<演奏>

排簫:新保有生 大篳篥:中村仁美 竽:中村華子

箜篌:西陽子 軋筝:甲斐史子 方響:神田佳子 指揮:川島素晴

 

(本番前日のホールリハーサルより)

 


 

川島素晴 works vol.6 by 中村仁美」の前半は、紀元前のギリシャ、エジプトの復元楽器のデュオ、正倉院復元楽器の6重奏、そして現代に伝わる邦楽器の6重奏という具合に、3000年の時空を超えたダブルリード楽器等の変遷を追う内容となっている。

(そして通底するテーマは「遊び」である。つまり時空を超えた音による遊びの系譜、ということになる。)

 

第2曲《ASPL 〜正倉院復元楽器による「遊び」》では、6名の奏者全員が、正倉院御物を下敷きにした復元楽器を演奏する。

パンフルートのような構造による排簫、篳篥の拡大版である大篳篥、笙の拡大版である竽、日本版のハープである箜篌(くご)、7弦の箏を弓で弾く軋筝、長方形の鉄板を多数吊るして音階を出せるようにした方響・・・実際の響きの様子は、本番前日のホールリハーサルの一端をご覧頂きたい。

 

 

大篳篥と竽は、今回の演奏者である中村仁美、中村華子両名の個人所有のものであり、演奏機会も多くもたれている。

箜篌は第1曲のアングルハープと同様、野原耕二提供による楽器となるが、これも比較的演奏機会はあるほうの楽器である。

しかし、その他の楽器はなかなか実演機会はなく、とりわけこれら6楽器が一堂に会する機会はそうそうない。

今回、排簫は国立劇場からの、方響と軋箏は真如苑からの提供を受けて上演される。

(とりわけ軋箏は国内では真如苑にしか存在せず、今回は12年ぶりのお披露目となる。今回久々に倉庫から出して頂いた際に弦が一本切れていたものを、田中楽器の協力によって修繕しての上演となる。)

 

2000年頃、一柳慧が組織し、国内外でツアーを組んで行われた「千年の響き」プロジェクトに際して製作された楽器で、2011年にそれを使用した神奈川県民ホールでの企画があり、そのための新作として委嘱された。

 

ここではまず、初演時のパンフレットに記載された内容を引用する。

 

日本では古来、音楽演奏のことを「遊び」と称していた。いつ頃から「演奏」なる語が用いられ、「遊び」と区別されるようになったのかは判らないが、例えば英語の「play」やドイツ語の「Spiel」は、今日においても、「遊び」と「演奏」の両方の意味を共有している。当時の楽器を用いる以上、そのような意味をも復刻すべきだが、それに更に、今日的な意味をも加味すべきであろう。そこで、題名は、日・独・英語それぞれの「遊び」を意味する単語から、頭の二文字(AS/SP/PL) を並べた造語とした。

各楽器は、まず、それぞれの得意技を披露する。従って、6つの楽器は、それぞれ異なる奏法で合奏を繰り広げていくが、次第に、お互いの奏法を模倣するようになる。最終的には、それぞれが全員の奏法を会得し、一斉に「遊ぶ」に至る。

江戸の禁教下で、隠れキリシタンによってグレゴリオ聖歌が独自の変質を遂げた「オラショ」には、パラレルワールドが現実のものとなったかのような興味深さがある。ここで聴く楽器たちがもしも廃れることなく存在し続けていて、且つ、「遊ぶ」が従来通りの意味を捨てずに通していたとしたら、きっとこのような合奏が行われたのではなかろうか、という、空想ゲームでもある。

 

さらに、初演時の超長文による解説がこちらに掲載されており、作品の内容については語り尽くされているので、ここでは割愛する。

 

上記リンクに示されていないことを付言しておくと、、、

 

本作は公益財団法人神奈川芸術文化財団委嘱作品ということになっているし、それは事実である。

しかし実を言うと、同財団の芸術総監督であり、コンサートの企画者であった一柳慧が、財団の予算では不足と考え、個人的に上乗せした委嘱料を支払って下さっていたのである。

渋谷のカフェに伺い、談笑した上で、そうした手続きを行う。恐らく、一柳慧と関わりのあった音楽関係者の多くは、そのような思い出があるのではないだろうか。

 

「私が若い頃は、新しい音楽に対するパトロンがたくさんいたのですよ。でも、ここのところそういう人があまりいないでしょ。だから、いくばくかは若い人たちに返していかないと、と思っているのです。」

 

この日最後の演目《ギュムノパイディア》が、一柳慧コンテンポラリー賞を受賞した作品であることと併せて、このコンサートは、(昨年内容を決定した段階では意図したことではなかったが、)個人的に、はからずも一柳慧への追憶に満たされた内容となった。

 

今回、この曲のためだけに復元楽器を3箇所からお借りするという、なかなかの労力をかけ、皆様のご協力を得ての12年ぶりの実現となった。

事実上の委嘱者である一柳慧への返礼と追憶を込めた演目である。

 


 

曲目表

中村仁美⇄川島素晴 相互評

1)アウロスイッチ(2014)

→2)ASPL 〜正倉院復元楽器による「遊び」(2011)*本投稿

3)ASPL II(2021)

4)ポリプロソポス III(1995)

5)三巳一体(2013)

6)ひひきちり ちちきりひりり ききちりひ(2023/初演)

7)ギュムノパイディア / 裸の若者たちによる祭典(2016)