これ見よがしに無数の貯水タンクを張り巡らしておきながら、
「ほら、いよいよ建設する余裕が無くなって来ましたよ?」
「これはもう放出を考えるしかないですよね?」
などと、自民党党是の「背に腹は代えられぬ」を掲げて押し切る。これが最初から書き上げたシナリオだったのだろう。仮に処理水が「海に流しても問題の無い水」なのだとしたら、何故、今まで後生大事にタンクにため込んでいたのか?その理由は、「流したら問題が有ると誰もが感じる」からに違い無いだろう。政府はそこを誤魔化すことだけに一生懸命だから、何をやっても胡散臭く見えるのだ。
政府の言い分として「科学的に見て安全」というのがあるのだが、人がモノを口にする理由は決して「科学的に安全だから」では無いはずだ。例えばトイレの水をどれだけ浄化して「飲める水」「科学的に安全な水」にしたところで、それを飲みたがる奴など居るワケがない。逆に、美しい山地や森林で見つけた湧水は、たとえ科学的なお墨付きがそこに無くても「ひと口飲んでみたい」と思わせるだろう。
我々は、手にしたモノを口にして良いかどうかを自らの経験によって判断している。よく自らを「真正保守」だとか言って威張ってる連中が、「信用できるのは経験のみだ」などとほざく姿を目にするのだが、そんなものは万人に生来備わっている感覚であって、別に珍しいものでも何でもないのだ。あらゆる生物は生まれながらにして保守的であり、経験という名の「データ」によって自ら生存手段を学習して行く。だから、わざわざ保守主義などという「狭義の習性」に足を踏み入れてしまうような彼らには、せいぜい「反共ヒステリー」ぐらいしか理由が無いってことになる訳だw
「重要なのは経験だよ」とかって、結局アタリマエのことしか言わないのだからな。
まぁそんなことはどうでもいいw とにかく、我々は自ら口にするものを自らの経験から判断している。決して科学的証明に頼っている訳ではない。代表的な例として「フグの卵巣のぬか漬け」を挙げてみよう。フグの卵巣にはテトロドトキシンという猛毒が含まれている。テトロドトキシンには解毒剤が存在しないため、摂取すれば間違いなく中毒を起こす。と言うか、ほんの1.5mg程度で致死量になるらしい。それほどに猛毒なフグの卵巣を、なんと石川県のとある地方では昔から食用しているというのだからビックリだ。卵巣を数年間かけてぬか漬けにすると毒を完全に消すことが出来るらしいのだが、その解毒のプロセスは未だ科学的に証明されていないという。
科学的に安全とは言い難いこの「食品」を、これもはっきりとはしないが、石川県では江戸時代あたりから伝統的に食していたそうだ。これこそ、人が口にするものを経験的に決めている事実の証明だろう。「安全か、安全でないか」は数値データではなく、人が見て聞いて、そして食べて繋いで行くものなのだ。
「風評被害はけしからん」「マスコミが風評被害を助長している」なんてありきたりの主張を垂れ流す奴らに言っておく。人が経験で判断している以上、風評が膨らむのは当然であり、それを科学という魔術・おまじないで簡単に消し去ることが出来ると思ったら大間違いだ。悔しかったらトイレの水を浄水して飲んで見せろ。自ら科学的安全性を検証し、口にする姿を見せてみればいい。それから「トイレの水を飲めないのは、ただの風評」だと強く主張すれば、またたく間に「こいつはヤバい奴だ」という風評が広がることになるだろう。
重ねて言うが、処理水放出で風評被害が発生するのは当然だ。「科学的に安全だ」などと云えば云うほど被害は膨らむに違い無い。それは、今まで貯め込んで来た水のやり場が無くなった挙句に「安全だから放出する」という、大いなる矛盾を孕む政策に支えられたまっとうな感覚なのだ。
我々現代人にとって、科学はすでに魔術と化した。信じる・信じないのレベルで語られる「科学的に安全」というおまじないを、国民が何故不安視して風評に至るのか、政府は自ら胸に手を当てて深く考えてみるがいい。
ところで、いつもなら数値を多用して煙に巻く代表みたいな高橋洋一が、ここに来て「政治家が飲んで見せろ」と主張し始めたようだ。
ここでの出番は政治だ。古典的手法だが、政治家が処理水を飲んで安心をアピールするというパフォーマンスがある。これは、中国は政治的に難癖をつけているのでその撃退にもなるという一石二鳥の策だ。
東京五輪中止騒動の際に高橋は、世界の感染状況の数値をグラフで示しながら、
「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」
などと小バカにした投稿で炎上し、 「さざ波洋一」と批判されて内閣官房参与辞任に至った。どんなにもっともらしい数値を示そうとも「人が経験から得た感覚」を打ち破るには不十分であると、彼自身、この騒動から身をもって学んだのかも知れない。
いずれにしろ政府は、岸田、麻生を筆頭に閣僚揃って処理水を実際に飲んで見せ、なんなら処理水で養殖したフグでも食らって見せれば良いのだ。その「経験」を共有して行く以外に、風評を収める方法など絶対に無いものと認識すべきだ。