによる連打



 

 表示される文字への反射で、音色や音高を解釈して、それを演奏していく。

 やがて表題《ひひきちり ちちきりひりり ききちりひ》の、俳句のような17文字の文字列になり、そしてそれが「ひちりき」の順になった・・・かと思いきや、ランダムになったり・・・と進行していく、文字通りの音楽ゲームである。

 

 こうした作品には様々な方式がある。

 場合によっては、演奏家がスコアをしっかり勉強し、完璧なシンクロを達成することが求められる作品もある。

 一方で、完全にその場で即座に対応する、予習不可能な方式もある。

 この作品の場合は、その中間くらいの状況を想定している。

 完全に拾えないような速度ではなく、しかし、このような奏法で反射することは至極困難であるようなもの。

 ゲームセンターで達人の技を見るのは、自分がゲームをするよりも楽しいという場合があるが、そういった心境に(音楽的な素材のみで)至るなら、本作の体験は成功と言える。

 

 終盤、上記の仕掛けから更に逸脱した要素も投入されるが、それは見てのお楽しみ。

 


 

曲目表

中村仁美⇄川島素晴 相互評

1)アウロスイッチ(2014)

2)ASPL 〜正倉院復元楽器による「遊び」(2011)

3)ASPL II(2021)

4)ポリプロソポス III(1995)

5)三巳一体(2013)

→6)ひひきちり ちちきりひりり ききちりひ(2023/初演)*本投稿

7)ギュムノパイディア / 裸の若者たちによる祭典(2016)