虫けら屋の「ちょっと虫採り行ってくる!」

北海道で調査のお仕事があったので、

せっかく行くのならばと1日だけ延泊して

少し趣味の採集もしていくことにした。

 

夜、春とはいえ北海道の海岸の海風はまだ冷たい。

朝になって明るくなってからでも良いかと思っていたのだが、

 

待ちきれなかったのと、

夜行性と本で読んだ気がしたため、

夜中に海岸まで来てしまった。

 

まずは砂浜にうち上がった漂着ゴミを探す。

…ゴミと言っても人の出したゴミではなく、

植物片や海藻、鳥の羽根など、自然のモノ。

それらの下に、狙いの虫は隠れているらしい。

 

適当な木切れを使って、漂着ゴミを少しずつ掻き分けながら探す。

あまり大雑把に探すと見落としてしまう可能性があるので、

慎重に、慎重に探していく。

 

…と、ゴミの合間にひっくり返った黒い虫の姿が見えた。

「いたか!?」

 

つまみ上げて表にしてみれば、

やや薄くて、上からみると丸い姿。

黒地にクリーム色の縁取りがオシャレだ。

「ををををを!」

間違いない。

狙いの虫、ホネゴミムシダマシ だ。

 

気を良くして更に探すと、ポツポツと見つかる。

 

この虫、実は背中の模様にバリエーションがあり、

クリーム色の模様が個体によって様々なのだ。

う~ん、カワユス❤

 

日本産ゴミムシダマシ大大図鑑(大が二度重なってるのが重要!)

この虫の存在を知った瞬間に採りたい!」と思った。

 

マダガスカルにいるヘクソドンという虫にも似たフォルムをしており、

個人的に日本のヘクソドン勝手に呼んでいる

 

…尤も、

ヘクソドンはカブトムシ、ホネゴミムシダマシはゴミムシダマシの仲間なので、

実際の系統的には全然近くないのだが。

 

そして、大きさもだいぶ違う。

ヘクソドンが2cmぐらいあるのに対し、

ホネゴミムシダマシは約5mmとかなり小さい。

 

なので、

探すときも漂着ゴミの中に紛れた5mmの虫を

見つけなければいけないワケで、

見落とさないように集中力が必要になる。

 

わざわざ木片を使ってチマチマ掻き分けていたのは、

そういうワケなのだ。

 

1時間ほど採集して、

そこそこ採れたのと寒さの限界が来たので、

採集を切り上げて車に避難した。

 

朝、明るくなってからもう少しやってみよう…と、

そのまま浜辺に停めた車内で就寝。

(※あまり砂が柔らかい所まで入ってしまうと普通車はスタックしてしまう可能性があるので注意!)

 

 

そして朝。

明るさに目を覚ましてみると、

まだ明けたばかりだというのに

浜には等間隔に釣り人が並んで竿を握っている。

春の苫小牧の砂浜海岸、どんな魚が釣れるのか少し気になるが、

それより採集だ。

 

昨日採れた辺りから始めてみる。

 

 

…が、なかなか見つからない。

 

あれれれれ?

 

なんとか1頭見つけるも、2頭目がなかなか見つからない。

それでもなんとか頑張って探して

少しずつ追加を得ていくが、う~ん…

 

夜は小さめの漂着ゴミでもそこそこ見つかったのに、

明るくなった今は小さなゴミでは全く見つからず、

大きい塊でようやく1頭、という感じ。

 

見つかる数も、夜の半分以下だ。

 

もしかしなくても、

コイツら、漂着ゴミの下にもいるけど、

明るいうちは砂の中に潜ってるんじゃなかろうか?

