ことし見たもの聴いたもののうちで、第一番の収穫は?と問われたら、私はちゅうちょなく答える。映画『Les Miserables~レ・ミゼラブル』だと。

 この作品は、ミュージカル映画というジャンルを超えた力強さで見る者の魂を震わせてくれる。見ながらしばしば涙を押さえられないのは、人間の運命について深く思いを巡らさずにいられないからだ。

 いちばん見てもらいたいのは、ミュージカルを舞台でもスクリーンでもいちども見たことない人たちである。『レミゼ』が、もと囚人ジャン・ヴァルジャンと彼が釈放されたのちなおも追い続ける警部ジャヴェールの物語だということを、まったく知らない人たちも是非。

 そうだ、『レミゼ』は人間の運命の物語であるとともに人間の自由の物語でもある。感動をもたらす源泉はまさにそこにあるのではないか。

 ジャン・ヴァルジャンのヒュー・ジャックマン、ジャヴェール警部のラッセル・クロウ初め出演者の誰もの歌が、一節一節、一句一句ひしひしと胸に迫って来る。すべての場面のすべてのミュージカル・ナンバーを同時録音でおこなった成果である。

 いや同録以前に、俳優たちのナンバーに立ち向かう姿勢がもたらした成果でもある。誰もがその役柄になり切り、場面ごとの状況にぴたりと寄り添い歌っているからだ。

  ジャックマンもクロウも歌える俳優としての最高の技倆を発揮しているが、もしかするとふたりを超える実力を見せつけてくれるのが、娼婦のファンテーヌを演じるアン・ハサウェイである。

 ハサウェイの歌う「夢やぶれて」には、わが幼子のために身を墜とすひとりの女の孤独が滲み出てあまりある。

 ところで、この作品にはこれまでのミュージカル映画にはないひとつの特色がある。俳優たちの表情のクローズアップが異常なほど多いことだ。お蔭で生の舞台では(たとえオペラクラスを使っても)目の当たりにすることの出来ない、スクリーンならではの歓びに浸ることが出来る。

 映画『レミゼ』の成功は、トム・フーパー監督の豪放かつ細心な演出、俳優たちすべてのベストを尽くした演技の賜物である。しかし、もとになった舞台から引き継いだ音楽がなければ、この成功はあり得なかったろう。私たち観客は、ある時は力強く、ある時はもの哀しく、ある時は歓びに満ち、全篇2時間40分、途切れることなくあふれ出る音楽に身をゆだねることになる。

 それにしても、なんと物語と一体化した音楽だろうか。25年以上前にこれらのナンバーを創作したアラン・ブーブリル(フランス語歌詞)、ハーバート・クレッツマー(英語歌詞)、クロード=ミッシェル・シェーンベルク(作曲)の偉業を讃えたい。

 この歳末、私は毎日欠かさず、日になんどか『レミゼ』サントラ盤を聴いている。これまでに私は、舞台のオリジナル・キャスト盤を超える同じ作品のサントラ盤に出会ったことがない。これはまさに例外的なサントラ盤である。

 聴きながら、しばしば私はミュージカルの洪水のなかで溺れそうになる。でも私は飽くことなく聴き続けるにちがいない。

 
映画『レ・ミゼラブル』 公式サイト(東宝東和)
http://lesmiserables-movie.jp/

映画『レ・ミゼラブル』 サウンドトラック(ユニバーサルミュージック)
http://www.universal-music.co.jp/soundtrack


なんども聴きたくなる『レミゼ』サントラ盤です。
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