1980年代を代表する英国マンチェスターのロックバンド、ザ・スミス(The Smiths)。
アズテックカメラ(こっちはグラスゴー)が好きだった私は、同じ英国ロック好きの友人から「もっといいバンドがあるよ」と言われ、何気にレンタルしたのが「The Smiths」。「なんて暗い曲なんだ」と思いつつ、ひたすら友人の言葉を信じて繰り返し聞いていたのですが、モリッシーの和訳歌詞とオリジナル歌詞を両目に睨みつつ、なんとも英国のこのどんよりとした暗さが妙に自分の身体に染み付いてしまい、すっかりThe Smithsの虜に。
バブル時代を予感させる、ハッピー爆発の80年代中盤、こんな暗いバンドが日本で流行るはずもなく、細々とアンダーグラウンドで聴いていたのをよく思い出します。
さて、
ネットで跋扈するベスト10と自分のベスト10がほとんどマッチしていないのに驚き、改めて自分なりにランキングしてみました。とはいってもローリングストーン誌はじめ様々なランキングを見てみましたが百人百様。それだけ甲乙つけがたい名曲が多いということでしょう。10曲しか選べないの非常に酷ですが、厳選してみました。
1位:サッファー リトル チルドレン(suffer little children)
ザ・スミスとして2番目に作られた曲が、私にとっての圧倒的ナンバーワンの曲(ちなみに最初はザ・ハンド・ザット・ロックス・ザ・クレイドル)。ギタリスト兼コンポーザーのジョニー・マー自伝によると、モリッシーからもらった歌詞をみて「曲がどこからともなく湧いて出て、誰の曲とも違う誰の曲のような感じもしなかった」という。
題材となったこのムーア事件(幼児誘拐連続殺人事件)はちょっと日本人にはわかりにくいですが当時の英国にとってはとても衝撃的な事件だったらしい。
それにしてもモリッシーの低く唸るようなボイス(アルバムクレジットではボーカルではなくボイスと表示していた)とマーの美しくも儚いギターが、ムーア事件の悲しみを見事に表現した最高傑作。あまりにもパーソナルすぎてライブでは1回しか演奏されなかったといういわくつきの曲。
2位:スティル イル(Still Ill)
ファーストアルバムヴァージョンよりハットフル・オブ・ホロウに収録されているヴァージョンの方がお勧め。この曲を聴くたびに英国マンチェスターのどんよりした空気感を想像してしまいます(いったことないですが)。私にとってザ・スミスの最もザ・スミスらしい楽曲で、哀愁を帯びたマーのギターと遠くを見つめるような絶望感を思いっきり体現したモリーシーのボイスが、心を満たす「まさにイギリスのロックバンドここにあり」といいう楽曲。
3位:セメタリー・ゲイツ(Cemetry Gates)
サードアルバム「クイーン イズ デッド」のA面最後の曲。モリッシーの芸術的歌詞を味わえるとてもパーソナルな曲。モリッシーの語りかけるような歌詞にマーが見事にシンクロした曲を与え、まるでモリッシーと一緒に墓園で散歩しているよう。英国を代表する詩人たち、キーツやイエーツにモリッシーお気に入りのオスカー・ワイルドの批評をしながらモリッシーと駄弁っているみたい。暗に盗作を批判した曲でもありますが、そんな皮肉よりもピュアにこの曲の空気感を味わっていたい。そんな曲です。ちなみに墓園(cemetery)のスペルに「e」が抜けているのは単なるモリッシーのミスだそうです。
4位:ヘッドマスターズ リチュアル(The Headmasters ritual)
セカンドアルバム「クイーンイズデッド」に針を落とすと最初に耳に飛び込んでくるマーのリッケンバッカーのリフは実にスミス的。最初に聞いたときは「なんじゃこりゃ」だったのですが、何度も聴くとこのリフがこびりついて離れない、そんな中毒性のある曲。レディオヘッドのスピード感あるカバーも傑作です。マー曰く「最も作るのに時間を要した曲」。
5位:ハーフ ア パーソン(Half A Person)
6年間、彼(男)を追っかけてきたゲイの物語。これもマーのアコースティックリズムギターサウンドとエレキのアルペジオが実に切なく美しい曲。やっぱりスミスの真骨頂は、独特のモリッシーのボイスと美しいマーのギターの音色。この曲はこの組み合わせが見事に昇華した名曲です。マー曰く「実際の演奏時間と同じぐらいしか作曲に時間がかからなかった」らしい。
6位:プリーズ プリーズ レット ミー(Please Please Let Me Get What I
Want)
名盤ハットフルオブホロウのB面の最後を飾るにふさわしい小曲。何ともモリッシーの響きがぴったりな曲。この曲はモリッシーの声でないとこの味が出ない。マーの見事なリズムギターとラストのマンドリンは、聴く者を遠くの世界に連れていってくれるかのよう。
7位:フランクリー ミスター シャンクリー(Frankly Mr Shankly)
最初はアルバムを通じて聞き流していた曲なんですが、35年後にまた聴いてみると何とも繰り返し聴きたくなってしまう不思議な魅力の曲。典型的な「スカ」リズムの曲なんですが、妙にこのリズムがモリッシーの声に合うんですね。
8位:サム ガールズ アー ビッガー ザン アザース(Some Girls Are Bigger Than Others)
階級社会の悲哀を「昔から男は女の身体(胸がデカいかどうか)にしか興味がない」という男の哀しい性(さが)に喩えて謳ったモリッシーのささやくようなボイス(私の勝手な解釈です)。そして洗練された流れるようなマーのギター。特に1986年12月12日にロンドンのブリクストン・アカデミーで行われたザ・スミスのラスト・コンサートでの演奏は、マーのギターの音色が何ともメランコリックで痺れます。そしてマイク・ジョイス(ベース)とアンディ・ルーク(ドラム)のリズム隊のパワフルかつ抑えたビートが堪りません。
9位:アスリープ(Asleep)
私のお葬式には必ずかけてほしいザ・スミスの鎮魂曲。この曲を聴くと、そのまま死に至る気持ちになってしまうという危険極まりない曲。もちろん自殺を誘発しているのではなく、眠ることによって現実逃避しようとする弱い人間の心模様を謳った曲ではありますが。。。落ち込んだ時にベッドで聴くと心が落ち着く曲です。
10位:ペイント ア ヴァルガー ピクチャーズ(Paint a Vulgar Puctures)
ひたすら音楽業界を批判した歌詞で「モリッシーだって音楽業界で稼いでるんでしょう」と言いたくなりますが、曲自体は、何とも飽きが来ないスルメのような味わい深い楽曲です。スミスの中では大曲(6分近い)ですが、ギターの調を上げて上書きしていくようなリフは、最後のアルバムに至ってもマーの作曲能力は衰えていないと思います。
以上、他にも取り上げたい曲が盛り沢山ですが、やはり、改めて聴いてみると今でも色褪せないというか、ますます取り憑かれていく、というか、まさに時代を超えたロッククラシックです。
*曲の解説にあたっては以下書籍も参考