昨日の記事を読んだ友人からこんな質問を受けた。
「量子って、実際のところ何なん?」
「量子=粒子なの?」
まぁ、そうだよなぁ・・・
確かにそういうところが曖昧なままで語られているのが、世の中の混乱のもとだったりもするんだろう。
という訳で、めちゃくちゃ簡単に・・・と言うか概念的に「量子とは何か?」に触れられるようになる程度には、なんとか説明を試みてみようかと思う。
ただし、量子力学というのは、相対性理論のように一人の科学者がほとんど単独で作り上げた理論ではなく、実に多くの人々が長い年月をかけて携わることで構築された理論体系である。それゆえ「量子」の概念に辿り着くまでにたくさんの歴史的背景が語られなければならないのだが、ここではそれらを大胆に端折って、数名の登場人物の仕事にのみ脚光を当てながら紐解いて行こう。
始まりは鉄製品の需要だった。
ヨーロッパで本格的に重工業が発展しはじめた頃、生産効率を求める要請から鉄鋼炉内の温度管理が課題となり、炉内のエネルギー密度(スペクトル分布)と温度の関係を数学的に明らかにしようとする研究(黒体輻射の研究)が活発になったのだ。
やがて電磁気学、熱力学および統計力学といった従来の物理学の見地から、ヴィーンの公式、レイリー・ジーンズの公式という2つの関係近似が導かれたが、これらは一方が光の短波長領域、他方は長波長領域でしか実験データと一致せず、どうしてもその矛盾を解消出来ずにいた。どちらも微視的なエネルギー変化について従来の物理学的見識、つまり「エネルギーは連続的に変化する」という常識の上で適用しようとすると、波長領域の一方で破綻してしまうのだ。その矛盾を解消するため、ここで全く異なる発想が提示されることになる。マックス・プランクによる公式の登場だ。
プランクはヴィーンの公式を参考にしつつ、「仮にエネルギー変化が飛び飛びの値でしか起こらないとしたら」という発想でスペクトル分布を導出し、プランクの公式を生み出した。プランクの公式は光のすべての波長領域で実験データをうまく記述出来たが、それは次のような前提によって支えられている。
(以下数式マークアップを用いるため、Wikipedia『プランクの法則』から引用する)
具体的には、エネルギーは振動数 ν に比例するエネルギー素量(エネルギー量子) E、すなわち

の整数倍の値のみ取りうるということである。
上記の式右辺でのhをプランク定数といい、それに振動数をかけたhvをエネルギー量子という。プランクは、このエネルギー量子がエネルギー交換量の単位であること、つまりエネルギーはアナログ(連続的)に変化するものではなく、デジタル(離散的)に変化するものだと定義したことによって正しい結果を得たことになる。いわゆる量子力学に関する大きな流れはここから始まった。
エネルギー変化が連続的でないとするアイデアは当時としては衝撃的なものだったが、のちにアインシュタインが光電効果の説明に光量子仮説(光は波であると同時に小さな粒子であるとする仮説)を用いて光子の概念を導入したことにより、さらに具体的イメージを持って知られることとなった。光のエネルギーは光子の持つエネルギーの整数倍でしか表せないという現実である。
さて、ここまでのストーリーを通して結論に入ろう。
量子というのは、エネルギーがエネルギーとして存在しうる最も小さな塊、言い換えれば「エネルギーの単位」のことである。
このエネルギーの小さな塊(量子)は、とても奇妙な振る舞いをする。観測の仕方によって粒子のように見えたり、波のように見えたりするのだ。これを「粒子と波動の二重性」と呼ぶ。量子が粒子として見えている時、それは1個、2個と数えられる。また、量子が波のように見える時でも(量子はエネルギーの単位なので)見えている波のエネルギーの大きさは必ずhv(エネルギー素量)の整数倍となっており、その変化も不連続に起こる。
つまり、「量子=粒子」ではない。
友人の質問に答えるなら、粒子は、「量子の振る舞いのうちの『ある側面』」だと言うしかない。実際のところ、量子そのものの姿を我々は見ることが出来ない。見ようとしても粒子のようであったり、波のようであったり、そんな「世を忍ぶ仮の姿」しか見せてくれないのだ。
量子力学の特殊性は、このように「実際何だかわからないもの」であるにもかかわらず、全てが計算通りに行く点にある。厳密に計算どおりの技術展開が可能なため、半導体(エレクトロニクス)、レーザー(光学)、MRI(医療)、量子コンピューター(システム)、原子時計(時間計測)といったあらゆる分野で現実に応用されており、すでに我々の社会に無くてはならないものとなっている。
しかし、「では何故そうなっているのか?」について、人類はまだその答えを手にしていない。それは「現実は確率でしか描けない」という、理不尽とも思える結論を導いたコペンハーゲン学派の確率論的宇宙論(コペンハーゲン解釈)にも表れている。アインシュタインがこの解釈を不服として言い放った言葉、「神はサイコロを振らない」はあまりにも有名である。
コペンハーゲン解釈についてはまた別の機会にでも書くとしよう。(書かないかも知れないがw)