<演奏>
笛:新保有生 笙:中村華子 篳篥:中村仁美
尺八:亀井庸州 三味線:守 啓伊子 琵琶:久保田晶子 黒子:川島素晴
(本番前日のホールリハーサルより)
「川島素晴 works vol.6 by 中村仁美」の前半は、紀元前のギリシャ、エジプトの復元楽器のデュオ、正倉院復元楽器の6重奏、そして現代に伝わる邦楽器の6重奏という具合に、3000年の時空を超えたダブルリード楽器等の変遷を追う内容となっている。
(そして通底するテーマは「遊び」である。つまり時空を超えた音による遊びの系譜、ということになる。)
第2曲と同じ題名となる第3曲《ASPL II》は、現代における「邦楽器」によるアンサンブルとなる。
日本音楽集団の委嘱により2021年に作曲。
このような「尖った」内容のコンサートで初演された。公演内容リンク
初演時の演奏は、次の通りで、今回と2名は同じメンバーである。
笛:新保有生 笙:三浦はな 篳篥:三浦元則
尺八:大賀悠司 三味線:守 啓伊子 琵琶:藤高理恵子 黒子:川島素晴
初演時のノートをまずは引用する。
日本では古来、音楽演奏のことを「遊び」と称していた〜(前作《ASPL》と共通内容につき中略)〜日・独・英語それぞれの「遊び」を意味する単語から、頭の二文字(AS/SP/PL) を並べた造語とした。
2011年に作曲した《ASPL 〜正倉院復元楽器による「遊び」》に続き、そのことを踏まえたアイデアによる第2弾として作曲。前作は五線を用いないスコアによって緩やかに互いを模倣し合う内容だった。(そしてそれは2016年、アンサンブル室町のために作曲した《ギュムノパイディア》に引き継がれた。)
一方、今作では、まずそれぞれの技を4つずつ、計24種の楽想として披歴。2巡目以後は重なりあい、切迫し、瞬時に転換する楽想の万華鏡となる。全体の仕立ては西洋楽器による《Manic Psychosis Ⅲ》(2003)等の応用であり、邦楽器での実践はかなり挑戦的なものになる。
実は初演は、今回と同じ豊洲シビックセンター ホールでの上演であった。
その際の動画も公開されている。
初演時は他の演目の都合で後方に台が組まれていた。今回はそれがないため、(さらに、照明の演出も入るため)同じ舞台でも終盤の見え方がだいぶ変わる。
今回の曲目全7曲のうち、五線譜で確定的に書かれた作品は、これと、後半1曲目の《ポリプロソポス III》のみしかない。とりわけこの《ASPL II》は、各楽器のポテンシャルを最大限に引き出す超絶技巧アンサンブルであり、息つく間もない時間を体験することになる。
しかし、最後の沈静化していく部分は「それぞれの古典楽曲を任意に演奏する」という仕立てになっており、この部分の美しさのためにそれまでがある、と思えるほどに美しい瞬間である。やはり、古典を奏でる邦楽器こそが最も美しいと再認識するが、ただ、実際にはこの6楽器が一堂に会することはないので、絶妙なバランスで聴く架空の音世界、とでも言うべき状況になる。そして不思議なほどに、その状態への移行がシームレスに響くが、それは、この作品の「各楽器の技巧的な楽想」を軸とした仕立てが功を奏しているのかもしれない。
→曲目表
→3)ASPL II(2021)*本投稿