 

実際、

こんな感じで尻だけだして潜りかけ…みたいなのもいたし。

こんな状態の5mmの虫を漂着ゴミの中から見つけ出すわけで、

まぁなかなか骨の折れる採集である…

…ホネだけに。

 

 

…。

 

……。

 

……さて。

前の方でもちょっと触れたが、

この虫、実は背中の模様にバリエーションがあり、

大まかに3種類に分けられるように思う。

 

以下の型名は自分が勝手に付けたもので、

一般的なものではないのでご了承を。

 

(1) 縁取り型

黒地にクリーム色の縁取りがあるタイプで、一番見多い。

 

(2) 斑紋型

(1)の縁取りに追加して、その縁から中央線に向かって横帯状の斑紋が出るタイプ。わりと少ないが、ホネゴミの多い場所で探していれば見つかる。

 

(3) セアカ型

縁取りの内側が赤褐色になるタイプで、最も少ない。

よく見ると、赤褐色部に細い黒帯が見えるので、

斑紋型の帯紋が限界まで広がると赤っぽくなるのかもしれない。

 

3パターンそれぞれの中にも変異があって、

(1)~(2)はある程度グラデーションで並びそうなので、

斑紋をコレクションしても面白いと思う。

 

…実際、

こんな感じで僅かに帯紋が出かかってるような個体もいたし。

 

今回採集した感じでは、それぞれの型の比率は、

 

縁取り型斑紋型セアカ型7.0:2.50.5

 

…という感じ。

 

少し採るだけなら帰りの飛行機前の時間調整に

行ってみるのでも良いと思うが、

 

ある程度の数を採りたいと思ったら、

夜に行って探すのが良いように思う。

 

それか、5mm以下の篩を持っていって、

漂着ゴミの下の砂ごと掬って

篩ってみるのが良いかもしれない。

 

 

なんにしても、

ホネゴミムシダマシ、良い虫である。

ご無沙汰しています、虫けら屋です。

 

2月12日~15日、ケブカコフキコガネ奄美群島亜種(以下、奄美亜種)を採集しに

奄美大島 に行ってきました。

実はこのケブカコフキコガネ、

奄美群島のものは沖縄のものとはちょっと違う…とずっと言われていたのものの、

奄美では♂は見つかるものの♀が見つかっていませんでした。

 

その奄美の♀が初めて採集されたのが、2012年。

そしてソレを採集したのが私だったりします。

 

そうして初めて奄美の♀が採集されたことで亜種記載されたという経緯があり、

亜種小名に私の苗字である井上から「inouei」と付いております。

 

更に、今までは隔年で大発生と小発生を繰り返すと言われていたのですが、

10年ほど各地で採集を繰り返し、他の方の採集データを集めたところ、

実は奄美のものは3年周期で大発生をしていることが分かり、

ちょっと前に専門誌で発表しました。

 

で、その2012年に採れた1♀以降、奄美大島で♀が採れたという話を聞かず、

私自身も何度も追加採集にチャレンジしていたのですが、毎度敗退…


…で、まぁ、今シーズンこそは!と。

 

 

結果としてはついに複数の♀を追加採集できました。

今回は動画も撮影しようと準備していったところに

奇跡的に♀を見つけられたこともあり、

 

ケブカコフキコガネ奄美群島亜種のメスが映る、

世界で唯一の動画…になりました。

 

…まぁ、撮った動画を繋げただけの素人編集なのですが。

 

30分強ほどの動画ですので、

もし良ければお時間のある時にでも観て頂けたらと思います。

  ↓↓↓

 

 

 

…ちなみに、

動画の中で「眼が光る」というコトを何度か言っているものの、

その光る様子が動画の中ではほとんど分からないのですが、

 

実は、懐中電灯などの明かりを当てると、

下写真のように 複眼がオレンジっぽく光ります

写真のものは♂ですが、♀も同じように光るので、

実は林内で♀を探す時に目印になったりします。

コガネムシ上科専門の昆虫雑誌「鰓角通信(さいかくつうしん)」の

最新号(46号)に、私の報文が載りました。

 

私が長年追い掛けてきた ケブカコフキコガネ というコガネムシの、

奄美亜種の生態の話です(※過去記事リンク:→ 亜種とは)。

 

「ケブカコフキコガネは二年に一度大発生」とよく言われますが、

そこに一石を投じたというか、

実は奄美亜種はそうではなさそうだよ、という話です。

 

 

