ケブカコフキコガネ(2)~生態編~ | 虫けら屋の「ちょっと虫採り行ってくる!」

※この記事は、ひとつ前の記事「ケブカコフキコガネ(1)~紹介編~」の続きです。※



前回は主にケブカコフキコガネという虫の紹介をさせて頂きましたが、

今回はその続きというコトで沖縄での本種の生態と採集の話です。


わざわざ冬の沖縄まで虫を採りに行こうという人は少ないと思いますが、

いざ実際に行ってみようという方がいたら、とても参考になるとは思います。

 

 

 

…が、それゆえに長いので、読みたい方だけどうぞ、というコトで(^^;

 

 

2年に一度のシーズンを狙って毎回色々な場所に採集調査に行き、

個体数的にはそれなりの数(♂は延べ1,000頭以上・♀は60頭以上)

を観察しましたので、ある程度は信頼できると思います。
(…あ、勿論、この数は観察した数であって、採集した数ではないですよ。特に♂。採ろうと思えば採れる数ですが、そんなに採っても仕方ないですからね…)


 

ー発生ー

2年に一度の大発生をしており、偶数年の冬に多く見られます。

2010年、2012年、2014年…という具合ですね。

なので、2020年の今年も偶数年なので、たくさん見られると思います。

 

クリスマス前後に一番数が多くなることが多いのですが、

年によってピークがかなりズレるため、

12月17日ころにピークを迎えてしまった年もありました。

 

とは言え、年を越えて1月でもまだ見られるので、

たくさん採るのでなければ、クリスマス頃に行けば十分に採集できます(♂は)。

 

沖縄のものは幼虫の時にリュウキュウチクという細い竹の根を

食べているらしいことが分かっており、

やんばるの道脇にリュウキュウチクがたくさん生えている場所を

目印に探すと成虫も比較的簡単に見つかります。

 

 

 

ー活動ー

日没…というか周囲が真っ暗になると雌雄ともに活動を開始しますが、

活発になるのは19時頃からです(※クリスマス頃だと、18時には真っ暗になる)。
 

リュウキュウチクや細い木なんかによじ登り、

♂は少しすると活発に飛び回り始めます。

気温12℃の雨天(本降り)時でも雌雄とも採集できたことから、

比較的低温にも強く、

また活動場所が森の中のため雨天でも平気で活動するようです。
 

ちなみに昼間は基本的に地中にいるらしく、

雨天時の活動開始直後は泥の付着した個体が多かったです。

 

♂はよく飛び、光にもよく集まるのですが、

ポイント(♀の匂い?)に固執しており、

森から出る個体は少ないです(※1)。

 

…が、全く森から出ないワケではないので、

初めて探しに行くならやんばるのダムの明かりを見て回るのが一番簡単だと思います。

何ヶ所かのダムの明かりを回れば、♂は拾えるはずです。


 

…ちなみに、

珍品の♀を採集したいと思ったら森に入るのが確実ですが、

真冬でも暖かい日には毒蛇ハブが動いているので

簡単にはお勧めできません。

 

それでも自己責任で♀を探してみたいという人には…

 

林内で♂が四方八方から飛んでくるような場所は、

半径2m以内に♀がいる場合が多かったので、

小さな蛍光灯か何かを持ってリュウキュウチクの生える林内に入り、

♂の多い場所を探すと、♀を見つけられる確率が上がります。
 

 

 

♂は19:00~21:00頃が飛翔のピークみたいですが、

飛ぶヤツはそれ以降でもブンブン飛んでます。

それこそ23:00だろうが02:00だろうが。
 

ただ、あまりに気温が下がると流石に不活発になるみたいです。

 

♀は滅多に飛ばないものの、飛べないワケではないようで、

野外で1回、車内観察で1回(別個体)、♀が飛ぶのを見ています。
 

ちなみに♀は全くと言ってよいほど光に来ません。
ダム灯火や、自分の持つライト明かりに向かって飛んでくるのは

すべて♂でした。

 

♀は多くの場合、

目線より低い位置にとまっており(採集した♀のうち7割ぐらいは低かった)、

場合によると地上から数cmの高さにいる事もあります。
 

ただし高さ3~4mの所に付いていた個体もいたので、

低い所ばかりではないんだよなぁ…(^^;

 

基本的には周囲にある程度風が通って

匂いが拡散しそうな空間のある場所の

細い枝や竹に付いている事が多い印象です。


実際に見た感じだと、

リュウキュウチクより、低灌木の細枝なんかに付いている事の方が多かった印象です。
 

灌木>>>リュウキュウチク>>ヒカゲヘゴ…な感じ。
 

ヘゴで見つけたのは一例だけ…だったと思います(たぶん、きっと、おそらく)。
 

 

また♀は交尾を終えるとすぐに地面に潜ってしまうのか、

時刻が早いほど発見率は高かったです。

(いやまあ、採れば採っただけ数は減るのでその分発見率は下がる、ってだけかもしれませんが)
…ただし22時頃にも見つけてますので、いないワケではありません。

 

また、林内で天然記念物のケナガネズミが、ケブカコフキを捕食しているらしく、

2010年のやんばるでの採集では毎晩ケナガネズミを見掛けた上、

明らかにケブカコフキ♂の羽音に反応して追い掛けている様子を観察できました。


中身がスカスカであまり腹もちは良くなさそうですが、あれだけ数がいれば良い食料なんでしょうね。
 

 

…見掛けた中では、他に天敵になるのはジョロウグモぐらい?
林縁のケブカコフキが飛びそうな場所に巣を張って結構な数を捕食してるみたいでしたね。



-交尾行動-
♀はあまり移動せず、風通しの良さそうな場所に掴まって

フェロモンを飛ばして♂を呼び寄せるようです。

 

フェロモンに誘引されて飛んできた♂は、

最初♀の背面に重なるように乗ります。
 

この時点では、♂と♀は同じ向きになっており、

そのまま重なっている状態です。


やがて♂はゆっくりと交尾器を伸ばし、♀交尾器に挿入します。


挿入が開始されると、♂は次第に後ろに下がり、

より深く交尾器を挿入していきます。
 

♀に掴まっていた脚を、前脚・中脚・後脚と順に放していき、

最後は♀と180°反対向きになり、

交尾器のみでつながった状態になり、

ここまでいって初めて挿入が完全になされた状態になります。

この状態のまま十数分程度交尾は続きます。





…とまあ、観察知見はこんなモンでしょうか。

「自分で採集してみたい!」

という奇特な方がいたら大いに参考になるように…

と思いながら書いてみましたが、いかがだったでしょうか?

 

 

私が10年もハマッて追い続けている虫なので、

この記事を見て、少しでも興味を持ってくれる方がいたら、

とてもうれしく思います。

 

 





※1:2010年の自分の採集の際のピーク(12/27)の際、

  林内では多数の♂が飛翔していたにもかかわらず

  200m先の水銀灯には4~5♂しか飛来していなかった。
  また同じ林内でも、10m四方ぐらいはやたらと♂が飛んでくるのに、

  そこからまた10mも離れると羽音ひとつ聞こえなくなる事が多い。