ケブカコフキコガネは以前に当ブログでも紹介しましたが、

隔年で大発生と小発生を繰り返し、沖縄と奄美で交互に出る

とよく言われていました。

 

しかし、何年も沖縄や奄美で採集を続けた結果、

奄美亜種の大発生は3年に一度、つまり3年周期で発生しており、

しかも島や場所によってその大発生年が異なるのです。

 

まあなんてメンドクサイ虫ですこと。

 

…実はそのことに気付いたのはもうだいぶ前で、

そこから何年も採集を重ねながらデータを集めて、

熟成どころか発酵しそうなぐらい時間が経って

ようやく投稿、発表の日の目を見ました。

 

ケブカコフキコガネ自体がわりとマイナーな虫なのですが、

♂は触角が大きく発達して素敵な姿をしていたり、

♀が珍品で見つけられたらラッキーだったりと

魅力たっぷりの虫です。

興味のある方は、ぜひコガネムシ研究会に注文して買ってね

コガネムシ研究会ホームページ(リンク)

 

 

※過去記事リンク

ケブカコフキコガネ(1)~紹介編~

ケブカコフキコガネ(2)~生態編~

 

昨日は年に一度の虫屋の同窓会、インセクトフェアでした。

 

…今年は、個人的にはあまり買う物もなく、

開始早々に会場を回った後は、ほとんどブースに座っていました。

持って行った標本は、少しだけ買っていただけましたね。

 

個人的にはウマノオバチ の標本はレアだと思うのですが、

まぁ長い尾(産卵管)のある♀の方がビジュアル的に強烈なのは

自分でも納得なので仕方ない部分はあるのですが、

 

ペアで置いていても、やはり♀の方が注目されて、

「♀の方が姿は魅力的だけど、♂の方がレアなんですぜ」

と熱弁しても、反応はイマイチでしたね(笑)

 

ただ、1頭買って頂けた方もいて、

「売れた」というより、【♂を欲しがる方がいた!】というのが嬉しかったです。

 

前週が予定詰め詰めで

フェアの準備をする時間がほとんどなく徹夜状態だったため、

帰ってすぐに寝たら、そのまま朝まで12時間コースでした…

 

 

皆様、お疲れ様でした。

 

今年は夏の虫の始まりが早く、

地元では6月の下旬にはノコギリクワガタが多数現れ、

7月前半には最盛期を迎え、

なんなら7月下旬にはすでにピークを越えて減り始めていたように思う。

 

その一方で、

今年はノコギリクワガタの個体数やサイズが例年より上で、

以前の記事にも書いたように初めて70mmUPも採集できた。

カブトムシも大きいのが多かったし。

 

 

…とまぁ、

そんなこの夏の地元カブクワ総括はさておき、

その夏の残り香を味わいたくて、軽く夜回りをしてきた。

 

 

夏にカブクワで賑わっていた木を順番に回っていくが、

ノコギリがポツリポツリと見られるものの、

大型はいないし、なんだか寂しい限り。

 

そんなこんなで探しながら行くと、道路脇に小さな黒い影。

この時期はクロゴキブリも多いのでそれかと思ったが、

一応確認…と近づいてみると、

 

コカブト だ。

 

初夏に見ることが多いが、

今の時期も新成虫が出てくるので見られる…と、

よくよく見たら何かを食べている。

 

コガネムシ科の幼虫を食べてる!

 

『コカブトは肉食が強く、他の虫の死骸などを食べる』と知識では知っていたし、

飼育しててもよく共食いをするのだが、

実は野外で肉食してるのを見たのは初めて。

 

しかも、コガネムシの幼虫の状態がかなり良い。

既に死んでいた…というより、

地上に出てきたところをコカブトに捕食されたようにも見える。

 

複数飼育だと弱った他の成虫を襲って食べてしまうこともあるので、

死骸だけでなく、弱った昆虫や、コガネムシ科幼虫のように捕食しやすいものは

野外でも生きたモノも襲っているのかもしれない。

 

 

…それにしても、

こういう知識では知っていたものを、実際にこの目で見るというのは感激する。

昆虫趣味の楽しさのひとつだと思う。